無責任裁判の全記録公開

　　　　　　　 異　　議　　申　　立　　書

　　　（注１）以下は、弁護人の異議申立書です。但し、縦書きを横書きに直してい
　　　　　　ます。しかし、一頁の行数、一行の文字数は原本と同じにしています。
　　　　　　誤字等も原本のままです。
　　　　　　－－－は、頁の区切りを示しています。頁右下の数字は頁数です。
　　　（注２）本申立書は、時間の都合上、被告人との打ち合わせなく作成され
　　　　　　最高裁に提出されたものです。

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平成八年(あ)第一三六二号事件

        異　議　申　立　書

            　　　　被　告　人　  三　宅　　喜  一　郎

  一九九八年二月二七日

            　　　　主任弁護人  　橋　  本　  佳　　子
            　　　　弁　護　人  　金　  井　  克　　仁
            　　　　弁　護　人  　竹　  内　  義　　則

最　高　裁　判　所
 　 第　二　小　法　廷　　御　中
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　　　　　　　　　申　立　の　趣　旨

　被告人三宅喜一郎に対する詐欺被告事件についての平成一〇年二月二三日付決定に
つき、「本件上告を棄却する」とあるを「原判決を破薬する」とする異議の申立する。
　
            　    申　立　の　理　由

一　決定は理由において、「高裁判例を引用して判倒違反をいう」弁護人の主張につ
  いて「所論引用の高裁判例は本件とは事案を異にし適切でなく」と認定しているが、
　誤りである。
　(1) 上告理由として判例違反を主張するには、一般的に上告趣意書に判例を具体的
    に記載してければならないとされ、その引用する判例の事実関係が原判決の事実
  　関係の主要部分と共通している必要があるとされる（刑事弁護コンメンタールⅠ
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　  刑事訴訟法・三七四頁)。
　(2) この点、弁護人が上告理由書で指摘・引用した判例（東京高判・昭和28・6・
　  12高刑集6・6・七六九）の事案は、本件事件と完全には一致した事案ではない
　  が、以下のとおりその事実関係は原判決の事実関係の主要部分と共通している。
　    すなわち、弁護人が指摘・引用した判例の事案は、①無尽会社の外務員が無尽
　  掛金の集金業務に従事中、②右集金を私用に費消して会社に入金する意思がない
　  にもかかわらず、③これを秘匿して顧客から集金して受領した事案である。その
　  意味では、本件の詐欺事件とは多少事案を別にする。
　    しかし、本件事件も右事件と同様に集金（返済）業務中の事件である点におい
　  て基本的事実は全く共通である。すなわち、日本信願のつなぎ融資契約書である
　  「日本信販公的住宅資金つなぎローン」と題する契約書契約書では、顧客（契約
　  書上は契約者と表示されている）が平和ホームズ（同連帯保証人）を通じて日本
　  信販（同貴社）から借入れたつなぎ融資金（同立替金）の返済方法は、「表記の
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　　支払方法により支払期日に貴社に支払う」と定められており、右契約書の表記の
　　「要項」欄のうちの「立替金額の支払方法」欄には「昭和　年　月  日一活弁済
　　(下記の貴社指定口座宛  銀行振込）」と記載されて、支払弁済場所として平和
　　ホームズの銀行口座が指定されている。つまり、日本信販から「つなぎローン」
　　を借受けた顧客は、日本信販に返済するのではなく、平和ホームズに返済すれぱ
　　足りることになっている。このことは、平和ホームズが日本信販のためにつなぎ
　　融資金の集金（返済）を業務していることと同様である。
　　  その結果、右平和ホームズの銀行口座に顧客が振り込んだ時点で、つなぎ融資
　　金の返済債務は消滅し、後は平和ホームズが日本信販に対して右つなぎ融資金を
　　返済するだけのことである。そして、もし平和ホームズが右顧客からのつなぎ融
　　資金を日本信販に支払わなかった場合は、平和ホームズの日本信販に対する債務
　　不履行の民事上の問題、あるいは場合によっては横領罪等の刑事事件が発生する
　　だけなのである。
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  (3) よって、判決の言う「事案を異にし適切でない」は、明白な誤りである。
      従って弁護人が指摘・引用した高裁判例の言う次の判断は、本件事件にも該当
    するものである。
    ①  集金は正当権限に基づく集金行為であって顧客の支払い行為は会社に対して
        有効な掛金の支払いとなる
    ②  集金の際の使途についての不法な意図は単に動機の不法にすぎない
    ③  被告人の集金行為後にその金員をみだりに自己の用途に費消あるいは着服し
        た時は業務上の横領罪が成立するは格別、その集金行為が詐欺罪には該当し
        ない。
二　次に、決定は理由において、「被告人の経営していた株式会社平和ホームズには
  信販会社に代わって顧客からつなぎ融資金の弁済を受領する権限がない」と認定し
  ているが、これも全くの誤りである。
  (1) すなわち前述したように、「日本信販公的住宅資金つなぎローン」と題する契
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　　約書契約書では、顧客が平和ホームズを通じて日本信販から借入れたつなぎ融資
　  金の返済方法は「表記の支払方法により支払期日に貴社に支払う」と定められ、
　  平和ホームズの銀行口座（貴社指定口座宛）に銀行振込の方法で返済されること
　  になっている。
　(2) 前記のように契約書において、つなぎ融資金の返済場所として日本信販の銀行
　  ロ座ではなくて平和ホームズの銀行ロ座が指定されているということは、素直に
　  理解すれば、債務の支払場所の指定であり、弁済の受領権限の付与である。
　    すなわち本件契約の前記規定は、まず第一に、日本信販と顧客との間のつなぎ
　　融資の返済場所を指定した規定である。従って右指定場所に顧客が返済すれば、
　  直接日本信販に返済しなくても債務は返済したことになることは当然のことであ
　  り、逆に右規定の場所に返済しないことは債務の本旨に従って債務の返済とはな
　  らず債務不履行となってしまう。
　    また本件契約の前記規定は、平和ホームズを債務返済の受領権限者とする規定
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    でもある。例えぱ、民事裁判の和解調書において、被告が原告の代理人弁護士の
    口座に和解金等を支払う場合のごときものである。
  (3) 従って、以上のことからしても、平和ホームズが信販会社に代わって顧客から
    つなぎ融資金の弁済を受領する権限が付与されていたことは明白であり、決定が
    「被告人の経営していた株式会社平和ホームズには信販会社に代わって顧客から
    つなぎ融資金の弁済を受領する権限がない」と認定したことは全くの誤りである。
三　従って「本件上告を棄却する」としたことは誤りである。



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