朝日新聞が倒産事件を刑事事件にフレームアップした                               平成10年3月10日                               平成14年6月21日改訂                                  三宅 喜一郎  はじめに  「火の無い所に煙は立たない」という諺があります。が、人の世は、結構、火の無い所 に煙が立ちます。心ない者の噂話、予断・偏見を持つ者の悪口雑言、悪意を持つ者の巧妙 な中傷・デマ……。マスコミもやります。周知の例は、松本サリン事件です。河野義行さ んは、犯罪とは全く関係がないのに、新聞・テレビ等から犯人扱いされました。オウムが 浮上して来なければ、冤罪事件に発展したことでしょう。  私が社長を勤めていた兜ス和ホームズの場合もまた、朝日新聞から煙を立てられた事件 です。しかし残念なことに、冤罪事件に発展してしまいました。  平和ホームズは、昭和50年7月に、よい住宅を安く供給しようという夢の下で、ツー バイフォー住宅の建築請負会社として設立された小さなベンチャー企業でした。しかし、 平成3年3月、倒産しました。水に落ちた犬は打ちやすいのかも知れません。ですが、朝 日新聞から非難された「悪徳商法」の事実はなかったのです。  はじめに、誤解のないように申し上げておきます。  私は、会社の倒産によって、お客様、下請職人さん、資材業者さん、その他の債権者の 方々に、多大の損失を与え、大変なご迷惑をおかけしました。また、私を支援してくれた 元社員や友人、平和ホームズの住宅に住んでおられる多くの方々にも、ご迷惑をおかけし ました。本当に申し訳ないと思っております。  これまで機会あるごとに出かけ、お詫びして参りました。当たり前ですが、倒産騒ぎの 沈静化や倒産による損失の弁償などについても、妻や友人の協力を得て、出来る限りのこ とをして参りました。これらの点に関し、私は非難を受けるような振る舞いをしたことは 一度もありません。今後も無いことを言明します。  それでもなお、会社倒産に関する諸問題について、会社や元社長の対応が批判されるの であれば、それは真摯にお聞きします。正当な批判であれば受け入れるのに躊躇はありま せん。  しかしながら、朝日新聞は、偏った情報提供者の話を鵜呑みにして裏付け調査をせずに、 あるいは、その話がウソであると知りつつ、「二重ローン」詐欺事件をフレームアップし、 世間を煽り続けたのです。その執拗な誤報を受けて、警察が、告訴人らと共に供述を捏造 したり、不都合な証拠を隠蔽したりして、「二重ローン」詐欺事件をデッチ上げました。 かくて、平和ホームズの倒産事件が冤罪事件に発展してしまったのです。  以下、私がそう考える根拠を説明したいとおもいます。 1、朝日新聞が「二重ローン」詐欺事件をフレームアップして世間を煽った  朝日新聞だけが、平和ホームズの倒産事件を「二重ローン」詐欺事件にフレームアップ して世間を執拗に煽り、しかる後に、警察が捜査に入り、私三宅らの逮捕に動いた──。 これが客観的な状況事実です。まず、その事実関係を明らかにします。  表Aをご覧下さい。  表Aは、平成3年の2月27日(不渡りの前日)から4月30日(警察の会社への家宅捜索 の日)までの、主な出来事を拾い出したものです。朝日新聞の報道(第一報)は、お客の 一人が警察署に告訴状を出したのと同日であり、まだ、警察が捜査を開始する前である、 と分かります。ちなみに、4月30日の家宅捜索以後、警察は、破産事務を行っていた会社 事務所に気楽に出入りして、私たちから事情聴取していましたが、その際、事前に内偵し ていたという話は聞いたことがありません。このことからも、朝日新聞の報道は、警察の リークに基づくものではなく独自の取材に拠ったものである、と私は判断しています。 表A: ──────────────────────────────────────────────────  年月日          出  来  事 ────────────────────────────────────────────────── 91/02/27  テレビ朝日が、お昼のワイド番組で、平和ホームズは悪質な会社であるかのように報道。       「会社整理」による再建手続きを依頼していた会社の顧問弁護士が辞任。 91/02/28  第一回不渡り。三宅、書物で知った才口千晴弁護士に電話。和議による再建手続きを依頼。 91/03/01  三宅、才口弁護士事務所を訪ね事情説明。手続き依頼。その最中、第二回目の不渡り発生。       会社の物品が盗まれ、三宅の自宅庭が荒らされ始める。 91/03/04  三宅の妻(教師)、急遽自宅近くに仕事場を借りて移る。 91/03/05  深夜、移転先で、三宅の妻がお客の石田克史夫婦から佐藤忠宏弁護士事務所に拉致され「隠し金を       出せ。出さなければ新聞に書いて大学におれないようにしてやる」と脅迫さる。 91/03/06  三宅、才口弁護士らの助言を容れて、和議による会社再建を諦め、会社と自分の自己破産を決意。 91/03/07  日経、毎日、読売等「平和ホームズ事実上倒産」と小さく報道(朝日の報道はなし)。 91/03/11  会社と三宅個人の自己破産申立書を才口弁護士らが取り急ぎまとめて東京地裁に提出。       併せて「以後裁判所の指示に従って欲しい」旨の要請文を債権者に郵送(前日夜)。 91/03/13  お客の石田克史、社長三宅と常務鎌田次朗を世田谷区の北沢警察署に告訴。       朝日新聞(夕刊)「二重ローン組ませ事業資金に」と大きく報道。 91/03/20  破産宣告。 91/03/21  お客のTさんから、問題の「二重ローン」は負担なしで済みそうだとの連絡があった、と常務の       鎌田次朗が破産管財人や三宅らに報告。 91/04/04  朝日新聞(朝刊)「被害、六十数人に」と続報。(以後も、表Bのように煽動的報道) 91/04/05  「被害者の会」結成。告訴人石田克史が代表世話人に就任。テレビ・新聞で報道さる。 91/04/18  お客の篠田勉、三宅、鎌田、高澤正比古を新宿区の戸塚警察署(平和ホームズ本社近く)に告訴。   ?   お客の麻生英夫、三宅、鎌田、清水宏悦を戸塚警察署に告訴。 91/04/30  警察、会社を家宅捜索。 ──────────────────────────────────────────────────  次に、表Bをご覧下さい。  表Bは、事実上の会社倒産から平成4年7月20日に私たちが突然逮捕されるまでの、約 1年4ヶ月の間に、朝日、毎日、読売の3紙が平和ホームズに関してどのような報道をし たか、を示したものです(大見出しのみ。切り抜きと商業データベースを利用して作成)。 朝日新聞だけが執拗に、平和ホームズは「二重ローン」詐欺等をやっていたと煽っている のが分かります。警察が家宅捜索に入り、逮捕に動いたのは、その後です。 表B: ──────────────────────────────────────────────────  年月日     朝日新聞            毎日新聞            読売新聞 ────────────────────────────────────────────────── 91/03/07      ────       (朝刊)不動産販売の「平和ホ  (朝刊)建築・不動産会社の (倒産記事)                    ームズが事実上倒産      平和ホームズが倒産 91/03/13 (夕刊)二重ローン組ませ         ────            ────               事業資金に 91/04/04 (朝刊)被害、六十数人に         ────            ──── 91/04/06 (朝刊)被害者の会を結成    (朝刊)破産宣告受けた「平和       ────                        ホームズ」被害者の会発足 91/04/10 (夕刊)無断でローン           ────            ────              2800万円 91/04/26 (朝刊)平和ホームズ子会社        ────            ────                 が破産 91/04/30  <家宅捜索> 91/05/09 (朝刊)ノンバンク 平和ホー       ────            ────             ムズに過剰融資 91/12/18 (朝刊)事件ひと模様 1         ────            ────              ’91警視庁 92/07/20 (夕刊)住宅ローン流用容疑   (夕刊)二重ローンで5億円   (夕刊)建築代2億7000万 (逮捕記事)                           詐取           詐取容疑 ──────────────────────────────────────────────────  以上は一つの状況事実にすぎません。しかし、マスコミと警察は同じベッドの中の恋人 同士のようなもの、と揶揄される間柄です。そのことを考え合わせると、朝日新聞が執拗 に誘ったので警察がその気になった──、と見るのが自然ではないでしょうか。 2、朝日の記事は、裏付け調査を欠いた誤報であり、ウソである (1)、朝日の執拗な報道の主旨  朝日新聞が平和ホームズを非難し続けた報道の主旨は、「お客を騙して『二重ローン』 を組ませ、土地開発の事業資金に流用した。悪徳商法だ」というものです。要するに、自 分の利欲のためにお客を食いものにした、というのです。  記事の要点を拾い上げると、次の通りです。  91/03/13夕刊:    「(平和ホームズは)住宅建築の依頼者にローンを二重にかけさせて事業資金など   に回し、そのまま事実上倒産した」「依頼者は借金が二倍になった」「住宅金融公庫   の融資を受けるまでのつなぎとして……融資を受け、工事代金として平和ホームズに   支払った。ところが、……同社の役員から『信販会社の融資枠には限りがある。ほか   にも借りたい人がいるので他社の融資に切り替えてもらえないか』と繰り返し説得さ   れ、別の金融会社でローンを組みなおし……渡した。しかし、平和ホームズはこれを   信販会社への返済にあてず、事業資金に回していた」「被害者の一人は『最初から事   業資金に流用する目的で融資の切り替えを持ちかけたとしか思えない』と話している」   「平和ホームズ側はローンの返済にあてるべき金を事業に回していたことを認めた(*)」   「民間の信用調査機関によると、……開発用の土地取得などから借り入れが増加、資   金繰りが苦しくなっていたとみられる」    (*)この話を誰がしたのか不明です。元社長の私は、朝日新聞から取材を受けたことも取材の申入れ      を受けたこともありません。勿論、2002年6月の今日に至るまで。  91/04/04朝刊:    「被害者は二重ローン分を含め六十数人、被害額は約五億円にのぼる」「事業資金   に流用されていた『二重ローン』が、13件、1億9290万円ある」  91/04/06朝刊:    「平和ホームズの被害者約80人が5日、都内で会合を開き、「被害者の会」が結   成された」  91/04/10夕刊:    「(二重ローン)とは別に、ほとんど家の完成した依頼者に不必要な短期のローンを   持ちかけたり、本人に無断で融資申し込み書を作成……約二千八百万円を金融機関か   ら受け取り、返済していない」  91/04/26朝刊:    「平和ホームズの子会社『ツーバイホーム技研』に対して、東京地裁は25日、破   産を宣告した」  91/05/09朝刊:    「ノンバンクから(土地を担保に)計40億円を借りていたが、多くのケースで過   剰融資になっていたといい、被害者から集めた金のかなりの部分がこの40億円の利   払いに消えたとみられる」「同社は資金繰りに困り、ノンバンクから融資を受けては   土地購入価格との差額を事業資金に回していたとみられる」  91/12/18朝刊:    「世田谷区のA子さん、……『なぜこんな仕打ちを受けるのか。人生を捨てたも同   然だと思いました』」「信販会社とは、ほとんど債務を帳消しにする和解が成立した」   「子どもたちは、悪徳商法の被害にあったことを、まだ知らない」  以上の記事中、倒産による債務不履行の額はその通りです。但し、「二重ローン」に関 しては、次節以下で述べるように、偏った取材と裏付け調査なしの無責任な誤報、あるい は、ウソを書いた悪意の誤報です。これらの執拗な誤報によって、悪徳イメージが世間と 司法関係者に刷り込まれ、冤罪事件に発展した、と私は考えています。なお、91/04/10の 夕刊は、「二重ローン」とは関係ない事件を扱っています。この事件こそ、犯罪を問われ ても仕方がないものです。ですが、不思議なことに、立件されませんでした。 (2)、朝日の「二重ローン」は、裏付け調査を欠いた誤報である  お客は「二重の借金を負わされた」──。朝日新聞は、そう主張し、そのような状態を 「二重ローン」である、と言っています。  平和ホームズに「二重ローン」というレッテルを貼ったのは、朝日新聞が最初です。商 業データベースで調べてみると、企業を非難するレッテルとして「二重ローン」という言 葉が使われたのも、平和ホームズの場合が最初のようです(*)。つまり、「二重ローン」 は、朝日新聞が発掘した新種の企業犯罪というわけです。事実なら、朝日新聞のお手柄で しょう。  (*)平和ホームズ事件発生の2年ぐらい後(まだ一審の審理中)、同様の事件らしいものとして、東京の     住宅販売会社「三友工務店」と福岡の住宅販売会社「興栄ホーム」の事件が派手に報道されています。  だが、こと、平和ホームズに関する限り、「二重ローン」は実在しません。そのことは、 契約書を見れば明白です。にもかかわらず、朝日の記者は、情報提供者の話を鵜呑みにし、 契約書の確認という簡単な裏付け調査をせずに、「二重ローン」を煽り続けたのです。  ・朝日の「二重ローン」主張は、前提が間違っている  「二重ローン」というレッテルは、“住宅ローン”が二重に……、という誤解を与え、 人々の憎悪を増幅します。が、このローンは、住宅ローンのことではありません。住宅ロ ーンを二重に借りることは、抵当権設定の関係で不可能です。にもかかわらず、朝日新聞 は、「二重ローン」、あるいは、「ローンを二重にかけさせた」という言葉を多用して、 そのようなイメージを世間に煽り続けたのです。  しかし、記事の中身を注意して読むと、「二重ローン」について、一応このように説明 しています。    お客は、住宅金融公庫の住宅ローンが融資実行されるまでの間、平和ホームズに紹   介された信販会社からつなぎ融資を借り、建築代金として支払っていた。ところが、   平和ホームズから、信販会社の融資枠がいっぱいになったので別の金融会社に借り替   えて欲しいと言われて借り替え、その融資金を渡した。しかし、平和ホームズは、そ   の金を信販会社に返済せずに土地開発の事業資金に流用したまま倒産した。お客はロ   ーンを二重に負った。お客の一部は「最初から騙すつもりだったとしか思えない」と   話している。  この説明は、ローンを“つなぎ融資”であると捉えた点では正しいけれども、そのつな ぎ融資を「お客が借りた」と単純に解した点で、基本的に間違っています。つまり、「二 重ローン」の主張は、そもそも、その前提から間違っていたのです(*)。  (*)裁判官たちもまた、検察官による証明がない上、私が「お客が借りた」場合もあると一審「陳述書」     で指摘し、弁護人がノンバンクのつなぎ融資は実質的に会社の借入であった旨を控訴趣意書補充書で     主張しているのに、全て「お客が借りた」ものと前提して「二重ローン」詐欺を判定しました。朝日     新聞の影響でしょうか。呆れます。  ・つなぎ融資には、「お客が借りる」と「会社が借りる」の二種類がある  つなぎ融資には、「お客が借りる」ものと「会社が借りる」ものとの二種類があります。 朝日新聞はこれを混同したのです。建売住宅やマンションの“売買”で利用されるつなぎ 融資は、「お客が借りる」が正しい。しかし、平和ホームズが注文住宅の建築“請負”で 利用していたつなぎ融資は、違います。多種多様な形態があったのです。借主の点で見る と、「お客が借りる」もありますが、大部分は、「会社が借りる」なのです。  建売住宅など不動産“売買”の場合には、普通、物件の“引渡時”に手付金以外の残代 金を支払います。しかし、住宅金融公庫など公的住宅ローンの実行は、登記の関係で、物 件引渡の1ヶ月半以降になります。このような場合に利用するのが、不動産売買の場合の つなぎ融資なのです。お客は、銀行などの金融機関に公的住宅ローン実行金の代理受領権 を渡してつなぎ融資を借り、そのお金を不動産業者に支払います。そうすることによって、 不動産業者から物件の引渡しを受けることが出来る、というわけなのです。なお、この種 のつなぎ融資は、次に述べる注文住宅建築の場合でも、住宅の完成“引渡時”に、お客が 借りることができます。  この、物件“引渡時”に、公的住宅ローン実行金の代理受領権を銀行などの金融機関に 渡して、「お客が借りる」つなぎ融資は、住宅ローンの本でも紹介されており、多くの人 が知っていることと思います。ちなみに、この種のつなぎ融資の金利は、お客が直接金融 機関に支払います。  注文住宅の建築“請負”の場合には、一般に代金支払方法が、契約時、(着工時)、上棟 時、完成引渡時というように、3回以上に分かれます。その内訳も、契約時に2割以上、 完成引渡時に3割4分以下となるのが普通です。しかし、公的住宅ローンの融資実行は、 住宅金融公庫の場合には、上棟検査後に6割、完成引渡後に4割。年金融資の場合には、 さらにその後、という具合です。したがって、契約時や着工時に、お客が公的住宅ローン の代理受領権を金融機関に渡してつなぎ融資を借りることは、当時、不可能だったのです。 そこで、お客からの建築代金支払いがなくて困った中小企業平和ホームズとしては、でき るだけ“契約時”から資金が得られるように各ノンバンクと相談して、様々な金融商品を 援用していったのです。その結果、大部分は、平和ホームズへの信用貸し(無担保融資) となったのです。  ちなみに、この、“契約時”から、無担保で、「会社が借りる」つなぎ融資の金利は、 平和ホームズが全額ノンバンクに支払っています。このつなぎ融資を使いはじめて二年以 上も経ってから、それでは、お客は本来支払うべきつなぎ融資の金利など数十万円をまる まる得し、平和ホームズはその分損している、ということに気付き、お客に応分の負担額 を、平和ホームズに、支払ってもらうようにしたのです(*)。  (*)こんなトロイことをしていたから倒産した? 社長の管理責任が問われても仕方がないところです。  ・朝日新聞は、二種類のつなぎ融資を混同した  記事中のつなぎ融資には、信販会社のものと「別の金融会社(ノンバンク)」のものとが ありますが、それらはまさに、以上の二つの融資形態に対応するものだったのです。朝日 新聞は、それを混同して「二重ローン」を煽ったのです。  信販会社のつなぎ融資は、「事件」当時、メインのつなぎ融資として利用されていたも のです。公的住宅ローンを借りる予定のお客と平和ホームズとが、注文住宅の建築“請負” 契約を締結した時、すなわち、“契約時”から、利用できるものでした。但し、それは、 お客を借入名義人にした平和ホームズへの信用貸し(無担保融資)だったのです。信販会 社と平和ホームズとの基本契約で無担保融資枠が設定されており、その枠内で、お客を借 入名義人、平和ホームズを連帯保証人として申し込めば、融資金は金利を差し引いて平和 ホームズに一括送金され、返済日になったら平和ホームズが融資額の全額を一括返済する、 という手続きになっていたのです。お客は、借入名義人ですが、担保提供もせず、信用調 査も受けません。契約書上も、実際上も、融資金に触ることすら出来ない、というものだ ったのです。  一方、「別の金融会社」のつなぎ融資も、次第に利用されるようになっていましたが、 平和ホームズが利用していたノンバンクのつなぎ融資形態としては、例外的なものでした。 それは、お客から土地担保を取り、工事着工確認後に、お客に貸す、という契約内容です。 融資金は金利を差し引いてお客の銀行口座に送金され、その回収は、住宅の完成“引渡時” に公的住宅ローンの代理受領権を取る等の方法で行なわれていました。平和ホームズとの 基本契約はなく、平和ホームズは、その「別の金融会社」をお客に紹介するだけの役回り でした。引渡前に融資実行があるとはいえ、お客に貸す(「お客が借りる」)、融資金は 代理受領権を取る等の方法で回収する、等の点で、不動産売買のつなぎ融資と同じでした。 それはまさに、朝日新聞が言うところの、お客が借りて、平和ホームズに建築代金として 支払うためのつなぎ融資だったのです。しかし、土地担保が必要という点で、お客からも 嫌われていました。  そこで、平和ホームズは、「会社の借入である」信販会社のつなぎ融資と「お客の借入 である」「別の金融会社」のつなぎ融資については、次のような関係で使い分けるように なったのです。  まず、信販会社のつなぎ融資を借りる。返済日が来たら、会社に資金的余裕がある時は 手許資金で返済する(*1)。余裕がない時は、返済日が近づいているものを選んで、 「別の金融会社」のつなぎ融資に「切り替え」る。つまり、お客に、信販会社の形式的な 借入名義人から「別の金融会社」の実質的な借入人に変わってもらう──、という具合に です(*2)。  ところで、信販会社の融資枠は、何時もいっぱいになっており、平和ホームズは、毎月、 返しては借りる、ということを繰り返していました。そこで、担当者がお客に対して「融 資枠がいっぱいになったので……」と言ったものと思われます。  なお以降、お客は、住宅の完成引渡時になったら、公的住宅ローンの代理受領権を「別 の金融会社」に渡して、自分が借りたつなぎ融資を返済する。そして、毎月、公的住宅ロ ーンを返済していく──、というようになります。周知のつなぎ融資を借りたのと同じ手 続きです。  (*1)この場合、お客の住宅建築費はすべて会社の資金で賄うことになります。貧乏会社のくせに、こんな     いい加減なことをするから倒産した? これもまた、社長の管理責任が問われるところです。  (*2)このような「切り替え」は、昭和63年1月から行うようになりました。その組み合わせは、厳密に     言えば、「会社の借入」と「会社の借入」、「会社の借入」と「お客の借入」の二通りがありました。     しかし、担当者は、最初の1年半位は、みんな「会社の借入」と「会社の借入」だ、という感覚だっ     たようです。会計帳簿を見ると借入金勘定で処理しているからです。  ・記者は、契約書を見ずに「二重ローン」の誤報を続けた  つまり、信販会社のつなぎ融資は平和ホームズの借入であり、「別の金融会社」のつな ぎ融資はお客の借入だったのです。したがって、極端に言えば、信販会社のつなぎ融資と 「別の金融会社」のつなぎ融資を同時に利用したとしても、お客が二重に借金を負った、 ということはあり得なかったのです。実際、朝日新聞が書いているケースは、「切り替え」 の時期が早く、信販会社の返済日が近づいたものを「切り替え」た、と単純には言えませ ん(これについては、私の一審「陳述書」をご覧下さい)。それでも、「二重ローン」と いうことはあり得なかったのです。これらのことは、お客、平和ホームズ、信販会社、 「別の金融会社」、それぞれの間の契約書を見れば解ったことです。  仮に、その信販会社のつなぎ融資がお客の借入であったとしても、やはり、お客が二重 に借金を負うことにはならなかったのです。  何故なら、信販会社への具体的返済方法は、契約書上、お客は公的住宅ローン等が実行 されたら平和ホームズの銀行口座に送金することになっており、平和ホームズは、その送 金が有ろうと無かろうと、つなぎ融資の返済日には信販会社に返済する、ということにな っていたからです。実務もそのように繰り返されていました(*1)。ですから、お客が、 「別の金融会社」につなぎ融資を借り替えて、その融資金を信販会社への返済用として平 和ホームズに送金すれば、それはまさに信販会社への返済に当たる、と言うべきです(*2)。 お客は借り替えた「別の金融会社」のつなぎ融資が残り(一重の借金)、平和ホームズは 信販会社への返済債務が残る、というだけの話だったのです。このことも、契約書を一瞥 すれば解ったことです。  いずれにしても、お客が二重に借金を負った、という事実は無かったのです。にもかか わらず朝日の記者は、情報提供者の話を鵜呑みにし、契約書を確認するという手間を省い て、平和ホームズは「二重ローン」詐欺を犯した、と世間を煽り続けたのです。  (*1)契約書上そのようになっていたことや、実務上そのように繰り返されていた事実は、一審裁判官も     認めています。  (*2)しかし、裁判官は、お客が平和ホームズに送金しても返済したことになっていない、と判断しまし     た。シロウトには全く理解できません。契約書や取引慣行を無視・軽視し、わけの解らない屁理屈     をこね回して、「お客は二重に借金を負った」とぶってみたところで、お客の利益にもならないか     らです。 (以上は、「二重ローン」に関する、現時点での、私の知識と理解です。弁護人の法律論 については、「控訴趣意書」「控訴趣意書補充書」等をご覧下さい。) (3)、二重払いしたお客はいないと知りながら、朝日はウソを書いた  朝日新聞は、「二重ローン」をさんざん煽っておきながら、お客がつなぎ融資を二重に 返済する必要がないという内容の合意が、早々に成立したのに、それを半年間も隠しまし た。その上、お客は若干の債務負担をすることで和解した、とウソまで書きました。  私が会社と自身の自己破産申立て作業をしている最中に、すでに、一部のお客が、信販 会社と個別に折衝をし、ほぼ落着しつつありました。破産宣告が出た翌日の平成3年3月 21日(それは朝日新聞の最初の誤報がでた8日後のことです)、破産管財人河野玄逸弁護 士と私三宅らは、「二重ローン」の「実行犯=共犯者」とされている鎌田次朗常務から、 「お客は負担しないで済みそうだ。多くても1%の負担でまとまりそうだ。お客のTさん からそういう連絡を受けた」と聞いています。私は、破産事務が進めば自ずと「二重ロー ン」問題は解明されると期待していましたが、それでも、この話を聞いた時には、朝日新 聞の煽っている方向に話が行かなくて良かった、と安堵したものです。  実際の結末も、同年の6月14日には着いていました。同月27日の第一回債権者集会前の ことであり、私たちが逮捕される約1年1ヶ月前のことです。いわゆる「二重ローン」の お客13名中、告訴人4人を含む11名が、「被害者の会」弁護団(筆頭は高名な山口広 弁護士)を代理に立てて信販会社と交渉し、お客は融資額の1%(全員分で165万円) の支払い義務があることを認めるが、信販会社はそれを平和ホームズ破産財団から回収す る、という趣旨の合意書を交わしていたのです。もっと前に折衝したTさんら2名も同様 の合意に達していたものと推測されます。つまり、いわゆる「二重ローン」のお客は、弁 護士費用を除けば、一円も支払わないで済んだのです。なお、その合意書の内容は債権者 集会で一度も報告されていません。何とも不可解なことです(*1)。  実は、朝日の記者は、この事実を知っていたと思われます。平成3年12月18日の朝刊で、 「信販会社とは、ほとんど債務を帳消しにする和解が成立した」と書いているからです。  しかし、“ほとんど”は、ウソです。お客は“全く”支払う必要がなかったのです。こ のことは、情報提供者から聞き、あるいは、合意書を確認して分かっていたはずです。に もかかわらず、朝日新聞は、その和解の事実を伏せ、半年後に、巧妙な言い回しをしたも のの、しかし、明らかなウソを書いたのです(*2)。 (お客が、「二重ローン」問題に関して信販会社等と折衝するために、弁護士費用等を要 たであろうことについては、本当に申し訳ないと思っております。)  (*1)私がこの合意書を発見したのは、最高裁へ上告趣意書を提出した後のことでした。  (*2)弁護団の東沢靖弁護士は、「二重ローン」の実害について、「債務が軽減されたのは、我々と被害者     の血のにじむような努力があったからです」と『別冊宝島363』177頁で述べていますが、“軽減”は     ウソであること、既に指摘した通りです。また、極めて短期に合意した事実からして、“我々と被害     者の血のにじむような努力”はオーバーでしょう。告訴人らもまた第32回公判廷で、実害については、     少し有ったようにウソを言っていますが、合意に達した事情については「知らない」と証言していま     す。このことはウソではないでしょう。 (4)、裏付け調査をせず、お客の金を開発事業に流用した、と世間を煽った  住宅建築の依頼者から集めた金を「土地開発の事業資金に流用した」、すなわち、自分 の利欲のためにお客を食いものにした──。朝日新聞は、これが「二重ローン」の目的だ と言います。しかし、記者がその裏付け調査をしたとは全く思えません。私が許せないと 思うのは、むしろ、この「流用」記事です。平和ホームズには、言われるような「流用」 は全くありません。平和ホームズは、創業時の夢である「良い住宅を安く」という事業に、 他で稼いだ資金を注ぎ込んでいたのであって、逆は一切ないからです。  朝日新聞は、お客の金を「事業資金に流用した」と誤報し始めて、約2ヶ月経ったとこ ろで、やっと、その内容を少し具体的に報道しました。それによれば、平和ホームズは、 土地開発事業で「40億円借りていたが、多くのケースで過剰融資になっていた」、例え ば、購入価格約3億8千万円の土地で約10億5千万円の融資を受けていた、「被害者か ら集めた金のかなりの部分がこれらの利払いに消えたとみられる」、というのです。  しかし、もし、朝日の記者が、裏付け調査のために、土地開発の現地に行って見たなら ば、土地はほとんど手つかずであり、造成費用をかけていない事実を発見したはずです。 そうすると、その多額の過剰融資金──融資額と土地購入価額との差。それは利払いに使 ったとしてもまだ余りある──が何処に消えたのか、疑問を感じたはずです。したがって、 そのような土地開発事業のために、お客の金をわざわざ「流用」する必要はなかったので はないか、と気付いたはずです。  にもかかわらず、朝日の記者が「流用」を書き続けたたということは、情報提供者の話 を鵜呑みにし、裏付け調査の手間を省いたか、あるいは、故意に書いたということでしょ う。いずれにしても、お客を食いものにした、と、真実とは180度逆の報道をした、その 無責任には言いようのない怒りを感じます。  ついでに申し上げれば、私は、平和ホームズの住宅づくりについて、捜査主任の野間英 夫警部補(当時)から「安すぎた。だから潰れたんだ」と言われ、起訴担当検察官の高橋 晧太郎検事から「良い住宅を造っている。ミサワホームのようになるのは紙一重だった」 と言われたことはありますが、非難された記憶はありません。せいぜい、他の話題の中で 「工事が遅れた」という話が出た程度です。勿論、改善すべき課題がたくさんあったこと は否定しませんが──。  朝日新聞が応援している「匠の会」加盟の中小建設会社も立派な仕事をしていることと 思います。しかし、平和ホームズもまた独立系の中小企業として、安くて良い住宅造りを 夢見て、昭和50年の創業以来、当時はほとんど知られていなかったツーバイフォー工法に 取り組んでいたのです。なかなか実を結ばず経費ばかり食っていましたが、昭和56年に外 国人建築士の採用、昭和58年に壁パネルの工場生産化、昭和59年に設計部と工場のオンラ イン化、昭和60年に外国人カーペンターの採用等、先駆的に取り組んだ創意工夫は少なく ありません。そして、創業以来、ずーっと大手住宅メーカーの下請けをもやっています。 今風に言えば、ベンチャー企業だったと思います。昭和63年頃からマスコミでも少し取り 上げられるようになり、平成元年の秋頃には、住友銀行の仲介で、某大企業との資本提携 の話が進んでいたのでした(社内のクーデターでとん挫)。これらも、調査すればすぐに 分かったことです。 (なお、平和ホームズの住宅づくりの姿勢については、元設計課長柿沢直海さんのサイト 「平和ホームズ事件」を、他で稼いだ資金をツーバイフォー住宅事業へ注ぎ込んでいた事 実については、私の「陳述書」をご覧下さい。) (5)、「流用」は無い、と朝日の記者も気付いていた?  実は、朝日の記者も、お客の金を土地開発事業に流用した事実は無い、と気付いていた と思われます。平成3年5月9日の朝刊を読むと、前半では、お客から集めた金のかなり の部分が土地開発事業に消えたとみられる、と書いていますが、後半では、土地開発事業 で得た過剰融資金を「事業資金に回していたとみられる」、と、ごまかしを書いているか らです。  朝日新聞は、平成3年3月13日(夕刊)の第一報では、「二重ローン」を組ませ“事業 資金に流用”、と書いているものの、その流用先については、土地開発であるらしい、と 読者に推測させるにとどまっていました。それから約2ヶ月経た5月9日の第6報になっ てはじめて具体的に、お客から集めた金のかなりの部分が、土地を購入した際の借入金の 利払いに消えたとみられる、と書きました。  ところが、その第6報の後半では、土地購入価格を上回る過剰融資金を「事業資金に回 していたとみられる」、と、サラリと書いているのです。今度は何の事業へ回していたと 言うのでしょうか? 文脈上、土地開発事業そのものへ回していた、とは読めません。も しそうなら、「回していた」という表現も不適切です。  平和ホームズは、倒産の2年以上前から、土地開発事業の他には本業のツーバイフォー 住宅事業しかやっておりません。平和ホームズの事業種目ぐらいは、記者は情報提供者か ら聞いているはずです。そうすると、土地開発事業で得ていた多額の過剰融資金は、お客 の住宅建築費に回していたのか?(これだと美談になる!)。あるいは、誰かがフトコロ に入れていたのか?(これだと犯罪になる!)。興味のわくところではないでしょうか。 記者は当然、情報提供者に確認したはずです。  「で、そんなに多くの過剰融資金は何処に消えたのですか?」  もしその時、記者が、誰かが横領している(らしい)、と聞いたならば、さらに調べて、 記事にしたことでしょう。しかし、そのような記事はありません。とすると、記者は、平 和ホームズはその過剰融資金をお客の住宅建築に回していた可能性がある、と聞いたので はないでしょうか(*)。  だとすると、記者は困ったことでしょう。彼は最初から、平和ホームズはお客のカネを 土地開発事業に流用した、と世間の憎悪を煽り続けたのです。今さら、平和ホームズは土 地開発事業で稼いだ過剰融資金をお客の住宅建築のために使っていた、とは書けません。 そこで、最初からの主張を崩さないように、過剰融資金の使途を具体的に示さず、単に 「事業資金に回していた」と、ごまかしたのではないでしょうか。  (*)過剰融資金の額は、平和ホームズ程度の中小企業にしては、大き過ぎます。記事では約3億8千万円     の土地購入で約10億5千万円の融資を受けたケースが紹介されています。その差額は、諸経費を差     し引いて約6億円。土地購入での融資金総額が約40億円あったというわけですから、単純に比例計     算すると約24億円の過剰融資となります(実際にはその半分)。記事では、何年間でそれだけの土     地購入をしたのか、明らかではありません。仮に3年間だとすると(実際には2年)、一年で平均約     8億円の過剰融資金を得ていたことになります。当時の平和ホームズの受注棟数は、せいぜい年間百     棟ぐらいだと、情報提供者から聞いているはずです。そうすると、一棟当たり、約八百万円をつぎ込     んでいたことになります。これでは全くのボランティアです。常識的には考えられません。多少ボラ     ンティアをしていたとしても、残りのカネは何処に消えたのか。この問題は依然として残ります。記     者はやはり調べたと思うのです。しかし、何も書きませんでした。この辺にも、朝日の記者の特殊な     意図を感じます。 (6)、朝日新聞は、真の問題をはぐらかす手伝いをした  朝日新聞は、「二重ローン」詐欺事件をフレームアップし、それを煽ることによって、 平和ホームズ倒産事件の真相をはぐらかし、倒産に関わって違法なことをした人間たちを かばい、結果として、債権者たちの利益を害しました。このことに、少し触れておく必要 があるだろうと思います(*)。  (*)「事件」の性質からして、警察・検察が会社倒産の経緯・原因に踏み込まなかったのも不自然だと思     いますが、破産管財人が「二重ローン」を煽るばかりで倒産原因を解明しなかったことや、「被害者     の会」弁護団がそれをよしたことも、不可解です。これについては、後述。  私は、平和ホームズは倒産しないで済んだ、と今でも考えています。しかし、倒産しま した。  倒産への第一撃は、信販会社の突然のつなぎ融資停止(平成2年11月19日)と、その後 の同社の対応、と私は考えています。平和ホームズは、信販会社のつなぎ融資を建築資金 調達のメインにしていたので、こたえました。その上さらに、信販会社は、同年の12月27 日期日分が返済できないでいる平和ホームズと交渉しつつ、他方では密かに、翌年の仕事 始め早々(1月7〜8日)から、借入名義人のお客と接触し「貴方からも平和ホームズに 戻すように言って下さい」などと言って、煽っていたのです。これには本当に参りました。 理由は不明です。サバイバルの中で、こういう事態への備えをしていなかったのは不覚で した。なお、信販会社とは、同年1月11日に、会社の不動産を担保提供した上、手形払い することで合意しております。  第二撃は、信販会社のつなぎ融資停止後、同年の12月25日から翌年の1月7日にかけて、 社員が、集金したカネを横領したまま集団退職し、同業の別会社を作ったこと、つれて、 契約者のキャンセルが相次ぎ、その対応に追われたこと、です。これで、会社組織の半分 が無くなったのです。致命傷でした。もし、これがなければ、第一撃があっても、会社は 倒産しなかっただろうと思います(*1)。  実は、その前年の平成元年10月頃、私が住友銀行の仲介で進めていた某大企業との資本 提携話に対する反対運動が起こり、社内は統制が効かなくなっておりました。そういう中、 翌平成2年の3月30日、私は船橋営業所長の脇山功三から一枚の紙に書いた会社組織表を 渡されました。クーデターだったのです。配下には、私の末弟の三宅千尋専務(「二重ロ ーン」で国際手配中(*2))、「二重ローン」の「実行犯=共犯者」鎌田次朗常務ら、会 社幹部のほとんどが入っていました。まさか、実の弟から寝首をかかれるとは思っていま せんでした。その上、クーデター派の幹部である脇山功三と鎌田次朗も私が媒酌人をした 間柄だったのです。集団退職した連中が作った会社の社長は脇山功三でした。私は、逮捕 後、捜査主任の野間英夫警部補から「お前なんか、教師でもやってりゃ良かったんだ」と 言われて、妙に納得したのを覚えています。  朝日新聞が報道した諸「事実」は、全てクーデター派がやったことだったのです(*1)。 と言っても、私は管理責任を避けたことは一度もないこと、冒頭に述べた通りです。  なお、クーデター中、私は、彼らとの協調の道を探りつつ、一方で、何時彼らが経営を 放り出してもよいように、新たに社員を採用して彼らとは別の組織を作り、また、別の資 金を用意して、営業を始めていました(*3)。残念ながら、間に合いませんでしたが。  (*1)私は、一審の被告人質問の中で、この倒産原因を説明しています。検察の反証はありません。弁護人     もまた、「上告趣意書」で、クーデター派の鎌田次朗が、実は、会社のカネを横領していた事実を指     摘しています。しかし、裁判官は、これらを全く検討しないで、脇山功三や鎌田次朗の供述は信用で     きるとして、クーデターの存在を否定し、三宅が「二重ローン」詐欺を指示した、と判定したのです。     ま、こういう裁判官には、何を言ってもムダなんだろうな、と思います。  (*2)私は、留置場の中で、捜査担当係長の飯塚茂警部から、三宅千尋はアメリカの義兄弟のところにいる、     と聞いています。何故しょっ引かないのかと尋ねたら、わけの解らないことを言っていました。なお、     その義兄弟とは、この「事件」を境に全く縁が切れましたので、私が帰国を促すことはできません。     私は、三宅千尋は帰国しないようにブロックされているのではないか、と疑っています。  (*3)裁判官は、この事実も黙殺しています。  第三撃は、私が倒産事件の専門家である才口千晴弁護士に法的な再建を相談している最 中(平成3年3月5日夜)に、教師をしている私の妻が、記事に再三登場するお客・石田 克史・優里夫妻からその顧問弁護士佐藤忠宏の事務所に拉致され、「隠し金を出せ。出さ なければ新聞に書いて大学におれないようにしてやる」等と脅迫される事件が起こったこ とです(*1)。  平成3年3月1日に第二回の不渡りが出た後からは、会社の物品が盗まれ、私の自宅の 猫の額のような庭が荒され始めていました。でも私は、クーデター派の三宅千尋や鎌田次 朗が進めていた土地開発事業の借金を金融機関に棚上げしてもらえれば、本業のツーバイ フォー住宅事業を再建できる、またそうしなければ、お客や職人さんたちに迷惑がかかる、 と弁護士を説得していたのです。しかし、この拉致・脅迫事件が起き、才口弁護士から、 「社長、会社倒産とはそういうものです。自己破産してお客や職人さんたちの騒ぎを鎮め ましょう」と言われて承知したのです。そして、3月11日に、平和ホームズと自身の自己 破産を東京地裁に申立て、併せて、全債権者に「以後裁判所の指示に従って欲しい」旨の 要請文を郵送しました。かくて、平和ホームズは倒産したのです(*2)。  (*1)佐藤忠宏弁護士は、妻に「俺は、お前の亭主を知っている」と言ったそうです。それで石田夫妻が拉     致したらしいのですが、私は同弁護士を知りません。どうやら、クーデター中の不動産トラブルで、     社長を装った三宅千尋を鎌田次朗が引き合わせたようなのです。それでミスったのでしょう。  (*2)今、私は、この意思決定は間違いだった、と反省しています。妻の拉致・脅迫事件で冷静さを失って     いたようです。債権者の方々には本当に申し訳ないことをした、と思っています。     私の要請文に対抗するように、同月13日、石田克史は、佐藤弁護士を代理人にして、私と鎌田次朗を     告訴しました。そして、同日、朝日新聞の夕刊に第一報が出た、という次第なのです。  クーデター、信販会社の突然のつなぎ融資停止、クーデター派社員の集団退職・別会社 設立、社長の妻の拉致・脅迫、社長による会社と自身の自己破産申立──。倒産に至る、 こういう大きな状況事実があります(*)。にもかかわらず、これらを全く無視し、建築 代金の回収・建築資金の調達という会社業務の一断面だけを切り取って、その愚かな行為 をあげつらい、それを歪曲し、それに対して大声を上げて攻撃するというやり方は、何か を隠蔽する時に使う常套手段です。朝日新聞はそれを手伝ったのです。  仮に、第一報が誤報であったとしても、その後、誠実に裏付け調査をすれば、引き続く 誤報は避けられたと思います。例えば、自己破産を誰がどのような経緯で申し立てたのか を取材すれば、たちまち、上記の諸事実は浮かび上がってきたはずです。しかしながら、 それをせずに誤報を続けて世間を煽ったことは、悪党や小ずるい者の跳梁を許し、結局、 事態を混迷させたことで債権者の利益をも害することになった、と私は思うのです。  (*)金融機関の豹変、信頼していた者の裏切り、家族に対する攻撃──、それらは、経営者なら常日頃か     ら注意しておくべきでした。私にその備えが無かったばかりに会社を倒産させてしまいました。そう     いう観点から、会社倒産の全責任は、当然私が負うべきだと自覚しています。だがそれは、刑事責任     とは自ずと別ものです。 (7)、朝日は、偏った情報提供者の意向を一方的に垂れ流した  最後に、朝日新聞は、偏った情報提供者の意向を一方的に垂れ流しただけであって、非 難される側の主張に全く配慮しなかった、ということを申し添えたいとおもいます。  たかが中小企業といえども、会社またはその役員・社員を非難する以上は、その代表者 に対して取材をし、反論があれば、それを掲載すべきではないでしょうか。しかし、元社 長であった私への取材申し入れは、一連の報道期間中は勿論、今日に至るまで、一度もあ りません。平成3年3月13日の第一報で、誰か分からない者の話を「平和ホームズ側は… …」と、一回報道しただけです。  私に連絡が付かなかったことはないはずです。私は、自分の連絡先を不明にしたことは 一度もないからです。会社倒産後に、妻との共有の自宅を破産財団に提供するためや、新 聞沙汰になって転居先の家主さんにご迷惑をかけたなどの事情のために、やむを得ず3回 転居していますが、コソコソと逃げ回ったことはありません。その都度、弁護人、破産管 財人、その他元役員・社員等に住所、電話番号等を教えています。  ちなみに、私は、最高裁から上告棄却を受け、刑務所に収監される直前の平成10年3月 6日に、友人の金子眞とともに朝日新聞の本社を訪ね、広報室の殿岡吉則氏ほか1名の方 に再取材の申し入れをしています。その際、殿岡氏から「一両日中に返事をする」との回 答をいただいております。しかし、刑務所に収監されるまでの約一ヶ月の間も、収監中も、 出所後の今日に至るまでも、何の音沙汰もありません。  しかし、それ以前には、私の方から異議の申し入れなどをしていないことも事実です。 何故か? 理由は単純です。朝日新聞の誤りは、破産事務が進み、倒産原因が解明されれ ば、自ずと明らかになるはずの事柄であったからです。だが、それは見込み違いでした。 自分のノーテンキさが悔やまれます。  朝日新聞の一連の誤報は、一定の空気を醸成し、関係者を支配していきました。「第二 の豊田商事事件だ」と力んでいた破産管財人は、債権者集会でも、「二重ローン」に関す る和解が成立しているのに報告せず、「刑事事件で立件されるべきだ」と煽るばかりでし た。そして、肝心の倒産原因を解明しなかったのです。不思議なことに、「被害者の会」 弁護団もそれをよしとしたのです。私は、平成4年1月23日の第三回(最終回)債権者集 会で初めて、「この破産事務は予断と偏見に基づいて行われており、残念だ」と公に意見 を述べましたが、遅きに失しました。警察もまた、平成4年の2月から、告訴人らと共に その供述を捏造して調書を作り直し、それを証拠にして逮捕状をとり、同年7月20日、私 たちを突然逮捕したのでした。 (なお、破産管財人の予断、偏見については、「実行犯=共犯者」高澤正比古のサイト 「平和ホームズ冤罪事件」と、弁護人の「上告趣意書」をご覧下さい。)  以上の通り、朝日の記者は、「二重ローン」の存否、実害の有無、「流用」の有無等に ついて、一方的な情報提供者の話を鵜呑みにして裏付け調査をせずに、あるいは、その話 がウソだと解っているのに、その情報提供者らの意向に沿って書いた、と言わざるをえま せん。つまり、朝日新聞は、そのようにして「二重ローン」詐欺事件をフレームアップし、 世間を煽ったのです。  会社倒産の債権者やその代弁者が、経営者に対して民事上や道義上の責任を激しく追及 するのは当然です。倒産がもたらした損失や迷惑の大きさを考えれば、元社長の私は、債 権者から受ける少々の違法行為は忍受すべきであると思っています。朝日新聞が会社倒産 によって多大の損失を被った債権者に同情的になるのも理解できます。  しかし、裏付け調査もせず、あるいは、ウソだと解っているのに、「お客を食いものに した」だの「悪徳商法」だのと罵る記事を書くのは、無責任極まりない偽善である、と言 うべきではないでしょうか。 3、朝日新聞と警察の卑劣な連係によって、冤罪事件に発展した (1)、警察がデッチ上げた「二重ローン」詐欺事件の内容  逮捕後、私たちが警察から取調べられた内容、──と言うよりも、「認めろ」と自白を 強要された内容は、次の通りです。    平和ホームズは、すでに信販会社からつなぎ融資を借りているお客に対し、「融資   枠がいっぱいになったので借り替えて欲しい。借り替えた金は信販会社に直ちに返済   します」とウソを言って、「別の金融会社」から借りさせ、その金を騙し取った。そ   して、信販会社に返済するまでのあいだ資金繰りに使った。そんなことを昭和63年1   月から自転車操業的に繰り返していた。三宅はそれを部下に指示した。                         (起訴状、検察官冒頭陳述 参照)  要するに(三宅の指示の点をおけば)、「直ちに返済します」とウソを言って、直ちに 返済せずに資金繰りに使った。その間、お客は二重に借金を負ったことになる。けしから ん。──ということです。つまり、お前たちのやったことは、資金繰りに困った中小企業 者の哀れな(あるいは、せこい)仕業である、として追及されたのです。  朝日新聞のいう、土地開発事業への「流用」問題は一言も出てきません。客観的事実が あまりにも違うので、そのような動機、あるいは、資金使途を強弁することが出来なかっ たのでしょう。なお、「融資枠がいっぱいになった……」は事実であって、それ自体を非 難がましく言われる筋合いではありません。また、契約書上、信販会社のつなぎ融資は会 社の借入であってお客は二重の借金を負わないこと、実際上も、お客は二重払いをしてな いこと、等は先述の通りです。  となれば、なぜ会社がお客に対して「直ちに返済します」とウソを言ったのか、を説明 しなければなりませんが、実は、この言葉も、警察と告訴人らの捏造だったのです。告訴 人らの平成3年と4年の供述調書を読み較べれば歴然とします。この言葉は、「事件」に 近い平成3年の供述調書には一言もないのに、翌4年の供述調書にはうんざりするほど多 用されているからです。多分、小学生でも“おかしい”と判るでしょう(*)。  (*)「被害者の会」の弁護団が、先述の実害の件といい、この供述捏造といい、何故、「被害者の会」     代表者ら(告訴人)にウソを言わせているのか──。正気とは思えません。裁判官もまた、この二点     の証拠調べをせずに、実害は(少し)発生した、“直ちに返済します”とウソを言った(騙した)、     と当然のように前提して、「二重ローン」詐欺を判定しました。開いた口が塞がりません。 (2)、朝日の一連の誤報と警察のマスコミ向け発表との卑劣な連係  警察がデッチ上げた「事件」は、資金繰りに困った中小企業者の哀れな仕業、です。朝 日新聞が煽った「事件」は、自分の利欲のためにお客を食いものにした仕業、です。両者 は、犯罪の動機や目的が違います。当然、世間の憎悪の念や処罰感情も違います。シロウ ト判断ですが、刑の重さも違うのではないでしょうか。にもかかわらず、警察は、私たち を逮捕した時、朝日新聞の一連の誤報と同じ内容を一般のマスコミ向けに発表しました。 つまり、朝日新聞の誤報にマルを与えたのです。  一方、朝日新聞は、自社だけが執拗に報道した「事件」の被疑者が、逮捕された後も 「自白」せず、起訴された後も無実を主張して検察と争っていることを知っているはずな のに、そのことを一言も報道しませんでした。つまり、報道すべきことを報道しないこと によって、警察・検察の尻押しをしたのです。  ──卑劣な連係だと思います。  ・朝日新聞の一連の誤報と連係した警察発表の卑劣  警察が、私たちを逮捕した時、一般のマスコミに向けにどのような発表をしたのか、勿 論、私は聞いておりません。しかし、当時の新聞各紙の内容がほぼ同一であれば、それは、 そのような内容を警察が発表した、と考えてよいだろうと思います。  私たちが逮捕された日の、朝日、毎日、読売、産経4紙の夕刊記事の要点を、下記に示 します。各紙とも、要するに、平和ホームズはお客を騙して「二重ローン」を組ませ、そ のカネを土地開発事業に流用した、という内容です。すなわち、自分の利欲のためにお客 を食いものにした、という趣旨であることが分かります(但し、読売だけは流用目的を書 いてない)。なお、各紙とも「二重ローン」の実害が発生していないことに触れていませ んが、警察が隠したからでしょう。また、毎日、読売、産経の3紙は、ローンを“住宅ロ ーン”のことと誤解していますが、それも、警察が誤導したからでしょう。火の無い所に 煙を立てた朝日だけは、さすがに「つなぎ融資」と正しく書いています。  朝日:    「マイホーム建築の依頼者に二重にローンを組ませてだまし取った資金を事業に回   していたとして、……(三宅、高澤、鎌田)を詐欺の疑いで逮捕した。」「『つなぎ   融資』を他のファイナンス会社に切り替えるよう説得。『信販会社への返済は平和ホ   ームズを通じて行う』といい、……平和ホームズの口座に(融資金)を振り込ませて   だまし取った疑い。だまし取った金はそっくり平和ホームズの事業資金に流用してい   たという。」  毎日:    「マイホーム建設の依頼者にローンを二重にかけさせて工事代金をだまし取るなど   していたとして、……(元社長ら元役員三人)を同容疑で逮捕した」「『信販会社の   融資枠がいっぱいになった。利息が増える分などは値引きするから、融資を切り替え   てほしい』と、別のノンバンクから新たに……融資を受けさせ、信販会社への返済名   目でだまし取った疑いがもたれている。だまし取った金は、開発用の不動産購入や借   金の返済などに回していたとみられる。」  読売:    「住宅建築の依頼者に、住宅ローンを二重にかけさせる手口で、住宅建築代金……   をだまし取っていた疑いが強まり、……同社の社長ら会社幹部三人を逮捕……」   「『(大手信販会社の)融資枠がいっぱいになったので、今の住宅ローンを別の金融   会社に組み替えて欲しい』ともちかけられた。……同社側の求めに応じ新たな融資金   をいったん同社口座に送金したところ、三宅社長らがそれをだまし取った疑い。」  産経:    「住宅建設を依頼した客に住宅金融ローンを二重にかけさせ、事業資金に勝手に流   用していたとして、……同社元社長ら三人を詐欺容疑で逮捕した。」「『信販会社の   融資枠がいっぱいになってしまったので、都内のファイナンス会社に借り替えてくれ   ないか』と持ちかけ、実際には最初に借りた信販会社の分を着服していた。」「平和   ホームズは、……バブル経済の破たんで資金繰りに行き詰まって詐欺行為に走った。」  つまり、警察は、私たちを逮捕する前の、朝日新聞の誤報と同じ内容のものを発表し、 世間に誤ったイメージを与えたのです。何故そんな卑劣なことをしたのか? やはり、マ スコミと警察は同じベッドの中の恋人同士のようなものだから、朝日新聞のメンツを潰さ ないように配慮したのではないか、と、ゲスの私は勘ぐっているのです。  ・被疑者が無実を主張している事実を報道しない朝日の卑劣  警察が、少々無理して朝日新聞に応えると、今度は、朝日新聞が、警察に応えました。 朝日新聞は、自社だけが執拗に報道し続けた「事件」で逮捕・起訴された元社長の私が、 取調べ段階で「自白」せず、公判に入っても無実を主張して検察と争っていることを知っ ているのに、それを一行たりとも報道しませんでした。  当たり前のことですが、私という人間がどんなに極悪人と思えても、刑が確定するまで は、まだ犯罪者ではなく、基本的人権が認められた普通の国民です。ですから、私が社長 をしていた会社や私個人を非難する以上は、私の主張をも紹介するのが公平というもので はないでしょうか。  しかしながら、私たちが逮捕される前には、煽動的な記事を書くことによって警察の提 灯持ちをした朝日新聞は、私たちが逮捕された後には、何も言わないことによって警察・ 検察の尻押しをしたのです。  表Cをご覧下さい。  これは、私たちが逮捕された時から、一審判決を受けるまでの約3年間に、朝日、毎日、 読売の3紙が、平和ホームズ事件をどのように報道したかを、まとめたものです(切り抜 きと商業データベースを利用して作成。見出し一部のみ)。毎日、読売は勿論ですが、あ れほど逮捕前には、世間を煽っていた朝日新聞もまた、私の主張を一言も伝えておりませ ん。しかし、一審有罪判決が出た時には、また、朝日新聞だけが、被告人の言い分に全く 触れずに検察官=裁判官の言い分通りの報道をしたのです。 表C: ──────────────────────────────────────────────────  年月日     朝日新聞            毎日新聞            読売新聞 ────────────────────────────────────────────────── 92/07/20 (夕刊)住宅ローン流用容疑   (夕刊)二重ローンで5億円   (夕刊)建築代2億7000万 (逮捕記事)                           詐取           詐取容疑 92/07/24      ────       (夕刊)平和ホームズ事件         ────                           家が人質 言いなりに 92/08/11      ────       (朝刊)「平和ホームズ」元社長ら     ────                           3人を詐欺罪で起訴   8/18 92/08/17 (夕刊)元社長ら再逮捕     (夕刊)三宅元社長らを再逮捕  (朝刊)建築代金詐欺容疑で                          海外逃亡の弟、指名手配      逮捕社長の弟手配 92/08/29      ────       (朝刊)「平和ホームズ」元専務 (朝刊)「平和ホームズ」                           詐欺容疑で国際手配       専務を国際手配   :   : 96/02/22 (夕刊)元社長に懲役4年         ────            ──── (判決記事)   ローン詐欺で東京地裁判決 ────────────────────────────────────────────────── (3)、朝日と警察の卑劣な連係によって、被疑者の証拠集めが困難になった  朝日新聞と警察の連係プレーによって悪質イメージが世間に喧伝されると、元社員の中 の良心的な者たちも口を閉ざし、友人たちも遠ざかって行きました。朝日新聞の尻馬に乗 って「第二の豊田商事事件だ」と力んでいた破産管財人は、元社長の私が、そこでの破産 事務が終了してゴミ置き場と化していた会社事務所に入ることさえ拒否しました。頼りに すべき弁護人ですら、「火の無いところに煙は立ちません」と言う始末だったのです。  私は、約1年間の留置場・拘置所ぐらしの後で、一人コツコツと、部下がローン事務を どのように行っていたのか、「二重ローン」といわれるものの実態は何か、などを調べ始 めたのですが、困難を極めました(*)。  (*)「実行犯=共犯者」とされている鎌田次朗と高澤正比古は、逮捕後、「自白」し、分離裁判で早々に     執行猶予判決を得ており、「首謀者」とされている私が拘置所を出た時、ガチガチの検察側証人にな     っていたのです。  やっと10ヶ月後に、警察・検察への恐怖感が少し薄れていた「実行犯=共犯者」高澤 正比古との人間関係を回復し、彼らが行ったのはつなぎ融資の付替え(切り替え)であっ て「二重ローン」ではないこと、したがって社長との共謀も無いこと、等をテープに吹き 込んでもらうことができました(*)。更に約6ヶ月後、弁護人から借りた警察調書を読 んで、契約書上、お客の平和ホームズへの送金は正当な返済手続きであって「騙取」には 当たらない、ということを発見したのです。これらの内容は、何とか、法廷で取り上げて もらうことが出来ました。  (*)実際、警察・検察が権力組織をかさに着て襲いかかって来た時の迫力には、私も縮み上がりました。     高澤さんが、また報復されるのではないかという恐怖感を克服して、よく話してくれたものだと感謝     しています。  告訴人らの「『直ちに返済します』とウソを言われた」という供述は捏造されたもので あること、つなぎ融資の形態は多様であって大部分はお客の借入ではなく会社の借入であ ること、等を示す証拠を発見したのは、さらにその後でした。これらは、「二重ローン」 詐欺が成立しないことを示す重大な証拠であり、警察・検察の事件デッチ上げを白日の下 にさらす決定的証拠です。しかし残念ながら、これらについては証拠調べの申請さえ行わ れず、一審(裁判長田中康郎)の審理は急にバタバタと終結し、実刑4年の判決が下され たのです。二審(裁判長中山善房)でも、事実上証拠調べなしに判決が下され、最高裁 (裁判長福田博)でも勿論、証拠調べなしに上告が棄却されました(*1)。  先述のように、警察・検察や告訴人らが「二重ローン」による実害が無いのに有るよう にウソを言っている、ということを示す証拠文書を発見したのは、上告趣意書を提出した 後のことでした(*2)。  (*1)「『直ちに返済します』とウソを言われた」という告訴人の供述は捏造されたものであること、信販     会社のつなぎ融資は「会社の借入である」こと、等に関しては先述の通りです。しかし、全ての裁判     官は、それらの検討を全くせずに、検察官の論告求刑通り「二重ローン」詐欺を判定しました。それ     で、私は刑務所に入れられたのですが、中に入ってみて、結構、私と同じような経験をした囚人がい     ることを知りました。こんな無責任裁判を許してはならない、とつくづく思います。  (*2)その証拠文書(お客と信販会社との合意書)は、同一法廷で行われた鎌田、高澤の分離裁判の確定訴     訟記録の末尾に編綴されていました。だから、検察官・裁判官は、その存在を知らないはずはないの     に、被告人側が知らないことをよいことにして、検察官は「(信販会社への)債務は大幅に軽減され     た」とウソを言い(一審論告)、裁判官は「和解の内容は、被害者らが一定の経済的負担を強いられ     るものである」(一審判決)とウソを言いました。まったく恥知らずな連中です。 (弁護人の「上告趣意書」にも、告訴人らが「『直ちに返済します』とウソを言われた」 という事実はないこと、つなぎ融資の多くは実質的に会社の借入であること、にもかかわ らず、それらの証拠調べが行なわれていないこと、等が述べられています。ご覧下さい。)  以上の通り、朝日新聞の水先案内的な報道を受けて、警察は、捜査に動き、証拠を捏造 したり隠蔽したりして「二重ローン」詐欺事件をデッチ上げ、私たちを逮捕しました。し かし、取調べの内容は、朝日新聞の報道の主旨とは違いました。それでも、警察は、朝日 新聞の報道の主旨と同じ内容を一般マスコミ向けに発表したのです。  朝日新聞はさらにまた、私が一貫して無実を主張して争っていることを知っているはず なのに、それを一切報道せず、警察・検察の尻押しをしました。  朝日新聞は、そのようにして世間の憎悪を煽ったのです。そんな状況の下で、私が証拠 集めをするのは困難を極めました。したがって、無実を証する証拠、事件デッチ上げを証 する証拠がたくさんあったのに、それらの収集が大幅に遅れました。その結果、せっかく 集めた証拠の取調べがなされないままに、私は刑務所に入れられたのです。  おわりに  平和ホームズは倒産しました。ですから、債権者や破産管財人が、元経営者に対して、 背任・横領等が無かったかどうか、経営管理に過失が無かったかどうか、厳しくチェック するのは当然です。違反が有れば、相応の責任を問うべきです。  お客などが、平和ホームズの倒産によって被った損失を少しでも多く取り戻そうとする のも当然です。元経営者は、それに誠実に応える義務があります。少々ゆき過ぎたことを されてもガマンするべきでしょう。古い人間の私は、そう思います。  マスコミや警察に勤める人たちが、多大な損失を被ったお客に同情して、代わりに報復 してやろうという気持ちになるのも、よく解ります。何か問題は無いかとさがし回るのも 仕事でしょう。  しかし、何の罪もない経営者を、証拠を捏造したり隠したりして刑務所に送ろうとする のは、正義でも何でもありません。犯罪です。朝日新聞がやったことは、そのお手伝いだ ったのです。  付記: 平和ホームズの「二重ローン」詐欺事件に関しては、不可解なことがたくさん あります。主なものを拾い上げてみると──、  信販会社が、なぜ突然につなぎ融資を停止したのか。その直後、クーデター派が、なぜ 集団退職し、別会社をおこしたのか(そんなことをすれば、平和ホームズは倒産すると分 かっているのに、なぜそうしたのか)。この二つの出来事には、裏の関係がありそうです が──、よく分かりません。  朝日の記者が、なぜつなぎ融資の契約書や土地開発の現地を確認しないで、「二重ロー ン」の誤報を続けたのか。なぜ「二重ローン」の実害は全く無かったのに、少し有るよう にウソを書いたのか。なぜ元社長の私に一度も取材申し込みをしなかったのか。なぜそう までして「二重ローン」詐欺事件を煽ったのか。不可解です。  手柄を立てたい刑事たちが、朝日新聞の誤報に煽られて事件をデッチ上げたのは、紛れ もなく犯罪です。が、これは少し解るような気がします。  しかし、法律の専門家である破産管財人までもが、就任早々から、証拠も示さず「第二 の豊田商事事件だ」と力んだのは、解りません。そして、その破産管財人が倒産原因を解 明しないのに、「被害者の会」弁護団がそれをよしとしているのも、理解できません。  さらに、「被害者の会」弁護団が、同会の代表者らにウソ──「直ちに返済します」と 言われたとか、「二重ローン」の実害を少し被ったとか──の供述をさせ続けているのは、 一体どういうことか?  検察が、告訴人らのウソの警察調書を一層上塗りした捏造調書を作成したり、不都合な 証拠を隠蔽したり、警察作成の荒唐無稽な捜査報告書を証拠書類にしたりして、起訴に及 んだのは、???  弁護人や裁判官のうち、誰一人として、告訴人らの供述調書が捏造されたものであるこ と、警察の捜査報告書が荒唐無稽なものであること、等に気が付かなかったのは(あるい は、気が付いてもその不正を指摘しなかったのは)、もはや呆れるほかありません。 最初のページに戻る。