桃の子太郎(桃太郎)

 桃太郎といえば岡山の民話の代表的なものですが、このお話は 岡山の県北に多く伝わっているパターンで、横着者の桃太郎です。 力持ちで大きな木の切り株を引っこ抜いて投げ飛ばしたり、その 力持ちが認められて、鬼退治に行くパターンもあります。
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  んと昔があったそうな。
 じいさんとばあさんとおったそうな。
 ある日、じいさんは山へ芝刈りに、ばあさんは川へ洗濯にいったそうな。
 そうしたところが、川の上から大きな大きな大きな桃が、

ドンブリコンブリ スッコンゴウ
ドンブリコンブリ スッコンゴウ
と流れてきたそうな。ばあさんが、
「こりゃぁ、ええもんが流れてきた」
いうて、たべてみたところが、何ともいえんほどうまかったそうな。
じいさんにあげよう思うて、
「もう一つ流れい、じいさんにやる。
 もう一つ流れい、じいさんにやる」

いうたところが、また大きな大きな桃が、
ドンブリコンブリ スッコンゴウ
ドンブリコンブリ スッコンゴウ

と流れてきたそうな。ばあさんは、それを拾うてもどって、戸棚の中へ入れておったそうな。

 人が、桃を切ろうとしたら、ポカッと桃が割れて、中から大きな男の子が、フンギャー、フンギャー言うて出たそうな。
「うわあっ、こりゃあ!じいさん、男の子が出てきた」
「ほうっ!かわいがって、大きゅうしてやろう」
「ああ、よかった、よかった。桃から生まれたんだけん、桃の子太郎という名にしたろう」
それから、桃の子太郎という名にして、
「桃の子太郎や、桃の子太郎や」
いうて、おかゆをたいてやったり、魚をかってやったり、ごっつぉう食べさせて、かわいがっていたそうな。

 の子太郎が、大きゅうなったころ、近所の人が、
「桃の子太郎、山へ木を切りに行こうえ」
いうて、さそいにきたそうな。桃の子太郎は、
「今日は、荷綱をなわにゃならん」
いうて行かなんだそうな。あくる日、
「行きましょうえ」
「今日は、せなあてをつくらにゃならん」
その次の日、
「行きましょうえ」
「今日は、わらんじのひげをむしらにゃならん」

 日目に、ようよう連れなって山へ行ったそうな。行くにはいったが、桃の子太郎は、切り株のところで、グワラー、グワラー、大いびきをかいて、寝るばかりしていたそうな。 昼になると、桃の子太郎は、むっくり起きて、
「さあ、昼飯だ」
と、飯をぱくぱくぎょうさん食うて、また切り株の横で、グワラー、グワラーと、寝るばかりしていたそうな。
晩方になったので、近所の人が、
「桃の子太郎、もういにましょうえ」
いうたら、桃の子太郎は、ワァーッとあくびをして、大きな木の根っこへ行って小便をして、その木をゴボッと引き抜いて、かたいで戻ってきたそうな。
「ばあさん、もどったで」
いうから出てみたら、ふりかたいでもどったのは、ぎょうさんな、がいなもんじゃ。
「どこへ置こうか、庭端(かどはな)へ置こうか」
「庭端へ置きゃあ、庭端がくだける」
「そんなら軒下へ置こうか」
「軒下へ置きゃあ、軒下がくだける」
「そんなら、木床(きどこ)へ置こうか」
「木床へ置きゃあ、木床が割れる」
そこで、桃の子太郎は、裏の川へ投げ込んだところが、パッシャーン!と大きな音がして、
じいはじっくり、ばあはばっくり腰をぬかしたそうな。
昔こっぽり。

語り手:真庭郡美甘村 河井繁太郎、川上郡成羽町 朝倉宇多
岡山文庫39「岡山の民話」 岡山民話の会編より