冒 頭 陳 述 要 旨

    (注)以下は、検察官の冒頭陳述です。但し、縦書きを横書きに直し
       ています。しかし、一頁の行数、一行の文字数は原本と同じに
       しています。なお、−−−−−は、頁の区切りを示しています。

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          冒 頭 陳 述 要 旨

 詐 欺                     三 宅 喜 一 郎

 右被告人に対する頭書被告事件につき、検察官が証拠により証明しようとす
る事実は、左記のとおりである。

 平成四年一二月九日

          東 京 地 方 検 察 庁
              検 察 官  検事  山 上 秀 明

東京地方裁判所刑事第一一部 殿

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               記
第一 被告人の身上、経歴等
   被告人は、昭和三九年三月東洋大学経済学部を卒業した後、同年四月立
  教大学経済学研究科修士過程に進学し、同四三年三月同過程を修了した。
  その間の同四一年四月から学校法人高千穂学園高等学校教諭をし、その後、
  同学園法人本部に勤務したものの、同五〇年一月同学園を退職した。同年
  七月、義弟岩本幸生が設立した株式会社平和ホームズ(以下「平和ホーム
  ズ」と言う。)の監査投に就任し、その後の同五五年五月、同会社代表取
  締役に就任して本件各犯行時に至った。
第二 共犯者の身上、経歴等
 一 鎌田次朗について
   鎌田次朗は、昭和五〇年七月ころから平和ホームズにアルバイトとして
  勤務し、同年一二月八日付けで同会社に正式採用され、以後、営業課員、

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  営業課長、営業次長、宮業部長を経て、同五七年、常務取締役に就任して
  営業を担当し、さらに、平成元年五月ころからは、営業に加えて財務部門
  も併せて担当するようになって本件各犯行時に至った。
 二高澤正比古について
   高澤正比古は、昭和五四年九月平和ホームズに就職し、本社営業総務課
  員、渋谷支店総務課長を経て、同五八年五月取締役に就圧し、本伴犯行時
  に至った。なお、同六〇年一月ころから同六三年四月ころまでの間は、同
  会社の財務部門を担当していた。
第三 平和ホームズの実態等
   平和ホームズは、昭和五〇年七月、土木建築の請負、建築設計・施行・
  管理、不動産の売買及びその仲介等を目的として設立された会社である。
   設立当初は不動産の売買仲介等を主たる業務内容としていたものの、昭
  和六一年ころから住宅事業部を設置し、住宅建築の請負を業務の中心にす

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  るようになった。
   設立当初の資本金は二五〇万円であったが、その後増資を繰り返し、平
  成二年六月時の資本金は七、三一二万二、五〇〇円であった。
   設立当時の代表取締役は前記のとおり岩本幸生であったが、昭和五五年
  五月、被告人が代表取締投に就任している。
   なお、平成三年三月二〇日、東京地方裁判所の破産宣告を受けている。
第四 犯行に至る経緯等
 一 本件犯行の方法
  1 「つなぎ融資」について
    平和ホームズでは、顧客から住宅建築を請け負った際、建築の代金を、
   契約時、着工時、上棟時及び建物完成引渡し時の四段階に分けて受け取
   ることとしていた。ところが、住宅金融公庫等の公的機関の融資を受け
   る顧客から住宅建築を請け負うに当たっては、その融資実行が当該建物

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   の完成後となることから、これに先行して、当該顧客に、ノンバンクか
   ら、公的機関からの融資金を返済の引当てとしていわゆるつなぎ融資を
   受けさせ、これを平和ホームズに対する前記上棟時以前の支払に充てさ
   せることとし、昭和六二年ころからノンバンクとの間でつなぎ融資に関
   する契約を締結していた。
    つなぎ融資の利用件数及び金額は、判明した分だけで、昭和六二年中
   に四〇件、三億八、六七六万円、同六三年中に七二件、八億九、八一〇
   万円、平成元年中に八〇件、一〇億四、八七〇万円、同二年中に七五件、
   一〇億八、九〇八万円となっている。
    なお、平和ホームズは、日本信販株式会社(以下「日本信販」と言
   う。)との間では昭和六三年四月、東芝総合ファイナンス株式会社(以
   下「東芝総合ファイナンス」と言う。)との間では平成元年四月、それ
   ぞれつなぎ融資に関する契約を締結している。

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  2 本件犯行の方法
    被告人らが敢行した本件犯行は、平和ホームズが顧客と住宅建築請負
   契約を締結し、既に顧客が右ノンバンクからつなぎ融資を受けている際、
   その顧客に対し、つなぎ融資の借換えをしてほしいと称して新たに他の
   ノンバンクから融資を受けさせ、これを平和ホームズに送金させて騙取
   するというものである。その具体的方法は、例えば、ある顧客が、日本
   信販から既につなぎ融資を受けてその借入金を平和ホームズに対する建
   築請負代金の支払に充てている場合、当該顧客に、「平和ホームズにお
   ける新規顧客のための日本信販の利用枠が一杯になったので、東芝総合
   ファイナンスからつなぎ融資の借換えをして新規顧客のために日本信販
   の融資枠を開けてほしい。」と、そのような事実が全くないのに、詐言
   を申し向け、その旨顧客を誤信させて東芝総合ファイナンスから新たに
   つなぎ融資を受けさせ、そうすると顧客は日本信販と東芝総合ファイナ

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   ンスの双方から融資を受ける形となることから、その顧客に対し、実際
   には東芝総合ファイナンスから借り受けた資金を、顧客が日本信販から
   借りた資金の返済に充てる意思はないのに、これを「新たに借り入れた
   資金は、平和ホームズが責任を持って日本信販からの借入金の返済に充
   てる。」旨虚構を申し向け、東芝総合ファイナンスからの融資金を平和
   ホームズあてに振込送金させてこれを騙取し、自社の資金繰りに充当す
   るというものである。
 二 犯行に至る経緯
   平和ホームズでは、昭和六一年ころから、請負受注件数の減少等から業
  績不振に陥り、このため、同社代表取締役の被告人をはじめとし、専務取
  締役三宅千尋、常務取締役鎌田次朗、取締役管理部長高澤正比古、営業総
  務課長福岡正芳ら同社幹部が毎月数回程度参集し、資金繰りの方針を協議
  する会議(以下、この会議を「資金繰り会議」と言う。)を開いていた。

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   昭和六三年一月ころ、被告人、右鎌田、高澤及び福岡らが出席し、資金
  繰り会議が開催され、その席上、当面の資金繰りについて検討した際、高
  澤から、「既につなぎ融資を受けている顧客に、借換えが必要であると言
  って二重につなぎ融資受けさせ、その融資金を平和ホームズの資金繰りに
  充てたらどうか。技術的には可能である。」などと前記のとおりの二重ロ
  ーンによる資金繰り(騙取方法)の提案があり、これに聞いた被告人は、
  高澤に事後の処理の方法を質問したところ、同人が、「他から資金繰りを
  して返済する。」旨答えたため、「それができるならそうしてくれ。」と
  二重ローンによる不正な資金繰りを実行することを指示した。これにより、
  被告人、三宅千尋、鎌田及び高澤らの間に二重ローンによる不正な資金繰
  りによって平和ホームズの運転資金調達を図る旨の謀議が成立した。こう
  して、被告人の指示により、昭和六三年二月以降、鎌田、高澤及び福岡が
  顧客に対する交渉等に当たり、次々に顧客に二重ローンを受けさせ、その

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  金員を自社に入金させて騙取し、これを先行する顧客の二重ローンの借入
  金の返済やその他の債務の支払等に充当した。そして、二重ローンの対象
  となった先のつなぎ融資金については、本来の返済期限までにさらに二重
  ローン等によって資金調達をして返済するといういわゆる自転車操業的な
  資金繰りを行っていた。
   平和ホIムズでは、この二重ローンによる不正な資金調達(騙取方法)
  を対内的には「ダブル」などと呼称し、顧客に対しては「借換え」、「鞍
  替え」などと呼称していた。
   二重ローンの利用件数及び金額は、昭和六三年中二四件、二億八、七四
  〇万円、平成元年中三二件、四億七、七五〇万円、同二年中三三伴、五億
  一、六四〇万円に達していた。
第五 犯行状況等
 一 篠田勉(平成四年八月一〇日付け公訴事実)関係

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  1 篠田勉は、平成二年二月ころ、月刊誌に掲載された平和ホームズのモ
   ニターハウス募集広告を見て平和ホームズを知り、東京都北区所在の養
   父篠田三郎名義の土地に住宅を建てることとし、その後、平和ホームズ
   担当者と建築工事費等の協議を行い、自己資金のほか、住宅金融公庫か
   ら一、九七〇万円、関東年金福祉協会から一、〇六〇万円の合計三、〇
   三〇万円を借り入れて住宅建築資金計画を立て、同年六月二八日付けで、
   平和ホームズとの間で、請負代金を二、八五〇万円とする工事請負契約
   を締結した。同契約において、篠田勉は、平和ホームズが提携するつな
   ぎ融資を利用して目的物引渡し日までに請負代金の全額を平和ホームズ
   に支払う旨約定していた。
  2 篠田勉は、まず、住宅金融公庫からの惜入金一、九七〇万円を返済の
   引当てとして、同年八月二七日、日本信販に対してつなぎ融資の申込み
   を行い、同月三〇日付けで、同社との間で一、九七〇万円のつなぎ融資

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   を受ける旨の契約を締結した。そして、同日、右契約に従って、日本信
   販から平和ホームズに対して融資金から利息等を差し引いた一、八七九
   万九、六五六円が振り込まれた。
  3 平成二年一〇月初旬ころ、鎌田は、平和ホームズの財務を担当してい
   たこともあって、二重ローンによる資金繰りを行う必要がでたことから、
   篠田勉に関する日本信販からの融資金一、九七〇万円につき、東芝総合
   ファイナンスからの二重ローンを受けさせて同月末の資金繰りに充てる
   ことを計画し、「篠田勉につき、同月三一日に東芝総合ファイナンスか
   ら一、九七〇万円の入金を受ける」旨を記載した資金繰り表を作成して、
   同月一五日ころ開かれた資金繰り会議の席上において、被告人らに対し、
   右資金繰り表に基づいて、篠田勉に東芝総合ファイナンスから二童ロー
   ンを受けさせ、同社から篠田勉に送金された金員を不正に取得(騙取)
   する方針を報告した。右会議に出席してた被告人及び高澤は、鎌田の右

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   報告を聞いてこれに賛同し、ここに、被告人及び鎌田、高澤との間に、
   篠田勉から二重ローンの方法によって一、九七〇万円を騙取する旨の共
   謀が成立した。
  4 そこで、鎌田が、同年一〇月二一日ころ、東京都杉並区内の篠田勉方
   を訪問し、篠田勉に対し、「日本信販のつなぎ融資を東芝総合ファイナ
   ンスに鞍替えしてほしい。平和ホームズの日本信販用の住宅金融公庫枠
   がいっばいになったため、是非協力してほしい。鞍替えにかかる手数料
   は当社で負担します。」などと申し向けた。
    これに対して篠田勉は、右申入れが唐突であった上、このような借換
   えをする必要はないものと考えて、これを断った。
  5 被告人は、同月二四日ころ開かれた資金繰り会議において、鎌田から、
   篠田勉から借換えの申し入れを拒否されたものの、再交渉し、同人から
   同月三一日までに一、九七〇万円の入金を受ける旨の報告を受けてこれ

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   を了承した。鎌田は、同月二五日ころ、再度篠田勉方を訪問し、借換え
   の申し入れをしたところ、同人から何故階換えを必要とするのかを質問
   され、これに対し、高澤において、「日本信販の枠が一杯になり、新規
   の客の枠が取れないので惜り換えしてください。東芝総合ファイナンス
   は工事に着工していないと融資を実行しないので、新規のお客様が東芝
   から融資を受けるのは難しいのです。」などと口実をつけた上、さらに、
   「東芝総合ファイナンスを使ってつなぎローンを組むと土地を担保に入
   れなければなりません。」などと申し向けた。
    これ対して篠田勉は、「何故土地を担保に入れてまで鞍替えをしなけ
   ればならないのか。土地は父親のものなので、我々だけでは決められな
   い。」などと理由を付けて鎌田らの要求を断った。
    そこで、鎌田らは、「是非おとうさまに説明させていただきたい。こ
   の話は日本信販には内密にお願いしたい。是非篠田さんには鞍替えをお

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   願いしたい。」などと申し向けたものの、結局、篠田勉が了解しなかっ
   たため、その日はそのまま篠田勉方を退散した。
  6 高澤は、当初の計画どおり、篠田勉から二重ローンの方法で金員を騙
   取することとし、同月二七日ころ、篠田勉夫婦に東京都北区内の篠田三
   郎方に来てもらい、同所で、篠田勉及び篠田三郎らに対し、「単に日本
   信販分の鞍替えだけではなく、公庫分と年金分を併せて三、〇三〇万円
   を東芝総合ファイナンスから階りてほしい。皆さんに全額つなぎ融資の
   ローンをけけていただいております。ですから、篠田さんにも、東芝か
   ら全額の三、〇三〇万円の融資を受けてもらいたいのです。これまで日
   本信販から借りている分は東芝総合ファイナンスからの融資金で直ちに
   返済します。返済の手続は平和ホームズが責任をもって行うという念書
   も提出いたしますので安心してください。」などと申し向け、篠田勉に、
   住宅金融公庫からの階入れ分の一、九七〇万円及び関東年金福祉協会か

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   らの階入れ分一、〇六〇万円の合計三、〇三〇万円を返済の引当てとし
   て、東芝総合ファイナンスから三、〇三〇万円のつなぎ融資を受けてほ
   しい旨依頼した。
    しかし、篠田勉は、このときも、高澤の要求を断わった。
  7 鎌田は、篠田融からの一、九七〇万円の入金が、当初予定していた一
   〇月三一日までには無理であると判断し、一一月一三日ころ開かれた資
   金繰り会議において、被告人らに対し、篠田からの入金を同月二〇日に
   受ける旨の報告をし、同月中旬ころ、高澤とともに再度篠田勉方を訪問
   した。そして、高澤において、篠田勉に対し、「日本信販から東芝総合
   ファイナンスに階り換えた場合、金利負担額が九万円安くなります。」
   などと階り換えすることが有利である旨申し向けたものの、篠田勉が「
   借換えの手続で労力を取られるし、九万円程度ではエアコンも買えない。
   」などと口実をつけて借換えを断ったため、さらに、「どうしても篠田

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   さんにはご協力をお願いしたいので、三〇万円値引きさせていただきま
   す。日本信販へは、当社が責任をもって東芝総合ファイナンスの融資金
   で直ちに返済いたします。」などとの条件を呈示した。
    篠田勉は、三〇万円の値引きが受けられるならば借換えに応じてもよ
   いという気持ちになり、鎌田らに対し、既に日本信販からつなぎ融資と
   して借り入れている一、九七〇万円については、東芝総合ファイナンス
   から新たに受ける融資金により、平和ホームズにおいて、直ちに返済さ
   れるものであることを確認した。その際、高澤は、「日本信販へは、当
   社が責任をもって東芝総合ファイナンスの融資金で直ちに返済いたしま
   す。」と説明した。
    これを聞いた篠田勉は、日本信販から受けたつなぎ融資金一、九七〇
   万円は、平和ホームズにおいて、東芝総合ファイナンスからの借入金に
   より直ちに返済する手続が取られるものと誤信し、右一、九七〇万円及

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   び関東年金福祉協会からの惜入れ分を返済の引当てとする一、〇六〇万
   円の合計三、〇三〇万円を東芝総合ファイナンスから階り入れてほしい
   旨の鎌田らの申し出を承諾した。
  8 高澤は、篠田勉の関係で東芝総合ファイナンスから三、〇三〇万円の
   つなぎ融資を受けることの承諾を取り付けた旨のことから、同月二六日
   ころ、東芝総合ファイナンス係員横堀保潔を伴って、篠田勉と待ち合わ
   せた篠田三郎方へ赴き、右横堀をしてつなぎ融資契約手続を取らせた上、
   篠田勉に対し、「東芝総合ファイナンスからの融資金はいったん篠田さ
   んの口座に振り込まれますが、その金は当社と日本信販との提携により
   当社の口座から日本信販に返済するシステムになっていますので、必ず
   当社の口座に振り込んでください。当社に振り込まれた東芝の融資金は
   そのまますぐに日本信販に返済しますので安心してください。」などと
   申し向け、東芝総合ファイナンスからの融資金を平和ホームズの口座に

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   選金するよう依頼した。
  9 篠田勉は、同年一一月二九日、株式会社東京銀行赤坂支店に開設され
   た篠田勉名義の預金口座に、東芝総合ファイナンスから融資金三、〇三
   〇万円から前取利息等を差し引いた二、八二九万一、九七五円が振込送
   金されたことから、妻志保に平和ホームズへの送金方を依頼し、これを
   受けた同女は、同日、同支店において、同額の払戻しを受けた上、株式
   会社第一勧業銀行高田馬場支店に開設された平和ホームズ名義の預金口
   座に同額を振込送金し、翌三〇日、同口座に同額が入金された。
  10 被告人らは、篠田勉から日本信販に対する返済に充てる旨の条件の下
   に振り込まれた一、九七〇万円を含む前記振込金を、日本信販に対する
   返済に充てることなく、平和ホームズの資金繰りに充てて費消した。
 二 石田克史(平成四年九月七日付け公訴事実)関係
  1 石田克史は、平成元年暮れころ、平和ホームズのモニターハウス募集

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   広告を見て平和ホームズを知り、千葉県山武郡所在の自己名義の土地に
   住宅を建てることとし、平和ホームズ担当者と建築工事費等の協議を行
   い、自己資金のほか、住宅金融公庫から一、六二〇万円、関東年金福祉
   協会から一、三〇〇万円の合計二、九二〇万円を借り入れて住宅建築資
   金計画を立て、同年五月一六日付けで、平和ホームズとの間で、請負代
   金を三、〇〇〇万円とする工事請負契約を締結した。同契約において、
   石田克史は、平和ホームズが提携するつなぎ融資を利用して目的物引渡
   し日までに請負代金の全額を平和ホームズに支払う旨約定した。
  2 石田克史は、右住宅金融公庫及び関東年金福祉協会からの借入金合計
   二、九二〇万円を返済の引当てとして、同年八月一七日、日本信販に対
   してつなぎ融資の申込みを行い、同月二二日付けで、同社との間で二、
   九二〇万円のつなぎ融資を受ける旨の契約を締結した。そして、同日、
   右契約に従って、日本信販から平和ホームズに対して融資金から利息等

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   を差し引いた二、七八二万三、四二〇円が振り込まれた。
  3 鎌田は、平成二年九月、石田克史に関する日本信販からの融資金二、
   九二〇万円につき、東芝総合ファイナンスからの二重ローンを受けさせ
   て同月末の資金繰りに充てることを計画し、「同人らの顧客につき、同
   月二八日に東芝総合ファイナンスから二重ローンによる入金を受ける旨
   及び各金額等」を記載した資金繰り表を作成した。そして、同月一〇日
   ころ開かれた資金繰り会議の席上で、右資金繰り表に基づいて、石田克
   史に東芝総合ファイナンスから二重ローンを受けさせ、同社から同人に
   送金された金員を騙取する方針を報告し、同会議に出席した被告人らは、
   右報告を聞いてこれに賛同し、ここに、被告人及び鎌田との間に、石田
   克史から二、九二〇万円を騙取する旨の共謀が成立した。
  4 謙田は、同年九月初めころ、石田克史に電話をかけ、同人に対し、「
   日本信販のつなぎ融資を東芝総合ファイナンスに階り換えてくれません

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   か。実は、私どもの会社の日本信販からの融資枠には限度があろため、
   日本信販からのつなぎローンが受けられなくて困っている人がいるので
   す。石田さんは土地の権利証があるから、東芝総合ファイナンスから階
   りられるので、日本信販の石田さんの分の枠を移し替えてその枠分を他
   の人に階りさせてください。」などと申し向けた。
    これに対して石田克史は、それに応じる必要はないものと考えて、い
   ったんはこれを断った。
  5 鎌田は、そのころ、再度石田克史に電話をかけ、「もう一度考え直し
   てくれませんか。石田さんの建物は工事が遅れているので、便宜を図り、
   良い大工を使って早急に工事を進めますし、借換えをしてくれましたら、
   利息と諸経費を安くしますので、何とかお願いします。とにかく、一度
   このことで会ってくれませんか。」などと申し向け、これを受けた石田
   克史は、住宅建築工事を平和ホームズに発注しており、同社の常務であ

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   る鎌田の依頼を無下に断われば、工事の手抜きをされるおそれもあるな
   どと考えて鎌田と面談することとした。
  6 そこで、鎌田は、同月一一日ころ、東京都世田谷区所在の石田克史方
   を訪問し、石田克史に対し、「先日来お願いしていますように、日本信
   販からのつなぎ融資を東芝総合ファイナンスに借り換えてくれませんか。
   私どもの会社の日本信販からの融資枠には限度があるため、日本信販か
   らのつなぎローンが受けられなくて困っている人がいるのです。」など
   と口実をつけた上、「石田さんが平和ホIムズに便宜を図ってくだされ
   は、平和ホームズも石田さんに便宜を図ります。もしお聞きいただけま
   したら、よい大工を優先的に回しますし、利息や諸費用も安くします。
   日本信販からのつなぎ融資の年利は七・五バーセントになっていますが、
   これを七パーセントにします。つなぎ利用上の持例として手数料も当社
   で負担します。」などと申し向けて階換えが有利であるかのごとき詐言

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   を申し向けた。これに対して石田克史は、金利が下がり、良い大工を優
   先的に回す旨の鎌田の呈示した条件に魅力を感じるとともに、逆に、下
   手に平和ホームズの機嫌を損ねて工事の手抜きでもされたら大変だなど
   との思いから、鎌田の要求に応じてもよいという気持ちになり、鎌田に
   対して東芝総合ファイナンスからつなぎ融資を受けることにより、二重
   に融資を受けることにならないかと確認した。これに対して鎌田は、「
   東芝総合ファイナンスから実行された融資金は、直ちに日本信販に返済
   します。東芝総合ファイナンスからの惜入金は、あなたの口座に振り込
   まれますが、日本信販への返済は当社経由で行うことになっているので、
   東芝総合ファイナンスからの階入金は当社の口座に振り込んでください。
   その金を平和ホームズの方で日本信販から借りた金額と同額にして、あ
   なたが日本信販から借りた分は直ちに返済します。」などと説明し、こ
   れを聞いた石田克史はその旨誤信し、鎌田の申し出を承諾した。

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  7 鎌田は、石田克史から東芝総合ファイナンスから二、九二〇万円のつ
   なぎ融資を受ける旨承諾を取り付けたことから、同月一八日ころ、東芝
   総合ファイナンス係員亀海七郎を伴って、石田克史方へ赴き、右亀海を
   してつなぎ融資契約手続を取らせた。
  8 被告人は、同月一九日ころ開かれた資金繰り会議において、鎌田から、
   石田克史の借換えができ、その入金予定日が同月二二日である旨のを受
   けた。
  9 石田克史は、同月二二日、株式会社三菱銀行上北沢特別出張所に開設
   された石田克史名義の預金口座に、東芝総合ファイナンスから前日の二
   一日に融資金二、九二〇万円から前取利息等を差し引いた二、七四二万
   九、二七九円が振込送金されたことを知り、妻石田に対し平和ホームズ
   への送金方を依頼し、これを受けた同女は、同月二五日、同出張所にお
   いて、同額の払戻しを受けた上、株式会社第一勧業銀行高田馬場支店に

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   開設された平和ホームズ名義の預金口座に同額から振込手数料七二一円
   を差し引いた二、七四二万八、五五八円を振込送金し、同日、同口座に
   同額が入金された。
    被告人らは、右振込金を、日本信販に対する返済に充てることなく、
   直接、平和ホームズの資金繰りに充てて費消した。
 三 麻生英夫(平成四年一〇月一六日付け公訴事実〉関係
  1 麻生英夫は、平成元年一二月ごろ、平和ホームズのモニターハウス募
   集広告を見て平和ホームズを知り、千葉県八街市内の自己名義の土地に
   住宅を建てることとし、その後、平和ホームズ船橋営業所担当者と建築
   工事費等の協議を行い、自己資金のほか、住宅金融公庫から一、〇九〇
   万円を借り入れて住宅建築資金計画を立て、同二年二月一八日、平和ホ
   ームズとの間で、請負代金を一、七三五万円する工事請負仮契約を締結
   した。同契約において、麻生英夫は、平和ホームズが提携するつなぎ融

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   資を利用して目的物引渡日前までに請負代金の全額を平和ホームズに支
   払う旨約定していた。なお、麻生英夫は、同年七月二六日、平和ホーム
   ズとの間で、請負代金を一、八四九万一、〇〇〇円とする工事請負本契
   約を締結している。
  2 麻生英夫は、住宅金融公庫からの一、〇九〇万円を返済の引当として、
   同年六月二六日、日本信販に対してつなぎ融資の申込みを行い、同月二
   九日付けで、同社との間で一、〇九〇万円のつなぎ融資を受ける旨の契
   約を締結した。そして、同日、右契約に従って、日本信販から平和ホー
   ムズに対して融資金から利息等を差し引いた一、〇四〇万四、二五三円
   が振込入金された。
  3 鎌田は、平成二年八月下旬から同年九月初めころ、麻生英夫に関する
   日本信販からの融資金一、〇九〇万円につき、東芝総合ファイナンスか
   らの二重ローンを受けさせて資金繰りに充てることを計画し、そのころ、

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   平和ホームズ船橋営業所長脇山功三に対し、麻生英夫をして日本信販か
   ら受けているつなぎ融資を東芝総合ファイナンスからのつなぎ融資に切
   り替えさせるよう指示した。
    平和ホームズでは、右高澤において、平成元年六月ころ、同会社船橋
   営業所長である右脇山に対し、顧客をして二重につなぎ融資を受けさせ、
   その融資金を自社の資金繰りに充当する旨を秘し、単に顧客につなぎ融
   資の借換えをさせるものとして、その手続を行うよう指示し、さらに、
   鎌田において、同二年五月ころ、右脇山に対し、顧客には、「日本信販
   の枠が一杯で、絶の顧客が融資を受けられないため、日本信販から東芝
   総合ファイナンスへ融資を付け替えてほしい。」などと説明するよう指
   示していたものである。
    そして、鎌田は、同年九月二一日ころ開かれた資金繰り会議の席上で、
   「麻生英夫につき、同月二九日から同年一〇月一日までの間に東芝総合

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   ファイナンスから一、〇九〇万円の入金を受ける。」予定である旨、同
   人に東芝総合ファイナンスから二重ローンを受けさせ、同社から同人に
   送金された金員を不正に取得(騙取)する方針を報告した。右会議に出
   席していた被告人は、鎌田の右報告を間いてこれに賛同し、ここに、被
   告人及び鎌田との間に、麻生英夫から二重ローンの方法によって一、〇
   九〇万円を騙取する旨の共謀が成立した。
  4 鎌田から前記のとおり指示を受けた右脇山は、同月二二日ころ、平和
   ホームズ船橋営業所営業部長清水宏悦に対し、「麻生英夫分について、
   日本信販の枠が一杯なので、つなぎ融資の借換えをしてください。」と
   指示し、これを受けた右清水は、同日ころ、千葉市花見川区内の麻生英
   夫方に電話をかけ、麻生英夫に対し、「日本信販からの融資枠が一杯に
   なったので、麻生さんは東芝総合ファイナンスから借り換える手続をし
   てください。麻生さんの工期はまだ期間があるので、工期の早い人に日

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   本信販の枠を優先したいのです。借換えの手続は全部当社でやります。
   他の人の融資枠を確保するための借換えの手続です。東芝に借り換えた
   つなぎ融資一、〇九〇万円は、住宅金融公庫の融資が出たときに確実に
   返済してくれれば、借換えに必要な費用はすべて平和ホームズで負担し
   ます。東芝から借り換えた融資金は、すぐ、そのまま日本信販に返済し
   ますし、その手続はすべて当社でやりますからお願いします。」などと
   申し向けた。
    これに対して麻生英夫は、その旨誤信し、清水の右申し出を承諾した。
  5 鎌田は、清水が麻生英夫から右のとおりの承諾を取り付けたことを脇
   山を通じて知り、同月二四日ころ開かれた資金繰り会議の席上で、麻生
   英夫から同月二九日ないし同年一〇月ニ日までに一、〇九〇万円の入金
   予定がある旨報告し、被告人もそれを了解した。
  6 そして、鎌田は、同月二六日、東京都墨田区所在の麻生英夫の勤務先

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   である株式会社精工舎に電話をかけ、麻生英夫に対し、「借換えの説明
   は担当者の清水から聞いていると思いますが、東芝総合ファイナンスか
   ら借り換える一、〇九〇万円は日本信販にそのまますぐに返済します。
   東芝総合ファイナンスからの階入金はあなたの口座に振り込まれます。
   日本信販へは、日本信販と提携している当社の口座から返済することに
   なっていますので、東芝総合ファイナンスからの融資金は、当社の当座
   に振り込んでもらいます。これから東芝総合ファイナンスの人を連れて
   行きますが、東芝総合ファイナンスは日本信販と競争会社ですので、東
   芝総合ファイナンスの人の前では日本信販のことを口にしないでくださ
   い。そうしないと手続がスムーズにいかなくなる場合がありますので、
   よろしくお騒いします。」などと申し向けた。
    これを聞いた麻生英夫は、前同様鎌田の申し出を承諾した。
  7 鎌田は、麻生英夫から右のとおりの承諾を取り付けたことから、同日

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   ころ、東芝総合ファイナンス係員亀海七郎を伴って、右精工舎へ赴き、
   右亀海をしてつなぎ融資手続を取らせた。
  8 麻生英夫は、同月二八日、株式会社第一勧業銀行新稲毛支店に開設さ
   れた麻生英夫名義の口座に、東芝総合ファイナンスから融資金一、〇九
   〇万円から前取利息等を差し引いた一、〇一七万九、六二一円が振込送
   金されたことから、妻直美に平和ホームズへの送金方を以来し、これを
   受けた同女は、同日、同支店真砂出張所において、同銀行高田馬場支店
   に開設された平和ホームズ名義の口座に、同額から振込手数料四一二円
   を差し引いた一、〇一七万九、二〇九円を振込送金した。
  9 被告人らは、右振込金を、日本信販に対する返済に充てることなく、
   直接、平和ホームズの資金繰りに充てて費消した。
第六 本件発覚の端緒等
   平和ホームズは、平成二年一二月に至っていよいよ資金繰りに窮し、顧

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  客に返済を約定した日本層販からの借入金を返済できなかった。このため、
  日本信販において、顧客に問い合わせをしたところ、顧客が「東芝総合フ
  ァイナンスから借りて日本信販へは返済している。」旨回答したことによ
  って、本件が発覚した。
第七 その他関連事項及び情状






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