目次へ
last update: 2000/12/18。どう考えても情報が古い場合は、browserのメニューから[更新]してみて下さい。

(page 339)

Chapter 16

Sexually Transmitted Disease 性感染症

Chapter Concepts この章のコンセプト

16.1 Viral in Origin ウィルス感染症
16.2 Bacterial in Origin 細菌感染症
16.3 Other Sexually Transmitted Disease その他の性感染症




Figure 16.1 Sexual relationships. 性的関係


 Jennifer W. (ジェニファー(名)=W(姓のイニシャル))は事態を悟った、時既に遅しであった。彼女は医師の診察室にいた。浴室に入る度に酷い焼け付くような痛みが生じるということを寡黙に説明していた。彼女はそのことを友人には秘密にしておきたかった。彼女は両親にも言えなかった。
 彼女はかろうじて医者に話していた。
 Jenniferの苦痛の原因は性器ヘルペスであった。ごくありふれた非常に嫌な事態であった。性器ヘルペスは、ウィルスが原因の性感染症(STD)である。Jenniferの症例のように、性器ヘルペスは原因ウィルスをもっているが症状がでていない者(キャリアー)との性交によって移される場合が多い(Fig. 16.1)。ヘルペスウィルスは、AIDSや他の性感染症の宿主の場合と同様に、体内に潜伏し、外部からは存在が知り得ないからである。病気の存在に気が付くことはないとはいえ、次の三つを守って病気の侵入経路を塞ごうとすることは怠らないべきである。
(1) 禁欲に努める。
(2) 一夫一婦の性的関係をもつ、相手はSTDをもっていなくて、AIDSやB型肝炎の場合、麻薬注射をしていないこと。
(3) いつだって用法を守って女性用もしくは男性用のラテックス製コンドームを用いて、その際に水溶性の nonoxynol-9(ノンオキシノール-9)を含んだ腟用殺精子薬を併用する。
 口や性器に接触するのもやめた方がいい。性器に触るだけでSTDが伝染する場合だってある。(訳注: おぃおぃ、ムチャ言うなよ。)
 処方薬を用いて、Jenniferはヘルペス感染症の今回の症状は回復した。しかし、彼女の身体からウィルスがなくなったわけではない。症状の再発の可能性はあるし、痛みから逃れられたというだけである。Jennifer が Human Biology の読者であったら、おそらく、STDに関する知識をもっていて、自分を守れただろうに。
 STDは、今日では世界中の大きな健康問題である。特に、若者の多くは性的に活発であるのに加えて、性交年齢は若年化傾向であるからである。この章では、ウィルス、細菌、真菌といった病原体と、病原体がひきおこすSTDについて述べている。加えて、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)感染症とAIDSに関してこの章の後の補筆に記してある。



(page 340)

16.1 Viral in Origin ウィルス感染症

 性感染症(STD)とは、性的接触によってヒトからヒトへと受け渡される病原体によってひきおこされる伝染性の疾患である。病原体とは、ヒトに病気をおこすような 1.ウィルス、2.細菌、3.その他の生物 である。ウィルスは、ヒトに多くの病気をひきおこすが、その中には、1.AIDS、2.ヘルペス、3.尖圭(せんけい)コンジローム、4. B型肝炎 の今日問題となっている4大性病が含まれる。
 ウィルスは、単独では増殖できず、宿主細胞内のみで増殖できる。この理由から、ウィルスは、細胞内偏性寄生生物 obligate intracellular parasites と呼ばれている。研究室でウィルスを保守していくために、ウィルスは、1.実験室で育てられた動物、2.生きた雛鳥の胚、3.細胞培養されている動物細胞 等に注入されている。ウィルスは、細菌からヒトの細胞まであらゆる種類の細胞に感染することが可能である。けれども、ウィルスは特異的な好適宿主をもっている。例えば、バクテリオファージと呼ばれる種類のウィルスは細菌にのみ感染し、タバコモザイクウィルスと呼ばれる種類のウィルスは植物にのみ感染し、狂犬病ウィルスは哺乳類にのみ感染する。ヒトウィルスと呼ばれる種類のウィルスは、ヒトの中でも更に特異的な組織に感染する。ヒト免疫不全ウィルス(HIV)は特定の血液細胞(訳注: 具体的には、CD4陽性細胞)に侵入するし、ポリオウィルスは脊髄神経細胞内で増殖するし、肝炎ウィルスは肝細胞にのみ感染する。
 ウィルスは細胞ではなく、特徴のある構造をしている。小さな粒状のウィルスは少なくとも二つの部分でできている。外側のタンパクサブユニットでできたカプシド と 内側の核酸(DNAもしくはRNA)を含んだコアである(Fig. 16.2)。


Table 16.1 Infectious Diseases Caused by Viruses ウィルスが原因の感染症
Respiratory Tract 気道
Common colds 風邪(流行性感冒)
Flu.= influenza インフルエンザ
Viral pneumonia ウィルス性肺炎
Skin Reactions 皮膚反応
Measles 麻疹(はしか)
German measles = rubella 風疹
Chicken pox 鶏痘
Shingles 帯状ヘルペス
Warts 疣贅、いぼ
Sexually Transmitted 性感染
AIDS
Genital herpes 性器ヘルペス
Genital warts 尖圭コンジローム、性器いぼ
Hepatitis B B型肝炎
Nervous System 神経系
Encephalitis 髄膜炎
Polio ポリオ
Rabies 狂犬病
Liver 肝臓
Yellow fever 黄熱病
Hepatitis A, C, and D A/C/D型肝炎
Other その他
Mumps 流行性耳下腺炎、おたふくかぜ
Cancer 癌

Figure 16.2 Influenza virus. インフルエンザウィルス

動物に感染するウィルスのカプシドは、しばしば外側にエンベロープ(外套)が囲んでいる。エンベロープは宿主細胞の形質膜由来で、ウィルス性グリコプロテイン(糖蛋白)のスパイク(突起)をもっている。エンベロープ内のグリコプロテインのスパイクはウィルスが形質膜の受容体に付着することを可能にしている。するとウィルス全体は宿主細胞にエンドサイトーシスにより侵入する。ウィルスは、エンベロープとカプシドを脱ぎ捨てる。細胞内でウィルスの遺伝子が遊離すると、ウィルスの構成成分は生合成されて新しいウィルスが構築される(Fig. 16.3)。宿主細胞からのウィルスの放出は出芽である。出芽の間、ウィルスはエンベロープをまとう。エンベロープは、宿主の形質膜の成分 と ウィルス遺伝子がコードするタンパク でできている。グリコプロテインは、ウィルスが宿主細胞の形質膜に付着できるようにするためのスパイク(突起)である。出芽の過程で宿主細胞は必ずしも死ぬわけではない。
 例えば、パピローマウィルス、ヘルペスウィルス、肝炎ウィルス、アデノウィルスといったヒトの細胞に入るDNAウィルスの中には潜伏期間をもつものがある。潜伏期間の間、ウィルス遺伝子は宿主細胞の染色体DNAに統合され、宿主細胞が増殖する度毎に複製される。ある種の環境因子、例えば紫外線照射がおこると、ウィルスは複製され細胞から出芽するようになる。潜伏ウィルスは非常に重要である。何故なら、潜伏ウィルスが宿主細胞の染色体に存在することにより、細胞が変化して癌化する可能性があるからである。ウィルスの中には発癌性をもつものがあり、それは、ウィルスにより発癌遺伝子(オンコジーン)がもたらされるからである。

(page 341)

 レトロウィルスはRNAウィルスであり、自己複製時にはDNAになり、潜伏期をもつものもある。レトロウィルスは逆転写酵素と呼ばれる特別な酵素をもっている。逆転写酵素は、RNAからcDNAへの転写をおこす。cDNAの名の由来はウィルスRNA遺伝子のDNAコピーである。潜伏期の間、cDNAは宿主DNAに取り込まれ、ウィルスの増殖と出芽の際に宿主DNAから離れる。レトロウィルスは、AIDSの原因ウィルスであるHIVがレトロウィルスであることから興味深い。レトロウィルスはある種の癌の原因にもなっている。  ウィルス性疾患は、伝染を予防すること、ワクチンの導入、最近になってからであるが345頁のHealth readingで述べられているような抗ウィルス剤の投与でコントロール可能である。特定の病原体の移行に関する知見を知れば、伝染の広がりを防ぐ手助けになる。咳やくしゃみの際に口を手でおおえば、風邪の広がりを防げるし、性交の際のコンドームの使用も性感染症の予防になる。
病原体に対する免疫能を刺激して病気が後になってから発症しないための抗体でできている抗体でできているワクチンは、ある種のウィルス性疾患、例えば、ポリオ、麻疹(はしか)、性感染症でもあるB型肝炎で利用可能である(Table 16.1)。細菌の代謝を阻害するように合成された抗生物質は、ウィルス性疾患に対して効果がない。かわりに、1.ウィルスの宿主細胞への侵入や、2.DNAがコピーされる複製や、3.ウィルスの細胞からの出芽 を阻害する薬剤が必要である。

多数のウィルスがヒトに病気を及ぼす。ウィルスの中には、重要な性感染症(STD)の原因ウィルスもある。

Figure 16.3 Life cycle of an animal DNA virus. 動物寄生DNAウィルスの生活環

(page 342)

HIV Infections HIV感染症

 後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因は、特定の血液細胞に感染するヒト免疫不全ウィルス(HIV)である。この章の短いディスカッションは、355頁から始まるディスカッションで補足される。

Prevalence of an HIV infection and AIDS HIVとAIDSの流行

 推測は様々であるが、40,000,000(4千万)人もの世界中の人々がHIVに感染していて、その中で、12,000,000(1200万)人が既に死亡している。HIVの新規感染は15秒毎に発生し、大多数は異性間での感染である。HIV感染は世界中で均等に発生しているわけではない。キャリアーの大多数は、HIV感染の発生源であると考えられているアフリカの人たちで約60%の割合である。しかし、新規感染は東南アジアやインド亜大陸で急速に増加している。
 合衆国では、HIV感染は大都市に集中しているが、今日では小都市や田舎へも広がりつつある。新規感染は特定の集団に多い。つまり、アフリカ系アメリカ人(訳注: 従来の black 黒人は taboo)とヒスパニック系は、コーカサス系に比べて多い割合で感染している。そうは言っても、HIVは、民族や性行為、静脈麻薬の常用者を問わず、趣向性的活動期にある成人に対する脅威となっている。Figure 16.4 には 1988年以来の合衆国でのAIDS症例に関して記してある。

Symptoms of an HIV Infection HIV感染の症状

 HIVの主要な宿主は、特定の免疫細胞である。つまり、1.ウィルスと最初に遭遇する白血球の型であるマクロファージ、2.Bリンパ球に抗体の産生を刺激する白血球の型であるヘルパーTリンパ球、3.ウィルス感染細胞を殺傷する細胞傷害性T細胞である。HIVは進行性に感染者の免疫系をむしばんで、破壊に至ることもしばしばである。
 初期急性期(カテゴリーAと呼ばれる)の間、症状は皆無であり、ただ患者は感染症にかかりやすい。感染直後、血液検査が陽性になる前の時点で、患者の体内には、大量の他人に感染することのできる感染性ウィルスが存在する。血液検査が陽性になっても、患者はウィルスの群が血液に入る以前と同様の状態を保っている。数百万のヘルパーT細胞が毎日産生されると考えられ、血中濃度は1mm3あたり500個以上である。
 感染から数ヶ月から数年後、未治療患者のヘルパーT細胞数は 1mm3あたり500個以下になり、慢性感染症(カテゴリーB)になる。リンパ節は腫大し、過度の疲労が共通しておこり、夜汗を伴った発熱と下痢が発生する。ウィルスが脳に侵入したことを示す徴候も存在する。それは、記憶の消失、明瞭な思考能力の欠落、判断力の消失、抑うつなどである。
 患者が生命を奪うほどではない再発感染を示せば、程なくAIDSの本格的な発症に至るだろうと予測できる。

Figure 16.4 AIDS in the United States 合衆国のAIDS




発症の可能性のある感染症として鵞口瘡(がこうそう)がある。鵞口瘡は、真菌である カンジダ・アルビカンス Candida albicans が原因の感染で、舌と口周の白斑と潰瘍で判別できる。カンジダの感染は腟にも波及し、慢性感染症になる。別の頻発する感染症として、口内ヘルペスや性器ヘルペスがある。性器ヘルペスに関しては339頁で述べたばかりである。
 最近まで、感染者の大多数が最終的に、HIV感染症の最終段階(カテゴリーC)であるAIDSを発症した。1993年に、AIDSの定義が発表され、ヘルパーT細胞の重度な減少(血中濃度が200/mm3以下)がある者や、日和見感染者がその中に含まれていた。日和見感染とは、免疫能が重度に障害されていることだけが原因で感染しやすくなるということである。AIDS患者は、単一あるいは複数の日和見感染症が原因で死亡し、HIV感染症そのものが原因では死亡しない。AIDSの死因となる日和見感染症としては、ニューモシスチス・カリニ肺炎、癌の一種であるカポジ肉腫等がある。

Treatment for an HIV Infection HIV感染症の治療

 AIDSには治療法がない。しかし、高度活性抗レトロウィルス治療(HAART)と呼ばれる治療により、通常は血中にウィルスを検出できなくなるほどにまでHIVの増殖を停止させることはできる。

(page 343)

治療は、逆転写を抑制するもの と ウィルスの集合に必要な酵素であるプロテアーゼを抑制するもの の二種類の薬剤で行われる。処方どうりに多剤併用治療が行われれば、通常の場合はウィルスが常在する事態は避けられる。残念ながら、あらゆる種類の薬剤を用いてもHIVが常在ウィルス株になることが確認されている。HIVに感染した患者は薬物による治療は期待できない。
 感染後、早期に薬物治療が開始されるほど、HIVにより免疫機構が破壊されなくなる可能性は増大する。そして、投薬は継続しつづけなければならない。研究により、HAARTを中断すると、ウィルスが再上昇することがわかっている。
 多くの研究者はAIDSワクチンの開発に取り組んでいる。学者の中には、従来の伝統的な手法でワクチン開発に取り組んでいる者がいる。伝統的に、ワクチンは病原体を弱体化もしくは殺傷して、発病しないようにして対象の体に投与される。別の研究者は、HIVを構成するタンパクの一つだけを利用したサブユニットワクチンの開発に取り組んでいる。そのタンパクをコードしているDNAもワクチンとして働くことがわかっている。何故なら、そのDNAは細胞に入ってタンパクを産生し、形質膜に呈示するからである。様々なワクチンが開発に関してそれぞれ異なった段階である。かようにして、血液の免疫反応を増加させるワクチンはあるが、将来の感染を防ぐためのワクチンは存在しない。

Transmission of HIV HIVの伝染

 合衆国のAIDS患者の大部分は同性愛者(ホモセクシャル)であるが、静脈内麻薬常用者や異性愛者(正常愛者)の割合も上昇してきている。女性は、今日ではAIDSの新規発見症例の20%を占めている。(訳注: 何故、50%でないのだろう? 少数の遊び女と女を買う男ばかりの世の中なのだろうか? 答えは、No! 職場の検診等で男性の方が発見される機会が多いというのがむしろ正解。)感染した女性はHIVを胎児に胎盤をを介して、あるいは母乳を介して移行させる。出産時(産道を通過する際の)の伝染は、母体がAZT(訳注: 代表的なAIDS治療薬)を服用し、帝王切開で出産すれば回避できる(感染のリスクは低下する)。
 性行為と薬物関連行為は、合衆国でAIDSの主要な感染源であることは明白である。本質的に、HIVは、精液や血液といった体液の中に含まれるウィルスが感染したT細胞が、人から別の人へと移行することでおこる。(今日、輸血の血液と血液製剤はHIVを含有しているか検査されているので、輸血や血液製剤により感染するということは考えにくくなっている。) HIVの移行を防ぐために、この章の最初のイントロダクションの部分で紹介した内容を尊守して下さい(339頁を見よう)。

大部分は異性愛者である多くの人々が毎年HIVウィルスに感染している。あらゆる手を尽くして移行を避けるべきである。何故なら対症治療には多額の金がかかるし、治療法は存在しないのだから。

Figure 16.5 Genital warts. 尖圭コンジローム

Genital Warts 尖圭コンジローム

 ヒトパピローマウィルス(HPVs(単一でない))は、性交によって感染する尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)、足底疣贅(そくていゆうぜい)、性器疣贅(せいきゆうぜい=尖圭コンジローム)といった疣贅(ゆうぜい=いぼ)の原因である(Fig. 16.5)。1,000,000(100万)人以上の人が毎年HPVに感染して、HPVが原因で尖圭コンジロームになることがあるが、その一部しか医学的治療を求めていない(病院に行かない)。

Transmission and Symptoms 伝染と症状

 尖圭コンジロームのキャリアーは、平板状病変が存在しても症状を示さないことが非常に多い。病変が存在しても、部位は、男性では陰茎(ペニス)や包皮、女性では腟開口部付近である(日常生活では他人から見えない)。新生児は産道を通過する際に感染することがある。
 尖圭コンジロームは、子宮頚癌と関連があり、外陰、腟、肛門、陰茎、口の腫瘍とも関連がある。研究者の中には、子宮頚癌の90〜95%にHPV類が関与していると考えている者がいる。複数の性パートナーをもつティーンエィジャー(偏見?)は特に、HPV感染しやすい。この年齢層に子宮頚癌の症例が多い(evidence)。

Treatment 治療

 現在、HPV感染に対する治療法はない。が、外科手術、冷凍治療、酸治療、レーザー焼灼といったものを程度により使い分けることで効果的に治療することができる。尖圭コンジロームは摘除されても再発する。治療後も、腟内のノンオキシノール9を含んだ殺精子剤を併用したコンドームの装用が尖圭コンジロームの波及を防ぐために必要である。

尖圭コンジロームは、ありふれたSTDで女性の子宮頚癌と関連がある。

(page 344)

Herpes Infections ヘルペス感染症

 ヘルペスウィルスは様々な病態の原因になる。鶏ポックスと帯状ヘルペス(たいじょうへるぺす)は 水痘-帯状疱疹ウィルス varicella-zoster と呼ばれる型のヘルペスウィルスが原因で、伝染性単核球症は エプスタイン=バー ウィルス Epstein-Barr virus (通例、EBウィルスと呼ばれる)が原因でおこる。ヘルペス感染症は性的接触によって広まるわけではない。性感染症の原因となる単純ヘルペスウィルスは大きなDNAウィルスで、口や腟といった身体の粘膜上皮に感染する。単純ヘルペスウィルスには二つの型が存在する。1型単純ヘルペスウィルスは通常、cold sore(適当な訳語なし、寒い痛み?) と 熱誠疱疹 fever blister の原因となり、2型単純ヘルペスウィルスは性器ヘルペスの原因となることが多い。交差感染がおこることもある。つまり、1型は性器感染するし、2型が cold sore や fever blister の原因になることもあるのである。

Cold Sores and Fever Blisters 全身ヘルペスの症状

 Cold sores は通常、1型単純ヘルペスウィルスが原因でおこる。このウィルスの感染は通常小児期の間におこり、穏やかな上気道疾患様の症状を伴う。症例によっては、痛覚を伴った水疱が咽喉、舌の上面もしくは下面、唇を含んだ口領域に出現する。痛覚は治療されるが、中枢神経系の外側の神経節と脊髄にウィルスは潜伏する。後に発生する、再発症状は口唇周囲の cold sore である。高熱、ストレス、風邪、月経、太陽光への暴露がウィルスの反応(→再発差)の引き金となる。ヘルペスの病変部位は、少なくとも痛覚が治癒される3〜4日までは感染性をもっていると認識することが重要である。痛覚病変部への接触やウィルスが混在した物体との接触によりウィルスは伝染する。口や生殖器への接触は性器ヘルペス感染をひきおこす。

Genital Herpes 性器ヘルペス

 性器ヘルペスは、通常、2型単純ヘルペスが原因ウィルスで、尖圭コンジロームと同様にありふれた疾患で、100万件以上かそれより更に多くの新規症例が毎年現れる(Fig. 16.6)。常時、数百万の患者が再発症状を呈している。
 通常は成人になってから2型単純ヘルペスウィルスに感染する。人によっては症状が現れない。そうでなければ、ひりひりする痛みや痒みが現れた後、性器に水疱があらわれる(2〜20日以内)。水疱が破裂すると、長くて3週間、短くて5日間、治癒に時間がかかる痛みを伴った潰瘍が後に残る。水疱には、発熱、排尿時の痛み、鼡径リンパ節の腫脹、女性の腟分泌物の増加などが伴うことがある。
 潰瘍が治癒すると、病気は潜伏して症状はなくなる。通常は、回数の少ない停止期間と穏やかな症状を伴って水疱は再発することがある。繰り返しになるが、発熱、ストレス、太陽光、月経は症状の再発と関連がある。症状がない期間は、ウィルスは主に罹患部位と関係した感覚神経の神経節に常在している。2型単純ヘルペスは以前は子宮頚癌の原因ウィルスと考えられていたが、それは全然ウソだと判明した。

Figure 16.6 Genital herpes. 性器ヘルペス

 新生児の感染は児が産道内の病巣と接触することでおこる。最悪の場合、新生児は重篤に発病し、失明したり、脳障害を含んだ神経学的障害をおこしたり、死に至ることもある。帝王切開でこの感染を防ぐことができる。それ故、ウィルスに感染している妊娠女性の全てがヘルスケアプロバイダー(ホームドクター?産科医?)にそのことを知らせるべきである。

Transmission 伝染

 性器ヘルペス病変は感染力のあるウィルスを撒き散らす。生きたウィルスが時折、病変をもたない者の皮膚から培養されることがある。それ故、ウィルスは視認可能な病変がない時点でも感染を広げることができると考えられている。感染者は、感染が自身の身体の他の部位、例えば眼などに波及しないように厳重に注意するべきである。勿論、性的交渉は、全ての病変が完全に治療されるまでは避けるべきで、病変の治療が終了した後もSTDの伝染を避けるためのイントロダクションで紹介した一般的な指針を尊守するべきである(339頁参照)。


Treatment 治療

 以前は、性器ヘルペスに対する治療法はなかった。アシクロヴィル と ヴィダラヴィン の二つの治療薬はウィルスの増殖を抑える。アシクロヴィルの軟膏により初期症状は緩和される。アシクロヴィルの経口薬を服用している間は症状の再発が抑えられる。ワクチンを開発するための研究が行われている。

単純ヘルペスウィルスは、性器ヘルペスの原因となる。性器ヘルペスは感染力の強い疾患で、症状は再発し、治療法はない。

(page 345)



Hepatitis Infections 肝炎感染症


 肝炎には幾つかの型がある。A型肝炎は、HAV(A型肝炎ウィルス)が原因で、通常、汚水が混濁した飲用水から感染する。A型肝炎は経口/経肛門により性行為でも伝染する。
 C型肝炎は、HCVが原因で、輸血後肝炎と呼ばれる。この型の肝炎は、通常、感染血との接触により移行し、大きな問題となっている。C型肝炎に感染すると、慢性肝炎に移行したり、肝癌になったり死に至ることがある。
 E型肝炎は、HEVが原因で、通常、発展途上国でみられる。感染地域へ旅行した人の輸入例のみが合衆国では報告されている。

Hepatitis B B型肝炎

 HBVはDNAウィルスであり、AIDSの原因ウィルスであるHIVと同様の経路で広まる。すなわち、薬物乱用者の注射針の共有、異性愛と同性愛(男性)のどちらの性交渉で感染する。それ故、AIDS患者がHBV感染ももっていることはありふれている。HIVと同様にHBVも母体から胎児へと胎盤を介して移行する。
 約50%の感染者のみが、疲労、発熱、頭痛、嘔気、嘔吐、筋痛、右上腹部の鈍い痛みといった感冒様の症状を呈する。皮膚の色調が黄味を帯びることである黄疸も存在する。人によっては、3〜4週間のみ持続する急性感染を経験する。人によっては慢性感染症になり、肝不全となって肝臓移植が必要になる。
 HBV感染には治療が存在しないので、予防が必須である。339頁に述べたような全般的な指針を尊守するべきであるが、最も効果の高い予防はHBVワクチンの接種である。HBVワクチンは安全で、大きな副作用はなく、小児の推奨予防接種項目となっている。。

B型肝炎は肝不全に至る感染症である。AIDSと同様の感染をするので、AIDS感染者の多くがB型肝炎の感染を合併している。



(page 346)

16.2 Bacterial in Origin 細菌感染症

Figure 16.7 Bacteria. 細菌
 細菌は、一般にウィルスより大きいが、顕微鏡で見えるくらいの大きさ(小ささ)である。結果として、細菌は空中、水中、土壌中、多くの物質に豊富であるということは肉眼では判らない。地球上のあらゆる細菌の全てを合計した重さは、地球上の他のどの種族よりも多いとさえ言われている。人は、長い間、細菌を様々な製品を商業的に(工業的に)つくる目的で利用してきた。エチルアルコール、酢酸、ブチルアルコール、アセトンといった化学物質は細菌の働きによって産生されている。細菌反応は、バター、チーズ、ザゥアークラゥト、ゴム、綿布、絹布、コーヒー、ワイン、ココアなどにも利用されている(訳チュー: sauerkraut; 酸味のある塩漬け発酵キャベツ(ドイツ語)、知ってると思うけど)。遺伝子工学を用いて、細菌は現在では、ヒト・インスリン や インターフェロン といったものを他のタンパク質と同様に産生している。ある種の抗生物質も細菌によって産生されている。
 細菌の形状は、3つの基本形がある。1.桿菌(かんきん, bacillus属)、2.球菌(きゅうきん, coccus属)、3.螺旋菌(らせんきん, spirillum属) (Fig. 16.7)である。ヒトの細胞は膜と結合した核と幾種類かの膜をもった器官を含んでいる。それ故、ヒトの細胞は、真核細胞 eukaryotic cell と呼ばれる。細菌細胞は膜と結合した核 や ヒトの細胞に見られるような膜をもった器官をもっていない。それ故、細菌は、原核細胞 prokaryotic cell と呼ばれる。細菌の核領域にはDNAが入っており、細胞質は多くの代謝経路に必要な酵素を含んでいる。細菌は、細胞壁に取り囲まれていて、細菌の種類によっては、多糖類やポリペプチドでできた被膜によっても取り囲まれていて、宿主による破壊を防いでいる。運動性の細菌は、しばしば鞭毛(べんもう、一本な〜ら flagellum, 複数本な〜ら flagella)をもっている。
 細菌は、通常、無性的に二分裂で増殖する。最初に、1本の染色体が複製され、次に2本の染色体が分離して別の領域に移動する。次に、形質膜と細胞壁が内側に発生して細胞を二つの娘細胞に分ける。娘細胞はそれぞれ染色体をもつ(Fig. 16.8)。好適環境下では成長速度が非常に早くなり、細胞分裂の速度は大腸菌の場合で、20分間に一度の割合になる。細菌の中には、不適環境下に直面すると内生胞子を形成することができるものがある。胞子形成時には、細胞は萎縮し、以前は形質膜であった部位に集合し、以前の細胞壁の内部に厚い壁を分泌して形成する。内生胞子は、温度、乾燥、酸や塩基を含んだ化学物質に驚くべき耐性を示す。環境が発育に適したものに回復すると、胞子は水分を吸収し、増殖に適した細菌の形態に戻る。
 大部分の細菌は勝手に活動する生物で、環境に有益な多くのサービスを提供する。細菌は大抵の場所で生息することができ、幅広い代謝能を活用してあらゆる物質を食物にすることができる。多くの細菌は分解者である。細菌は、環境の生物の死骸を消化酵素を分泌して分解し、栄養分子を吸収する。
 多くの細菌は、共生している。つまり、他の種と密接な関係をもって生活しているのである。

(page 347)


Figure 16.8 Bacterial reproduction. 細菌の増殖

大量の細菌が我々の身体に常在している。そういった細菌は、常在細菌叢と呼ばれ、宿主の抵抗力が弱くなって日和見感染しやすくなる時にのみ発症する。細菌である大腸菌 Escherichia coli は、腸管に常在し、消化しきれなかった残遺物を分解している。大腸菌 E.coli を含んだ腸管の細菌叢は、サイアミン、リボフラビン、ピリドキシン、ビタミンB12、ビタミンKといったビタミン類を供給している。ビタミンB12とビタミンKは、血液の成分の産生に必要である。大腸菌は、尿路に入ると膀胱炎の原因となる。黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus は皮膚上に存在する菌で、傷害時の感染の原因となる。
 Table 16.2 に列挙したような疾患は、通常、病原性をもっている細菌が原因である。大部分の細菌は好気的で、我々ヒトと同様に酸素の供給を必要とする。しかし、嫌気性菌が原因で発症するヒトの疾患も存在する。Table 16.2 に列挙した中では、ボツリヌス菌、ガス壊疽(えそ)菌、破傷風菌である。
 病原体により発生する病気は、伝染性である communicable という用語が用いられる。何故なら、病原体は新たな宿主に移行するからである。病原体は、食物、水、ヒトや動物による噛み傷、接触、飛沫(ひまつ、エアロゾル、空中の水滴)といった様々な機構により伝染する。
性感染症の感染が成立するには、親密な接触が必要である。
 細菌が病原体となる用件は以下のようである。
 ・宿主から次の宿主へと移行する能力をもっていること。
 ・宿主の細胞を貫いて侵入できること。
 ・宿主の防御機構に逆らうこと。
 ・宿主に発病させること。
 細菌感染症は、1.伝染の予防、2.ワクチンの注入、3.抗生剤治療 によってコントロールすることができる。抗生剤(抗生物質)は、細菌に特異的な代謝経路を阻害することで細菌を殺傷する薬物である。抗生剤治療は、推奨される処方を守って適用されれば高い効果を発揮する。さもなければ(用法を誤って無闇に投与すれば)、345頁の Health reading で述べたように耐性株(耐性菌)が発生してしまう。不幸なことに、細菌が原因のSTDには有効なワクチンが存在しない。それ故、伝染の防御がより最重要視される。禁欲や、STDに感染していないパートナーとの一夫一婦制の性的関係により、STDの伝染を避けることができる。さもなければ、ノンオキシノール9を含んだ腟内殺精子薬を併用したコンドームを使用して、口や性器への接触を避けて性交するべきである。

細菌は、膜と結合した核と、真核細胞で見られる膜をもった細胞内小器官を欠いている。しかし、独立して(宿主とは離れた状態で)存在することができる。大部分の細菌は、自由に生活しているが、少数はヒトに疾患をおこし、その疾患は抗生剤で治療される。

(page 348)


Figure 16.9 Chlamydial infection. クラミジア感染症

Chlamydia クラミジア

 クラミジアはクラミジア感染症をひきおこす小さな細菌の名前(Chlamydia trachomatis)である。かつては、クラミジア属は細菌よりはウィルスに近いと考えられていたが、今日では細胞でできた生物であることが知られている。とはいっても、クラミジアは寄生生物というべきであり、それは自身でATP分子を産生できないからである。クラミジアはエンドサイトーシスによって宿主細胞に入ると、細胞内の液胞の内部で生活環を行うようになる。後に、液胞は不意に破裂して、多数の感染性をもったクラミジアを放出する。
 新たに発生するクラミジア感染症は他の種類の性感染症よりも多数である。1984〜1996年の間に、クラミジア感染症の件数は劇的に増加し、50,000(5万)以下だったのが約500,000(50万)例にまで増加した。推計によっては、実際には6,000,000(600万)もの新規症例が一年間に発生していると考えられている。男性症例の1例に対して、女性症例は5件以上の割合である(Fig. 16.9)。このことは、主にスクリーニングによって無症候性の感染が検出されることが原因である。男性で割合が低いことは、クラミジアをもった女性の性パートナーの多くが診断されたり報告されないことを示唆する。

Symptoms 症状

 下部生殖路のクラミジア感染症は、通常、穏やかで無症候性である、特に女性の場合。感染から約8〜21日後、男性は穏やかなやけつくような感覚を排尿時に感じ、粘液を排出するようになる。女性の場合は、尿路感染症の症状とともに腟分泌物を放出する。遺憾ながら、医師は淋疾や尿路感染症と誤診し、間違った抗生剤を処方したり、患者は治療を必要と考えなくなるのである。そういった場合、特に感染が子宮頚部から卵管へと波及して結果として骨盤炎症性疾患(PID)になる危険性が高い。PIDは強い痛みを伴った状態で、不妊症や異所性(卵管)妊娠の危険性をはらんだ卵管閉塞の原因となる(Fig. 16.10)。

Figure 16.10 Pelvic inflammatory disease. 骨盤炎症疾患

 人によってはクラミジア感染は未熟児出生や過熟児出生の確率を上昇させると考えている。出産時に新生児がクラミジアと接触すると、肺炎や眼内炎症の原因となる。出生時に新生児にエリスロマイシン(訳注: 抗生物質名です)点眼することで発症を防ぐことができる。クラミジア感染が妊娠女性に検出されれば、妊娠中にエリスロマイシン投与が選択されるべきである。

Diagnosis and Treatment 鑑別診断と治療

 今日、新しい迅速な検査法がクラミジア感染の検出に利用可能である。しかしながら、費用が高いので、一般診療所ではその検査法を用いないことがある。判定基準は医師にどういった女性が検査を受けるべきか判断させるのに役立つ。1.年齢が24歳以下、2.過去2ヶ月以内に新しいセックスパートナーを得た、3.子宮頚部の分泌物がある、4.腟の所見をとる際に出血、5.避妊に際して感染を防がないような手法を用いていること、といった項目がある。クラミジア感染症は、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、アジスロマイシン といった抗生物質の投与で治療される。それ故、診断したら即座に治療を開始するべきである。

女性のPID(骨盤炎症性疾患)と不妊症は、クラミジア感染が原因のことがある。クラミジア感染は次に記載する淋疾を併発することがある。

(page 349)


Figure 16.11 Gonorrhea. 淋疾

Figure 16.12 Secondary sites for a gonorrheal infection. 淋病の二次病変部位

Gonorrhea 淋疾(りんしつ)

 淋疾の原因は、細菌である Neiseria gonorrhoeae ナイセリア ゴノーエアーエ が原因である。Neiseria gonorrhoeae は、二つの球形の細胞が近接している双球菌である。淋疾の発症件数は1978年以来、低下しつづけている(Fig. 16.11)。しかしながら、アフリカ系アメリカ人(黒人は差別用語)の淋疾の頻度がコーカサス人と比べて28倍も多いということが注目されている。また、避妊ピルを用いている女性は淋疾になる可能性が高い。何故なら、ホルモン避妊薬は生殖路が病原体を受けいれやすい状態にするからである。

Symptoms 症状

 男性の淋疾の症状は、典型的な徴候を示すことから困難でない(20%程度の男性は無症状)。患者は排尿時に疼痛を訴え、乳様の尿道分泌物を性交後3〜5日に排出する。女性では、淋菌は、最初に腟内や子宮頚部付近に生着して、そこから感染が卵管へ広がる。残念なことに、大部分の女性患者はPID(骨盤炎症疾患)による腹部領域の強い痛みを発生するようになるまで無症状である(Fig. 16.10)。淋疾によるPIDは、特に避妊法としてIUD(子宮内避妊具)を装用している女性に発生しやすい。
 クラミジア感染や淋疾感染が原因のPIDは、合衆国で1年間に約1,000,000(百万)人の女性に発生している。1992年の合衆国の異所性妊娠の総計は妊娠1,000件に対して約20例で、その内の多くがPIDが原因のものと思われる。
 淋疾直腸炎は肛門の感染症で、疼痛、便中の血液や膿(うみ)といった症状がある。
口腔や性器の接触により、口腔、咽喉、扁桃に感染症を生じる。淋疾は身体の内部に感染を拡大し、心臓に障害を与えたり、関節炎の原因になる。万が一、感染した性器に触れて眼に触れたなら、重篤な眼の感染をひきおこすことになる(Fig. 16.12)。
 失明へとつながる眼の感染は、新生児が産道を通過する際にも発生しうる。このことが原因で、全ての新生児はエリスロマイシン点眼薬を予防手段として投与される。

Transmission and Treatment 伝染と治療

 淋疾にかかる可能性は高い。一回の感染しているパートナーとの性交での単一の暴露で感染する確率は、女性は50〜60%の危険性であるのに対して、男性は20%の危険性である。それ故、339頁のイントロダクションに列挙した予防の指針を尊守するべきである。
 淋疾の血液検査は開発中である。一方で、顕微鏡を用いて男性の分泌物を調べたり、培養して男女に細菌があるかどうかが陽性であるか調べて診断することは必要である。血液検査がないことから、病原体の存在を感知しないまま他者へ伝染させる無症候性キャリアーを診断することは困難なのである。感染が診断されれば、通常、淋疾は抗生剤であるペニシリンやテトラサイクリンを用いて治療することが可能である。しかしながら、抗生剤治療に対する耐性菌がより広まってきた。1994年には、抗生剤に対する耐性が40%の菌種に関して認められた。

淋疾感染は、現在、減少している。しかしながら、抗生剤治療に対する耐性株が広まってきた。


(page 350)



Figure 16.13 Syphilis. 梅毒

Syphilis 梅毒

 梅毒は Treponema pallidum トレポネーマ パリドゥム(梅毒トレポネーマ) と呼ばれる細菌が原因でおこる。Treponema pallidum は活発に運動する螺旋(らせん)状の生物で、スピロヘータ spirochete属 に分類される。1995年の梅毒の新規症例の数は、1977年からの合衆国の統計で最も少なかった(Fig. 6.13)。
 梅毒には、三つの病期(stage)が存在する。それぞれの病期の間には潜伏期が存在し、潜伏期の間は細菌は増殖しない。第一期の間、硬性下疳(こうせいげかん、硬い縁をもった潰瘍)により感染の部位が判別できる。とりわけ、通常は自然治癒して、瘢痕を殆ど残さないことから、下疳は判別不能になる。第二期の間、細菌が体中に侵入して席捲(せっけん)する様が、患者が突如として発疹することから明らかになる。奇妙なことに、発疹は痒み(かゆみ)を伴わず、発疹は手掌や足底にも見られる。脱毛 や 口にも出現する粘膜上の感染性の灰色の斑 が生じる。以上の症状はひとりでに消失する。
 梅毒の第二期の全ての症例が第三期に移行するわけではない。症例によっては自然に治癒し、症例によっては第二期より以降に病期が進行しない。患者が死に至るまでの間続く、第三期の間、梅毒により心血管系は傷害を受け、動脈壁には弱体化が見られる(動脈瘤)。動脈瘤は特に大動脈に見られる。他にも、第三期梅毒では神経系が障害を受ける。患者の精神は障害を受け、失明し、脚を引きずったり、精神異常をきたす。ゴム腫は、大きな破壊性の潰瘍で、皮膚上や内臓内に発育する。
 先天梅毒は梅毒トレポネーマが胎盤を介して移行することが原因でおこる。
出生児は過熟であったり、先天的に失明していたり、他のあらゆる解剖学的奇形を生じることがある。

Diagnosis and Treatment 診断と治療

 梅毒の診断は血液検査や病変部から採取した液体の顕微鏡検査によってなされる。血液検査の一つはレアギンの存在に基づいたものである。レアギンは病気の進行に際して生じる抗体である。現在、最も使われている検査は、急速血漿レアギン試験(RPR)である。RPRは多数の検査血清のスクリーニングに用いられる。血液検査は偽陽性を示すこともあるので、そういった場合は続けて検鏡による検出を試みる。検査液の暗視野顕微鏡検査により、生きた生物を検出することができる。交互に検査血清は凍結乾燥されて Treponema pallidum のスライドになる。Treponema pallidum に反応する抗体の存在は、蛍光標識した抗ヒトガンマグロブリン抗体によって検出することができる。病原体は蛍光顕微鏡検査で蛍光を発するようになる。
 梅毒は、破壊性をもった病気である。梅毒のコントロールは迅速で適切な治療を新規症例の時点で行えるかどうかにかかっている。それ故、感染者と性交した者を追跡して治療を早期に施すといったことが重要になってくる。梅毒の治療は、病期に関わらず何がしかのかたちのペニシリン投与である。伝染を防ぐためには、339頁で紹介したような一般的な指示を尊守することが重要である。

梅毒は厄介な性感染症で、治療は抗生剤である。常に耐性株の出現という脅威が存在する。



16.3 Other Sexually Transmitted Disease その他の性感染症

 細菌はモネラ界に分類される生物である。他にも3つの界に属する生物が性感染症の原因となる。原生生物界、菌界、動物界である。(訳注: 生物の分類の仕方には、諸説ある。標準的にはホイタッカーの新五界説かな ? 生物好きの人は詳しいかも)
 原生生物界の原生動物亜界は単細胞生物(原生動物)で、単細胞でいて動物細胞と同様に機能していることから動物に近いとされている。大部分の型の原生動物は、自立して移動する機能を具えている。偽足と呼ばれる細胞質の拡張によって動くものがある。線毛によって動くものや鞭毛によって動くものもある。原生動物は、真水(まみず)の池のような水系にしばしば見られるし、大洋には原生動物が満ちている。あらゆる原生動物が外部からの栄養源を必要とするが、寄生性をもったもののみが宿主から栄養を得ることができる。寄生性原生動物には、マラリア、アメーバ赤痢、ジアルジア症といった疾患の原因となるものがある。Trichomonas vaginalis 腟トリコモナス と呼ばれる原生動物は性交により伝染し、女性の腟炎の一つの形態となる。
 大部分の真菌は非病原性の分解者である、ちょうど細菌の少数が寄生性であるのと同様に。通常、真菌の菌体は菌糸と呼ばれる繊維でできているが、酵母(イースト)は例外で単一の細胞でできている。大多数の皆様はイースト菌を知っていると思われる。酵母のあるものはパンの膨張剤として、ワイン、ビール、ウイスキーの発酵目的で利用されている。抗生剤治療と、避妊用ピルの服用は、腸管粘膜上皮の常在細菌叢の正常なバランスを破壊し、結果として酵母の感染をおこす。Candida albicans カンジダ アルビカンス は、おむつ皮膚炎、鵞口瘡(がこうそう)、女性の場合、腟炎をひきおこす酵母である。
 我々は、動物界にいるものを肉眼で見えると考えてしまいがちであるが、実際は顕微鏡で見た場合にもものすごく小さいものもある。動物は運動できる多細胞生物で、分化した組織をもつ。動物は外部からの栄養源を必要とするので、他の生物に寄生するものも中にはいる。様々な種類の蠕虫(ぜんちゅう)、例えば蟯虫(ぎょうちゅう)、条虫(じょうちゅう)、鉤虫(こうちゅう)は、他の動物の体内で生活するよく知られた寄生虫である。シラミ(虱)はヒトの毛髪に感染する昆虫である。ケジラミは学童の毛髪に感染することで良く知られている。この頁で紹介する crab louse は性行為で伝染する。


Figure 16.14 Trichomonas vaginalis. 腟トリコモナス
Vaginitis 腟炎

 女性は非常にしばしば腟炎をかかっている。腟炎は腟の感染で、鞭毛をもった原生動物である Trichomonas vaginalis 腟トリコモナス(Fig. 16.14) や 酵母である Candida albicans カンジダ アルビカンス が原因でおこる。原生動物の感染により、白くて悪臭をもった腟分泌物が掻痒感を伴って発生するし、酵母の感染では、厚くて白色で疑乳状の腟分泌物がやはり掻痒感を伴って発生する。Trichomonas は、性交で感染することが最も多く、無症候性のパートナーが通常、感染源である。しかしながら、Candida albicans は、腟に普通に見られる生物である。Candida は、特定の状況になると、通常よりも多く増殖するようになる。例えば、女性が避妊用ピルを服用しているだとか、抗生剤治療を受けている女性は、通常よりも酵母に感染しやすい。

Pubic Lice(Crabs) ケジラミ(毛虱)

 感染性のケジラミ Phthirus pubis (学名、分類は昆虫)は、小さな蟹に似ていることからその名がある(Fig. 16.15)。シラミは、シラミが寄生している患者との接触や、感染者の着衣や寝具に接することで移行する。メスは毛髪の基部に卵を産みつけ、その卵が2,3日以内に孵化して多数の虫体となり、シラミは宿主から血液を吸い、特に夜間に強い酷い痒みを生じる。陰毛、腋毛、眉毛にすら感染することがある。
 他の型の性感染症と比較して、自己診断と毛髪のシェービングを必要としない自己治療が可能という特徴がある。通常、感染者は成虫の虫体や恥毛の無数の卵により同定される。リンダンといった駆虫薬が感染部位に投与され、性パートナーも同様の治療を受ける必要がある。下着、イス、夜間着も熱湯消毒するべきである。

ウィルスや細菌の他にも、原生動物と酵母が原因で腟炎を生じる。そして、ケジラミの原因は動物である。

Figure 16.15 Phthirus pubis. ケジラミ(毛虱)







NEMESIS(1985, (c)KONAMI)
shoot the core!!

Chapter 16, Sexually Transmitted Disease, STD

♪ Podolui's, Romansing SaGa 3