週間情報通信ニュースインデックスno.1535 2026/7/25


1.消費者や労働者を「スポンジ人間」にするな、AIを産学連携で人間中心に (7.24 日経XTEC)
 消費者や労働者など「生活者」の声を、最先端のAI(人工知能)を開発する企業やAI政策を推進する政府に届ける――。そんな取り組みが日本で始まった。AIのユーザー企業や研究者がコンソーシアムを組織し、消費者団体や労働組合などと連携する考えだ。

 コンソーシアムの名称は「人間中心のAIコンソーシアム」で、2026年7月21日に博報堂DYホールディングス、日立製作所、GMOペパボ、スマートガバナンスの4社が一般社団法人として設立した。産学連携の組織として、生活者によるAIの利用実態調査やAI活用事例の開発、政策提言などを進める。

 人間に与える影響を無視して、AI開発やAI政策が進められてはならない。同コンソーシアムにはそんな問題意識がある。特に懸念しているのは「AIが人間の意思決定や価値判断に影響を与え始めている」という現状だ。そう指摘するのは同コンソーシアムの共同代表理事を務める慶応義塾大学法科大学院の山本龍彦教授である。

 「AIによる変化は19世紀の産業革命になぞらえられることが多いが、産業革命は人間の精神性や意思決定に直接的な影響は与えなかった。AIはむしろ、16世紀の宗教改革や13世紀のルネサンス期にまで遡るようなパラダイムシフトをもたらそうとしている」。山本教授はそう説明する。

 『人間の主体性』が現在、AIによって揺り動かされている」(山本教授)山本教授は、人間の主体性がAIに奪われ始めている例として「責任スポンジ論」という議論を紹介した。AIガバナンスを実現する手法として、AIの意思決定プロセス(ループ)に人間を組み込む「Human in the Loop(HITL、ヒューマン・イン・ザ・ループ)」がよく話題になる。しかし山本教授は「HITLはそんなに楽観的ではない」と指摘する。

 ループに組み込まれた人間は、実際にはAIの意思決定に主体的に関与できず、AIから責任を「スポンジのように」吸い取るだけの存在になっているのだという。何かAIが問題を起こしたとしても、AIの責任ではなく、それを承認した人間が責任をとらされる。それが責任スポンジ論だ。

 これまでの日本におけるAI政策を巡る議論に、消費者や労働者の視点は足りていたのか。AIが社会に与える影響がますます拡大する中で、消費者や労働者を意思決定から排除しない、スポンジ人間にさせないという配慮が欠かせない。人間中心のAIコンソーシアムや、Japan Personal AI Forumの今後の取り組みに期待したい。

2.AIエージェントによる「ランサムウエア攻撃」出現、侵入から脅迫まで全自動(7.22 日経XTEC)
様々な作業を自動でこなすAI(人工知能)エージェント。多くの企業に恩恵を与えている。だが、一般に有用な技術は攻撃者にとっても有用だ。セキュリティー企業の米Sysdig(シスディグ)は2026年7月上旬、ネットワークへの侵入からデータの暗号化、そして脅迫までを自律的に実施する、AIエージェントによるランサムウエア攻撃を確認したと公表した。本当なのだろうか。

 AIエージェントを使ったサイバー攻撃の可能性は、セキュリティー研究者やベンダーなどによって多数示されてきたが、実例は多くない。今回シスディグが確認したとするのは、AIエージェントによる自律的なランサムウエア攻撃で、人間の操作を確認できなかったという。このような攻撃の公表事例はこれが初めてだとシスディグは主張する。

 AIエージェントを使ったランサムウエア攻撃のイメージは次の通り。まず、脆弱性のあるプログラム(サービス)を動かしているコンピューターを見つける。次にエクスプロイト(脆弱性を悪用するプログラム)を作成し、そのコンピューターに侵入。データを暗号化し、金銭を要求する脅迫状(ランサムノート)を残す。

 基本的な流れは、人によるランサムウエア攻撃と同じだ。脆弱性のあるコンピューターの探索、エクスプロイトの作成、ランサムノートの作成などには、商用のLLM(大規模言語モデル)など外部のツールを適宜用いる。

 シスディグの調査によると、今回の攻撃では、短時間のうちに600を超える個別のペイロードが実行されたという。これは、人間の攻撃者や特定のツールキットでは不可能。自律的に動作するAIエージェントにのみ可能な攻撃だと結論付けている。  人間が介入しなくてもランサムウエア攻撃を可能にするJADEPUFFER。「いまやランサムウエア攻撃は、高度な技術を持たなくても仕掛けられる」とシスディグは指摘。防御側は、AIエージェントによる攻撃が増えると考え、公開サーバーなどの守りを固める必要があると結んでいる。

3.「AIツールは半年で陳腐化」、メルカリに学ぶ無駄にならない投資の見極め (7.21 日経XTEC)
「今、AI(人工知能)ツールは半年で陳腐化します」。メルカリのAI Enablement Div.に所属する中井優Manager of Managerはこう言い切る。導入したAIツールも作り込んだ仕組みも、半年たてばより優れたものに取って代わられる。ベンダーがいずれ標準機能として投入してくる領域に対し、全社標準を作るといった組織としての重い投資を振り向けると、回収できずに終わる恐れがある。メルカリの試行錯誤には、無駄にならないAI投資を見極めるヒントがある。

 メルカリには苦い経験がある。同社は2025年7月、生産性を2倍にする目標を掲げたプロジェクト「Project Double(プロジェクトダブル)」を、中井氏1人のチームで発足させた。その柱として同年9月、AIエージェントを使う開発手順を社内標準として提案した。まずAIに実装計画書を作らせて人が内容を確かめ、その計画書を基にAIが実装する、二段構えのルールである。仕様駆動開発の手法をメルカリ流に最適化したものだ。

 2025年10月には10人超のチームに拡大し、全社標準として展開した。対象もバックエンドの開発だけでなく、要件定義や品質保証(QA)、スマホアプリ開発を含めた開発プロセス全体に及んだ。

 ところが、その頃、アンソロピックのコーディングエージェント「Claude Code」に、「プランモード」が追加された。コードの実装に着手する前にAIが実装計画を示し、人の承認を得てから実装に進む機能である。まず計画し、それから実装するというメルカリの手法と、そのまま重なるものだった。体制を広げながら作り上げてきた開発手順の仕組みに、これ以上投資し続ける必要があるのかと中井氏は自問したという。

  考えてみれば当然の帰結で、世界中のユーザーに共通する問題ほど、AIを提供するベンダーがそれに対処する機能を追加する可能性が高い。文脈を伝えるファイルの散らかりも実装計画の立て方も、どこの会社でも起こる問題だ。ベンダーが標準機能を出せば、利用者はそれを使えば済み、自前で作り込んだ仕組みは投資を回収できないまま役目を終えることになる。

 メルカリが行き着いた原則も同じだ。Claude Codeのプランモードのようにどの会社でも使える機能はベンダーに任せ、社内の知識や業務の手順、データへのアクセスといった自社にしかない層に投資し続ける。QAエンジニアの専門知や社内の実装規約は、AIに教え込む「スキル」として整備した。AIが常にプロジェクトの経緯を踏まえた状態で作業できるようにビジネスチャットの「Slack(スラック)」や情報共有ツールの「Notion(ノーション)」に散らばる議論や意思決定のログを常時反映する社内サーバーも設けた。この層は「どれだけ整備しても無駄にはならない」(中井氏)。

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