　　　　　　　　　　弁論更新に際しての冒頭陳述書

　　　　　（注１）以下は、弁護人の弁論更新に際しての冒頭陳述書です。
　　　　　　　　　しかし、一頁の行数、一行の文字数は原本と同じにしています。
　　　　　　　　　なお、－－－－－は頁の変更箇所を示してます。
　　　　　（注２）この段階では、まだ、弁護人は、「二重ローン」犯罪の存在を
　　　　　　　　　疑っていません。その点ご留意下さい。

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平成四年（刑わ）第一三九四号、同一五二五号、同第一七六三号事件

　　　　弁　論　更　新　に　際　し　て　の　冒　頭　陳　述　書

　　　　　　　　　　　　　　　　被　　告　　人　　　三　　宅　　喜　一　郎

　一九九四年六月二〇日

　　　　　　　　　　　　　　　　右　弁　護　人　　　橋　　本　　佳　　子
　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　　　　　　　金　　井　　克　　仁

東　京　地　方　裁　判　所
　　　　刑　事　第　一　一　部　　御　中

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はじめに
　１　本書面の提出理由
　　　弁護人は第一一回公判期日（平成五年七月二二日）において、被告人が無罪で
　　あるとの冒頭陳述を行った。しかし、右時点は、被告人が平成五年六月二九日の
　　保釈により長期の拘留生活から開放された直後であり、それまでの間に弁護人と
　　しては被告人から本件公訴事実に関して十分な聞き取り調査ができていなかった
　　段階であった。そのため弁護人としても、本件公訴事実に関する事実との相違点
　　及び本件犯行の背景等を十分に分析できていない段階であった。従って、当初の
　　冒頭陳述は、それまでの検察官の立証に対する被告人及ぴ弁護人側の反論という
　　観点からなさざるを得なかった。こうした事情から、当初の冒頭陳述は検察官の
　　立証に対する弁護人の当面の反論の方針という程度のものに過ぎなかった。
　　　しかし右冒頭陳述の後、被告人の保釈により弁護人の被告人からの本件公訴事
　　実に関しての聞き取り調査も進展し、また関係者の供述等の分析等とあわせて、

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　　本件公訴事実に関する真実が判明してきた。その結果、当初の冒頭陳述は方向性
　　こそは正しかったものの、本件公訴事実の事実との相違点及び検察官の立証に対
　　する反論のポイント、そして本件公訴事実に関する真実のとらえかたに関しては
　　全く不十分なものであった。
　　　そこで本年五月一一日に本件裁判を担当していた全裁判官が交代したこの時点
　　で、これまでの証拠に対する意見等をあわせて述べるとともに、当初の冒頭陳述
　　の補充を行うものである。
　２　被告人が共謀共同正犯に仕立て上げられた根拠・構造
　　　被告人は本件犯行について無罪である。被告人は取調べ段階から一貫してその
　　旨主張している。にもかかわらず検察官は、いわゆる「二重ローン」という手段
　　・方法でなされた本件詐欺行為について、㈱平和ホームズ（以下会社という）の
　　代表取締役である被告人が知らないはずはないとの思い込みから、被告人を頂点
　　とした会社ぐるみの組織的犯行であると決めつけた。

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　　　被告人が共謀共同正犯である根拠・構造は、次の二本柱となっている。
　　　まず一つは、個々の被害者に対する個別具体的犯行についての共謀とは別に、
　　本件犯行の手段・方法である「二重ローン」で会社の資金繰を行うことを、被告
　　人が出席した昭和六三年一月の「資金繰会議」で決定・共謀した点である。
　　　もう一つは、本件犯行についての実行正犯である高澤正比古及び同鎌田次朗と
　　被告人との共謀は、平成二年の九月中旬から一一月下旬までの間に何回か行われ
　　た「資金繰会議」で図られたという点である。
　　　つまり検察官は本件犯行の全ての共謀は「資金繰会議」で行われたとする。
　　　しかし「資金繰会議」なる会議は検察官の創作した会議であり、架空のもので
　　あって会社には存在しない。検察官はありもしない会議があったとして、その会
　　議の場で被告人が他の共犯者と共謀したと主張するのである。その意味で、本件
　　裁判では、この「資金繰会議」なる会議が存在していなかったという事実は重要
　　なポイントである。そこで弁護人はまず「資金繰会議」の点から立証する。

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一　「資金繰会議」なる会議は会社には存在していなかった
　１「資金繰会議」なる会議はない
　　(1) 検察官の主張する「資金繰会議」とは
　　　　検察官の冒頭陳述によると、間題の「資金繰会議」なる会議は「被告人をは
　　　じめとし、専務取締役三宅千尋、常務取締役鎌田次朗、取締役管理部長高澤正
　　　比古、営業総務課長福岡正芳ら同社幹部が毎月数回程度参集し、資金繰りの方
　　　針を協議する会議」とされている（冒陳の「第四の二」）。つまり、会社の資
　　　金繰りのみを目的として恒常的に設置された役員中心の会議である。
　　(2) 被告人及び高澤証人の証言等から「資金繰会議」は架空なものである
　　　　しかし、検察官の主張する「資金繰会議」が会社に存在しなかったことは、
　　　被告人及び高澤証人の供述・証言等で明らかである。
　　　①　被告人は警察での取調べ段階や検察官に対する取調べ段階から本件公判廷
　　　　に至まで、終始一貫して「資金繰会議」はなかったと供述している。また、

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　　　　会社の破産管財人に対しても、被告人は同様に会社には「資金繰会議」はな
　　　　かったと供述している。こうした供述態度及び内容に疑問点は全くない。
　　　②　さらに当初は検察官の証人として出頭し、後に被告人側証人として出頭し
　　　　た高澤証人も、明確に「資金繰会議」はなかったと、被告人と同様に証言し
　　　　ている。
　　　③　しかも二人は証言等で「資金繰会議」はなかったと単に言うのみではなく
　　　　、高澤証人の業務ノート（弁九号証）等を示しながら、「資金繰会議」が存
　　　　在した痕跡も全くないことをもあわせて説明しているのである。
　　　④　そして経理課長の小田恵美子証人も、同人の知る限りでは「資金繰会議」
　　　　はなかったと証言した。小田証人は会社の役員ではないが、経理課の課長で
　　　　あり会社の経理実務業務の担当者である。その小田証人が、「資金繰会議」
　　　　はないと証言しているのである。その証言は無視できず重要である。
　　　　　なお「資金繰会議」は小田証人が帰社した後の深夜に行われたから、小田

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　　　　証人が知らなくて当然との疑問点もなくはない。しかし一般社員は別として
　　　　も経理担当の小田証人が、自分が専門に担当している経理業務に直結してい
　　　　る資金繰りについて、もし「資金繰会議」が開催されているなら、その事実
　　　　を知らないはずがない。会議が開催されている痕跡すら知らないなどという
　　　　ことがあろうはずがない。小田証人が知らなかったのではなくて、そもそも
　　　　会議それ自体がなかったのである。
　　(3) 「資金繰会議」があったとする他の証言は信憑性がない
　　　　検察官の主張にそって「資金繰会議」があったと証言したのは、本件犯行の
　　　共犯者である鎌田次朗の他には菅原啓晃証人と福岡正芳証人である。しかし、
　　　同人らの証言はいずれも信憑性は全くない。
　　　①　まず鎌田の証言は、漠然と「資金繰会議」があったと言うのみで、日時・
　　　　議題・出席者等の内容について不明確な証言である。
　　　　　しかも、そもそも鎌田は本件犯行の実行犯であり、その証言は全く信用で

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　　　　きない。自己の罪を軽くするために会社ぐるみの犯行にして、被告人に罪を
　　　　なすりつけるために虚偽の供述をしているからであ。
　　　②　次に福岡の証言も、「資金繰会議」については鎌田と同様に漠然と資金繰
　　　　りのために会議があったと言うのみで、日時・議題・出席者等の内容が全く
　　　　不明確な証言である。
　　　　　しかも、そもそも福岡は、後述するようにローン担当課長として、同人が
　　　　「二重ローン」による資金繰を発見し、その後起訴はされないが当初の詐欺
　　　　行為をはたらいた張本人なのである。同人の証言は、共犯者の鎌田が被告人
　　　　を罪に引き込み自己の責任の軽減を図ったのと同様に、「二重ローン」の発
　　　　見・開発の責任をおおい隠すため、そして当初の詐欺行為の責任を転化する
　　　　ために虚偽の供述をしたものである。
　　　③　なお菅原証人の証言は、他の二人と異なり内容も多少あるものの、同人が
　　　　具体的に証言した会議の様子は後述するように「緊急対策会議」といわれる

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　　　　会議を「資金繰会議」と証言しているものである。
　　　④　さらに重要な点は、これら証言以外に「資金繰会議」があったことを証明
　　　　する資料等は一切検察官からは提示されていない点である。これはこのよう
　　　　な会議がなかったことを証明するものである。
　２　「資金繰会議」があれば発生するはずのない各種の不祥事の発生
　　　「資金繰会議」なる会議が存在しなかったことは以上のことで明かであるが、
　　右以外にも「資金繰会議」が存在しなかったことを証明するものがある。
　　　すなわち、会社では次に述べるように、いわば「緊急対策会議」的な資金繰り
　　対策会議が開かれていた。このことは、鎌田・菅原・福岡・小田証言からも明ら
　　かである。ところが仮に検察官が主張するような「資金繰会議」なる会議があっ
　　て資金繰りを協議していれば、このように月末になって急遽、社長等を中心に資
　　金繰り対策を行うような異常な事態が発生するようなことはあろうはずがない。
　　右の異常な事態が発生したこと自体が、「資金繰会議」がなかった証拠である。

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　　(1) 高澤が財務担当責任者であった昭和六三年四月末の資金ショート事件
　　　　昭和六三年四月下旬に、高澤の入出金予定表のとおり、経理を処理していた
　　　ら月末ギリギリの段階になって一〇〇〇万円が不足し、鎌田常務・千尋専務・
　　　小田課長の三人で資金繰の対策を講じて乗り切ったという事態が発生した。
　　　　なお右処理には被告人は関与せず、事後に報告を受けて事件のあったことを
　　　知った程であった。
　　(2) 千尋専務が財務担当責任者であった時の二つの資金不足事件
　　　　昭和六三年八月二四日頃、小田課長の被告人に対する通報から、千尋専務の
　　　入出金状況の把握が不十分で、月末に下請業者に支払う五〇〇〇万円の資金が
　　　不足するという事態が発覚した。小田課長から事情を聞いた被告人は直ちに役
　　　員等を集めて、いわば「緊急対策会議」を開いた。参加者は被告人の他に、鎌
　　　田常務・千尋専務・福岡課長・小田課長であった。会議では五〇〇〇万円の捻
　　　出方法が話し合われた。結局、会社の監査役である久保田税理士から借入をす

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　　　ることになった。
　　　　また一一月二四日頃にも、小田課長の被告人に対する通報から、このまま推
　　　移すれば月末に一億円が不足するという事態が発覚した。被告人は連絡を受け
　　　その日のうちに、八月の場合と同様に「緊急対策会議」を開いた。参加者は被
　　　告人の他に、鎌田常務・千尋専務・福岡課長・菅原部長・小田課長であった。
　　　会議では不足金一億円対策が講じられた。その後、下請業者への支払等を延期
　　　すること等の方法によって、不足額は五〇〇〇万円までに縮小した。
　　　　そこで引続いて八月二八日には、残の不足五〇〇〇万円の対策を講じるため
　　　に二回目の「緊急対策会議」を開いた。参加者は被告人の他に、鎌田常務・千
　　　尋専務・福岡課長・高澤部長・小田課長であった。一回目の参加者のうち、菅
　　　原と高澤が入れ替わったのみで他の参加者に変更はなかった。結局、会議では
　　　高澤部長の実家を担保に入れて全東栄から融資を受けることしか対策方法はな
　　　いということになった。当日以後被告人と高澤でその手続等をした。

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　３　会社における財務業務の実態
　　(1) 財務は担当者に任せて、緊急時には被告人も対処した
　　　　後に詳述するように、会社の財務については被告人は財務担当者に任せてお
　　　　り、いちいち財務に関して被告人が参加した会議は開催されていなかった。
　　　　財務担当者が、営業部長などの関係者との会議（工程会議等）や個別の打合
　　　わせで、入金・出金状況を把握していた。そして財務担当者が、そうした入金
　　　・出金状況をいわゆる資金繰表というメモに自己の覚えとして記帳していた。
　　　なお資金繰表という表は、会議で使用するためのものではなく、また会社内に
　　　報告するために作成されるものではなく、担当者のメモにすぎないのである。
　　　そして財務の担当者は入金・出金状況の変更の都度、表を訂正する。
　　　　そして前述したような緊急事態が発生した場合になって、初めて被告人も参
　　　加して対応策が講じられた。こうした事実からも「資金繰会議」なる会議はな
　　　かったのである。

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　　(2) 昭和六三年当時の財務に関する会議
　　　　被告人が参加した前述の「緊急対策会議」以外に、昭和六三年当時の入出金
　　　管理に関する関係者の会議として以下のような会議があった。
　　　　仮に検察官が主張するような「資金繰会議」があったとするなら、これらの
　　　会議は意味のない無駄な会議である。二重の会議であるからである。しかし、
　　　「資金繰会議」がなかったのであるから、右会議は意味のある会議である。
　　　①　九月二九日の夜の千尋専務・鎌田常務・福岡課長・菅原部長での会議。会
　　　　議の内容は仕事の打ち合わせ。
　　　②　一Ｏ月一六日の被告人・千尋専務・鎌田常務・高澤部長・福岡課長・菅原
　　　　部長での会議。会議の内容は建築部の建直しについてである。下川を外して
　　　　千尋専務を財務と兼務にする。そのために鎌田常務・高澤部長に入出金のチ
　　　　ェックをする体制にした。
　　　③　一一月九日の千尋専務・鎌田常務・高澤部長・福岡課長・菅原部長・石井

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　　　　部長・脇山所長での会議。
　　　④　一二月五日の被告人・千尋専務・鎌田常務・高澤部長・福岡課長・菅原部
　　　　長での会議。千尋専務を財務から外し、鎌田を財務の責任者とした。

二  昭和六三年一月の「資金繰会議」はなかった
　１　検察官の主張
　　　検察官の主張によると、本件犯行における詐欺の手段としての「二重ローン」
　　を導入することは、被告人が出席していた昭和六三年一月に行われた「資金繰会
　　議」で決せられたと言う。また検察官の主張によると、本件詐欺を実行するにあ
　　たり被告人は個々具体的に指示・命令を行ったわけではないと言う。最初に六三
　　年一月の「資金繰会議」において資金繰目的で「二重ローン」を行うことを決定
　　して、以後の詐欺行為は鎌田等に任せたと言うのである。
　　　しかし以下に述べるとおり、詐欺の手段としての「二重ローン」を導入するこ

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　　とを決定した昭和六三年一月の「資金繰会議」は、全くの架空のものである。
　２　そもそも「資金繰会議」なる会議自体は架空の会議
　　　前述したとおり、昭和六三年一月の「資金繰会議」を議論する前に、そもそも
　　「資金繰会議」なる会議自体が架空の会議である。ない会議を前提にして共謀が
　　あったとする、検察官の主張の破綻は明らかである。
　３　昭和六三年一月の「資金繰会議」がなかったことは証言・供述で明らか
　　　「資金繰会議」自体がなかったことを別にしても、昭和六三年一月の「資金繰
　　会議」がなかったことは、関係者の証言・供述で明らかである。
　　(1) 被告人及び高澤証人の供述・証言で明らかなとおり会議はなかった
　　　　「二重ローン」を導入することを決定した昭和六三年一月の「資金繰会議」
　　　なる会議は、全くの架空の会議である。そのことは被告人及び高澤証人の供述
　　　・証言で明らかである。
　　　①　「二重ローン」自体が導入された昭和六三年一月当時、右導入を決定した

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　　　　「資金繰会議」なる会議がなかったことは、被告人が警察の取調べ段階から
　　　　本件公判廷まで一貫して供述しているところである。
　　　②　また高洋証人も、初めて「二重ローン」が導入された昭和六三年一月当時
　　　　、その導入を決定した「資金繰会議」なる会議はなかったと供述している。
　　　　「二重ローン」が導入された経緯は、後述するとおり、福岡が決めたもので
　　　　会議は全くの無関係である。
　　(2) 会議があったとの証言は信憑性が全くない
　　　　これに対し、検察官の主張にそって「資金繰会議」があったと証言したのは
　　　共犯者の鎌田以外には福岡証人である。しかもいずれの証言も信憑性に欠ける
　　　もので全く信用できない。
　　　①　前述したように、共犯者の鎌田の証言は被告人に罪をなすりつけるために
　　　　虚偽の供述をしたものである。
　　　②　特に福岡証言は、後述のように同人が「二重ローン」による資金繰を発見

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　　　　・実施した張本人であるから、同人が責任をおおい隠すために虚偽の供述を
　　　　したものであり、全く信用性がない。同人の証言は全く自己弁護に終始し被
　　　　告人に罪をなすりつけるもので全く信憑性がない。
　　　③　さらにそもそも二人の証言は、ただ「資金繰会議があった」と言うのみで
　　　　あり、日時や出席者等を何ら具体的に証言できていない。さらに、このよう
　　　　なあやふやな証言以外に、昭和六三年一月に「資金繰会議」が開催されたこ
　　　　とを伺わせる資料等は一切検察官からは提示されていないのである。
　４「二重ローン」導入の経過
　　(1) 二重ローン」の導入の経過の真実
　　　　昭和六三年一月から開始された「二重ローン」ないし「二重つなぎローン」
　　　は、福岡課長が自己の資金管理に失敗した結果として月末に不足した資金の調
　　　達のために、高澤部長より資金調達方を求められて、発見・導入したものであ
　　　る。この経緯は高澤証人の証言で明らかである。

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　　　　検察官が主張するように「資金繰会議」なる会議で被告人の了承のもと開始
　　　されたものではなく、福岡が導入したものであった。
　　(2) 福岡証言の明らかな偽証
　　　　昭和六三年一月の「資金繰会議」があったことを証言した福岡は、当時会社
　　　のローン担当者であり、その証言内容は特別に重要な意味がある。すなわち、
　　　「二重ローン」ないし「二重つなぎローン」というローンに密着した資金繰方
　　　法の導入を会社が決定したことを、担当者の福岡が知らないはずがないからで
　　　ある。つまり、「二重ローン」の導入については、第三者が発見・導入したこ
　　　とを福岡が知ったか、福岡自身が発見・導入したかのどちらかである。
　　　　これに対し、真実は福岡自身が発見・導入したにもかかわらず、福岡は「二
　　　重ローン」は高澤が導入したと主張した。しかし以下のとおり、その証言内容
　　　は二転三転しており、明白に虚偽の証言をした。
　　　①　福岡は当初、検察官の尋問に次のように答えて、①二重ローンが資金繰に

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　　　　使われていることを知ったのは昭和六三年の一月頃で、②自分としては切替
　　　　えないしつなぎ換えとしての二重ローンは、当然前のつなぎに返済さている
　　　　ものと思っていたが、高澤から聞くと返済されずに資金繰りに使用さていた
　　　　ということである。
　　　　　「当然、当初は、私の考えでは、借りた段階で前のローンを返済するとい
　　　　　　うことは、当然なされていたと思ったんですが、その後、暫くして聞い
　　　　　　てみましたら、返済してなかったという事実がありました。」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（七回・一五丁裏）
　　　　　「要するに、一時期、二重の形になっているということで、返済しないん
　　　　　　ですかというふうに聞いたら、まあちょっと期間を置くというような内
　　　　　　容でした」　　　　　　　　　　　　　　　　　（七回・一六丁表）
　　　　　「期間を置いて、その間、その二重で借りたほうのローンを資金繰りに使
　　　　　　っていくということです。」　　　　　　　　　（七回・一六丁表）

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　　　②　福岡の当初の証言は、二重ローンがある一定期間行われていたが、前のつ
　　　　なぎの返済がなされていなかったというものである。ところが弁護側の反対
　　　　尋問の結果、そもそも一番最初の二重ローン自体は昭和六三年一月下旬であ
　　　　るので、昭和六三年一月に二重ローンが前のつなぎに返済されていなかった
　　　　ことを知るはずがないことが明らかになった。
　　　　　この矛盾をつかれるや福岡は次のように答えて、問題の二重ローンが資金
　　　　繰りに使用されたことを知った発端の二重ローンは、塩田さんの場合であっ
　　　　たと証言を変更した。
　　　　　「いや、そうじゃありません。この中で、一二月、協和埼玉銀行の借入れ
　　　　　　で塩田寛さん、四五〇万円、これの借入れの前に、この塩田さんはファ
　　　　　　ーストファイナンスから一一〇〇万円の借入れを行っているんですね。
　　　　　　この№２の右の欄ですね。こちらでこの返済期日が、約定返済が六二年
　　　　　　の一二月の二一日になっております。それで、こちらも期日が到来して

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　　　　　　おりまして、返済しなきゃいけない時期なんですが、この六二年の一二
　　　　　　月の三〇日に塩田さんが四五〇万円協和埼玉で借入れを起こしています。
　　　　　　これをもって期日到来しているものを部分的にも充当しなければいけな
　　　　　　かったところをしなかったと。このことを、私、返済しなかったという
　　　　　　のに気がついたというのは、このことを指して言ったことなんです。」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（八回・三五丁表）
　　　③　ところが弁護側の反対尋問によって、塩田さんのこの四五〇万円のつなぎ
　　　　が二重ローンではなく単なる追加融資であることが明らかになると、福岡は
　　　　今度は次のように証言して、住宅金融公庫の実行分をファーストファイナン
　　　　スに返済していないことが、二重ローンの不正利用だと主張した。つまり、
　　　　二重ローンによる会社資金繰りではなく、公庫の実行金の資金繰りだと言っ
　　　　たのである。
　　　　　「この一一〇〇万円のファーストファイナンスの返済、これが住宅金融公

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　　　　　　庫の実行が確か先にあったはずなんです。それが返済されてなかったと
　　　　　　いうことだったと思うんですね。ですから、先程申し上げた年金の四五
　　　　　　〇万円の実行をして、借入れをしても、なおかつ住宅金融公庫のほうの
　　　　　　返済をしなかったということで、私は聞いたんだと思うんですね。」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（八回・四〇丁裏）
　　　　　「住宅金融公庫が実行になっていたはずなんです、これは。それで、ファ
　　　　　　ーストファイナンスに返済してないわけです。期日に。このことが初め
　　　　　　てだったというふうに記憶が戻ってきたんです」（八回・四二丁表）
　　　④　そして次のように証言して、公庫の実行金の資金繰り利用を契機に二重ロ
　　　　ーンの資金繰方法を高澤が発見したと主張した。
　　　　　弁護人の「公庫のお金を返さないでということを発端にして、こういうこ
　　　　とを思いついたんだというように説明したんですか」という問いに対して、
　　　　「気がつかないよという説明はありました」

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－

　　　　「これは金繰りに使えるんではないかと」　　　　　（九回・二三丁表）
　　　⑤　しかし、高澤証言によると、公庫の実行金は一旦は塩田さんに送金され、
　　　　その後の一二月〇日に会社の銀行に振り込まれ、ファーストファイナンスに
　　　　は一月一四日に返済されている。年末年始の期間があったため多少返済時期
　　　　が遅れただけなのである。福岡が証言するような疑問点及び問題点は全くな
　　　　いのである。

三  平成二年九月から一一月にかけての共謀はなかった
　１　そもそも「資金繰会議」なる会議自体が架空の会議
　　　前述したとおり、そもそも「資金繰会議」なる会議自体は架空の会議である。
　　従ってない会議を前提にした、各被害者に対する共謀をはかった場は被告人が出
　　席した平成二年九月から一一月の「資金繰会議」であるとの検察官の理論構成の
　　破綻は明らかである。

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　２　謀議の証拠とされた「被告人が記入した資料」の実態
　　　しかも、被告人が出席した「資金繰会議」があった証拠だと検察官が主張して
　　いる「被告人が記入した資料」は、後述するように、被告人が鎌田から個人的に
　　受領したもので、何ら会議とは関係ないものであることは明らかである。
四　「二重ローン」について被告人が理解していた意味
　１　「二重ローン」について被告人は資金繰目的である意識はなかった
　　　前述したとおり、会社においては資金繰りを目的とした会議は開かれていなか
　　った。従って、右会議で会社資金繰りに使用するために「二重ローン」を行って
　　いるなどという報告もあったということもない。
　　　また以下の述べるとおり、会議とは別に被告人に対して「二重ローン」につい
　　て報告があったこともない。「二重ローン」について被告人は資金繰りのために
　　行っていたという認識は全く持っていなかった。

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　２　つなぎ融資の手続きはすべて財務及びローン担当が行っていた
　　　会社においては、特に代表取締役である被告人は、各部署の仕事をその担当者
　　に任せる形で仕事をさせてきたこと、そのやり方等については、すでに被告人質
　　問でも供述しているとおりである。
　　　特に注文住宅建築という営業形態は注文棟数によって収支がほぼ推定できるこ
　　とから、社内では注文棟数を把握していくことで会社の財務状況の概況を把握で
　　きたのである。そのため、会社においては、月々の資金ぐりは財務担当にまかさ
　　れており、特別の問題が生じた場合以外は資金繰りに関する会議が持たれていた
　　事実はない。
　　　この点については、高澤証人が再度の証言において、明確に証言しているとお
　　りである。つなぎ融資の実際の手続きは財務担当及びローン担当で行い、その内
　　容を社内で随時報告するということはなかったのである。
　　　このような状況の下で、被告人は、つなぎ融資制度を導入するということにつ

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　　いては相談を受け、了解していたが、どの顧客につなぎ融資を受けるかどうかと
　　いう点については全く関知していなかったのである。
　３「二重ローン」について被告人は「つなぎローンの切替え」と理解していた
　　(1) 被告人は「つなぎローンの切替え」と理解していた
　　　　被告人は、昭和六三年四月頃に財務担当者が作成していた、いわゆる資金繰
　　　り表を入手した。右表に「ダブリ借入」等の記載があることについて、被告人
　　　は当時の財務担当者である高澤から、一回目のつなぎ融資の借り換えをすると
　　　いう趣旨の説明を受け、「つなぎローンの切替え」と理解していた。
　　　　また、その後に、福岡からは「（一回目のつなぎ融資の）返済期間が来て工
　　　期がまだ終わっていないときにこうやるんです」という説明を受けている。
　　　　右のような経過から、被告人は「二重ローン」の意味については、「つなぎ
　　　ローンの切替え」「借り換え」と理解していたのである。
　　　　なお、当時この「二重ローン」について、財務やローン担当者のところでは

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　　　「付け換え」「切り換え」「ダブル」「ダブル借入」「ダブルつなぎ」などと
　　　いう言葉が使われていたが、被告人の理解としては、いずれの場合も何ら問題
　　　のないいわゆる「借り換え」の理解だったのである。
　　（２) 担当者以外は「二重ローン」の実態を知らなかった
　　　　以上のように被告人は、会社で実際に行われていた「二重ローン」について
　　　正確な知識を有していなかった。そのため会社が倒産し、本件裁判の審理が開
　　　始した後も、被告人は、「二重ローン」を導入した当初は資金繰目的ではない
　　　正規の「借り換え」で行われたと理解していた。そしてその後、財務担当者や
　　　ローン担当者のところで、工事期問の遅延及び最初のつなぎの返済期限とは関
　　　係なく、資金繰りのみを目的として次第に早期に借入をするようになってしま
　　　ったのだろうと理解していたのである。
　　　　この点は財務担当の鎌田や高澤に対する弁護人の反対尋問にも現れていると
　　　おりである。

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　　　　ここで重要なことは鎌田の証言である。鎌田は右のように「二重ローン」借
　　　入の当初半年ほどの間は、「二重ローン」は問題のない「借り換え」であった
　　　ことを認めている。このことは当時、財務担当でもなく、またローン担当者で
　　　もなかった鎌田も、社長である被告人と同様の理解をしていたという証拠であ
　　　る。つまり当時、「二重ローン」を行っていた担当者以外はその内容について
　　　の正確な知識を持っておらず、被告人と同様問題のない「借り換え」という認
　　　識しかなかったのであり、自分が財務担当になってその後はじめて本件で問題
　　　となっているような「二重ローン」のやり方を知ったのである。
　　(3) 資金繰表から問題のある「二重ローン」かどうかはわからない
　　　　なお被告人は、何枚かの資金繰表を手渡しやファックスという方法で受け取
　　　っている。しかし、これら資金繰表をみても、つなぎ融資の返済時期は不明で
　　　あり、資金繰りのために返済期日とは関係なく「二重ローン」を組んでいる事
　　　実は全く分からない。すでに高澤の証言でも明らかなとおり、「資金繰会議」

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　　　も開かれている事実もなく、被告人が受け取っている資金繰表についても各顧
　　　客についての説明を受けることもない状態で、問題のある「二重ローン」が行
　　　われているという事実は全く認識しえない。

五　経営委員会による被告人の経営から排除
　１　経営委員会ができる前の状況
　　　会社では、社長である被告人が注文住宅中心の営業方針であったのに対して、
　　平成元年ころから、専務の三宅千尋、財務の鎌田、船橋営業所所長の脇山らは不
　　動産売買をした方が儲かるという意識で、被告人の方針に反対する動きが強まっ
　　た。さらに、被告人が大手企業との業務提携の方針を立て、具体的に交渉を進め
　　ていたが、右の者らはこの点についても明確に反対の立場をとっていた。
　　　右のような対立がある中で、鎌田らは平成元年秋ころには被告人に対して高澤

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　　らをやめさせろなどと人事に関する圧力をかけるなどを行う中で、次第に被告人
　　を排除する体制を固めていった。
　２　経営委員会の発足と会社の運営
　　　平成二年三月末、突然被告人は、脇山から今後は経営委員会を設置して会社運
　　営をしていく旨の通告をされた。同時に社内の体制もすでに組織図がつくられて
　　おり、以後、社長である被告人・高澤・社長秘書の正田の三名を排除した形で、
　　会社の運営がなされるようになった。
　　　特に鎌田、脇山ら数名によって経営委員会の事務局が設置され、会社経営及び
　　経営委員会の運営は右事務局でまわしていた。ただし、対外的なことまで全部ま
　　わしていくだけの力量はなく、被告人を完全に社長から外すことはできず、形の
　　上では被告人はあくまで社長であった。
　　　経営委員会は、定期的に会議を開き、会社の重要事項を決定して行った。被告
　　人らはこれから全く排除され、会議の開催通知さえされなかった。

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　３　経営委員会当時の被告人の行動
　　　右のような形で経営委員会が発足し、会社運営からはずされた被告人が何より
　　も恐れたのは、目にみえる利益だけを追求する鎌田らが、経営が困難な事態にな
　　って無責任に運営を放り出すような事態であった。そこで、被告人らは仮にその
　　ような事態になっても経営を存続させていくことができるように、別口座を設け
　　て資金準備をしていたことをはじめとして、工事現場の監督と営業を継続してい
　　くため、平成二年七月には女性二名、一〇月には営業の男性二名を、本来の会社
　　の採用とは別途独自に採用して仕事をしていたのである。
　　　また、仕事の場所も、経営委員会ができた当初はツーバイ技研の方にいたが、
　　七月ころに平和ホームズに移動した。といっても、六階の通路にいるという状態
　　であった。
　４　経営委員会による乱脈経営の実態
　　　問題となるような「二重ローン」や秩父の土地に対するオーバーローンによる

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　　不正常な経営は、後に判明したことではあるが、鎌田が財務担当になってから顕
　　著になり、やがて経営委員会になるとその度を増していった。
　　　例えば、会社帳簿上、現金勘定がマイナスになっているとか、会社のメインバ
　　ンクである第一勧銀の当座残高のマイナスが三〇〇万円の枠を超えている（これ
　　以上のマイナスでは手形不渡を出しているはずであり、実際にはあり得ないこと
　　である）という状態であったことが、現在になって判明した。
　　　このような目茶苦茶な財務管理は、仮りに検察官主張のように社内で定期的に
　　資金繰り会議が行われ、ときどきの財務状態の報告がなされ、検討されていれば
　　あり得ない話である。
　５　経営委員会の崩壊
　　　経営委員会による被告人排除の状況が解消したのは、平成三年一月の新年会で
　　、専務が「経営委員会は失敗だった」と宣言し、その後、鎌田が「すまなかった
　　」と被告人らにあやまった以後のことである。経営委員会体制は被告人らを排除

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　　したが、その体制はいいかげんなもので、その下で前述したとおりの杜撰な運営
　　がなされ、次第にその体制は崩れていった。
　　　しかし、同年一〇月にも、被告人は会社とは独自に男性の営業社員二名を採用
　　し仕事をしているという状況であった。この営業社員が他の営業社員と同室で一
　　緒に仕事をするようになったのも平成三年一月になってからだったのである。
　　　ただし、経営委員会は、杜撰な営業を行っていたのに加えて、平成二年秋に金
　　融機関の方でつなぎ融資制度を行わなくなるという事態になったのを契機に運営
　　にゆきづまり急速にその体制は崩れていったことは事実である。そのような中で
　　、一一月二三日、何とか被告人が臨時の株主総会を開くことができ、これを境に
　　次第に被告人が社長としての実質的な地位を回復していった。
　　　すでに証言した経理の小田課長も、社長が経営委員会の人と話をしているのを
　　見て、同人らの関係に変化があったと感じたのは一二月になってからだと証言し
　　ている。

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　６　本件公訴事実は経営委員会体制の下で行われた
　　　以上のとおり、本件公訴事実の三件の「二重つなぎローン」が行われた時期は
　　、平成二年九月から一一月までの間であり、経営委員会体制が継続していた時期
  　のことである。すでに述べたとおり、もともと、「二重つなぎローン」について
　　被告人は全くその事実を知らず、財務担当及びローン担当の部署で行われていた
　　ものであるが、「二重つなぎローン」の実態を整理してみると、実際には鎌田が
　　財務担当の当時に数も頻繁となり、さらに、経営委員会になりその経営がますま
　　す杜撰になっていく中でエスカレートしていったものである。

六　本件公訴事実の共謀の証拠とされた資金繰り表の被告人のメモの作成状況
　　検察官は、本件公訴事実について、各被害者の名前が書き込まれている資金繰り
　表を提出し、特にそこに被告人のメモが書き込まれていることから、右資金繰り表
　が資金繰り会議に提出され、そこで報告を受けた内容を被告人が書き込んだものと

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　し、これによって共謀が成立したと主張している。しかし、これは全く事実に反す
　る。被告人は、当時の財務担当の鎌田から直接聞き取りメモしたものである。
　１　被告人が鎌田と接触した理由
　　　被告人が受け取っている何枚かの資金繰り表のうち、右のような被告人のメモ
　　があるのは経営委員会が設置され、被告人が会社経営からはずされていた当時の
　　ものだけである（ちなみにこれら被告人のメモが資金繰り会議で書き込まれたと
　　いうのであれば経営委員会以前の資金繰り表にも被告人のメモがあってしかるべ
　　きであるのに、それ以前にはメモはない）。
　　　被告人は経営委員会ができた後も、経営委員会のメンバーがいずれ自分の経営
　　方針を理解して協力して会社運営ができるという期待と自信をもっていた。そこ
　　で、前述したとおり、万一の場合に備えて別口座に資金を用意したり、別途社員
　　を採用してその支えとなるような形を整えていた。
　　　しかし、経営委員会の当時、会社全体の財務状況が以前のように把握できなく

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　　なってしまったことから、何より不安なのは経営委員会のメンバーが自らの杜撰
　　な運営の結果どうにも立ちゆかなくなり突然仕事を放り出すような事態になるこ
　　とであった。さらに、一日も早く経営委員会のメンバーとの関係を修復するため
　　に、被告人は最も自分に近いのは鎌田であると考えていたため、まず鎌田との関
　　係を蜜にしていくことを考えていた。しかし、経営委員会との関係上、昼間、他
　　のメンバーがいるところで鎌田に親しく話すこともできない時期であったため、
　　被告人は夜、会社に他の社員がいないくなってから鎌田のご機嫌を伺いながら「
　　会社の状況はどう？」といって話をしていったものである。
　２　メモを書き入れた状況
　　　鎌田は当時、会社に一人深夜までいたことが多く頻繁に会社に泊まっていた。
　　鎌田は通常、夕方食事のために外出し、多くの場合飲んで会社に帰ってきた。被
　　告人は、鎌田と接触したいと思ったときにはおそくまで会社で待っていて話をし
　　たのである。しかも、鎌田の機嫌をみて話ができそうだと判断したときに声をか

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　　けていったのである。
　　　被告人が鎌田に話をした目的は前述したとおり、財務の大まかな状況を把握す
　　ることと、鎌田との関係を蜜にすることであった。「会社の状況はどう？」「入
　　出金予定表もらえる？」などといいながら、鎌田がもっているときには出しても
　　らい、それを口実にいろいろな話を仕向けていったのである。ただし、鎌田が多
　　くは酔っているため、時間をかけて話をしなければならなかったが、ときには鎌
　　田が眠ってしまうこともあったというのである。
　　　以上、鎌田との接触時の気持ちや実際の状況についての被告人の供述は具体的
　　であり、信用するに値するものである。前述したとおり、なぜ、それまでの資金
　　繰り表にはメモが全くないのに、資金繰り表に異常に多くの書き込みがあるのは
　　経営委員会当時のものだけという事実も被告人の供述の信憑性を逆に裏づけるも
　　のである。


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