タイトル 専務の犬
内容(参照)
「ビッグコミックオリジナル 1994年2号」より
初出掲載誌 ビッグコミックオリジナル 1994年2号
発行元 小学館
単行本 高橋留美子傑作集 専務の犬


<解説>

 上司であり、親友でもある祭田専務の愛人問題に巻き込まれて、家庭崩壊の危機に立たされた小暮家…。まるで、犬みたいに人のいいなりで小心者の夫は、ストレスのあまり円形脱毛症にまでなって、妻からも情けないとあきれられる。

 しかし、最大の危機が訪れたとき、夫は自らの家庭を守るために立ち上がる。夫は少し昇進し、妻は夫を少し見直した。仕事と家庭の狭間で苦労しているお父さんに捧げる作品として登場した作品だ。

 が、この作品でいちばん目を引くのは祭田専務の愛人、カンナであろう。「らんま1/2」のひな子先生を知っている者ならば、恐らく誰もがアダルトチェンジしたひな子先生「そっくり」または「そのまま」と言いそうなキャラデザインだ。

 長年描いていれば、似たようなキャラも出てはくるだろうが、ここまで似たキャラしかデザインできなかったとはとうてい思えない。むしろ、意識的に似せてきたという感じがある。

 「百年の恋」の解説でも書いたが、ひな子先生といえば「セーラームーン」だ。となれば、このカンナも暗に「セーラームーン」を象徴するものとして、それを見抜いている者にあえてわかるように提示してきたのではないかとも思えてくる。しかも、なんとご丁寧にセーラー服まで着せてしまってるのだ。(笑)

 また、「犬」と「祭」の取り合わせも意味深だ。「犬」といえば、コミックマーケットでの宅配のほとんどを手がけているフットワークのトレードマーク。これと「祭」が結びつけば、これはもうコミックマーケットを象徴する記号となりえるわけだ。

 さて、この作品ではその犬のゴージャスの目というのが、重要な役割を果たしている。ゴージャスが小暮家に預けられてしばらくは、この家では小暮夫人が大将だと認めていた。ところが、カンナが押しかけてきて小暮家に居すわるようになると、ゴージャスはカンナを大将と認定するようになる。

 この図式に悔しがる小暮夫人と大きな顔をして居すわっているカンナの立場というのは非常に象徴的だ。この当時の「るーみっく」と「セーラームーン」の勢力の差を浮き彫りにしたようなかたちなのだ。

 しかし結局、最後には祭田がカンナと別れ、ゴージャスは小暮家の犬となって、小暮夫人を大将と認める図式に戻る。そのきっかけとなったのが、夫・小暮氏の家庭を守るための奮起だったわけだ。

 小暮夫人を高橋先生の立場とするならば、小暮氏は「るーみっく」という牙城(家庭)を守る立場にあるファンの存在と見ることができる。とすると、小暮氏のような奮起があれば、再び「犬」が「るーみっく」を大将と認める図式になるぞという話か、あるいは、前年奮起した一部のファンに対して、ちょっと見直したぞという話と見ることもできてくる。

 ここまで読んでしまうのは、やはり邪推の領域と言えるのかもしれないが、ひな子先生そっくりのキャラがセーラー服を着たという事実が、どうにも意味深でしかたがないのだ。社長でも、部長でも、常務でもなく、専務(セ・ン・ム)の犬である点もまた…。(笑)


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