コアレス発電機の開発

 

 

 2009.8.25

 

昨年に続き孫と共同研究を行ないました。

 

1.研究の目的

化石燃料を使わないクリーンなエネルギーの有効利用が今、世界的に注目されている。それらにはソーラー発電、小型水力発電、風力発電などがある。この内、風力発電は風の力で風車を回し、これに発電機を接続して発電する。小型水力発電も水の持つエネルギーで水車を回し、発電機を接続して発電する。両者とも発電機は重要なコンポーネントである。

昨年(2008年)は小型水力発電の研究を行なった。そこでは電動自転車に使われているモーターを発電機に流用したが、研究を通して高性能(小型、高効率)な発電機の必要性を強く感じ、本年(2009年)は独自に高性能磁石(ネオジム)を用いたコアレス発電機の開発を行なったので報告する。

2.研究内容の要約

 最近の磁石を用いた発電機は3相交流発電機が主で、発電出力を全波整流して直流とし、インバータで5060Hzの電力を得ているが、この研究では、コアレス構造を採用することでコギング(Cogging)の発生がないため、あえて単相発電機にチャレンジした。構成は磁石12組(サンドイッチ構造で磁石数合計24個)、空芯コイル12個の12極の単相交流発電機である。

 昨年製作の水車は、テスト結果出力不足(目標は100W以上)が判明し、別途更に大型の水車を製作する計画である。発電機については、自転車構造のトレーニングマシーンを改造し、これに接続して発電量が目視(白熱電球)で判断できるように構成(人間発電機)した。また、3.7KVAの三相交流モーターを駆動源とし、発電機の基本特性を測定した。

3.研究結果要約

 (1)コアレス構造としたため、コギングが殆ど発生しないことを確認した。

(2)500RPM64W50Hz)、600RPM85W60Hz)、1000RPM228W100Hz)、1500RPM457W150Hz)の発電を達成した。ただしこれはmax値ではなく、更に負荷を加えれば増加する。後記の特性表を参照されたい。

3)コアレスのため鉄損は殆どないものと推察される。従って効率は少なくとも90%以上(増速機は除く)と思われる。別途測定を計画する。

4)ベルトおよびギアによる増速装置(ギア増速比13)を試作したが、ギア増速ではギア鳴りが大きく、動力伝達効率も悪く改善が必要と感じた。

(5)手作りのため精度が出ず、磁石とコイルとのギャップ寸法が約0.8mm+0.8mmと大きい。このギャップ寸法を0.4mm+0.4mm程度に出来れば、更に出力を増やすことが出来ると推察される。

6)成果要約として、コストは別途として性能的には充分実用できる発電機が出来たと考えている。

4.試作の内容

4-1 発電機の構造

写真-1に開発した単相発電機の構成を示す。

 

 

 

写真―1 単相発電機の構成

 

1)ロータ-

5mm厚の軟鋼円盤に径30mmφ厚さ10mmのネオジム磁石を12個吸着させる。吸着力が強いので、鉄円盤と磁石との間には接着剤は使用していない。ただし、高速回転時の遠心力による磁石の剥離を防止する目的で、3mm厚の塩ビ板でガードした。

磁石は交互にSNSN・・・・・と吸着させる。このように構成したロータ-2枚製作し、SUS20mmφ回転軸にフランジを介して取り付けた。磁石は吸着力が強いので、互いに接近しないよう、充分注意して作業する必要があった。ロータ-を写真-2に示す。4本のボルトは吸着回避用である。

 

 

写真-2

 

写真-3

 

(2)ステータ

 1.0φPEW60ターン巻いたコイルを12個作成し、これを不飽和ポリエステルでデスク状に成型した。なお、添加剤としてタルクを重量比で50%混入した。注形作業状況を写真―3に示す。

コイルは誘起電圧方向が同一となるように、順次直列接続している。(ロータの磁石配列がSNSN・・・であるので、最初のコイルの巻き終わりと次のコイルの巻き終わりを接続・・・・)

総巻数は60×12720Tである。

42 増速機の開発

発電機の発電電力は回転スピードが高い程大きくなる。市販のエンジン発電機(旧タイプ 2P)では50Hz発電で3000RPM60Hz発電で3600RPMを定格回転数としている。また、コージェネシステムとして開発されたエコウイルの発電機の場合は約2000RPMである。今回試作した水車の回転数は約150RPMであり、これに発電機を直結しても発電電力は僅かである。1500RPM程度に発電機回転数を上げるためには、約10倍の増速が必要となる。今回の試作では増速を2段とし、1段はベルトを用いプーリー径を変えて約3倍の増速、2段目はギアでの約3倍の増速、合計9倍の増速が出来る増速機を試作した。外観を写真―1に示す。

 

43 人力駆動装置(人間発電所)の製作

水車を駆動源とするテストは場所が限定される。開発した発電機の動作テストをどこでも実施できるよう、自転車型トレーニングマシーンを改造して、ベルトで発電機を駆動できるようにした。その外観を写真-4に示す。発電電力をバッテリに充電することで、体を鍛えながら電力を得るマシーン(商品)が考えられる。

 

 

 

写真-4

 

5 テスト

51発電機の基本性能テスト

基本テストとしては無負荷発電電圧特性試験と負荷特性試験を行なった。

 

1)無負荷発電電圧特性試験

発電機を無負荷状態で回し、発電機回転数と発生電圧の関係を測定した。このデータを図―1に示す。

 

 

 

-1 無負荷電圧特性

 

 

この試験では交流発電電圧を全波整流回路で直流として計測している。平滑コンデンサーは350WV300μFを用いた。

 

2)負荷特性試験

3.7KVA 3相誘導電動機を用いて発電機を駆動した。回転数制御にはインバータを用いている。テスト状況を写真―5に示す。

 

 

写真―5 負荷特性試験

 

発電機の回転数を一定に保ち、負荷(白熱電球)を0(無負荷)から順次増加させて行く。負荷の増加と共に、負荷電流が増加し、発電電圧は下がって行く。負荷が純抵抗であるため、電圧×電流=発電電力(W)となる。なお、負荷へは交流発電電圧を全波整流して直流として加えている。発電電力は山形の曲線となり、最大値が存在するが、今回は負荷抵抗の制約から最大値までの測定は出来なかった。(この最大値がこの発電機の最大発電電力となる。)

回転数をパラメータとし、負荷を可変した場合の発電電圧と発電電力の関係(負荷特性)を図―2に示す。回転数を上げれば、発電電力が増加することが分かる。

 

 

 

図―2 負荷特性

 

12極発電機であるため、回転数(RPM)×110が発電周波数となる。

 

52 小型水力発電テスト

前年(2008年)と同じ場所で試作水車に発電機を結合し、稼動テストを行なった。その状況を写真―6に示す。

動画チャンネルも参照されたい。

 

 

写真―6 小型水力発電テスト

 

 

6.結果考察

(1)コギング(Cogging)について

強力磁石をロータまたはステータに用い、片方に珪素鋼板コアーを用いると磁気による吸引力が発生し、コギングが発生する。今回の予備実験で、12個のネオジム磁石に12個の鉄質(不飽和ポリエステル樹脂に鉄粉を混入したもの)コアーを有するコイルを対向(単相発電)させたところ、ギャップ寸法が1mm程度で磁力による吸着力で全くロータが動かない事態が確認された。コイルを18個に増す(3相発電)ことで、吸着力が少し分散し、やや弱まったがコギング現象は無視できないレベルであった。コアレスにすることで、この吸着力は皆無にすることはできるが、珪素鋼板に比べて透磁率が極端に小さくなり発電電圧が大幅に低下する。コアレスの場合、磁石からの磁束を如何に多くコイル内に導くかにある。今回の試作では、コイルを台形にすることでかなり改善できたと考えている。

2)発電機性能について

ネオジムなどの高性能磁石を用いれば、コギングがなく、始動からスムーズに駆動回転でき、かつ実用的な発電機が出来ることが判明した。課題は磁石が高価なことであるが、構造の改良によりより小型軽量かつ高効率の発電機が実現できると考えている。なお、今回のテストでは磁石に同寸法のフェライト磁石を使ったものの特性も測定したが、発電電力はネオジム磁石に比べて極端に少なく、コアレス構造では実用にならないと判断した。

3)増速機について

風力発電や小型水力発電では、駆動源の回転数が低く、そのまま発電機に結合しても、発電電力は極僅かなものとなる。実用的な電力を得ようととれば、低速でも出力の出る発電機を作るか、或いはギアなどで増速する必要がある。今回はベルトとギアを組み合わせた増速機を試作したが、高速(800RPM以上)ではかなりギア音が高く改善要と判断した。ベルトについては、発電機側のプーリー径を小さくし過ぎるとベルトがスリップし易くなり、摩擦熱が発生した。また増速比を大きくすると駆動トルクが増大し、始動しにくくなる。改良の余地がかなりあることを実感した。

4)小型水力発電テストでは、水車の出力が小さく、ここで開発した発電機の能力を充分発揮できないことが分かり、テストは中断した。

水車の大型化を2010年に計画している。

 

7.結言

化石燃料に代わる自然エネルギーの利用は、人類にとって極めて重要である。些細な研究ではあるが、若い人達がこのような試作実験を行うことで、自然エネルギー利用の可能性を肌で感じることが出来れば幸いである。

 

発電機の性能試験で設備を借用させていただいた株式会社ワイ・ジーケー殿に御礼申し上げます。