上 告 趣 意 補 充 書

 (注)以下は、弁護人の上告趣意補充書です。但し、縦書きを横書きに直して
    います。しかし、一頁の行数、一行の文字数は原本と同じにしています。
    なお、−−−は頁の区切り、頁右下の数字は丁数(頁数)です。

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平成八年(あ)第一三六二号事件

            上 告 趣 意 補 充 書

                    被 告 人    三 宅 喜一郎

  一九九七年八月七日
                    右被告人弁護士  橋 本 佳 子
                    同        金 井 克 仁
                    同        竹 内 義 則

最 高 裁 判 所
  刑 事 第 二 小 法 廷  御 中
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はじめに
  被告人の本件事件について、弁護人らは本年五月一九日に「上告趣意書」を提出
 した。弁護人らとしては右上告趣意書により、本件事件が冤罪であること、一審の
 東京地裁の判決及び何らの審理も行わずにそれを追認した二審の東京高裁の判決が
 いずれも真実を見誤った誤認判決であることを明らかにできたと確信している。
  しかし、その一方で右上告趣意書は、調査時間の制約及び準備等の都合から十二
 分に、被告人の言い分及び判決の誤りについて主張できなかった点も多々あった。
 そこで弁護人としては、右上告趣意書の不足の点等については、時間がある限り、
 補充書で補充の主張をしたいと考えている。
  ついては本書面においては、上告趣意書の「第一 本件事件における誤判の構造
 と原因」の「二 捜査段階での予断等によるデッチあげが根本原因」の「3 捜査
 機関による証拠のデッチあげ」の中の(4)の「恣意的な捜査であった」点(9頁)を
 中心に整理・補充して主張することとする。
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第一 「二重ローン」という言葉は正しくない
   「恣意的な捜査」についての補充に先立ち、本書面であらためて強調しておき
  たい重大な点は、上告趣意書でも主張したことであるが、そもそも「二重ローン」
  は成立せず、従って詐欺罪も成立しないという点である。すなわち、本件事件の
  被害者とされている石田・麻生・篠田の日本信販に対する最初の「つなぎ融資」
  の返済債務は、同人らの二回目の「つなぎ融資」による融資金が東芝総合ファイ
  ナンスから平和ホームズの銀行口座に振込まれた時点で消滅しており、右三人が
  日本信販と東芝総合ファイナンスの二社に対し二重に「つなぎ融資」の返済債務
  を負うという、いわゆる「二重ローン」状態はそもそも発生しないのである。
   その意味で、これまで弁護人らも使用してきた「二重ローン」という言葉は正
  しい表現ではなく、かえって誤解を生む原因でもあった。そこで弁護人は以後、
  「二重ローン」に変わる別の言葉・表現として「二回のつなぎ融資」という言葉
  を使用することを最初に述べておく。
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第二 「恣意的な捜査」についても「上告趣意書」の補充
 一 「上告趣意書」での主張の概要
  1 弁護人らは「上告趣意書」(9頁)で、「本件事件の誤判の構造と原因」の
   大きな原因である「捜査段階でのデッチあげ」の一つとしての「恣意的な捜査」
   について、次のように主張した。
  「本件詐欺を昭和六三年一月頃から長期間にわたって反復継続してきた詐欺行為
   の一環と位置づけ、付け替え等も含めた全ての『二重ローン』被害を約一八億
   としておきながら(以上のこと自体が証拠による裏付けのない認定であるが)
   これらについて証拠収拾をせず、しかも『被害者』三人についてのみ立件し、
   『被害者』と一緒になって被告人を告訴した朝鳥保を本件事件の『被害者』か
   ら外したり、高澤や鎌田と同じようにして顧客に対し『つなぎ融資』の付け替
   えを依頼した会社社員を捜査の対象から外すということがあった。さらに船橋
   営業所長の脇山が本件事件に深く関与していること等を裏付ける三菱銀行の資
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   料を証拠から落とし、また船橋営業所の顧客のいわゆる『二重ローン』を捜査
   から外す等恣意的な捜査が行われた。」
  2 つまり捜査機関は本件事件が「被告人を頂点とした会社組織ぐるみの犯行」
   であるとの予断等から、次の三点をまず結論づけて、それを立証するに都合の
   よい証拠を収集し、証拠化したのである。
   @ 証拠もなく付け替え等を含めた全ての「二回のつなぎ融資」(これまでは
    いわゆる「二重ローン」の言葉で表現されていた事象)を詐欺であると断定
    し、被害を約一八億円とした
   A 石田・麻生・篠田らと一緒になって被告人を告訴した朝鳥保を、本件詐欺
    の被害者から外すなど、告訴した被害者の中から証拠上都合のよい者のみを
    立件した
   B 本件詐欺の共謀共同正犯を被告人及び高澤・鎌田らの三人にのみ限定し、
    船橋営業所長の脇山を外した
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  3 そして右結論づけ及び証拠化の結果、被告人は「二回のつなぎ融資」につい
   て「二重ローン」詐欺を指揮した主犯とされたのであった。
    そこで、まず右の結論づけ及び証拠化の問題点について以下に補充する。
 二 付け替えを含めた全ての「二回のつなぎ融資」を詐欺と断定した判決の誤り
  1 検察官等が主張する「二重ローン」詐欺による被害総額
   (1) 「二回のつなぎ融資」の件数及び取扱額について、例えば司法警察員児玉
    勉作成の「資料作成状況捜査報告書」では、その全てを「二重ローン」詐欺
    とした上で、昭和六三年一月の「六件 六八三〇万円」から平成二年一二月
    の「二件 四三四〇万円」まで、「二重ローン」の件数は「合計八九件」、
    被害金額は「一二億八二五四万円」だとした。
   (2) また検察官は冒頭陳述(9頁)で「昭和六三年中二四件、二億八七四〇万
    円、平成元年中三二件、四億七七五〇万円、同二年中三三件、五億一六四〇
    万円」と主張した。つまり一二億八一三〇万円が被害総額だと主張した。
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   (3) そして論告(34頁)では「昭和六三年一月ころから、…………本件と同種
    の犯行による資金繰りを繰り返していたのであり、本件犯行は、そのような
    反復継続してなされた詐欺行為の一端で、いわば氷山の一角に過ぎず、極め
    て常習的な犯行である」と主張したのであった。
  2 判決の認定は検察官の主張と同様
    これに対し一審の東京地裁の判決は、本件犯行の共謀時期を「二重ローン」
   が開始された昭和六三年一月末の「資金繰会議」であると認定し、量刑の理由
   のところで「被告人らは、昭和六三年一月から、経営状態を改善する具体的な
   見通しもないまま、資金繰りのために『二重ローン』を繰り返すという無責任
   極まりない経営を続けた」(38丁表)と認定した。なお二審の東京高裁の判決
   も右一審判決の認定を踏襲していることは明らかである。
    従って判決は結局、検察官等の主張を認め、本件詐欺を昭和六三年一月頃か
   ら長期間にわたって反復継続してきた詐欺行為の一環と位置づけ、「付け替え」
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   などを含めた「二回のつなぎ融資」については、昭和六三年一月からの融資の
   全てが詐欺となる「「二重ローン」であるとしているのである。
  3 判決の重大な誤り
   (1) 詐欺共謀を昭和六三年一月からと認定した誤り
     本件詐欺の共謀の時期を、判決が「二回のつなぎ融資」が開始された昭和
    六三年一月の「資金繰会議」であると断定した認定は、全くの誤りである。
    そもそも、判決が詐欺共謀を認定した昭和六三年一月(の資金繰会議)では、
    「資金繰会議」が存在していないことを別にしても、いわゆる資金繰表上も
    「二回のつなぎ融資」自体が明記されておらず、「二回のつなぎ融資」自体
    が関係者の間で話題にはなっていないのであり、共謀を認定できる材料は全
    くない。
     すなわち弁第二号証のHは昭和六三年一月段階の資金繰表であるが、右表
    の「つなぎローン」欄には、「二回のつなぎ融資」を表す「二重ローン」や
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    「ダブリ」「W」「切替え」等の記入は全くない。ところが、昭和六三年二
    月の資金繰表である弁第二号証のGの「つなぎローン」欄になって、初めて
    「(ダブリ借入)」の記入がみられる。この「ダブリ」は前述の関係者らの
    証言等からすれば「切替え」を意味することは明らかであるが、重大な点は
    二月の資金繰表に初めて記載されたということである。このことは、一月の
    資金繰表では右事実が記載されておらず担当者以外は「二回のつなぎ融資」
    については知るよしもなかったことを物語るのである。
     以上の理由だけからしても、判決は詐欺の共謀及び開始時期等について重
    大な事実誤認があり、破棄されるべきでことは明らかである。審理をやり直
    すべきであることは明白である。
   (2) 付け替えを含めた全ての「二回のつなぎ融資」を詐欺と断定した誤り
     本件詐欺共謀の時期を昭和六三年一月の「資金繰会議」であるとした判決
    は、最初からの全ての「二回のつなぎ融資」を「二重ローン」詐欺と認定す
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    るという重大な誤りをおかした。
     なぜなら判決が最も信用しかつ事実認定の最大の根拠としている鎌田供述、
    及び判決が信用できるとして根拠にあげる高澤の第一回目の供述では、二人
    とも昭和六三年一月から始まった「二回のつなぎ融資」は、最初の「つなぎ
    融資」の返済のための新たな「つなぎ融資」の借入=「付け替え」目的にな
    されたものであり、詐欺目的のものではなかったと証言しているのである。
    つまり判決は、被告人を有罪と認定した最大の根拠である「鎌田供述」及び
    「付け替え」目的であり詐欺ではないと証言しているにもかかわらず、判決
    はこれらを無視して、詐欺目的であることを前提に昭和六三年一月に詐欺の
    共謀が行われたと認定したのである。
     判決は認定できる根拠がないにもかかわらず、共謀を認定したのである。
    事実誤認があり、破棄されるべきでことは明らかである。審理をやり直すべ
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    きであることは明白である。
     ちなみに起訴状自体が「日本信販株式会社から借り入れていた篠田勉から、
    右借入金の借換手続に藉口して金員を騙取しようと企て」と言って、詐欺目
    的ではない「付け替え」があることを認めている。にもかかわらず、判決は
    こうした「付け替え」を全く無視しているのである。
   (3) 判決は、こうした杜撰な認定の結果、最初の「つなぎ融資」の返済期日の
    前に、二度目の「つなぎ融資」の借入をおこし、その後すぐに最初の「つな
    ぎ融資」の返済をしている「二回のつなぎ融資」の場合も、全て詐欺となる
    と認定しているが、これまた杜撰な認定である。
     例えば平成四年八月一九日付「資料作成状況捜査報告書」の番号一三一の
    戸田英一の協和埼玉銀行からの七〇〇万円の融資(二番目の「つなぎ融資」)
    は、番号九八の日本信販からの八〇〇万円の融資(最初の「つなぎ融資」)
    の返済のために、その約定返済日である平成元年五月二七日の前の五月二五
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    日に借りて四日後の五月二九日には返済しているのである。
     こうした「つなぎ融資」は何ら問題のないもので、「つなぎ替え」「切替
    え」「付け替え」のための「二回のつなぎ融資」であり、決して詐欺目的な
    どではありえないことは明白である。誤りも明らかである。
   (4) しかも、こうした最初の「つなぎ融資」の返済のための二度目の「つなぎ
    融資」の借入れ、つまり「付け替え」は、最初の「つなぎ融資」の返済期日
    の何日か前に実施してければならないことは当然のことであるから、「二回
    のつなぎ融資」のうち一部が仮に「二重ローン」詐欺だとしても、どの範囲
    までの借入が「付け替え」として適法で、どの範囲から「二重ローン」詐欺
    として犯罪にるか詳細に吟味しなければならない。
     この意味では、判決は一切右のような詳細な分析は行っておらず、何の証
    拠もなく「二回のつなぎ融資」の全てが「二重ローン」詐欺だ認定しており
    審理をやり直すべきであることは明白である。
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 三 告訴者の朝鳥保を被害者から外す等証拠上都合の良い者に限って立件
  1 被害者全員を立件していないのは不自然である
   (1) 前述のように、判決は捜査機関の言いなりになって、本件詐欺の共謀時期
    を昭和六三年一月と認定し、本件詐欺を昭和六三年一月頃から長期間にわた
    って反復継続してきた「二重ローン」という詐欺の一環と結論づけた。従っ
    て昭和六三年一月の「二回のつなぎ融資」の顧客はもちろんのこと、その後
    のいわゆる「二回のつなぎ融資」の顧客の全てを「二重ローン」という詐欺
    の被害者としている。
   (2) ところが捜査機関は(そして結局判決も)不思議なことに、「二回のつな
    ぎ融資」による顧客の全員を「二重ローン」という詐欺の被害者として立件
    したわけではない。立件したのは、本件公訴事実の被害者である石田克史・
    麻生英夫・篠田勉のわずか三人のみである。
     これは、仮に詐欺罪が成立するとした場合、詐欺の手段が全員全く同様で
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    あって,しかもその詐欺が被告人を頂点として会社ぐるみのものであること
    からすれば、「二回のつなぎ融資」による顧客の全員を「二重ローン」とい
    う詐欺の被害者として立件するのが筋であるから、不自然なことである。
   (3) にもかかわらず検察官が右の三名のみを立件した理由は、証拠上被告人を
    有罪に陥れることが可能な被害者を選んだということ、つまり恣意的な被害
    者選びがなされた結果にほかならない。以下詳述する。
  2 実害のある被害者が全員立件されたわけではない
   (1) 「二回のつなぎ融資」による顧客の全員を「二重ローン」という詐欺の被
    害者として立件しなかった理由(抗弁)としては、当初の被害者は「二重ロ
    ーン」になっていたとしても「結局平和ホームズが日本信販等につなぎ融資
    を実際に返済して実害が発生しなかった」という口実が考えられる。
     しかし、仮に詐欺罪が成立するとした場合、詐欺罪は財産犯であるから、
    財産が欺罔行為によって移転されたり債務を弁済すれば既遂になる。被害が
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    後日に回復されたとしても、詐欺罪の成否には原則として関係はない。従っ
    て捜査機関及び判決の立場で言えば、騙されて「二重ローン」が付けられた
    時点で詐欺罪が成立していることになり、その後平和ホームズが日本信販等
    に実際に返済をしたか否かは関係がないこととなる。
     その意味で、実害の有無でもって、石田らの三人以外の「二回のつなぎ融
    資」による顧客を、「二重ローン」という詐欺の被害者から排除する理由に
    はならない。
   (2) さらに右点については、裁判は実害のある被害者の事件のみを立件すれば
    たり、その余の多数の被害者は情状判断で考慮すれば足りるとする考え方も
    なくはない。しかし、右の考え方が成立したとしても、本件事件では以下の
    理由から右考えは全く成り立たない。
     例えば常習窃盗の事例で多数の被害者がいた場合でも、ささいな被害でし
    かも被害弁償が済んでいる者は被害者からはずす、また窃盗未遂は立件しな
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    いという場合なら理解できる。しかし検察官の主張によると、本件は「二重
    ローン」を付けた時点での顧客の負債額は一人一〇〇〇万円以上という多額
    な詐欺被害事件になる。その意味で、最終的には平和ホームズから日本信販
    に対して「つなぎ融資」が現実に返済され、顧客及び日本信販とも実害がな
    くなったとはいえ、検察官の主張によると一時的にしろ顧客が負担した二重
    のつなぎ融資債務は多大な額に及ぶ。この結果だけでも、捜査機関の立場で
    は、「二回のつなぎ融資」による顧客の全員を、「二重ローン」という詐欺
    の被害者として充分に立件してしかるべき事案である。
   (3) 仮に実害が発生した被害者のみ立件するという考え方に立ったとしても、
    本件では、なお実害の生じた被害者の全員が立件されているわけではない点
    が重大な点である。
     すなわち、平成四年八月一九日付「資料作成状況捜査報告書」の「二重ロ
    ーン」顧客について、「つなぎ融資」を受けた順番で顧客を整理し直して、
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    右顧客のうちから最初の「つなぎ融資」が平和ホームズから現実に返済され
    ていない顧客(つまり実害のある顧客)を調査すると、赤羽勉・根本昭男・
    古屋浩・麻生英夫・鶴岡一司・武田剛宣・本木幹夫・朝鳥保・玉川輝久・岡
    田建夫・武石信雄・篠田勉・石田克史の合計一三名がリストアップできる・
     ところが、本件被害者の三人を除いた他の一〇人は立件されていないので
    ある。全く合理的な理由がない立件である。
   (4) さらに、立件されない理由が実害がないことであるとすれば、後述のとお
    り石田ら三人は日本信販との間で一%で和解をしており、実質的には実害が
    ないのに等しいのであるから、同人らを被害者からはずすべきである。
   (5) 以上述べたことから、昭和六三年一月以降の「二回のつなぎ融資」の顧客
    (その全員が本件詐欺の被害者である)の中から、わずかに石田ら三人しか
    立件されていないということは、結局合理的な理由は全くなく、後述のよう
    に恣意的な立件といわざるを得ない。
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  3 告訴した被害者のうち都合のよい被害者のみを立件した問題点
   (1) 「二回のつなぎ融資」による顧客の中から、「二重ローン」という詐欺の
    被害者として石田ら三人のみを立件した理由は「実害があり」かつ「告訴人」
    だという理由も考えられよう。
     しかし、東芝総合ファイナンスの亀海七郎の平成三年五月二九日付け司法
    警察員の供述調書には「戸塚警察署に現在 兜ス和ホームズ等を詐欺犯人と
    して告訴している」者として、石田、麻生、篠田とともに「朝鳥保」を挙げ
    られていることから、そもそも本件詐欺を告訴した顧客は、石田克史・麻生
    英夫・篠田勉・朝鳥保の四人であったことは明らかである。
     ところが本件事件の被害者は石田克史・麻生英夫・篠田勉の三人のみで、
    朝鳥保に対する詐欺は立件されなかったのであり、理由にはならない。
   (2) 仮に詐欺罪が成立するというなら、本件の被害者とされる石田ら三人と同
    様に被告人を告訴した朝鳥保のみが立件されなかった理由には、全く合理的
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    なものは見いだすことができない。
     検察官の主張によると、まったく同時期に、同じ方法による詐欺被害であ
    りながら本件の詐欺被害者として朝鳥は立件されていないのである。なぜか。
    これは、検察官の九七号証の証拠に見られるように、石田ら他の三人と異な
    り、朝鳥については例えば被告人の「ダブリ」等の記入が全くないので、被
    告人の関与が立証できないためである。
   (3) ところが驚くべきことに、こうした被告人の関与が証拠上現れていないの
    は、一人朝鳥だけのことではない。
     前述の一三人の実害のある被害者はもちろん、他の「二回のつなぎ融資」
    の顧客らについても、石田等に対するような資金繰表等に対し「ダブリ」等
    の何らかの被告人の書き込みが全くないのである。このことを逆に言えば、
    石田等の三人だけについてのみ、「ダブリ」等の何らかの被告人の書き込み
    があるだけである。
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     この事実は、常識からすれば、「ダブリ」等の何らかの被告人の書き込み
    は石田ら三人だけの特殊事情から発生したものと評価・判断すべきである。
    そして、他の顧客について、そのような書き込みが一切ないということは、
    そもそも「ダブリ」等にさせるということ、つまり「二回のつなぎ融資」に
    するということについて、被告人は何ら関与していなかったことを物語るの
    である。
   (4) 以上述べたことを総合すれば、捜査機関は、石田ら三人の場合と異なり被
    告人が関与したような痕跡のない「朝鳥保」を被害者から落とすことによっ
    て、逆に言えば、被告人が関与したような痕跡のある石田ら三人を被害者と
    して仕立てて、被告人を詐欺の主犯にデッチあげたのである。
 四 本件詐欺の共謀共同正犯から船橋営業所長の脇山功三を外して立件
   検察官は以上のように恣意的捜査等のために被害者を選抜するとともに、一方
  では本件詐欺の共謀共同正犯からは船橋営業所長の脇山功三を外して立件した。
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   弁第八号証のD−4の資金繰表には、経営委員会の責任者であった脇山功三が
  自ら、前月に「つなぎ融資」をした顧客に対し翌月には早くも「二回のつなぎ融
  資」の予定を組んでいることが明らかとなった。
   例えば、五月の「つなぎ その他」欄にある「早川の一五七〇万円」は六月の
  同様欄で「早川ス一五七〇 きりかえ」と記載され、翌月に「切替え」すなわち
  「二回のつなぎ融資」をさせられたのである。同様に六月にはの「鮫島」「根本」
  「鶴岡」の三人は七月に「切替え」させられている。こうした「二回のつなぎ融
  資」は、普通一般の「切替え」とは思えないくらい以上に早い時期からの「切替
  え」である。その実態は、まさに検察官が主張する「二重ローン」詐欺に相応し
  いとも言えるのである。
   ところが右脇山の行為については、何故か検察官は立件をしていないのである。
  このことは、捜査機関が最初から被告人のみを目的として立件されたことを如実
  に証明するものである。
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第三 捜査開始時期の異常性
 一 被害者と日本信販との若いは事実
   弁護人らは上告趣意書において、捜査機関は「被告人らが逮捕される一年前に
  『被害者』と日本信販との間で、『被害者』が『つなぎ融資』額のわずか一パー
  セントを日本信販に支払うことで和解が成立したにもかかわらず、右事実の持つ
  意味に気づかず、誤った捜査を中止しなかった」と述べた(4頁)。
   最近弁護人らは、右被害者と日本信販との和解文書(債務処理に関する合意書)
  を入手したので、今回の補充書に別紙として添付する。
 二 和解は被告人らが取調べを受ける一年前に成立
   別紙の債務処理に関する合意から明らかなとおり、本件公訴事実の被害者であ
  る石田・麻生・篠田、そして右三人と同様に被告人を告訴しながら被害者として
  立件されなかった朝鳥、そして他の顧客八人の合計一一人と日本信販と和解は、
  平成三年六月一四日に成立している。
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   これは、上告趣意書に添付した高澤の上申書が平成四年二月に作成されている
  ことから明らかなように、被告及び高澤らが捜査機関から取調べを受けるよにな
  った一年前に和解が成立ししていたのである。しかも、和解書では、被害者らが
  一パーセントを日本信販に支払うとはなっているものの、実際には平和ホームズ
  の破産手続きの中で被害者らに配当・弁済があった後に支払えばよいこと(三条)
  から、実際には支払わないでよいと同じ和解であった。
   つまり被告人らが取調べを受けるよになった一年前に時点で、被害者らの日本
  信販に対する最初の「つなぎ融資」については実質的には支払わなくてよい状態
  になっていたのであり、実害は発生していなかったのである。
 三 ところが捜査機関は、平和ホームズが倒産した平成三年春はもちろん、朝日新
  聞が平和ホームズの「二回のつなぎ融資」問題を特集記事を書いて社会問題化し
  た平成三年四月時点でも、被告人らを取調べをしないで、前述のように和解が成
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  立して被害が実際には発生しなくなった後の平成四年になってから捜査を開始し
  たのである。
   このように被告人らの捜査・立件自体が、右和解成立後一年を経てから行われ
  たことは異常である。これは、前述したように、被告人に対する幾重もの予断や
  偏見があったため、捜査機関が被害者らに実害が発生していないことも知りつつ
  も、あえて事件として強引に立件したことを物語る。
   その意味で、右和解の成立事情と捜査開始について審理をさらに尽くす必要が
  あることは明白である。
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 添付資料:平成3年6月14日付「債務処理に関する合意書」


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