冒 頭 陳 述 書 の 補 充 書
(注1)以下は、弁護人の冒頭陳述の補充書('95.8.30付)です。
しかし、一頁の行数、一行の文字数は原本と同じにしています。
なお、−−−−−は、頁の変更箇所を示しています。
(注2)この段階で、弁護人は、初めて、「二重ローン」犯罪の存在を否
定する主張をしてくれました。
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平成四年(刑わ)第一三九四号、同第一五二五号、同第一七六三号事件
冒 頭 陳 述 書 の 補 充 書
被 告 人 三 宅 喜 一 郎
一九九五年八月三〇日
右 弁 護 人 橋 本 佳 子
同 金 井 克 仁
東 京 地 方 裁 判 所
刑 事 第 一 一 部 御 中
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一 「二重つなぎローン」は存在しない
1 検察官が本件詐欺(不正な資金調達)方法として主張している、顧客に二回に
わたりつなぎ融資を受けさせて「つなぎローン」債務を二重に顧客に負わせると
言う、いわゆる「二重ローン」は法的には存在しえない。
(1) 本件起訴事実はいずれも、被害者とされる株式会社平和ホームズの注文建築
主(顧客)が日本信販株式会社から一回目のつなぎ融資を受け、次ぎに二回目
のつなぎ融資を東芝総合ファイナンス株式会社から受けた場合である。
(2) 日本信販のつなぎ融資契約書である「日本信販公的住宅資金つなぎローン」
と題する契約書の第二条二項によれば、顧客(契約書上は契約者と表示されて
いる)が平和ホームズ(同連帯保証人)を通じて日本信販(同貴社)から借入
れたつなぎ融資金(同立替金)の返済方法は、「表記の支払方法により支払期
日に貴社に支払う」とされる。
そして右契約書の表記の「要項」欄のうちの「立替金額の支払方法」欄では、
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「昭和 年 月 日一括弁済(下記の貴社指定口座宛 銀行振込)」とされ、
右「貴社指定口座」欄には平和ホームズの銀行口座が指定されている。
従って、本来ならば顧客は貸主である日本信販に対してつなぎ融資金を返済
する必要があるが、右契約書によれば返済方法・場所は平和ホームズの銀行口
座と指定されているから、平和ホームズへ返済する必要がある。つまり顧客は
日本信販からのつなぎ融資の返済を日本信販に直接返済する必要はなく、平和
ホームズに返済すればこと足りるのである。
その結果日本信販との関係では、顧客はつなぎ融資金の返済を平和ホームズ
に返済すればつなぎ融資金の返済は履行したことになる。そして右時点で顧客
の日本信販に対するつなぎ融資金の返済債務は消滅する。後は、平和ホームズ
が日本信販に対し右つなぎ融資金を返済するだけである。もし平和ホームズが
右顧客からのつなぎ融資金を日本信販に支払わなかった場合は、平和ホームズ
の日本信販に対する債務不履行、つまり民事上の問題が発生するだけである。
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(3) 以上のことを前提に本件事件を分析しても、顧客は「つなぎローン」債務を
二重に負わせられているという、いわゆる「二重ローン」状態には陥っていな
いのである。
平和ホームズは、顧客からの代理受領の権利あるいは顧客からの振込等で、
二回目の東芝総合ファイナンスからつなぎ融資を受領する。右つなぎ融資金は
代理受領として直接にしろ顧客からの振込等によるものでも、平和ムームズの
銀行「株式会社平和ホームズの第一勧業銀行・高田馬場支店・当座〇一一三五
三七」に支払われる。
またごの二回目のつなぎ融資は、理由はともかく二回目のつなぎ融資の返済
にあてることを平和ホームズの関係者が確約し、顧客もそうした認識で二回目
のつなぎ融資を了解したものである。顧客から見れば、二回目のつなぎ融資金
である東芝総合ファイナンスからのつなぎ融資金が平和ホームズの右銀行口座
に入金されれば、これは日本信販に対するつなぎ融資金の返済そのものである。
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つまり顧客が平和ホームズの指示に従って二回目のつなぎ融資を受けた場合、
顧客にしてみれば右二回目のつなぎ融資金は一回目のつなぎ融資の返済として
なしたわけである。二回目のつなぎ融資金が日本信販の指定する平和ホームズ
の銀行口座に入金され実行された時点で、顧客の日本信販に対するつなぎ融資
金は、日本信販と顧客との関係では返済されたことになる。
後は平和ホームズが顧客の右つなぎ融資金の返済金(東芝総合ファイナンス
からのつなぎ融資金)を日本信販になすだけである。平和ホームズが右返済を
しなかったことは、平和ホームズの日本信販への債務不履行に過ぎない。
2 以上のように、本件事件はもともとは平和ホームズの日本信販に対するつなぎ
ローン債務の返済債務の不履行事件である。検察官はこうした事実を分析するこ
となく、表面的な事実調査をしただけで、また当初の思い込みから、顧客が二重
のローン債務を負っているものと判断し、二重ローン=詐欺と短絡的な思考の下
に本件を刑事事件として立件したものである。
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二 右事実に関する会社関係者の意識
1「つなぎローン」については、これまで主張してきたとおり会社関係者は事実上
は会社の借り入れ金であるとの認識を有していた。
しかし、顧客の二回目のつなぎ融資金が平和ホームズの銀行口座で振り込まれ
た段階で、一回目のつなぎ融資の返済にあたるということは誰も正確には理解し
ていなかった。
2 だからこそ、警察等の取り調べにおいても誰も右事実を説明することができず、
また顧客が「二重ローン」に苦しんでいること等を取り調べの中で問い詰められ、
的確な反論ができないだけでなく、鎌田次朗等のように本件事件が詐欺事件であ
るとするような真実と異なる自白をする者をでたのである。
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