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Chapter 6

Cardiovascular System 心血管系

Chapter Concepts この章のコンセプト

6.1 The Blood Vessels 血管

6.2 The Heart 心臓

6.3 Features of the Cardiovascular System 心血管系の特徴

6.4 The Vascular Pathways 血管の径路

6.5 Cardiovascular Disorders 心血管系の疾患

6.6 Homeostasis 恒常性



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Figure 6.1 Heart transplant operation 心臓移植術
 ブタの心臓をヒトの心臓移植に用いて安全になる日は来るのだろうか?ブタは遺伝子工学により、ヒトと免疫的に適合になっているが、ブタに特異的なウィルスが感染する可能性が存在する。


 6児の母親である50歳の Dolores Manning (ドローレス・メニング?)は、先天性心疾患をもっていた。彼女の心臓は効果的な拍動をすることが出来なかった。血液が血管に逆流し、液体が肺に貯留した。彼女は窒息する危険性をもっていた。利尿剤の服用は彼女の身体から余剰な血液を排出するのに役立ったが、それでも彼女は病的状態であった。ドローレスは心臓移植による治療を必要としていた。
 医者たちは、何時、心臓を入手できるかわからなかった。そこで、医者は臓器が提供されるまでの間はLVAD(左室補助装置)を彼女に装用した。この装置は、心臓の拍出機能の一部を分担する。そこで、心臓はそれほど激しく動く必要がなくなるのである。
 外科医は、手術をして皮下に造った腹腔の「ポケット」に装置を埋め込んだ。装置は小型の発電機により動作する。装置は非常に良く働き、彼女は運動することができるようになり、健康(フィットネス)を増進することが出来た。しかし、彼女は依然として最大限に機能する心臓をもっていないことで、窮屈さを感じていた。周囲の皆が、彼女の体全体の健康は移植した心臓の生着性の上昇次第であるといっていた。
 依然として問題があった。誰も心臓を何時入手できるかわからなかった。移植される心臓は免疫学的に適合でなければならず、適合でない場合は移植など考えられなかった。適合臓器が見付かるまで待っている間、ドローレスはある文献を目にした。その文献は、ヒトの組織と適合するように遺伝学的な変換を受けた組織をもつブタに関するものであった。その概念はいつの日かブタがヒトの臓器移植に用いられる臓器の提供源となるということを意味する。ドローレスは子供たちと共にすごす普通の生活を渇望していた、そこで、彼女は医者にブタの心臓を用いることは出来ないか訊ねた。(page 126)「現時点では実験の段階です。」と医者は言った。「(医者:)研究者の中には、ブタの組織をヒトに移植するとブタに特異的なウィルスを移してしまうのではないかと懸念している人がいます。」「私はチャンスを試したい。」、とドローレスは言った。
 ドローレスが知っているように、心臓は生命に必須の器官であり、心血管系の血液の動きを保っている。血液の循環は重要であり、心臓がたった数分間だけ停止することで死に至る。この章では、心血管系とその身体で血液が循環する仕組みについて紹介している。ヒトでは心臓の右側(右心系)は肺へ血液を拍出し、心臓の左側(左心系)は組織に血液を送り出す。血液はそのままでは流れない。そして、血液は右心と左心の二つの別々の血管回路内の血管によって組織と行ったり来たりすることができるのである。血管の型のうちで、毛細血管のみが組織と物質交換するのに十分なだけの薄さをもった壁をもっている。毛細血管での物質交換があることで組織液は入れ替わり、恒常性は保たれる。さもなければ、細胞は栄養の不足と老廃物の蓄積が原因で死亡してしまう。



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6.1 The Blood Vessels 血管

 心血管系には三つの型の血管がある。すなわち、心臓から毛細血管へ血液を送り出す動脈(と 小動脈/細動脈)、組織との物質交換を可能にしている毛細血管、毛細血管から心臓へと血液を戻す静脈(と 小静脈/細静脈)である。


The Arteries 動脈

 動脈壁は三層からなる。内側の層は内皮と呼ばれる単層扁平上皮であり、弾性線維を含んだ結合組織の基底膜が付随している。中層は最も厚い層であり、平滑筋を含んでいて、平滑筋が収縮して血流と血圧が調節される。外側の層は、中層付近では線維性結合組織であるが、外側の末端付近では組成結合組織に変化する。血管の中には径が大きいため、固有の血管を必要とするものがある。

Figure 6.2 Blood vessels.
 動脈と静脈の壁は三層からなる。内層は、大部分が内皮であり、内皮には弾性線維が付随している。中層は平滑筋組織である。外層は結合組織である。(大部分はコラーゲン線維) (訳注: 原文 inner → outer は自明)
a. 動脈は静脈よりも厚い壁をもつ。それは、動脈は静脈よりも大きな中層をもつからである。
b. 毛細血管壁は厚さが一層の内皮である。
c. 静脈の直径は動脈よりも大きい、そこで全体として静脈は動脈よりも多い量の血液を保有することが出来る。
d. 動脈と静脈の走査電子顕微鏡像


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 小動脈(細動脈)は小さな(径の細い)動脈で、裸眼でやっと見ることのできる程度の大きさである。小動脈の中層は幾分の弾性線維を含んでいるが大部分は平滑筋からなり、平滑筋線維は小動脈を取り巻いている。筋線維は収縮すると、血管は径が小さくなり(収縮し)、筋線維が弛緩すると、血管の径は大きくなる(弛緩する)。小動脈の収縮も弛緩も血圧に影響を及ぼす。弛緩した血管の数が多くなるほど、血圧は低くなる。


The Capillaries 毛細血管

 細動脈は分枝して毛細血管になる。毛細血管のそれぞれは非常に径が小さく、顕微鏡で見る太さの管で、基底膜をもち内皮細胞のみの一層の厚さの壁構造をもっている。毛細血管床(多くの毛細血管の網)は体のあらゆる部分に存在する。その結果、体のどの部分を切っても血が出る。(訳注: 角膜や、毛髪、爪には血管が入っていないという屁理屈は言わない。)毛細血管はヒトの心血管系の中で非常に重要な部分である。というのも、毛細血管の薄い壁を介して物質の交換がおこるからである。酸素や、ブドウ糖のような栄養は毛細血管から滲出し、細胞を取り巻く組織液に入る。二酸化炭素のような老廃物は毛細血管内へ滲出する。組織液が比較的一定に保たれているのは、毛細血管での物質交換が存在するからである。
 ある時間をとって調べてみると特定の毛細血管のみが開いてることがわかる。例えば、食事の後、消化器系を栄養する毛細血管は開き、筋肉を栄養している毛細血管は閉じている。毛細血管床が閉じていると、毛細血管の上流の(動脈側の)括約筋は収縮して、血液は細動脈から細静脈へと動静脈シャント(動静脈吻合(ふんごう))を通って流れる。
(訳注: シャントは医学の世界では日常的に用いられるカタカナ単語。)



The Veins 静脈

 細静脈は、小さな血管で毛細血管から血液を吸収し、細静脈どうしが結合して静脈を形成する。細静脈(と静脈)の壁は、動脈と同様に三層であるが、平滑筋と結合組織の量は動脈よりも少ない。静脈はしばしば弁をもち、開いている状態では血液が心臓の方向のみに向かい、閉じている状態では血液の逆流を防ぐようになっている。
 静脈の壁は薄いため、静脈は非常によく拡張する。どの瞬間でも、約70%の血液は静脈内に存在する。この仕組みにより、静脈は血液の貯蔵場所としての機能をもっている。

 動脈と細動脈は血液を心臓から受けて毛細血管へ送り出す。毛細血管は細動脈と細静脈をつなぐ。静脈と細静脈は毛細血管から心臓へ血液を送り返す。


Figure 6.3 Anatomy of a capillary bed. 毛細血管床の解剖
 毛細血管床は細動脈と細静脈の間に毛細血管の迷路を作る。括約筋が弛緩すると、毛細血管床は開き、血液は毛細血管を通って流れるようになる。血液は組織内部の毛細血管を通過すると、血は酸素(O2)を解離する。それ故、血液は酸素をより多く含んでいる細動脈(赤い色をしている)から、酸素をより少なく含んでいる静脈(青色をしている)へと流れる。





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Figure 6.4 External heart anatomy. 心臓の外面の解剖

a. 上大静脈と肺動脈(訳注: 二本に分岐していることから複数形であることに注目!)は心臓の右側に付随している。大動脈と左肺静脈は心臓の左側に付随している。右室は心臓の前面の大部分を占めている。左室は後面の大部分を占めている。

b. 冠動脈と心静脈は心筋全体に広がっている。冠動脈と心静脈は酸素と栄養を心臓の細胞に運び、血液を右房に戻す。



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6.2 The Heart 心臓

 心臓は、錐体状の(心尖部を先端としたコーンのような形をした)筋肉でできた臓器で、大きさは拳大(こぶしだい)ほどである。心臓は肺と肺の間、胸骨のすぐ裏側にあり、心尖部が左側を向くように傾いている。心臓の大部分は、ほとんどが心筋組織からなる心筋層と呼ばれる領域である。心筋層の筋線維は分枝していて、隣接する細胞どうしが密に結合している。心臓は心膜内に横たわっている。心膜は厚い膜でできた嚢状の構造で、少量の滑液(かつえき)を分泌する。心臓の内面は心内膜で被われている。心内膜は結合組織と内皮組織からなる。
 心臓の内部では中隔と呼ばれる構造により右心と左心に区分されている。心臓には四つの区画(心房/心室)がある。上方の二つの区画は、壁が薄い心房(単数形は atrium, 複数形は atria)であり、心耳と呼ばれる皺(しわ)のある突出した付随する構造をもっている。下方の二つの区画は厚い壁の心室であり、血液を拍出する。
 心臓は弁も四つ持っている。弁は血液の流れを支配し、逆流を防いでいる。心房と心室の間の二つの弁は房室弁と呼ばれる。房室弁は腱索(けんさく)と呼ばれる強靭な線維でできた弦(げん)で支持されている。腱索は心室壁の筋肉の突起に付随していて、弁を支持して心臓が収縮したときに弁が逆転するのを防いでいる。右心の房室弁は三つの弁もしくは先端を持つことから三尖弁と呼ばれている。左心の弁は二つの弁を持つことから二尖弁(または僧帽弁)と呼ばれている。残りの二つの弁は半月弁であり、その弁は半月に似た形状をしていて、心室と血管の間に存在する。肺半月弁(肺動脈弁)右室と肺動脈幹の間に位置する。大動脈半月弁(大動脈弁)は左室と大動脈の間に存在する。


 ヒトは四室心を持つ。(心房が二つと、心室が二つ)
 中隔は右心と左心を区分する。



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Figure 6.5 Internal view of the heart. 心臓の内部

a. 心臓には四つ弁がある。房室弁は心房から心室への血液の流れを支配し、半月弁は血液が心臓の外へ出る流れを支配する。
b. この心臓の図表により血液の経路がわかる。右心側は、大静脈、右房、右室、肺動脈があり肺へ拍出する。左心側には、肺静脈、左房、左室、大動脈があり全身へ拍出する。


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Passage of Blood Through the Heart 心臓を通る血液の経路

 以下のような手順で心臓を介した血液の経路を追跡することができる。

. 上大静脈と下大静脈が運んでいる血液は比較的酸素濃度が低くて、二酸化炭素濃度が高く、右房に流入する。
. 右房は血液を房室弁(三尖弁)を介して右室に血液を送り出す。
. 右室は血液を肺半月弁、肺動脈幹、二つの肺動脈を経て肺へ送り出す。
. 四本の肺静脈は比較的酸素濃度が高く二酸化炭素濃度の低い血液を左房に送る。
. 左房は血液を房室弁(二尖弁/僧帽弁)を介して左室に送る。
. 左室は血液を大動脈半月弁、大動脈を経て全身へ適切に送り出す。

 この記載から、酸素を解離した血液は酸素を結合した血液と混ざることはないこと、および血液は必ず肺を通って右心系から左心系へ移行することがわかる。実際、心臓は二つのポンプである。それは、右室は血液を送り出して肺に通すし、左室は体全体に血液を送り出すからである。左室は体全体に血液を送り出すというより負荷の高い仕事をする必要があるので、左室の壁の厚さは右室の壁の厚さよりも厚く、右室は血液を比較的距離の短い短い肺まで送り出す。


 心臓の右側(右心系)は肺へ血液を送り出す。
 心臓の左側(左心系)は体全体へ血液を送り出す。



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The Heartbeat 心拍

 心拍のそれぞれは心周期と呼ばれる。心臓が拍動すると、最初に二つの心房が同時に収縮し、次に二つの心室が同時に収縮する。次に全ての心室と心房が弛緩する。systole(収縮)という単語は心筋の収縮を意味し、diastole(拡張)という単語は心筋の拡張を意味する。心臓は一分間に約70回 収縮あるいは拍動し、それぞれの心拍は約0.85秒続く。

Time 時間Atria 心房Ventricles 心室
0.15 秒Systole 収縮Diastole 拡張
0.30 秒Diastole 拡張Systole 収縮
0.40 秒Diastole 拡張Diastole 拡張
sum0.85 秒

 健常な成人の静止時(安静時)の心拍数は一分間に60〜80回の間である。
 心臓が拍動すると、おなじみの ドックン♪(/ダッダッ♪/ドゥッドッ♪)(訳注: 英米人は lub-dup ラブ♪ダップ♪ と聴こえる)の音が発生する。持続時間が長くて低調な lub の音は、心室の収縮により房室弁(特に僧帽弁)が閉じて振動が起こることが原因で発生する。持続時間が短くて高調な dup の音は、動脈内の血液の逆流圧により半月弁が閉じる際に聴こえる。lub の音の後に続く 心雑音、あるいは 小さな slush音 は、しばしば弁の機能不全が原因で発生する。弁の機能不全により房室弁が閉じた後(なのに)、血液は心房に押し戻される。細菌感染が原因のリウマチ熱(疾患名)は、弁、特に二尖弁の欠陥の原因である可能性がある。欠陥弁は外科手術により補正される。

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Figure 6.6 Stages in the cardiac cycle. 心周期の各段階

a. 心房が収縮すると、心室は弛緩し血液で満たされる。
b. 心室が収縮すると、房室弁は閉じ、半月弁は開き、血液は肺動脈幹と大動脈に押し出される。
c. 心臓が弛緩すると、心房と心室に血液が満たされる。



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Intrinsic Control of Heartbeat 心拍の内部からのコントロール

 律動的な(リズミカルな)心房と心室の収縮は、心臓の内部の刺激伝導系により作られる。筋肉と神経の特徴を持った結節組織は、心臓の二つの領域に存在する特別な型の心筋である。S-A node(洞房結節)は右房の上壁に位置する。A-V node (房室結節)は右房の基部の中隔に隣接した領域に位置する。洞房結節は心拍を発生させ、自動的に興奮性活動電位を 0.85秒毎に送り出す。この活動電位により心房が収縮する。活動電位が房室結節に到達すると、わずかな電位の停止期間が生じる。この停止期間の存在により、心室が収縮する以前に心房が収縮を完了することができる。心室の収縮を指示する信号は房室結節から発生し、房室束の二本の枝を通り、多数の小さなプルキンエ線維に達する。房室束、房室束の枝、プルキンエ線維は、心室の正しい収縮をおこす特殊心筋線維でできている。
 洞房結節はペースメーカーと呼ばれる。それは、通常の状態で心拍を正しく保つからである。洞房結節が適切に機能するのに失敗すると、心臓は房室結節から発生する活動電位により拍動を続けることができる。しかし、その場合は心拍数は低下する(ゆっくりとしたものになる)。(一分間に40〜60拍) この状態を補正するために、人工ペースメーカーを埋め込むことが可能である。人工ペースメーカーは自動的に心臓に電気刺激を0.85秒毎に与える。


 心臓の内部の刺激伝導系には、S-A node(洞房結節)、A-V node (房室結節)、房室束、プルキンエ線維がある。



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Extrinsic Control of Heartbeat 心拍の外部からのコントロール

 身体は、心拍を外部から調節する機構を持っている。脳の一部分であり内臓の調節を司る延髄の心臓調節中枢は、神経系の一部の自律神経系により心臓の拍動を変化させることができる。自律神経系は二つの系に分けられる。副交感神経系は、休息状態に関連した機能を促進する。交感神経系は、活動性の亢進やストレス(負荷)と関連した反応をもたらす。副交感神経系は、我々が活動的でないときに洞房結節と房室結節の活動性を減少させる。交感神経系は、活動的であったり興奮しているときに洞房結節と房室結節の活動性を亢進させる。
 副腎の髄質から分泌されるホルモンのエピネフリンとノルエピネフリンも心臓を刺激する機能を持っている。例えば運動をする際、1.交感神経の刺激 と 2.エピネフリンとノルエピネフリンの放出 により心臓は速く強く拍動する。


 身体には外部から心拍数を調節する手段が具わって(そなわって)いる。自律神経系とホルモンにより心拍数を調節することができる。



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The Electrocardiogram 心電図

 心電図は心周期の間、心筋層に発生する電位の変化を記録したものである。体液は電流を伝導するのに必要な電解質(イオン)を含んでいる。そのため、心筋層内の電位の変化は皮膚の表面で検知することができる。心電図が記録される際、電極は皮膚の表面に配置されて電線で心筋層の電位変化を検知する機械に接続されている。心電図のペンは上下し、流れている巻紙の紙面に記録される。Figure 6.7 は通常の心周期の間のペンの運動を示している。
 洞房結節が活動電位を発生させると、心房の線維はP波と呼ばれる電位の変化を作り出す。P波は心房が収縮しようとしていることを示している。その後で、心室が収縮しようとしていることを示すQRS複合が表れる。心室筋の線維が回復しつつある際の電位の変化はT波となって表れる。
 心電図により様々な型の異状が検出することができる。心電図により検出される疾患の一つとして心室細動がある。心室細動は心室の調律のとれていない収縮である。心室細動は非常に興味深い。それは、心室細動は外傷や薬物の過量により生じるからである。心室細動は、一見健常に見える人が突然死する原因の中で最もありふれたものである。心室が細動をおこしたら、強力な電気刺激を短時間加えて除細動しなければならない。そうすると、洞房結節は調律のとれた拍動をすることができるようになる。


Figure 6.7 Conduction system of the heart. 心臓の刺激伝導系

a. S-A node(洞房結節)が刺激を送り出し、心房が収縮する。刺激が A-V node (房室結節)に到達すると、A-V node は心室の収縮を刺激する。2(訳注: 原著では同じ文が二度記載されている。spell checker では検出できない種類の誤植。)活動電位は房室束の二つの枝を下行し、プルキンエ線維に伝わり、心室が収縮する。
b. 正常な心電図は心臓が適切に機能していることを示している。P波は心房が収縮する直前に発生する。QRS複合は心室が収縮する直前に発生する。T波は心室が収縮から回復する際に発生する。
c. 心室細動は心室の異常な刺激が原因で異常な心電図を示す。





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6.3 Features of the Cardiovascular System 心血管系の特徴

 左室が収縮すると、血液は圧により大動脈へ送り出される。


Pulse 脈(脈拍)

 動脈に血液が充満すると動脈壁の弾性線維は引き伸ばされ、程なく元に戻る。この動脈壁の拡張と収縮の交互の繰り返しは脈拍として体表の近くにあるあらゆる動脈で触知可能である。二・三本の指を手首の掌側(しょうそく)の外表付近に存在する橈骨動脈の上に置いて脈拍を触知することが広く行われている。首の気管の両側にある頚動脈は脈拍を触知できる別の部分である。通常、脈拍数は心拍の頻度を示している。それは、動脈壁が左室が収縮するといつでも拍動するからである。

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Blood Flow 血流

 心臓の拍動は恒常性に必要である。というのも、拍動により圧が作られ、圧により動脈と細動脈の血液が押し出され、組織液との交換がおこる場所である毛細血管に血液が到達するからである。

動脈内の血液の流れ

 血圧は血管を押す血液の圧力である。血圧計は、Figure 6.9 に示したような方法で血圧を測定するのに用いられる。最も高い動脈圧は収縮期圧と呼ばれ、心臓から血液が拍出されるときの値である。最も低い動脈圧は拡張期圧と呼ばれる。拡張期圧は心室が弛緩する際に発生する。成人の正常安静時血圧は、上が120mmHg(mm水銀柱)で、下が80mmHgであり、簡略して 120/80(訳注: 読み方は 120 over 80)と記載する。大きい数字が収縮期圧で小さいほうの数字が拡張期圧である。実際、120/80の血圧は腕にある上腕動脈の圧であると予測される。
 収縮期と拡張期の血圧は左室からの距離により減少する。それは、血管の断面積の総和が増えるからである。つまり、細動脈のほうが動脈よりもたくさん存在するということである*。血流は毛細血管へ行くに従って、血圧は減少し、血流速度は徐々に減少する。
*(訳注: 何か舌足らず、というか乱暴な説明。抹消に行くに従って血管は、枝分かれして、断面積も、受けた抵抗の総和も増えるから圧を維持するだけのエネルギーが減少するということ。)

Figure 6.8 Pulse points. 脈拍触知部位(みゃくはくしょくちぶい)

 脈は示したような動脈の部位で触知できる。


Figure 6.9 Use of a sphygmomanometer. 血圧計の使用

 検者はカフを空気で膨らませ、徐々に圧を減らしながら、カフの内側の動脈に血液が流れていることを示唆する音を聞く目的で聴診する。音が聞こえ出したときの圧が収縮期圧である。カフの内部の圧をさらに下げていくと、音が聞こえなくなり、そのことは血液が動脈をカフによる抵抗を受けずに自由に流れていることを示している。この音が聞こえなくなったときの圧が拡張期圧である。


Blood Flow in Capillaries 毛細血管内部の血流

 毛細血管は細動脈よりも多く存在し、血液は毛細血管をゆっくりと流れる。このこと(毛細血管をゆっくり)は重要である。というのも、遅い流れは毛細血管とそれを取り巻く組織の間の物質交換のために必要な時間をかせげるからである。


Blood Flow in Veins 静脈内の血流

 血圧は静脈と細静脈で最小となる(20〜0mmHg)。(動脈と違って)血圧の代わりに、静脈からの還流は三つの因子に支配されている。すなわち、骨格筋の収縮、静脈内の弁の存在、呼吸運動である。骨格筋が収縮すると、静脈の外力に弱い壁は骨格筋により圧迫される。このことにより、血液は次の弁まで動く。血液は弁を過ぎると逆流することができない。静脈内を動く血液に対する筋収縮の重要性は、人を直立不動で一時間かそこら立たせたままにさせることで証明することができる。多くの場合、肢に血液が貯留して脳に必要な血流と酸素が行かなくなることが原因で失神がおこる。この場合、失神することは有用であると言える。それは、水平位置の変化が脳への血液の流れを起こす手助けとなるからである。(訳注: 勿論、垂直位置 vertical の変化も)
 (呼吸の)吸気が起こると、気管の圧が低下し、胸腔が拡張するに従って腹腔圧が上昇する。このことも、血液が圧のより低い部分へと流れるという観点から、静脈血が心臓へ還流するのに役立つ。小静脈が結合して静脈を形成して断面積が減少していくのに従って、静脈内の血流速度はやや上昇する。


 血圧は、動脈や細動脈内の血液の流れの原因となる。骨格筋の収縮、静脈内の弁、呼吸運動は、細静脈や静脈の血液の流れの原因となる。


Figure 6.10 Cross-sectional area as it relates to blood pressure and blood velocity. 血圧と血流速度に関連する血管の断面積


Figure 6.11 Skeletal muscle contraction moves blood in veins. 骨格筋の収縮は静脈内部の血液を動かす






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6.4 The Vascular Pathways 血管の径路

 心血管系は、Figure 6.12 に示したように、二つの回路を持っている。すなわち、血液を肺に循環させる肺循環(回路)と、身体の組織の需要を満たす体循環(回路)である。どちらの回路も、見てのとうり、恒常性に必要である。


The Pulmonary Circuit 肺循環

 肺を通る血液の経路は以下のように追跡することができる。身体のあらゆる領域から集められた血液は最初に右房に集められて、次に右室に送られ、右室から肺動脈幹に拍出される。肺動脈幹は右と左の肺動脈に分かれ、肺動脈は肺に近付くに従ってさらに分岐していく。細動脈は血液を肺毛細血管に運ぶ。肺毛細血管では、二酸化炭素が切り離され、酸素が取り込まれる。次に血液は肺細静脈を通る。細静脈は合流して、左房に流入する四本の肺静脈へと続く。肺動脈の血液は脱酸素した血液であり 肺静脈の血液は酸素化した血液であることから、全ての動脈は酸素を多く含んだ血液を含み 全ての静脈は酸素の少ない血液を含む と言ってしまうのは適切でない。肺循環ではこの公式がちょうど逆になるのである。

 肺動脈は酸素を少なく含む血液を肺へ送り、肺静脈は酸素の多い血液を心臓へ送る。


TheSystemic Circuit 体循環

 体循環には、Figure 6.13 に示したような動静脈が含まれる。体循環で最も大きな動脈は大動脈で、最も大きな静脈は上大静脈と下大静脈である。上大静脈は、頭部、胸部、腕(上肢)の血液を集め、下大静脈は、体の下部領域からの血液を集める。上大静脈と下大静脈の両者は右房に流入する。大動脈と上下の大静脈は体循環での血液の主要な経路となっている。
 体のどの臓器に向かう体循環の血液の経路はどれも大動脈に血液を送り出す左室に始まる。大動脈から起始する動脈の枝は臓器や体の各部分に向かう。例えば、下肢に向かう血流の経路は以下のようである。
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 左室 → 大動脈 → 総腸骨動脈 → 下肢 → 総腸骨静脈 → 下大静脈 → 右房

 血流を追跡するときは、大動脈、大動脈の適当な枝、支配領域、大静脈に血液を戻す静脈くらいを気に留めておけばよい。大抵の場合は、同じ領域を支配する動脈と静脈は同じ名前をもっている。(Fig 6.13) 血液が血管の支配する特定の領域に到達すると何が起こるのであろうか。毛細血管交換がおこり、組織液が刷新され、組織液の組成が比較的定常に保たれるのである。
 冠動脈(Fig 6.4 参照)は心臓自体の心筋を栄養する。(心臓は心室内の血液によっては栄養されない)。冠動脈は大動脈から分枝する最初の血管の枝である。冠動脈は大動脈半月弁の直ぐ上の部分から起始し、心臓の外表を走行し、そこで種々の細動脈に分かれる。。冠動脈は径が非常に小さいため、138頁に記載しているように詰まることがある。冠毛細血管床は結合して細静脈を形成する。細静脈は集合して心静脈を形成し、心静脈は右房に血液を全て送り込む。
 身体は肝門脈系と呼ばれる肝臓と関連のある門脈系をもっている。門脈系は毛細血管に始まり、毛細血管に終わる。始めの毛細血管は小腸の絨毛に始まり、終わりの毛細血管は肝臓の内部である。血液は小腸の絨毛から細静脈に流れ、細静脈は結合して肝門脈を形成する。肝門脈は小腸の絨毛と肝臓をつなぐ血管である。肝臓は血液の組成を監視する臓器である。肝静脈は肝臓から出て下大静脈に入る。Figure 6.12 は血管の経路を追跡するのに有用であるので、この図を見ながら、Figure 6.13 に記したように体のあらゆる部分は動脈と静脈を受けていることを覚えてほしい。


 体循環は、血液を心臓の左室から受け右室に送る。体循環により身体は適切に保たれる。



Figure 6.12 Cardiovascular system diagram. 心血管系の一覧

 青色の血管は酸素を解離した血液を運び、赤色の血管は酸素と結合した血液を運んでいる。矢印は血流の向きを示す。血液の経路の追跡法を学ぶのに有用なこの図と、Figure 6.13 を比較して動脈と静脈が体のあらゆる部分に向かっていることを認識されたい。毛細血管もまた身体のあらゆる部分に存在する。毛細血管から離れて存在する細胞はない。(訳注: 強いて言えば例外は角膜か)


Figure 6.13 Major arteries and veins of the systemic circuit. 体循環の主要な動静脈

 よりリアルに表現した体循環の主要な血管により、体循環の動静脈がどのように実際の身体で配置されているかがわかる。上大静脈と下大静脈は、その名前をどの臓器との関連からつけられたのであろうか?(訳注: 上肢と下肢かな?)







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6.5 Cardiovascular Disorders 心血管系の疾患

 心血管系の疾患(CVD)は西欧諸国での主要な致死性成人病である。最近の研究の努力により、鑑別診断、治療、予防に関して進歩が見られる。この節(章の一部分)では、心血管疾患の諸事項に関する一連の進歩に関して述べる。この章の Health reading では心血管系疾患を、いかにして最初の段階から予防するかに関して強調している。


Hypertension 高血圧

 約20%のアメリカ人が、血圧の上昇をきたす疾患である高血圧に罹患(りかん)していると考えられる。収縮期血圧が140mmHg以上、若しくは拡張期血圧が90mmHg以上だと高血圧である。収縮期圧も拡張期圧も重要であると考えられているが、治療の際に拡張期圧を下げることに重点が置かれる。
(訳注: WHOの高血圧の診断基準(1993年)は1999年に改訂された。)
 高血圧はサイレントキラー(沈黙の殺し屋?)と呼ばれることがある。それは、脳卒中や心臓発作が起こるまで高血圧に気付かないことがあるからだ。(訳注: そんなばかな、見ればわかると思うが) 特定の遺伝的体質が原因で高血圧がおこるのだと長い間考えられていた。今日、研究者は一定の割合の人に存在する二つの遺伝子を発見した。一つはアンギオテンシノーゲンをコードする遺伝子である。アンギオテンシノーゲンは、二つ目の遺伝子の産生する物質と協力して作用する強力な血管収縮剤に変化する血漿タンパクである。これらの遺伝子の異常な活性の増加が原因で高血圧をきたす患者は、いつの日か遺伝子治療により治療されるようになるだろう。
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 現在では、しかしながら、高血圧に対する最大の予防手段は、定期的に血圧をチェックし、高血圧のリスク(危険因子)が少ない生活習慣に改善していくことである。この章の Health reading はこの(高血圧を防ぐための)生活習慣について述べている。


Atherosclerosis アテローム性動脈硬化症(粥状動脈硬化症(じゅくじょうどうみゃくこうかしょう))

 高血圧は、アテローム(動脈粥状硬化)をもつ人にも見られる。アテロームは軟らかい脂肪、特にコレステロールの塊が蓄積したもので、動脈の内皮下の細胞層の内側にできる。アテロームが大きくなると、プラークは血管の内腔に突出して血流を阻害するようになる傾向がある。特定の家系では、家族性高コレステロール血症といった遺伝的要因が原因で動脈硬化症をきたす。
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 高コレステロール血症に関連した遺伝子突然変異の存在が確認されており、この情報には動脈硬化症の発生を予防するための対策をとる際の手助けとなる。多くの場合、動脈硬化症は成人初期に発症し、中高年の間に進行性に発育し、しかし、身体徴候は50歳かそれ以上になるまであらわれないことが多い。プラークの発生と発育を防ぐため、アメリカ心臓(病)学会とその他の機関は、飽和脂肪とコレステロール減らし、果物や野菜を多く含んだ食事をとることを推奨している。
 プラークは不整な動脈壁で凝血が起こる原因となる。凝血塊が血管壁で静止た状態のままでいるものは血栓と呼ばれる。血栓が血管から離れて、血流に乗って移動するようになると、塞栓子と呼ばれるようになる。血栓塞栓症に対する処置が行われないままでいると、以降の文章で説明するような合併症が発生する。



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Stroke, Heart Attack, and Aneurysm 脳卒中、心臓発作、動脈瘤

 脳卒中、心臓発作、動脈瘤といった疾患は高血圧や動脈硬化症と関連がある。脳血管障害(CVA)は、脳卒中(stroke)とも呼ばれ、径の小さい脳の小動脈が破裂したり塞栓子により塞栓されることが原因でしばしば発症する。酸素の欠乏は、脳の局在的な壊死の原因となり、脳の壊死により麻痺が発生したり死に至ることがある。手や顔面の知覚異常、発語困難、片眼の一過性の視覚消失といった症状が脳卒中の前駆症状として見られることがある。
 心筋梗塞(MI)は、心臓発作(heart attack)とも呼ばれ、心筋が酸素欠乏により部分的に壊死する際に発生する。冠動脈が部分的に閉塞すると、左腕の放散痛を特徴とする狭心症が発症する。ニトログリセリンや他の有効な薬物により血管を拡張させ、痛覚を緩和することができる。冠動脈が完全に閉塞すると、そういった場合は血栓による塞栓が最も考えられるのだが、心臓発作が発生する。
 動脈瘤は血管が膨らむ病態であり、腹腔の動脈や、脳へ続く動脈に多く発生しやすい。動脈硬化や高血圧により動脈壁は障害を受け、動脈瘤の母地が形成される。大動脈といった大きな血管が破裂すると、多くの場合、死に至る。毛細血管は組織との物質交換の場であるので、障害を受けた病的血管を、ちょうど血管がプラスチックチューブであるかのように置換することが可能である。(訳注: 説明不十分)


Dissolving Blood Clots 凝血塊の溶解

 血栓塞栓に対する治療として、生命工学の産物の薬物である t-PA(tissue plasminogen activator 組織プラスミノーゲン活性化物質)の使用がある。t-PAは、血中に見られる分子であるプラスミノーゲンを、凝血塊を溶解する酵素であるプラスミンに変換する。実際、t-PAは tissue plasminogen activator(組織プラスミノーゲン活性化物質)という意味であり、身体自身が持っているプラスミノーゲンをプラスミンにする手段である。t-PAは溶解した血栓が原因の脳卒中の患者に用いられるが、治療が成功することは少ない。それは、患者の中には生命を脅かすほどの脳内出血をする例があるからである。妥当な治療としては、細胞膜(形質膜)に働く生命工学で作られた薬剤を用いて、脳細胞から脳卒中が原因で発生する毒性物質を放出することや、毒性物質から脳細胞を守ることである。
 狭心症や脳卒中の徴候が見られたら、アスピリンを処方すると良い。アスピリンは血小板の粘着能を下げることで、凝血塊が形成される可能性を下げる。アスピリンが心臓発作の最初の発作の予防となることは証明されている。しかし、徴候が見られない人々に、脳卒中を予防する目的で毎日アスピリンを服用させることを明確に支持する説はない。内科医はアスピリンを長期にわたって服用することは、身体に脳内出血を含んだ悪い作用があることを警告している。
(訳注: 他にも、アスピリンには肝障害、喘息等の重篤な副作用があるので、毎日アスピリンを飲むことは避けたい。)


Coronary Bypass Operations 冠動脈バイパス術

 毎年、幾千人もの人々が冠動脈バイパス術を受けている。この手術の間、外科医は冠動脈とは別の部分から血管の一部を取り出し、一方の端を大動脈ともう一方の端を冠動脈の閉塞部位より抹消の部分と縫合する。Figure 6.14 には三本のバイパス血管が示されている。三本の血管により大動脈から心筋へ冠血管を通って血液が自由に流れている。
 血液を心筋へ運ぶ新しい血管(新生側副血行路)の発生を目的とした遺伝子治療が今日行われている。外科医は、小さな切開を行い、大量のVEGF(血管内皮成長因子)をコードする遺伝子のコピーを、肋骨の間から、血流の改善を最も必要とする部位である心臓の領域へと注入するだけでよい。VEGFは動脈からの新生血管の枝の発育を促進する。側副血行路が形成されれば、側副血行路により閉塞動脈をまたいだ血液の輸送が行われ、バイパス術は不要になる。このような手技(VEGF治療)を受けた患者の約60%に、2〜4週間の内に血管成長の徴候が見られる。
 新生血管の成長をもたらす別の方法として、拍動している心筋にレーザーを用いて小さな孔(あな)を開ける手技がある。孔は程なく術者の指による介助で閉じられる。しかし、心筋内に形成されたチャンネルは一定の間、開いたままであり、新生血管が発生しやすくなる。



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Clearing Clogged Arteries 塞栓した動脈の開通策

 血管形成術では、心臓専門医は一側の足か手の動脈内にプラスチック製のチューブを縫い付けて、チューブ(カテーテル)を血管内を通して心臓へと送り込む。チューブが冠動脈のプラークのある閉塞部位に到達すると、チューブの先端に取り付けられたバルーンが膨らまされて、血管を強制的に開かせる(Fig. 6.15)。しかしながら、動脈は開いたままの状態を持続することはなく、それは外傷によって動脈壁の平滑筋細胞が増殖し動脈が閉鎖するからである。、
 二つの方法が試されている。小さな金属製のコイルもしくは孔の開いたチューブの形状をしたステントと呼ばれる小さな金属製の装置があり、閉じていたステントを動脈内で動脈を拡張した状態を保持させるように広げる。凝血を防ぐ目的でステントがヘパリンでコートされていたり、動脈の閉塞を防ぐような化学物質でコートされていれば効果はてきめんである。


Heart Transplants and Other Treatments 心臓移植とその他の治療法

 弱体化した心臓を持つ患者は、やがて うっ血性(鬱血性)心不全に陥る。うっ血性心不全では、もはや心臓は血液を適切に拍出することができず、血液は心臓と肺に貯留する。場合によっては弱った心臓を修復することは可能である。例えば、背中の筋肉を心臓に巻きつけて心臓を強化することができる。心臓の神経は 0.85秒毎に巨大な電位を作り出すある種のペースメーカーによって刺激される。いつの日か、心筋細胞移植ができるようになるだろう。それは、研究者によって、生きた心筋細胞を動物の心臓に注入すると心臓の拍出能に改善が見られることが確認されているからである。
 1982年の12月2日、バーニー・クラークは最初の人工心臓を装用した。その人工心臓は、巨大な体外機により送り込まれる空気の圧力により動く。今日臨床的に使用されている人工心臓には肩掛けタイプの小型のバッテリーを動力として動くものがある。米国NIHは、原子熱をエネルギー源とした完全埋め込み式の熱気エンジンの開発を支持している。人工心臓は、心臓移植待機群の患者にのみ適用される。心臓移植の困難さは、第一に臓器の入手のしやすさであり、第二に外来臓器に対する拒絶性である。最近、研究者は遺伝子工学を用いて、移植心臓の材料とすることを目論んでブタの家系の免疫系を変化させた。


 脳卒中、心臓発作、動脈硬化は高血圧や動脈硬化と関連がある。内科的および外科的な様々な治療が可能である。病的心臓の治療の最終手段としては、心臓移植に頼ることになる。


Dilated and Inflamed Veins 拡張し炎症をおこした血管

 拡張蛇行静脈は、血液の逆流圧が原因で静脈の弁が弱くて機能を果たさなくなったときに生じる。異常で不規則な拡張は特に下肢の皮静脈に顕著である。足を組んだり椅子に座ることで膝の裏側を圧迫することは、静脈瘤の発育の要因となる。静脈瘤は直腸にも発生する。直腸で静脈瘤は一塊となり、痔(じ xぢ)になる。
 静脈炎は、さらに重篤な状態である。特に深部静脈がからんだ場合は。破損してはいないが炎症を起こした血管の内部の血液は凝血する。凝血塊は血流に乗って小さな血管に溜まる。凝血塊が肺血管を閉塞するなら、死に至ることがある。





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6.6 Homeostasis 恒常性

 恒常性は内部環境の動的平衡であるが、心血管系により 1.酸素と栄養が運ばれて、2.細胞を取り巻く組織液から代謝による老廃物が除去される場合 にのみ、恒常性は成立する。次のページには、心血管系がどのようにして身体の他の系と共に働いて恒常性に役立っているかが述べられている。
 血液の組成は、身体の他の系の働きにより保持されている。消化器系は血液に栄養分を取り入れ、肺や腎臓は代謝老廃物を除去する。肝臓は、勿論、血液成分の重要な調節役である。肝臓は、血漿タンパクの産生、グルコースの必要になるまでの貯蔵、アンモニアを尿素に置換、その他の毒性物質を分子に分解して、分泌すること等でその機能を果たしている。
 心臓の拍出は血液を肺や体の組織に送るのに必要な血圧の形成に重要である。延髄の心臓コントロール中枢は、大動脈弓に存在する受容器から感覚入力を受け入れる。血圧が低下すれば、心臓コントロール中枢は心臓に拍動を早くするように指示する。細動脈の収縮や弛緩も神経系による支配を受けていて、血圧の調節や、特定の瞬間にどの毛細血管床が開くかどうかを指示している。リンパ系は余剰な組織液を毛細血管の部位で収集し、胸腔内で心血管系の静脈に還流する。この方法で、リンパ系は循環血量の調節に大きく貢献している。  内分泌系は恒常性の維持に関して神経系の補助の役目をしている。そこで、ホルモンも血圧の調節に関与しているといっても驚くことはない。エピネフリンとノルエピネフリンは細動脈の狭窄をおこす。個々で述べていない他のホルモンも尿の分泌の調節に関与している。とにかく、水分が保持されれば循環血液量と血圧は上昇し、水分が排出されれば循環血液量と血圧は低下する。実際、ある種の高血圧の治療目的で投与される薬剤は、尿の分泌量を上昇させる。リンパ臓器である赤色骨髄で有形成分の産生を調節するホルモンが存在する。前の章では、腎臓で産生され赤血球の成熟の速度をコントロールするエリスロポエチンや、全血細胞から放出され血球事態の産生をコントロールするコロニー形成刺激因子(CSF)について述べた。白血球は、感染と闘う細胞であり、あらゆるリンパ臓器とリンパ管と密接に関連がある。恒常性は、病原体を除去する能力がなければ成り立たない。
 血圧により心臓から毛細血管への動脈の血流おこる一方、毛細血管から心臓への静脈還流は別の二つの身体の系によって変化する。骨格筋の収縮は血液を静脈の弁を通じて送り出し、呼吸運動により胸腔内での心臓へ向かう血流が惹起(じゃっき)される。