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Chapter 19

Genes and Medical Genetics 遺伝子と医学分野の遺伝学

Chapter Concepts この章のコンセプト

19.1 Genotype and Phenotype 遺伝子型と表現型

19.2 Dominant/ Recessive Traits 優性と劣性の形質

19.3 Polygenic Traits 多因子遺伝の形質

19.4 Multiple Allelic Traits 複対立遺伝の形質

19.5 Incompletely Dominant Traits 不完全優性遺伝の形質

19.6 Sex-Linked Traits 伴性遺伝の形質


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Figure 19.1 遺伝

 身体上の特性は親から子へと遺伝することは知られている。行動に関する形質はどうであろうか。(遺伝するのか) 両親の好きなもの嫌いなものは子供に影響するのだろうか。

 知的、同性愛、愛情、体重超過。これらの特徴のうちどれかあなたの特徴を示しているものはありますか?もし当てはまるのなら、おそらくその根拠を幾分かは遺伝子のせいにすることができるだろう。
 生物学者達は長い間、身体上の特徴(形質)、例えば顔面の特徴といったものを遺伝子と結び付けてきた。ヒトの巨大な遺伝子のネットワークを解読した現在、生物学者達は遺伝子の影響を熟知している特徴にまで拡大した。研究で得た知見から様々な病気の新しい治療法を導くことが可能である。例えば、学者達の中には新発見の肥満に関連した遺伝子を研究している人達がいて、脂肪(肥満)に対抗する薬剤を創ろうとしている。別の学者たちは攻撃性を記載している特定の遺伝子を欠いた実験動物のマウスを作って、どのように行動するか観察している。
 幾ダースもの新たな行動に関係した遺伝子が将来明らかになっても、我々は、どうして遺伝と環境が相互作用して我々の有り様を造りだすのかを知ることは、決してないであろう。社会科学者は、行動に関する形質(特性)は、ある程度は遺伝子により支配されるが、子供の状況、同族集団、その他の社会的状況もまた個人の個性を形作る要因であると主張している。古典的な「自然(つまり遺伝)」対「養育(つまり環境)」の議論は、多くの人々が半々の状況であると結論づけているにもかかわらずいまだに決着していない。
 我々の身体的特性を支配し、ある程度ではあるが行動を支配する遺伝子とは何であろうか ? この章では遺伝子を染色体の構成単位であると考ることが、とりわけ遺伝性疾患を受け継ぐ可能性を計算したい場合に、有用なことがあることを示す。けれども、既に遺伝子は実際には DNA分子でタンパク生合成の情報を持っていることを学んだ。そこで今度は、この翻訳の機能が直接細胞や臓器の構造にどのように働くのかを調べてみよう。



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19.1 Genotype and Phenotype 遺伝子型と表現型

 遺伝子型(genotype)は個体の遺伝子がどうであるかを記載している。一対の染色体に於て同じ位置にあり同じ形質に影響を及ぼす遺伝子のことを、別な言い方で対立遺伝子(allele)という。ある対立遺伝子を指示する手段としてアルファベット一文字の記号で表記することがよく行われており、文字はその対立遺伝子が支配する特異的な性質を意味する。優性対立遺伝子には大文字のアルファベットが割りふられ、一方、劣性対立遺伝子には同じ文字で小文字のアルファベットが割りふられている。ヒトでは、例えば、耳たぶに切れ目があること(切れ耳と呼ぶことにする)は、耳たぶに切れ目がないこと(閉じ耳とする)に対して優性である。そこで、適当な文字の割り当てとして、切れ耳に E、閉じ耳に eの文字を割りふる。
 常染色体上の対立遺伝子は対であるので個体は通常ある形質に対して二つの対立遺伝子を持つと言える。一対の染色体を両親から一つずつ遺伝するのと同様に、一対の対立遺伝子も両親から一つずつ遺伝する。Figure 19.2 は、三つの実際にありうる受精の型とその結果出来上がった接合体の構造および個体の形質を示している。一例目(左側の例)では、精子と卵(子)は E遺伝子を運んでおり、結果として、接合体と発育した個体は、EEの対立遺伝子を持つ。EE は優性ホモ接合体遺伝子型とも呼ばれる。EE遺伝子型を持つ人はもちろん切れ耳を持つ。この例での個体の身体的な表れは切れ耳であり、こういったものは表現型と呼ばれる。
 二例目(真中)の配偶では、接合体は eeの対立遺伝子を受け取り、遺伝子型は劣性ホモ接合体である。この遺伝子型の個体は、劣性の表現型であり、閉じ耳である。三例目(右側)の配偶では個体は結果として Eeの対立遺伝子を持ち、ヘテロ接合体遺伝子型と呼ばれる。ヘテロ接合体は優性の特徴を発現する。それ故、この個体の表現型は閉じ耳である。
 これらの例により、優性の対立遺伝子を片親から受け継げば、特定の表現型を現すことができる、ということになる。劣性の対立遺伝子が劣性の表現型を発現するためには、両親から劣性の対立遺伝子を受け継がなければならない。


 遺伝子型は、優性ホモ(EE)か、劣性ホモ(ee)か、ヘテロ(Ee)の接合体の何れかであり、ある人がどんな遺伝子を持つかを知らせる。
 表現型は、例えば、切れ耳と閉じ耳といったような感じで、ある人がどんな様子かを知らせる。


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Figure 19.2

 個人は、あらゆる解剖学的身体的な特質に関して最低限二つの対立遺伝子を遺伝する。優性対立遺伝子(E)を一つ遺伝すると切れ耳になる。二つの劣性対立遺伝子(ee)を遺伝すると閉じ耳になる。父親から一つの対立遺伝子を(精子で)、母親から一つの対立遺伝子を(卵で)遺伝することに注目されたい。




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19.2 Dominant/ Recessive Traits 優性と劣性の形質

 E や e の文字で表される対立遺伝子は染色体の一部分である。個体はそれぞれの形質に関して二つの対立遺伝子を持つが、それは一対の染色体が同じ形質を担った二つの対立遺伝子を持つからである。いったい幾つの対立遺伝子が配偶子の中にあるのであろうか。答えは一つである。何故なら染色体の対は第一減数分裂の際に分裂するからである。

Forming the Gametes 配偶子形成

 配偶子形成の間に、染色体数は減少する。ヒトの個体は 46本の染色体をもっており、一方、配偶子は 23本しか染色体をもっていない(そうでないと、世代が替わる毎に、個体は親の倍の染色体をもつことになってしまう)。染色体数の減少は、減数分裂が起こって染色体の対が分離する際に起こる。対立遺伝子は染色体上にあるので、同様に減数分裂の際に分離する。それ故、配偶子はそれぞれの形質に関して一つの対立遺伝子を持つ。ある個体が EEの対立遺伝子対を持っていたら、両親の配偶子はどちらも Eを持っていたはずである。というのは、それ以外ありえないからである。同様に、ある個体が eeの対立遺伝子を持っていたら、両親の配偶子はどちらも eeを持っていたはずである。ある個体が Eeの遺伝子型の場合はどうであろうか? Figure 19.3 は形成される配偶子のうち半数(つまり 2つ)が E配偶子を持ち、別の半数が e配偶子を持つことを示している。Figure 19.4 はヒトの他の形質の幾つかに関しての遺伝子型を示しており、表現型に関してどの対立遺伝子を配偶子が運んでいるかを練習ことができる。


Figure 19.3 配偶子形成

 配偶子形成の際に起こる減数分裂の際に染色体が分裂するので、配偶子はそれぞれの形質に対して一つだけ対立遺伝子を持つ。


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Figure 19.4 Common inherited characteristics in human beings. ヒトに共通した遺伝的性質

a. おでこの生え際の毛髪の生え方(x未亡人の頂点)、中央が出っ張っている。: 優性
b. まっすぐなおでこの生え際。: 劣性

c. ぷらぷらした耳たぶ(切れ耳): 優性
d. くっついている耳たぶ(閉じ耳): 劣性

e. 短い指: 優性
f. 長い指: 劣性

g. そばかす: 優性
h. そばかすなし: 劣性


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Figuring the Odds 優劣の表現

 両親が子供が特定の遺伝子型、つまり特定の表現型を持つ可能性を知りたいと考えることは多い。片方の親が優性ホモ(EE)の場合、子供が切れ耳を持つ可能性は 100%である。何故なら、(EEの)親が持っている子供に受け渡すことができる対立遺伝子は優性の(E)だけだからである。他方で、両親とも劣性ホモ(ee)の場合、子供は必ず 100%の確率で閉じ耳を持つのである。しかしながら、両親がヘテロ接合体の場合、子供が切れ耳を持つ可能性はどうであろうか ? こういった問題を解くために、慣例として最初に両親の遺伝子型と可能性のある配偶子を提示する。

   遺伝子型: Ee    Ee
   配偶子:  E と e  E と e

 次に、パネット表(訳注: 検定交雑表と同義、Punnett はおそらく学者の名前)を、全ての精子と卵がが同等の確率受精すると仮定して、子孫にどういった割合で表現型が表れるかを決定するために用いられる。精子の型の全ての組み合わせが縦横のどちらかに並べられ、卵の型の全ての組み合わせが縦横のもう一方に並べられる。(縦横は逆でもよい。)こり例で子供の世代に表現型が表れる比率は 3:1 である(3人が切れ耳で、1人が閉じ耳)。このことは、全ての子供に 3/4(75%)の確率で切れ耳になり、1/4(25%)の確率で閉じ耳になる可能性があることを意味する。
 とりわけ興味深い別の交雑として、ヘテロ接合体の個体(Ee)と純正劣性(ee)の個体の交雑がある。この例では、パネット表の結果は子供の世代が 1:1の割合になることを示し、優性になる確率も劣性になる確率も 1/2(50%)である。
 前出の二つの交雑を比較すると、両親ともヘテロ接合体の場合、子供はそれぞれ 75%の確率で優性の表現型を持ち、片親がヘテロ接合体でもう片親が劣性ホモ接合体の場合は子供はそれぞれ 50%の確率で優性の表現型を持つことがわかる。両親ともヘテロ接合体の場合、子供はそれぞれ 25%の確率で劣性の表現型を持ち、片親がヘテロ接合体でもう片親が劣性ホモ接合体の場合は子供はそれぞれ 50%の確率で劣性の表現型を持つことがわかる。
 両親ともヘテロ接合体の場合、子供はそれぞれ 25%の割合で劣性の表現型を示す。片親がヘテロ接合体でもう片親が劣性ホモ接合体の場合、子供はそれぞれ50%の確率で劣性の表現型を示す。

(訳注: 理解している人にはくどすぎる説明とも思える。)


Figure 19.5 Heterozygous-by-heterozygous cross. ヘテロ接合体 × ヘテロ接合体 の交雑

 両親がヘテロ接合体の場合、子供はそれぞれ 75%の確率で優性の表現型を示し、25%の確率で劣性の表現型を示す


Figure 19.6 Heterozygous-by-homozygous recessive cross. ヘテロ接合体 × 劣性ホモ接合体 の交雑

 片親がヘテロ接合体でもう片親が劣性ホモ接合体の場合、子供はそれぞれ 50%の確率で優性の表現型を示し、50%の確率で劣性の表現型を示す


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Dominant Disorders 優性遺伝の疾患

 多くある常染色体(X-連鎖性でない)優性遺伝の疾患の中から、ここでは二つだけ紹介する。


Neurofibromatosis 神経線維腫症

 神経線維腫症は、フォン レックリング ハウゼン病 とも呼ばれ、最も有名な遺伝性疾患の一つである。ざっと見て 3,000人に 1人の割合で患者がいて、その内、合衆国には 100,000(10万)人がいる。人種や民族間によらず発症率は世界中で同様と思われる。
 出生時あるいはそれ以降に、患者の皮膚には 6個かそれ以上の大きな褐色斑(カフェ・オ・レ斑 として知られている)が見られる。そういった斑は、成長とともに大きくなり、その数も多くなり、色調も褐色が濃くなる。小型の神経線維腫と呼ばれる良性腫瘍(lump こぶ)が肌や様々な臓器に生じる。神経線維腫の発生母地は神経細胞やその他の細胞型である。
 神経線維腫の表れ方は様々である。多くの症例では、症状は穏やかなものであり、患者は正常な生活を送る。しかしながら、重篤な症状になる症例もある。巨頭を含んだ骨格の変形(奇形)が見られ、目や耳の腫瘍が視力障害(盲)や聴覚障害(聾 ろう)を引き起こす。多くの神経線維腫症の患児は、学習障害や活動性亢進をきたす。
 1990年に、研究者は17番染色体上にある神経線維腫症の原因遺伝子を単離した。ある DNA(デ オキシ リボ核酸)解析によれば、原因遺伝子は大きな領域で更に三つの小さな領域を含んでいるとのことである。ヒトに於いて巣(そう)をなす遺伝子が見つかったのはこれが二番目である。神経線維腫症の原因遺伝子は腫瘍抑制遺伝子であり、細胞分裂の調節に際して機能している。神経線維腫の原因遺伝子に変異が生じると、良性腫瘍が発生する。


Huntington Disease ハンチントン舞踏病 (訳注: 直訳すればハンチントン病だが、-舞踏病のほうが日本ではよく用いられる疾患名)

 合衆国の 20,000(2万)人に 1人が ハンチントン舞踏病である。ハンチントン舞踏病は、神経学的疾患で、進行性の脳細胞の変性と、それによる重篤な筋痙縮(きんけいしゅく)や人格障害が見られる。多くの保因者は中年になるまでは健常に見え、その頃(中年期)には罹患した(因子を受け継いだ)子供が既にいるのである。時折、本疾患の最初の徴候が 10代やそれより若い子供の時期にあらわれることがある。有効な治療法はなく、徴候が最初に発生した時期から 10〜15年後にしが訪れる。
 数年前、研究者は 4番染色体上にあるハンチントン舞踏病の原因遺伝子を発見した。遺伝子の存在を確かめるべく実験が組まれたが、ハンチントン舞踏病に対する有効な治療法がない以上、遺伝子を保因しているかを知りたい者は殆どいなかった。1993年に原因遺伝子が単離された後、ある解析が原因遺伝子には 塩基のトリプレット(∴コドン)である CAG(シトシン-アデニン-グアニン → Gln グルタミン)の配列が多数繰り返されていることを証明した。健常者がこのトリプレットを11〜34回繰り返しているのに対して、患者は42〜120回以上も繰り返している。繰り返しが多く存在すればするほど、ハンチントン舞踏病の発症はより早くなり症状もより重篤になる。父親から疾患を受け継いだほうがより発症しやすいようでもある。精子形成と卵形成の際では遺伝子は別の形態で腹写されるので、それ故、疾患を受け渡す親の性がどちらであるかが重要である。
 重篤の度合いと発症の時期が遺伝子に存在する塩基のトリプレットの繰り返しの数により異なる疾患が多く存在することが知られている。更に、疾患の原因遺伝子は遺伝子の刷り込みの影響も受ける。

 ヒトには多くの常染色体優性遺伝の疾患が存在し、その中には神経線維腫症とハンチントン舞踏病がある。


Figure 19.7 Huntington disease. ハンチントン舞踏病

 この疾患の患者は、徐々に身体の精神運動の制御を失う。最初に小さな障害が現れ、時とともに徴候(症状)は悪化していく。


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Recessive Disorders 劣性遺伝の疾患

 多くある常染色体劣性遺伝の疾患の中から、ここでは三つだけ紹介する。


Tay-Sachs Disease テイ-サックス病
 テイ-サックス病は、その祖先の多くが中央及び東ヨーロッパ系の民族である合衆国のユダヤ系の人々の間に通常見られることがよく知られている遺伝病である。最初のうちは(生後暫くは)肉体がテイ-サックス病に罹患している事は明白でない。しかしながら、生後四ヶ月から八ヶ月くらいの間の期間に発育の遅滞が見られるようになり、やがて神経学的な(神経系の)欠陥や精神運動の困難が顕在化してくる。患児は徐々に失明し手の施しようがなくなり、処置不能の痙攀を起こすようになり、やがて麻痺する。テイ-サックス病に対する処置や治療はなく、大部分の罹患者は三歳から四歳までに死亡する。
 テイ-サックス病はヘキソサミニダーゼA (Hex A)という酵素の欠損、及びそれに続いて起こるリソソームでのグリコスフィンゴリピッドという名で知られている脂質性の基質の蓄積が原因で起こる。多くの体細胞でリソソームが次々と産生されるにも関わらず、(脂質性基質の)蓄積が起こる主要な場所は脳であり、その事が(痙攀)発作や精神運動機能の進行性の荒廃の原因となっている。
 テイ-サックス病のヘテロ接合体を持つ人は、Hex A酵素の活性が一般人の半分程度である。羊水穿刺や絨毛膜細胞診により出生前診断をすることも可能である。
(訳注: 卵膜は 胎児側より、@羊膜, A絨毛膜, B脱落膜 で、胎児の絨毛膜と母体の脱落膜(併せて胎盤)で物質交換する。詳しくは Chapter 15 で。)

Cystic Fibrosis 嚢胞性線維症
 嚢胞性線維症は、合衆国のコーカサス系の人々の間で最も良く見られる致死性の遺伝性の疾患である。コーカサス系の約20人に一人がキャリアーで約2,500出生に一人の割合で発病する。患児は気管支と膵管の粘液が特に厚くて粘稠であり、肺と膵臓の機能に悪影響を及ぼす。呼吸を容易にするために肺の厚い粘液は定期的に用手的に排出しなければならず、しかしそれでも(粘液をマメに取り除いても)肺は感染しやすい。詰まりぎみの膵管は消化酵素が小腸に到達するのを阻害する。そこで、消化を促進するために患者は消化酵素を混ぜたリンゴ汁を食事の前毎に飲んでいる。
 ここ数年で嚢胞性線維症の病態の理解に関して大きな進展があり、新しい治療法により平均余命が28歳までになった。研究の結果、塩化物イオン(Cl-)は患者の漿膜のチャネル蛋白を通過することができないことが説明された。通常、塩化物イオンが膜を通過した後、水分がそれに続く。水分の不足が気管支と膵管に於ける粘液の異常な肥厚の原因となっていると考えられている。嚢胞性線維症の原因遺伝子は7番染色体の上にあり単離されている。そして、鼻腔上皮の細胞に遺伝子を挿入する試みが行われているが、現在まで殆ど成功していない。成人キャリアーや胎児の遺伝子に対して遺伝学的検査を行うことは可能であり、遺伝子の存在が認められれば(検査が陽性であれば)両親は疾患を持つ子供を産むリスクを冒すかどうかあるいは中絶するかどうかを選択しなければならない。


Figure 19.8 Cystic fibrosis. 嚢胞性線維症

 嚢胞性線維症患児の肺の粘液は定期的に背中を叩くことにより排出したい。ある新しい治療法は肺で増殖しようとする細胞を破壊する。ある薬剤は白血球を破壊し、別の薬剤は細胞からDNAを取り除いて細胞を残す。抗生剤を賢く使えば肺の感染症を抑えるようにコントロールすることができる。その他の薬も積極的に使用すれば粘液の分泌を減らすことができる。


Phenylketonuria(PKU) フェニルケトン尿症
 フェニルケトン尿症(PKU)は5,000出生に一人の割合で発症する、よって、前に紹介した疾患よりは頻度は少ないと言える。しかしながら、本症は神経系の発達に悪影響を及ぼす最も一般的な遺伝性の代謝疾患である。(実の)いとこ同士の結婚はPKU児をより出産しやすい。(訳注: second cousin は はとこ や またいとこ )
 患者はアミノ酸のフェニルアラニンの通常の代謝に必要な酵素が欠乏していて、本来は蓄積しないはずの分解の際の中間産物であるフェニルケトンが尿中に蓄積する。PKU遺伝子は12番染色体上にあり、両親のDNA検査によりこの対立遺伝子の存在を判定することができる。何年か前には、新生児は自宅でPKUを検索するために尿の検査を行っていた。現在では、新生児は病院でルーチンの検査として血中フェニルアラニンレベルの上昇がないか調べている。 上昇が検出されれば、新生児は低フェニルアラニン食を処方され、脳が完全に発達するおよそ七歳になるまで続けられる。それを行わないと重篤な精神遅滞になってしまう。

 ヒトには多くの常染色体劣性遺伝の疾患が存在し、その中には テイ-サックス病、嚢胞性線維症、フェニルケトン尿症がある。


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Pedigree Charts 家系図

 遺伝性疾患が常染色体優性であれば、AA か Aa の対立遺伝子を持つ個体は発症するといえる。遺伝性疾患が劣性であれば、対立遺伝子が aa である個体のみが発症するといえる。遺伝子相談のカウンセラーは、しばしば家系図を遺伝の形態が優性か劣性であるかを判断するために作成する。家系図は特定の状態の遺伝のパターンを示す。二つの遺伝のパターンについて考えてみよう。

 どちらのパターンにおいても、雄は四角(□)で示され、雌は丸(○)で示されている。陰影がついた丸や四角は病気にかかっている個体であることを示す。丸と四角の間の線は婚姻関係を示す。垂直方向下向きに伸びている線は、上の二つのパターンでは、子供が一人いることを意味している。(もっと子供がいる場合は、垂直方向の線が追加される)。どちらのパターンが常染色体劣性の特徴を示していると思いますか ?  パターンI では、子供は患者であり、親の片方も患者である。疾患が優性であれば、患者の子供には少なくとも一人の患者の親がいるはずである。二つのパターンの中で、パターンI は優性遺伝のパターンを示している。Figure 19.9 は優性遺伝の疾患の典型的な家系図を示している。常染色体優性遺伝の疾患を鑑別するための別の方法が示されている。
 パターンII では、子供が患者であり、両親は患者でない。このことは、遺伝の形式が劣性であり、両親とも遺伝子型が Aaである場合に起こりうる。外見上は健常であるが、遺伝性疾患を持つ子供を生み得る能力があることから、両親は保因者であることに注目されたい。Figure 19.10 は、劣性遺伝の疾患の典型的な家系図を示している。figure には常染色体劣性遺伝の疾患を鑑別するための別の方法が示されている。
 「チャンス(機会)は記憶されない」ということを認識することが重要である。両親ともヘテロ接合体の子供が(劣性遺伝の)疾患を持つ確率は25%である。このことは、別の言い方をすれば、両親ともヘテロ接合体の子供が四人の子供を持つと、全ての子供が疾患を持つ可能性があるのだ。


 優性と劣性の対立遺伝子は、遺伝のパターンが異なる。



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Health Focus


Genetic Counseling 遺伝相談


 今日では、子供を持とうとする夫婦は、多くの疾患が遺伝子の欠陥が原因で起こるということを警戒するようになり、多くの夫婦が遺伝子相談に訪れている。カウンセラーは夫婦の背景を調べ、一世代前の先祖の中に遺伝子疾患を持つものがいないかどうかを確認しようとする。遺伝系統図が作成される。そして、カウンセラーは夫婦について検査する。可能な限りの検査が、関係する人々全て(訳注: つまり家系の中ノ必要なメンバーに関して)に関して施行される。
 今日では、多数の遺伝性疾患についての検査が可能である。例えば、染色体検査が、嚢胞性線維症、神経繊維腫、Huntington舞踏病について施行可能である。血液検査はサラセミアや鎌状赤血球症の保因者を検出できる。血液や涙液や皮膚細胞の酵素活性を調べることにより、酵素欠損の検出を行って、ある種の先天性の代謝障害、例えば Tay-Sachs(テイ-サックス)病を検索することが可能である。こういった情報から、カウンセラーは子供が疾患を持つ可能性を予測することができることもある。
 妊婦に対して、絨毛膜細胞診を早い時期に施行することが全ての場合に可能であり、妊娠後期には羊水穿刺を施行することが可能である。Chapter 17で説明してあるそういった手技は胚や胎児の細胞の検査をそれぞれ可能にし、まだ生まれていない子供が遺伝性疾患を持つかどうかを判定することができる。出生前診断がつけば(意訳)、出生前に治療をすることが場合によっては可能であるし、両親は中絶するかどうか決断することができる。

Table 19A Test and Treatment for Some Human Genetic Disorders ヒトの遺伝性疾患の幾つかに関する検査と治療

Autosomal Recessive Disorders 常染色体劣性疾患
Autosomal Dominant Disorders 常染色体優性疾患
Incomplete Dominance 不完全優性遺伝
X-Linked Recessive X-連鎖性劣性
* 出生前診断が行われている疾患



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19.3 Polygenic Traits 多因子遺伝の形質

 多因子遺伝は、ある形質が二組かそれ以上の対立遺伝子によって支配されている際に起こる、患者の個体は全ての対立遺伝子の組を一揃い持っている。それぞれの優性対立遺伝子は表現型に対して量的な効果を示し、その効果は加算的である。結果として連続した多様性のある表現型が見られ、ベル状のカーブを描くグラフを示す。多くの遺伝子が関与するほど多様性と表現型の配分(のカーブ)は連続的になる。環境の影響もまた多くの入り組んだ表現型に影響を及ぼす。身長の場合は栄養状態の差異により、グラフがベル状のカーブを示すことが確証されている。

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Figure 19.11 多因子遺伝
 若い男性の大きな集団で身長を計測すれば、(a) 値の表はベル状の曲線を描く (b) そういった曲線は、幾つかの対立遺伝子対による形質の支配の賜(たまもの)である。環境因子もそれに関与している。

(訳注: (b)のグラフに関して 1inch = 2.54cm として、62inches = 157.48cm, 68 inches = 172.72cm, 74inches = 187.96cm)

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Skin Color 肌の色

 肌の色を支配する対立遺伝子の数が幾つであるかは実際にはわかっていない、しかし、色の幅がどの部分に属するかは二つの対立遺伝子により規定されている。漆黒の肌の人と美白の肌の人をかけ合わせると、子供は中間の茶色の肌を持つ。中間の茶色の肌を持つ人どうしでかけ合わせると、子供の肌の色は漆黒から美白までの幅でありうる。このことは、肌の色は二対の対立遺伝子により支配されると推測することで説明できる。それぞれの対立遺伝子の遺伝子型が大文字である場合は肌の色が濃くなるように働く。

 再び、表現型には幅があり、両端の表現型の間に幾つかの表現型がありうるということに着目しよう。そのことにより、表現型の配分のグラフがベル状になるのである。両極端の表現型を示す人は少なく、両極端の中間点に位置する表現型が最も多い。

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Polygenic Disorders 多因子遺伝の疾患

 例えば次のような疾患、唇裂(口唇裂)や口蓋裂、内反足、先天性股関節脱臼、高血圧、糖尿病、精神分裂病、更にはアレルギーや癌までの多くの人の疾患が多因子遺伝的に支配され、環境の影響にさらされている可能性が濃厚である。それ故、多くの研究者が、「自然」対「養育」の問題を考える過程にある。つまり、形質のうち何%が遺伝子による支配を受け、何%が環境の影響を受けるのかという問題である。現在までに、どの特定の形質に対しても世間的に了承されている割合を明確に定めるには至っていない。
 ここ数年、ありとあらゆる行動に関する形質、例えば、アルコール依存、種々の恐怖、自殺といったものが遺伝子と関連があるというような報告が出てきた。行動に関する形質がある程度遺伝子と関連があるということは疑いの余地は無い。しかし、再度言えば、現在の時点でどの程度影響を受けるのかということは判定できない。そして、そういった遺伝子の支配を受けていると思われる形質が遺伝子によってあらかじめ運命付けられていると言う考えを(論理的に)指示できる科学者は殆どいないのだ。


 多因子遺伝による支配を受けているとみられるヒトの形質は、環境の影響にさらされる。
 そういった形質が種々の表現型となって現れる頻度は、ベル状の曲線を描く。




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19.4 Multiple Allelic Traits 複対立遺伝の形質

 ある形質が複対立遺伝の対立遺伝子の支配を受けるということは、遺伝子が幾つかの対立遺伝子の形態を持つということである。しかし、一人が持てる対立遺伝子の型は二種類までである。ヒトの血液型は複対立遺伝の対立遺伝子により決定される。


ABO Blood Types ABO式血液型

 同一遺伝子に存在する三種類の対立遺伝子により、ABO式血液型の遺伝は支配される。それらの対立遺伝子は赤血球上の抗原決定基を持つグリコプロテイン(糖蛋白)の存在を支配している。

 A = 赤血球上に A抗原が出現
 B = 赤血球上に B抗原が出現
 O = 赤血球上には A抗原も B抗原も現れない

 Aの対立遺伝子と Bの対立遺伝子は Oの対立遺伝子に対して優性であり、AとBがあるとどちらの特性も完全に表現される。このことは、相互優性と呼ばれている。

表現型 可能性のある遺伝子型
 A    AA, AO
 B    BB, BO
 AB    AB
 O    OO

 実際にありうる異なった血液型の間の交配の検査は、驚くべき結果を示すことがある。例えば、
 親の遺伝子型: AO x BO
 子供にありうる遺伝子型: AB, OO, AO, BO

 この特別な交配からは、全てのありうる型の血液型の表現型(AB型, A型, B型, O型)の子供が生まれうる。
 血液型の検査は親子鑑定の判断材料として用いられることがある。しかしながら、父親とおぼしき人物の血液型検査は父親の可能性があることを示唆することができるに過ぎず、父親と断定することはできない。例えば、血液型が A型(遺伝子型はAO)の父親とおぼしき人物が O型の血液の子供の父親であると示差することはできても断定することはできない。他方で、血液型検査により父親でないことを断定することは可能である。例えば、AB型の血液型を持つ男性は、血液型が O型の子供の父親とはなり得ない。それ故、血液型検査は法律的な事例では、父性(や母性)を否定する目的でしか使用されない。

 複対立遺伝の対立遺伝子の遺伝は遺伝子の対立遺伝子の型が二種類以上ある場合に起こる。しかしながら、個体は通常それぞれ二つの(一対の)対立遺伝子しか遺伝することはできない。

 興味深い点としては、Rh因子は A, B, AB, Oの血液型とは別個に遺伝するということがある。Rh陽性なら、赤血球上に特定の抗原が存在し、Rh陰性なら抗原は存在しない。Rh因子抗原の遺伝はどちらか一方が優性の一対の対立遺伝子により支配されている考えることができる。Rh陽性の対立遺伝子は、Rh陰性の対立遺伝子に対して優性であると。




19.5 Incompletely Dominant Traits 不完全優性遺伝の形質

 ヒトの遺伝学の領域には、相互優性であったり不完全優性遺伝の例がある。相互優性では、ヘテロ接合体に於て対立遺伝子が同等に表現される。複対立遺伝の対立遺伝子により血液型が相互優性で表現されることを既に述べてある。遺伝子型が ABである個体の血液型は ABである。肌の色は多因子遺伝であり、全ての優性(大文字)が等価的に表現型に加算されることを思い出してみよう。この仕組みで、肌の色は漆黒から純白までの分布を表している。
 不完全優性では、ヘテロ接合体はそれぞれの対立形質のホモ接合体の性質の中間の性質の表現型を示す。例えば、不完全優性はコーカサス人の 巻き毛(curly) vs 直毛(straight) の形質に関して見られる。巻き毛(curly)のコーカサス人と直毛(straight)のコーカサス人が子供を産むと、子供はちぢれ毛(wavy)となる。ちぢれ毛(wavy)どうしが子供を生むと、子供の世代の表現型の比は、curly : wavy : straight = 1 : 2 : 1 である。


Figure 19.2 Incomplete dominance. 不完全優性

 コーカサス人の間では、直毛(straight)も巻き毛(curly)のどちらも優性でない。二人のちぢれ毛(wavy)の個体どうしが子供を生むと、直毛と巻き毛の子供を生む可能性はどちらも25%であり、中間の表現型であるちぢれ毛(wavy)の子供を生む可能性は50%である。


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Sickle-Cell Disease 鎌状赤血球症(≒ Sickle-Cell Anemia 鎌状赤血球貧血)

 鎌状赤血球症は、不完全優性遺伝の対立遺伝子の支配を受けるヒトの疾患の例である。HbAHbAの遺伝子型を持つ個体は健常であり、HbSHbSの遺伝子型は鎌状赤血球症であり、HbAHbSの遺伝子型は鎌状赤血球の形質を持つ。鎌状赤血球の形質を持つ者どうしの子供の表現型は Figure 19.13 に示したように3種類全ての型をとりうる。
 鎌状赤血球症の患者では、赤血球が正常な赤血球のように量凹型の円板状ではなく、不規則な形状である。実際には鎌状の形状をとるものが多い。血球の欠陥は、異常なヘモグロビン(HbS)が細胞の中に蓄積することが原因である。正常ヘモグロビン(HbA)はHbSとグロビンタンパクのアミノ酸配列(→一次構造)が一つだけ異なっている。グロビンのアミノ酸数は146であるが、6番目の位置のたった一つの違いが鎌状赤血球の原因となる。鎌状赤血球は、正常な円板状の赤血球のように毛細血管壁の通路を通ることができないので、欠陥を閉塞し、破壊する。このことが原因で、鎌状赤血球の患者は、循環血量が減り、貧血になり、感染に対する抵抗力が低下する。内出血はさらに多くの合併症、例えば黄疸(おうだん)、腹部と関節のエピソードのある痛み、内臓の障害といったものを引き起こす。鎌状赤血球の形質を持つ人は、脱水や軽い酸素欠乏にでもならない限り通常、鎌状赤血球を持たない。現在でも多くの研究者が、鎌状赤血球の形質保因者が肉体的活動に対する制限をする必要はない、と考えている。
(訳注: ヘモグロビンの四次構造を構成する2つずつのαとβのサブユニットのうち、HbSではβサブユニットが変形してHbSになる。これは講義でも言っていた。)
 アフリカのマラリア感染地帯では、鎌状赤血球症を発症している乳児は死亡する。しかし、鎌状赤血球の形質を保因した乳児は健常なヘテロ接合体保因者(HbAHbA)よりも生存率(マラリアで死亡しない率)が高い。マラリア原虫は通常、赤血球の内部で生殖する(媒介するのは蚊(か))。鎌状赤血球形質を持つ乳児の赤血球は、マラリア原虫が感染すると鎌状に変化する。赤血球が鎌状になると、カリウムの含量が減少し、寄生虫(マラリア原虫)は死亡する。鎌状赤血球形質から得られる防御機構は、マラリア感染地帯の人口集団の対立遺伝子の中に保持されつづける。アフリカのマラリア感染地帯の人口のおよそ 60%がこの対立遺伝子を持っている。合衆国では約10%のアフリカ系アメリカ人の人口集団がこの対立遺伝子を持っている。
(訳注: 現在では Black 黒人 は差別用語なので African-American、さすが最新の教科書!)
 最近の研究では、世界中で 22人の子供が健常な同胞(どうほう≒血縁者)から骨髄移植を受け、16人が完全に鎌状赤血球症から治癒した。結果を楽観的に見るならば、それは次のような知見によってくじかれる。つまり、骨髄移植の医学的な適応基準を満たしているのはたった 6%の患者であり、その適応基準とは結果として不妊におちいるような手技の治療や投薬を受けていることだというのである。また、骨髄移植が失敗すると、健康状態はむしろ悪化し、治療により死亡する危険率は 10%程度なのである。
 革新的な治療法が現在、検索中である。例えば、鎌状赤血球症を持つ患者は発生の過程で正常な胎児ヘモグロビン(HbF)を産生する。そこで、成人でも胎児ヘモグロビンを産生するように変化させる薬物が開発されている。遺伝子工学により、鎌状赤血球を産生するネズミの系が、新しい抗疾患薬や種々の遺伝子治療の実験に用いられるべく用意されている。
(訳注: 胎児ヘモグロビン(HbFetus)は成人ヘモグロビン(HbAdult)よりも酸素結合能が高いことで知られている。)


Figure 19.13 Inheritance of sickle-cell disease. 鎌状赤血球症の遺伝

a. この例では、両親は鎌状赤血球の形質保因者である。それ故、子供はそれぞれ 25%の確率で患者になるか健常になるかし、50%の確率で鎌状赤血球の形質保因者となる。
b. 鎌状赤血球。鎌状赤血球症の患者は写真に示されているように凝集しやすい鎌状赤血球を持つ。


 鎌状赤血球は、遺伝性の生涯にわたる疾患で、多くの第一線の研究が行われている。



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19.6 Sex-Linked Traits 伴性遺伝の形質

 性染色体は常染色体がそうであるのと全く同様に遺伝子を中に含んでいる。それらの遺伝子のうちの幾つかは、その遺伝子を持つ個体が雄であるか雌であるかを決定している。研究者はY染色体の中にSRY遺伝子(性決定領域Y遺伝子)があることを発見した。Y染色体の中にこの遺伝子が欠如していると、その個体はたとえ染色体上の遺伝がXYであっても、(少なくとも外見上は)女性である。
 性染色体上の対立遺伝子によって決定される形質は伴性であると言われる。X染色体にしか存在しない対立遺伝子は X-連鎖性であり、Y染色体にしか存在しない対立遺伝子は Y-連鎖性である。多くの伴性対立遺伝子は X染色体上にあり、Y染色体ではその部分は空白である。予想されるように、極少数の対立遺伝子がY染色体上に見られる、というのも Y染色体は X染色体より大分小さいからである。
 X染色体は個体の性の決定に関与していない多くの遺伝子を持っているが、ここではその内の二三について詳しく見てみよう。論理的に考えれば、伴性の形質は父から息子へと、母から娘へと受け渡されると思えるかも知れないが、そうではない。雄は常に X染色体を受け継ぐ元である母親から伴性の状態を受け取る。父親から受け継ぐ Y染色体は形質に必要な対立遺伝子持っていない(訳注:勿論、例外はある。)。通常、そういった(Sex-Linked の)形質は劣性であり、それ故、雌は二つの対立遺伝子を両親のそれぞれから一つずつ受け継がなければ形質を発現する状態にはならない。


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X-Linked Alleles X-連鎖性の対立遺伝子

 X-連鎖性の形質について考える際、X染色体上の対立遺伝子は X染色体に文字を添付して表示される。例えば、赤緑色盲の際は以下のように表現する。

  XB = 通常の視覚(色覚)
  Xb = 色盲

 雄及び雌で有りうる遺伝子型の組み合わせは以下のようである。

  XBXB = 通常の視覚(色覚)を持つ雌
  XBXb = 通常の視覚(色覚)を持つ保因者(キャリアー)の雌
  XbXb = 色盲の雌
  XBY = 通常の視覚(色覚)を持つ雄
  XbY = 色盲の雄

 保因者(キャリアー)は、通常の遺伝子発現をするのだが遺伝性疾患の対立遺伝子を受け渡すことができるような個体である。上の四つの中で二番目の遺伝子型は保因者の雌であることに注目されたい。何故なら、この遺伝子型の雌は見かけ上は正常であるが、色盲の遺伝子を受け渡すことができるからである。色盲の雌は珍しいと言える、何故なら、そうなるには両親から対立遺伝子を受け取る必要があるからだ。色盲の雄は雌よりも多い、というのも、色盲の原因となる劣性の対立遺伝子を一つだけ持っていれば良いからだ。(色盲の雄は)色盲の原因遺伝子を母親から遺伝しなければならない、何故なら、原因遺伝子は X染色体上にあるからであり、雄は Y染色体を父親からしか受け継げないからである。
 では、正常な視覚(色覚)の男性と、ヘテロ接合体を持つ女性の交配について考えてみよう。この夫婦が色盲の娘を持つ可能性はどうなっていだろうか。息子を持つ可能性はどうだろうか。娘は全て正常な視覚(色覚)を持つ、何故なら父親からXBを受け取るからである。しかしながら、息子は色盲になる可能性が 50%あり、それは母親から XBを受け取るか Xbを受け取るかどうかに依存する。Y染色体を父親から遺伝することは、母親から Xbを遺伝することを相殺することは無い。Figure 19.4 に示されているように、伴性の遺伝に関しての表現型で見られる結果は、雄と雌とで別々である。

 X染色体は Y染色体上には無い対立遺伝子を保有している。それ故、劣性遺伝の対立遺伝子は、男性に現れる(ことが多い)。

Figure 19.14 X-連鎖性対立遺伝子が関与している交配。
 雄の親は正常だが、雌の親は保因者(キャリアー)。色盲の対立遺伝子は、母親の X染色体上に存在する。
 それ故、息子達はそれぞれ 50%の確率で色盲になる可能性がある。娘達は見かけは正常であるが、50%の確率で保因者になる。


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Figure 19.15 X-linked recessive pedigree chart. X-連鎖性劣性の系統図
 リストは、X-連鎖性劣性疾患のパターンを識別する方法を示している。

X-linked Recessive Disorders X-連鎖性劣性疾患
205のX-連鎖性劣性疾患の中には次のようなものがある

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X-Linked Disorders X-連鎖性の疾患

 Figure 19.15 は、X-連鎖性で劣性遺伝の形質の系図である。図はX-連鎖性劣性遺伝のパターンを識別する方法も示している。X-連鎖性の遺伝は優性の場合も劣性の場合も有りうるが、知られているものの多くは劣性遺伝である。雄のほうが雌よりも形質を発現しやすい、何故なら、劣性の X染色体上の対立遺伝子は常に雄で発現されるからであり、それは Y染色体が形質の原因遺伝子を持たないからである。雄が X-連鎖性劣性の遺伝子を保有している場合、娘はしばしばその保因者になる。それ故、遺伝子保有の状態は祖父から孫息子へと受け渡される。よく知られている X-連鎖性劣性疾患として、色盲や筋ジストロフィーや血友病がある。

Color Blindness 色盲

 ヒトには三種類の異なった錐体細胞が存在する。錐体細胞は、眼の網膜で色覚視を司っている受容体である。錐体細胞のそれぞれの型には一種類だけしか色素蛋白が存在しない。錐体には、青色感受性、赤色感受性、緑色感受性のものがある。青色感受性のタンパクの常染色体上に存在するが、赤色感受性と緑色感受性タンパクは X染色体上に存在する。約 8%のコーカサス系の男性は赤緑色盲である。患者の多くは、明るい緑を褐色に、オリーブグリーンを茶色に、赤を赤茶色に見ている。少数だが赤と緑を全く識別できない者もいる。赤と緑を識別できない者は、黄、青、黒、白、灰色しか見えない。眼鏡士は色盲を検出するための特別な図表を持っている。(訳注: 色盲検査表、色の転々の中の数字を読み取るもの、当然、眼科医 opthalmologist も持っている)


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Muscular Dystrophy 筋ジストロフィー

 筋ジストロフィーは、その名が暗示するように、筋肉の萎縮を特徴とする。最もよく見られる型である、Duchenne(デュシェーヌ、デュシェンヌ、デュシャンヌ; フランスの神経内科医)型筋ジストロフィーは、X-連鎖性であり、3,600男児出産に一人の割合で起こる。アヒル歩行、つま先歩行、頻繁な転倒、起立困難といった徴候は、患児が歩き始めるのと同じ時期に表れる。筋力低下は患者が車椅子にくぎ付け状態になるまでに強まる。通常20歳までに訪れる。それ故、患者の男性が父親となることは少ない。劣性の対立遺伝子は、人口集団の中で保因者の母親から保因者の娘への受け渡しで残る。
 最近、筋ジストロフィーの原因遺伝子が単離・同定され、現在ジストロフィンと呼ばれているタンパク質の欠損が疾患の原因であることが発見された。さらに調査した結果、ジストロフィンは筋線維の中にある筋小胞体からのカルシウム放出に関与していることをつきとめた。ジストロフィンの欠乏はカルシウムが細胞内に漏れる原因となり、そのことが筋線維を分解させる酵素の活動を促進する。身体が細胞を修復しようとするとき、繊維細胞が形成され、その細胞が血流の供給を絶ち、次々と細胞が死んでいく。
 今日では、Duchenne型筋ジストロフィーの保因者を検索する検査が利用できる。また、様々な治療が試みられている。幼若な筋細胞が筋に注入され、100,000の細胞の注入に対し、30〜40%の筋線維でジストロフィンの生成がおこっている。ジストロフィンをコードしている遺伝子をマウスの大腿筋の筋細胞に挿入すると、約1%の細胞がジストロフィンを産生した。

(訳注: sarcoplasmic reticulum 筋小胞体 : 骨格筋および心筋の小胞体.横紋筋原線維周囲の連続構造で,各筋節内構造に従って繰り返される構造をもつ.小胞と細管からなる)

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Hemophilia 血友病

 男性の約10,000人に一人は血友病である。血友病には二つの主要な型がある。血友病Aでは凝固因子の第\因子が欠損もしくは欠乏していて、血友病Bでは凝固因子の第[因子が欠損している。
 血友病は、bleeder's disease(直訳すると出血者の病気)と呼ばれる、それは、患者の血液が凝固しないからである。血友病者が傷害を受けた後の出血が外出血であっても、内出血も起こっており、内出血は特に関節の周囲で顕著である。出血は、新鮮全血(または新鮮血漿)や凝固因子(タンパク)の濃縮液の投与で止めることができる。不幸なことに、血友病患者の中には血液や濃縮血液(製剤)の投与を受けた後で AIDSを移されてしまう人たちがいる。しかし、今日では供血者はより厳密な検査を受け、供血は HIV検査を受けることになっている。また、今日では第[因子は生命工学を応用した製品としても入手することができる。
 今世紀初頭、血友病がヨーロッパ貴族の家系の間で流行して、男性の患者の全ては英国のヴィクトリア女王の先祖を遡ることができる。Figure 19.16はヴィクトリア女王の26人の孫を示しており、5人の孫息子が血友病患者で、4人の孫娘が保因者である。ヴィクトリア女王の先祖や親戚に患者がいないことから、欠陥遺伝子はヴィクトリア女王か彼女の両親のどちらか一方に突然変異が起こったことが起因であると考えられる。保因者の娘であるアリスとビートライス?は、遺伝子をそれぞれロシアとスペインの王室に持ち込んだ。アレクシスはロシア革命前の最後のロシア王室王位継承者であるが、血友病患者であった。現在の英国王室には血友病患者はいない。それは、ヴィクトリアの長子であるエドワードZ世が原因遺伝子を受け継がず、子孫に受け継ぐことが無いからである。


 個体の性と関係の無い形質の中には X染色体上にある遺伝子によりもたらされるものがある。雄は X染色体を一つしかもたない。それ故、X-連鎖性劣性の対立形質(遺伝子)が表現される(発病する)。


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Sex-Influenced Traits 従性遺伝の形質

 個体の性に関連した形質の全てが伴性の形質であるわけではない。中には単純に従性遺伝のものもある。従性遺伝とは、常染色体上の遺伝子にコードされている形質の表現型が雄と雌とで異なった現れ方をすることである。
 性ホルモンが遺伝子が発現するかどうかを支配している可能性はある。禿(はげ)のパターンは雄の性ホルモンであるテストステロンの影響を受けると考えられている。それは、男性にテストステロンが投与されると、男性の特徴が表れて、毛髪が減少するからである。研究者により、さらに詳細な説明が提示されている。ホルモンの影響で男性は一つの禿を規定する対立遺伝子のみで禿の特徴が現れるようになり、一方、女性では二つの対立遺伝子が必要であるという理由付けである。別の言い方をすれば、禿をコードしている対立遺伝子は、男性では優性の形質のように、女性では劣性の形質のような作用をするというわけである。このことは、禿の父親と毛髪の生えた母親を持つ男性は、良い場合で50%の確率で、悪い場合で100%の確立で禿げるということを意味する。禿の父親と毛髪の生えた母親を持つ女性は、良くてはげる確率はなく、悪くて50%の確立で禿げるのである。
 別の興味深い従性遺伝の形質として、示指(人差し指)の長さがある。女性では、示指が第四指(環指、薬指)より長いのが優性である。男性では、示指が第四指より長いのが劣性である。


Figure 19.17 Pattern baldness, a sex-influenced characteristic. 禿のパターン、従性遺伝をする特徴の一つ
 ホルモンの影響で、禿をコードするたった一つの遺伝子の存在が男性に禿を引き起こす。一方で、女性には禿遺伝子が二つそろわないと禿にはならない。



Bioethical Issue 生命倫理学的な論点

 結果の守秘が絶対であれば、貴方は数十年間は徴候が現れない遺伝性疾患を持っているかどうか知りたいですか? その疾患が治療可能なものであればそれは良いアイデアといえる。徴候が現れる前に検査をすることで、乳癌や大腸癌の警戒を強化することができる。遺伝子治療だけが解決手段であれば、将来遺伝子治療の手技が開発されたときに真っ先に治療を受けることができる。
 ハンチントン舞踏病は、特に恐ろしい遺伝性疾患で、とりわけ親密な人が精神と筋骨格にやがては死に至る変質をうけているなら。ハンチントン舞踏病には治療法は無いが、検査が陽性なら子供に警告することができるし、検査の結果をうけて子供を産むかどうかを決定することもできる。優性の対立遺伝子を持っているなら症状が表れるであろうし、子供が症状を発現する可能性は 50%である。子供は親よりも年齢的に早い時期に症状を発言するのが通常である。
 ジョンス・ホプキンス大学医学部の Jason Brandtは、Huntington舞踏病の検査を受けることを希望した人たちに、検査施行前と検査施行後にカウンセリングを行う計画を策定した。これまでに、約200人が検査を受け、その倍近くの人数が検査前のカウンセリングで検査を受けずに脱落した。検査を受ける気が真にないことを確信したと表明したからである。
 Brandtは、結果が陽性であった場合にそれを精神的に受容できない被検者には検査を受けさせなかった。驚くべきことに、Brandtは人々は原因対立遺伝子を持っているという結果に対して人生が大きく変化することは稀であるということを発見した。63人の検査が陽性である人のうち、10人が Huntington舞踏病になりうることを承知の上の人と結婚し、別の10人が更に子供を得ようとしている。ある患者は Huntington舞踏病の因子が陰性であることを知った後、劇的に変化した。夫と離婚し、再婚し、別の子供を設け、身体セラピスト(理学療法士)の資格を得た。(訳注: やや意味不明、誤訳かも)

Questions

1. 遺伝性疾患の検査を受けることは患者の権利としてとにかく認めるべきだろうか、あるいは Brandt博士は患者が悪い結果を受け入れる準備があるまで検査を受けることを検査を受けるのを差し控えさせるべきだろうか。

2. Huntington舞踏病の優性の対立遺伝子を持つ人々に対して子供を持つことを断念するように説得することは倫理的に的確だろうか。

3. Huntington病の遺伝子治療が可能になったとしたら成人に施行してよいか、子供ではどうか、胚にはどうか、根拠を示して述べよ。