忌 避 申 立 書 被 告 人 三 宅 喜 一 郎 右被告人に対する詐欺被告事件(御庁・平成八年(う)第八一九号事件)について 後記の原因があるので、中山義房判事、鈴木勝利判事、岡部信也判事を忌避する。 一九九六年一〇月一八日 主任弁護人 橋 本 佳 子 弁 護 士 金 井 克 仁 弁 護 士 竹 内 義 則 東 京 高 等 裁 判 所 御 中 −1− 一 一九九六年一○月一六日に行われた控訴審における第一回公判期日に際しての、 中山義房判事、鈴木勝利判事、岡部信也判事ら(以下「裁判所」ともいう)の以下 の訴訟指揮等により、右裁判官らが不公平な裁判をするおそれがあることは明らか である。 二 証人採用についての不公正 裁判所は、弁護人申請の全ての証人を採用しなかった。 原判決が全面的に信用した鎌田証人等の原審での証言には、原判決の認定事実と 明らかに矛盾する証言が幾多にわたって存在しており、原判決が有罪について合理 的な疑いを容れる余地が大なることは明らかであった。そのため、弁護人は右矛盾 点等を申請した証人でもって控訴審においてより明白にしようとした。にもかわら ず、裁判所は、その点に関する証言を予定する証人の採用を全て採用しなかった。 右対応は、明らかに裁判官の職権調査主義について許された裁量権の範囲を著しく 逸脱するものである。 −2− このような各判事の態度は、当初から本件審理を公平に行う姿勢がないことの端 的な現れである。 二 弁護人の今後の立証を封じた不公正 原判決が全面的に信用している鎌田証人及びその他の証人も、「二重ローン」と 称された二重借入れについて、当初は法的に何ら問題のない「付け換え」から始ま ったと、原判決の認定と明らかに反した証言をしている。さらに、平和ホームズの 財務状況が逼迫していたとする原判決の認定は、会社の会計帳簿等の資料にも基づ かないで認定されたものであり、また提出されている書類との関係でも矛盾してい る等、極めて杜撰な事実認定している。 その結果、弁護人としては、検察官が証拠申請していない会社関係者の警察捜査 段階での供述調書及び平和ホームズが使用していた会計帳簿等を開示してもらい、 右書類の検討が必要となた。そこで弁護人は検察官に手持証拠の開示を申入れた。 これに対する検察官(実際には検察事務官を通して)の回答は、押収品は未だ一部 −3− は地検に、一部は警察署に保管されており、控訴審の第一回公判期日である一〇月 一六日には間に合わないというものであった。そして、弁護人と検察官とは第一回 公判期日の後、別途日時を定め協議することとなった。そのため、弁護人もやむな く、控訴審の第二回公判期日までに右手続を完了した上で、新たに証拠申請する予 定でいた。 ところが、裁判所が第一回公判期日において突然結審を言い渡そうとしたため、 弁護人は前述の経緯・事情を述べて第二回公判期日の指定を求めた。しかし裁判所 はこれら弁護人の訴えに一切耳をかさず、結審した。 弁護人と検察官との間で、検察官の手持証拠についての証拠の開示に関して、前 述のような経緯・事情があるにもかかわらず、これらの事情等を一切無視して結審 した裁判所の訴訟指揮は、被告人の防御権を著しく侵害する不公正極まりないもの である。 三 弁護人の最終弁論の機会を与えない不公正 −4− 第一回公判期日において、弁護人は書証として弁一〜五号証の証拠調を請求し、 検察官もこれに同意し、裁判所に採用された。これらの証拠は、本件で問題とされ ている「つなぎ融資」が実質的には「会社の借入」であった事実、被告人を排除し た経営委員会で資金繰りが行われていた事実、極めて重要な高澤証人の原審での第 二回目の証言が同人が捜査段階の初期に述べていた供述と合致するという、いずれ も重要な証拠である。 そのため、百歩譲って仮に結審をする場合でも、弁護人には控訴審で採用された 右証拠を踏まえて、最終弁論をする機会が与えられるべきである。 にもかかわらず裁判所は弁護人の最終弁論を行う機会すら与えずに、一方的かつ 強権的に結審をしたもので、弁護人の最終弁論権を剥奪するという著しく不公正な 訴訟を行った。 四 弁護人が判決言渡し期日に出頭する権利を侵害 以上の訴訟指揮等の不公正とは別に、以下に述べるとおり、判決期日の指定にい −5− たっては乱暴極まるもので、法令にも違反するものであった。 すなわち、弁護人が裁判所の前記一乃び二記載の不当な訴訟指揮等に異議を述べ 公判の続行を求めている中、裁判長は一方的に結審を宣告した上で、しかも判決言 渡し期日も一方的に通告し、三人の裁判官は直ぐに退席してしまった。そのため、 弁護人らは判決言渡し期日が何時なのか正確に聞き取れないほどであった。当然の ごとく、弁護人らは手帳等で当該判決期日に出頭できるか否かの確認も不可能なま まであった。 やむなく主任弁護人は、各裁判官が退席してしまった後に、書記官に言渡し期日 を聞いたところ、期日は一一月二〇日午後一時一〇分であると判明した。主任弁護 人は直ちに手帳で確認したところ、他の裁判所の公判期日が入っており、右期日に は出頭不可能であり、その後に他の弁護人に確認したところ、他の弁護人もいずれ も出頭が不可能であることが判明した。 弁護人がついている事件の判決の言渡し期日の指定に関して、弁護人の出頭の可 −6− 否を確認することなく期日を言渡すことはあり得ないことである。前代未聞の暴挙 である。まして、本件事件は必要的弁護事件である。必要的弁護事件においては、 弁護人抜きの判決言い渡しは弁護人が出頭拒否をして出頭の権利を放棄していると 見られるような場合を除き、行われるべきではない。 裁判所の右訴訟指揮は、明らかに弁護人の判決言渡し期日への出頭の権利を侵害 するものである。 五 まとめ 以上の原因で、被告人三宅喜一郎に対する詐欺被告事件(御庁・平成八年(う) 第八一九号事件)に関して、中山義房判事、鈴木勝利判事、岡部信也判事を、刑事 訴訟法第二一条を理由として忌避する。 −7− 最初のページに戻る。