タイトル 茶の間のラブソング
内容(参照)
「ビッグコミックオリジナル 1996年4号」より
初出掲載誌 ビッグコミックオリジナル 1996年4号
発行元 小学館
単行本 高橋留美子傑作集 専務の犬


<解説>

 予告カット、扉絵とあおり文句、途中までの展開と、いかにも初老の課長と美人OLの恋物語かと思わせておいて、実は死んだ妻と課長のラブソングだったという作品だが、もしかしたらその図式もまた狂言回しである可能性を秘めた作品と言える。

 冒頭の葬式のシーンでは、「泣いてやりたいのだが…」と、本当に実感が湧かないからなのか、見合い結婚だったこともあってなのか、泣けなかった課長が、ラストでは「私は少し泣いた。」となる。

 この辺の対応と、ここに至るターニングポイントとなる妻の未練の正体の発覚が、むしろこの作品では重要なポイントで、ほぼ全編に渡って描かれてきた桃井ひとみとの勘違い恋愛は、思い出せなかった未練の正体を導き出す伏線として機能しているに過ぎないという、結構大胆な構成となっている。

 結局、死んだ課長の妻が成仏できずにいたのは、見合い結婚して以来、恐らくはじめてであったろう結婚記念日のプレゼントを渡せなかったことが未練となっていたからだが、このプレゼントに添えられていたメッセージにちょっと感じるものがあるのだ。

 「らんま1/2」がいよいよ大詰めを迎えていたこの頃、未練から解放されての成仏という図式は、暗に「らんま1/2」の完全なる完結を示唆するものであったと見ることができる。ならば、完結にあたっての未練、心残りとは何だったのだろう? そう考えたとき、このプレゼントに添えられていたメッセージの一節が妙に響いてくる。

 「おとうさんいつもありがとう。これからもがっぱってください。」

 この「いつもありがとう」という部分に、高橋先生から読者に向けての、感謝の気持ちが見えるような気がするのだ。

 この「茶の間のラブソング」は、死んだ妻と課長のラブソングであったと同時に、作者と読者のラブソングであったのかもしれない。これまでで最長となった「らんま1/2」の連載との完全なる別れ…。「これからさみしくなるな。」という台詞は、作者と読者、どちらにも当てはまるだろう。そう思いながら読み返すと、ちょっと胸が熱くなって本当に少し泣けるものがあった作品だ。


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