タイトル 鉢の中
内容(参照)
「高橋留美子傑作集 Pの悲劇」より
初出掲載誌 ビッグコミックオリジナル 1988年10号
発行元 小学館
単行本 高橋留美子傑作集 Pの悲劇


<解説>

 この作品は、ビッグコミックオリジナル400号記念企画のために執筆された作品だが、それにしては暗い。「笑う標的」や「人魚シリーズ」などとはまた違った「暗さ」、「重さ」、「やりきれなさ」を感じさせる作品だ。

 嫁と姑の確執…。表面的にはよくあるテーマだが、果たしてそれだけなのかという疑心暗鬼を起こさせるものがある。特に、引き合いに出された「食事(料理)」というキーワードが、何やら意味深だ。

 「食事(料理)」とくれば、その良し悪しを決定するのは、素材や香りなどの要素もあるが、やはり「味(付け)」ということになってくる。それは暗に「作品作り」、「作品の味付け」を示す記号と見ることもできる。

 「らんま1/2」でも、あかねの料理下手というネタが、これ以降登場してくることになる。「らんま」のそれは、「うる星やつら」でラムの激辛料理からあたるが逃げる図式の継続という見方もできるが、「真之介編」でのあかねの「料理」の扱われ方などを見ると、やはり暗に「作品の味」という意味が隠されているように思えてくる。

 さて、そういう意味でとらえると、利根川さんの奥さんが作ったものには箸もつけず、「あの人は食事つくれないし。」と周囲に言って回ってる義母の所業というのは、実に洒落にならない意味となってくる。

 「夢の終わり」の解説でも書いたように、いつまでたっても「らんま」を見つめようとしない読者の存在は確かにあったし、「らんま」の前半はかなり悩みながら描いたという事実が、後日語られている。そういう状況下で、徐々にストレスがたまって行きつつあったのが、作品の中に表わされていたのかもしれない。

 この年の秋、高橋先生はついに虫垂炎(盲腸)で倒れ、「らんま1/2」もしばしの休載を余儀なくされる。のちの島本和彦氏との対談で、この虫垂炎の原因を「積もり積もったストレスの結果なのかなあ。」と振り返っており、このあたりの時期にストレスがたまっていたという事実があったことがわかる。

 ラストで、(プラス思考で行くようにしてみるというニュアンスで)笑ってみせた利根川さんの奥さんだが、笑ってみせたのであって、心の底から笑えたわけではなかったところに、完全には救われていない部分が垣間見られる。

 暗く、あまり感動的とは言えない作品だが、そうした意味で、るーみっく作品の歴史の中でも重要な位置を占めていると言えよう。


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