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Chapter 14

Endocrine System 内分泌系

Chapter Concepts この章のコンセプト

14.1 Environmental Signals 環境信号
14.2 Hypothalamus and Pituitary Gland 視床下部と下垂体
14.3 Thyroid and Parathyroid Glands 甲状腺と副甲状腺(上皮小体)
14.4 Adrenal Glands 副腎
14.5 Pancreas 膵臓
14.6 Other Endocrine Glands 他の内分泌腺
14.7 Homeostasis 恒常性



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美人のオネーサンやね〜
Figure 14.1 Hormone regulation. ホルモンによる調節

 Joanne(ジョアンヌ)にとって、テレビの再放送を見ながらの再び眠れない夜のことであった。このひと月の間、Joanne は寝つけないで寝返りをうったり、時折、窓の外の通りに沿って並んでいる暗がりの中の家並みを眺めたりして夜をすごしていた。彼女はくたくただった。
 ついに Joanneは駆け出しの神経生物学者である友人に電話をかけることにした(訳注:この場合は真夜中であるし、実際に部屋に呼ぶのではないだろう、可能性は否定できないが)。その際、Joanneはメラトニンと呼ばれる生体ホルモンの事について知った。メラトニンは、脳内にある豆粒大の松果体が産生するホルモンで、メラトニンの作用によって我々は寝つくことができる。夜になると、我々の眼は脳内の生体時計に夜の帳(とばり)が訪れたことを示すシグナルを送り、生体時計は松果体にメラトニンの産生を指示する。すると我々の代謝が全般的に低下する。体温が低下し、我々は幸福のうちに眠りにおちいる(Fig. 14.1)。
 研究者の中には、就寝前1時間ほど前にメラトニンを補充することで、不眠の体質に対して夜を知らせるような反応をひきおこすだろうと考えている者たちがいる。Joanneも他の多くのアメリカ人がしているのと同様に処方箋なしでメラトニン薬を飲んだ。はたして、彼女はすぐにぐっすりと眠りにおちいった。
 よく寝る人々というとすばらしく聞こえるが、メラトニンは遅延睡眠症候群の人にしか有用でなく、世の中には他にも多くの型の睡眠障害が存在するのだ。また、メラトニンのホルモンレベルでの他のホルモンへの長期的な影響がどうであるかわかっていない。それ故、メラトニンの信奉者となって常用するようになる前にメラトニンによっておこりうる副作用について知ることは重要である。
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 ホルモンは内分泌腺から分泌される物質で、血中を輸送されて標的器官に達する。ホルモンの探究は、近代生物学の中でも最も面白い分野の一つである。ホルモン学により多くの有用な進展がみられた。例えば、1. メラトニンやその他のホルモンの生合成、2. 避妊法、3. 不妊の治療、4. 糖尿病のような疾患の治療 に進展がみられた。糖尿病は、かつては致死的な疾患であったが、今日ではホルモンであるインスリンの注入によって病気をコントロールすることが出来る。メラトニンは身体の中で産生される多くのホルモンの一つにすぎない。メラトニンの存在の有無により、我々の代謝や外観や行動に影響がみられる。
 内分泌腺は神経系と同様に身体の各部の機能を調節している。メラトニンは脳や体の脳以外の多くの部分に働いて影響を及ぼす。神経系は反応が早い系で、神経線維に沿って迅速に移動する神経活動電位を用いて働いている。内分泌系は反応が遅い系であり、それはホルモンは産生された後で血中を輸送されて標的器官に達して代謝に影響を及ぼすという過程を踏む必要があるからである。ホルモンは標的器官に達するまでは効果は無い。



14.1 Environmental Signals 環境信号
内分泌系と神経系は別個の系ではあるが、どちらの系もケミカルメッセンジャー(化学伝達物質)を利用している点で共通している。内分泌系ではホルモン、神経系では神経伝達物質の分子である。この事実は、以下の3種類の類型(Fig. 14.2)に分類することができる環境シグナルに対する全般的な関心に対する説明の手助けとなる。

距離の離れた臓器間の間で作用する環境シグナル。
 フェロモンは同じ種の生物で通用するケミカルメッセンジャーである。例えば、アリ(蟻)は、別のアリを食物へと導くフェロモンの跡(あと)を残すし、メスのカイコガはオスのカイコガが数キロメートル離れた場所でも受信できる性的魅了物質(フェロモン)を放出する。

日本のフェロモン女優 Miss Japanese Pheromone Actress
例えば、イヌが尿を用いて縄張りの標識を示すといったように、哺乳類もフェロモンを分泌する。幾つかの研究では、ヒトがフェロモンをもつかどうかについての結果を導いている。ある調査によれば、狭苦しい場所にすんでいる女性どうしは月経周期が同調するらし〜というのである。このことは、フェロモンが原因である可能性がある。(本当だろうか?)

身体の離れた部位の間で作用する環境シグナル。
 このカテゴリーには内分泌腺や脳下垂体の神経分泌細胞で産生されるホルモンが含まれる。このことは、神経系と内分泌系が協力して恒常性の維持に役立っていることの例である。神経系と内分泌系のオーバーラップの例として、交感神経末端と内分泌腺である副腎髄質の両方からのエピネフリンとノルエピネフリンの分泌がある。

近接した細胞の間で局所的に働く環境シグナル。
 神経伝達物質は、時に局所ホルモンと呼ばれるような物質として、このカテゴリーに含まれる。例えば、皮膚に裂傷が生じれば、肥満細胞からヒスタミンが放出され、炎症反応がおこるように刺激する。

今日、ホルモンは、環境シグナルの一つの型として分類される。環境シグナルという語の意味は、1.個体間 や 2.身体の各部の間 や 3.局所的に近接した細胞の間 で働く分子である。


蝶の交尾 肝臓 インスリンは膵臓で産生され肝臓の代謝に影響を及ぼす。 細胞とPG プロスタグランジンは周囲の細胞の代謝に影響を及ぼす。
下垂体 視床下部で産生された放出ホルモンは下垂体前葉に影響を及ぼす。 シナプス 神経伝達物質は付近のニューロンの膜電位に影響を及ぼす。
Figure 14.2 Environmental signals. 環境信号



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Figure 14.3 Cellular activity of hormones. ホルモンの細胞での活性

The Action of Hormones ホルモンの作用
 ホルモンは、基本的構造から大きく二つのカテゴリーに分類される。(1) 非ステロイド(系)ホルモンは、アミノ酸や、ペプチド、ペプチドが一つあるいは多くのポリペプチドでできたタンパクの等である。(2) ステロイド(系)ホルモンは、必ず炭素を四つ含む環をもっている複合体である。物質のそれぞれが側鎖をもっている。ホルモンの作用は細胞内機構によって増幅されるので、どの型のホルモンも非常に低い濃度でも機能することができる。
 ホルモン自身は特定の器官を探し出すことはしない。むしろ、標的器官はホルモンが来るのを待っているといった感じである。ホルモンに対して反応する細胞は、標的ホルモンと鍵穴と鍵の関係で結合するホルモン受容体タンパクをもっている。ステロイドホルモンは脂質でできていて、それ故、細胞膜を通過することができる(Fig. 14.3a)。細胞核の内部に入ってはじめて、エストロゲンやプロゲステロンといったようなステロイドホルモンはホルモン受容体タンパクと結合するのである。ホルモンと受容体の複合体はDNAと結合し、特定の遺伝子を活性化する。活性化によって細胞酵素が複数量産生される。
 大部分の非ステロイドホルモンは形質膜を通過することができない。そのかわりに、膜内の受容体タンパクと結合する(Fig. 14.3b)。エピネフリンが受容体タンパクと結合すると、リレー系がATPからサイクリックAMPへの変換を導く。
サイクリックAMPはATPの産物であるが、アデノシンと二箇所で結合しているリン酸のみの一つだけのリン酸しか含まない。だからサイクリック(環状)なのである。非ステロイドホルモンはファーストメッセンジャーと呼ばれる。cAMPやその他の幾つかの分子はセカンドメッセンジャーと呼ばれる。カルシウムもよく用いられるセカンドメッセンジャーである。だから体内のカルシウムの調節は重要なのだ。
 セカンドメッセンジャーは酵素カスケードを活動させる。筋細胞では、エピネフリンがグリコーゲンからグルコースへの分解を誘導する(Fig. 14.3b)。酵素カスケードの名は、幾つかの酵素が次々に働いて、酵素カスケードの各段階がその次の反応を導いていることからついている。たった一つの非ステロイドホルモンの結合が千倍もの反応を導く事だってありうる。

ホルモンは細胞の代謝に影響を及ぼすケミカルメッセンジャーである。ホルモンの細胞に対する作用は、特定のタンパクの産生の調節による間接的なもの(ステロイドホルモンの場合)と、酵素カスケードの活性化による直接的なもの(非ステロイドホルモンの場合)かのどちらかである。

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Table 14.1 Principal Endocrine Glands and Hormones 主要な内分泌腺とホルモン
Endocrine Gland Hormone(s) Released Target Tissues/ Organ Chief Function(s) of Hormone
視床下部 視床下部性放出ホルモン
視床下部性放出抑制ホルモン
下垂体前葉 下垂体前葉ホルモンの調節
下垂体前葉 甲状腺刺激ホルモン(TSH)
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
性腺刺激ホルモン(濾胞刺激ホルモン(FSH), 黄体ホルモン(LH))
プロラクチン(PRL)
成長ホルモン(GH)
メラノサイト刺激ホルモン(MSH)
甲状腺
副腎皮質
性腺
乳腺
軟部組織、骨
皮膚メラノサイト
甲状腺刺激
副腎皮質刺激
卵成熟、精子形成、性ホルモン生成
乳汁生成
細胞分裂、タンパク合成、骨成長
未知の機能、下部脊椎の肌色の調節
下垂体後葉 抗利尿ホルモン(ADH, バソプレッシン)
オキシトシン
腎臓
子宮、乳腺
腎での水分再吸収刺激
子宮筋収縮、乳腺からの乳汁分泌
松果体 メラトニン サーカディアンリズム、性成熟関与の可能性
甲状腺 サイロキシン(T4)
(トリヨード)サイロニン(T3)
カルシトニン
あらゆる組織
骨、腎臓、消化管
代謝率の増加、成長と発育の調節
血中カルシウム濃度の低下
副甲状腺 副甲状腺ホルモン(PTH) 骨、腎臓、消化管 血中カルシウム濃度の上昇
胸腺 サイモシン Tリンパ球 Tリンパ球の産生と成熟
副腎皮質 グルコ(糖質)コルチコイド(コーチゾール)
ミネラル(鉱質)コルチコイド(アルドステロン)
性ホルモン
あらゆる組織 血中グルコース濃度の上昇、タンパク分解を刺激
ナトリウムの再吸収とカリウムの分泌
性成熟
副腎髄質 エピネフリン
ノルエピネフリン
心筋、その他の筋 緊急時に血中グルコース濃度上昇
膵臓 インス(シュ)リン
グルカゴン
ソマトスタチン
肝臓、筋、軟部組織 グルコース濃度低下、グリコーゲン形成を促進
血中グルコース濃度上昇
精巣 アンドロゲン(テストステロン) 性腺、皮膚、筋、骨 男性二次性徴
卵巣 エストロゲン
プロゲステロン
性腺、皮膚、筋、骨 女性二次性徴

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Endocrine Glands 内分泌腺

 内分泌腺の反対は外分泌腺である。外分泌腺は導管をもっていて、その導管を用いて腺の産生物を体腔内へ分泌する。例えば、唾液腺は、唾液を唾液管を通じて口腔へ送り出す。内分泌腺は管をもたない。内分泌腺は産生するホルモンを直接血流に分泌して体中に分布するようにする。(cf.血管が導管という解釈もある。)


Figure 14.4 The endocrine system. 内分泌腺
 Table 14.1 には、Figure 14.4 に示した主要な内分泌腺から放出されるホルモンを列挙してある。脳の一部の視床下部は、下垂体と密接している。視床下部は下垂体をコントロールしていて、このことも神経系と内分泌系の密接な関連の例示となっている。松果体も脳内にある。甲状腺と副甲状腺(別名:上皮小体)は、頚部に存在する。胸腺は胸腔内で胸骨のすぐ下(訳注:正確には胸骨体の裏側)に存在する。副腎と膵臓は腹腔に存在する。卵巣を含んだ性腺は骨盤腔に存在し、精巣は骨盤腔の外側の陰嚢内に存在する。
 神経系の場合のように、内分泌系は特に密接に恒常性に関与している。恒常性とは、すなわち、生体内の環境の動的平衡である。内部環境とは、体内の細胞を取り巻く血液と組織液である。幾つかのホルモンは直接血液の浸透圧に働くことを覚えておきたい。別のホルモンには、カルシウムやグルコースの濃度を調節するものもある。幾つかのホルモンは性成熟と生殖器官の機能に関与している。実際、多くの人々がホルモンの性機能への作用のことをよく知っている。
 内分泌腺の作用のコントロールには2つの機構がある。負のフィードバック機構によってホルモンの分泌の調節が行われることは非常に多い。内分泌腺は、調節や血中ホルモン濃度の産生に対して感受性が高い場合がある。例えば、血中グルコース濃度が上昇すれば膵臓はインスリン(インシュリン)を産生して、インスリンの作用によって細胞はグルコースを吸収し、肝臓はグリコーゲンを産生するようになる。すると、インスリンの産生刺激は(ネガティヴフィードバックによって)低下し、膵臓はインスリンの産生を停止する。別の話として、血中甲状腺ホルモン濃度が上昇すると、下垂体前葉は甲状腺刺激ホルモンの産生を中止する。(そして、甲状腺は甲状腺ホルモンの分泌を低下させちゃう。) こういった事象の例に関しては、後で詳しく述べる。
 対称的なホルモンの作用の存在について述べることでホルモンの効果がコントロールされていることを示すことができる。例えば、インスリンの作用は、膵臓から分泌される別のホルモンであるグルカゴンと血中グルコース濃度への作用の点で相殺される。ホルモンの対称的な作用の例についてはTable 14.1に記してあるので見て欲しい。サイロイド(チロイド, 甲状腺ホルモンの一つ)は、血中カルシウム濃度を低下させるが、副甲状腺ホルモン(PTH)は、血中カルシウム濃度を上昇させる。更に別の反対の作用をするホルモンについて指摘することができ、それ故、血中の物質濃度は調節されているのである。

ホルモンの分泌はしばしば負のフィードバックによる支配を受ける。そして、ホルモンの効果は対称ホルモンの効果と逆である。結果として、恒常性や、身体の各部の正常な機能がおこる。



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14.2 Hypothalamus and Pituitary Gland 視床下部と下垂体

 視床下部は自律神経系を介して内部環境を調節している。例えば、視床下部の働きにより、心拍数、体温、水分バランスが調節される。視床下部は下垂体後葉からの顆粒分泌も支配している。下垂体は、φ約1cmの小さな腺で、茎状の構造によって視床下部と結合している。下垂体は二つの部分、つまり前葉と後葉でできている(Fig. 14.5)。

Posterior Pituitary 下垂体後葉

 視床下部には神経分泌細胞と呼ばれるニューロンが存在し、抗利尿ホルモン(ADH)とオキシトシンの二つのホルモンを産生している。二つのホルモンは軸索を通過して下垂体後葉に達し、軸索終末に貯蔵される。ADHは腎臓内部のネフロンに付随した集合管からの水分の再吸収を促進する。視床下部には、血液の浸透圧に感受性が高いことからセンサーの働きをするといえるニューロンがある。センサーニューロンが血液の濃度が高いと判断すれば、下垂体後葉内の軸索末端からADHが血流に放出され、ADHが腎臓に達すると、ADHの作用によって水分の再吸収がおこる。血液が薄まれば、ADHはもう分泌されなくなる。このことは、ホルモンの効果によってホルモンの放出が停止するようになることから、負のフィードバックによる支配を受けていると言える。
 ADHの分泌不全により、尿崩症がおこる。尿崩症の患者は大量の尿を産生し、同時に血中のイオンも喪失する。尿崩症はADHの投与によって補正(治療)される。
 オキシトシンは視床下部で産生されて下垂体後葉に貯蔵されるもう一つのホルモンである。出産の分娩が開始すると、子宮壁の圧受容体が神経活動電位を視床下部に送り、すると下垂体後葉からオキシトシンが放出されるようになるのである。オキシトシンの作用により子宮の収縮はより強くなる。このことは、正のフィードバックによる支配の例である。子宮収縮により子宮収縮のさらなる増強がもたらされるのである。オキシトシンは、授乳期間中の乳腺からの母乳の分泌も刺激する。

下垂体後葉は二種類のホルモンを貯蔵している。ADHとオキシトシンである。どちらも視床下部の神経分泌細胞から放出される。
Anterior Pituitary 下垂体前葉

 下垂体門脈系は、静脈と接続し、視床下部と下垂体前葉の間に存在する二つの毛細血管系からなる(Fig. 14.5)。視床下部は下垂体前葉を、視床下部性分泌ホルモン視床下部性抑制ホルモンを産生することでコントロールしている。例えば、甲状腺分泌ホルモン(TRH)と甲状腺抑制ホルモン(TIH)が存在する。TRHは下垂体前葉からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌を促し、TIHは下垂体前葉からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌を抑制する。
 下垂体前葉で産生される6つのホルモンのうち3つが他の腺に作用を及ぼす。(1) 甲状腺刺激ホルモン(TSH)は甲状腺に甲状腺ホルモンを分泌するように刺激し、(2) 副腎皮質刺激ホルモンは副腎皮質にコルチゾール(コーチゾール)を分泌するように刺激し、(3) 性腺刺激ホルモン(FSHとLHの両者)は性腺を刺激する。男性では精巣、女性では卵巣が刺激され、配偶子と性ホルモンが産生される。どの場合も、一連の流れの中での最終ホルモンの血中濃度によって、はじめの二つのホルモンの分泌に対する負のフィードバック機構が働く。



 下垂体前葉で産生される残りの3つのホルモンは他の内分泌腺には働かない。プロラクチン(PRL)は、出産後のみ大量に産生される。プロラクチンの働きにより、乳房の乳腺が発育し、乳汁を産生するようになる。プロラクチンは炭水化物と脂質の代謝にも役割を果たしている。
 メラノサイト刺激ホルモン(MSH)は、多くの魚類、両生類、爬虫類の皮膚色の変化をおこさせる。それらの動物は特別な皮膚細胞であるメラニン含有細胞をもっていて、その細胞により色の変化がおこる。ヒトでのMSHの濃度はごく微量である。
 成長ホルモン(GH)は骨格と筋の成長を促進する。成長ホルモンによる刺激でアミノ酸の細胞内への流入の割合が促進され、タンパク合成が起こる。成長ホルモンはグルコースの代謝に対抗して脂質の代謝も促進させる。

視床下部、下垂体前葉、その他の下垂体前葉支配の分泌腺は全て自己調節性の負のフィードバック機構に関与している。

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Visual Focus


Figure 14.5 Hypothalamus and the pituitary. 視床下部と下垂体

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Effects of Growth Hormone 成長ホルモンの作用

 成長ホルモンは、体が最も成長する時期である小児期と思春期に最も量が多い。小児期の成長ホルモンの産生が過少であれば、体全体の均整は取れているが低い身長を特徴とする下垂体性小人症になる。成長ホルモンの分泌が過多であれば、巨人症になる(Fig. 14.6)。巨人症の患者の健康状態は通常悪く、その主な原因は成長ホルモンの血中糖類濃度への二次効果として糖尿病と呼ばれる疾患を生じさせるからである。
 成人で成長ホルモンの産生が過多になれば、先端巨大症(末端肥大症)になる。成人では長管骨の成長はもはや望めない。足、手、顔面(前顎、鼻、眉弓)のみが成長ホルモンに反応し、体の中でその部分だけが肥大する。

小児期と成人期の成長ホルモンの量は身長に影響を及ぼす。


Figure 14.6 Effect of growth hormone. 成長ホルモンの影響



Figure 14.7 Acromegaly. 末端肥大症





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14.3 Thyroid and Parathyroid Glands 甲状腺と副甲状腺(上皮小体)

 甲状腺は頚部の喉頭直下の気管に付随した位置に存在する大きな腺である(Fig. 14.4)。副甲状腺は、甲状腺の前面の表面に埋まっている。

Thyroid Gland 甲状腺

 甲状腺は、多数の濾胞(ろほう)をもっている。濾胞は球形の構造で、甲状腺細胞でできている。甲状腺細胞には、ヨウ素原子を3つ含むトリヨードサイロニン(T3)、ヨウ素原子を4つ含むサイロキシン(T4, チロキシンとも)が入っている。

Effects of Thyroid Hormones 甲状腺ホルモンの作用

 サイロキシンとサイロニンを産生するために、甲状腺はヨウ素を能動的に摂取する。甲状腺内のヨウ素の濃度は、血中濃度の25倍に達する。食事中にヨウ素が少なければ、甲状腺は甲状腺ホルモンを産生できなくなる。下垂体前葉からの刺激が(過度に)持続すれば、甲状腺は腫大し、単純性甲状腺炎になる(Fig. 14.8)。数年前、ヨード化塩を使用(投与)すれば甲状腺から甲状腺ホルモンが産生されて、そうすることで単純性甲状腺炎の発症を防ぐのに役立つことが発見された。
 甲状腺ホルモンは代謝率を上昇させる。甲状腺ホルモンは(特異的な)標的器官を持たない。標的器官がないのではなく、あらゆる器官の代謝率を上昇させるのが甲状腺ホルモンで、いわば全ての臓器が標的器官なのである。甲状腺ホルモンの作用によりより多くのグルコースが分解されてエネルギーが産生される。
 甲状腺が適度に発育しないと、クレチン症と呼ばれる状態に陥る(Fig. 14.9)。クレチン症の患者は身長が低くてずんぐりした体型であり、乳児期や小児期より始まる重度の甲状腺機能低下症を呈する。甲状腺ホルモン補充療法により成長はおこるが、補充療法が生後2ヶ月以内に開始されなければ精神遅滞がおこる。成人で甲状腺機能低下症がおこれば、粘液水腫と呼ばれる状態が形成される。粘液水腫は、嗜眠(しみん)、体重増加、抜毛、脈拍低下、体温低下、痩せ(やせ)、皮膚の肥厚といった特徴をもつ。適量の甲状腺ホルモンの投与により、正常な機能と外観を回復することができる。
 甲状腺機能亢進症、または Graves(グレブス氏)病では、甲状腺は腫大し、機能が亢進し、甲状腺腫が形成される。眼窩組織の浮腫と動眼筋の腫脹が原因で眼球は突出する。このような型の甲状腺腫は、眼球突出性甲状腺腫と呼ばれる。患者は通常、活動性が亢進し、神経質になり、過敏性が亢進し、不眠におちいる。この状態を治療するために、甲状腺を部分摘除したり、放射性ヨードを用いて甲状腺を破壊することがある。甲状腺機能亢進症は、甲状腺腫瘍によりおこることもあり、甲状腺腫は身体所見を調べる際に(前頚部の)腫瘤として発見されることが多い。繰り返すが、治療は放射性ヨードの投与を併用した外科手術である。大部分の患者の予後は良好である。






Figure 14.8 Acromegaly. 単純性甲状腺腫


Figure 14.9 Cretinism. クレチン症

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Calucitonin カルシトニン

 カルシウム(Ca++)は神経伝導と筋収縮の両者に重要な役割を果たしている。Ca++は血液凝固にも必要である(凝固因子W)。血中カルシウム濃度の調節にはカルシトニンが関与している。カルシトニンは、血中カルシウム濃度が上昇した際に甲状腺から分泌される(Fig. 14.10)。カルシトニンの主要な作用は、骨にカルシウムを沈着させることである。カルシトニンによる骨のカルシウムの沈着は、破骨細胞の活動と数を減少させることである。血中カルシウム濃度が正常域に低下すれば、甲状腺からのカルシトニンの放出は抑制される。一方で、血中カルシウム濃度が低下すれば、副甲状腺からの副甲状腺ホルモン(PTH)の放出が刺激される。



Figure 14.10 Regulation of blood calcium level. 血中カルシウム濃度の調節
Parathyroid Glands 副甲状腺

 かなり以前、4つある副甲状腺の4つともが、大きさが小さいことが原因で、しばしば誤って甲状腺摘出術の際に摘除されていた。副甲状腺が産生する副甲状腺ホルモン(PTH)は、血中リン酸(HPO42-)濃度を低下させ、すると結果的に血中カルシウム濃度が上昇する。
 血中カルシウム濃度の低下は、体に強力な作用を持つホルモンであるPTHの分泌刺激となる。PTHにより骨破壊の活性が増し、骨からのカルシウムの放出が増加する。PTHは腎臓からのカルシウムの再吸収も促進し、腎臓からはビタミンDが放出される。ビタミンDは、うってかわって腸管からのカルシウムの吸収を刺激する。そういった作用が合わさって、血中カルシウム濃度は正常域に戻り、そうすると副甲状腺はPTHを分泌しなくなる。
 副甲状腺ホルモンの産生が不十分であれば、血中カルシウム濃度は極度に低下して、テタニーと呼ばれる状態になる。テタニーでは、体は連続的な筋収縮により振動(筋強直、痙攣)する。筋強直は、神経の興奮性の亢進が原因であり、神経活動電位が絶えず発生するようになる。

甲状腺から放出されるカルシトニンの作用 と 副甲状腺から放出される副甲状腺ホルモン の反対の作用によって、血中カルシウム濃度は正常域に保たれる。




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14.4 Adrenal Glands 副腎

 我々の体には左右あわせて二つの副腎が腎臓の上に付着して存在する(Fig. 14.4 を見られたし)。どちらの副腎も副腎髄質と呼ばれる内部と副腎皮質と呼ばれる外部でできている。副腎皮質と髄質は、下垂体前葉と後葉がそうであるのと同様に、互いに生理的なつながりがない。
 視床下部は副腎の皮質と髄質の両方に支配を及ぼしている。視床下部から神経活動電位が放出され、活動電位は脳幹、脊髄、交感神経線維を通って副腎髄質に達し、副腎髄質からホルモンが放出される。視床下部はACTH分泌ホルモンを用いて、下垂体前葉からのACTHの分泌をコントロールし、そのことが副腎皮質のコントロールになっている。感情面や身体的外傷を含んだあらゆる種類のストレスが視床下部が副腎を刺激する原因となる。副腎ホルモンはストレス時に増加する。
 副腎髄質が産生するエピネフリン(アドレナリン)とノルエピネフリン(ノルアドレナリン)は、迅速に反応して、Figure 14.11に示したように個体が危機に瀕した際にもたらされる身体の変化をもたらす。
反対に、副腎皮質が産生するホルモンは、ストレスに対して遅延性の反応を示す。副腎皮質が産生する二つの主要なホルモンの型は、ミネラルコルチコイドとグルココルチコイドである。ミネラルコルチコイドは塩類と水分のバランスを調節して循環血量と血圧を調節している。グルココルチコイドは、炭水化物、タンパク、脂質の代謝を調節して、血中グルコース濃度が上昇するように働いている。関節の炎症の治療にしばしば導入される薬物のコルチゾンはグルココルチコイドである。
 副腎皮質は、少量の男性ホルモンと少量の女性ホルモンを男性と女性の両方で産生している。つまり、副腎皮質に於て、男性では男性ホルモンと女性ホルモンが、女性でも男性ホルモンと女性ホルモンが産生されているのである。

副腎髄質は神経支配を受けていて、副腎皮質は下垂体前葉から分泌されるホルモンであるACTHの支配を受けている。副腎からのホルモン分泌はストレスに対する反応に役立つ。




Figure 14.11 Adrenal glands. 副腎腺


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Mineralcorticoids ミネラル(鉱質)コルチコイド類

 アルドステロンは最も重要なミネラルコルチコイドである。アルドステロンの主要な標的臓器は腎臓であり、腎臓に於てアルドステロンの作用でナトリウム(Na+)の再吸収とカリウム(K+)の分泌がおこる。
 ミネラルコルチコイドの分泌は下垂体前葉の支配を受けていない。血中ナトリウム濃度とそれら由来した血圧の低下がおこると、腎臓はレニンを分泌する(Fig. 14.12)。レニンは血症タンパクであるアンジ(ギ)オテンシノーゲンをアンジオテンシンIに変換する酵素である。アンジオテンシンIはアンジオテンシンIIに肺の中の酵素を用いて転換される。アンジオテンシンIIは副腎皮質からのアルドステロンの放出を刺激する。このレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の作用により、2種類の経路で血圧の上昇がおこる。アンジオテンシンIIの作用により細動脈は収縮し、アルドステロンの作用により腎でのナトリウムの再吸収がおこる。血中ナトリウム濃度が上昇すれば、水分は視床下部から分泌されるADHの働きによりある程度再吸収される(298頁参照)。すると血圧は正常域まで上昇する。
 存在を予想することができるように、アルドステロンの拮抗ホルモンが実際に存在する。循環血量が増加して心臓の心房が伸展されると、心房ナトリウム利尿ホルモン(ANH)が放出される。ANHは腎皮質からのアルドステロンの分泌を抑制する。それ故、ANHの作用は、ナトリウムの排泄、つまりnatriuresis(ナトリウム排泄増加)である。ナトリウムが排泄されれば、水分バランスと血圧は正常域まで低下する。
Glucocorticoids グルコ(糖質)コルチコイド類

 幾つかあるグルココルチコイドのうちの一つが生物学的に最も重要な物質であるコルチゾール(コーチゾール)である。コルチゾールは筋タンパクを加水分解してアミノ酸にして血流に流す反応を促進する。この反応により、更に肝臓がアミノ酸をグルコースに置換することで高い血中グルコース濃度を得ることができる。コルチゾールは炭水化物よりも脂質の代謝をより強く促進する。インスリンの場合とは反対に、コルチゾールは血中グルコース濃度を上昇させる。コルチゾールは、痛覚や関節炎での関節の腫脹、滑液包炎の原因となる炎症反応も阻害する。そういった疾患に対してコルチゾールを投与することは、炎症を抑制することで対症となる。
 血中グルココルチコイド濃度が過度に高ければ、身体の防御システムを抑制することがあり、感染部位の炎症反応もその中に含まれる。コルチゾンやその他のグルココルチコイドを用いれば炎症による腫脹と痛覚を緩和することができるが、投与を受ければ同時に傷害や感染に対して弱くなる。


Figure 14.12 Regulation of blood pressure and volume. 血圧と循環血量の調節


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Malfunction of the Adrenal Cortex 副腎皮質機能不全

 分泌不全が原因で血中の副腎皮質ホルモンの量が少なくなれば、アジソン病になる。ACTHが大量に存在するが、機能活性のないACTHが存在する状態で、皮膚に銅色色素沈着が生じる。それは、MSHと同様にACTHにはメラニン沈着作用があるからである(Fig. 14.13)。コルチゾールが欠乏すると、ストレスの多い状態が増加すると血中グルコース濃度の補充がうまくいかなくなる。普通なら軽いはずの感染症にかかることが死へつながることがある。アルドステロンの欠乏により、ナトリウムと水分の喪失、低血圧、重篤な脱水症すらがおこりうる。治療せず放置すれば、アジソン病は致死的となる。
 分泌過剰が原因で副腎皮質ホルモン濃度が高くなれば、クッシング症候群(Fig. 14.14)になる。過剰なコルチゾールにより、筋タンパクが代謝されて糖尿病になりやすくなり、正中部に皮下脂肪が沈着するようになる。体幹は肥満でありながら、四肢は通常の大きさになる。(中心性肥満) アルドステロンが過剰になると腎からのナトリウムと水分の再吸収が亢進し、血液(体液)のpHが酸性になり高血圧になる。顔面は浮腫で満月様になる。副腎由来の男性ホルモン(アンドロゲン)の増加が原因で、筋肥大が女性でも生じるようになる。

副腎皮質ホルモンは恒常性に必要である。アジソン病は副腎皮質からの分泌不全が原因であり、クッシング症候群は副腎皮質からの過分泌が原因である。



Figure 14.13 Addison disease. アジソン病



Figure 14.14 Cushing syndrome. クッシング(カッシング)症候群





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14.5 Pancreas 膵臓

 膵臓(すいぞう)は、腹腔内で腎臓の位置から小腸の十二指腸の部位まで横長に横たわっている臓器である。膵臓は二種類の組織でできている。(訳注: 内分泌と外分泌という意味で)。外分泌組織は消化液を産生・分泌して、消化液は膵管を通って小腸に達する。膵島(ランゲルハンス島、ラ氏島)と呼ばれる内分泌組織は、インスリン(from β-cell)、グルカゴン(from α-cell)、ソマトスタチン(from Δ-cell)等のホルモンを産生し、血流に直接分泌する。
 インスリンは血中グルコース濃度が高い時に放出される。血中グルコース濃度が高いのは、とりわけ食後である。インスリンは細胞のグルコース吸収を刺激する。グルコース吸収は特に肝臓、筋細胞、脂肪組織の細胞で著明である。肝臓と筋ではグルコースはグリコーゲンの形で貯蔵される。筋細胞ではグルコースの分解産物はタンパク代謝のエネルギー源となり、脂肪細胞ではグルコースの分解産物は脂質の生成に必要なグリセロールとなる。
こういった様々な方法でインスリンは血中グルコース濃度を下げる。
 グルカゴンは膵臓から、通常は血中グルコース濃度の低い食間(食事と食事の間)に放出される。グルカゴンの主要な標的器官は肝臓と脂肪組織である。グルカゴンの作用によりグリコーゲンからグルコースへの分解がおこり、グルコースよりも脂肪とタンパクをエネルギーとして優先的に用いるようになる。脂肪組織細胞は脂肪をグリセロールと脂肪酸に分解する。肝臓はそれらを吸収して、グルコース生成の基質として利用する。述べたような様々な手段でグルコース(訳注: 多分グルカゴンの誤植だ。)グルコース濃度を上昇させる。

拮抗ホルモンどうしであるインスリンとグルカゴンは、互いに膵臓で産生され、血中グルコース濃度を正常域に保っている。



Figure 14.15 Regulation of blood glucose level. 血中グルコース濃度


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Diabetes Mellitus 糖尿病

 糖尿病は、メチャありふれたホルモンが原因でおこる疾患で、肝臓と体中の細胞がグルコースを吸収/代謝できなくなる。それ故、グルコースが潤沢にある中で細胞が飢餓状態に陥る。血中グルコース濃度が上昇すると、グルコースが水と一緒に尿中に排泄されるようになる。このことが原因で糖尿病になると非常にのどが渇くようになる。グルコースが代謝されないので、身体はタンパクと脂肪を分解してエネルギーを得るようになる。脂肪の代謝により血中にケトン体が形成され、最終的には昏睡や死に至る原因となるアシドーシスになる。高血糖の徴候(症状)としては、果物様の口臭、食欲喪失、進行が緩徐でありそのため適切な対症療法がとれる昏睡などがある。
 グルコース耐性試験はしばしば糖尿病の鑑別診断の補助となる検査として行われる。患者に 100gのグルコースを投与した後、血中グルコース濃度を間隔をおいて測定する。糖尿病患者であれば、血中グルコース濃度は大きく上昇し、数時間上昇したまま持続する。糖尿病でなければ、血中グルコース濃度は幾分の上昇を見た後、およそ1時間半後に正常域に戻る。(Fig. 14.16)
 糖尿病には二種類の型が存在する。I型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)では、膵臓がインスリンを産生しなくなる。そうなる原因は、環境物質、おそらくは細胞傷害性T細胞により膵島が破壊されるようになるウィルス への暴露が原因でもたらされるものだと信じられている。結果として、患者は毎日のインスリン注射を必要とするようになる。インスリン注射により糖尿病の症状はコントロールできるが、依然として生活の不具合が存在している。それは、過量のインスリン投与したり、規則正しい食事を欠いた場合には、低血糖症になるということである。低血糖症の症状には、発汗、皮膚蒼白、浅い呼吸、不安な気分といったものがある。脳は持続的な一定量のグルコース供給を必要とするので、低血糖の結果意識消失がおきる。治療法は実に単純である。つまり、迅速な角砂糖や果物ジュースの摂取により低血糖症は補正される。
 機能している膵臓をI型糖尿病患者に移植することは可能である。免疫抑制剤投与の必要性を回避するために、胎児膵島細胞を患者に注入する手段がとられる。別の実験的手技として、膵島細胞を特殊なカプセルに入れて投与することである。そのカプセルからインスリンが滲出することはできるが、抗体やTリンパ球がカプセルに入ることはできない。
この人工臓器(人工膵臓)は、腹腔内に移植される。
 合衆国内で16,000,000(1600万)人が糖尿病にかかっていて、その大部分はII型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)である。II型糖尿病は、通常、年齢を問わず肥満で活動性の低い人に発生する。膵臓はインスリンを産生するが、肝臓や筋細胞がインスリンに対して通常のように反応しない。インスリンの存在を検出するのに必要な受容体タンパクを徐々に欠いていく。II型糖尿病が治療されず放置されると、I型糖尿病同様に重篤な結果となる。(糖尿病により、失明、腎疾患、循環器疾患になりやすい。) 妊娠は、糖尿病性昏睡になるリスクを上昇させる。糖尿病患者が出産する子供は、死産であったり出生直後に死亡することが多い。) 少なくとも、低脂肪食にこだわり、規則的に運動することでII型糖尿病を避けたりコントロールすることができる。生活療法に失敗したら、膵臓からより多くのインスリンを分泌し肝臓や筋細胞でのグルコースの代謝を増強する刺激を行う経口薬を投与することができる。

糖尿病はインスリンの欠乏や細胞のインスリン感受性の欠如が原因である。インスリンは血中グルコース濃度を下げるホルモンであり、特に肝臓でグルコースをグリコーゲンの形で貯蔵させる働きがある。



Figure 14.16 Glucose tolelance test. グルコース耐性試験


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Health Focus

 蛋白同化ステロイドは男性ホルモンであるテストステロンの合成製剤である。ウェイトリフティング、ボディービル、他にもプロフットボール選手のような運動選手は蛋白同化ステロイドを最もよく使うであろう。大量(医者が病気の治療に用いる量の10〜100倍の量)に服用して、運動すれば、蛋白同化ステロイドの作用によって筋は肥大する。時折、ステロイド乱用がニュース記事になる。オリンピックの勝者が薬物検査で陽性になり、メダルを剥奪されるという記事である。ステロイドの使用は国際オリンピック委員会(IOC)により禁止されている。
 合衆国食物薬物省は大部分のステロイドの輸入を禁止している。しかし、違法な輸入は行われ、メールを介してだとか、ジムやヘルスクラブに於て販売されている。
 連邦政府によれば、今日では1〜3,000,000(1〜3百万)ものアメリカ人が蛋白同化ステロイドを服用している。10代の若者たちが、がっしりした身体を短期間でつくる目的で服用することが特に問題となっている。原因の中には、社会全体が身体的外観にこだわる風潮であり、頼りなげな若者が自分の見かけをよく気にするということがある。
 内科医、教師、両親たちは蛋白同化ステロイドの乱用をしないようとりわけ警告している。若い時期に大量の蛋白同化ステロイドを2〜3ヶ月服用すると、20〜30年後に死亡すると予測されている。多くの有害な蛋白同化ステロイドの作用が Figure 14A に示されている。加えて、そういった薬物の使用により野蛮な行為が増え、服用者が自分は無敵だと感じるようになる。ある乱用者は、友人に時速40マイル(64キロ)の速度で樹木に向かって運転する姿をビデオテープに撮るように指示した。





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14.6 Other Endocrine Glands 他の内分泌腺
 精巣と卵巣は内分泌腺である。他にもホルモンを産生する小さな腺や何がしかの組織が存在する。

Testes and Ovaries 精巣と卵巣

 性腺とは、男性では精巣、女性では卵巣のことである。精巣は陰嚢内に位置し、卵巣は骨盤腔内に存在する。精巣は男性ホルモンであるアンドロゲン(別名テストステロン)を産生し、卵巣は女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンを産生する。視床下部と下垂体はそういった器官からのホルモン分泌を以前に甲状腺に関して述べたのと同様の方法でコントロールしている。
 男性性ホルモンであるテストステロンは、多くの機能をもっている。テストステロンは男性の生殖器官の正常な発達と機能に必要である。テストステロンは精子の成熟にも必要である。
 思春期の著明に増大したテストステロンの分泌は陰茎と精巣の成長を刺激する。テストステロンは、思春期に発達する男性の二次性徴をもたらし、それを維持する。テストステロンは、髭(ひげ)の成長、腋毛(わきげ、えきもう)、恥毛(ちもう)の原因にもなる。テストステロンは喉頭と声帯を肥大させ、声変わりがおこる。男性の筋力が大きいことの部分的な原因であり、このことが原因で運動選手の中には、テストステロンや関連物質などの蛋白同化ステロイドを使用する者がいる。蛋白同化ステロイド服用の禁忌は前のページの読み物に示してある。テストステロンは、皮膚の脂腺と汗腺も刺激する。それ故、テストステロンは挫創(ざそう、アクネ)や体臭の主要な原因でもある。テストステロンには、禿げ(はげ)という副作用もある。禿げを支配する遺伝子は男女ともに遺伝する可能性がある。しかし、禿げの大部分はテストステロンをもつ男性により顕著に見られる。(Chapter 19 に出てきた内容ですね。Sex-Influenced Traits なんですね。)
 テストステロンは、性的衝動の大きな要因ともなっていると考えられている。男性の攻撃的な性格の要因にも寄与しているのだろう。
 女性の性ホルモンであるエストロゲンプロゲステロンは身体に色々な作用を及ぼす。特に、思春期に分泌されるエストロゲンは子宮と腟の発育を刺激する。エストロゲンは卵成熟に必要であり、女性の二次性徴の主要な要因となっている。女性ホルモンは女性の体毛と体脂肪の分布にも必要である。一般的に、女性は男性と比べてより丸っこい外観をもっていて、それは皮下により脂肪が蓄積していることが原因である。また、下肢帯は男性と比べて女性のほうが幅が広く、結果として女性のほうが骨盤腔の容積が広い。エストロゲンとプロゲステロンはどちらも乳房の発育と子宮周期の調節に必要である。子宮周期の内容として月経(血液と子宮粘膜組織の排出)がある。
Pineal Gland 松果体

 脳内にある松果体(Fig. 14.4参照)は、メラトニンと呼ばれるホルモンを主に夜に産生する。メラトニンはサーカディアン・リズム(概日周期)に関与している。通常、我々は血中メラトニン濃度が増加すると眠くなり、日が昇ってメラトニン濃度が下がると目が醒める。シフト制の仕事は厄介なものである、というのも、通常の概日周期を逆転させるからである。同様に、合衆国からヨーロッパへ行くといったような別の時間帯(タイム・ゾーン)への移動は時差ぼけの原因となる。何故なら、身体は依然いた地点での日周にあわせてメラトニンを産生し続けているからである。人々の中には、季節性感情障害(SAD)になる人がいる。患者は冬になると抑うつ気味になり、制御不能な睡眠への欲求が生じるようになる。メラトニン投与により症状は悪化するが、陽光下では症状が改善する。
 動物を用いた研究では、メラトニンは性の発育も調節していることがわかっている。脳腫瘍が原因で松果体が破壊された小児は思春期の発来が早いということがわかっているのは興味深い。

Thymus Gland 胸腺

 胸腺は、小葉でできた腺で、胸骨の直下(裏側)に存在する。(Fig. 14.4 参照) 胸腺は小児期に最大の大きさに発育し、活発に活動する。加齢とともに、胸腺は縮小し、脂肪に富んだものになる。骨髄由来で胸腺を通過するリンパ球はTリンパ球に成熟する。胸腺の小葉は、サイモシン(チモシン、ん、複数形じゃん→サイモシン類)と呼ばれるホルモンを分泌する上皮細胞で表面をおおわれている。サイモシンは小葉内に閉じ込められたリンパ球の分化に関与している。胸腺から分泌されるホルモンは、通常、胸腺内部で働くのだが、そういったホルモンをAIDSや癌の患者に注入してTリンパ球の機能を増強する目的で用いるという希望がある。

Nontraditional Sources 非古典的発生源

 内分泌腺とは通常考えられていない器官が、実際にはホルモンを分泌しているのである。既に心臓が心房性ナトリウム利尿ホルモンを産生することについて述べた。胃や小腸が消化管分泌を調節するペプチドホルモンを分泌することについて述べた。ホルモンを産生する別の種類の組織が沢山存在する。

Leptin レプチン

 Leptin レプチンは脂肪組織から放出されるタンパクホルモンで、視床下部に働いて飽満感のシグナルが発せられる。飽満感とは、十分に食べたと感じることである。奇妙なことに、肥満者の血液にはレプチンが豊富に含まれているのである。肥満者が産生するレプチンは遺伝的変異が原因で効果がないとか、視床下部細胞に見合っただけの適度な数のレプチン受容体がないという原因の可能性が存在する。

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Growth Factors 成長因子

 いくつもの異なった型の器官や細胞がペプチド成長因子を産生する。成長因子は細胞分裂の刺激となる。成長因子は、その因子に対する特異的な受容体をもった型の細胞に働くという点でホルモンに似ている。リンホカインのように血中に放出されるものもあれば、近傍の細胞に拡散するものもある。特に興味深い成長因子としては、以下のようなものがある。
・顆粒球マクロファージコロニー形成因子(GM-CSF)Fは多くの異なった組織から分泌される。GM-CSFは共通幹細胞に働いて、濃度が低ければ顆粒球、濃度が高ければマクロファージを形成させる。
・血小板由来増殖因子は、血小板から放出され、他の多くの型の細胞に働く。創傷治癒に役立ったり、線維芽細胞、平滑筋細胞、神経系のある種の細胞の増殖をおこさせる。
・表皮成長因子と神経成長因子は、他の多くの場合と同様に因子の示す名前の細胞に働く。これらの成長因子は創傷治癒にも重要である。
・腫瘍血管増生因子は、毛細血管網の形成を刺激し、腫瘍細胞から放出される。癌の治療法の一つとして、この成長因子の働きを抑制することがある。
Prostaglandins プロスタグランジン

 プロスタグランジン(PG)は作用する場所で産生される。PGは多くの異なった型の組織で産生されて放出される。子宮では、プロスタグランジンの働きで筋が収縮する。すると、痛覚が生じたり、女性によっては月経困難が生じたりする。また、プロスタグランジンは、脳の体温調節中枢のセットポイントを変化させると考えられている発熱物質の作用を仲介する。アスピリンはプロスタグランジンに作用して、体温を下げたり痛覚をコントロール(軽減)させる。
 プロスタグランジンの中には、胃の分泌を減らすものがあり、消化性潰瘍の治療に用いられる。血圧を下げるものもあり、高血圧の治療に用いられる。血小板の凝固を抑制するものもあり、血栓症の治療に用いられる。しかしながら、異なったプロスタグランジンどうしで反対の作用をもつものがあり、その用い方をうまく規格化するのは難しい。それ故、プロスタグランジン治療は実験段階である。

伝統的に内分泌腺と考えられていた以外の多くの組織がホルモンを産生する。その中には、血流に入るものや、局所のみで働くものもある。



14.7 Homeostasis 恒常性

 視床下部は脳の一部であり、恒常性の維持に最も関与しており、また内分泌系の調節にも関与している。ホルモンが血液や組織液の成分や特性に影響を及ぼすのは情報である。組織液というのは、勿論、細胞の内部環境のことである。血液の浸透圧が正常より上昇すれば、組織液は減少し細胞は脱水状態になる。反対に、血液の浸透圧が正常より低下すれば、組織液が多く集まり浮腫になる。数種類のホルモンの働きで塩類/水分バランスと循環血液量を正常域に保っている。アルドステロンはナトリウムの再吸収を促進し、抗利尿ホルモンは水分の再吸収を促進する。心房ナトリウム利尿ホルモンはナトリウムの分泌を促進し、水分が受動的に従い、浸透圧は定常に保たれる。
 自律神経系への作用として、視床下部はエピネフリンとノルエピネフリンの分泌を交感神経終末と副腎髄質を用いてコントロールしている。エピネフリンとノルエピネフリンの働きにより、身体は戦うか逃げるかの危機状況への対応を選択している。ストレス反応は、副腎皮質から分泌されるコルチゾールにより維持されている。コルチゾールにより、身体は闘争状態でのあらゆる傷害に耐え、奮闘しつづけるために血中グルコース濃度を高い状態に保ち続けている。
 血中カルシウムイオンの濃度は重要である、というのもこのイオンの神経伝導と筋収縮で重要な働きをしているからである。知ってのとうり、骨はカルシウムの貯蔵場所である。血中カルシウム濃度が低下すれば、副甲状腺ホルモンは骨の破壊と、腎臓と消化管からのカルシウムの再吸収を促進する。副甲状腺ホルモンの作用と反対に、甲状腺から分泌されるカルシトニンは、骨へのカルシウムの沈着をもたらす。
 細胞は、通常グルコースを分解し、実際、脳はATPの供給源としてグルコースのみを用いることができる。細胞はATPの継続的な供給がなければ機能することはできない。食事の直後では、インスリンは細胞のグルコース取り込みと肝臓や筋でのグリコーゲンのかたちでのグルコースの貯蔵を促進する。食間では、グルカゴンの働きにより、肝臓でグリコーゲンからグルコースへの分解がおこり、血中グルコース濃度は定常に保たれる。
 一旦、どのくらいの腺、器官、組織がホルモンを産生するか知れば、次の頁に示したように、ホルモンが身体が効率よく生産的に働き続けるのに役立っているかを理解するきっかけとなる。

ホルモンは内部環境の調節に密接に関わっている。



Chapter 14, Endocrine System