平成八年二月二二日宣告 裁判所書記官 山崎 研 平成四年刑わ第一三九四号、第一五二五号、第一七六三号 判 決 本籍 東京都世田谷区松原三丁目八一〇番地 住居 神奈川県横浜市緑区荏田北三丁目七番一五号 職業 会社員 三 宅 喜 一 郎 昭和 一四年 七月 一五日 生 右の者に対する詐欺被告事件について、当裁判所は、検察官高橋久志並びに主任 弁護人橋本佳子及び弁護人金井克仁各出席の上審理し、次のとおり判決する。 主 文 被告人を懲役四年に処する。 未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入する。 −1丁表− 訴訟費用は被告人の負担とする。 理 由 (罪となるべき事実) 被告人は、住宅建築請負等を業とする株式会社平和ホームズ(以下「平和ホーム ズ」という。)の代表取締役であったものであるが、 第一 平和ホームズの常務取締役であった鎌田次朗と共謀の上、同社の資金繰りに 窮したことから、同社と住宅建築工事請負契約を締結して同社の仲介で日本信 販株式会社(以下「日本信販」という。)から請負工事代金の一部二九二〇万 円を借り入れていた石田克史から、右借入金の借換手続という口実で二重に融 資を受けさせて金員を騙取しようと企て、平成二年九月一一日ころ、東京都世 田谷区上北沢五丁目一二番二−二〇四号メイゾン上北沢の石田方で、鎌田にお いて、石田に対し、真実は石田から交付を受けた金員は平和ホームズの債務の 支払等に充てる意図であるのにこれを隠し、かつ、直ちに右金員を石田の日本 −1丁裏− 信販からの借入金の返済に充てるように装い、「日本信販からのつなぎ融資を 東芝総合ファイナンスに借り換えてくれませんか。私共の会社の日本信販から の融資枠には限度があるため、日本信販からのつなぎローンが受けられなくて 困っている人がいるのです。東芝総合ファイナンスからの借入金は、あなたの ロ座に振り込まれますが、日本信販への返済は当社経由で行うことになってい るので、東芝総合ファイナンスからの借入金は当社の口座に振り込んでくださ い。その金であなたが日本信販から借りた分は直ちに返済します。」などと嘘 を言って石田をその旨誤信させ、よって、同月二五日、石田の依頼を受けたそ の妻石田優里をして、東芝総合ファイナンス株式会社(以下「東芝総合ファイ ナンス」という。)から借り入れた現金二七四二万八五五八円を、東京都杉並 区下高井戸一丁目四一番七号株式会社三菱銀行上北沢特別出張所から東京都新 宿区高田馬場三丁目三番六号株式会社第一勧業銀行高田馬場支店平和ホームズ 名義の当座預金口座に振込入金させてこれを騙取した。 −2丁表− 第二 鎌田と共謀の上、平和ホームズの資金繰りに窮したことから、同社と住宅建 築工事請負契約を締結して同社の仲介で日本信販から請負工事代金の一部一〇 九〇万円を借り入れていた麻生英夫から、右借入金の借換手続という口実で二 重に融資を受けさせて金員を騙取しようと企て、事情を知らない平和ホームズ 船橋営業所営業部長清水宏悦をして、平成二年九月二二日ころ、千葉県船橋市 本町二丁目三番一号滝一本町ビル平和ホームズ船橋営業所から千葉市花見川区 幕張町五丁目四一五番地精工舎幕張社宅三−二〇五麻生方に電話をかけさせ、 麻生に対し、真実は、麻生から交付を受けた金員は平和ホームズの債務の支払 等に充てる意図であるのにこれを隠し、かつ、直ちに右金員を麻生の日本信販 からの借入金の返済に充てるように装い、「日本信販からの融資枠が一杯にな ったので、麻生さんは東芝総合ファイナンスから借り換える手続をしてくださ い。東芝から借り換えた融資金はすぐそのまま日本信販に返済しますし、その 手続はすべて当社でやりますからお願いします。」などと説明させた上、同月 −2丁裏− 二六日ころ、東京都新宿区高田馬場二丁目一四番八号竹内ビル平和ホームズ本 社事務所で、鎌田において、同事務所から東京都墨田区太平四丁目一番一号株 式会社精工舎に電話をかけ、麻生に対し、「東芝総合ファイナンスから借り換 える一〇九〇万円は日本信販にそのまますぐに返済します。東芝総合ファイナ ンスからの借入金は、あなたの口座に振り込まれます。日本信販へは、日本信 販と提携している当社の口座から返済することになっていますので、東芝総合 ファイナンスからの融資金は当社の口座に振り込んでもらいます。」などと嘘 を言って麻生をその旨誤信させ、よって、同月二八日、麻生の依頼を受けたそ の妻麻生直美をして、東芝総合ファイナンスから借り入れた現金一〇一七万九 二〇九円を、千葉市美浜区真砂四丁目一番七号株式会社第一勧業銀行新稲毛支 店真砂出張所から前記平和ホームズ名義の当座預金口座に振込入金させてこれ を騙取した。 第三 鎌田及び平和ホームズの取締役であった高澤正比古と共謀の上、同社の資金 −3丁表− 繰りに窮したことから、同社と住宅建築工事請負契約を締結して同社の仲介で 日本信販から請負工事代金の一部一九七〇万円を借り入れていた篠田勉(以下 「篠田」という。)から、右借入金の借換手続という口実で二重に融資を受け させて金員を騙取しようと企て、平成二年一〇月二一日ころから同年一一月二 六日ころまでの間、東京都杉並区浜田山四丁目二九番二五号アビタシオン浜D 号篠田方及び東京都北区志茂四丁目一五番四号第一晴美荘篠田三郎方で、鎌田 あるいは高澤において、数回にわたり、篠田に対し、真実は、篠田から交付を 受けた金員は平和ホームズの債務の支払等に充てる意図であるのにこれを隠し、 かつ、直ちに右金員を篠田の日本信販からの借入金の返済に充てるように装い、 「日本信販のつなぎ融資を東芝総合ファイナンスへくら替えしてほしい。」 「日本信販の枠が一杯になり新規の客の枠が取れないので借換えしてくださ い。」「東芝総合ファイナンスからの融資金はいったん篠田さんの口座に振り 込まれますが、その金は当社と日本信販との提携により当社の口座から日本信 −3丁裏− 販に返済するシステムになっていますので、必ず当社の口座に振り込んでくだ さい。当社に振り込まれた東芝の融資金はそのまますぐ日本信販に返済します ので安心してください。」などと嘘を言って篠田をその旨誤信させ、よって、 同月三〇日、篠田の依頼を受けたその妻篠田志保をして、東芝総合ファイナン スから借り入れた現金一九七〇万円を、束京都港区虎の門二丁目二番五号共同 通信会館ビル一階株式会社東京銀行赤坂支店から前記平和ホームズ名義の当座 預金口座に振込入金させてこれを騙取した。 (証拠の標目) (括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カード及び書証に記された検察 官請求番号を表す。) 判示事実全部について 一 被告人の当公判廷における供述 一 証人相川昭彦の当公判廷における供述 一 第一二回から第一七回までの公判調書中の被告人の各供述部分 −4丁表− 一 各公判調書中の証人鎌田次朗(第二回から第四回まで)、同高澤正比古(第五 回から第七回まで)、同福岡正芳(第七回から第九回まで)、同菅原啓晃(第一 〇回)及び同脇山功三(第九回及び第一〇回)の各供述部分 一 被告人の司法警察員に対する各供述調書(乙一から四まで) 一 鎌田次朗(謄本、甲一〇〇)、高澤正比古(いずれも謄本、甲一〇一から一〇 六まで)及び菅原啓晃(ただし、三丁表四行目から六丁表一行目までを除いたも の・甲七七)の検察官に対する各供述調書 一 相川昭彦(甲四六)、鈴木清博(甲四七)、亀海七郎(甲五三・五四)及び小 田恵美子(甲七三から七六まで)の司法警察員に対する各供述調書 一 司法警察員作成の捜索差押調書(甲九六)、各実況見分調書(甲六三から六五 まで、ただし、甲六五は謄本)及び各捜査報告書(甲六六から七一まで) 一 検察事務官作成の各捜査報告書(甲九七から九九まで) 一 東京法務局新宿出張所登記官作成の各登記簿謄本(甲五六から六二まで) −4丁裏− 一 株式会社第一勧業銀行高田馬場支店(甲四三)、日本信販株式会社東京統括部 (甲四五)及び東芝総合ファイナンス株式会社取締役東京支店長(甲五一)各作 成の各捜査関係事項照会回答書 判示第一(石田関係)、第二(麻生関係)の事実について 一 亀海七郎の司法警察員に対する供述調書(甲五二) 判示第一(石田関係)の事実について 一 石田克史の検察官に対する供述調書(甲一〇) 一 石田克史(甲六から九まで)及び石田優里(甲一一から一三まで)の司法警察 員に対する各供述調書 一 住宅金融公庫南関東支店支店長(甲二七)、社団法人関東年金福祉協会理事長 (甲二九)及び株式会社三菱銀行上北沢特別出張所(甲三六)各作成の各捜査関 係事項照会回答書 判示第二(麻生関係)の事実について −5丁表− 一 麻生英夫(甲一八)及び清水宏悦(甲七九)の検察官に対する各供述調書 一 麻生英夫(甲一五から一七まで)及び麻生直美(甲二〇・二一)の司法警察員 に対する各供述調書 一 司法警察員作成の捜査報告書(甲四一) 一 宮島春樹作成の電話聴取書(甲一九) 一 住宅金融公庫南関東支店長(謄本、甲三一)及び株式会社第一勧業銀行新稲毛 支店(甲四〇)各作成の各捜査関係事項照会回答書 判示第三(篠田関係)の事実について 一 篠田勉の検察官(甲三)に対する供述調書 一 篠田勉(甲一・二)、篠田志保(甲四・五)及び横堀保潔(甲五五)の司法警 察員に対する各供述調書 一 司法警察員作成の捜査報告書(甲三四) 一 住宅金融公庫東京支店長(甲二三)、関東年金福祉協会理事長(甲二五)及び −5丁裏− 株式会社東京銀行赤坂支店(甲三三)各作成の各捜査関係事項照会回答書 (事実認定の補足説明) 弁護人は、被告人が本件犯行に関与した事実はなく、また、本件が詐欺罪を構成 することはないから、被告人は無罪である旨主張する。 第一 被告人が本件犯行に関与した事実はないとの主張について 一 本件事案の性質にかんがみ、平和ホームズの概要、資金繰り会議、つなぎ融 資制度、同社における「二重ローン」の導入、同社の資金繰り状況、本件犯行 に至る経緯、犯行状況及び「二重ローン」の発覚等について、順次検討を加え た上、争点について補足的に説明する。 二 関係各証拠によれば、次のような事実が認められる。 1 平和ホームズの概要等 (一) 平和ホームズについて (1) 平和ホームズは、昭和五〇年七月七日、土木建築工事の請負、建築設 −6丁表− 計、施工、管理、不動産の売買及びその仲介等を目的として、資本金二 五〇万円で設立された株式会社である。当初は、不動産の売買及びその 仲介を主たる業務としていたが、昭和六一年に住宅事業部が創設されて からは、ツーバイフォー工法による個人住宅の建築工事の請負を業務の 柱とするようになった。なお、資本金は、その後、増資を重ねて七三一 二万二五〇〇円となった。 (2) 平和ホームズには子会社としてツーバイホーム技研株式会社(以下 「ツーバイホーム技研」という。)があり、平和ホームズでは受注した 住宅建築工事をツーバイホーム技研に発注し、同社がその設計、施工を 行っていた。 (3) 平和ホームズは、平成三年三月一日、二回目の不渡りを出して事実上 倒産し、同月二〇日、東京地方裁判所において破産宣告を受けた。 (二) 被告人及び共犯者について −6丁裏− (1) 被告人は、昭和五〇年一月、それまで動務していた学校法人を退職し、 同年七月、義弟の設立した平和ホームズの監査役となり、昭和五二年一 〇月、取締役に、昭和五五年五月には代表取締役に就任した。 (2) 共犯者鎌田は、昭和五〇年八月ころから、平和ホームズにアルバイト として動務し、同年一二月、正式採用され、昭和五六年九月、取締役に、 昭和五七年一一月には常務取締役に就任した。鎌田は、平成元年四月こ ろから破産宣告のあった平成三年三月までの間、営業部門に加えて財務 部門も担当していた。 (3) 共犯者高澤は、被告人の動務していた学校法人で被告人の同僚であっ たが、右学校法人を退職後の昭和五四年、被告人の誘いで平和ホームズ に入社し、昭和五八年五月、取締役に就任した。高澤は、昭和六〇年一 月ころから昭和六三年四月ころまでの間、同社の財務部門を担当してい た。 −7丁表− 2 資金繰り会議について (一) 平和ホームズでは業績不振により資金繰りが苦しかったこともあって、 高澤が財務担当であった昭和六一年ころから、会社の資金繰りについて検 討を行い被告人の最終的な判断を仰ぐための会議(以下「資金繰り会議」 という。)が開催されるようになった。 (二) 資金繰り会議には当初、被告人、鎌田、高澤及び専務の三宅千尋の四 人が出席し、その後、ローン担当課長の福岡正芳及びツーバイホーム技研 生産管理部長の菅原啓晃も出席するようになった。なお、福岡は平成元年 五月に、菅原は同年一一月にそれぞれ退社している。 資金繰り会議は、開催日時が特に決まっていたわけではなく、資金繰り 対策が必要と認められる都度開かれ、会議の場所も特に定まっていたわけ ではなく、その都度決められていた。 (三) 資金繰り会議では、通常、資金繰り表のコピーが出席者に配付された。 −7丁裏− 資金繰り表は、およそ一か月間における入出金予定とその残高が原則とし て一日毎に記載されているものであり、後記のつなぎ融資制度が活用され るようになってからは、つなぎ融資を受けた顧客から平和ホームズに入金 される金額も記載されるようになった。会議においては、まず、原則とし て、財務担当者が資金繰り表に記載された各事項を出席者に逐一説明して その確認を求め、出席者は資金繰り表の記載と顧客の契約予定、入金予定 及び工事の工程表等とを対照しながら、入出金時期の確認及び調整を行う などして当月の資金繰りを検討していた。 (四) 平和ホームズの業務は各担当者の権限の範囲内で日常的に処理できる ようなものを除き、すべて社長である被告人の判断とその承諾の下に遂行 されていた。資金繰り会議においても、被告人が、出席者からの質問や意 見が出そろった後、帳尻が合えばこれを了承し、これが合わなければ出金 の調整あるいは未確定の入金分についての確認を指示するなどの最終的な −8丁表− 判断を下していた。被告人が資金繰り会議に欠席した場合には、被告人の 自宅に資金繰り表をファックスで送信するなどして被告人の判断を仰ぐと いう方法がとられていた。 なお、平成二年四月ころから、被告人の事実上の了解の下に経営委員会 が運営されるようになった。同委員会は、当時不在がちであった被告人の 業務運営への取組に対する平和ホームズ社員の危機感や焦燥感などから生 まれてその後自然消滅していった組織であるが、主として設計、工事、営 業等の運営についてその改善を図るために実務レべルでの話合いを行う委 員会であり、会社運営の枢要事項を最終的に決定する機関として活動して いたものではなかった。同委員会の構成員は、鎌田、三宅千尋、平和ホー ムズ船橋営業所長の脇山功三のほか本社営業部長及びツーバイホーム技研 の建築担当者らであった。同委員会が活動を始めた同月ころから同委員会 が自然消滅した同年七月ころまでの間においても、資金繰り会議は被告人 −8丁裏− の出席の下に開催されており、この間の資金繰りも最終的には被告人の権 限と責任において行われていた。 3 つなぎ融資制度等について (一) つなぎ融資制度について 住宅建築工事の注文主は、住宅建築業者に契約金、中間金等の工事代金 を支払う必要があるが、住宅金融公庫等からの公的融資が実行されるのは、 住宅が完成して住宅金融公庫等を権利者とする抵当権の設定登記が完了し た後とされていることから、住宅建築業者に支払うための資金をあらかじ め準備しておかなければならない。そこで、公的融資が実行されるまでの 間、ノンバンク等の金融機関がつなぎの資金を一時的に注文主に融資する というのがいわゆるつなぎ融資制度である。注文主は、後日公的融資が実 行されると、その資金でつなぎ融資の返済をすることとなる。 注文主にとっては、公的融資が実行される前に住宅建築資金を準備でき −9丁表− るという利点があり、平和ホームズのような住宅建築業者にとっても、公 的融資が実行される前に注文主から請負工事代金の支払を受けることによ って下請業者等に支払う資金を確保することができるという利点がある。 (二)平和ホームズにおけるつなぎ融資制度の活用について (1) 平和ホームズでは、当初、つなぎ融資制度を活用していなかったため、 公的融資を利用する個人住宅建築の注文主から工事代金のうち公的融資 の利用に係る分を回収できるのは、住宅が完成して抵当権設定登記等の 手続が完了した後のことであった。平和ホームズは、右の時点までの間 の下請業者等に対する支払代金等については、自己資金で賄わなければ ならなかったが、その資金に乏しかったため、公的融資を利用する住宅 建築の注文主からの受注件数を増加させることが困難であった。 (2) 被告人は、住宅建築の注文主が公的融資を利用した場合でも建築資金 を早期に確保できる制度があるのではないかと考え、そのような制度の −9丁裏− 調査を高澤らに指示していたところ、鎌田がファーストファイナンス株 式会社(以下「ファーストファイナンス」という。)からつなぎ融資制 度の紹介を受けた。そこで、平和ホームズでは、社長である被告人の決 裁を得て、昭和六二年二月から、つなぎ融資制度を活用することとし、 公的融資を利用する顧客にはノンバンク等の金融機関を紹介してつなぎ 融資を受けてもらうようになった。平和ホームズが顧客に紹介した金融 機関は、当初はファーストファイナンスで、その後は、オリエントリー スコーポレーション(その後、「オリックス株式会社」に商号変更。以 下「オリエントリース」という。)、日本信販株式会社(以下「日本信 販」という。)、太陽信用保証協会(以下「太陽信用保証」という。)、 東芝総合ファイナンスなどであった。 4 平和ホームズにおける「二重ローン」の導入及び同社の資金繰り状況につ いて − 10丁表− (一) 財務担当であった高澤は昭和六二年一二月ころ、当時ローン担当であ った福岡から、つなぎ融資を取り扱う金融機関として新たにオリエントリ ースが利用できるようになった旨の報告を受けた。高澤は、当時の平和ホ ームズの苦しい資金繰りなどについて福岡と話をする中で、既にファース トファイナンスからつなぎ融資を受けている顧客に対し、ファーストファ イナンスにはオリエントリースからのつなぎ融資金で直ちに返済すると嘘 をつき、単なる借換えに過ぎない旨誤信させてオリエントリースからも二 重につなぎ融資を受けさせれば、最初のつなぎ融資の返済期日が到来する までの間、オリエントリースからのつなぎ融資金を平和ホームズの資金繰 りに流用できると考えた。高澤としても、平和ホームズの資金繰りにこの ような手段を用いることはできれば避けたいと思っていたが、当時の平和 ホームズは、このような手段で資金を調達しなければ、月末に不渡りを出 しかねない極めて逼迫した資金繰り状況にあり、資金繰り会議の出席者も、 −10丁裏− これを十分承知していた。 この当時、平和ホームズでは、工事の遅れや工程管理の杜撰さなどから 予定どおりに住宅が完成しないため、公的融資の実行も予定より遅れがち となっていた。そのため、公的融資金を返済原資とするファーストファイ ナンスへのつなぎ融資の返済に困難を来し、福岡が、顧客に依頼して、フ ァーストファイナンスに返済期日の延期を申し入れてもらうなどしていた。 (二) 高澤は昭和六三年一月、被告人、鎌田、三宅千尋及び福岡が出席して 開かれた資金繰り会議において、資金繰り表などの資料に基づいて平和ホ ームズの逼迫した資金繰り状況について報告した。その際、高澤は、ファ ーストファイナンスからつなぎ融資を受けている顧客にオリエントリース からも二重につなぎ融資を受けさせ、そのつなぎ融資金を平和ホームズに 入金させてファーストファイナンスに返済しなければ、最初のつなぎ融資 の返済期限が来るまでの間、二度目のつなぎ融資金を資金繰りに流用でき −11丁表− るなどと説明し、そのような資金調達の方法を提案した。同会議の出席者 は、高澤の提案した資金調達の方法が、顧客を欺いて二重につなぎ融資を 受けさせものであることを当然の前提として理解した(以下、つなぎ融資 金を平和ホームズの資金繰りに流用する目的で、顧客を欺いて二重につな ぎ融資を受けさせることを「二重ローン」という。)。 被告人は、平和ホームズの資金繰りのために「二重ローン」を行うこと を了承し、ここにおいて、被告人ら資金繰り会議の出席者は、平和ホーム ズの資金繰りのために「二重ローン」を行うことについての謀議を遂げた。 なお、被告人は、「二重ローン」を実施するための実務的な手続につい ては、高澤及び福岡らの実務担当者に任せることにした。 (三) 平和ホームズでは右資金繰り会議以降、前記謀議に基づき、継続的に 「二重ローン」を行い、それによって得た資金を資金繰りに流用していた。 「二重ローン」を行う実務的な手続は、当初は、主に高澤が担当してい −11丁裏− た。高澤は、ローン担当の福岡に対し、資金不足額に見合う資金調達がで きるように「二重ローン」の対象となる顧客を選定させ、当該顧客と交渉 させるなどしていた。福岡及びその後の担当者らは、顧客と交渉する際、 つなぎ融資の単なる借換えに過ぎない旨の虚偽の説明をして顧客を信用さ せていた。そして、高澤は、資金繰り会議の場で、被告人、鎌田、三宅千 尋らに対し、「二重ローン」による入金予定などが記載された資金繰り表、 入金予定表などの資料を配付し、資金繰り状況を説明していたことから、 被告人も「二重ローン」の方法により継続的に資金を調達し、資金繰りを 乗り切っていることを十分に認識していた。被告人は、本件当時の平成二 年九月以降、東芝総合ファイナンスが融資枠を設定した旨の報告を鎌田か ら受けると、鎌田に対し、「二重ローン」を行うための別の金融機関を探 すよう指示を出していた。 なお、資金繰り会議では、「二重ローン」のことを「ダブル」などと呼 −12丁表− 称していた。 (四) 平和ホームズでは「二重ローン」を行うようになった昭和六三年一月 以降も資金繰りが逼迫した状況が続き、同年四月下旬に一〇〇〇万円、同 年八月下旬に五〇〇〇万円、同年一一月下旬に一億円のそれぞれ突発的な 資金不足が生じたが、平和ホームズの監査役をしていた税理士から五〇〇 〇万円を借り入れたり、下請業者への支払を延期したり、高澤の父親の所 有する土地を担保に入れて五〇〇〇万円を借り入れるなどしてどうにか窮 状を切り抜けていた。また、同年一二月ころには、つなぎ融資の返済が約 定どおりできなくなって、三宅千尋と鎌田が融資先のノンバンクに謝罪に 行ったこともあった。 実際、同年九月以降の平和ホームズの主たる収入源である住宅建築請負 工事の入出金収支は、同月マイナス約二億一〇〇〇万円、同年一〇月マイ ナス約二億円、同年一一月マイナス約二億五〇〇〇万円、同年一二月マイ −12丁裏− ナス約二億九〇〇〇万円といずれも大幅な赤字であったほか、同年八月か ら同年一二月までの経理元帳に基づく入出金残高もすべてマイナスであり、 銀行等の金融機関からの借入残高も、同年一月時点で約三億七〇〇〇万円 であったものが、同年一二月時点ではその三倍近い約一〇億六〇〇〇万円 に達していた。 (五) 平和ホームズでは昭和六三年四月ころ、約定の返済が滞ったことから、 ファーストファイナンスとオリエントリースとの組合せで行っていた「二 重ローン」が右二社に発覚してしまった。その際は、手形を差し入れて返 済期日の延期を図ったり、被告人の自宅を担保に差し入れるなどして処理 し、顧客に「二重ローン」が発覚することはどうにか免れたものの、以後、 右二社とは取引をすることができなくなってしまった。 平和ホームズは、そのころ、日本信販との間でつなぎ融資の提携契約を 締結し、以後、公的融資を利用する顧客には日本信販を紹介してつなぎ融 −13丁表− 資を受けてもらうようになった。平和ホームズでは、右提携契約に基づき、 つなぎ融資の申込手続を顧客に代わって行い、実行されたつなぎ融資金は 平和ホームズが顧客を代理して直接受領していたほか、日本信販に対する 返済も、顧客が直接行うのではなく、必ず平和ホームズが顧客に代わって 行っていた。 (六) 財務担当となった鎌田は平成元年四月下旬ころ開かれた資金繰り会議 において、被告人ら出席者に対し、既に日本信販からつなぎ融資を受けて いる顧客に、「二重ローン」の方法により東芝総合ファイナンスからもつ なぎ融資を受けさせて資金繰りをしたい旨提案した。 被告人は、資金繰りに寄与することなのでできればやってほしい旨述べ て鎌田の提案を了承し、顧客の選定、顧客との交渉等の実務的な手続につ いては従前の「二重ローン」の場合と同じように担当者に任せることにし た。そこで、平和ホームズでは、同年五月から、日本信販と東芝総合ファ −13丁裏− イナンスとの組合せによる「二重ローン」を行って資金を調達するように なった。 なお、そのころ、ローン担当の福岡が退社したため、高澤がローン担当 を兼務して顧客との交渉などに当たることになり、同年一一月ころから平 成二年四月ころまでの間は、高澤及び鎌田の二人が「二重ローン」を実施 するための実務的な手続を担当していた。 (七) 平成元年になってからも資金繰りが極めて逼迫していた平和ホムズで は、同年五月以降は、「二重ローン」を行って資金を調達しなければ資金 不足を来す状況であった。一方、ツーバイホーム技研においても、同年一 一月ころには、下請業者等への支払が極めて苦しく、業者への支払をなる べく手形で済ませるようにしていたほか、課長職以上の社員に対しては給 料を遅配することもあるという状況であった。 そのため、平和ホームズでは、「二重ローン」を行うほか、不動産購入 −14丁表− 資金の融資を受ける際に契約書等の内容を改ざんするなどして実際の購入 価額以上の融資を受け、あるいは日本信販に提出する建築確認通知書等の 日付を遡らせるなど必要書類の内容を改ざんしてつなぎ融資の実行を早め させるなどして資金を捻出していたが、結局、平成三年三月に倒産するま で資金繰り状況は好転しなかった。 実際、平成元年一月から平成三年二月までの住宅建築請負工事の入出金 収支はほとんどの月において赤字であったほか、同期間の経理元帳に基づ く入出金残高は常にマイナスであり、銀行等の金融機関からの借入残高も、 平成元年一月時点では一一億円弱であったものが、平成三年二月時点では その三倍を超える三七億円余りに増加していた。 5 判示第一の犯行(石田関係)に至る経緯及び判示第一の犯行について (一) 石田は千葉県山武郡所在の自己所有の土地に別荘を建築する計画を立 てていたところ、平和ホームズのモニターハウス募集の広告で同社を知っ −14丁裏− た。石田は、自己資金三〇〇万円のほかに住宅金融公庫等から公的融資を 受けることとし、また、公的融資が実行されるまでの間、平和ホームズが 提携している日本信販からつなぎ融資を受けることになった。石田は、平 成二年五月一六日、平和ホームズとの間で、請負工事代金を三〇〇〇万円 とする住宅建築工事請負契約を締結した。右契約には、石田がつなぎ融資 を利用して住宅引渡日までに請負工事代金全額を平和ホームズに対して支 払う旨の特約が付されていた。 石田は、住宅金融公庫から一六二〇万円及び関東年金福祉協会から一三 〇〇万円の各融資を受ける手続をした上、同年八月二二日、日本信販との 間で、石田が同社から二九二〇万円のつなぎ融資を受ける旨の契約を締結 した。右契約には、平和ホームズが顧客を代理してつなぎ融資金を直接受 領する旨の特約が付されていた。日本信販は、同日、右つなぎ融資金から 先取利息等を差し引いた二七八二万三四二〇円を平和ホームズの口座に振 −15丁表− り込んだ。 (二) 鎌田は平成二年九月初めころ、石田に電話をかけ、日本信販からのつ なぎ融資を東芝総合ファイナンスに借り換えてほしい旨依頼したが、石田 は、鎌田の右依頼を断った。鎌田は、その後も石田に再考を促したところ、 石田は、自己の住宅建築工事を依頼している平和ホームズの常務からの頼 みをすげなく断って工事の手抜きでもされたら困ると考え、会って話を聞 くことだけは承知した。 (三) 鎌田は平成二年九月一〇日ころに開かれた資金繰り会議において、資 金繰り表を配付した上、「石田さんについては、日本信販のほかに東芝総 合ファイナンスからも二重につなぎ融資を受けることになっており、これ の分が入金予定です。」などと言って、「二重ローン」の方法により石田 に東芝総合ファイナンスからつなぎ融資を受けさせて二九二〇万円の入金 を受ける予定である旨の説明をした。右資金繰り会議に出席していた被告 −15丁裏− 人は、鎌田の報告を聞いて石田から右つなぎ融資金を騙し取る方針を了承 し、ここにおいて、被告人と鎌田との間に、石田から「二重ローン」の方 法により二九二〇万円を騙し取る旨の共謀が成立した。 (四) 鎌田は平成二年九月一一日ころ、石田方を訪れ、石田に対し、判示の とおり、「日本信販からのつなぎ融資を東芝総合ファイナンスに借り換え てくれませんか。私共の会社の日本信販からの融資枠には限度があるため、 日本信販からのつなぎローンが受けられなくて困っている人がいるので す。」などと嘘を言った上、石田が了承してくれれば良い大工を優先的に 回し、つなぎ融資の金利を若干下げると共に手数料も平和ホームズが負担 するなどの便宜を図る旨説明した。 石田は、優秀な大工を優先的に確保できることや金利が下がることに魅 力を感じる一方、下手に平和ホームズの機嫌を損ねて工事の手抜きでもさ れたら困るとの懸念から、つなぎ融資の借換えを承諾しても良いと思うよ −16丁表− うになった。 しかしながら、石田は、既に請負工事代金がつなぎ融資金で支払済みで あったところから、借換えに応じると二重につなぎ融資債務を負担するこ とになりはしないか心配であったため、鎌田にその旨を確認した。すると、 鎌田は、石田に対し、判示のとおり、「東芝総合ファイナンスからの借入 金は、あなたの口座に振り込まれますが、日本信販への返済は当社経由で 行うことになっているので、東芝総合ファイナンスからの借入金は当社の 口座に振り込んでください。その金であなたが日本信販から借りた分は直 ちに返済します。」などと嘘を言った。石田は、鎌田の言質だけでは心配 だったことから、鎌田に対し、東芝総合ファイナンスからのつなぎ融資金 で日本信販への返済を行う旨の念書の提出を条件に承諾するとの意向を示 した。鎌田は、これを承諾し、同月一六日ころ、石田に対し、その趣旨を 記載した「平和ホームズ代表取締役三宅喜一郎」作成名義の同月一四日付 −16丁裏− け「公的資金つなぎ借入付け替えに関する覚書」と題する書面を郵送した。 そこで、石田は、鎌田の説明を信用して、日本信販からのつなぎ融資の 借換えに応じることにした。 (五) 鎌田は平成二年九月一八日、東芝総合ファイナンスの担当者亀海七郎 と共に石田方を訪ね、石田をして、東芝総合ファイナンスとの間で、石田 が同社から二九二〇万円のつなぎ融資を受ける旨の契約を締結させ、つな ぎ融資の借換手続を取らせた。 (六) 鎌田は、平成二年九月一九日ころに開かれた資金繰り会議において、 「二重ローン」の方法により石田に東芝総合ファイナンスからつなぎ融資 を受けさせて同月二二日に二九二〇万円の入金を受ける旨の報告をした。 出席していた被告人は、これを了承し、その際、資金繰り表の石田の欄に 「二重ローン」を意味する「W」などの書き込みをした。 (七) 石田は平成二年九月二二日、平和ホームズの担当者から、振り込まれ −17丁表− ているはずのつなぎ融資金を平和ホームズの口座にすぐに振り込んでほし い旨の電話を受け、東芝総合ファイナンスから株式会社三菱銀行上北沢特 別出張所の石田名義の預金口座に振り込まれたつなぎ融資金を平和ホーム ズの口座に振り込むようその妻石田優里に依頼した。優里は、同月二五日、 右出張所において、前記二九二〇万円から先取利息等が差し引かれた二七 四二万九二七九円の払戻しを受け、右金額から振込手数料七二一円を差し 引いた二七四二万八五五八円を株式会社第一勧業銀行高田馬場支店の平和 ホームズの当座預金口座に振込送金した。 6 判示第二の犯行(麻生関係)に至る経緯及び判示第二の犯行について (一) 麻生は千葉県八街市所在の自己所有の土地に家を新築する計画を立て ていたところ、平和ホームズのモニターハウス募集の広告で同社を知った。 麻生は、自己の動務先から八〇〇万円の融資を受けるほかに住宅金融公庫 から融資を受けることとし、また、公的融資が実行されるまでの間、平和 −17丁裏− ホームズが提携している日本信販からつなぎ融資を受けることにした。麻 生は、平成二年二月一八日、平和ホームズとの間で、請負工事代金を一七 三五万円とする住宅建築工事請負仮契約を締結した。右仮契約には、麻生 がつなぎ融資を利用して住宅引渡日までに請負工事代金全額を平和ホーム ズに対して支払う旨の特約が付されていた。 麻生は、住宅金融公庫から一〇九〇万円の融資を受ける手続をした上、 同年六月二九日、日本信販との間で、麻生が同社から一〇九〇万円のつな ぎ融資を受ける旨の契約を締結した。右契約には、平和ホームズが顧客を 代理してつなぎ融資金を直接受領する旨の特約が付されていた。日本信販 は、同日、右つなぎ融資金一〇九〇万円から先取利息等を差し引いた一〇 四〇万四二五三円を平和ホームズの口座に振り込んだ。 その後、麻生は、同年七月二六日、平和ホームズとの間で、請負工事代 金を一八四九万一〇〇〇円とする住宅工事請負本契約を締結した。右契約 −18丁表− には前記仮契約と同旨の特約が付されていた。 (二) 鎌田は、平成二年九月二一日ころに開かれた資金繰り会議において、 「二重ローン」の方法により麻生に東芝総合ファイナンスからつなぎ融資 を受けさせて同月二九日から同年一〇月一日までの間に一〇九〇万円の入 金を受ける旨の報告をした。右資金繰り会議に出席していた被告人は、鎌 田の報告を聞いて麻生から右つなぎ融資金を騙し取る方針を了承し、その 際、資金繰り表の同月二九日から同年一〇月一日までの欄に「麻生(10/ 1)10,900」と書き込みをした。ここにおいて、被告人と鎌田との 間に、麻生から「二重ローン」の方法により一〇九〇万円を騙し取る旨の 共謀が成立した。 (三) 船橋営業所長の脇山はつなぎ融資の借換えを麻生に依頼するようにと の鎌田の指示に従い、平成二年九月二二日ころ、船橋営業所営業部長清水 宏悦に対してこれと同旨の指示を与えた。清水は、脇山から指示されるま −18丁裏− ま、同日、平和ホームズ船橋営業所から麻生方に電話をかけ、麻生に対し、 判示のとおり、「日本信販からの融資枠が一杯になったので、麻生さんは 東芝総合ファイナンスから借り換える手続をしてください。東芝から借り 換えた融資金はすぐそのまま日本信販に返済しますし、その手続はすべて 当社でやりますからお願いします。」などと説明してつなぎ融資の借換え を依頼し、その際、新規の金融機関が東芝系の会社で信用できる上、借換 えに必要な費用はすべて平和ホームズが負担する旨の説明もした。 麻生は、清水の説明を信用して、日本信販からのつなぎ融資の借換えに 応じることにした。 (四) 鎌田は、平成二年九月二四日ころに開かれた資金繰り会議において、 「二重ローン」の方法により麻生に東芝総合ファイナンスからつなぎ融資 を受けさせて同月二九日から同年一〇月一日までの間に一〇九〇万円の入 金を受ける旨の報告をした。右資金繰り会議に出席していた被告人は、こ −19丁表− れを了承し、その際、資金繰り表の麻生の欄に赤字で「東芝」などと書き 込みをした。 (五) 鎌田は、平成二年九月二六日の午前中、平和ホームズ本社事務所から、 麻生の動務先である株式会社精工舎に電話をかけ、麻生に対し、判示のと おり、「東芝総合ファイナンスから借り換える一〇九〇万円は日本信販に そのまますぐに返済します。東芝総合ファイナンスからの借入金は、あな たの口座に振り込まれます。日本信販へは、日本信販と提携している当社 のロ座から返済することになっていますので東芝総合ファイナンスからの 融資金は当社の口座に振り込んでもらいます。」などと嘘の説明をした上、 「二重ローン」のからくりが露見するのを恐れ、東芝総合ファイナンスの 担当者の前では競争会社である日本信販の話題は出さぬようロ止めをした。 鎌田は、麻生がつなぎ融資の借換えを承諾したことから、同日午後一時 ころ、亀海と共に麻生の勤務先を訪ね、麻生をして、東芝総合ファイナン −19丁裏− スとの間で、麻生が同社から一〇九〇万円のつなぎ融資を受ける旨の契約 を締結させ、つなぎ融資の借換手続を取らせた。 (六) 麻生は平成二年九月二八日、東芝総合ファイナンスから株式会社第一 勧業銀行新稲毛支店真砂出張所の麻生名義の預金ロ座に振り込まれたつな ぎ融資金を平和ホームズのロ座に振り込むようその妻麻生直美に依頼した。 直美は、同日、右出張所において、前記一〇九〇万円から先取利息等が差 し引かれた一〇一七万九六二一円の払戻しを受け、右金額から振込手数料 四一二円を差し引いた一〇一七万九二〇九円を前記平和ホームズの当座預 金ロ座に振込送金した。 7 判示第三の犯行(篠田関係)に至る経緯及び判示第三の犯行について (一) 篠田は東京都北区所在の養父名義の土地に二世帯住宅を建築する計画 を立てていたところ、平成二年二月ころ、平和ホームズのモニターハウス 募集の広告で同社を知った。篠田は、自己資金七〇〇万円のほかに、住宅 −20丁表− 金融公庫及び関東年金福祉協会から公的融資を受けることとし、また、右 公的融資が実行されるまでの間、平和ホームズが提携している日本信販か らつなぎ融資を受けることになった。篠田は、同年六月二八日、平和ホー ムズとの間で、請負工事代金を二八五〇万円とする住宅建築工事請負契約 を締結した。右契約には、篠田がつなぎ融資を利用して住宅引渡日までに 請負工事代金全額を平和ホームズに支払う旨の特約が付されていた。 篠田は、関束年金福祉協会から受ける融資の手続に手間取ったことから、 同年八月三〇日、とりあえず住宅金融公庫から受ける融資額一九七〇万円 についてのみ、日本信販との間で、篠田が同社からつなぎ融資を受ける旨 の契約を締結した。右契約には、平和ホームズが顧客を代理してつなぎ融 資金を直接受領する旨の特約が付されていた。日本信販は、同日、右つな ぎ融資金から先取利息等を差し引いた一八七九万九六五六円を平和ホーム ズの口座に振り込んだ。 −20丁裏− (二) 鎌田は、平成二年一〇月一五日ころに開かれた資金繰り会議において、 被告人及び高澤ら出席者に対し、資金繰り表のコピーを配付した上、「二 重ローン」の方法により篠田に東芝総合ファイナンスからつなぎ融資を受 けさせて一九七〇万円の入金を受ける予定である旨の報告をした。被告人 及び高澤は、鎌田の報告を聞いて篠田から右つなぎ融資金を騙し取る方針 を了承し、ここにおいて、被告人、鎌田及び高澤の間に、篠田から「二重 ローン」の方法により一九七〇万円を騙し取る旨の共謀が成立した。 (三) 鎌田は平成二年一〇月二一日ころ、篠田方を訪問し、篠田に対し、判 示のとおり、「日本信販のつなぎ融資を東芝総合ファイナンスへくら替え してほしい。」などと申し出た上、借換えにかかる手数料は平和ホームズ で負担する旨説明したが、篠田は、東芝総合ファイナンスに借り換える必 要性は全くないと考え、鎌田の右申出を断った。 (四) 鎌田は、平成二年一〇月二四日ころに開かれた資金繰り会議において、 −21丁表− 「二重ローン」の方法により篠田に東芝総合ファイナンスからつなぎ融資 を受けさせて同月三一日には一九七〇万円の入金を受ける旨の報告をした。 右資金繰り会議に出席していた被告人は、これを了承し、その際、資金繰 り表の篠田の欄に赤字で二重丸の印を付けた。 (五) その後平成二年一〇月二五日ころ、鎌田及び高澤が篠田方を訪問した 際、高澤は、つなぎ融資の借換えをする必要性についての篠田の疑問に答 え、判示のとおり、「日本信販の枠が一杯になり新規の客の枠が取れない ので借換えしてください。」などと嘘を言った上、東芝総合ファイナンス からの融資は工事に取り掛かっていないと実行されないため、新規の顧客 が同社から融資を受けることが難しい旨もっともらしく説明し、さらに、 同社からつなぎ融資を受ける場合には土地を担保にする必要がある旨の説 明を付け加えた。 しかし、篠田は、土地を担保にしてまで借換えをしなければならない理 −21丁裏− 由はないと考え、口実を設けて高澤らの右申出を断った。 (六) その後、篠田は、高澤から、篠田の養父篠田三郎(以下「三郎」とい う。)とも話がしたい旨懇願されたことから、平成二年一〇月二七日ころ、 三郎方に高澤を案内して三郎を紹介した。 高澤は、三郎方において、篠田及び三郎らに対し、公的融資を利用する 顧客には融資を受ける全額についてつなぎ融資を受けてもらっているので、 住宅金融公庫から受ける融資額一九七〇万円に関東年金福祉協会から受け る融資額一〇六〇万円を加えた合計三〇三〇万円について、東芝総合ファ イナンスからつなぎ融資を受けてもらいたい旨依頼した。さらに、高澤は、 日本信販からこれまでに借りている分は東芝総合ファイナンスからのつな ぎ融資金で直ちに返済し、返済の手続は平和ホームズが責任をもって行う 旨の念書も提出するので安心してほしいなどと説明を付け加えた。しかし、 篠田は、口実を設けて高澤の右申出を断った。 −22丁表− (七) 鎌田は、平成二年一一月一三日ころに開かれた資金繰り会議において、 「二重ローン」の方法により篠田に東芝総合ファイナンスからつなぎ融資 を受けさせて同月二〇日には篠田からの入金を受ける旨の報告をした。右 資金繰り会議に出席していた被告人は、これを了承し、その際、資金繰り 表の同月二〇日の欄に赤字で「しのだ」と記載するなどの書き込みをした。 (八) 高澤及び鎌田は平成二年一一月中旬ころ、篠田方を訪れ、高澤が、篠 田に対し、借換えが利益になる旨を具体的な金額を示して説明した。しか し、篠田は、土地を担保に入れるなどの手続が煩雑であると考え、口実を 設けて高澤らの右申出を断った。ところが、篠田は、高澤が三〇万円もの 値引きを提案したことから心が動き、高澤に対し、日本信販への返済が直 ちにされるのかを確認した。高澤は、東芝総合ファイナンスからのつなぎ 融資金で日本信販に直ちに返済する旨確約した。篠田は、マイホームの建 築を平和ホームズに任せていて高澤らの申出を無下には断りにくい立場に −22丁裏− あったことから、格別の値引きの提案に折れるほかはないと考え、高澤の 右言葉を信用し、日本信販からのつなぎ融資の借換えに同意すると共に、 関東年金福祉協会から受ける融資額についてもつなぎ融資を受けることに した。 (九) 篠田は平成二年一一月二六日ころ、高澤及び東芝総合ファイナンスの 担当者横堀保潔を三郎方に案内した上、土地の所有名義人である三郎とも 相談し、同人の土地を担保に差し入れて東芝総合ファイナンスからつなぎ 融資を受けることについて最終的に了承した。高澤は、同所において、篠 田をして、東芝総合ファイナンスとの間で、篠田が同社から三〇三〇万円 のつなぎ融資を受ける旨の契約を締結させ、住宅金融公庫から受ける融資 額一九七〇万円についてつなぎ融資の借換手続を取らせた。 高澤は、横堀が帰った後、篠田に対し、判示のとおり、「東芝総合ファ イナンスからの融資金はいったん篠田さんの口座に振り込まれますが、そ −23丁表− の金は当社と日本信販との提携により当社の口座から日本信販に返済する システムになっていますので、必ず当社の口座に振り込んでください。当 社に振り込まれた東芝の融資金はそのまますぐ日本信販に返済しますので 安心してください。」などと嘘の説明をした上、つなぎ融資の借換えの費 用は平和ホームズが負担するなどと記載された「平和ホームズ代表取締役 三宅喜一郎」作成名義の同月二六日付け念書を篠田に手渡し、東芝総合フ ァイナンスからのつなぎ融資金を平和ホームズの口座に振込送金するよう 依頼した。 (十) 篠田は平成二年一一月二九日、東芝総合ファイナンスから株式会社東 京銀行赤坂支店の篠田名義の預金口座に振り込まれたつなぎ融資金を平和 ホームズの口座に振り込むようその妻篠田志保に依頼した。志保は、同日、 右支店において、前記三〇三〇万円から先取利息等が差し引かれた二八二 九万一九七五円の払戻しを受け、同額を前記平和ホームズの当座預金口座 −23丁裏− に振込送金し、翌三〇日、同口座に同額(うち日本信販からのつなぎ融資 の借換分一九七〇万円が騙取額)が入金された。 8 「二重ローン」の発覚について 平和ホームズは、資金繰りに窮していたため、平成二年一二月二七日に返 済期限が来る顧客九名分のつなぎ融資債務合計一億一七〇〇万円を日本信販 に返済することができなかった。 そこで、日本信販の担当者が未払の顧客に確認を取ったところ、東芝総合 ファイナンスから融資を受けて既に日本信販に返済しているなどとの回答が なされた。被告人は、「二重ローン」の実態が露見するのをおそれ、高澤ら に指示を与えてその隠ぺい工作を種々講じてみたものの、平和ホームズが会 社ぐるみで継続的に「二重ローン」を繰り返していたことが発覚してしまっ た。 三 被告人の弁解及び弁護人の主張について −24丁表− 1 被告人は、概ね次のとおり、本件犯行に関与した事実はない旨弁解し、弁 護人も同様の主張をする。 (一) 資金繰り会議が存在しなかったとの弁解 平和ホームズにはそもそも資金繰り会議なる会議が存在しなかったから、 資金繰り会議において本件犯行に関する謀議がなされたなどということは あり得ない。 (二) 被告人が経営委員会によって会社経営から排除されていたとの弁解 平和ホームズでは、本件犯行当時、一種のクーデター組織である経営委 員会が会社経営の実権を握っており、被告人が会社経営から排除されてい たから、被告人が本件犯行に関する共謀に参加したなどということはあり 得ない。 (三) 平和ホームズが特に資金繰りに窮していたわけではないとの弁解 平和ホームズは、昭和六三年ころから本件当時にかけての時期において、 −24丁裏− 十分な資産を有しており、特に資金繰りに窮していたわけではないから、 被告人には詐欺を働いてまでして資金を得なければならないという動機は ない。 2 そこで、被告人の弁解の信用性について検討し、弁護人の主張について判 断することとする。 (一) 資金繰り会議が存在しなかったとの弁解について (1) 前掲関係各証拠、とりわけ第二回から第四回までの各公判調書中の証 人鎌田次朗の各供述部分(以下「鎌田供述」という。)、第五回から第 七回までの各公判調書中の証人高澤正比古の各供述部分(以下「高澤の 弁論更新前の供述」という。)、第七回から第九回までの各公判調書中 の証人福岡正芳の各供述部分(以下「福岡供述」という。)、第一〇回 公判調書中の証人菅原啓晃の供述部分(以下「菅原供述」という。)、 鎌田次朗(謄本、甲一〇〇)及び高澤正比古(いずれも謄本、甲一〇一 −25丁表− から一〇六まで)の検察官に対する各供述調書並びに検察事務官作成の 各捜査報告書(甲九七・九八)によれば、前記のとおり、@平和ホーム ズでは、昭和六一年ころから、会社の資金繰りについて検討を行い被告 人の最終的な判断を仰ぐための会議が随時開催されるようになり、この 資金繰り会議には、被告人、鎌田、高澤及び三宅千尋の四人が当初から ほぼ毎回出席し、その後福岡及び菅原も随時出席するようになったこと、 A被告人ら同会議の出席者が、昭和六三年一月に開催された資金繰り会 議において、資金繰りのために「二重ローン」を行うことについての謀 議を遂げたこと、B平成二年九月から一〇月にかけて開催された数回の 資金繰り会議において、被告人と共犯者らとの間で、「二重ローン」の 方法により被害者らから金員を騙し取る旨の具体的共謀が成立したこと が認められる。 (2) 鎌田供述、福岡供述、高澤の弁論更新前の供述、菅原供述並びに鎌田 −25丁裏− 及び高澤の捜査段階における各供述は、その記憶の細部については多少 不明確なところが見受けられるものの、具体的かつ詳細で迫真性に富み、 その内容自体にも特に不自然な点はなく、その各供述相互間でも、明白 に矛盾するというようなところはない。特にその核心的部分である資金 繰り会議や被告人と共犯者らとの間の共謀の成立に関わる供述には以下 のような客観的な証拠による裏付けが存在する。すなわち、@昭和六三 年三月二七日午後一時七分ころ被告人宅にファックスで送信された「4 月実行予定分」と題する書面に、「日本信販つなぎF・Fダブル分」と の記載があり、その下欄に顧客四名と金額が掲記されており、同日午後 一一時三三分ころ被告人宅にファックスで送信された書面に、「つなぎ 借入等(ダブリ借入)」という欄が設けられていること、A同年九月二 七日午前一時三一分ころ被告人宅にファックスで送信された「報告書」 と題する書面に、「ファーストファイナンスのつなぎダブルの件、返済 −26丁表− 期日が来ておりましたが、ひとまず話がつきました。」と記載されてい ること、B同年一〇月九日午後七時二一分ころ被告人宅にファックスで 送信された「ファクシミリ送信票」に、「つなぎ融資のダブルの資料F AXしておきます。」と記載されていること、C平成元年四月二七日午 前一時二二分ころ被告人宅にファックスで送信された書面に、「高澤と 福岡の判断ミスのため日本信販への四月返済分が「GUP」(被告人は、 「GUP」が「ジャンプ」を意味することを自認している。)できなく なってしまったが、「GUP」できずに「ダブル」で利用しているユー ザーにハガキが行くと、トラブルの発生する危険がある。そのため、四 月二七日に合計四三八〇万円を日本信販に返済しなければならなくなっ た。その件で相談したいので、午前九時ころ電話を入れる。」旨記載さ れていること(なお、以上@からCまでの送信事実については被告人も 自認している。)、D被告人の自筆のメモが多数書き込まれた本件犯行 −26丁裏− 当時の資金繰り表が存在し、石田、麻生及び篠田の欄にも「W」などの 書き込みがあること(なお、これらの資金繰り表を本件犯行当時に受け 取っていたこと及び書き込みが自筆のメモであることについては被告人 も自認している。)などである。また、鎌田、福岡、高澤及び菅原にお いて、ことさら被告人に不利益な虚偽の供述をしたと疑われるような客 観的事情は認められない。 そうすると、鎌田供述、福岡供述、高澤の弁論更新前の供述、菅原供 述並びに鎌田及び高澤の捜査段階における各供述はいずれもその信用性 が高いというべきである。 ところで、高澤の弁論更新前の供述は前記二の認定事実に沿うもので あったが、高澤は、当公判廷(第一九回から第二五回まで及び第三二 回)において、捜査段階の供述及び弁論更新前の供述を翻し、資金繰り 会議が存在したことや被告人との間で本件各犯行について共謀が成立し −27丁表− たことを否定する供述をしている。 しかしながら、高澤の当公判廷における供述は、前記のとおりいずれ も信用性の高い鎌田供述、福岡供述、高澤の弁論更新前の供述、菅原供 述並びに鎌田及び高澤の捜査段階における各供述と明らかに相容れない 上、その信用性を疑わせる次のような事情も認められるのであって、到 底信用できないというべきである。 ア 高澤は、供述を変更した理由について、捜査段階で取調官から資金 繰り会議が存在した旨執拗に言われて同会議が存在したとの錯誤に陥 り、弁論更新前の供述の際もそのように考えていたが、その後の時間 の経過と共に明らかな勘違いであることに気付いたなどと供述してい る。しかしながら、高澤が右に述べるところは、資金繰り表などの客 観的証拠に基づいて具体的かつ詳細に一貫して供述してきたことを、 当公判廷において突如として変更した理由としては、到底納得し難い。 −27丁裏− イ 高澤は、平和ホームズに入社する前は被告人と同じ職場の同僚であ ったこと、平和ホームズには被告人に勧誘されて入社したこと及び同 社の倒産後は被告人から紹介された会社に被告人と一緒に勤務してい ることを自認している。高澤の当公判廷における供述は、高澤と被告 人との間の右のような緊密な関係に照らすと、被告人をかばっている のではないかとの疑いを払拭し難い。 ウ 高澤は、検察官請求証人(第五回から第七回までの公判)として供 述した後、本件に関与して有罪判決を受けたことなどを理由に平和ホ ームズの顧客から損害賠償金の支払を求める民事訴訟を提起されたこ とを自認している。高澤の当公判廷における供述は、係属中の右民事 訴訟における自己の立場を強く意識しているもののようにうかがわれ る。 (3) 弁護人は、資金繰り会議が存在したとの点を争い、次のとおり主張す −28丁表− る。 ア 被告人の業務ノート(弁第七号証)、高澤の業務ノート(弁第九号 証)及び鎌田の手帳(弁第一三号証)には資金繰り会議が開催された 痕跡が存在していない。これは、資金繰り会議なる会議が実際には存 在しなかったことの証左である。 イ 資金繰り表は、財務担当者がその日常的な作業の中で作成する単な るメモにすぎず、その記載が極めて不正確であって、これに基づいて 平和ホームズの資金繰りを検討するなどということは不可能であるか ら、資金繰り表の存在を資金繰り会議が実際に存在したことの根拠と することはできない。実際、資金繰り表の記載は、経理担当者の作成 した日計表との間に食い違いが目立ち、多額の入金が記載漏れとなっ ている例もある。また、平和ホームズの当座預金口座の残高がマイナ ス三〇〇万円を超えると手形等の決済ができずに不渡りとなるため、 −28丁裏− 資金繰り表の記載上、当座預金口座の残高がマイナス三〇〇万円を超 えることはあり得ないはずであるのに、残高がそれを超えて記載され ている例が少なくない。 ウ 平和ホームズでは、昭和六三年四月下旬に一〇〇〇万円、同年八月 下旬に五〇〇〇万円、同年一一月下旬に一億円のそれぞれ資金不足が 発生しており、その都度、緊急対策会議を開いて対応策を協議し、事 態を切り抜けている。資金繰り会議なる会議が実際に存在してそこで 資金繰りが検討されていたのであれば、右のような異常な事態は発生 しなかったはずである。 エ 平和ホームズでは、昭和六三年九月から同年一二月にかけて、前記 緊急対策会議以外にも、被告人、三宅千尋、鎌田、福岡らが出席して 財務管理に関する会議が数回開催されている。資金繰り会議なる会議 が実際に存在していたのであれば、右のような会議を開催する必要性 −29丁表− はなかったはずである。 オ 菅原供述には、平成元年五月ころまで資金繰り会議で「二重ロー ン」に関する話が出たことはなかった旨断言している部分がある。菅 原は、平和ホームズの役員でも社員でもなく、本件とも利害関係がな い上、経営委員会が活動を開始する以前にツーバイホーム技研を退社 しているのであって、中立的立場にあるから、菅原供述の信用性は高 い。そうすると、鎌田供述のうち、資金繰り会議では昭和六三年一月 ころから一貫して「二重ローン」についての説明がされていたとの部 分は明らかに虚偽であり、このことは鎌田供述全体の信憑性を疑わせ ることにもなる。 (4) しかしながら、弁護人の前記(3)の主張は、次に述べるとおり、いずれ も採用することができない。 ア 被告人の業務ノート、高澤の業務ノート及び鎌田の手帳には、「資 −29丁裏− 金繰り会議」との記載があるわけではなく、また、資金繰り会議の予 定等を記したと思われるような記載はほとんどない。 しかしながら、前記のとおりいずれも信用性の高い鎌田供述、福岡 供述、高澤の弁論更新前の供述及び菅原供述によれば、@資金繰り会 議の出席者らに同会議が平和ホームズの資金繰りについて検討する会 議であるとの共通認識はあったものの、右出席者らがこれを一義的明 確に「資金繰り会議」と呼称していたというわけではないようである こと、A資金繰り会議は、その開催日時が特に決まっていたわけでは なく、資金繰り対策が必要と認められる都度開かれていたものであっ て、通常は勤務時間終了後の午後八時ころから午後一〇時ころまでの 時間に始まることが多く、場合によっては午後一一時ころに始まって 午前零時過ぎまで続くこともあったことが認められる。右のような 「資金繰り会議」という呼称の定着度及び資金繰り会議の開催状況に −30丁表− 加えて、各人の業務ノートや手帳の類については、各人各様の意図と 必要性の判断に基づいて備忘等のための書き込みがされるというのが 通常であることをも併せ勘案すると、被告人、高澤及び鎌田が、その 業務ノート等に「資金繰り会議」との記載をしなかったり、資金繰り 会議の予定等を記載しないことがあったとしても、あながち不自然で はない。 そうすると、被告人らの業務ノート等に「資金繰り会議」との記載 がなく、また、資金繰り会議の予定等を記したと思われる記載がほと んどないからといって、それが直ちに資金繰り会議が実際には存在し なかったことの証左であるなどとはいえない。 イ 資金繰り表に入金等についての記載漏れがあったり、同表の記載上、 当座預金口座の残高がマイナス三〇〇万円を超えている例が少なくな いことは、弁護人の主張するとおりである。 −30丁裏− しかしながら、証人鎌田次朗の当公判廷(第二六回及び第二七回) における供述によれば、資金繰り表は、毎回新しく作り直されるとい うわけではなく、前回の資金繰り会議で使用されたものが再度使用さ れ、あるいはそれに若干の修正を加えたもののコピーが配付され、会 議当日、口頭で報告される入出金状況を出席者がこれに書き込むとい うようなことが行われていたことが認められる。右事実によれば、資 金繰り表に入金等についての記載漏れがあったとしても格別不自然で はない。また、同証人の右供述によれば、平和ホームズでは、小切手 を振り出した時点で資金繰り表に出金分として記載していたが、小切 手が実際に支払呈示されるまでの間は当座預金口座からの引き落とし がされないため、資金繰り表の記載上は当座預金口座の残高がマイナ ス三〇〇万円を超えていても不渡りを出さずに済んでいたことが認め られる。右事実によれば、資金繰り表の記載上、当座預金口座の残高 −31丁表− がマイナス三〇〇万円を超えている例が少なくないとしても、やはり 格別不自然であるとはいえない。 そうすると、資金繰り表に入金等についての記載漏れがあったり、 同表の記載上、当座預金口座の残高がマイナス三〇〇万円を超えてい る例が少なくないからといって、資金繰り会議において、資金繰り表 に基づいて資金繰りの検討が行われていたという前記認定が左右され るものではない。 鎌田の当公判廷における供述は、具体的かつ詳細であり、その内容 自体に特に不自然な点はなく、その信用性が高いというべきである。 ウ 昭和六三年当時に前記のような多額の資金不足が発生していること は、弁護人の主張するとおりである。 しかしながら、平和ホームズの同年九月から同年一二月までの住宅 建築請負工事の入出金収支、同年八月から同年一二月までの経理元帳 −31丁裏− に基づく入出金残高、同年一月時点及び同年一二月時点の金融機関か らの借入残高は、いずれも前記二4(四)で認定したとおりであって、 平和ホームズの当時の資金繰り状況は極めて逼迫していたことが明ら かである。このような平和ホームズの当時の資金繰り状況に照らすと、 資金繰り会議を開催して資金繰りを検討していたとしても、なお突発 的な資金不足が発生することは十分にあり得るところである。 そうすると、弁護人の主張するような資金不足が発生しているから といって、資金繰り会議が開催されて資金繰りが検討されていたとい う前記認定が左右されるものではない。 エ 昭和六三年九月から同年一二月にかけて財務管理に関する会議が開 催されていたことは弁護人の主張するとおりである。 しかしながら、資金繰り会議が、その時々の資金繰りを検討するた めに随時開催されていたとしても、純然たる資金繰りの検討とは別個 −32丁表− の観点から財務管理に関する会議を開催する必要性が全くなくなると いうものではなく、弁護人の主張するような会議が開催されていたか らといって、資金繰り会議が実際には存在しなかったことの根拠とな るわけではない。 オ 平成元年五、六月ころまでは資金繰り会議で「二重ローン」に関す る話が出たことはなかった旨の菅原供述は、その供述状況からみて、 「二重ローン」に関する話が平成元年四月以前にも出ていたことを断 定的に否定する趣旨のものとは解し難い。関係各証拠によれば、菅原 は、昭和六三年九月ころから資金繰り会議に出席していたが、同月か ら平成元年五月までの間に契約された「二重ローン」の月毎の契約件 数は、昭和六三年九月零件、同年一〇月一件、同年一一月零件、同年 一二月零件、平成元年一月三件、同年二月零件、同年三月零件、同年 四月一件、同年五月一〇件であったことが認められる。菅原が資金繰 −32丁裏− り会議に出席するようになって以降の「二重ローン」の契約状況から すると、本社の役員でもローン担当でもない菅原には、契約件数が格 段に多い平成元年五月ころの資金繰り会議における「二重ローン」に 関する話が強く記憶に残るのは自然であり、そのために菅原が右のよ うな供述をした可能性を否定し難いというべきである。そうすると、 右菅原供述によって鎌田供述の信用性が左右されることはないという べきである。 (二)被告人が経営委員会によって会社経営から排除されていたとの弁解につ いて (1) 第九回及び第一〇回各公判調書中の証人脇山功三の各供述部分(以下 「脇山供述」という。)並びに前記のとおり信用性の高い鎌田供述及び 高澤の検察官に対する供述調書謄本(甲一〇一)によれば、前記のとお り、経営委員会が活動していた当時においても、平和ホームズの経営は −33丁表− 被告人の権限と責任において行われており、経営委員会が資金繰りにつ いての最終的な決定をするというようなことはなかったことが認められ る。 脇山供述は、具体的かつ詳細であり、その内容自体に特に不自然な点 はなく、右鎌田供述とも概ね符合しているのであって、その信用性が高 いというべきである。 (2) 弁護人は、被告人の自筆のメモが書き込まれた資金繰り表は、経営委 員会により会社経営から排除されていた当時の被告人が、経営委員会の メンバーとの関係を修復したいとの意向から、鎌田と接触して説明を受 けた際に書き込んだ経緯を如実に示すものである旨主張する。 しかしながら、被告人は、右資金繰り表が、平成二年九月から同年一 一月にかけて作成されたもので、メモもその当時被告人によって書き込 まれたものであることを自認しているところ、前記のとおり、経営委員 −33丁裏− 会は、同年七月ころに自然消減しており、同年九月から同年一一月にか けての時期には既に活動していなかったのであるから、被告人の自筆の メモの書き込みを経営委員会の活動との関係で説明しようとする弁護人 の右主張はその前提を誤っている上、いずれも信用性の高い鎌田供述、 高澤の弁論更新前の供述及び高澤の捜査段階における供述の内容と明ら かに相容れないものであって採用できない。 (三) 平和ホームズが特に資金繰りに窮していたわけではないとの弁解につ いて 平和ホームズの資金繰りが昭和六二年末ころから倒産した平成三年三月 まで常に逼迫した状況にあったことは、前記のとおりである。 この点について、弁護人は、平和ホームズは、担保余剰価値が昭和六三 年当時で二億円以上に上る土地のほか、自社で分譲したマンションを五戸 ほど所有するなど十分に資産を有していたから、特に資金繰りに窮してい −34丁表− たとはいえない旨主張する。 しかしながら、前記のとおり、@平和ホームズでは、平成元年五月以降 は、日本信販と東芝総合ファイナンスとの組合せによる「二重ローン」を 行って資金を調達しなければ、資金不足を来す状況であったこと、Aその ため、平和ホームズでは、「二重ローン」のほかにも、必要書類の内容を 改ざんしてつなぎ融資の実行を早めさせるなどして資金を捻出していたこ と、B実際、昭和六三年九月から平成三年二月までの住宅建築請負工事の 入出金収支はほとんどの月において赤字であったほか、昭和六三年八月か ら平成三年二月までの経理元帳に基づく入出金残高は常にマイナスであり、 この期間の銀行等の金融機関からの借入残高が急激に増加していることな どに照らすと、平和ホームズが弁護人の主張するような資産を有していた としても、昭和六三年以降の平和ホームズの右のような極めて厳しい資金 繰り状況を打開できたとは到底認め難いから、弁護人の右主張は採用でき −34丁裏− ない。 (四) 以上の検討によれば、被告人の弁解はいずれも信用することができず、 弁護人の主張はいずれも採用しない。 第二 本件が詐欺罪を構成することはないとの主張について 一 被害者らには詐欺罪による被害が存在しないとの主張について 1 弁護人は、次のとおり主張する。 すなわち、被害者らと日本信販とのつなぎ融資契約では、被害者らが契約 書の「貴社指定口座」欄に記載された口座に入金する方法によってつなぎ融 資債務を返済する約定になっており、同欄には平和ホームズの当座預金口座 が記載されている。したがって、被害者らが東芝総合ファイナンスからの借 入金を右平和ホームズの当座預金口座に振込送金したことによって被害者ら は日本信販に対する債務を返済したことになる。そうすると、右振込送金の 時点で被害者らの日本信販に対する債務は消滅しており、被害者らには詐欺 −35丁表− 罪による被害が存在していないから本件は詐欺罪を構成しない。 2 そこで、以下に検討を加える。 (一) 証人相川昭彦の当公判廷における供述並びに相川昭彦(甲四六)及び鈴 木清博(甲四七)の司法警察員に対する各供述調書によれば、@つなぎ融 資契約は日本信販と顧客との間の契約であって、平和ホームズは単なる取 り次ぎをするに過ぎないこと、A日本信販が、平和ホームズに対し、日本 信販に代わって顧客からのつなぎ融資債務の返済金を受領する権限を与え た事実はないこと、B本件当時の日本信販の担当者は、顧客が平和ホーム ズの当座預金口座に返済金を振込送金すれば日本信販に対する返済がなさ れたことになるとか、その時点で顧客の日本信販に対するつなぎ融資債務 が当然に消滅するとは考えていなかったことが認められる。 (二) 平和ホームズの担当者である鎌田及び高澤は前記のとおり、被害者ら に対し、日本信販に対する返済は平和ホームズが顧客に代わって行うこと −35丁裏− になっており、被害者らが東芝総合ファイナンスからの借入金を平和ホー ムズの当座預金口座に振込送金すれば、平和ホームズが右振込金で直ちに 返済を行う旨説明しているのであって、本件当時、被害者らが平和ホーム ズの当座預金口座に日本信販に対する返済金を振込送金すれば、その時点 で被害者らの日本信販に対するつなぎ融資債務が当然に消滅するとは考え ていなかったことが明らかである。 (三) 前記(一)(二)に検討したところからすると契約書の貴社指定口座欄 に平和ホームズの当座預金口座が記載されているからといって、右記載を、 顧客が平和ホームズの当座預金口座に返済金を振込送金することによって 日本信販に対するつなぎ融資債務の返済が完了し、その債務が当然に消滅 することを定めた趣旨と解することができないことは明らかである。 なお、前記第一、二4(五)のとおり、日本信販と平和ホームズとの提 携契約に基づくつなぎ融資債務の返済は、顧客が直接行うのではなく、必 −36丁表− ず平和ホームズが顧客に代わって行うことになっていたところから、契約 書の「貴社指定口座」欄に平和ホームズの当座預金口座が便宜記載される 扱いになったようにうかがわれる。 3 以上によれば、被害者らが平和ホームズの当座預金口座に日本信販に対す る返済金を振込送金した時点で被害者らの日本信販に対するつなぎ融資債務 が当然に消滅したとは認められないから、弁護人の右主張は失当である。 二 平和ホームズの担当者には欺罔行為も詐欺の故意もないとの主張について 弁護人は、平和ホームズの財務担当者及びローン担当者は、つなぎ融資は実 質的には「平和ホームズの借入れ」として理解し、そのように運用してきたも のであり、顧客名義のつなぎ融資(付け替え)債務については、日本信販に対 して確実に返済するつもりであったのであるから、右担当者らには、欺罔行為 もなければ詐欺の故意もない旨主張する。 しかしながら、平和ホームズの担当者である鎌田及び高澤は、前記のとおり、 −36丁裏− 被害者らに対し、真実は、被害者らから交付された東芝総合ファイナンスのつ なぎ融資金を平和ホームズの債務の支払等に充てる意図であるのにこれを隠し て、右つなぎ融資金を直ちに日本信販に対する返済に充てる旨の嘘を言ってい るのであるから、担当者である鎌田及び高澤が、欺岡行為を行っており、かつ、 詐欺の故意を有していたことは明らかである。また、仮に、鎌田及び高澤が、 被害者らの日本信販に対する債務を遠からず返済するつもりであったとしても、 そのような事情が詐欺罪の成否を左右するものではない。 弁護人の右主張も失当である。 第三 結論 以上の検討によれば、被告人が共犯者らと共謀を遂げた上、本件各犯行に及 んだものと認めるに十分であり、また、本件各犯行が詐欺罪を構成することも 明らかであるから、弁護人の主張は採用できない。 (法令の適用) −37丁表− 被告人の判示各所為はいずれも平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同 法による改正前の刑法六〇条、二四六条一項に該当するところ、以上は同法四五条 前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一 の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役四年に処し、同法二一条 を適用して未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入し、訴訟費用については、刑事訴 訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由) 本件は、住宅建築工事の請負等を業とする株式会社の代表取締役であった被告人 が、同社の取締役であった共犯者らと共謀の上、顧客らに対し、つなぎ融資の借換 手続という口実で二重につなぎ融資を受けさせて金員を騙し取ったという事案であ る。 犯行の動機は、被告人らが、平和ホームズの資金繰りに窮したことから、その運 転資金等を調達するために本件犯行に及んだというものである。被告人らは、昭和 −37丁裏− 六三年一月から、経営状態を改善する具体的な見通しもないまま、資金繰りのため に「二重ローン」を繰り返すという無責任極まりない経営を続けた挙げ句、平成三 年三月、平和ホームズを倒産させ、本件の被害者らに二重払いの危険を現実化させ た。被告人には、一般市民の一生に一度の大事業ともいうべきマイホーム建築を請 け負う業者としての企業倫理が全く欠如しており、動機に酌量の余地はない。 犯行の態様は、被告人が、資金繰り会議の場で、共犯者である他の取締役らと共 謀の上、平和ホームズの資金繰りのために「二重ローン」を行う旨を決定し、共犯 者らが、被告人の指示の下に、被害者らに対し、つなぎ融資を借り換える手続をし てほしいなどと申し向けて本件犯行に及んだもので、会社ぐるみの組織的かつ計画 的な犯行である。本件は、被害者らの平和ホームズへの信用を逆手に取り、マイホ ーム建築の請負業者との関係を悪化させたくないという顧客心理に付け入り、言葉 巧みに被害者らを騙した背信性の高い悪質な犯行でもある。被告人は、平和ホーム ズの代表取締役として、会社の社会的責任を果たすべき立場にありながら、自らの −38丁表− 地位の保全や平和ホームズの利益のみを優先させ、本件犯行を実行する旨の最終決 定を行い、部下である共犯者らにその実行を指示して本件犯行を敢行したもので、 主導的役割を果たしている。 犯行の結果は、被害額が合計約五七三〇万円とすこぶる多額である。被害者らは、 本件犯行により、多額の二重払いを強いられる危険にさらされ、被害者らはもとよ り、その妻子、両親らなどにおいても著しい精神的苦痛を被っており、その結果は 重大である。被告人は、被害者らに対して被害弁償はおろか何らの慰謝の措置も講 じていない。被告人に資力がなく、平和ホームズが破産宣告を受けたことからする と、今後も被害者らに対して被害弁償がなされる可能性は低い。被害者らと日本信 販との間で和解が成立してはいるものの、和解の内容は、被害者らが一定の経済的 負担を強いられるものである。右和解は、専ら、被害者らと日本信販との交渉によ って成立したもので、被告人はこれに何らの寄与もしていない。被害者らの被告人 に対する処罰感情には当然のことながら極めて厳しいものがある。 −38丁裏− 加えて、本件は、住宅建築工事の請負等を業とする会社の役員らが、つなぎ融資 制度を利用する顧客らに対して組織的に敢行した詐欺事件であり、マイホーム建築 を計画する一般市民に対して著しい不安感を与えた。本件が社会に与えた影響には 軽視し難いものがある。 被告人は、自己の責任を自覚せず、部下に責任を押し付ける趣旨の不自然、不合 理な弁解をしており、その供述態度は決して潔いものとはいえない。 以上の諸点にかんがみると、被告人の刑事責任は重大である。 他方、被告人は、東芝総合ファイナンスのつなぎ融資金を被害者らから騙し取っ た際、被害者らの日本信販に対する債務を事後的にせよ返済したいと考えていたよ うであること、被告人には前科、前歴が全くないこと、被告人の妻の健康状態が芳 しくないことなど被告人のために斟酌すべき事情もある。 そこで、以上の諸事情を総合考慮して、主文のとおり量刑した。 よって、主文のとおり判決する。 −39丁表− (求刑懲役五年) 平成八年二月二二日 東京地方裁判所刑事第一一部 裁判長裁判官 田 中 康 郎 裁判官 田 村 眞 −39丁裏− 裁判官 鈴 木 謙 也 右は謄本である 平成ハ年三月二九日 東京地方裁判所刑事第一一部 裁判所書記官 山 崎 研(印) −40丁表− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 最初のページに戻る。