論  告  要  旨

    (注)以下は、検察官の論告要旨(平成7年10月24日 高橋久志)
       です。但し、縦書きを横書きに直しています。しかし、
       一頁の行数、一行の文字数は原本と同じにしています。
       なお、−−−−−は、頁の区切りを示しています。頁右下
       の数字は頁数です。

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           論  告  要  旨

   詐  欺               三 宅 喜 一 郎

第一 事実関係
   本件各公訴事実は、当公判廷において取調べ済みの関係各証拠によ
  り、その証明十分である。
   しかしながら、被告人は、会社が資金繰りに窮していたかどうか分
  からない上、共謀した事実はなく、具体的な騙取行為について知らな
  い旨供述し、弁護人も、これを前提に、被告人は無罪である旨主張し
  ているので、この点について検察官の意見を述べる。
 一 騙取行為の存在について

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  1 篠田勉からの騙取行為の存在について
    関係各証拠によれば、鎌田次朗(以下、「鎌田」という。)が、
   平成二年一〇月二一日ころ、東京都杉並区内の篠田勉方を訪問し、
   同人に対し、「日本信販のつなぎ融資を東芝総合ファイナンスに鞍
   替えして欲しい。平和ホームズの日本信販用の住宅金融公庫枠が一
   杯になったため、是非協力して欲しい。鞍替えにかかる手数料は当
   社で負担します。」などと申し向けた事実、鎌田が、高澤正比古
   (以下、「高澤」という。)とともに、同月二五日ころ、再度、右
   篠田方を訪問して、借換えの申し入れをし、同人から借換えの必要
   性について質問を受けるや、高澤において、「日本信販の枠が一杯
   になり、新規の客の枠が取れないので、借り換えしてください。東
   芝総合ファイナンスは工事に着工していないと融資を実行しないの

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   で、新規のお客様が東芝から融資を受けるのは難しいのです。」な
   どと申し向け、さらに、右篠田が「土地は父親のものなので、我々
   だけでは決められない。」などと断るや、鎌田らが、「是非、お父
   様に説明させていただきたい。この話は日本信販には内密にお願い
   したい。是非、鎌田さんに鞍替えをお願いしたい。」などと申し向
   けた事実、高澤が、同月二七日ころ、東京都北区内の篠田三郎方に
   おいて、篠田勉及び篠田三郎らに対し、「単に日本信販の鞍替えだ
   けでなく、公庫分と年金分を併せて三、〇三〇万円を東芝総合ファ
   イナンスから借りて欲しい。皆さんに全額つなぎ融資のローンを付
   けていただいております。ですから、篠田さんにも、東芝から全額
   の三、〇三〇万円の融資を受けてもらいたいのです。これまで日本
   信販 ら借りている分は東芝総合ファイナンスからの融資金で直ち

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   に返済します。返済の手続きは平和ホームズが責任をもって行うと
   いう念書も提出いたしますので、安心してください。」などと申し
   向けた事実、鎌田及び高澤が、同年一一月中旬ころ、再度、篠田勉
   方を訪問し、高澤において、篠田勉に対し、「日本信販から東芝総
   合ファイナンスに借り換えた場合、金利負担額が九万円安くなりま
   す。」と申し向け、それでも右篠田が応じないと見るや、さらに、
   「どうしても篠田さんにはご協力をお願いしたいので、三〇万円値
   引きさせていただきます。日本信販へは、当社が責任をもって東芝
   総合ファイナンスの融資金で直ちに返済いたします。」などと申し
   向け、その結果、右篠田が、三〇万円の値引きが受けられるならば
   借換えに応じてもよいという気持ちになるとともに、他方、株式会
   を平和ホームズにおいて、東芝総合ファイナンスからの借入金によ

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   り直ちに日本信販への返済手続きがとられるものと誤信し、高澤ら
   の申し出を承諾した事実、高澤が、同月二六日ころ、篠田三郎方に
   おいて、東芝総合ファイナンスの係員をして篠田勉との間でつなぎ
   融資契約手続きをとらせた上、篠田勉に対し、「東芝総合ファイナ
   ンスからの融資金は、いったん、篠田さんの口座に振り込まれます
   が、その金は、当社と日本信販との提携により、当社の口座から日
   本信販に返済するシステムになっていますので、必ず当社のロ座に
   振り込んでください。当社に振り込まれた東芝の融資金は、そのま
   ますぐに日本信販に返済しますので、安心してください。」などと
   申し向けた事実、同月二九日、篠田勉の銀行預金ロ座に、東芝総合
   ファイナンスから融資金三、〇三〇万円から前取利息等を差し引い
   た二、八二九万一、九七五円が振込送金されたことから、篠田勉が、

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   妻志保に株式会社平和ホームズへの送金を依頼し、同女が、同日、
   株式会社第一勧業銀行高田馬場支店に開設された株式会社平和ホー
   ムズ名義の預金口座に同額を振込送金し、翌三〇日、同口座に同額
   が入金された事実、鎌田及び高澤においては、当初から篠田勉から
   振込送金される金員を日本信販に返済するつもりはなく、株式会社
   平和ホームズの資金繰りに充当するつもりであり、前記のとおり、
   これを秘して右篠田との交渉に当たり、現実にも、右振込金を株式
   会社平和ホームズの資金繰りに費消した事実が各認められ、右篠田
   からの騙取行為の存在については疑いを容れない。
  2 石田克史からの騙取行為の存在について
    関係各証拠によれば、鎌田が、平成二年九月初めころ、石田克史
   に電話をかけ、同人に対し、「日本信販のつなぎ融資を東芝総合フ

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   ァイナンスに借り換えてくれませんか。実は、私どもの会社の日本
   信販用の融資枠には限度があるため、日本信販からのつなぎローン
   を受けられなくて困っている人がいるのです。石田さんは土地の権
   利証があるから、東芝総合ファイナンスから借りられるので、日本
   信販の石田さんの分の枠を移し替えて、その枠分を他の人に借りさ
   せてください。」などと申し向けた事実、鎌田が、その後、再度、
   右石田に電話をかけ、「もう一度考え直してくれませんか。石田さ
   んの建物は工事が遅れているので、便宜を図り、良い大工を使って
   早急に工事を進めますし、借換えをしてくれましたら、利息と諸経
   費を安くしますので、何とかお願いします。」などと申し向けた事
   実、鎌田が、同月一一日ころ、東京都世田谷区内の右石田方を訪問
   し、同人に対し、「先日来お願いしていますように、日本信販から

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   のつなぎ融資を東芝総合ファイナンスに借り換えてくれませんか。
   私どもの会社の日本信販からの融資枠には限度があるため日本信販
   からのつなぎローンが受けられなくて困っている人がいるのです。」、
   「石田さんが平和ホームズに便宜を図ってくだされば、平和ホーム
   ズも石田さんに便宜を図ります。もしお聞きいただけましたら、良
   い大工を優先的に回しますし、利息や諸経費も安くします。日本信
   販からのつなぎ融資の年利は七・五パーセントになっていますが、
   これを七パーセントにします。つなぎ利用上の特例として手数料も
   当社で負担します。」、「東芝総合ファイナンスから実行された融
   資金は、直ちに日本信販に返済します。東芝総合ファイナンスから
   の借入金は、あなたの口座に振り込まれますが、日本信販への返済
   は当社経由で行うことになっているので、東芝総合ファイナンスか

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   らの借入金は、当社の口座に振り込んでください。その金を平和ホ
   ームズの方で日本信販から借りた金額と同額にして、あなたが日本
   信販から借りた分は直ちに返済します。」などと申し向げた事実、
   その結果、右石田が、金利が下がり、良い大工を優先的に回す旨の
   鎌田の提示した条件に魅力を感じるなどし、借換えに応じてもよい
   という気持ちになるとともに、他方、株式会社平和ホームズにおい
   て、東芝総合ファイナンスからの借入金により直ちに日本信販への
   返済手続きがとられるものと誤信し、鎌田の申し出を承諾した事実、
   鎌田が、同月一八日ころ、右石田方において、東芝総合ファイナン
   スの係員をして右石田との間でつなぎ融資契約手続きをとらせた事
   実、同月二一日、右石田の銀行預金口座に、東芝総合ファイナンス
   から融資金二、九二〇万円から前取利息等を差し引いた二、七四二

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   万九、二七九円が振込送金され、右石田は、翌二二日、妻に株式会
   社平和ホームズへの送金を依頼し、同女が、同月二五日、株式会社
   第一勧業銀行高田馬場支店に開設された株式会社平和ホームズ名義
   の預金口座に同額から振込手数料七二一円を差し引いた二、七四二
   万八、五五八円を振込送金し、同日、同ロ座に同額が入金された事
   実、鎌田においては、当初から右石田から振込送金される金員を日
   本信販に返済するつもりはなく、株式会社平和ホームズの資金繰り
   に充当するつもりであり、前記のとおり、これを秘して右石田との
   交渉に当たり、現実にも、右振込金を株式会社平和ホームズの資金
   繰りに費消した事実が各認められ、右石田からの騙取行為の存在に
   ついては疑いを容れない。
  3 麻生英夫からの騙取行為の存在について

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    関係各証拠によれば、鎌田が、平成二年八月下旬ころから同年九
   月初めころ、株式会社平和ホームズ船橋営業所長脇山功三に対し、
   麻生英夫をして日本信販から受けているつなぎ融資を東芝総合ファ
   イナンスからのつなぎ融資に切り替えさせるよう指示した事実、右
   脇山が、右鎌田の指示に従い、同月二二日ころ、同営業所営業部長
   清水宏悦に対し、「麻生英夫分について、日本信販の枠が一杯なの
   で、つなぎ融資の借換えをしてください。」などと指示した事実、
   これを受けた右清水が、同日ころ、千葉市内の右麻生方に電話をか
   け、同人に対t、「日本信販から融資枠が一杯になったので、麻生
   さんは東芝総合ファイナンスから借り換える手続きをしてください。
   麻生さんの工期は、まだ期間があるので、工期の早い人に日本信販
   の枠を優先したいのです。借換えの手続きは全部当社でやります。

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   他の人の融資枠を確保するための借換えの手続きです。東芝に借り
   換えたつなぎ融資一、〇九〇万円は、住宅金融公庫の融資が出たと
   きに確実に返済してくれれば、借換えに必要な費用はすべて平和ホ
   ームズで負担します。東芝から借り換えた融資金は、すぐ、日本信
   販に返済しますし、その手続きはすべて当社でやりますからお願い
   します。」などと申し向けた事実、その結果、右麻生が、その旨誤
   信し、右清水の申し出を承諾した事実、鎌田が、同月二六日、東京
   都墨田区所在の右麻生の勤務先に電話をかけ、右麻生に対し、「借
   換えの説明は担当者の清水から聞いていると思いますが、東芝総合
   ファイナンスから借り換える一、〇九〇万円は、日本信販にそのま
   ますぐに返済します。東芝総合ファイナンスからの借入金は、あな
   たの口座に振り込まれます。日本信販へは、日本信販と提携してい

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   る当社の口座から返済することになっていますので、東芝総合ファ
   イナンスからの融資金は、当社の口座に振り込んでもらいます。こ
   れから東芝総合ファイナンスの人を連れて行きますが、東芝総合フ
   ァイナンスは日本信販と競争会社ですので、東芝総合ファイナンス
   の人の前では日本信販のことは口にしないでください。そうしない
   と手続きがスムーズにいかなくなる場合がありますので、よろしく
   お願いします。」などと申し向け、これを右麻生が了承した事実、
   鎌田が、同月ころ、右麻生の勤務先において、東芝総合ファイナン
   スの係員をして右麻生との間でつなぎ融資契約手続きをとらせた事
   実、同月二八日、右麻生の銀行預金口座に、東芝総合ファイナンス
   から融資金一、〇九〇万円から前取利息等を差し引いた一、〇一七
   万九、六二一円が振込送金されたことから、、右麻生が、妻直美に

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   株式会社平和ホームズへの送金を依頼し、同女が、同日、株式会社
   第一勧業銀行高田馬場支店に開設された株式会社平和ホームズ名義
   の預金口座に同額から振込手数料四一二円を差し引いた一、〇一七
   万九、二〇九円を振込送金した事実、鎌田においては、当初から右
   麻生から振込送金される金員を日本信販に返済するつもりはなく、
   株式会社平和ホームズの資金繰りに充当するつもりであり、前記の
   とおり、これを秘して右麻生との交渉に当たり、現実にも、右振込
   金を株式会社平和ホームズの資金繰りに費消した事実が各認められ、
   右麻生からの騙取行為の存在については疑いを容れない。
 二 株式会社平和ホームズが、本件各犯行当時、資金繰りに窮していた
  事実について
  1 この点については、鎌田が、「昭和六一、二年ころから、決して

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   楽な時はなく、かなり、まあ、厳しい状態が続いていた」、「下請
   け業者への支払いが遅れ、このため工事が進まないという事態にな
   ったため、昭和六一年以降、平成二年の暮れまでの間に、数回、直
   接、社長である被告人が、職人たちに対し、『支払いは必ずきちん
   とする』旨話す説明会についての日程を話し合ったことがある」、
   「昭和六三年一月ころ、本件発端となる、いわゆる『二重ローン』
   の提案がなされたころ、そのような方法をとらなければ、会社が手
   形の不渡りを出しかねない状況にあった」、「最初のつなぎ融資で
   ある日本信販の融資についても、少しでも早く実行させて資金繰り
   に使いたいということで、建築確認通知書や公庫からの貸付予約の
   はがきなどを偽造していた」旨各証言している上、証人福岡正芳も、
   当公判廷において、同人が会社を辞めた平成元年五月より以前に、

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   「資金繰り会議を行ったが、資金繰りに窮し、その席上、どうして
   も資金が足りないということになり、みんな悩み込んでいたところ、
   被告人が自宅に電話をかけ、被告人の妻に対し、『もう、この会社
   はだめだ。』などと言った」、「昭和六三年一二月、賞与の支給時
   期に当たり、被告人から『賞与の支給を遅らせて欲しい』旨話があ
   り、右福岡らは、会社の業績等もあって、これを応諾した」旨証言
   しているし、証人菅原啓晃も、当公判廷において、「昭和六三年八
   月ころ、業者への支払いが非常に厳しく、もう支払いができない状
   態が起き、平和ホームズの経理の方に、『とにかく支払いができな
   いのでは仕事ができない、何とか現金を回してくれ。』などと言っ
   た」、「平成元年五月か六月ころ、資金繰り会議に出席したが、二
   重ローンによる不正な資金調達を行わない場合、業者などへの支払

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   いについては、他の入金によってまかなえる状態になく、その月も
   乗り越えられない状態だった」、右菅原が退社した平成元年一一月
   当時、「社員の給料も、課長以上は遅延という形でやるほど非常に
   厳しい状態だった」旨証言している。
  2 これらの証言は、いずれも極めて具体的で、中には具体的エピソ
   ードを含むものであって、その個々の内容自体から信用性が高いと
   いうべきであり、かつ、相互に符合しており、互いに、その信用性
   を補強し合う関係にあり、十分信用することができる。
    しかも、被告人は、社長として、ほとんどすべての資金繰り会議
   に出席していた上、昭和六三年の後半か平成元年の最初のころには、
   自分自身で、財務を担当したこともあるのであるから、右各証言で
   明らかになったような株式会社平和ホームズの資金繰りの窮状につ

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   いて当然知っていたというべきである。これを否認する被告人の供
   述は、到底信用できない。
 三 鎌田次朗及び高澤正比古との共謀の存在について
  1 鎌田は、当公判廷において、大略、以下のとおり証言をしている。
   すなわち、昭和六三年一月ころ、被告人、三宅千尋専務、鎌田、高
   澤らが出席し、資金繰りの方針を協議する会議が開催された際、当
   時、財務担当役員だった高澤が、「既につなぎ融資を受けている顧
   客に、二重につなぎ融資を受けさせ、その融資金を会社の資金繰り
   に充てたらどうだろうか。」という趣旨の提案を行い、出席者から
   異議が出ることもなく、最終的に、被告人が社長として了承し、や
   り力については、高澤や福岡課長に任せる旨述べた、少なくとも鎌
   田が財務担当になった平成元年四月からは、純粋な付け換えという

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   のは、なかった(ように思う)、そのころからほとんどすべてが今
   回問題になっている二重ローンのケースであり、そのことは資金繰
   り会議のメンバー全員が了解していた、資金繰り会議においては、
   入金予定者について個別的に「かなり細かく」説明し、出席者の了
   承を得ていた、篠田勉に対する詐欺においては、鎌田が初めて篠田
   方に行って二重のつなぎ融資をもちかけたが断られたことを資金繰
   り会議の席あるいは打ち合わせの場で報告tたところ、被告人が、
   「じゃ、高澤部長、鎌田君と一緒にもう一度行って交渉してくれ。」
   などと言ったことから、鎌田は高澤と一緒に篠田方に行くことにな
   った、なお、平成二年一二月下旬ころ、問題が表面化した際、被告
   人が「会社ぐるみでやったということになると、日本信販との分割
   返済等の交渉もできないかもしれないから、二重ローンは財務担当

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   である鎌田の一存でやったことで、社長は知らなかったという形に
   する。」などと指示があった旨証言している。
  2 また、高澤も、捜査段階において、以下のとおり、検察官に対し、
   右鎌田証言に全面的に符合する供述をしていた。すなわち、「平和
   ホームズでは、その資金繰りが苦しかったことから、二重につけた
   ローンについては、これをその事業資金に充てて使っていた。」、
   「昭和六三年一月ころ、六、〇〇○万円の入金予定が変更になり、
   福岡課長とこれを切り抜ける話をしているうちに、ローンをダブら
   せて資金繰りに使う話が出た。」、「昭和六三年一月ころ開かれた
   資金繰り会議で、資金繰り表などの資料を配布して資金繰りに窮し
   ている状況について報告し、つなぎ融資を二重にダブらせていけば、
   その分は資金繰りに使えるなどと説明した。」、「二重ローンにつ

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   いては、あらかじめ入金予定として、資金繰り表などに折り込み、
   資金繰り会議において、三宅社長、千尋専務、鎌田常務に資金繰り
   表を渡していた。」、「平成二年九月ないし一一月当時は、鎌田常
   務が資金繰り表を三宅社長、千尋専務、私(高澤)に配ってそれを
   基に資金繰りの打ち合わせをしていた。」、「(資料の)W(ダブ
   ル)というのは、顧客に二重につなぎ融資を受けさせて、平和ホー
   ムズの資金繰りに使うことで、これについては、昭和六三年一月こ
   ろや平成元年四月ころの話し合いなどにより、三宅社長にも分かっ
   ていたものと思う。」などと供述していた。
    ところで、高澤は、第五回ないし第七回公判において、資金繰り
   会議のシステム、資金繰り表の作成・配布状況、二重ローンの資金
   繰り会議における提案状況・開始状況、当時の資金繰りのひっ迫状

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   況、二重ローン対象者として選定した個々の顧客の二重ローンの内
   容などについて資金繰り表に計上し、資金繰り会議に諮って説明し
   了解を得ていた状況、東芝総合ファイナンスは、ほとんど二重ロー
   ンで使用していたこと、平成二年一二月末ころの問題が表面化した
   際の対応状況等について、捜査段階と同旨であるとともに、鎌田証
   言とも全面的に符合する証言をした。
    しかし、高澤は、右第五回ないし第七回公判において、同時に、
   正規の付け換えと二重ローンの区別や被告人の二重ローンについて
   の認識の程度等について、捜査段階から後退し、あいまいな、被告
   人に有利なものとも受け取れる証言をし、さらに、弁護人請求の再
   度の証人尋問においては、捜査段階の供述はもとより、右第五回な
   いし第七回公判の自分自身の証言とも真っ向から対立し、全面的に

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   被告人に有利な証言をするに至った。
    そこで検討するに、高澤は、もともと被告人に誘われて株式会社
   平和ホームズに入社し、被告人に引き立てられて順調に出世したも
   のであり、当時から、例えば、営業の社員らが被告人の悪口を言っ
   たりすると、「(三宅社長は)そういう考えではないんだ。」など
   と非常に語気を強めていさめるなど、非常に被告人をかばっていた
   ケースが多々見受けられるなどした上、同社が倒産後は、被告人が
   勤務しているのと同じ勤務先を被告人から紹介され、被告人と一緒
   に勤務を続けているのであって、被告人に恩義を感じているものと
   推察される。したがって、第五回ないし第七回公判においてすら、
   被告人の面前であるがゆえに、前記のとおり一部被告人を庇う傾向
   も見られた上、弁護人請求の再度の証人尋問においては、証言前に

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   被告人や弁護人と証言内容の打ち合わせも行っているのであるから、
   被告人の罪責を免れさせるために、虚偽の証言をしたことは明白で
   ある。そのことは、資金繰り会議の存在といった基本的な事項につ
   いてすら、以前証言した際は、「ないのにあると思い込んでいた」
   旨、極めて不自然な証言をする態度に端的に表れている。
  3 また、ローン担当であった証人福岡正芳は、当公判廷において、
   昭和六三年一月過ぎころ、被告人、高澤、鎌田、三宅専務及び福岡
   自身も出席した資金繰り会議の席上、高澤から「つなぎローンを使
   っている客に対して、別のローン会社から再度借入れをしてもらっ
   て、客に対しては、前の、当初借りたつなぎ融資を返済するという
   形であるが、返済せずに、平和ホームズの資金繰りに流用するとい
   うことがテクニック的にはできる」旨の説明があり、出席者の中か

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   ら「当初借りた方のローン会社に気づかれないのか」、「新たに借
   入れする先のローン会社も気づかないのか」等の質問があり、被告
   人は、その席で「まあ、それができるならば、やって欲しい。」
   「事務的なものは君たちに任せる。」などと発言して、高澤の提案
   を承諾した旨、顧客に二重ローンをかけさせる方法についても、福
   岡自身、高澤らと話し合ってから、資金繰り会議などで、高澤が被
   告人に報告した旨及び、二重ローンに関し顧客にうそをつくことに
   ついては、ダブルでかける段階で、被告人に話を通して承認をもら
   っているから、被告人は「十分認識して」「当然」承知していた、
   具体的には、資金繰り会議の中で、資金繰りに回す部分の顧客を候
   補として挙げ、各顧客ごとに、「このお客様に対して行いたいんで
   すが」などと被告人に報告・提案し、被告人の了承を得てから動い

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   ていた旨、このダブルで続けていかなければ返済のめどはなく、だ
   から、自転車操業的に資金繰りをつけてはいたが、それが止まった
   段階で、すなわち、例えば、つなぎ融資先に発覚した、あるいは、
   顧客からのクレームがついたということになったら、すべてストッ
   プしてしまうということで、福岡自身、非常な危機感を感じた旨各
   証言している。
  4 鎌田及び右福岡には、敢えて偽証をしてまで被告人に不利な証言
   をし、被告人を罪に陥れなければならない事情は存しない上、鎌田
   及び右福岡いずれの証言も、具体的かつ自然で、実際に体験した者
   でなければ供述し得ないものを含んでいる上、互いに符合し補強し
   合っており、また、前記高澤供述のうち信用すべき部分とも符合し、
   さらには、後述の資金繰り表や被告人宛にファックス送信された書

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   面等の客観的証拠関係に裏打ちされているのであるから、極めて信
   用性が高い。
    以上の信用できる各証言、供述に、本件各犯行当時あるいはそれ
   以前の、本件各被害者等に関する二重ローンの記載のある資金繰り
   表に、被告人による、W〈ダブル)等の書き込みが多数あり、しか
   も、それは財務担当者の説明をよく聞き、個々のケースについてよ
   く把握していなければなしえないような書き込みであると認められ
   ること、平成元年四月二七日ころ、「ダブルを利用しているユーザ
   ーにはがきがいくとトラブルが発生するおそれがある」旨の高澤作
   成の書面が被告人宛にファックスで送信された事実があることなど
   も併せ考慮すると、被告人が、昭和六三年一月ころ、財務担当者で
   ある高澤から本件二重ローンの提案を受け、その内容を十分理解し

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   た上で、社長として、これを会社ぐるみで行うことについて了承す
   るという形で、包括的共謀があったこと、さらに、本件各被害者の
   ケースについても、事前に、個々的に内容を了知した上で、同じく
   社長として本件不正の二重ローンにかかる欺岡・騙取行為を行うこ
   とを了承し許ョを与えるという形で、鎌田、高澤との間で共謀があ
   ったことが明白である。また、平成二年一二月下旬ころ、問題が表
   面化した際、被告人が「会社ぐるみでやったということになると、
   日本信販との分割返済等の交渉もできないかもしれないから、二重
   ローンは財務担当である鎌田の一存でやったことで、社長は知らな
   かったという形にする。」などと指示した事実も、裏を返せば、被
   告人が本件二重ローンの仕組みについて十分了解していたことを端
   的に示している。

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  5 なお、弁護人は、平成六年六月二〇日付け「弁論更新に際しての
   冒頭陳述書」において、「検察官の主張する資金繰会議とは」とし
   て、検察官の冒頭陳述を引用した後、「つまり、会社の資金繰り
   『のみ』を目的として『恒常的に設置された』役員中心の会議であ
   る」として当公判廷における証人尋問においても多々見られたよう
   に、自分たちに都合の良いように不相当な要約を行い、勝手に要件
   を付加し、「資金繰会議」なる会議は存在しなかったが、いわば
   「緊急対策会議」的な資金繰り対策会議は開かれていた旨主張して
   いるが、そもそも本件で問題なのは、共謀を認めるに足りる、被告
   人が犯行を認識、了承する場があったか否かであり、弁護人の右主
   張は、取るに足らないものと思料する。
    おって、被告人は、鎌田が作成した資金繰り表は、現実の入出金

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   と過去の分についても一致せず、そのような杜撰なものを基に資金
   繰りを話し合うはずがない旨供述しているが、鎌田は、被告人・弁
   護人側で右のような形で争点化するはるか前の第二回公判において
   既に、資金繰り表には、「一日一日の入金・出金の『予定』を書き
   込」んでいた旨証言するとともに、検察官の「例えば、ある月の中
   旬にやる会議の場合、その月の上旬のことなんか必要になってくる
   んですか。」との問いに対し、「再確認の意味で、どういうものが
   予定どおり入ってきたかということで確認する意味で、さかのぼっ
   て『やる場合もありました』。」と答えており、被告人の主張は前
   提を欠いており、前記のような株式会社平和ホームズの資金繰りの
   ひっ迫状況からすれば、とにかく将来の入金をいかに増やすかに汲
   々としていたものと推察され、鎌田証言のような資金繰り表の作成

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   状況が不自然であるとは到底言えない。
  6 また、被告人は、平成二年三月ころから平成三年一月ころまで、
   経営委員会によって会社運営から排除されており、本件各犯行は、
   経営委員会体制の下で行われたもので、自分には責任がない旨主張
   しているが、そもそも、これまで述べてきたとおり、関係各証拠か
   ら、共謀を認めるに足りる資金繰り会議等における被告人の犯行了
   承の事実が明確に認められる上、鎌田は、右経営委員会について、
   平成二年四月ころから同年六月末ころまでの三か月前後しか言動し
   ていなかった旨証言している上、右経営委員会の中心メンバーであ
   った脇山功三も、当公判廷において、経営委員会は、平成二年四月
   ころにでき、同年六月ころまで、五、六回、開催されたが、会社の
   資金繰り等の業務運営を目的とするものでなく、あくまで営業、工

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   事、設計等の現場の実務的な業務を改善していこうという趣旨で話
   し合ったものであり、同年六月終わりか同年七月ころには自然消滅
   的に開催されなくなった旨証言しており、前記のとおり鎌田証言の
   信用性は高い上、右脇山の証言も、これに符合しており、かつ、同
   人が右の点について敢えて虚偽の証言をしなければならない理由は
   皆無であるから、やはり、その信用性は高く、被告人の弁解は理由
   がない。
  7 以上のとおり、本件各公訴事実については、その証明十分である
   と思料する。
    なお、被告人は、共謀を否認して縷々弁解しているが、その供述
   は、虚偽供述に転ずる前の高澤供述を含め、基本的にすべての関係
   者の証言、供述とくい違っており、到底信用に値せず、罪責を免れ

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   るためになされた虚偽供述であることは歴然としている。
第二情 状
 一 本件犯行態様は、計画的で、極めて悪質である。
   本件は、住宅建築資金のいわゆるつなぎ融資を受けていた顧客に対
  し、融資の借換えである旨の虚偽の事実を告げて二重につなぎ融資を
  受けさせてこれを騙し取り、会社の資金繰りに流用したという事案で
  あるが、犯行態様は、事前に、対象とする顧客を選定してリストアッ
  プし、資金繰り会議に諮り、騙しの手口を練り上げるなど、計画的で
  ある上、被害者らの株式会社平和ホームズへの信頼を逆手に取り、あ
  るいは、マイホーム建築を請け負った会社と気まずくなりたくないと
  いう顧客心理につけいって顧客を言葉巧みに騙すというものであって、
  極めて悪質である。資金繰りに窮し、資金の手当ての確固たる見込み

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  もないのに、顧客をして二重に融資を受けさせるわけであるから、顧
  客にとって、当然に、二重払いの危険が内包されており、そのことを
  被告人も十分承知していたはずであるから、なおさら犯情悪質である。
 二 本件各犯行は、被告人を頂点とする株式会社平和ホームズの役員ら
  によって、組織的に反復継続してなされた詐欺行為の一端であり、極
  めて常習的な犯行である。
   株式会社平和ホームズにおいては、被告人を頂点として、昭和六三
  年一月ころから、経営状態の改善の具体的な見通しのないまま、無責
  任に、本件と同種の犯行による資金繰りを繰り返していたのであり、
  本件各犯行は、そのような反復継続してなされた詐欺行為の一端で、
  いわば氷山の一角に過ぎず、極めて常習的な犯行であるということが
  できる。

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 三 本件の結果は、極めて重大である。
   本件詐欺の被害額は、合計五、七〇〇万円余りと非常に多額である。
   しかも、本件各被害者は、前記のような放漫経営の必然的結果とい
  うべき株式会社平和ホームズの倒産と相まって、一生に一度の大事業
  ともいうべきマイホーム建築の夢が突如暗転挫折し、二重払いの危険
  に現実にさらされ、幸いにも、日本信販株式会社との間では和解が成
  立し同社に対す 債務は大幅に軽減されたものの、右倒産により住宅
  建築は完成していないのに、本件欺岡行為によって融資を受けた東芝
  総合ファイナンス株式会社に対する債務は、ほぼ全額存続し、右頓挫
  した住宅建築の完成のための費用も加わり、今なお多額の債務負担等
  に苦しみ、さらには、これら家計の事情や株式会社平和ホームズ倒産
  後の民事・刑事両面での紛争処理に伴う精神的負担等により、被害者

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  自身はもとより、その妻子や親にまで、まさに悲惨な状況を作り出し
  ているのである。
 四 被告人は、本件の主犯格であり、他の共犯者との対比で考えても、
  最も刑事責任が重い。
   本件は、会社ぐるみの組織的犯行であるところ、被告人は、代表取
  締役社長として会社の経営方針の最終決定権を持ち、本件でも被告人
  が資金繰り会議の席において、高澤、鎌田という財務担当者の提案を
  了承することによって会社の方針としての最終決定を行っており、そ
  の刑事責任は極めて重い。実行行為自体を鎌田、高澤が行ったといっ
  ても、これは被告人によって決裁された方針に従って、いわば実務担
  当者として行ったに過ぎず、これら現実に実行行為を行った者との対
  比でも被告人の刑事責任がはるかに重いことは疑いを容れない。高澤

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  らが本件不正の二重ローンを提案した時、被告人が、一言、「そこま
  でやるのはいかがなものか。そこまでやるのは止めておこう。」など
  と言いさえすれば、最も容易かつ現実に本件のような犯行に及ぶのを
  止めることができたのである。ところが、現実は、全く逆であって、
  被告人は、「それができるならば、やって欲しい。」、「事務的なも
  のは君たちに任せる。」などと発言して、むしろ積極的に承諾し、二
  重ローンという不正な行為を実施するについての推進力を与えている
  のである。
 五 前記のとおり、本件の結果は極めて重大であるにもかかわらず、被
  告人は、被害者らに対し、何らの慰謝の措置も講じていない。
 六 前記のような被害者らの悲惨な状況と右被告人の態度からすれば当
  然のことであるが、被害者らの被害感情は厳しく、本件各被害者は、

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  いずれも被告人を厳重処罰に処することを切に希望している。このよ
  うな被害者らの被害感情が十分量刑に反映されなければならないのは
  当然である。
 七 被告人には改俊の情が微塵も認められない。
   前記のとおり、被告人が本件各犯行に加担していることは明らかで
  あり、しかも、本件の主犯格に当たるにもかかわらず、捜査段階から
  今日に至るまで、三年を越えてもなお、縷々虚偽の弁解を繰り返して
  おり、かような被告人に改俊の情は微塵も認められず、被害者の被害
  感情を逆撫ですること甚だしい。
 八 結論
   以上要するに、被告人の刑事責任は極めて重く、その刑責に相応す
  る長期の期間、矯正施設内において、じっくりと自己の罪深さを悟ら

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  せることが是非とも必要である。
第三 求刑
   以上諸般の事情を考慮し、相当法条適用の上、被告人を
     懲 役 五 年
  に処するを相当と思料する。






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