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Chapter 18

Chromosomal Inheritance 染色体の遺伝

Chapter Concepts この章のコンセプト

18.1 Chromosomal Inheritance 染色体の遺伝

18.2 Human Life Cycle ヒトのライフサイクル

18.3 Mitosis 有糸分裂

18.4 Meiosis 減数分裂


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 メアリーはとても魅力的な娘でアイスホッケーをするのが好きであった。ハイスクールの体育教師は彼女の能力に関心を寄せて特別にコーチした。彼女(先生)はメアリーがいつかオリンピックチームでプレーすることを望んでいた。
 しかし、何かが変であった。メアリーは16歳なのに月経が無かった。彼女の両親はメアリーに一連の医学的検査を受けさせた。メアリーがXとYの染色体を細胞の核に持っていたことは皆を驚かせるのに十分であった。彼女は染色体上は雄だったのだ。
 医者はメアリーと両親に対して メアリーは睾丸(精巣)性女性化症候群なのだ と説明した。彼女は体内に睾丸(testes は testis の複数形なので2つを暗示している)を持っていて、睾丸はテストステロン(ホルモンの名称)を分泌しているが細胞が反応しないのであった。彼女の(外)性器は女性様で良く発達した乳房を持っていた。しかしながら、彼女は子供を得ることは不可能である。
 メアリーはアイスホッケーをそのまま続けてオリンピックでプレーすることができたのだが、常に彼女の状態を説明する書面を所持しなければならなかった。さもなくば(書面を携行しなければ)彼女の性染色体を理由に、資格を剥奪されてしまうのである。
 この章ではヒトが異常な数の染色体を遺伝した場合に起こる様々な症候群について述べる。 染色体異常は減数分裂、つまり配偶子形成に必要なタイプの細胞分裂の際に起こりやすい。


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18.1 染色体の遺伝

 分裂していない細胞では、核は不明瞭でび慢性(拡散した)の染色質を持っている。しかし、分裂期の細胞では、染色質は短くて肥厚した染色体を持っている。細胞は分裂直前に写真に撮ると、染色体の写真を得ることができる。写真はコンピューターに入力され、染色体は電子処理により対に並び替えられる。
 個々の染色体は大きさ、動原体(締め付け部分)の位置、染色で現われる特徴的なバンドにより識別される。染色体のペアを表示した結果は、カリオタイプ(核型)と呼ばれる。雄と雌は23対の染色体を持つが、雄ではそのうちの一対が長さが異なっている。この対のうち大きな方の染色体はX染色体で、小さな方の染色体はY染色体である。雌はカリオタイプの中に2つのX染色体を持っており、雄はXとYを一つずつ持っている。X染色体とY染色体は性を決定する遺伝子を持っていることから性染色体と呼ばれる。
 別の(性染色体でない)染色体は常染色体であり、XとY以外の全ての染色体が含まれる。ヒトのカリオタイプの常染色体のそれぞれのペアは番号が付けられている。


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Figure 18.1 ヒトのカリオタイプ(核型)作成の手順

 ここに示したように、染色により染色体に縞が現われている
 縞は研究者に染色体を区別し分析する手助けとなる。
1. 血液は遠心分離され、血球が分離される。
2. 白血球だけ取り出し、細胞分裂を停止させるように処理が施される。
3. 資料が固定され、染色され、顕微スライドに塗沫される。
4. スライドは顕微鏡で検査され、染色体の写真が撮られる。
5. カリオタイプ: 染色体は大きさやセントロメアの位置や縞のパターンで対に区分される。


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Down Syndrome ダウン症候群

 症候群とは、一緒に現われたり特定の障害(疾患)の存在を示す傾向のある 一連の特徴や徴候のことである。ダウン症候群は以下のような特徴により容易に鑑別される。低身長、眼瞼の襞(ひだ)、短指、第一足指と第二足指の間が広いこと、大きく亀裂のある舌、円形の頭部、いわゆるサル線と呼ばれる手掌の皺(しわ)、残念なことですがしばしば重篤になる精神遅滞。
 ダウン症候群は21トリソミーとも呼ばれる、それは患者が通常 21番染色体を3つ持っているからである。大多数の例では、卵(子)はこの染色体のコピーを1つである代わりに2つ持っている。(しかしながら、23%の症例では精子の側に余分な21番染色体が存在している。)女性がダウン症候群の子供を出産する可能性は年齢とともに上昇し、だいたい40歳くらいからそのリスクは上昇する。40歳以下の母親がダウン症候群児を出産する確率は1/800程度だが、40歳以上の母親では1/80である。
 高齢の母親はダウン症候群の児を出産する可能性は高いのだが、ダウン症候群児の多くは40歳以下の母親から生まれる。それは40歳以下の母親が大部分の子供を出産する集団であるからである。羊水穿刺(羊水と細胞を胎児を取り巻く羊膜の中から取り出す手技)とカリオタイプの施行によりダウン症候群児の検知ができる。しかしながら、若い母親は通常はこの検査手技をするようには指導されない、それは検査手技で起こりうる合併症の方がダウン症候群児を持つ危険性よりも大きいからである。ダウン症候群児を妊娠する母親では αフェトプロテイン(AFP)と呼ばれる物質が母体血中に通常よりも少ないことが観察できる。結果(低AFP)は羊水穿刺とカリオタイプ施行でフォローアップすることができる。
 ダウン症候群の原因となる遺伝子は21番染色体の下から1/3の場所にあることが知られており、この症候群の特徴の原因となる特定の遺伝子の発見を目指した広範な調査の仕事が進行中である。現在までに研究者はダウン症候群の患者に見られる様々な状態を説明する幾つかの遺伝子を発見している。例えば、研究者たちは 白血病の発症率の上昇 や 白内障 や 老化の促進 や 精神遅滞 の原因となっているに違いないと思われる遺伝子の位置を同定している。精神遅滞の原因となる遺伝子は Gart遺伝子と名付けられており、精神遅滞に伴う検査所見である血中プリン(生体で重要な塩基のひとつ)レベルの上昇の原因となる。いつの日か、出生前に Gart遺伝子の発現のコントロールをして、少なくともダウン症候群のこの徴候が現われないようにすることが可能になるかもしれない。


Figure 18.2 ダウン症候群

a. この症候群に良く見られる特徴として、幅広な丸顔や上眼瞼の皺(ひだ)がある。精神遅滞は肥大した舌と相まってダウン症候群の患者にはっきりとした口調で喋るのを困難にしている。
b. ダウン症候群個体のカリオタイプ(核型)は余分な21番染色体を示す。より洗練された手技は研究者にこの症候群に関係した特定の遺伝子の位置を正確に示すことを可能にした。Gart遺伝子が余分にあると、プリンのレベルが上昇し、ダウン症候群の患者に見られる精神遅滞の原因となる。


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Cri du Chat Syndrome 猫鳴き症候群(maladie du cri du chat(仏))

 染色体の欠失が 50,000出生に 1人の割合で生じる猫鳴き症候群の原因である。この症候群の小児は満月様顔貌、小頭、喉頭の奇形が原因で起こる猫のニャ〜♪ という鳴き声に似た泣き声をもつ。年長の患児は、眼瞼の皺(ひだ)、耳が頭部の下方に位置する奇形を持つ。患児が成長するにつれ、重篤な精神遅滞が明らかになる。カリオタイプ(核型)は、片方の 5番染色体の一部分が欠失し、もう片方の 5番染色体は他の染色体同様に正常である様子を示す。


Figure 18.3 猫鳴き症候群

a. 乳児 と b. 年長児 の猫鳴き症候群の患者。


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Fragile X Syndrome 脆弱(ぜいじゃく)X症候群

 精神遅滞者を収容する施設では、男性が女性より 25%多くいる。施設の男性の中には、X染色体が壊れかけていて、染色体の端が弱い糸で吊るされているようになって残っている者がいる。そういった男性は脆弱X症候群であるといわれる。
 脆弱X症候群は 男性で 1,000出生に 1人、女性で 2,500出生に 1人の割合で発症する。患児は、非常に活発か自閉症である以外は正常な児童にしか見えない。会話(言語機能)の発達は遅れ気味で、しばしば反復する。成人すると、身長が低くて細長い顔貌になる。下顎の横の部分(訳注: 前方は chin)は突出し、大きくて突出した耳を持つ。男性の患者は大きな精巣(二つ)を持つ。ずんぐりとした手、弛緩した関節、心臓の障害も見られる。精神遅滞を含んだ徴候は女性の患者ではそれほど重篤でない。

 異なった数の染色体や欠陥のある染色体の遺伝は、特定の徴候を持つ症候群となってあらわれる。


Figure 18.4 Fragile X syndrome. 脆弱X症候群

a. 矢印は脆弱X症候群で染色体が脆弱な部分を指し示す。
b. この症候群を持つ若い患者は見た目は健常であるが、
c. 歳を経るにつれ、長く伸びた顔面には突出した顎と、顕著に突き出た耳が見られるようになる。


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Sex Chromosomal Inheritance 性染色体の遺伝

 ヒトの性染色体は X染色体と Y染色体と呼ばれる。女性は XXであるので卵は常に Xであるのだが、男性は XYであるから精子は Xと Yがありうる。それ故、新生児の性は父親がどちらの配偶子を出すかに依存する。Y染色体をもつ精子が卵と受精すると、XYの組み合わせが生じ、男性になる。他方で、X染色体をもつ精子が卵と受精すると、XXの組み合わせが生じて、女性になる。全ての要素が均等であり、男の子と女の子のどちらかを得る確率は 50%といえる。
 しかしながら、原因は明らかでないが、現実には男児のほうが女児よりも多い。しかし、出生後は、男性の死亡率は女性の死亡率よりも高い。85歳迄に女性のほうが男性の倍の人数になる。(恐るべし)


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Too Many/ Too Few Sex Chromosomes 性染色体の過多と過少

 ターナー症候群は 6,000出生に 1人の割合で発生する。患者の性染色体の遺伝子型は XO(エックス・オー, 45XO)であり、性染色体は Xが一つである。Oの文字は二番目の性染色体が無いことを示す。患者の女性は、低身長、ハト胸、翼状頚(よくじょうけい)といった外見上の特徴を持つ。卵巣、卵管、子宮は非常に小さく、機能していない。ターナー症候群の女性は、思春期や生理を経験せず、乳房の発育がない。通常、患者の知性は正常であり、全く正常に生活することができる。しかし、性ホルモン投与による治療を行っても子供を生むことは不可能である。

 クラインフェルター症候群は 1,500出生に 1人の割合で発生する。患者の男性は、Y染色体に加えて、2つかそれ以上の X染色体をもち(→47XXY, 48XXXY etc.)、生殖能力がない。精巣と前立腺は発達せず、顔面の毛がない。乳房の発育も見られる。患者は、大きな手足と長い腕と脚をもつ。学習能力は遅く、けれども 2つ以上の X染色体を受け継がなければ精神遅滞は起こらない。

 トリプロX症候群は、1,500出生に 1人の割合で発生する。トリプロXの女性は 3つかそれ以上の X染色体をもつ。XXX女性はより女性らしいと想像することができるが、そんなことはない。症例の中には学習障害の傾向がある者がいる。大部分のトリプロX症候群の患者は、生理不順と閉経が早いこと以外には、はっきりとした外見上の身体的異常所見を持たない。

 ヤコブ症候群は 1,000出生に 1人の割合で発生する。XYY男性は平均よりも身長が高く、しつこい座瘡があり、発語と読解能力に問題がある。一時期、XYYの男性は犯罪を犯すような攻撃的な性格であるらしいとされていたが、現在ではそういった種の犯罪を起こす発生率はXY男性と比べて高くないことが示されている。


 個体の中には、性染色体が XO(ターナー症候群)、XXY(クラインフェルター症候群)、XXX(トリプロX症候群)、XYY(ヤコブ症候群)で生まれてくる者がいる。X染色体が幾つであってもY染色体をもつ個体は通常、男性である。


Figure 18.5 Abnormal sex chromosomal inheritance. 異常な性染色体の遺伝

a. ターナー症候群(XO)の女性、翼状頚、低身長、性関連の要素の未発達がみられる。
b. クラインフェルター症候群(XXY)の男性、小さな精巣と幾つかの症例では乳房の発達が見られる。


(訳注: ターナーとクラインフェルターのことは、受験生物の履修者は既に知っている。)



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18.2 Human Life Cycle ヒトの生活環(ライフサイクル)

 ヒトの生活環には成長と有性生殖の過程がある。成長の過程では、細胞は有糸分裂と呼ばれる過程で分裂する。有糸分裂では分裂する前後のあらゆる細胞が完全な数の染色体をもつ。有性生殖では、半数の染色体をもつ性細胞の産生が必要である。減数分裂と呼ばれる型の細胞分裂では染色体の数が半分に減少する。
 減数分裂は生殖器で起こる。男性では、やがて精子となる細胞が造られる。女性では、やがて卵となる細胞が作られる。精子と卵は性細胞や配偶子と呼ばれる。配偶子は体細胞と比べて半数の染色体をもつ。配偶子が受け取るのは対をなす染色体のうちの片側の染色体である。配偶子の染色体は一倍体(ハプロイド, n)の数の染色体である。一倍体の染色体の数はヒトでは 23本である。
 新しい個体は、精子と卵が受精した時点で出現する。受精した結果の接合体は二倍体(ディプロイド, 2n)の数の染色体をもつ。両親のそれぞれが一対の染色体のうち、一方の染色体の供出を受け持っている。個体が成長する過程で、有糸分裂が起こり、体細胞のそれぞれが二倍体の数の染色体を持つ。ヒトでは二倍体の数は46本であり、それは23対の染色体の数だからである。
 Table 18.1 は多細胞動物の有糸分裂と減数分裂の主要な違いの概略が記されている。


 ヒトの生活環は二つの型の細胞分裂を必要とする。有糸分裂と減数分裂である。


Figure 18.6 Life cycle of humans. ヒトの生活環
 男性の減数分裂は精子形成の一部分である。女性の減数分裂は卵形成の一部分である。一倍体の精子と一倍体の卵が受精すると、接合体は二倍体になる。接合体は新生児となる発生の過程で有糸分裂を行う。有糸分裂は出生後も成熟するまで続く。そして、生活環はループの先頭に戻って再び開始するのである。




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18.3 Mitosis 有糸分裂
 有糸分裂は二つの娘細胞を形成する細胞分裂であり、二つの娘細胞は分裂の元となる親細胞と同数同種類の染色体を持っている。それゆえ、以下に述べる有糸細胞分裂では、親細胞と娘細胞は遺伝的に同一である。有糸分裂は細胞周期の一部分として起こる。

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Cell Cycle 細胞周期

 細胞周期は有糸分裂と間期からなる。細胞が分裂して、間期に入り次に分割するまで間期が続く。それ故、間期は細胞分裂と細胞分裂の間の時間であるといえる。細胞周期1回りにかかる時間の長さは生物によって、更に言えば生物の中でも細胞の種類によっても様々であるが、動物細胞では18〜24時間が典型的である。有糸分裂は1時間以内か2時間をすこし越える程度の時間続き、残りの時間は細胞は間期である。
 間期は休息の時期であると言われていたが、今日ではそうでないことが知られている。細胞内(小)器官は代謝上は活動しているし通常の機能を続けている。細胞が分裂しようとすると、DNAの複製が起こる。複製の間、DNAは複写され、それぞれの染色体は複製される。複製された染色体は二つの姉妹染色分体がらなる。姉妹染色分体は遺伝上は同一である。同一の遺伝子を持っているのだ。中心小体を含む細胞内(小)器官も複製される。非分裂期の細胞は一対の中心小体を持つが、分裂する細胞ではその対が複製され二対の中心小体が核の外側に存在する。

 細胞周期は有糸分裂と間期を含む
 間期の間のDNA複写の結果、それぞれの染色体は姉妹染色分体を持っている。中心小体を含む細胞内(小)器官は間期の間複製される。


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Overview of Mitosis: 2n→2n 有糸分裂の概要

 間期の間、染色体は不明瞭な染色質である。しかし、有糸分裂が起ころうとする時、染色質は濃縮し、染色体が視認できるようになる。有糸分裂が起こる前に、親細胞は2nであり、姉妹染色分体は動原体と呼ばれる領域で繋(つな)がれている。有糸分裂が完了すると、それぞれの染色分体は一つの染色分体で構成される。

 有糸分裂という用語は専門的には核分裂のことのみを指すが、便宜上、ここでは細胞全体の分裂を指すことにする。


Figure 18.7 Overview of mitosis. 有糸分裂の概要

 青色の染色体は片親から受け継ぎ、赤色の染色体はもう片方の親から受け継いでいる。

 Figure 18.7 は有糸分裂の概略を示している。簡略化して4つの染色体だけが描かれている。(染色体の数を決定する際には独立した動原体の数だけを数えることが必要となる。)有糸分裂の間、動原体は分離し、姉妹染色分体は分かれそれぞれの種類が一つずつ二つの娘細胞に入る。それゆえ、二つの娘細胞は完全に揃った染色体を持ち、その数は2nである。(分離すると染色分体は染色体になる。)それぞれの娘細胞は親細胞と同数・同種類の染色体を持つので、お互いに遺伝的に同一であるし、親細胞とも同一である。

 有糸分裂は細胞が成長するとき、或いは修復が起きる際に発動する。受精が終了すると、接合子は有糸分裂的に分裂を開始し、有糸分裂は個体の成長の間や一生に渡って続けられる。成人では、分裂の能力は細胞によって異なる。神経組織や筋組織は分裂能を失うと考えられる。気道や消化管を被(おお)ったり肌の外側の層を形成する表皮細胞は断続的に分裂する。赤色骨髄の幹細胞(かんさいぼう、骨髄幹細胞)は、何100万もの血球を毎日生産している。修復が起こる際、例えば破損した骨が修復されるときには、いつでも有糸分裂が起こる。


 以下に述べる有糸分裂では、二つの娘細胞のそれぞれが親細胞と同数同種類の染色体を持つ。

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Stages of Mitosis 有糸分裂の各段階

 有糸分裂の現象を記述する際の手助けとして、過程は四つの時期、つまり前期、中期、後期、終期に分けられている。有糸分裂の段階はそれぞれがはっきりと分かれているかのように記載されているが、実際には連続して起こっていて、目立った中断があるわけではない。

Prophase 前期

 前期の現象は細胞分裂が起こり始めていることを暗示する。核の外にある二対の中心小体は二組に分かれて核のそれぞれ反対の位置に移動する。紡錘体の線維が分離している中心小体の対の間から現われて、核膜が断片となり始め、核小体が消失し始める。
 この時点より染色体が視認可能になる。それぞれの染色体は姉妹染色分体が動原体で結び付けられたもので構成されている。染色体が短く厚くなるにつれ紡錘体は動原体に付着するようになる。前期では、染色体は核の中でばらばらな位置に存在し、まだ紡錘体の赤道面には配列していない。


Structure of the Spindle 紡錘体の構造

 前期の最終段階では細胞に完成した紡錘体が形成する。紡錘体は両極と星状体と線維からなる。星状体は短い微小線維の並んだもので両極から放射状に広がっている。線維は微小線維の束で両極の間に張っている。微小線維形成中心(MTOC)は両極の中心小体と関連がある。それらの中心は細胞が非分裂期の際に微小線維を組織している。また、おそらく紡錘体も組織していると思われる。中心小体はこの機能を助けているのかもしれないが、紡錘体の両極というそれらの位置は単純にそれぞれの娘細胞が一対の中心小体を受け取ることを保証しているだけかもしれない。


Figure 18.8 Interphase and mitosis. 間期と有糸分裂

 青色の染色体は一方の親から受け取ったもので赤色の染色体はもう一方の親から受け取ったものである。

Interphase間期
 Late Interphase: 間期の後ろの方の時期: 染色質は凝縮して染色体になりつつある。
Mitosis 有糸分裂
 Prophase前期: 複製された染色体が散在している。
 Metaphase中期: 染色体は紡錘体の赤道面に配列している。
 Anaphase後期: 娘染色体は両極に移動しつつある。
 Telophase終期: 二つの娘核が形成しつつあり、紡錘体は消失しつつある。
Daughter Cells 娘細胞 Early interphase 間期の最初のほうの時期: 染色体は分散しつつある。


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Metaphase 中期

 中期では、核膜が分解し、紡錘体は以前核が存在していた領域を占拠する。その時、染色体は紡錘体上の赤道面(中央)に位置している。中期の特徴は、完成した紡錘体であり、紡錘体には染色体が付属していて、染色体はそれぞれ二つの姉妹染色分体を赤道面に配列して持っている。中期が終了するとき、染色分体を繋いでいる動原体は分裂する。


Anaphase 後期

 後期の最初に姉妹の染色分体は分裂する。一旦分裂すると、染色分体は染色体と呼ばれるようになる。姉妹の染色分体の分裂により、それぞれの細胞が全ての型の染色体を得てその結果完全な遺伝子の構成を得ることを保証している。後期の間、娘染色体は紡錘体の両極に移動する。後期の特徴は、両極に向かって移動する倍数体の染色体である。


Function of the spindle 紡錘体の機能

 紡錘体により染色体の移動が起こる。二つの型の紡錘体の線維が後期の間の染色体の移動に関係している。一方の型の線維は両極から紡錘体の赤道に向かい、そこで重なっている。有糸分裂が進行すると、それらの線維の長さが増加し、染色体が分離することを助ける。染色体それ自体はその染色体の動原体から両極に向かって伸びる別の型の紡錘体の線維と結合している。この型の線維は染色体が両極に向かうのにつれてだんだんと短くなり、やがて消失する。この型の線維は染色体を引き離す。
 紡錘体の線維は、以前にも述べたように、微小管から構成される。微小管はチューブリン(タンパク)のサブユニットが増えたり減ったりすることで集合したり分離したりする。このことは紡錘体の線維が伸縮することを可能にし、最終的に染色体が移動の原因となっている。


Telophase 終期

 終期は染色体が両極に移動するときに開始する。終期の間に、染色体は不明瞭な染色質に変化する。娘細胞の二つの核小体(s: nucleolus)が現われるにつれ紡錘体は消失し、核膜の構成成分はそれぞれの細胞に再配分される。終期の特徴は二つの娘核小体である。
 動物細胞では、分裂溝と呼ばれるわずかなぎざぎざが細胞の周を取り巻く。アクチン線維は収縮性の環を形成し、環が小さくなるにつれ、分裂溝は細胞を半分に分ける。結果として、それぞれの細胞がそれ自体の漿膜により閉じられる。


 有糸分裂の後、二つの娘細胞は2nである。後期に於て姉妹染色分体が分裂するとき、新しく形成される細胞のそれぞれが親細胞と同じ数で同じ種類の染色体を受け取る。




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18.4 Meiosis 減数分裂

 減数分裂は二回の細胞分裂を必要とし、四つの娘細胞を生じる。娘細胞はそれぞれ全ての種類の染色体を一つずつ持ち、それ故、親細胞と比較して半数の染色体を持つ。親細胞は 2n数の染色体を持ち、娘細胞は n数の染色体を持つ。それ故、減数分裂(meiosis)は減数分裂(reduction division)と呼ばれる(訳注: 言語の壁は越え難い)。減数分裂型の細胞分裂の後では、娘細胞は遺伝学的には同一ではなく、親細胞とも同一でない。


Overview of Meiosis: 2n → n 減数分裂の概要: 2n → n

 減数分裂の結果として 4つの娘細胞が生じる。減数分裂は第一分裂と第二分裂からなる。第一分裂が開始する前に、(親細胞核の)それぞれの染色体は複製され、染色体 1つが 2つの姉妹染色分体から構成されるようになる。親細胞の染色体数は 2nである。細胞の染色体数が 2nの時、染色体は対になって存在することを思い出そう。例えば、ヒトの 46本の染色体は、23対の染色体からなる。そういった対をなす染色体は相同染色体と呼ばれる。
 第一分裂の間、相同染色体はそれぞれ対になって集合し、未知の引力によって横向きになって直線状に隣りあわせで配列する。このいわゆる対合の結果、四分染色体が生じる。四分染色体は四つの染色体の連合したもので、分離するまでは近接した位置に寄り添っている。対合の間、姉妹でない染色分体は遺伝物質を交換することがある。この染色分体どうしの遺伝物質の交換を交差(交叉と書くこともある)という。交差により親細胞の遺伝子は組み換えられ、遺伝物質は増加も減少もしない。
 第一分裂の対合の後、相同染色体のそれぞれの対は分離する。この分離はそれぞれの相同染色体の対から分離した染色体の一つが娘細胞のそれぞれにみられるということを意味する。どの染色体がどの娘細胞に行くかということに関する制限はない。それ故、可能なあらゆる染色体の組み合わせが娘細胞に存在できる。
 第一分裂の後、娘細胞は半数の染色体を持ち、その染色体は依然として複製された状態のままであることに注意されたい。再び言うが、娘細胞の動原体の数を数えることで染色体の数を知ることができるのである。


 第一分裂の間、相同染色体は分離し、娘細胞はそれぞれの対の片方を受け取る。娘細胞は遺伝学的に同一でない。染色体は複製された状態のままである。


Figure 18.10 Crossing-over. 交差

 相同染色体が対合しているとき、非姉妹染色分体間で遺伝物資の交換が起こる。イラストは染色体の対当り一つだけ交差が起こっていることを示しているが、平均的にはヒトの場合 2よりやや多い数の交差が起こっている。交差の後、それぞれの染色分体に関して異なった遺伝子の組み合わせが存在する。


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 第二分裂が始まる際、染色体は依然として複製された状態のままである。それ故、第一分裂と第二分裂の間には染色体の複製は必要ない。染色体は二分染色体である。というのはそれぞれが二つの姉妹染色分体から構成されるからである。第二分裂の間、姉妹染色分体は第一減数分裂の際生じたそれぞれの細胞の中で分離する。結果として生じた四つの娘細胞のそれぞれが一倍体の数の染色体を持つ。


 第二分裂の間、姉妹染色分体は分離し、結果として生じる四つの娘細胞はそれぞれ一倍体である。


The Importance of Meiosis 減数分裂の重要性

 減数分裂があるからこそ、ヒトのそれぞれの世代で染色体の数は定数なのである。配偶子は雄では精子であり、雌では卵である。ヒトでは、配偶子形成の間、精巣や卵巣で減数分裂が起こっている。卵形成の減数分裂は受精が起こっていない状態では完全なものでない。一倍体の精子と一倍体の卵が受精し、新しい個体は二倍体の染色体を持つ。新しい個体がどちらかの親と異なった遺伝子の組み合わせを確実に得るには、三つの手段が考えられる。

1. 相同染色体の対の姉妹染色分体上の遺伝子で交差により組み換えが起こる。
2. 減数分裂の後、配偶子のそれぞれが異なった染色体の組み合わせを持つ。
3. 受精の際、染色体の組み換えが起こる。


 減数分裂の後、四つの娘細胞のそれぞれが一倍体の数の染色体を持つ。その一方で親の細胞は二倍体である。減数分裂は精巣や卵巣で配偶子形成の時に行われる。減数分裂により染色体数がそれぞれの世代で一定に保たれ、新しい世代で親のどちらとも異なった遺伝子の組み合わせ個体がもつことが確実になっている。


Figure 18.11 Overview of meiosis. 減数分裂の概要

 染色体の複製の後、親細胞は第一分裂と第二分裂の二度の細胞分裂を行う。第一分裂の間、相同染色体は分離し、第二分裂では染色分体が分離する。最終的な娘細胞は一倍体である。(青色の染色体は片親から受け継ぎ、赤色の染色体はもう片方の親から受け継いだものである。)


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Stages of Meiosis 減数分裂の各段階

 有糸分裂と同様に、前期-中期-後期-終期 の四段階が第一分裂と第二分裂で起こる。


The First Division 第一分裂

 減数分裂第一分裂の各段階を Figure 18.12aに図示した。前期Iでは、紡錘体が出現し、核膜が断片化し、核小体が消失する。二つの娘染色分体を持つ相同染色体は対合し、四分染色体を形成する。交差はこのとき起こる、のだが簡略化するために Figure 18.12 では割愛した。中期Iでは、四分染色体は紡錘体の赤道面に一直線に並ぶ。後期Iでは、相同染色体のそれぞれの対が分離し、紡錘体の両極に移動する。終期Iでは、核小体が現れて、紡錘体の消失とともに核膜が形成される。種によっては漿膜がくびれて二つの細胞が得られ、別の種では漿膜のくびれが完全でないうちに第二分裂が開始する。そのことはともかくとして、娘細胞のそれぞれが相同染色体の対のどちらかの染色体を含んでいる。染色体は二分染色体であり、いずれも二つの姉妹染色分体からなる。中間期と呼ばれる期間にはDNAの複製は起こらない。


The Second Division 第二分裂

 動物細胞の減数分裂第二分裂の各段階を Figure 18.12bに図示した。前期IIの初期では、核膜が分解し核小体が消失する間に紡錘体が出現する。複数の二分染色体(相同染色体のそれぞれの対から一つの二分染色体)が存在し、それぞれが独立して紡錘体に付着している。中期IIでは、二分染色体は赤道面に一直線に並ぶ。中期の終わりに、動原体は分裂する。後期IIでは、二分染色体の姉妹染色分体のそれぞれの対が分離し、両極に移動する。両極は同数の染色体を受け取る。終期IIでは、紡錘体の消失とともに核膜が形成される。漿膜がくびれて二つの完全な細胞が得られる。二つの細胞は、一倍体で染色体数がnである。第一分裂を終了した細胞が第二分裂を経ると合計四つの娘細胞が生じる。


 減数分裂は二つの細胞分裂からなる。減数分裂第一分裂では、四分染色体が形成されて交差が起こる。相同染色体が分割し、娘細胞はそれぞれ姉妹染色分体を受け取る。減数分裂第二分裂では第一分裂で生じた娘細胞で染色分体の分裂が起こり、結果として四つ生じる娘細胞はそれぞれ一倍体数の染色体を持つ。


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Figure 18.12 Meiosis I and Meiosis II. 減数分裂第一分裂と減数分裂第二分裂

a. 第一分裂の間、相同染色体は対合してから分裂する。娘細胞はそれぞれ元の相同染色体の対から一つだけ染色体を受け取る。簡略のため便宜上、交差が起こった結果に関しては描出していない。娘細胞はそれぞれ一倍体であり、それぞれの染色体が二つの染色分体を依然として持っていることに注目されたい。

b. 第二分裂の間、姉妹染色分体は分離する。それぞれの娘細胞は一倍体で、それぞれの染色体は一つの染色分体からなる。(青色の染色体は片親から遺伝したもので、赤色の染色体は、もう片親から遺伝したもの。)


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Nondisjunction (染色体)不分離

 通常と異なった染色体の(数の)構成は、染色体不分離が原因のことがある。不分離は相同染色体や姉妹染色分体が配偶子形成の過程で分離するのに失敗することである。不分離は、減数分裂第一分裂で相同染色体の対の両者が同じ娘細胞に入ったり、減数分裂第二分裂で姉妹染色分体が分離せずに娘染色体が両方とも同じ配偶子に入るといった形で起こりうる。
 Figure 18.13a は、第一分裂で不分離が起こっている様子を示している。相同染色体は親細胞で複製される。娘細胞は、左方の細胞が相同染色体の対の両方を受け取り、右方の細胞が相同染色体のどちらも受け取っていないことから異状である。第二分裂の後、四つの娘細胞は全て異状である。相同染色体の対が21番染色体のものであったなら、最初の二つの(左方の二つの)細胞は受精するとダウン症候群の原因となりうる。相同染色体が X染色体であったなら、結果としてクラインフェルター症候群が起こることが考えられる。相同染色体が Y染色体であったなら、XYY症候群(ヤコブ症候群)が受精の結果として起こりうる。右方の二つの細胞は、ターナー症候群の原因となりうる。(YO接合体は死滅する(発生しない)ので、XOのみが発生する可能性がある。)
 Figure 18.13b では、第二分裂で不分離が起こっている様子を示している。第一分裂は正常に起こり、それぞれの娘細胞は相同染色体の対のうち一つを受け取る。第二分裂で姉妹染色分体が分離に失敗し、同じ配偶子が娘染色体を二つ受け取る。異状配偶子は前段落で述べたのと同様の症候群の原因となる。


 染色体不分離の結果、異なった染色体の数の配偶子が生じ、受精の後、Figure 18.13. に列挙したような症候群が起こる。


Fifure 18.13 Nondisjunction of autosomes during meiosis. 減数分裂の際の常染色体の不分離

a. 減数分裂第一分裂で相同染色体が分離するのに失敗すると染色体不分離が、起こることがある。
b. 第二分裂の間に姉妹染色分体が分離に完全に失敗しても染色体不分離が起こりうる。
a. b. どちらの例でも、特定の異状配偶子が染色体を一つ余分(n+1)に持っていたり、一つ不足して(n-1)持っていたりする。
c. (染色体不分離が原因となりうる)症候群の頻度。



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Spermatogenesis and Oogenesis 精子形成と卵(子)形成

 精子形成と卵形成は生殖器の中で起こる。生殖器とは、雄の精巣(二つs: testis, pl: testes)と雌の卵巣(二つ)のことである。精子形成では精子が形成され、卵形成では卵が形成される。二つの性で配偶子は異なった現われ方をし、減数分裂の仕方も異なる。雄の減数分裂では常に精子に成長する細胞を四つ生じる。雌の減数分裂では一つだけ卵を生じる。第一減数分裂では二次卵母細胞と呼ばれる大きな細胞一つと極体を一つ生じる。第二減数分裂後は、卵一つと二つの極体が存在する。極体は、不必要な染色体を処分して卵に細胞質の多くを保持する手段となっている。細胞質は発育中の胚の栄養源として役に立つ。
 精子形成がいったん開始すると、中断せずに完了して、成熟した精子を生じる。対照的に卵形成は必ずしも完了しない。精子が二次卵母細胞と受精する時にのみ、第二減数分裂が起こり、卵が生じる このように複雑な仕組みなのではあっても、精子と卵はどちらも接合子(受精卵)に半数体の染色体を与える。ヒトでは、精子と卵子が23ずつの染色体を供給する。

 精子形成は雄の精巣で起こり、精子を作る。卵形成は卵巣で起こり、卵をつくる。減数分裂は精子形成と卵形成の過程の一つであり、それ故、精子と卵は一倍体である。

Figure 18.14 Spermatogenesis and oogenesis. 精子形成と卵形成
 精子形成は四つの生存する精子を形成する一方、卵形成では卵一つと極体二つを生じる。卵形成は二次卵母細胞が受精しない限り完了しないことに注意せよ。ヒトでは、精子と卵はそれぞれ23の染色体を持ち、それ故、受精すると、接合子は46の染色体を持つ。

spermatogenesis 精子形成
primary spermatocyte 第一精母細胞
secondary spermatocyte 第二精母細胞
spermatid 精子細胞
sperm 精子
oogenesis 卵(子)形成
primary oocyte 第一卵母細胞
secondary oocyte 第二卵母細胞
first polar body 第一極体
second polar body 第ニ極体
egg 卵(子) zygote (=fertilized egg) 接合子, 接合体 (=受精卵)
maturation; 成熟
fertilization; 受精
fusion; 融合