タイトル with CAT
内容(参照)
「週刊少年サンデー 1999年46号」より
初出掲載誌 週刊少年サンデー 1999年46号
発行元 小学館
単行本 未収録


<解説>

 作品のすぐあとに載っていてたインタビューにもあったが、この作品は久々にラブコメを描こうとして描いた作品となってる。全体的な雰囲気やヒロインの美弥の髪の描き方を見ると、多分に少女漫画的タッチになっており、この辺は近年多くなった少女ファンを意識してのものとも考えられる。しかし、一見何の変哲もないラブコメに見えるこの作品にも、かなり意味深な部分が点在している。

 まず、ヒーローの周太の設定だ。子供の頃から猫嫌いの高校1年生で空手(格闘技)をやっている。となれば、ほとんどのファンが早乙女乱馬を容易に連想できる。むしろ、わざと意識させているかのようだ。幼いころ、幼なじみの美弥に飼い猫を近づけられ、木から転落…。骨折して以来、美弥とは口をきくこともなくなってしまった。この美弥の飼い猫(虎千代)がトラ猫であるところがまた意味深なのだ。

 猫嫌いの乱馬は、五寸釘の罠によって猫に囲まれ、五寸釘が用意した虎が最終的な引き金となって猫拳を身につけた。猫に追い詰められ、恐怖が極限に達すると自らを猫化して繰り出す反撃技だ。この作品では、死期を悟った虎千代が周太の右手に取り憑いて右手を猫化している。この図式的一致に何やら意図的なものを感じるのだ。

 ここで周太を高橋留美子先生、美弥をファンに置き換えたらどうなるだろう? 虎千代は美弥が生まれる前から生きていたトラ猫だ。となると、より古い世代の「うる星」ファンという図式が成立する。この虎千代に迫られて5年前に骨折した周太。この作品の約11年前、ストレスがたまって虫垂炎を起こして入院した高橋先生…。この辺の対応も気になってくる。

 猫が取り憑いたのが、右手だというのも何やら象徴的だ。手であることで猫拳とも対応するし、右手は高橋先生が漫画を描く手だ。そう考えていくと、ちょっと恐ろしいものも感じてしまう。

 しかし、この作品は骨折事件以来、疎遠になっていた周太と美弥が、虎千代が周太の右手に取り憑いたことがきっかけとなって再接近し、ふれあえるようになるまでを描いている。もし、この作品が高橋先生とファンの関係を反映したものだとするならば、これは明るい材料だと言えるだろう。

 事実、この年の4月には15年ぶりのサイン会でファンの前に直接姿を現し、8月にも少年サンデー40周年記念イベントに生出演している。これまで遠かったファンとの距離が一気に縮まり、再び直接ふれあえるようになった。もし、その読みが正しいとすれば、今後の高橋先生とファンの関係はかなり近くなるということが示唆されたことになる。

 そうなると、虎千代(かつての「うる星」ファン)が両者を再接近させたという図式になりかねないのだが、そこは「実は虎千代が成仏せず、周太に取り憑いたのは20歳の誕生日のプレゼントを楽しみにしてたからだ。」というオチをつけてそらしている。何とも巧妙だ…。(もっともそれでは、「うる星」ファンが浮かばれない気もするが…。笑)


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