　　　　　　　　　上　　告　　趣　　意　　書

　　　　（注）以下は、被告人の上告趣意書です。但し、縦書きを横書きに直してい
　　　　　　ます。しかし、一頁の行数、一行の文字数は原本と同じにしています。
　　　　　　なお、－－－は、頁の区切りを示しています。頁右下の数字は頁数です。

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平成八年（あ）第一三六二号

　　　　　　　　　上　　告　　趣　　意　　書

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　被　告　人　　三　宅　　喜　一　郎

　右の者に対する詐欺被告事件について、左記の通り上告の趣意書を提出します。
　　平成九年五月一九日

　　　　　　　　　　　　　右本人　住所　　横浜市青葉区荏田北三－七－一五
　　　　　　　　　　　　　　　　　氏名　　　　三　　宅　　喜　一　郎

最 高 裁 判 所 第 二 小 法 廷　　御　中

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　　　　　　　　　　　　　　　記

第一　はじめに

　原判決は、内容と手続きの両面で正しくない、と私は考えています。内容のいい加
減さについては、弁護人の上告趣意書に詳しく述べられていると思いますので、私は、
手続きの面について述べたいと思います。
　なお、この上告趣意書は、弁護人との打ち合わせなしに、急遽、私の考えをとりま
とめたものです。したがって、弁護人の上告趣意書とは一致しない箇所があるかもし
れません。しかし、私は、この上告趣意書で、弁護人を批判する意図は全くないこと
をまず最初に申し述べておきます。むしろ、会社とともに自己破産した私（教師をし
ている妻もまた会社の保証人等になっていたため、一億円以上の借金を抱えて、その
返済に追われている）のために、ほとんどボランティアで弁護を引き受けていただい

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ている三人の弁護人には心から感謝しています。また、書き足らないところは、後、
補充したいと考えておりますので、甚だ勝手ではありますが、よろしくご配慮下さる
ようお願い申し上げます。


第二　原判決に対する私の考え

　本件の「公訴事実」は、端的に言えば、被告人らが、
　①　「資金繰り会議」で共謀して、
　②　「二重ローン」詐欺を犯した、
というものである、と思料します。
　これに対して、弁護人は、第一点の「資金繰り会議」と共謀の不存在については争
ったものの、第二点の「二重ローン」詐欺そのものに関しては、第一審の結審間際に

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「冒頭陳述の補充書」を提出して、その不存在について法律論を展開したにとどまり、
本件事案が詐欺を構成するか否かについては法廷で殆ど争っていません。にも拘らず、
第一審の最終弁論では、「二重ローン」犯罪の不存在、不成立を主張しています。何
故そのような仕儀になったか。その理由は、第一審公判廷での証拠調べ手続き終了後
も引き続き、私が昔の社員や友人たちの協力を得て無実の証拠を捜し続け、弁護人に
説明し続けた結果、弁護人もまた犯罪そのものの不存在と不成立を確信するに至った
からだと思います。私は、弁護人のそのような誠実な態度に敬意を感じています。
　しかしながら、第一審判決は、弁護人のそのような弁護方針の根本的変更を公正に
認知することなく、したがって、真実を明らかにする手続きを怠って、判決を下しま
した。さらに、第二審もまた、第一回公判で、「弁護人が直ちに被告人質問を行わな
いのであればこれで結審する」と宣告して、被告人である私に陳述する機会すら与え
ずに結審し、第二回公判で、第一審判決の通り、実刑四年の判決を下したのです（し
かも、私の記憶に間違いがなければ、この第二回公判廷には、書記官が列席していな

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かったにも拘わらず、公判調書には列席したように記載されているのです）。このよ
うな訴訟指揮は、「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは
自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」と定めた憲法第三一条に違反し、
また、「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、又、
公費で自己のために強制的手段により証人を求める権利を有する」と定めた憲法第三
七条第二項の趣旨に反する、と思います。
　したがって、最高裁判所におかれましては、裁判の公正を実現するために、原判決
を破棄していただくよう、心からお願い申し上げる次第です。

一、弁護人の主張の変遷
　すでに最高裁判所に回付されている「訴訟記録」で明らかなように、弁護人の第一
審における弁護方針の変遷は次の通りです。
　①　平成四年一二月九日の第一回公判では、実行行為の存在を前提にした上で、　

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　　「被告人は実行行為については全く関与していないし、共謀の事実もない」と　
　　陳述（「訴訟記録」三七丁）。
　②　平成五年六月一四日の第四回事前打合せでは、裁判長の「弁護側の反証の予　
　　定はどうか」との問に対し、「共謀の事実を争うことに変わりはない」と説明　
　　（「訴訟記録」六七丁）。
　③　平成五年七月二二日の第一一回公判で、「冒頭陳述書」を提出し、「（被告人
　　は）本件公訴事実について共謀した事実はない」と主張、立証計画を明らかにし
　　た（「訴訟記録」七四丁）。
　④　平成六年四月二二日の第六回事前打合せで、交代した裁判長の「この事件は本
　　年八月には公訴提起後二年を経過することになるが、今後の立証計画について弁
　　護人の意見を伺いたい」との問に対し、弁護人は、「現在のところは証拠を追加
　　請求する考えはない。従って、弁護側としては、夏前には結審していただいてよ
　　いのではないかと考えている」と述べた（「訴訟記録」八六丁）。

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　⑤　平成六年六月二〇日の第二〇回公判で、「弁論更新に際しての冒頭陳述書」を
　　提出し、「検察官は本件犯行の全ての共謀は『資金繰会議』で行われたとする。
　　しかし『資金繰会議』なる会議は検察官の創作した会議であり、架空のものであ
　　って会社には存在しない」と述べ、以後の立証内容を詳細に説明した（「訴訟記
　　録」九二丁）。
　⑥　平成六年七月五日付で「証拠調請求書」、同年九月二七日付で「証拠調に関す
　　る上申書」を提出。鎌田次朗、福岡正芳、脇山功三の三人の証人尋問と再度の被
　　告人質問を申請。
　⑦　平成六年一二月二〇日の第二四回公判で、「冒頭陳述の補充書」を提出し、つ
　　なぎローンが会社の経理処理上借入金として処理され、支払利息も会社が支払っ
　　ていた客観的事実を指摘。ローン担当者および高澤正比古等はつなぎローン自体
　　を会社の借入金と理解していたから、「二重つなぎローン」も顧客を騙してロー
　　ン金を騙取しようとしたものではない旨等を主張した（「訴訟記録」一一九丁）。

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　⑧　平成七年八月三〇日の第三〇回公判で、「冒頭陳述の補充書」を提出し、　　
　　「『つなぎローン』債務を二重に顧客に負わせると言う、いわゆる『二重ローン』
　　は法的には存在しえない」との法律論を主張した（「訴訟記録」一二八丁）。
　⑨　平成七年一一月七日の第三四回公判で、「弁論要旨」を提出し、新たな論点と
　　して、「二重ローン」詐欺の欺騙行為はない旨を主張。関連して、つなぎ融資の
　　実態、つなぎ融資の付け替えの必要性、「二重ローン」による被害が発生してい
　　ない事実、日本信販のつなぎ融資は一部の例外を除いてほとんどが約定返済期日
　　に返済している事実、「公訴事実」のうち「直ちにその金で返済する」と顧客に
　　嘘を言ったという証拠は、平成四年になって改めて作成した顧客の員面および検
　　面調書であるが、これは警察官・検察官が本件を詐欺罪として立件するために、
　　顧客から殊更にその文言を引き出して作成した疑いがあること等を主張した。そ
　　して、会社の資産等に関する検察官の主張に若干の反論も行った（「訴訟記録」
　　一五六）。

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－８－

二、改めて、証拠調べを申請するべきだった
　上記の通り弁護人の主張が「公訴事実」を根本的に否定する立場に変わった以上、
弁護人は、再々度、「共犯者」の鎌田次朗と高澤正比古、それに、福岡正芳、脇山功
三らを証人申請すべきであったし、何よりも、告訴人、日本信販社員の証人申請をす
べきであった、と思います。何故なら、そうしなかったたために、弁護人が「二重ロ
ーン」詐欺の実行行為はあったという認識で採用を同意した検察官主張の有罪証拠が
そのまま残ってしまったからです。
　もし、第一審で、改めて証拠調べが行われたならば、弁護人は、原審で提出した
「事実取調請求書」記載の証拠調べを請求したはずです（「訴訟記録」七九八丁）。
さらに、それ以外にも、被告人には次のような物証を申請する準備がありました。
　①　三宅千尋専務、鎌田次朗常務、高澤正比古部長の「詫状」
　　　　　これらは、平成三年三月一日、会社が第二回目の不渡りを出した直後に、
　　　　社長の私宛に提出されたもの。これらによって、クーデター集団である経　

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　　　　営委員会派と私が経営権を巡って争っていた事実、また、経営委員会派が　
　　　　実権を握っていた時代には、つなぎローンの付け替え（いわゆる「二重ロ　
　　　　ーン」）の実態を、この三人の中では、鎌田常務しか知らなかったという　
　　　　事実を明らかにすることが出来ます。
　②　住友銀行との間で交わした平成元年五月一一日付「依頼書」等（大企業との　
　　資本・業務提携の仲介依頼契約の書類）、および、同年九月下旬頃、住友林業　
　　が作成した「資本・業務提携（案）」
　　　　　これらは、クーデターが起きる原因となった書類。これらの書類は、会　
　　　　社が「二重ローン」詐欺など毫も考えていなかった状況を示している、と　
　　　　思います。
　③　各金融機関のつなぎ融資契約書とそれに付随する書類群
　　　　　これらは、会社の担当者だけでなく、金融機関（但し、東芝総合ファイ　
　　　　ナンスを除く）もまた、つなぎ融資を平和ホームズに対する融資と考えて　

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－10－

　　　　いた事情を示しています。
　④　経営委員会派が管理していた資金とは別に私が管理していた預金口座
　　　　　私が管理していたこの預金口座の存在は、公判で、検察側証人の「共犯　
　　　　者」鎌田常務も認めています。この預金口座の入出金は、判決が認定した　
　　　　「資金繰会議」の討議資料である「資金繰表」には記入されていません。　
　　　　したがって、この預金口座の存在は、私とクーデター派の連中とが「資金　
　　　　繰会議」でその「資金繰表」を使って「共謀」したとする検察官の主張と　
　　　　は符合しない、と考えます。
　⑤　経営委員会派の代表脇山功三と鎌田常務の背任、横領等に関する書類
　　　　　これらは、脇山、鎌田両名の証言の証明力を揺るがすものだと思います。
　⑥　会社倒産時の売却可能資産等に関する書類
　　　　　これらは、会社倒産時に、所有する資産の売却をするなどによって、ま　
　　　　だ、数億円の資金を調達できたことを示しています。（これらの事実が存在

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　　　　しますので、私は、本件事案では、ぜひとも会社倒産のいきさつ及び原因に
　　　　ついての分析を補充させていただきたいと考えています。）
　⑦　その他

　なお、本件に関しては、現在もなお、次々に無実の証拠が発見されています。その
原因は、時間の経過と共に、警察・検察の恐怖が次第に解けてきており、会社関係者
が自由に発言し始めているからです。


三、原審は、真実を明らかにしようとしていない
　上記のように、弁護人は、明らかに弁護方針を変更し、原審では、新たな観点での
証拠調べを具体的に請求しています。これに対して、原審は、書類証拠物は全部採用
し、証人尋問は全部却下しました。証拠等関係カードによれば（「訴訟記録」七九六

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丁）、かろうじて、第一審判決後の情状に限り被告人質問が採用されたのみです。
　法律の素人でも推測が出来るように、弁護人がそれら書類証拠物の取調を請求した
趣旨は、第一審判決を批判するためです。一方で、そのような物的証拠を採用し、も
う一方では人的証拠を採用しない、という事態は素人には分かり難いことですが、採
用した物的証拠の立証趣旨を判決では一顧だにしていないということは、もっと理解
できません。これでは、弁護人の弁護活動は価値がないというに等しく、「何人も、
裁判所において裁判を受ける権利を奪われない」と定めた憲法第三二条、および、
「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、又、公費で
自己のために強制的手段により証人を求める権利を有する」と定めた憲法第三七条第
二項に違反するのではないか、と考えます。
　また、原審では、被告人質問をする必要を認めていながら、弁護人が直ちに被告人
質問をしないからという理由で、被告人質問を取消・却下しました。すなわち、控訴
審第一回公判調書（手続）（「訴訟記録」７５７以下）によれば、次の通りです。

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－13－

　裁判長　　「弁護人は、採用した被告人質問については本日行われたい。」
　主任弁護人「本日は被告人質問の準備をしていないので行えない。」
　　・・・・
　裁判長　　「弁護人が直ちに被告人質問を行わないのであればこれで結審する。」
　これでは、裁判所の弁護人に対する姿勢如何によって、被告人の裁判を受ける権利
が左右されることになるのであって、明らかに、憲法第三二条および第三七条第二項
に違反している、と考えます。
　さらに、原審は、検察官が、控訴趣意書に記載が無いからと言って、見当違いな非
難を激しく行っていることについて、弁護側にわずかな反論の余地すらも与えずに、
そのまま結審し、その見当違いな検察官の主張を判決理由に採用するなど、到底、公
正な手続きを行ったとは言い難いものがあります。
　「検察官答弁要旨」は次のように言っています（「訴訟記録」七五九丁）。
　　「とりわけ、控訴の趣意は、平和ホームズでは、本件前にファーストファイナン

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－14－

　　スとオリエントリースの組合せで行っていた二重ローンが右二社に発覚し、被告
　　人の自宅を担保に入れるなどして顧客にしられないようにして処理した経緯があ
　　ること、平成六年四月二七日ころ、高澤作成の「ダブルを利用しているユーザー
　　にハガキが行くとトラブルが発生するおそれがある。」旨の被告人のファックス
　　の存在など、被告人が本件二重ローンによる詐欺について十分認識していた事項
　　について殊更に触れないなど牽強付会な論旨にすぎない。」（原文のまま）
　この恥知らずな主張については、弁護人の「上告趣意書」で批判していますので、
重複をさけますが、あえて一点だけ触れておきたいと思います。それは、平成元年四
月二七日のファックスの件ですが、検察官は、これをもって私が「二重ローン」を知
っていた有力な証拠にしているようですが、実は、私たち被告人が警察・検察から見
せられたのは、このファックス受信紙七枚でした。そこには、確かに、紛らわしい文
言があって、警察・検察はこれを有罪の決め手にしようと考えたのでしょう。しかし、
実は、このファックス受信紙には八枚目があり、その八枚目には「つなぎ融資」の借

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－15－

入、返済の予定表が記載されていたのです。そして、そこには、まさに正規のとも言
うべき「つなぎ融資」の付け替え予定が記入されていたのでした。警察・検察はその
八枚目を、取調の時、隠していたのです。
　この事例などは、堂々とした、憲法第三一条、三二条、三七条第二項違反である、
と考えます。
　最高裁判所におかれましては、裁判の公正を実現するために、是非とも原判決を破
棄していただくよう、重ねて、心からお願い申し上げる次第です。


第三　おわりに

　私は、ごく平凡な人間だと思っていますが、ただ、生き方の点においては、恥じる
ところはないと、信じています。また、この事件には、いくつかの不思議があります。

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そこで、会社と自分の名誉を守るためにも、この事件が、一体どういう事件であった
のか、調査し、隠すことなく、公にして行きたいと考えています。すでに、私と友人
たちは、インターネット上に、自分のホームページを持ち、少しづつ、情報を公開し
ています。稚拙なものですが、それらをコピーして添付しますので、ご覧いただけれ
ば有り難く思います。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上



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