タイトル 迷走家族F
内容(参照)
「ビッグコミックオリジナル 1995年4号」より
初出掲載誌 ビッグコミックオリジナル 1995年4号
発行元 小学館
単行本 高橋留美子傑作集 専務の犬


<解説>

 1995年は、いよいよ「らんま1/2」が佳境を迎え、完結に向けて全力投球していたからであろう。読み切りは年頭のこの作品1作のみであった。年頭からいきなり一家心中の話という、穏やかでないネタだったが、ラストは明るさの見える終わり方となっていた。

 この作品は「心中」か「勘違い」かで、ストーリーが二転三転している。はづき自身の心理状態の変化も合わせて最後まで息の抜けない展開だった。「らんま1/2」では、「かすみさんが怒った」や「微笑み三年殺し」など、意味深な状況証拠が次々と出てきた末に、実は何でもなかったというオチがよく見られたが、一旦、やっぱり勘違いと思わせておいて、一気に心中に走った展開には非常に迫力を感じるものがあった。

 さて、この作品でちょっと注目すべき点となっているのは、父親の「もう少しがんばってみるよ。」という台詞と、最近ストレスがなくなって笑ってばっかいたから(父親の)胃潰瘍が治っていたという事実だろう。この辺に、どうも高橋先生自身のことが重ねられているように思えるのだ。

 「鉢の中」の解説で、1988年頃のストレスの存在については書いたが、考察者による「危険な裏の意味」の提示なども含め、その後もいろいろとあったようだし、またストレスがたまったりしたことがあったのかもしれない。しかし、そうしたストレスもなくなって、この時期、笑っていられるようになったのではないかと…。

 また、この作品は「らんま1/2」の進行とも密接な関係を持っているように思われる。前年の8月、アメリカのコミック・コンベンションに招かれた際、アメリカ人青年の「らんま1/2」終了の噂に関する質問に対して、「もうすぐ終わります。」と答えたことが伝えられ、1年以内には終了するのではないかという憶測も飛び交った。

 そういう意味からすると、この作品の冒頭で、はづきの両親が「もう終わりだ…」と暗く沈み切っているところは、妙に象徴的だ。が、ラストまでくると、「ストレスもなくなって笑ってばっかいられるようになったから、もう少しがんばってみる」というようなニュアンスが感じられてくる。

 実際、「らんま1/2」は、「もうすぐ…」発言から1年以内ということならば、最大のネックとなると思われた8月を無事突破し、翌、1996年2月まで続いた。考えてみれば、はづき(葉月)とは「8月」のこと…。このあたりのネーミングにも、意識した形跡が伺えるのだ。(笑)


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