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Chapter 8

Respiratory System 呼吸器系

Chapter Concepts この章のコンセプト

8.1 Respiratory Tract 気道
8.2 Mechanism of Breathing 呼吸の仕組み
8.3 Gas Exchanges in the Body 身体のガス交換
8.4 Respiration and Health 呼吸と健康
8.5 Homeostasis 恒常性

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 かつて、Henry Heimlich 医師は多くの人が考えているのと同様に、食物や他の物質をのどにつまらせて死亡することは滅多にないことだと思っていた。が、窒息は米国の事故死の中で第六位の主要な死因であることに気付いた。一日に20人以上の人が窒息で死亡しているのだ。多くの子供が玩具や膨らませようとして破裂した風船の断片で窒息する。
 Heimlich 医師は、研究を開始した。迅速な行動が必要である。何故なら、呼吸の停止は、ちょうど四分以内のうちに障害や死を招くからである。背中の叩打(こうだ)は意味をなさない、何故なら、叩打することによって閉塞している物体を、上方へ移動させて気道から核出させる代わりに、下方(奥)へと移動させて狭い気道を完全に閉塞(ブロック)させてしまうからである。Heimlich 医師は、どうすればよいかを発見した。握りこぶしを作って、別の手で掴んで、力を込めて横隔膜の上で上向に力を込めて押し込むのである。誰か他の人が後ろにいれば助けになるが、一人だけでもできる。肺から出る空気によって物体はそのつど押し出される。この手順は簡単に実行できる。写真の男性は恋人を今日ではハイムリッチ操作と呼ばれている手技で助けている。
 気道と食道は咽頭で交差し、そのことが原因で食事と会話が同時にできない。食物は間違った経路に入り、気管に入り込むことがある。気道は繰り返し分岐し、径は次々に細くなり、最終的に肺胞と呼ばれる小さな気嚢になる。(page 166)肺胞に至ってガス交換がおこなわれる。食物は体内に貯蔵されるが、酸素はそうでない。そこで、身体に酸素を取り込むために呼吸をしつづけなければならない。酸素は血液内で輸送されて、全ての細胞に運ばれ、その細胞で細胞呼吸が行われる。細胞呼吸は、細胞内の共通のエネルギー担体であるATPの形でエネルギー産生を行う過程(プロセス)である。二酸化炭素は細胞呼吸の最終産物であるが、酸素とは逆向きの流れで移動する。血液は二酸化炭素を組織から呼出される場所である肺へと運ぶ。酸素と二酸化炭素が血液中を輸送される方法は興味深い。赤血球と呼吸色素のヘモグロビンが両者(O2とCO2)に関して重要な役割を果たしている。
 普通に思いつくとうり、呼吸運動は脳によって支配されている。脳により肋骨の檻(おり)は自動的に上下運動を行う。呼吸運動を行う割合は調節を受けることがある。特に、血中の二酸化炭素の量によって調節を受ける。また、吸い込む空気の量と吐き出す空気の量は随意的に調節できる。恒常性は、通常、自己調節機構によって保たれているが、意識して空気の需要を見積もって呼吸の深さを上昇させることも可能である。

Figure 8.1 The Heimlich maneuver
 若い男性は恋人がキャンディーで窒息しそうになっているのを、ハイムリッチ操作で助ける手順を示している。



8.1 Respiratory Tract 気道

 吸息(inspiration≒inhalation)と呼息(expiration≒exhalation)の間、空気はFigure 8.2 に示したような一連の腔や管や開口部を通って肺へ入ったり肺から出たりする。
 空気が気道に沿って流れると、フィルター作用を受け(異物が除去され)、(体温で)暖められ、湿気が与えられる。フィルタリングは、外鼻孔の粗毛や線毛(単数はcilium)や粘液、鼻腔の他の部分や下気道の線毛単独等によって行われる。鼻では、毛や線毛はスクリーニング・フィルター装置のような働きをする。気管やその他の気道では、線毛は上向きに拍動し、1. 粘液 や 2. 埃や 3. たまたま「道を間違えて下に向かって」溜まったものが嚥下されるか吐き出されるかの場所である咽頭に入り込んだ食物のかけら を運び出す。空気は、気管上皮の表面付近を走行する血管によって放出される熱により暖められて、気道の経路の湿った表面により湿気を与えられる。
 逆に、空気は呼息の間は外に向かって流れ、冷たくなって湿気を失う。空気が冷えると、持っていた湿気を気管や鼻(鼻腔?)を被う上皮に落とし、その湿気が濃縮されて鼻が濡れることがある。空気は依然として湿気を保っていて、寒い日に呼息をすると息の湿気が濃縮して小さな雲のように(吐く息が白く)なる。

空気は鼻から肺へと移動する間に、濾過(フィルタリング)されて、暖められて、湿気を帯びる。

蝋燭を見つめるスーザン(仮名)
Figure 8.2 The respiratory tract. 気道


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Figure 8.3 The upper respiratory tract. 上気道
上気道は鼻腔、咽頭、喉頭からなる。
Table 8.1 Path of Air 空気の経路
Structure
構造
Description
説明
Function
機能
Nasal cavities 鼻腔
Pharynx 咽頭
Glottis 声門
Larynx 喉頭
Trachea 気管
Bronchi 気管支
Bronchioles 細気管支
Lungs 肺(肺野≒肺胞全体)
The Nose 鼻

 鼻には二つの鼻腔がある。鼻腔は狭い管で、二つの鼻腔は互いに骨と軟骨でできている中隔(鼻中隔)で隔てられている。狭い鼻腔上部の陥凹には、特殊な線毛の生えた細胞は嗅覚受容器として働く。神経は嗅覚細胞から脳へと伝わり、脳に於て嗅覚受容器から得た活動電位は嗅覚として解釈される。
 涙腺は涙液を涙管(鼻涙管)を通じて鼻腔へと排出する。このことが原因で、泣くと鼻水が出るのである。鼻腔は、副鼻腔とも交通している。副鼻腔は頭蓋骨内の粘膜に被われた空気が満たされた空間である。風邪やアレルギー反応が原因の炎症がおきると、副鼻腔へと通じる管が閉塞し、粘液が蓄積して洞性頭痛(副鼻腔性頭痛?)の原因となる。
 鼻腔は咽頭の上部である鼻咽頭へと注ぐ。耳管は鼻咽頭から中耳へと続いている。

鼻腔は空気を受け入れ、鼻咽頭へと開口する。

The Pharynx 咽頭

 咽頭は、漏斗状の経路で、鼻腔と口腔を喉頭へと繋ぐ。それ故、通常は「のど」のことをさす咽頭は三つの部分を持つ。つまり、1. 鼻腔が軟口蓋の上に開口する鼻咽頭、2. 口腔が開口する口腔咽頭(部)、3. 喉頭に開口する咽頭喉頭(部)である。扁桃は、口腔と咽頭の接合部で防御リングを形成している。扁桃はリンパ組織なので、吸入した外来の物質から身体を守るリンパ球を含んでいる。扁桃はB細胞とT細胞を、内部の組織や液体成分に侵入するであろう抗原に対して、反応できるように準備させる働きもしている。この働きで、気道は恒常性の中では免疫系としての役割も果たしている。
 咽頭では、空気の通る経路と食物の通る経路が交差する。それは、空気を受け取る喉頭が食道の腹側にあるからである。喉頭は気管の上に位置する。喉頭と気管は通常は開いていて空気が通れるようになっているが、食道は通常は閉じていて嚥下するときにのみ開く。

鼻と口からの空気は食物と同様に咽頭に入る。空気の通る経路は喉頭、気管へと続く。
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Figure 8.4 Placement of the vocal cords. 声帯の配置

The Larynx 喉頭

 喉頭は、先端であるアダムの林檎が頚(くび)前面に位置するような三角形の箱のように図示することができる。アダムの林檎は男性のほうが女性よりもより隆起している。喉頭の最上部では様々に大きさが変化できる声門と呼ばれる開口部がある。食物が嚥下されると、喉頭は上向きに喉頭蓋に向かって移動する。喉頭蓋は食物が喉頭に入らないように防ぐ組織の弁である。喉頭蓋の動きは手を穏やかに喉頭の上に置き、嚥下することで触知することができる。
 喉頭は、声帯を内部に持つことからvoice box(研究社の辞典には 喉頭 の口語表現として記載)と呼ばれる。声帯は、粘液を帯びた襞(ひだ)で、声門を横切って張っている弾性を持った靭体に支持されている。空気が声門を通過すると、声帯は振動し、音を発生する。思春期の時期に喉頭と声帯の発育は、男性のほうが女性よりも急速で顕著になり、男性の方がアダムの林檎の隆起が強くなって太い声を生じるようになる。若い男性では、声が「壊れる」ようになり、それは長くなった声帯をコントロールできないからである。声の変化は、男性の声を低いピッチ(調子)のものにする。
 声のピッチが高いか低いかは、話したり歌ったりする際に声帯の張力を変化させることで調節されている。声帯の張力が強ければ、声門は狭くなれば、声のピッチは高くなる。声門が広がれば、声のピッチは低くなる。声の大きさ(loudness/intensity)は、振動の振幅によって変わる。つまり、声帯が振動する程度によって変化するのである。
The Trachea 気管

 気管は、一般には windpipe(やはり気管)と呼ばれ、喉頭と主気管支を繋いでいる管である。気管は食道の腹側に位置し、C字型の軟骨輪によって開いた状態にされている。C字型のリングの開口部は食道に面していて、このことによって嚥下の時に食道が開くようになっている。気管を被う粘膜は一層の多列線毛上皮をもっている。(pseudostratified(偽重層→日本語では多列)の意味は、上皮は一見重層であるかのように見えるが、実際には全ての細胞が基底膜に接しているという意味。(Chapter3で既出)) 上皮に突出する線毛により粘液とデブリスを咽頭へ向けて掃き出すことによって肺は清潔に保たれている。喫煙により線毛が破壊され、続いてタバコ煙のすすにが肺に沈着することが知られている。喫煙については章末でより詳しく述べている。



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The Bronchial Tree 気管支とその枝

 気管は右主気管支と左主気管支に分岐して、それぞれ右肺と左肺に向かう。(bronchiの単数形はbronchus) 主気管支は、多数の二次気管支に分岐して徐々に細気管支になる。気管支の構造は気管の構造と類似しているが、気管支が分岐を繰り返していくにしたがって、その壁は薄くなり、小さな軟骨の輪は付随しなくなる。喘息の発作の際、細気管支の平滑筋の壁は収縮し、細気管支の収縮と特徴的な喘鳴が発生する。細気管支のそれぞれは最終的に多数の肺胞と呼ばれる空気のポケット或いは気嚢に被われた伸展した空間に辿り着く。肺胞は肺を構成する。

The Lungs 肺

 肺は胸腔内に存在する二つの錐体形の臓器である。右肺は上中下の三つの葉(よう)をもっている。左肺は上下の二つの葉をもっていて、体の左側にある心臓の場所を空けている。肺の葉は更に小葉に分けられる。小葉のそれぞれには細気管支が張り巡らされていて多くの肺胞を養っている。左右の肺は胸腔内で心臓の両側に位置する。両肺の基部(底面)は、幅広で凹んでいて、凸状の表面をもつ横隔膜にフィットする。肺の別の表面は、胸腔内で肋骨と横隔膜の作る曲面をなぞっている。


The Alveoli 肺胞(単数形: alveolus)

 肺胞嚢のそれぞれは単層扁平上皮が毛細血管で取り囲まれたものでできている。ガス交換は、肺胞内の空気 と 毛細血管内の血液 の間でおこる。酸素は肺胞壁から浸潤して血流に入り、一方で二酸化炭素は血流から浸潤して肺胞壁を通って胚胞へ拡散する。
 ヒトの肺の肺胞は表面をサーファクタントで被われている。サーファクタントはリポプロテインのフィルムで、表面張力を下げて肺胞が閉じないようにしている。新生児、とりわけ未熟児の肺は、このサーファクタントのフィルムを欠いている(サーファクタントが十分に分泌されていない)のが原因で、肺が潰れることがある。この状態を新生児呼吸窮迫症候群といい、現在ではサーファクタント交換(補充)療法によって治療されている。
 (ヒトの肺には)おおよそ3億個もの肺胞があり、全体の断面積(表面積)は、50〜70m2になる。この広さは、典型的な教室の広さであり、皮膚の表面積の少なくとも40倍の広さである。空気の入った多くの部分の空間があるので、肺は軽い。通常、肺の組織のひとかけを水の入ったグラスに落とすと浮く。

気管は主気管支に分岐し、主気管支は分岐を繰り返して細気管支を構成する。細気管支は多くの枝を持ち、肺(野)を構成する肺胞で終末に達する。




Figure 8.5 Gas exchange in the lungs. 肺に於けるガス交換


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Figure 8.6 Vital capacity. 肺活量

8.2 Mechanism of Breathing 呼吸の仕組み

 呼吸という用語の意味は、好気的細胞呼のための酸素の供給の過程と、前者とは逆に細胞から放出された二酸化炭素を身体から取り除く過程の全体を指す。呼吸には以下の構成要素がある。

1. 呼吸(運動): 吸息(肺へ空気を入れる)と呼息(肺から空気を出す)。
2. 外呼吸: 肺における、空気と血液の間の、酸素(O2)と二酸化炭素(CO2)のガス交換。
3. 内呼吸: 血液と組織液の間の、酸素(O2)と二酸化炭素(CO2)のガス交換。
4. 細胞呼吸: 細胞内でのATPの産生。


Respiratory Volumes 呼吸量

 息をすると、(普通の)呼吸の度毎に流入する空気の量と流出する空気の量は一回換気量(TV)と呼ばれる。通常、一回換気量は約500mlであるが、呼吸を深くすることで吸って吐く量を多くすることができる。一回の呼吸の間に出し入れできる最大の空気の量は、肺活量(VC)と呼ばれる。先ず、強制換気(一生懸命する呼吸)により、3,100ml程の空気を多く吸息できるようになる。この量を予備吸気量(IRV)という。
 しかし、吸気のうちの幾らかは肺野に到達しないで、替わりに鼻、気管、気管支、細気管支を満たす。この部分はガス交換には関与しておらず、死腔の空気が入っていると言われている。吸気を肺野に多く到達させるには、ゆっくりと深く呼吸すればよい。同様に、腹部と胸郭の筋を強く収縮させることで呼息を増やすことができる。この量を予備呼気量(ERV)と言い、大凡1,400mlの量の空気である。肺活量(VC)は、一回換気量、予備吸気量、予備呼気量を合計したものである。(VC=TV+IRV+ERV)
 Figure 8.6 で注目したいのは、努力して深く行った呼吸の後に(つまり最大限の呼息の後に)、幾分か(約1,000ml)の空気が肺に残っているということである。この残っている量の事を残気量(RV)という。残気量の空気はガス交換目的には使うことができない。肺疾患のうちの幾つかのもの、例えば肺気腫、では、患者が肺を空虚にすることが困難であるため残気量が上昇する。このことは、肺活量が減少し肺には無駄な空気がより多く存在するようになることを意味している。

ガス交換に用いられる空気は 1. 気道の死腔 と 2. 肺の残気量 を除いたものである。

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Ecology Focus

Photochemical Smog Can Kill 光化学スモッグは殺人スモッグになりうる。

skip



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Inspiration and Expiration 吸息と呼息(=呼吸)

 空気が肺に出入りする現象である換気を理解するには、第一に連続した空気の列が咽頭から肺野の肺胞まで続いているのだということを記憶している必要がある。
 第二に、肺は封印された胸腔内にある事を記憶したい。肋骨郭は胸腔の頂上と側面を形成している。肋骨郭は、1. 背部で脊柱と前面で胸骨と蝶番(ちょうつがい)を形成している肋骨 と、2. 肋骨の間に張っている肋間筋 からなる。横隔膜はドーム状の筋と結合組織でできた水平なシートで、胸腔の底(床)面を形成している。
 肺は、胸膜と呼ばれる二枚の膜に包まれている。胸膜の感染は、胸膜炎と呼ばれる。壁側胸膜は肋骨郭と横隔膜に付着していて、臓側胸膜は肺に付いている。二つの胸膜の層は互いに密着していて、少量の液体のみが間に存在する。通常、胸膜間圧(胸膜の間の圧≒縦隔圧)は環境圧よりも4mmHg低い。
 低い胸膜間圧の重要性は、人為的な操作や事故(cf. 気胸)が原因で空気が胸腔内に入ったときにわかる。圧の低下した部位の肺は潰れる。

胸膜は肺を被い、胸腔を裏打ちしている。胸膜間圧は環境圧(気圧)よりも低い(陰圧である)。



Inspiration 吸息

 呼吸中枢は脳の延髄に位置する。呼吸中枢は、ニューロンの集合であり、自動的で律動的な電位を発して吸息を刺激する。二酸化炭素と水素イオンは、呼吸中枢の活動性を直接刺激する主要な刺激となるる。呼吸中枢は低酸素濃度の影響は受けない。頚動脈の頚動脈小体と、大動脈の大動脈小体に存在する化学受容体は、血中の 1. 水素イオン濃度と二酸化炭素濃度の上昇 と 2.酸素濃度の低下 を検出する。水素イオンと二酸化炭素濃度の上昇がおこると、化学受容体を持つ小体は呼吸中枢と連絡し、呼吸の回数と深さが上昇する。
 呼吸中枢は、神経を通じて刺激を横隔膜と肋間筋へと送り出す。弛緩した状態では、横隔膜はドーム状であるが、刺激が伝わると、横隔膜は収縮して低下する。外肋間筋も収縮して、胸郭は上外側へ向かって偏移する。このとき、胸腔の容積は増大していて、肺は拡張している。肺が拡張すると、広がった肺胞内の圧は低下し、口や鼻から空気が流入する。
 吸息は、呼吸の中では活発な相である。吸息相では、横隔膜と肋間筋は収縮して胸腔内圧は低下し、肺は拡張し、空気が急速に流入する。空気が流入するのは、肺が既に開いているからであり、空気が肺を押し広げるのではないことを覚えておきたい。このことは、陰圧によるヒトの呼吸と言われることがある原因である。肺胞での部分的な吸引があれば、空気は肺へ流入するようになる。

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Expiration 呼息

 呼吸中枢が神経電位を横隔膜と肋骨郭へと送るのを停止すると、横隔膜は弛緩して元のドーム状の形状に戻る。腹腔内臓器は横隔膜を押すように上昇し、肋骨郭は下方内側へと偏移する。この時、弾性をもっている肺は元に戻り、空気は押し出される。呼吸中枢は律動的に、通常の呼吸数と呼吸量の呼吸が行われるように働く。もしも、普通よりも多く吸息するようになれば、肺はぱんぱんに拡がって肺胞は引き伸ばされてしまう。そうなると肺胞壁の伸展受容器が刺激され、抑制性の活動電位が発生して、膨らんだ肺から呼吸中枢へと伝わる。すると、呼吸中枢は、呼吸刺激の電位を送るのを止めるようになる。
 吸息が呼吸の中では活発な相であるのに対し、呼息は通常は受動的な相である。横隔膜と外肋間筋は弛緩し、呼息が発生する。呼吸が深くなったり急速になると、呼息もは活動的になる。内肋間筋の収縮により、肋骨郭が下方外側へと偏移する。また、腹壁の筋が収縮すると、内臓が押し上げられ、そのことによって横隔膜が押し上げられて胸腔内圧が上昇するので空気の排出に有利に働く。

吸息の間、神経刺激によって横隔膜は下降し、肋骨郭は上向き外方に偏移する。
呼息の間、神経刺激がないので横隔膜は上昇し、肋骨郭は下向きに偏移する。

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8.3 Gas Exchanges in the Body 身体のガス交換

 Figure 8.9 には、外呼吸と内呼吸の両方が示してある。呼吸活動は空気中の酸素を肺へと運び、肺の二酸化炭素を体外へと排出する。恒常性は内部環境の平衡であり、呼吸という言葉には肺でのガス交換だけでなく、組織でのガス交換も含まれる。拡散の原理は、肺や組織の血液に流入出するのが酸素化二酸化炭素であるかによってのみ支配されている。

External Respiration 外呼吸

 外呼吸は 肺胞の空気 と 肺毛細血管内の血液 の間のガス交換である。ガスにより圧が産生され、それぞれのガス及ぼす圧の量は分圧であり、PO2やPCO2のように表記される。肺毛細血管を流れる血液は、体外の空気に比べて 高い PCO2を持っている。それ故、CO2は血液から肺へ向かって拡散する。大部分のCO2は重炭酸イオン(HCO3-)の形で運ばれる。少量の遊離CO2が拡散し始めると、以下の反応式が右向きへ向かって進行する。

H+ + HCO3- H2CO3 H2O + CO2
水素
イオン
+ 重炭酸
イオン
炭酸 + 二酸化炭素↑
上向の矢印は二酸化炭素が身体から離れることを示している。

 酵素である炭酸脱水素酵素(カルボニックアンヒドラーゼ)は、赤血球中に存在し、この反応を促進する。反応が進むと、やはり赤血球中に存在する呼吸色素であるヘモグロビンが持っている水素イオン(H+)を切り離す。つまり、HHbがHbになるのである。Hbはデオキシヘモグロビンと呼ばれる。
 酸素の場合は逆の圧のパターンである。肺毛細血管を流れる血液の酸素濃度は低く、肺胞の方が酸素分圧が高い。それ故、O2は血液や肺の赤血球に浸潤する。ヘモグロビンは酸素を取り込んで酸化ヘモグロビンになる。

Hb + ↓O2 HbO2
デオキシ
ヘモグロビン
+ 酸素 オキシ
ヘモグロビン
下向の矢印は、酸素が身体に入ることを示している。

Internal Respiration 内呼吸

 内呼吸は 体循環の毛細血管の血液 と 組織液 の間のガス交換である。体循環の毛細血管に入る血液は、赤血球がオキシヘモグロビンを含んでいるため明るい赤色である。オキシヘモグロビンは酸素を解離し、血液から離れて赤血球や組織に入る。???

HbO2 Hb + O2
オキシ
ヘモグロビン
デオキシ
ヘモグロビン
+ 酸素

 酸素は、組織液のPO2が血液のPO2よりも低いため、血液から出て組織に入る。組織のPO2が低いのは、細胞が絶え間なく好気的細胞呼吸を行って酸素を消費しているからである。二酸化炭素は、組織液のPCO2が血液のPCO2よりも高いため、組織から血液へ拡散する。二酸化炭素は、絶え間なく細胞によって産生され、組織液に集まる。
 CO2は血液に拡散した後、赤血球に入り、そこで少量がヘモグロビンに取り込まれ、カルバミノヘモグロビンを形成する。大部分のCO2は水と結合し、炭酸を形成する。炭酸は水素イオン(H+)と重炭酸イオン(HCO3-)に解離する。血中のCO2濃度の上昇により以下の反応は右向きへ進む。

carbonic
anhydrase
CO2 + H2O
H2CO3
H+ + HCO3-
二酸化炭素 +
炭酸
水素イオン + 重炭酸イオン

 カーボニックアンヒドラーゼは、赤血球中に存在し、反応全体の最初の部分速度を促進する。重炭酸イオンは赤血球から出て、血漿中を運ばれる。毛細血管から出た血液は、赤血球に(オキシ)ヘモグロビンが少ないため暗紫色である。ヘモグロビンのグロビン部分は反応全体で産生される過剰な水素イオンと結合し、HbからHHbになり、還元ヘモグロビンと呼ばれようになる。

外呼吸 と 内呼吸 は、それぞれ 血液と肺胞の間のガスの動き と 血液と体循環の毛細血管の間のガスの動き である。どちらの過程も拡散が機序である。

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Binding Capacity of Hemoglobin ヘモグロビンの結合能

 ヘモグロビンの結合能は、分圧の影響を受ける。肺胞に入る空気のPO2は、約100mmHgで、この圧により血中のヘモグロビンは酸素で飽和する。このことは、ヘモグロビン分子の中の鉄がO2と結合するということである。他方で、組織のPO2は約40mmHgであり、ヘモグロビン分子からO2を解離し、O2を組織に拡散させる原因となっている。
 O2分圧に加えて、温度(体温)やpHもヘモグロビンの酸素運搬能に影響を及ぼす。肺は組織と比べて、低い温度と高いpHをもっている。

pH Temperature 温度
Lung 肺 7.40 37℃
Tissues 組織 7.38 38℃

 Figure 8.10a と 8.10b のどちらも、予測どうりに、ヘモグロビンが組織よりも肺に於いてO2を飽和していることを示している。PO2の違いに起因するこの効果は、肺と組織の温度やpHの違いによって増強される。Figure 8.10aに於て、ヘモグロビンの酸素飽和度曲線は20℃の時と比べて10℃の時の方が勾配が急であるというようなことに注目したい。同様に、Figure 8.10bに於ても、ヘモグロビンの酸素解離曲線が低いpHよりも高いpHでより勾配が急であることがわかる。
 このことは、肺内の環境がヘモグロビンの酸素取り入れに適していて、組織の環境がヘモグロビンからの酸素の放出に適しているということを意味している。ヘモグロビンは、肺毛細血管に於ては98〜100%の酸素飽和度で、組織に於いては60〜70%の酸素飽和度である。運動時には、ヘモグロビンは組織に於いてより低い酸素飽和度である。というのも、筋収縮により体温が上がり(マラソン時には、103゜F ≒ 39.44℃)、pHが低下する(乳酸の産生が原因)からである。

肺と組織のPO2や温度やpHの違いは、ヘモグロビンの肺での酸素の取り込みと組織での酸素の放出に影響を及ぼす。



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8.4 Respiration and Health 呼吸と健康

 気道は常に周囲の環境の空気に曝(さら)されている。171ページの Ecology reading で述べたような '空気の質' は健康に影響を及ぼす。疾患の存在は、恒常性が脅かされているということであり、疾患のコントロールができなければ死に至るのである。

Upper Respiratory Tract Infection 上気道感染

 上気道は、鼻、咽頭、喉頭からなる。上気道感染は鼻腔から副鼻腔や中耳や喉頭へと波及する。ウィルス感染は、時に二次性細菌感染を惹き起こす。'strep throat(ストレプスロート)' と呼ぶ状態は、化膿連鎖球菌による感染が上気道全般の感染や全身の感染へと発展した状態である。抗生物質はウィルス性感染に対しては無効であるが、ストレプスロートを含む細菌感染の大部分には有効である。

Sinusitis 副鼻腔炎

 副鼻腔炎は副鼻腔の感染である。副鼻腔は顔面骨の内部に存在する腔であり、鼻腔に注ぐ。約1〜3%の上気道感染には副鼻腔炎が伴っている。副鼻腔炎は、鼻汁の欝滞(うったい)が副鼻腔へと続く小さな経路をブロックする際に発生する。後鼻漏や顔面痛といった症状は、患者が前かがみになると増悪する。痛みや圧痛は前頭下部や顎の辺りに通常発生する。後者の場合は、歯痛も伴う。治療の成功は、副鼻腔からの適切な排泄を回復できるかにかかっている。温浴シャワーや正立睡眠が有効な場合もある。さもなくば、うっ血除去薬のスプレーが、副鼻腔に溜まった物質を溶解させずに肥厚させる働きのある経口抗ヒスタミン薬よりも用いられる。

Figure 8.11 Upper respiratory infections. 上気道感染

Otitis Media 中耳炎

 中耳炎は中耳の細菌感染である。中耳は気道の一部ではないのにここで取り上げているのは、鼻感染のある小児にしばしば中耳炎が合併症として見られるからである。鼻の感染は、鼻咽頭から中耳へと通じる耳管を通じて波及する可能性がある。痛みは中耳疾患に最も多くみられる症候である。耳閉感、聴力低下、目眩(めまい)、発熱も症状としてみられる。抗生剤投与により完全に回復することが殆どであるが、新たな感染で再発することも多い(再発が多いという特徴)。ドレナージ管(ティンパノストミー・チューブ)を、再発を繰り返す小児の鼓膜に、中耳の滲出液が貯留することでおきる聴力の損失を防ぐ目的で設置することがある。通常、時間の経過とともにチューブは抜去される。

Tonsillitis 扁桃炎

 扁桃炎は扁桃が炎症をおこして肥大したときにおこる。扁桃はリンパ組織の塊で咽頭に存在する。鼻咽頭の後壁の扁桃は、しばしばアデノイドと呼ばれる。扁桃は咽頭に入る病原体の多くを除去する。それ故、扁桃は身体への侵入に対する第一の防衛ラインなのである。扁桃炎が頻繁におき、扁桃腺肥大により呼吸困難がおきるようであれば、外科的に扁桃腺摘出術を受けて扁桃腺をとることができる。今日では以前ほど扁桃腺摘除術は行われなくなった。それは、扁桃は生体を感染から守るのに重要な機能を果たしていることが知られているからである。


Laryngitis 喉頭炎

 喉頭炎は、聞き取れる大きさの声で話す事ができなくなる'嗄声(させい)'を伴った喉頭の感染である。通常、喉頭炎は上気道感染の治療と共に消失する。上気道感染を伴わない持続性の嗄声は、癌の危険信号の一つであり、内科医による診察を受けるべきである。


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Figure 8.12 Lower respiratory tract disorders. 下気道の疾患


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Lower Respiratory Tract Disorders 下気道疾患

 下気道疾患には、Figure 8.12 に示したように、感染症、拘束性肺疾患、閉塞性肺疾患、肺癌がある。

Lower Respiratory Infections 下気道感染症

 急性気管支炎、肺炎、結核は下気道の感染症である。急性気管支炎は、主気管支や二次気管支の感染症である。通常、ウィルス性のURI(訳注: おそらく、upper respiratory infection 上気道感染のこと)によって導入されることが多く、それが二次性の細菌感染の原因になる。多くの場合は、非増殖性の咳は、粘液や痰(たん)を喀出するものになっているはずである。
 肺炎は、ウィルスや細菌による肺の感染で、気管支や肺胞は濃い液体に満たされる。最も多くみられるのはインフルエンザによるものである。肺炎は、肺全体の感染というよりは、肺炎は肺の特定の小葉に限局する事が多い。感染する小葉が多ければそれだけ感染は重篤であるといえる。肺炎は、細菌が原因であることがあり、そういった細菌は通常の状態では防御されているのが身体がストレスを受けている状態であったり免疫能が低下している状態で優位に立つのである(不顕性感染)。AIDSの患者は、特に普通ではかからないようなニューモシスチス・カリニ原虫による肺炎にかかる。こういった肺炎は、健常な免疫系の人ではまずかかることはない。頭痛と胸痛を伴った高熱と悪寒が肺炎の症状である。
 肺結核は、細菌の一つである結核菌が原因である。よく希釈した結核菌の懸濁液を皮下に注射するスキンテストで結核菌に感作されたことがあるかどうかを判断することができる。結核菌と全く接したことのない人は何の反応も示さないが、結核菌に対する免疫を獲得した人は48時間をピークにした時間で炎症を示す発赤が皮膚に見られる。結核菌が肺の組織に侵入すると、細胞は異物に対する防御被膜を形成し、身体の別の部分と隔離する。この小さな被膜は結節と呼ばれる。身体の抵抗力が高ければ、閉じ込められた生物(結核菌)は死亡するのだが、抵抗力が低下していれば、生物はやがて隔離された状態で生かされてしまう。胸部X線で活動状態の結核を検出されれば、病気の局在化を防ぎ細菌を死滅させる目的で患者は適切な薬物治療を受ける。結核は今世紀前半までは合衆国の主要な死因であったが、抗生剤による治療が導入されてから治療成績は良くなった。最近、結核の発症率は上昇している。特にAIDS患者や、ホームレス、貧農で増加している。悪いことに、新しい種類の株は、従来の抗生剤治療に対して抵抗性である。それ故、内科医は患者を昔のように隔離病棟に送るようなことがでてきている。


Restrivtive Pulmonary Disorders 拘束性肺疾患

 拘束性肺疾患では、肺活量は減少するが、それは空気の肺への流出入が阻害されるからではなく、肺の弾性が減少するからである。シリカ、炭粉、アスベストそしておそらく繊維ガラスといった吸入物質が肺線維症の原因となる。肺線維症は、線維性の結合組織が肺に形成される疾患である。肺は適切に膨らまなくなり、常に収縮しようとするようになる。アスベストの吸入は癌の発育とも関連がある。アスベストは防火や絶縁物質として非常に広範に利用されているので、不当に暴露されるということがおこっている。概算で、2,000,000(2百万)人がアスベストの暴露が原因で死亡しているのではないかと考えられている。大部分の暴露は職場に於てである。1990年から2020年の間はそういう統計になるだろう。(既にアスベストは建材としてばらまかれている)


Obstructive Pulmonary Disorders 閉塞性肺疾患

 閉塞性肺疾患では、空気は気道を自由に流れることができず、最大吸気と最大呼気には時間がかかるようになる。しかしながら、肺活量は正常である。慢性気管支炎、肺気腫、気管支喘息を含んだ幾つかの疾患は、再発・再燃することから慢性閉塞性肺疾患(COPD)とされている。
 慢性気管支炎では、気道は炎症をおこし、粘液で満たされている。粘液を喀出する咳が共通して見られる。気管支は退行性の変性を受け、線毛が消失し、正常な浄化能がなくなる。そういった状態では、感染症にかかりやすくなる。タバコや葉巻の喫煙は慢性気管支炎に最も多くみられる原因である。他の汚染物質による暴露も慢性気管支炎の原因となる。
 肺気腫は、慢性の治癒不能な疾患で、肺胞は膨張して肺胞壁は障害を受け、ガス交換に利用できる肺胞表面積が減少する。肺気腫には、しばしば慢性気管支炎が先行する。肺にトラップされた空気は肺胞を障害し、胸郭は著明に膨大化する。肺の弾性は減少し、気道の狭小化だけでなく肺の喀出能も低下する。患者は呼吸困難になり咳をするようになる。ガス交換に関与する表面積が減少するため、心臓や脳へいく酸素の量が減少する。心臓は血液を猛烈な勢いで肺へと送り込み、心臓の仕事負荷が多くなる。脳への酸素供給の欠乏は、抑うつ気分、怠惰、過敏性といった感情をおこさせる。禁煙とともに、運動、薬物治療、酸素供給により症状を緩和し、肺気腫の病変の進行を遅らせることが可能になる。
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 気管支喘息は気管支と細気管支の病気で、ホィーズィング(喘鳴)、呼吸困難、しばしばみられる咳、粘液の喀出が特徴である。気道は、刺激物質に対して著しく過敏になる。刺激物質には、花粉、動物のフケ、埃(ほこり)、タバコの煙、工場のヒューム(粉塵)といった幅広いアレルゲンが含まれうる。寒気でさえ刺激要因となりうる。刺激物質に暴露されると、細気管支の平滑筋はスパスム(痙攣)をおこす。すると、スパスムにより細気管支の免疫細胞からケミカルメディエーターが遊離される。喘息患者の大部分はある程度の気管支の炎症をもっていて、気道の直径が減少し、喘息発作をより激しいものにしている。気管支喘息は、治癒することはできないが、(対症)治療することはできる。炎症を抑え、発作を予防する吸入剤があるが、発作をおこす筋のスパスムを抑える吸入剤もある。


LungCancer 肺癌

 肺癌は女性よりも男性に多いが、最近では女性の死因の中で肺癌による死は乳癌による死を上回っている。このことは、今日の女性喫煙者の増加とつながっている。喫煙者の病理解剖では、肺癌の最も多く見られる組織型の病変が進行していることがわかっている。最初の段階は、気道上皮を被う細胞の肥厚と癒合である(癒合は刺激物質に暴露されるときにおこる)。次に、線毛の消失がおこり、粉塵が肺に入るのを防ぐことができなくなる。その次に、癒合した細胞に不定形の核をもった細胞が現れる。異常な核をもった腫瘍は、上皮内癌であると考えられる。最終段階の病変は、腫瘍細胞の幾つかが解離し、他の組織に浸潤する転移の段階である。ここで癌は散布された。原発腫瘍は気管支が閉塞されて、肺への空気の流入が遮断されるまでに発育する。肺全体は虚脱し、肺の内部にトラップされた分泌物は感染し、肺炎や肺膿瘍(局所の膿)が結果として発生する。治癒の可能性を持った治療法は、肺葉切除や片肺切除を転移がおきる前に行うことである。この手術を肺切除(/摘除)術という。
 現在の研究では、非自発的喫煙、タバコの煙を含んだ空気を呼吸することもが肺癌やその他の喫煙と関連のある疾患を誘発することがわかっている。次のページのHealth readingでは、喫煙によっておこりやすくなる様々な病気を挙げている。自発的・非自発的な喫煙を停止するなら、体組織が既に癌性を帯びていないなら、時間とともに組織は回復するだろう。



Figure 8.13 Normal lung versus cancerous lung. 正常肺と癌患者の肺


(page 183)

8.5 Homeostasis 恒常性

 呼吸器系は恒常性に対して主に二つの手段で役に立っている。第一に、肺はガス交換を行っている。酸素は細胞呼吸に必要な分子で体に入る。二酸化炭素は細胞呼吸により排泄される老廃物で肺から体の外に出る。細胞呼吸によりATPが産生される。ATPは筋収縮や神経伝導を含んだ体内のあらゆる活動を行うための分子である。脳は体で消費される酸素の15〜20%を利用しているとされている。酸素の欠乏は、判断力を含んだ脳の機能を最初に障害することは驚くべきことではない。
 心血管系は酸素をハイカラ組織へ輸送し、二酸化炭素を組織から肺へと輸送する。前のページで、呼吸の動作が血液の心臓への返還を助けることを述べたが、そのことで二酸化炭素を肺へと輸送するのである。(Chaptet 6で詳述した。)
 第二に、呼吸器系は血液のpHのコントロールに関与している。組織では、赤血球内でのこの反応で、重炭酸イオンが産生され、血漿と肺の中で運ばれる

組織 組織
CO2 + H2O
H2CO3
H+ + HCO3-
二酸化炭素 +
炭酸
水素イオン + 重炭酸イオン

 肺では、反対の反応によって二酸化炭素が産生され、体の外に出る。反対の反応がおこると、[H+]は低下し、pHが上昇する。もしも、水素イオン濃度[H+]が正常域を越えれば、化学受容体を介して呼吸中枢が刺激されて、呼吸数が上昇する。
 前のページでは呼吸器系が免疫系を含んだ他の系とともに働く様子を示した。我々は、扁桃は抗原が感染の原因として体内に侵入する以前にT細胞が抗原提示される場所であることを知っている。この反応は抗原が血流に入る以前に体が防御体制を整えるのに役立っている。呼吸器系の恒常性への貢献は敢えて繰り返すまでもない。


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