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Chapter 4

Digestive System and Nutrition 消化器系と栄養

Chapter Concepts この章のコンセプト

4.1 The Digestive System 消化器系
4.2 Three Accessory Organs 三つの補助器官

4.3 Digestive Enzymes 消化酵素

4.4 Homeostasis 恒常性

4.5 Nutrition 栄養



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 貴方の家族の中にどなたか潰瘍(かいよう)の既往のある方はいますか ? 食事を制限したとしても、潰瘍は激痛を伴うことがある。バリー=マーシャル(学者)は、潰瘍(訳注: 厳密には消化性潰瘍)の原因が何であるかつきとめたと確信し、もし彼の説が正しければ潰瘍は治療し治癒させることができると考えた。1984年のある朝、彼は研究室に立ち入り、ビーフスープとヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori菌、超有名!)を満たしたビーカーを撹拌(かくはん、攪拌)し、混合物を飲み干した。5日後、彼はにわかに嘔吐(おうと)した。彼の胃は炎症を起こしていた。さらに研究し、マーシャルと他の学者たちは、ヘリコバクター・ピロリ菌は消化性潰瘍の少なくとも70%に関与していることを示した。ストレスやその他の原因、例えば処方薬の副作用、といったものも消化性潰瘍の形成に関与しているが、そういった原因は通常は潰瘍を直接誘発する原因ではない。
 胃腸疾患の治療を流すテレビコマーシャルの多さについて考えてみれば良い。そのコマーシャルは、消化器系の適切な機能が我々の日常生活に重要であると結論づけているだろう。この章では、我々の身体の中の、管腔構造をもつ内臓である消化管と、消化管の付属器について、解剖学的見地と生理学的見地の両者から紹介する。肝臓は消化に関する役割の他に無数の機能をもっていて、その多くを調べることができる。今日、我々はある意味で「我々は食べる生き物だ」と考えることができ、それ故、栄養に関する知識は必須である。この章は、栄養の基本原理について述べて終了する。


4.1 The Digestive System 消化器系

 消化活動は、口で始まり肛門で終わる 消化管 と呼ばれる管の中でおこる。消化器系の機能は、食物を摂取し、漿膜を通過可能な栄養物に消化し、栄養物を吸収し、消化不能な残異物を排泄することである。


Figure 4.1 Digestive system. 消化器系

 食物が通る経路を口から肛門までたどってみよう。大腸は、虫垂、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸からなり、直腸と肛門管が続く。消化器官の付属器の位置も覚えよう。付属器とは膵臓(すいぞう)、肝臓、胆嚢(たんのう)である。


The Mouth 口

 口は食物を受け取る部分で、外側から上下の唇と頬でしっかりと囲まれている(意訳)。唇は鼻の根元から顎の付け根まで広がっている。唇の赤い部分は角化が少ない部分で、血液が透過して見えるようになっている。
 大部分の人々は主として食事をすることを楽しむ、それは食事の歯ごたえや味覚が好きだからである。味蕾(みらい)と呼ばれる感覚受容器は主に舌に存在する。食物が舌に存在すると味蕾が刺激され、神経活動電位が脳神経(舌咽神経と顔面神経)を通って脳へ達する。舌は骨格筋から構成され、舌は筋の収縮により変形する。舌の外側の筋により、舌が口の中で動き回る動作が実現している。舌の下面にある粘膜の襞(ひだ)が舌を口腔の下壁と結合させている。
 口腔の上壁は、鼻腔と口腔を区分している。口腔上壁は二つの部分からなる。前部にある硬口蓋(こうこうがい)と後部にある軟口蓋(なんこうがい)である。硬口蓋の中には、二, 三個の骨があるが、軟口蓋は全体が筋から構成されている。軟口蓋の端には口蓋垂(こうがいすい)と呼ばれる突出がある。扁桃(腺)は口腔の背側の舌の両側の鼻咽頭にあり、アデノイド(扁桃腺)と呼ばれる。扁桃は体を感染から守るのに役立っている。扁桃が炎症を起こしたものが扁桃炎である。扁桃炎の感染は中耳に広がることがある。扁桃炎が繰り返し再発するようであれば、扁桃を手術で摘除することもある(扁桃腺摘除術)。
 三対の唾液腺(だえきせん)は口腔に開口する管を通じて唾液を送り出す。一対の唾液腺は両耳のすぐ前下方の顔面の両側の部分に存在する。(訳注: 耳下腺)
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 小児に頻繁に見られるウィルス感染症である耳下腺炎(ムンプス)にかかると、耳下腺は肥大する。唾液腺は頬の内側の上の第二臼歯の部分に開口する管を持つ。別の一対の唾液腺は舌の下に存在し、さらに別の一対の唾液腺は口腔の底面の下に存在する。(訳注: 舌下腺と顎下腺。)舌下腺と顎下腺の管は舌の下に開口する。唾液腺の開口部は自分の舌を用いて小さい皮弁があることを調べることで位置を確認することができる。耳下腺は頬の内側に、舌下腺と顎下腺は舌の下に確認できる。唾液腺には唾液腺アミラーゼという酵素がある。唾液腺アミラーゼはデンプンの消化過程を開始させる働きをもつ。



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The Teeth 歯

 我々は歯を用いて食物を細かく分解して嚥下(えんげ)しやすくする。出生後二年の間は20本ある乳歯が現れる。乳歯は最終的には32本の大人の歯にはえ変わる。左右の第三臼歯は智歯と呼ばれ、はえてこないことがある。埋没している第三臼歯(だいさんきゅうし)が他の歯を押して痛むようであれば、歯科医や口腔外科医により摘除することがある。
 歯にはそれぞれ歯冠(しかん)と歯根(しこん)の二つの領域がある。歯冠にはエナメル質、象牙質(ぞうげしつ)、歯髄(しずい)の層がある。エナメル質はカルシウム複合体でできた非常に硬い外側の被いである。象牙質は骨に類似した材質の厚い層である。内側にある歯髄には神経と血管が存在する。象牙質と歯髄は歯根にもみられる。
 歯は虫歯になる。虫歯は う歯 等とも呼ばれ、口腔内細菌が糖を代謝し、酸を放出し、その酸が歯を腐食することでおこる。虫歯を避けるには二つの方法がある。甘いものを食べる量を控えることと、毎日歯を磨いて絹糸(フロス)で汚れを取り除くことである。(日本では floss はそれ程普及していない。)フッ化物治療は、とりわけ子供の時期に行うと、エナメル質を強化して浸食に対してより強くすることができる。歯肉病は加齢とともに起こりやすくなる。歯肉の炎症(歯肉炎)は、歯槽(しそう)を被う歯根膜(しこんまく)に広がることがある。歯周炎の患者は、骨が損傷し、歯がゆるみ、広範な歯科治療が必要になる。歯科医の指導する方法に沿った歯肉の刺激は、歯周炎の管理に役立つ。
 横紋筋と外側の粘膜の層からなる舌は、噛み砕かれた食物を唾液と混合する。舌はそれから噛み砕いた食物をボーラスと呼ばれる塊にして嚥下できるようにする。

 唾液腺は唾液を口に送り出し、口の中では食物を歯で噛み砕き、舌で噛み砕いた食物を嚥下しやすいようにボーラス(食物塊)にする。


Figure 4.2 Adult mouth and teeth. 成人の口と歯

a. のみ状の形の切歯(せっし)で噛み、先の尖った(とがった)犬歯(けんし)で切り裂き、なめらかの度合いが強い小臼歯(しょうきゅうし)で砕き、平らな臼歯(きゅうし)で食物を押しつぶす。最も奥の臼歯は智歯(ちし、親不知 おやしらず)と呼ばれる。智歯は真っ直ぐはえるのに失敗することがあり、そうなると時には智歯が屈曲して役に立たなくなることがある。歯科医はしばしば智歯を引き抜くことを患者に奨める。
b. 歯の縦断面。歯冠(しかん)は歯肉線の上に突出する部分で、歯科医によって交換されることがある。歯根管(しこんかん)が虫歯にやられると、神経は歯科医により取り除かれる。歯根膜(しこんまく)が炎症を起こすと、歯がゆるむことがある。
hard palate硬口蓋(こうこうがい) crown歯冠(しかん)
soft palate軟口蓋(なんこうがい) enamelエナメル(質)
uvula口蓋垂(こうがいすい) dentin象牙質(ぞうげしつ)
tonsil扁桃(へんとう) pulp歯髄(しずい)
molar臼歯(きゅうし) root歯根(しこん)
premolar前臼歯(ぜんきゅうし) gum歯肉(しにく)
canine犬歯(けんし) root canal歯根管(しこんかん)
incisor切歯(せっし) periodontal membrane歯根膜(しこんまく)
jaw bone顎の骨
cementumセメント質



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The Pharynx 咽頭

 咽頭は、口から食物を受け取り、鼻腔から空気を受け入れる部分である。食物が通る経路と空気が通る経路は咽頭で交差する。何故かといえば、気管は食道の前にあるからである。食道は食物を胃に運ぶ長い筋肉の管である。
 嚥下(えんげ)は咽頭でおこる工程であり、自動的におこる反射による活動であり、無意識に(つまり不随意に)おこる。嚥下の際、通常は食物は食道に入る。それは気道が閉鎖されているからである。残念ながら、我々の全員が、食物が「間違った経路に入る」という不愉快な経験を持っている。間違った経路というのは、鼻腔の場合も気道の場合のどちらもある。後者(食道)の場合は、咳をすることにより食物を気道から押し出して咽頭に再び戻すということが最も考えられる。通常、嚥下の際には、軟口蓋は後退して鼻咽頭を閉鎖する。そして、食道が上昇して、喉頭蓋が声門を被う。声門は喉頭への入り口である。喉頭の前面部にあるアダムの林檎(=喉頭隆起)の上下運動は、他人(特に男性)の嚥下運動の際に容易に観察できる。嚥下の際には、呼吸をすることはできない。

 空気の通り道(気道)と食物の通り道(食道)は、咽頭で交差する。嚥下の際には、空気の経路は閉鎖され、食物は食道に入ることになる。

Table 4.1 Path of Food 食物の経路
Organ Feature(s) 臓器 Function of organ
臓器の機能
Special Feature(s)
特色のある器官
Function of Special Feature(s)
特色のある器官の機能
Oral Cavity
口腔
Receives food 食物を受け取る; starts digestion of starch デンプンの消化 Teeth 歯 Chewing of food 食物を噛み砕く
Esophagus
食道
Passageway 経路    
Stomach
Storage of food 食物を貯蔵; acidity kills bacteria 酸で細菌を殺傷; starts digestion pf protein タンパク質の消化の開始 Gastric glands 胃腺 Release gastric juices 胃液の分泌
Small intestine
小腸
Digestion of all foods 食物の消化; absorption of nutrients 栄養の吸収 Intestinal glands 腸腺; Villi 絨毛(じゅうもう) 液体の分泌; 栄養の吸収
Large intestine
大腸
Absorption of water 水分の吸収; storage of indigestible remains 消化不能残渣の貯蔵    


Figure 4.3 Swallowing. 嚥下(えんげ)

 食物を嚥下すると、軟口蓋は鼻咽頭を閉鎖し、喉頭蓋が声門を被い、ボーラス(食物塊)が食道に強制的に入るようになる。それ故、嚥下の際には呼吸できない。



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The Esophagus 食道

 食道は筋肉でできた管であり、咽頭から胸腔を通り、横隔膜を抜けて腹腔に入り、腹腔で胃に接続する経路を通る。食道は通常の状態では潰れているが、嚥下の際には開いてボーラス(食物塊)を受け入れる。蠕動(ぜんどう)と呼ばれる規則的な収縮が、食物を消化管に沿って押し出す。時折、食物がないにもかかわらず蠕動が開始することがある。この現象は咽喉(いんこう)に胸がつかえる感覚を発生させる。
 食道は食物の化学的な消化活動には関与していない。食道の唯一の機能は食物のボーラス(塊)を口から胃へと運ぶことである。括約筋(かつやくきん)は、管腔の周囲を取り巻き弁(バルブ)の役割をする筋である。括約筋が収縮すれば管は閉鎖し、括約筋が弛緩すれば管は開く。食道から胃への入り口は、締め付け部で囲まれていて、その部分はしばしば 括約筋 sphincterと呼ばれるが、実際には本当の括約筋のように発達した構造でない。括約筋の弛緩はボーラス(食物塊)が食道から胃へ入るように作用し、括約筋の収縮は胃酸が食道に逆流するのを防いでいる。'胸やけ'は咽(のど)からこみ上げてくる熱傷のような痛みであり、胸やけは胃の内容物が食道に漏出(ろうしゅつ)したときにおこる。嘔吐の際には、腹筋と横隔膜が収縮することで胃の内容物が食道を通って逆流するのを促進している。

 食道は、食物のボーラス(塊)を咽頭から胃へと導く。蠕動運動は胃で始まり、消化管全体に渡ってみられる。



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The Wall of the Digestive Tract 消化管壁

 腹腔内にある食道の壁は、他の消化管(訳注: 小腸や大腸)の壁と対比することができる。消化管は以下のような層を持っている。

Mucosa 粘膜(mucous membrane layer 粘膜層)
 一層の上皮組織の層。結合組織に支持され、内腔を平滑筋の層が被い、消化酵素を分泌する腺上皮細胞と粘液を分泌する杯細胞を含んでいる。

Submucosa 粘膜下組織(submucosal layer 粘膜下組織層)
 幅の厚い結合組織の帯で、脈管を含んでいる。パイエル(パイヤー)板と呼ばれるリンパ節の集合体が粘膜下層にはみられる。扁桃と同様にパイエル板は疾患から我々を守っている。

Muscularis 筋層(smooth muscle layer平滑筋層)
 この部分は二層の平滑筋の層でできている。内層は消化管を輪状の筋層が取り巻いている。外層は縦走する筋層が消化管と平行して走行している。(訳注: 消化管の多くは内輪外縦の二層構造、胃では三層)

Serosa 漿膜(serous membrane layer)
 消化管の大部分は漿膜を持つ。漿膜は非常に薄い最外層にある扁平上皮の層で、結合組織に支持されている。漿膜は漿液を分泌し、漿液により消化管の外側は湿潤な状態を保ち、腹腔内の臓器が互いに滑らかに交差することができる。食道は、疎性結合組織だけで構成されている外膜(adventitia)と呼ばれる外側の層を持つ。(訳注: 小腸・大腸との違い)

Figure 4.4 Wall of the digestive tract. 消化管壁

a. 消化管の壁には幾つかの異なった組織が見られる。縦走する筋層の内側に輪状の筋層が配置していることに注目されたい。
b. 消化管壁の顕微鏡写真。



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The Stomach 胃

 胃は壁の厚い、アルファベットの'J'の形状の臓器で、身体の中で横隔膜直下の左側に位置する。胃は上部で食道と、下部で小腸の十二指腸と接続している。胃は食物を貯蔵し、消化活動を補助している。胃の壁には深い襞(ひだ)があり、胃がおおよそ一リットルの容量まで膨らむと襞は消失する。胃の筋は食物をかき回して消化液と混ぜ合わせる。胃の(gastric)という言葉は、胃(stomach)を参照する(形容詞である)。
 胃を被っている円柱上皮には無数の胃小窩が存在し、胃腺へと導いている。胃腺は胃液を産生する。胃液には、タンパクを消化するペプシンと呼ばれる酵素、塩酸(HCl)、粘液が含まれている。HClによって胃のpHは約2の酸性の強い状態になっている。そのことは生体にとって有益である、というのも、高い酸性の結果、食物中の細菌は殆ど殺傷されるからである。HClは食物を消化しないが、肉(食物のほうの)の結合組織を破壊するし、ペプシンを活性化する働きがある。(訳注: ペプシンはタンパクをペプチドに分解する酵素で、至適pHは2〜3、つまりHClの存在が必要。)胃の壁は厚い粘液の層によって保護されていて、粘液は上皮の層に存在する杯細胞より分泌される。もしも、HClが粘液の層を貫通するようなことがあれば、胃壁は破壊されはじめ、結果的に潰瘍が生じる。潰瘍 ulcer は胃壁に生じる開放性の sore(潰瘍、びらん、ただれ)で、組織が徐々に分解していくことで生じる。現在では大多数の消化性潰瘍は細菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)感染が原因であると考えられている。ピロリ菌は、胃壁の上皮細胞の粘液産生能を障害する。
 アルコールは胃で吸収されるが食物物質は胃からは吸収されない。通常、胃は約2〜6時間で空になる。食物が胃から出ると、濃厚でどろどろした キームス(chyme、びじゅく)とよばれる液体になる。括約筋の開閉運動により、キームスは胃から食道へと噴出する。

 胃は拡張して大量の食物を蓄えることができる。食物が胃内に存在すると、胃は食物をかき回して、酸性の胃液と混ぜ合わせる。

Figure 4.5 Anatomy and histology of the stomach. 胃の解剖と組織学

a. 胃は襞(ひだ)をもった厚い壁をもち、拡張して食物を貯蔵することができる。
b. 粘膜には胃腺が存在し、胃腺は粘液やタンパクの消化に役立つ胃液を分泌する。
c. 内視鏡による出血性の潰瘍の画像。内視鏡は小型のレンズと光源を付けた管状の装置で、腹腔内に挿入することができる。



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The Small Intestine 小腸

 小腸は、直径が小さいことからその名が付いている。(直径が小さいというのは、大腸との比較でという意味である。)けれども、小腸はむしろ長腸(長い腸 long intestine)と呼ばれるべきである。生存中は、小腸は平均して約3m(=約9ft)の長さであり、対して大腸は約1.5m(=約4.5ft)の長さである。(死亡すると、小腸の長さは筋が弛緩することにより約6mの長さになる。)
 小腸の口側の25cmは十二指腸と呼ばれる。肝臓からの管(=総胆管 そうたんかん common bile duct)と膵臓(すいぞう)からの管(=膵管 すいかん pancreatic duct)が合流して、十二指腸に流入する一本の管(=膵胆管 すいたんかん pancreaticobiliary duct)になる。膵胆管を通じて小腸には、1.肝臓(と胆嚢)からの胆汁 と 2.膵臓からの膵液 が流入する。胆汁は脂肪を乳化する。乳化することで脂肪滴は水中に散乱するようになる。小腸の pHはやや塩基性の状態である、というのも、膵液には炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)が含まれていて、酸性のキームスを中和するからである。膵液に含まれる酵素と腸管壁から産生される酵素は、消化の過程を完了させる。
 小腸の表面領域の広さは、テニスコート一枚分の広さがあると考えられている。どういった要素が原因で小腸の表面積は広くなっているのだろう? 小腸の壁には指のような形状の絨毛(じゅうもう)と呼ばれる突起があり、絨毛の存在により腸管は柔らかでビロード状の外観を呈している。絨毛はそれぞれ外側が円柱上皮で被われており、内部には 1.血管 と 2.乳糜管(にゅうびかん) と呼ばれるリンパ管 が存在する。リンパ系は心血管系を補助する働きをもっている。リンパ管は心血管系の静脈に流入するリンパ液を運搬している。
 絨毛にはそれぞれ幾千もの顕微鏡で見える微絨毛(びじゅうもう)と呼ばれる突起が存在する。電子顕微鏡で微絨毛を集合的に見ると、絨毛に対して「刷子縁(さっしえん)」と呼ばれるけばだった縁(ふち)の構造をしている。微絨毛が腸管酵素を産生することから、腸管酵素は刷子縁酵素と呼ばれる。微絨毛が存在することで絨毛の表面は非常に広くなり、栄養の吸収に有利になる。糖類とアミノ酸は粘膜を通過し、血管に入る。脂肪の構成成分(グリセロールと脂肪酸)は、小胞体と再結合し、ゴルジ装置内のタンパク質と結合して、その後で乳糜管に入る。栄養は消化管から吸収された後、やがて血流にのって体のあらゆる細胞に運ばれる。消化器系は細胞が必要とする栄養を供給することで恒常性に役に立っている。

 小腸の広大な表面領域は栄養が心血管系(ブドウ糖とアミノ酸が入る)とリンパ系(脂肪が入る)に入るのを促進する。


Figure 4.6 Anatomy of small intestine. 小腸の解剖

 小腸の壁には襞があり、襞には指状の絨毛と呼ばれる突起がついている。消化活動による産物は、絨毛より吸収され、その絨毛には血管と乳糜管が存在する。絨毛にはそれぞれ微絨毛と呼ばれる顕微鏡で見える多数の突起が存在する。


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Regulation of Digestive Secretions 消化管分泌の調節

 神経系(訳注: 副交感神経系)の働きにより消化液の分泌は促進されるが、神経だけでなくホルモンの働きによっても消化液の分泌の促進はおこる。ホルモンは一揃いの細胞群によって産生される物質で、別の一揃いの標的細胞と呼ばれる細胞群に作用する。ホルモンは、通常、血流によって運ばれる。ある人がタンパク質を豊富に含んでいる肉を食べたとすると、胃はガストリンというホルモンを産生する。ガストリンは血流に入り、するとすぐに胃は蠕動(ぜんどう)を開始し、胃腺の分泌活動の活性は上昇する。十二指腸壁で産生されるGIP(ガストリン抑制ペプチド)というホルモンはガストリンと逆の働きをする。GIPは胃腺の分泌活動を抑制する。
 十二指腸壁の細胞は、別の二種類のホルモンを産生する。それらはとりわけ興味深いホルモンであり、その名前はセクレチンと、CCK(コレシストキニン)である。酸、特に塩酸がキームスに存在することは、セクレチンの放出を刺激し、部分的に消化されたタンパクと脂質はCCKの放出を刺激する。それらのホルモンが血流に入るとすぐに、膵臓は膵液の分泌量を増加して食物の消化を補助し、肝臓は胆汁の分泌量を増加する。胆嚢は収縮して胆汁を放出する。
 内臓の調節は、ホルモンが恒常性に役立っている事例の一つである。

Figure 4.7 Hormonal control of digestive gland secretions. 消化腺分泌のホルモンによる調節

ガストリン(@)は、胃の下部で産生され、血流に入る。すると、胃の上部が刺激され、消化液がより多く産生されるようになる。
セクレチン(A)とCCK(B)は、十二指腸壁で産生され、膵臓の消化液産生と、胆嚢の胆汁放出刺激となる。


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The Large Intestine 大腸

 大腸には、盲腸、結腸、直腸、肛門管が含まれ、直径は小腸よりも大きく(大腸: 6.5cm, 小腸: 2.5cm)、長さは小腸よりも短い(大腸: 1.5m, 小腸: 3m)。大腸は、水分、塩類、ビタミン類の内の幾種類かを吸収する。大腸は消化不能物の肛門から排泄されるまでの貯蔵の役割も担っている。
 盲腸は小腸と大腸の接合部の下方に存在し、大腸の盲端となっている。盲腸には小さな突起が一つあり虫垂と呼ばれている。人では虫垂は感染防御に役立っていると考えられる。虫垂は感染を起こす部位であり、虫垂の感染は虫垂炎と呼ばれる。虫垂炎になったら、液状の内容物が虫垂の入り口の線を越える以前に虫垂を外科的に摘除したほうが良い。虫垂から炎症がはみ出ると腹膜炎が起こる。腹膜炎は腹腔を被う膜全体に波及した炎症である。腹膜炎は死に至る可能性のある疾患である。
(訳注: 虫垂の呼び方は色々ある。appendix, vermiform appendix, appendix vermiformis, appendix ceci, processus vermiformis, vermiform appendage, vermiform process, vermix)
 結腸は、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸からなる。上行結腸は、体の右側を肝臓の高さまで上向する。横行結腸は、肝臓と胃の直下の腹腔を横切る。下行結腸は、体の右側を下行して通り抜ける。S状結腸は直腸に流入する結腸の末尾の20cmの部分である。直腸は、肛門で開口する。肛門は排便がおこる場所である。(単語: defecate; 排便する、expulsion; 排泄する、feces; 排泄物、糞便)排泄物が蠕動によって直腸に到達すると、排便反射がおきる。直腸壁が伸展すると、脊髄に向かった神経活動電位が誘発されて、その後すぐに直腸筋の収縮と肛門括約筋の弛緩がおこる。消化できない物質を排除することも、消化器系が恒常性の維持に役立っている機能である。糞便の3/4は水分で1/4は固形成分である。細菌、線維(消化不能残遺物)、その他の消化不能物質が固形成分に含まれる。糞便が茶色いのはビリルビンが原因である。糞便の匂いは消化されなかった物質が細菌によって分解されることが原因で生じる。細菌の活動はガスの発生の原因でもある。
 長年の間、大腸菌(E.coli)のような通性嫌気性菌(酸素の存在下でも非存在下でも生活できる細菌)は、結腸の主要な常在菌であると考えられてきた。しかし、新しい培養研究の結果、99%以上の結腸細菌は偏性嫌気性菌(酸素が存在下では死滅する細菌)であることがわかった。腸内細菌は消化不能物質を分解するだけでなく、幾種類かのビタミンとその他の我々の体内に吸収されて利用される分子を産生する。大腸菌(のうち病原性がない腸内細菌)の数がある一定の水準以上である水系で泳ぐことは安全でないとされている。大腸菌の数が多いことは、水系に大量の糞便が流入していることを示唆している。水系に糞便が多く存在することは、病原性の細菌が多く存在する可能性が高いことをも意味する。

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Figure 4.8 junction of the small intestine and the large intestine. 小腸と大腸の接合部

 盲腸は上行結腸の盲端である。虫垂は盲腸に付随する。


Figure 4.9 Defecation reflex 排便反射

 便の直腸への蓄積は直腸を伸展させる。そのことで、直腸が収縮して糞便が排泄される反射が誘発される。


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Polyps ポリープ

 結腸はポリープの好発部位である。ポリープは上皮の層から発生する小さな隆起性病変である。ポリープは、病変が良性のものであっても癌であっても、外科的に摘除することが可能である。結腸癌がポリープの段階で検出されれば、治療の結果は完治であると予測することができる。研究者の中には、食物中の脂肪分が結腸癌を引き起こす物質であろうと考えている者がいて、その理由は食物中の脂肪が胆汁の分泌を促進するからであるというのである。腸内細菌は、胆汁塩を癌の発育を促進する物質に変化させるのかもしれない。他方で、食物中の繊維分は結腸癌の発生を抑制すると考えられている。食物繊維は水分を吸収して容積を増大させる。そのことで、胆汁塩の濃度が薄まり、腸管壁に沿った物質の運動が促進される。定期的に排泄が行われることで、結腸壁が糞便中の発癌促進物質に曝露される時間が減少する。


Diarrhea and Constipation 下痢(げり)と便秘(べんぴ)

 二つの主要な日常的な結腸におこる問題といえば、下痢と便秘である。下痢の主要な原因は下部消化管の感染と神経刺激である。感染が原因の場合、例えば毒物が混じった食物による食中毒により、腸管壁は刺激され、腸管の蠕動が亢進する。水分が吸収されなくなり、下痢をすることで体内から病原生物が除去される。神経性の下痢の場合は、神経系が腸管壁を刺激することで、下痢が起こる。遷延した下痢により、1. 水分の損失が原因の脱水 と 2. 血液中の塩分のバランスが崩れること が原因の心臓障害 がおこることがある。
 便秘になると、便は乾燥して固くなる。便秘が起こる原因の一つに、社会生活に適応した人は排便することがまずい状況で排便を抑制する術(すべ)を身に付けているということがある。食物の二つの成分が排便を減らすのに役立つ。それは、水分と繊維である。水分の吸収は糞便が乾燥するのを防ぐし、繊維は排泄に必要なだけの容積を確保するのに役立つ。通じ薬(下剤)を頻繁に使用することは、思いとどまるべきである。しかしながら、もしも通じ薬が必要になったのなら、膨張性下剤が最も自然であるという点でよい。何故なら、膨張性下剤は繊維と同様に結腸に柔らかいセルロースのかたまりを形成するからである。鉱質油のような滑沢剤(かったくざい)は結腸を潤滑にし、マグネシアミルク(水酸化マグネシウムの懸濁液)のような塩類下剤は浸透圧を利用して働く。塩類下剤は、水分の吸収を抑制し、量によっては(多く用いれば)水分が結腸に流入するように働く。下剤のうちの幾つかは、刺激剤である。腸管刺激剤は、腸管の蠕動を結腸の内容物が排泄される程度にまで増強させる。
 慢性の便秘は、痔の発達と関連がある。拡大して炎症を起こした血管が痔の原因になる。

 大腸は消化酵素を産生しない。大腸は水分、塩分、ビタミン類の幾つかを吸収する。



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4.2 Three Accessory Organs 三つの補助器官

 膵臓(すいぞう)、肝臓(かんぞう)、胆嚢(たんのう)は消化器官の補助器官である。Figure 4.1 は、膵臓から出る膵管 と 肝臓と胆嚢から出る総胆管 が 十二指腸 に入るまでにどのようにして吻合しているかを示している。


The Pancreas 膵臓

 膵臓は腹腔の奥深くにあり、腹壁の後部に被(かぶ)さっている。膵臓は横長でやや押し潰されたような形状で、内分泌と外分泌の機能をもっている。膵臓は内分泌腺としてインスリンとグルカゴンを分泌する。インスリンとグルカゴンは血中グルコース濃度を正常域に保つホルモンである。では、膵臓の外分泌腺としての機能はどうであろうか。多くの膵臓の細胞は膵液を産生する。膵液には炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)とあらゆる種類の食物に対しての消化酵素が含まれている。炭酸水素ナトリウムはキームスを中和する。ペプシンは胃内での産生のpHで最もよく機能するのに対して、膵臓由来の消化酵素はやや塩基性のpHで最もよく機能する。膵アミラーゼはデンプンを消化し、トリプシンはタンパク質を消化し、リパーゼは脂肪を消化する。嚢胞線維症という病気では、濃厚な粘液が膵管を閉塞し、患者は消化活動が適切に機能するために膵臓が産生する酵素を経口的に補給しなければならない。


The Liver 肝臓

 肝臓は、体内でもっとも大きな臓器で、腹腔の右側の横隔膜の下に主要な部分が存在する。肝臓には右葉と左葉の二つの葉が存在する。左葉は小さな葉で、体の正中をまたいで(左側にある)胃の上方に位置する。肝臓には、大凡100,000(10万)の肝小葉がある。肝小葉は肝臓の機能からみた構造単位である。以下に記す三つの構造(動脈, 門脈, 胆管)でできている三つ組み(みつぐみ、トライアッド) が肝小葉の間に存在する。(1)肝動脈の枝、酸素が結合した血液を肝臓に運ぶ。(2)肝門脈の枝、腸管で吸収した栄養分を運ぶ。(3)胆管、胆汁を肝臓から排泄する。肝小葉の中心にある中心静脈は肝静脈に流入する。Figure 4.11に示してあるように、肝臓は肝門脈(Figure の 2.)と下大静脈に流入する肝静脈(4.)の間に位置していることに注目されたい。
 幾つかの点において、肝臓は血液の門番的な役割を果たしている。腸管からきた血液が肝臓を通ると、血液中の毒性物質は除去され、血液の成分が一定になるように肝臓は働く。肝臓は鉄分や脂溶性ビタミンであるビタミンA,D,E,Kを血中から取り出して貯蔵している。肝臓は血漿タンパクをアミノ酸から合成し、脂質を脂肪酸から合成する。肝臓はコレステロールの生成も行っており、血中コレステロールの量の調節に役立っている。
 肝臓の働きで、血中ブドウ糖濃度(血糖値)は約100mg/ml(0.1%)にたとえ間歇的(かんけつてき)に物を食べていても保たれる。門脈血中の余分なブドウ糖は肝臓で血液から取り除かれてグリコーゲンの形で肝臓に貯蔵される。食事と食事の間の血糖値が低下する時期には、グリコーゲンは分解されてブドウ糖になり、肝静脈に入り、この仕組みによって血中ブドウ糖濃度は一定に保たれる。
 グリコーゲンの補給が枯渇(こかつ)すると、肝臓はグリセロール(脂肪由来)やアミノ酸をブドウ糖分子に変換する。アミノ酸からグルコースに変換する反応は、アミノ酸を取り除く脱アミノ反応が必要である。複雑な代謝経路を経て、肝臓は今度は(脱アミノで取り除かれた)アンモニアを二酸化炭素と結合させて尿素を生成する。

2NH3+CO2 H2N-CO-NH2
アンモニア二酸化炭素 尿素

 尿素はヒトにおける日常的なアミノ酸由来の窒素性老廃産物である。尿素は肝臓で生成された後、腎臓から排泄される。
 肝臓は胆汁を産生する。胆汁は胆嚢(たんのう)に貯蔵される。胆汁は黄みがかった緑色をしていて、その色は胆汁色素であるビリルビンの色である。ビリルビンは赤血球の赤色色素であるヘモグロビンの分解産物である。胆汁は胆汁塩も含んでいる。胆汁塩は 1.コレステロール や 2.小腸の乳化された脂肪 由来の物質である。脂肪が乳化されると、分解して脂肪滴になり、表面積が広くなり、膵臓由来の消化酵素の作用を受けやすくなる。
 まとめると、以下に列挙したような重要な内容で肝臓は恒常性の維持に役立っている。

1. 毒性物質を取り除いて代謝(分解)することで血液を解毒する。
2. 鉄分(Fe2+) と 脂溶性のビタミンA,D,E,K を貯蔵する。
3. アルブミン、フィブリノーゲンといった血漿タンパクをアミノ酸から産生する。
4. 食事の後にブドウ糖をグリコーゲンの形で貯蔵し、食事と食事の間にグリコーゲンをブドウ糖に分解して血中グルコース濃度を保つ
5. アミノ酸の分解産物から尿素を産生する。
6. ヘモグロビンの分解産物であるビリルビンを血液から取り除き、ビリルビンを肝臓で産生する胆汁に混ぜて分泌する。
7. 脂肪酸から脂質を産生する。脂肪酸を産生して血中コレステロール濃度を保つのに役立つ。脂肪酸の幾分かを胆汁塩に変換する。


Figure 4.11 Hepatic portal system 肝門脈系
 肝門脈は消化器系で吸収した消化物質を肝臓に運ぶ。それらの物質は肝臓で適切に処理されて、心血管系に入る。


Liver Disorders 肝疾患(肝臓の障害)

 黄疸(おうだん)、肝炎(かんえん)、肝硬変(かんこうへん)は肝臓の三つの重篤(じゅうとく)な疾患であり、肝臓全体が病変により悪影響を受け、肝臓の自己修復能が妨害される。それ故、これらの三大疾患は生命を脅かす疾患である。黄疸になると、目の白目の部分と肌が白い人の肌の色は黄みをおびる。血中のビリルビンの量の増加が原因で、ビリルビンは肌に沈着する。溶血性(ようけつせい)の黄疸では、赤血球の崩壊する量が異状に多くなっている。閉塞性(へいそくせい)の黄疸では、胆管が閉塞していたり肝細胞が障害を受けていたりする。(訳注: 黄疸の発生機序の詳細な分類は内科学や小児科学の教科書を参照しよう。)
 黄疸は肝臓の炎症である肝炎が原因でもおこる。ウィルス性肝炎には幾つかの型がある。A型肝炎は、通常、汚水の混和した飲用水(生水)を飲むことが原因でおこる。B型肝炎は、通常、性交による感染で広まり、輸血や針刺事故などでも感染する。B型肝炎ウィルスは、B型肝炎と同様の感染様式のAIDSウィルス(HIV)よりも感染力が強い。有難いことに、今日ではB型肝炎に有効なワクチンがある。C型肝炎は、感染血と接触することで感染するが、C型肝炎に対するワクチンはなく、C型肝炎は慢性肝炎や肝癌へ進行して死に至ることがある。(訳注: ウィルス性肝炎の病型も内科学の教科書参照。)
 肝硬変はもう一つの慢性の肝疾患である。最初に肝臓は脂肪肝になり、肝組織は次に線維性瘢痕組織(せんいせいはんこんそしき)に置き換えられる。肝硬変はアルコール中毒患者にみられる。1. 栄養不良 と 2. 細胞毒性のあるアルコールが過剰に存在すること で、肝臓は崩壊を余儀なくされる。
 肝臓は驚くべき生成能力をもっていて、再生速度が障害を受ける速度を上回っているならば、再生することができる。肝不全になると、肝臓は自己修復するための十分な時間的余裕を無くしてしまう。肝不全に対して選択可能な治療法は通常肝臓移植であるのだが、人工肝臓も既に開発されていて二・三の症例で既に試用されている。人工肝臓の一つの型は肝細胞が中に入っているカートリッジ(交換式のケース)である。患者の血液は、カートリッジの中のセルロース酢酸塩でできた管を通過し、正常な肝細胞から受けるのと同様の働きを受ける。人工肝臓で補助を受けている間に、患者の肝臓は回復する可能性がある。


The Gallbladder 胆嚢

 胆嚢は洋梨状の形をした筋肉でできた嚢状の臓器で、肝臓の表面に貼りついている。約1,000mlの胆汁が肝臓で一日の間に産生され、幾分かの余剰な胆汁は胆嚢に貯蔵される。胆嚢内の胆汁の水分は胆嚢で再吸収され、胆汁は濃厚で粘稠な性状になる。必要に応じて、胆嚢から胆汁は放出され、総胆管を経て十二指腸へ向かう。
 胆汁のコレステロール成分は液体成分から凝縮されて、結晶を形成することがある。結晶が大きく成長すると、胆石(コレステロール胆石)になる。胆嚢から胆石が排泄される過程で総胆管は閉塞され、閉塞性黄疸の原因となる。その際は、胆嚢は外科的に摘出する必要がある。(訳注: 胆摘術は内視鏡で行える(ラパ胆)。)

 膵臓は膵液を産生する。膵液には食物の消化に必要な酵素が含まれている。多くの肝臓の機能の中に、胆汁の産生があり、胆汁は胆嚢に貯蔵される。




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4.3 Digestive Enzymes 消化酵素

 消化酵素は加水分解酵素である。加水分解酵素は、物質を特定の結合の間に水(H2O)を挿入して分解する酵素である。消化酵素は、他の酵素と同様に、特定の基質と結合する特異的な形状の部分をもったタンパク質である。酵素は至適pHをもっているという性質もある。至適pHの状態で、酵素はその形状を保持することができ、そのことが原因で特異的反応の速度が増加する。  消化液の中には様々な消化酵素が存在していて、以前に述べたように、炭水化物、タンパク質、核酸、脂肪といった主要な食物の成分の分解に役立っている。デンプンは炭水化物で、その消化活動は口で始まる。唾液腺が分泌する唾液はpHが中性で、デンプン消化で最初に働く酵素である唾液腺アミラーゼが含まれている。

唾液腺
アミラーゼ
 
salivary
amylase
 
starch +  H2Omaltose
デンプン 水麦芽糖

 この反応式で、唾液腺アミラーゼは矢印の上に記されていて、反応の反応物でも生成物でもないことを示している。唾液腺アミラーゼは、基質であるデンプンが多くの二糖類の麦芽糖分子に分解される反応の速度を速くしているにすぎない。麦芽糖分子は消化管からは吸収されない。続いておこる小腸での反応で、麦芽糖は吸収可能なブドウ糖に分解される。
 タンパク質の消化は胃ではじまる。胃腺から分泌される胃液は非常に低い約2のpHである。それは胃液には塩酸(HCl)が含まれているからである。ペプシノーゲンは酵素であるペプシンの前駆物質であり、やはり胃液の成分である。ペプシンはタンパクに働いてペプチドを生成する。

ペプシン 
pepsin 
protein +  H2Opeptides
タンパク 水ペプチド(複数)

 ペプチドは長さがまちまちであるが、常に幾つものアミノ酸が結合したものである。ペプチドは通常小腸の上皮から吸収するには大きすぎる分子である。しかし、後ほど小腸でアミノ酸に分解されるのである。
 デンプン、タンパク質、核酸、脂肪は全て小腸に於いて酵素により分解される。十二指腸に流入する膵液は、塩基性のpHであり、それは炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を含んでいるからである。炭酸水素ナトリウムはキームスを中和し、膵臓の酵素に至適なやや塩基性のpHにする。膵臓由来の酵素の一つである膵アミラーゼはデンプンを消化する。


アミラーゼ
 
pancreatic
amylase
 
starch +  H2Omaltose
デンプン 水麦芽糖

 膵臓由来の別の酵素であるトリプシンはタンパク質を消化する

トリプシン 
trypsin 
protein +  H2Opeptides
タンパク 水ペプチド(複数)

 トリプシンはトリプシノーゲン(前駆物質)の形で分泌されて、十二指腸でトリプシンに変換される。
 リパーゼは、膵臓由来の三つ目の酵素で、脂肪滴の中の脂肪分子を胆汁塩とともに乳化された後で消化する。

胆汁塩
bile salts
fatfat droplets
脂肪脂肪滴

リパーゼ 
lipase 
fat droplets +  H2Oglycerol+ fatty acids
脂肪滴 水グリセロール 脂肪酸

 リパーゼによる消化の最終産物であるグリセロールと脂肪酸は、吸収がおこる場所である小腸の絨毛の細胞を通過するのに十分な小ささである。前に述べたように、グリセロールと脂肪酸は、絨毛の細胞に滲入し、細胞の中で再結合してリポタンパク滴の形で乳糜管(にゅうびかん)に入る。

ペプチダーゼ 
peptidases 
peptids +  H2Oamino acids
ペプチド 水アミノ酸(複数)

 麦芽糖は二糖類であり、デンプン消化の第一段階の産物であり、マルターゼによりブドウ糖に分解される。

マルターゼ 
maltase 
maltose +  H2Oglucose +  glucose
麦芽糖 水ブドウ糖ブドウ糖

 他の二糖類のそれぞれが固有の酵素をもち、小腸で消化される。それらの酵素のどの一つが欠けることも病気の原因となる。例えば、多くの人々、その中にはアフリカ系アメリカ人(黒人は差別用語)の75%がいる、はミルクの中に存在する糖類である乳糖を消化することができない。それは、乳糖を構成成分であるブドウ糖とガラクトースに分解する酵素であるラクターゼを産生しないからである。ラクターゼを持たない人が、未処理のミルクを飲むと乳糖不耐症(下痢、ガス(放屁)、痙攣(けいれん))の徴候をきたす。その原因は腸管に未消化な乳糖が大量に存在することである。殆どの地域で、乳糖除去ミルクを購入することが可能である。乳糖除去ミルクには、乳糖を分解する作用のある合成ラクターゼやアシドフィルス菌が添加されている。
 Table 4.2 は消化管や唾液腺や膵臓で産生される主要な消化酵素を列挙している。食物の構成成分はそれぞれ特異的な酵素により消化される。

 消化液中に存在する消化酵素は、食物を栄養分子に分解するのに役立っている。ブドウ糖、アミノ酸、脂肪酸、グリセロールといった栄養分子に。ブドウ糖とアミノ酸は絨毛の毛細血管に吸収され、脂肪酸とグリセロールは上皮細胞で転換されてリポタンパク滴になって乳糜管(にゅうびかん)に入る。



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Table 4.2 Major Digestive Enzymes 主要な消化酵素
Food
食物
Digestion
消化
Enzyme
酵素
Optimum pH
至適pH
Produced by
産生臓器
Site of Action
作用部位
Starch
デンプン
starch + H2O → maltose
デンプン + 水 → 麦芽糖
Salivary amylase
唾液腺アミラーゼ
Neutral
中性
Salivary glands
唾液腺
Mouth
Pancreatic amylase
膵アミラーゼ
Basic
塩基性
Pancreas
膵臓
Small intestine
小腸
Maltose + H2O → glucose
麦芽糖 + 水 → ブドウ糖
Maltase
マルターゼ
Basic
塩基性
Small intestine
小腸
Small intestine
小腸
Protein
タンパク
protein + H2O → peptides
タンパク + 水 → ペプチド
Pepsin
ペプシン
Acidic
酸性
Gastric glands
胃腺
Stomach
Trypsin
トリプシン
Basic
塩基性
Pancreas
膵臓
Small intestine
小腸
Peptides + H2O → amino acids
ペプチド + 水 → アミノ酸
Peptidases
ペプチダーゼ
Basic
塩基性
Small intestine
小腸
Small intestine
小腸
Nucleic Acid
核酸
RNA and DNA + H2O → nucleotides
RNA や DNA + H2O → ヌクレオチド
Nuclease
ヌクレアーゼ
Basic
塩基性
Pancreas
膵臓
Small intestine
小腸
Nucleotides → bases, sugars, phosphate ions
ヌクレオチド → 塩基, 糖, リン酸イオン
Nucleosidase
ヌクレオシダーゼ
Basic
塩基性
Small intestine
小腸
Small intestine
小腸
Fat
脂肪
Fat droplets + H2O → glycerol + fatty acids
脂肪滴 + H2O → グリセロール + 脂肪酸
Lipase
リパーゼ
Basic
塩基性
Pancreas
膵臓
Small intestine
小腸

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Conditions for Digestion 消化に適した条件

 研究室での実験により、消化に必要な状態を明確にすることができる。例えば、四つの試験管を用いて、胃で酵素ペプシンにより消化される卵白の消化活動を観察することができる。
 四つの試験管は体温と同じ温度に設定された孵卵器(ふらんき)に設置された後、少なくとも四時間放置された後、結果の観察報告が記載される。試験管1は、対照(コントロール)の試験管である。酵素やHClが無いため、この試験管では消化活動はおこらない。(対象の試験管が陽性の結果を示すなら、実験は無効である。)試験管2は、消化活動はおこらないか制限された結果を示す、というのもHClが欠けていて、酵素が活性を示すにはpHが高すぎるからである。試験管3は、消化活動がおこらない結果を示す、というのもHClがあっても酵素が無いからである。試験管4は、最も良い消化活性を示す、というのも酵素が存在していてHClによって酵素の至適pHになっているからである。この実験は消化に関する次のような仮説を支持する。「基質と酵素は至適な環境に置かれていなければならない。」至適な環境には、暖かい温度と適切なpHが含まれる。

Figure 4.12 Digestion experiment. 消化の実験

 この実験は、胃と同様のペプシン活動に至適な状態に設定されている。実験の結果により、消化活動に必要な 1.適切な酵素、2.至適pH、3.至適温度、4.適切な基質 を知ることができる。




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4.4 Homeostasis 恒常性

 前のページは消化器系がどのようにして他の系と共に恒常性の維持に働くかを示している。
 消化管の内部で我々が食べた食物は、小腸の絨毛から吸収されるだけの小ささの栄養物に分解される。消化酵素は、唾液腺、胃腺、小腸腺から分泌される。消化器系の三つの付属器官(膵臓、肝臓、胆嚢)も食物の分解に関与する分泌を行っている。肝臓は脂肪を乳化する胆汁(胆嚢に貯蔵される)を産生する。膵臓は炭水化物、タンパク質、脂肪を分解する酵素を産生する。これらの腺からの分泌は、導管を通って小腸に分泌され、分泌は消化管で産生されるセクレチンのようなホルモンによって調節される。それ故、消化管は内分泌系の一部分でもある。
 血液は小腸の部位から肝臓まで門脈を経路として栄養を運ぶ。肝臓は代謝を行う臓器の中で最も重要な臓器である。胆汁の産生の他にも、肝臓は血中のコレステロール濃度を調節し、血漿タンパクを生成し、ブドウ糖をグリコーゲンの形で貯蔵し、尿素を産生し、毒物を代謝する。このように肝臓は重要な臓器であるので、肝炎や肝硬変といった肝臓に障害をもたらす病気は非常に危険である。




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4.5 Nutrition 栄養

 身体は食物中にある三大栄養素(多量養素)、すなわち、炭水化物、タンパク質、脂肪を必要とする。三大栄養素は、エネルギー源であり、細胞の構成要素を生合成するのに必要な建築資材である。微量栄養素(微量養分)、特にビタミンや無機質(ミネラル)もまた必要である、というのも、微量栄養素は細胞内の代謝が最適な状態で行われるのに必要だからである。
 最近の幾つかの栄養学的な研究では、特定の栄養物質が 心疾患 や 癌 や その他の重篤な疾患 の防御手段になっていることを示差している。そういった研究の内容には、合衆国や世界中の健康な人々の食生活の分析、とりわけ心疾患と癌の発症率の低い集団についての分析が含まれている。研究の結果は、食物ピラミッドの形で示した推奨食品成分として示されている。(Fig. 4.13)
 食物の多くは、エネルギー源である、パン、シリアル、米飯、パスタである。穀物を製粉しないでそのままの状態で摂取することが推奨されている、というのも挽(ひ)かない状態のほうが繊維やビタミンやミネラルを多く含んでいるからである。野菜と果物は、もう一つの繊維やビタミンやミネラルを豊富に供給する食品である。そういうことで、野菜を多く摂取することが推奨されるのだということを知っておきたい。
 動物性食品、特に肉は食事の中には最小限に含まれていれば良い。脂肪や甘味料は控えるべきである。乳製品と肉は脂肪を多く含んでいがちで、食品に含まれている脂肪の摂取は心血管系の疾患の発症の危険性を増加させる。低脂肪乳製品を入手することは可能であるが、肉類から脂肪の大部分を取り除くことは無理である。牛肉は、特に多く脂肪を含んでいる。皮肉にも合衆国民の多くが栄養学的に貧相な食事をしていて、それ故、疾患(心疾患)の予備軍となっている。裕福な階層の人々だけが 1.穀物を十分に与えられた牛 や 2.複雑な工程を経て繊維分を取り除いて砂糖と食塩を加えた炭水化物 を食べることができる。


Figure4.13 Food guide pyramid: A guide to daily food choices. 推奨食品のピラミッド: 毎日の食品選択の指針

 合衆国農務省は、理想的な食物の観念を示すためのピラミッドを用いている。それは、ピラミッドを用いることで、穀物、果物、野菜を食事に取り入れることの重要性を協調できるからである。肉類と乳製品は必要最小量のみ必要である。脂肪、油、甘味料は控えるべきである。出典; 合衆国農務省



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Carbohydrates 炭水化物

 一番早くすぐに利用することができる体のエネルギー源はブドウ糖である。炭水化物は単糖類まで消化され、単糖類はブドウ糖に変換されることができる。ブドウ糖は肝臓でグリコーゲンの形で貯蔵される。食事と食事の間、血中ブドウ糖濃度は、1.グリコーゲンの分解 2.脂肪由来のグリセロールからブドウ糖への転換 3.アミノ酸からブドウ糖への転換 の機序により、約100mg/100mlに保持される。必要な際には、(自分の)筋肉からアミノ酸を取り出すこともできる。(自分の筋を分解して糖新生)原料の筋肉は心筋のこともありうる。体細胞は脂肪酸をエネルギー源として利用できるのに対して、脳細胞はブドウ糖のみをエネルギー源とする。このことだけが理由で、食物中には炭水化物が含まれている必要がある。Fig. 4.13 によれば、炭水化物は食事の中の多くの部分を占めている必要がある。更に言えば、摂取する炭水化物は、単純な構造のものよりも複雑で高次な構造の炭水化物であることが望ましい。複合(複雑な構造の)炭水化物としては、なるべく全粒(ぜんりゅう; ふすまを取り除かないで挽いて粉にする)の粉でできたパスタ、米飯(玄米?)、パン、シリアル等をとることが望ましい。(Fig. 4.14)ジャガイモやトウモロコシは野菜に分類されるが、炭水化物源でもある。
 単純炭水化物(つまり、糖類)は「空っぽのカロリー」であるととある栄養学者が言っている。それは、糖類がエネルギーの需要に答えて体重増加にだけ貢献するだけで、他の栄養素の要求を満たすことはないからである。Table 4.3 は、如何にして食物中の糖分(単純炭水化物)を減らすかに関しての提案を示している。単純炭水化物と比べて、複合炭水化物は、幅広い範囲の栄養物質と消化不能な植物由来の物質である繊維が混ざっていることが多い。
 食物繊維の摂取が推奨される、というのも、食物繊維は 1.主要な癌の一つである結腸癌 2.合衆国で一番の死因である心疾患 になる危険性を下げるからである。不溶性の繊維、例えば小麦のふすまの中に見られるような繊維には、便通を良くする効能があって、結腸癌を防ぐ働きをする。それは、発癌物質が腸間壁に接触する時間が限られた時間になるからである。可溶性の繊維、例えばカラス麦(オート麦)に見られるような繊維は、腸管で胆汁とコレステロールと結合し、胆汁やコレステロールが吸収されるのを抑制している。すると、肝臓は血液からコレステロールを取り除き、胆汁に変換して、排出された胆汁を補填(ほてん)している。食物には適度な量の繊維が必要である一方、繊維が過剰な食事は有害である。幾つかの事実から、食物中に過剰な繊維が含まれている場合、鉄分、亜鉛、カルシウムの吸収が損傷されるということがわかっている。

 複合炭水化物は繊維を含んでいて、食事中に多く含まれていることが望ましい。


Table 4.3 Reducing Dietary Sugar 食事から糖分を減らす

食事から糖分を減らすには、
1. 甘いもの、例えば、キャンディー、ソフトドリンク、アイスクリーム、ペーストリー(ケーキ類)を控える
2. 果物 か 糖分の多いシロップの入っていない果物の缶詰 を食べる
3. 白糖、黒砂糖、生糖 等の砂糖類を控える、蜂蜜 や シロップ を控える
4. 甘い味付けの朝食シリアルを食べないようにする
5. ゼリー、ジャム、プリザーブ(果物のシロップ漬けやジャムの総称)を控える
6. 本物の(100%の)フルーツジュースを飲む、えせ果汁は飲まない
7. 調理に際しては、食物に風味を添える手段として砂糖の代わりにシナモンのような香辛料を用いる
8. 紅茶やコーヒーに砂糖を入れない


Figure 4.14 Complex carbohydrates. 複合炭水化物

 エネルギー需要を満たすために、栄養学者は、キャンディーやアイスクリームといった単純炭水化物よりも写真に示したような複合炭水化物を豊富に含んでいる食物を摂取することを推奨している。単純炭水化物は単糖類の供給源であるが、他の栄養素は含んでいない。



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Proteins タンパク質

 タンパク質を多く含んでいる食物には、肉の赤身、魚肉、鶏肉、乳製品、マメ類(エンドウ類、ソラマメ類・インゲン類)、ナッツ類、シリアル類がある。タンパク質は消化された後、アミノ酸となって血流に入り、組織に輸送される。通常、アミノ酸はエネルギー源としては使用されない。アミノ酸の多くは、筋肉、皮膚、毛、爪に見られる構造タンパクに組み込まれる。ヘモグロビン、血漿タンパク、酵素、ホルモンといったタンパク質を合成するのに用いられるアミノ酸もある。
 アミノ酸を不足無く合成するには20種類の異なった種類のアミノ酸が必要である。20主の生体アミノ酸のうち、8種類は成人の食事に含まれている必要がある、それは体内で生合成することができないアミノ酸だからである。(訳注: このテキストでは小児の必須アミノ酸は9種類としているが、10種類としている本もある、ひょっとして人種の違いなのだろうか?)これらのアミノ酸は必須アミノ酸という用語で呼ばれる。身体は、必須でない11種のアミノ酸を、ある型のアミノ酸を別の型のアミノ酸に変換することで産生することができる。タンパク源の中には、例えば肉のように完璧なものがある。肉は20種類全てのアミノ酸の供給源になる。野菜と穀物は我々のアミノ酸供給源となる、しかし、野菜や食物は単体では不完全なアミノ酸供給源である、それは、少なくとも一種類の必須アミノ酸を欠いているという欠点があるからである。1種類のアミノ酸が欠損することで、他の19種類のアミノ酸の利用の障害となる。大豆 と ダイズから作られる豆腐(トーフ 既に英語だってか?) はアミノ酸が豊富であるが、全ての必須アミノ酸を得るために多くの種類の食品を組み合わせることが賢いといえる。例えば、シリアルとミルク、マメ類のソラマメと穀類のコメといった組み合わせは、全ての種類のアミノ酸を得るのに必要である。(Table 4.4)
 アミノ酸は体内に貯蔵されず、毎日供給することが必要である。けれども、野菜中心の食事では毎日必要なタンパク質の量はまかなえない。一日に二回の食事に肉類を食べれば通常は十分である。(二回の食事は、一揃いのアミノ酸のカードのデッキの総量を得るのと等しい。(訳注: トランプの一揃いや、ポケモンカードのデッキの一組、マジック・ザ・ギャザリングのデッキ、花札や UNO の一揃い がデッキの概念だ。)) 肉類を含む食品の中には(例えばハンバーガーは)、タンパク質を多く含んでいると同時に脂肪も多く含んでいるものがある。あらゆる事象から考えると、タンパク源を合衆国の標準的な水準よりももっと多く食物由来のもの(つまり、全粒の穀物のシリアル、黒パン、マメ類)に頼ることが良い考えであるといえる。このことは、先祖とは異なった食生活をしているハワイ原住民の健康に関する統計にも見ることができる。(Fig. 4.15) 現代の食事は植物性よりも動物性のタンパク質に依存していて、その42%は脂肪である。ある統計学的な研究は、ハワイ島の原住民の心血管系疾患や癌による死亡率は、今日では(世界/合衆国の?)平均的な死亡率よりも高い率であることを示している。現代人の食生活をしている人では糖尿病の率も高い。しかし、先祖の食生活に再び切り替えた人の健康は非常に良くなったのだ。
 栄養学者は、タンパクやアミノ酸を補充するための食品を用いることを勧めていない。食べると筋肉質になったり、食事の一環として食べるタンパク剤(プロテイン)はタンパクを多く含む食品よりも吸収が悪いし、普通の食品よりも割高である。アミノ酸製剤は健康に危害を及ぼす危険性がある。特定のアミノ酸が過剰になると、他の不足しているアミノ酸の吸収に障害をきたす。もてはやされている報告とは反対に、リシン(リジン、lys アミノ酸)の摂取はヘルペスによる痛みを和らげたり治癒する効果は無い。痛みを和らげたり不眠を治療する目的でトリプトファンを摂取することも賢明ではない。トリプトファンの製剤を服用して、重篤な筋と関節の痛み と 四肢の腫張 を徴候とする血液疾患(好酸球増多‐筋痛症候群)になった人もいる。


Table 4.4 Complementary Protein Combinations 相補的なタンパク質の組み合わせ

 この中から2つかそれ以上の食品を組み合わせて完全な(アミノ酸の不足の無い)タンパク質を作ろう
Grains 穀類Legumes マメ類Seeds and Nuts
種と木の実
Vegetables 野菜
Barley 大麦Dried beans 乾燥ソラ豆Sesame seeds ゴマLeafy greens 緑色の葉野菜
BulgurDried lentils 乾燥レンズ豆Sunflower seeds ヒマワリの種Broccoli ブロッコリー
Cornmeal トウモロコシ粉Dried peas 乾燥エンドウ豆Walnuts クルミOthers
Oats カラス麦Peanuts ピーナッツCashews カシューナッツ
Rice コメSoy products ダイズ製品Other nuts その他のナッツ
Whole-grain breads 全粒粉のパンNut butters ナッツバター
Pasta パスタ


Figure 4.15 Ancient versus modern diet of native Hawaiians. 古代と現代のハワイ原住民の食事

 ハワイ原住民が本来行っていた食生活に戻ったハワイ原住民は、心血管系疾患や癌、糖尿病の発症率は下がった。




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Lipids 脂質

 脂肪とコレステロールはどちらも脂質である。脂肪はバターやマーガリンや油の成分であるだけでなく、動物性タンパク質を多く含んでいる多くの食品にも含まれている。身体は摂取した脂肪を身体が必要とする形に変化させることができるが、多価不飽和脂肪酸であるリノール酸は合成することができない。飽和脂肪酸は二重結合を持たない。多価不飽和脂肪酸は多くの二重結合を持っている。
 現在のガイドラインでは、脂肪の摂取は一日の摂取カロリーの30%以下にするべきであるとしている。この基準の主な理由は、脂肪の摂取が体重増加の原因になるだけでなく、癌と心血管系疾患の危険性を増加させる。食事の中の脂肪は、おそらく結腸癌、肝癌、膵癌の危険性を上昇させるらしい。最近の調査では、食物中の脂肪と乳癌には関係が無いとしているが、更に詳しく調査することが必要であるとする学者もいる。
 心血管系疾患はしばしば、飽和脂肪とコレステロールからなるプラークと呼ばれる脂肪沈着物が動脈を閉塞することが原因でおこる。コレステロールは二つの型のリポタンパクの形で血液中を運ばれる。低密度リポタンパク(LDL)と高密度リポタンパク(HDL)である。LDLは悪玉脂肪であると考えられている、というのも、LDLは肝臓から組織に脂肪を運ぶからである。一方で HDLは善玉脂肪であると考えられている、それは、コレステロールを肝臓に運び、肝臓はHDLコレステロールを取り除いて胆汁塩に変換するからである。飽和脂肪酸はバターであってもマーガリンであっても、LDLコレステロール値が上昇する原因になる。一方で、一価不飽和脂肪酸(二重結合が一つ)や多価不飽和脂肪酸(二重結合がたくさん)はLDLコレステロール値を下げる。オリーブ油とカノーラ油は、大部分が一価の不飽和脂肪酸である。コーン油とサフラワー油は、大部分が多価不飽和脂肪酸である。これらの脂肪酸は液状の粘度であり、植物性である。飽和脂肪酸は、室温では固体で、通常は動物性である。二つの良く知られた例外があり、それらはパーム油(ヤシ油)とココナッツ油であり、大部分が飽和脂肪酸でできていて植物由来である。
 栄養学者は、食事の脂肪を少なくすることの方が、食事の中に含まれる脂肪の種類が何であるかを過度に気にすることより重要であることを強調している。それでも、多価不飽和脂肪は栄養学的に必要であり、それは多価不飽和脂肪はリノール酸を含んでいる唯一の脂肪の種類であり、体内で合成できない種類の脂肪であるからである。Table 4.5 は食事から脂肪を減らす方法に対しての提案を示している。



Table 4.5 Reducing Lipids 脂質を減らす

食事から脂肪を減らすには、
1. 鶏肉、魚、乾燥ソラ豆、乾燥エンドウ豆をタンパク源にする
2. 鶏肉から調理する前に皮を剥ぎ、網を置いて調理して、脂肪が下にたれるようにする
3. 油で揚げるよりは、あぶったり茹でたり焼いたりするようにする
4. バター、クリーム、水素添加した油(硬化油)、ショートニング、トロピカルオイル(ココナッツや椰子の実の)を控える
5. 野菜の味付けにバターの代わりにハーブと香辛料を使う
6. 全乳の代わりに脱脂粉乳を飲む、脱脂粉乳を調理とパン焼きに使う
7. 脱脂/減脂食品を食べる

食事からコレステロールを減らすには、
1. チーズ、卵の黄身、肝臓(レバー)、ある種の甲殻類(エビ、ロブスター)を避ける。魚と鶏肉を食べるようにする
2. 卵黄の代わりに卵白を用いる、調理するにも、食べるのにも
3. 可溶性繊維を食事に用いる。カラス麦、オートミール、エンドウ豆、トウモロコシ、リンゴ、かんきつ類、クランベリーが可溶性繊維を多く含んでいる


Fake Fat 偽脂肪

 オレストラは、見かけ、味、動態が本物の脂肪に似ているが消化器系は吸収することができないような性質の作られた物質である。消化器系の全長を吸収されずに下降し、一日のカロリーの総量に何のカロリーを追加することも無い。それ故、オレストラは一般に「偽脂肪」として知られている。残念なことに、脂溶性のビタミンA,D,E,Kはオレストラに吸収されて、身体に吸収することができなくなる。同様に、オレストラを食用している人は、血中のカロテノイドの量が減少する。ある研究によると、少量のオレストラを浸したポテトチップが原因で血中のβカロチンの量を20%減少したという。製造業者はオレストラ含有食品にビタミン強化の加工は施すが、カロテノイドに関しては何もしていないのである。
 もっとはっきりした現象として、オレストラを摂取した人の中には、肛門からの滲出、下着の染みが出るようになった人がいるというのである。別の人は、下痢、腸管の痙攣、放屁をきたした。目下、米国食品医薬品局(FDA)はポテトチップや塩分の多いスナック菓子にオレストラを使用するのを制限しようとしているのだが、製造業者はオレストラをアイスクリームやサラダドレッシングやチーズに添加する認可を要求している。

 食物中のタンパク質は、必須アミノ酸を供給する。植物性タンパク質は一般に含有している脂肪の量が少ない。食事中の脂肪は30%以下であることが望ましい、というのも、脂肪、特に飽和脂肪の摂取は、様々な健康の障害と関連があることが知られているからである。



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Vitamins ビタミン類

 ビタミンは有機化合物(炭水化物、脂肪、タンパク質とは異なった)であり、体内で構成することができず、体で代謝の際に利用される。多くのビタミンは、酵素の働きを助ける補酵素の一部分である。ナイアシンは補酵素NADの一部であり、リボフラビンは別の脱水素酵素であるFADの一部分である。補酵素は微量しか必要でない、何故なら補酵素は繰り返し使用されるからである。全てのビタミンが補酵素であるわけではない。例えばビタミンAは、光覚色素の前駆物質であり、夜盲症を防ぐ働きがある。食物中にビタミンが不足していると、様々な徴候が出てくる。合計13のビタミンがあり、脂溶性のものと水溶性のものに分けられる。


Antioxidants 抗酸化剤

 この20年以上の間、果物や野菜を多く含んだ食事が癌を防ぐ効果があるかどうかを調べるべく多くの統計学的研究が行われた。細胞内の代謝活動は、フリーラジカルを産生する。フリーラジカルは電子を余分に持っている不安定な分子である。細胞内に存在するもっとも有名なフリーラジカルとして、スーパーオキシド(O2-) や 水酸化物(OH-) がある。自分自身の状態を安定化するため、それらのフリーラジカルは 1.DNAや 2.酵素を含んだタンパクや 3.細胞の漿膜に見られる脂質 に電子を供与する。そういった電子の供与は細胞を構成する分子を障害すると考えることができ、そのことが原因で疾患、おそらくは癌さえもひきおこすと考えられる。
 ビタミンC,E,A は、身体をフリーラジカルから守ると考えられていて、それ故、抗酸化薬という用語が与えられている。そういったビタミンは、とりわけ果物と野菜に多く含まれている。Figure 4.13 に示した食品の指針は、一日に最低5品の果物や野菜を摂取することを推奨している。その目標を達成するためには、通常はリンゴやオレンジその他を食べているのに加えて、サラダ野菜、生野菜、調理野菜、乾燥果実、果物ジュースを摂取するとよい。
 食品を追加することは、癌や心血管系疾患に対しての潜在的な防衛策となる。しかし、栄養学者は果物や野菜の摂取を改善しないで食品を増やすことは適切でないと考えている。果物の中には、ビタミン剤では得ることのできない多くの有益な化合物が含まれている。そういった化合物は、それぞれのビタミンの吸収や活性を強化し、独立した生物学的活性も持っている。


Vitamin D ビタミンD

 皮膚細胞はコレステロールでできたビタミンDの前駆物質を含んでいて、その物質は紫外線に曝(さら)されるとビタミンDに変換される。ビタミンDは皮膚から離れて、腎臓で最初に分子的な修飾を受け、肝臓に入って最終的にそこでカルシトリオールになる。カルシトリオールは、腸管からのカルシウム吸収を促進する。ビタミンDの欠乏は、小児のくる病の原因になる。くる病は、骨格のミネラルの蓄積の欠陥が原因で弓状に屈曲した脚を特徴とする。今日では、ミルクにビタミンDの強化が施されていて、くる病の発症を防ぐのに役立っている。

 ビタミンは細胞の代謝に必要である。ビタミンの多くは特定の疾患や状態に対する防御手段となる。
(訳注: dentifiable は identifiable の誤植なのか、それとも歯に関係した単語なのか? 前者と解釈して訳した。)


Figure 4.16 Illnesses due to vitamin deficiency. ビタミン不足で生じる病気

a. ビタミンD欠乏が原因で弓状に屈曲した骨格
b. ナイアシン(ビタミンB3)欠乏が原因で感光部位に生じたペラグラ皮膚炎
c. ビタミンC欠乏が原因で生じた歯肉出血


Table 4.6 Fat-Soluble Vitamins 脂溶性ビタミン
ビタミン機能食物源欠乏症過剰症
ビタミンA抗酸化剤、βカロチンから合成、眼の健康、肌、毛、筋膜、適切な骨の成長に必要緑黄色野菜、果物、チーズ、全乳、バター、卵夜盲、骨や歯の成長障害頭痛、めまい、聴覚障害
ビタミンD骨と歯の保守に必要なステロイドの集合体ビタミンD強化ミルク、魚の肝油、皮膚で太陽光に暴露されて作られるくる病、骨のカルシウム減少、虚弱軟部組織のカルシウム沈着、下痢、腎障害の可能性
ビタミンEビタミンAや多価不飽和脂肪酸の酸価を防ぐ抗酸化剤緑色野菜、果物、植物性脂肪、ナッツ、全粒粉パン、シリアル知られていない下痢、吐き気、頭痛、疲労、筋力低下
ビタミンK血液凝固の活性化に必要な物質(U\Z]因子)の合成に必要緑色野菜、キャベツ、カリフラワー易損傷性、易出血性抗凝固訳の作用を妨害することがある

Table 4.7 Water-Soluble Vitamins 水溶性ビタミン
ビタミン機能食物源欠乏症過剰症
ビタミンC抗酸化剤、コラーゲンの合成に必要、毛細血管や骨や歯の保守に役立つ柑橘類、緑色野菜、トマト、ジャガイモ、キャベツ壊血病、創傷治癒の遅延、易感染性痛風、腎結石、下痢、銅の減少
サイアミン = ビタミンB1細胞呼吸に必要な補酵素の部分、神経系の活性も促進する全粒穀類のシリアル、エンドウ豆、ヒマワリの種、ナッツ脚気、筋力低下、心肥大他のビタミンの吸収阻害
リボフラビン = ビタミンB2FADといった補酵素の一部、FADはタンパクと脂肪の酸価を含んだ細胞呼吸を助けるナッツ、乳製品、全粒シリアル、鶏肉、緑色野菜皮膚炎、目のかすみ、発育不全知られていない
ナイアシン = ニコチン酸補酵素NADやNADPの一部、NAD(P)はタンパクと脂肪の酸価を含んだ細胞呼吸を助けるピーナッツ、全粒シリアル、鶏肉、緑色野菜、エンドウ豆ペラグラ、下痢、精神障害高血糖、高尿酸、血管拡張
葉酸ヘモグロビンの合成とDNAの構成に必要な補酵素緑の濃い野菜、ナッツ、エンドウ豆、全粒のシリアル巨赤芽球性貧血、二分脊椎B12欠乏を検出させない可能性
ビタミンB6ホルモンやヘモグロビンの合成に必要な補酵素、中枢神経系のコントロール全粒のシリアル、バナナ、エンドウ豆、鶏肉、ナッツ、緑色野菜稀に痙攣、嘔吐、脂漏、筋力低下不眠
パントテン酸炭水化物と脂肪の酸価に必要な補酵素Aの部分、ホルモンとある種の神経伝達物質の形成に必要ナッツ、エンドウ豆、緑の濃い野菜、鶏肉、果物、ミルク稀に食欲消失、抑うつ、かじかみ知られていない
ビタミンB12複雑な構造のコバルト含有化合物、核酸とミエリン鞘の合成に必要な補酵素の一部乳製品、魚、鶏肉、卵、強化したシリアル悪性貧血知られていない
ビオチンアミノ酸と脂肪酸の代謝に必要な補酵素食物一般、特に卵皮膚の発赤、吐き気、疲労知られていない



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Minerals ミネラル(無機塩類)

 ビタミンに加えて、様々なミネラルが身体に必要である。ミネラルはマクロミネラルとミクロミネラルに分けられる。身体はマクロミネラルをそれぞれ5g以上とミクロミネラルをそれぞれ5g以下もっている。マクロミネラルは細胞と組織液の構成成分であり、組織の構造を構成する要素である。例えば、カルシウム(Ca++のかたちで存在)は、骨や歯の構築、神経伝導、筋収縮に必要である。リンは(リン酸イオンPO43-のかたちで存在)は、骨や歯に貯蔵されていて、リン脂質やATPや核酸の構成要素である。カリウム(K+)は細胞内の主要な陽イオンで、ナトリウム(Na+)と同様に神経伝導と筋収縮に重要な役目を持っている。ナトリウムは塩素(Cl-)と同様に体内の水分バランスの調節にも大きな役割を持っている。マグネシウム(Ma++)は多くの酵素の機能に必要である。
 ミクロミネラルは大きな分子に部分的に存在する。例えば、鉄はヘモグロビンの中に存在し、ヨウ素は甲状腺ホルモンのひとつであるチロキシンの中に存在する。亜鉛、銅、セレンは様々な反応を触媒する酵素の中に存在する。その特徴的な形状からジンクフィンガープロテインと呼ばれるタンパクは、特定の遺伝子が発現される際にDNAと結合する。研究が進むにつれ、より多くの元素が生体に必要であると考えられるミクロミネラルのリストに加えられている。この30年間で、例えば、非常に微量のセレン、モリブデン、クロム、ニッケル、バナジウム、ケイ素、さらにはヒ素までもが健康を保つのに必要であることがわかった。Table 4.8は様々なミネラルの機能を示していて、その供給源となる食物、欠損したときと中毒になったときの徴候も記している。

 時折、鉄(特に女性)、カルシウム、マグネシウム、亜鉛が食事に不足している人がいる。成人女性は男性よりも多くの鉄が必要である(女性18mg, 男性10mg)、というのも、女性は毎月 月経でヘモグロビンを失うからである。ストレスはマグネシウム欠乏をもたらし、菜食主義者の繊維の多い食事は、身体での亜鉛の利用を低下させる。しかしながら、種類が豊富で栄養学的に完璧な食事は、通常ミネラルのそれぞれの型をまかなうことができる。


Calcium カルシウム

 多くの人々はカルシウムを摂取して、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を防いでいる。骨粗鬆症は、骨の退行性病変で、合衆国では老年男性の1/4、老年女性の1/2が罹患している。骨粗鬆症は 骨を貪食する細胞である破骨細胞 の活動が、骨を形成する細胞である造骨細胞 の活動よりも活発であることが原因である。それ故、骨粗鬆症の骨は多孔性で、容易に壊れやすい。それは、カルシウムの含有量が不十分だからである。最近の、高齢者がカルシウムをより多く摂取することで骨の損傷を遅くすることを示す研究の結果からガイドラインが改訂された。1.男性 と 2.閉経前の女性 と 3.エストロゲン補充療法を受けている(閉経後の)女性 は一日に1,000mgのカルシウムを摂取することが推奨され、閉経後エストロゲン補充療法を受けていない女性 は一日に1,300mgを摂取することが推奨されている。この目標量を達成するには、カルシウム製剤による補充が必要といえよう。
 カルシウム補充に加えて、エストロゲン補充療法と適度な運動をすることは、骨粗鬆症の予防に非常に効果がある。骨の損失を遅くして、その間に骨の量を増加させるような薬物治療を利用することもできる。エチドロン酸二ナトリウムは周期的に、或いは週に一回服用することが必要であるが、正常な骨の変わりに異常な骨が発達する。フォルサマックスは新しい薬であり、継続的に服用できる薬であるが、骨格に蓄積する。それ故、フォルサマックスを長期間投与して安全かどうか調べる研究が必要である。(訳注: 副作用への懸念からこれらの治療薬は安全と言い切れない。)


 現在のところ、カルシウムの摂取、女性に対してのエストロゲン補充療法、適度な運動の組み合わせが骨粗鬆症に対しての最良の治療法である。


Figure 4.17 Minerals in the body. 体の中のミネラル

 このグラフは体重が60kgの人物のミネラルの量を示している。
 マクロミネラルは5g以上存在し、ミクロミネラルは少量しか存在しない。
 ミネラルの機能は Table 4.8に表示


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Table 4.8 Minerals ミネラル
ミネラル機能食物源欠乏症過剰症
マクロミネラル(100mg/day以上の必要量)
カルシウム骨や歯の強化、神経伝導、筋収縮乳製品、緑色野菜小児の発育遅延、成人の骨密度低下腎結石、鉄や亜鉛の吸収障害
リン骨と軟部組織の成長、リン酸やATPや核酸の一部肉、乳製品、ヒマワリの種、食品添加物虚弱、困惑、骨痛、関節痛血量低下、骨のカルシウム低下
カリウム神経伝導、筋収縮多くの果物、野菜、ふすまマヒ、不整脈、最終的に死亡嘔吐、心臓発作、突然死
ナトリウム神経伝導、水・電解質平衡食卓塩傾眠、こむらがえり、食欲低下浮腫、高血圧
塩素水分平衡食卓塩おこりえない嘔吐、脱水
マグネシウム様々な酵素の一部、筋収縮、タンパク合成全粒穀類、緑色野菜筋痙縮(きんけいしゅく)、不整脈、痙攣(けいれん)、錯乱、人格変異下痢
ミクロミネラル(20mg/day以下の必要量)
亜鉛タンパク合成、創傷治癒、胎児の発達成長、免疫機能肉、マメ類、全粒穀類創傷治癒の遅延、夜盲、下痢、傾眠貧血、下痢、嘔吐、腎不全、コレステロール値の以上
ヘモグロビン合成全粒穀類、肉、プルーンジュース貧血、精神機能鈍化、身体機能鈍化鉄中毒、臓器不全、死に至る
ヘモグロビン合成肉、ナッツ、マメ類貧血、小児の発育遅延排泄されないと内臓障害
ヨウ素甲状腺ホルモンの合成ヨウ素入り食塩、シーフード甲状腺機能低下甲状腺機能低下?、不安
セレン抗酸化酵素の一部シーフード、肉、卵発ガンの可能性毛や爪の脱落、皮膚の脱色素



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Sodium ナトリウム

 推奨される一日のナトリウムの摂取量は 500mgであるが、アメリカ人の一日の摂取量は一日に 4,000-4,700mgである。最近の数年間、このバランスの悪い摂取が懸念されている。というのも、ナトリウムを多量に摂取することが原因で高血圧になる人がいるからである。我々が摂取するナトリウムの1/3は食品本来が持っている量であり、1/3は食品加工の過程で加えられ、1/3は過程での調理の際や食膳での卓食塩のかたちで加えられる。
 明らかに、食事に含まれるナトリウムの量を減らすことは可能である。Table 4.9 は減塩の方法について述べている。


 食事に含まれる過剰なナトリウムは高血圧の原因になる。それ故、過剰にナトリウムを摂取することは避けるべきである。



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Table 4.9 Reducing Dietary Sodium 食物中からナトリウムを減らす

食事からナトリウムを減らすには、
1. 食べ物の味付けに食塩の代わりにスパイスを用いる
2. 食卓で食べ物に食塩をかけないようにする、調理の際に加える塩は必要際少量にする
3. 無塩のクラッカー、プレッツェル、ポテチ、ナッツ、ポップコーンを食べる
4. ホットドッグ、ハム、ベーコン、ランチョンミート、スモークサーモン、サーディン(イワシ)、アンチョビを食べないようにする
5. プロセスチーズ、缶詰や粉末のスープを食べないようにする
6. 塩漬けのピックルだとかオリーブを食べないようにする
7. ラベルを見て塩分の多い食品を買わないようにする




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Eating Disorders 摂食障害

 学問の世界では三つの主要な摂食障害の分類がある。肥満と、過食症と、拒食症である。体重に関してみれば三つの疾患は連続した状態であるが、共通して食習慣の異状から正常な体重を維持できないという点で共通している。


Obesity 肥満

 Figure 4.18 に示したように、肥満は多くの場合、身長から算出する理想体重の20%超以上と定義されている。この基準を適用すると、合衆国の28%の女性と10%の男性が肥満であるといえる。(訳注: 現代の日本の若者は男性の方が肥満が多いと言われているのと対照的?) 中等度の肥満は理想体重の41-100%超で、重度の肥満は100%以上超以上である。
 肥満は、遺伝、ホルモン、代謝、社会等の種々の因子が組み合わさって起こるであろうと考えられている。太った人は普通の体重の人よりも脂肪細胞の数が多く、減量しても脂肪細胞が小さくなるだけで、肥満細胞自体が消滅するわけではない。肥満をひきおこす社会的な因子には、他の家族の構成員の食習慣がある。例えば、日常的に脂肪分の多い食事をする習慣があれば、体重が増加する。運動しないでテレビを見るような座りがちの生活も、身体に脂肪がどれだけ多くなるかに貢献する。心疾患の危険性は太っている人のほうが高く、このことだけを根拠にしても、余分な体脂肪が適切な健康と相容れないものであるといえる。
 治療法は肥満の程度により異なる。中程度か重度の過剰体重の患者には、脂肪を取り除く外科手術が必要であろう。多くの場合は、正しい食習慣と行動パターンの改善で十分であろう。適切な運動トレーニングのプログラムとバランスの取れた食生活を行うならそれで十分である。一生続けられる適切に計画された計画プログラムが、体重が増加した後で体重が減少する現象を防ぐための最良の方法である。そういった太ったりやせたりを繰り返す周期は健康に悪影響を及ぼす。99ページのHealth Reading は体重を減らすための適切な方法について述べている。


Fig 4.18 Recognizing obesity. 肥満の認識
肥満の患者は、
・身長から算出する理想体重の20%超以上
・健康を保つのに至適な量より余分な体脂肪、原因は脂肪の多い食事
・運動不足
親子でデビーですね〜。

Bulimia Nervosa 過食症(神経性大食症)

 過食症は肥満ともこの後で述べる拒食症とも同時におこることがある。過食症の人は余計に食べる習慣があり(binge eating と呼ばれる)、食べた後でそれを何がしかの人為的な方法、例えば自分から吐いたり下剤を用いたりすることで排出するのである。過食症の人は、自分の体型や体重を過剰に気にしていて、そのことが原因で食事を極度に切り詰めるのである。食事を切り詰めることが過食への欲求へとつながり、典型的には、そういった状態の人は、ケーキ、クッキー、アイスクリームといった菓子類を食べることを選択する。過食症の人が食べる食物の量は、普通の人が一回で食べる食事の量のカロリーよりはるかに低いのであるが、過食症の人は最後の一かけまで食べることを持続するのである。そうすると、罪の意識が湧いてきて次の行動、つまり取り入れた全てのカロリーを全て排泄するという行動をおこすのである。
 過食症は健康に危険な影響を及ぼす。血液の組成が変化し、そのことが心拍数の異状をきたし、腎臓に障害が加わりやがては死に至ることもありうる。少なくとも、嘔吐することは、咽頭や食道に炎症をおこすし、胃酸により歯が腐食する。嘔吐の際の強い収縮が原因で胃や食道が破裂したり裂けたりすることすらある。
 治療の重要な局面としては、患者に分別と節操のある食事をさせることである。繰り返し言うと、行動療法が有用であり、患者に異常行動の心因的な機序を理解させる理解させる精神療法が有用であると考えられる。過食の周期を減らし、正常な食欲に戻すことを目的とした、抗うつ薬を含んだ薬物療法が有用なこともある。


 肥満と過食症には複雑な原因があり、健康に悪影響を及ぼす。それ故、患者に対して適切な医学的な配慮を施すことが必要である。



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Anorexia Nervosa 拒食症(神経性食欲不振症)

 拒食症では、体重増加に対する病的な恐怖があり、患者は極度に切り詰めた量の食事をする。長距離ランナー、レスラー、ダンサーのような運動選手は拒食症になる危険性があり、それは痩(や)せることが競争における優位につながるからである。患者はカロリーの低い食べ物だけを食べるのに加えて、自己的に嘔吐を誘発したり下剤を用いてさらに体重を減らそうとする。いくら体重が減っても、拒食症の患者は自分は体重が多いと感じる。(Fig. 4.20) そのように歪んだ自己像は、医学的な解除が必要であるという認識を受け付けなくなる。
 実際、患者は飢餓(きが)状態であり、飢餓のあらゆる徴候、例えば、血圧低下、不整脈、便秘、持続的な寒気をきたす。骨密度は低下し、ストレスによる骨折が起こる。身体機能が低下し、女性では月経が停止し、脳を含んだ内臓の機能がきちんと働かなくなり、皮膚は乾燥する。膵臓と消化管の障害は、食べた食物が全然栄養源にならないことを意味する。死が切迫した状態になりうる。危険な状態になったら、入院させて強制的に食事を与えることが最終手段となる。結果的に、行動療法や精神療法を用いて患者に食習慣を植え付けるようにすることが必要になる。家族による治療が必要となる、というのも、拒食症の患者の児童や10代の若者は、生活のコントロールを得るための方法として拒食症を演じているからである。


 拒食症の患者は、自分の身体に対する歪んだイメージを抱き、常に自分が太っていると感じる。適切な医学的治療がしばしば必要となる。


Figure 4.19 Recognizing bulimia nervosa. 過食症の認識
過食症の患者は、
・しばしば運動不足を伴っている
過食症の患者は、
・繰り返すバカ食いの経歴があり、一回の食事の量よりはるかに多くの量を食べて、過食の際には自分自身で食べることを抑制できない。
・自分の体型や体重に関する強迫観念がある。
体重は調節されていて、その原因は、
・少ない食事と過剰な運動
・強制的に食物を排泄(自己誘発の嘔吐や下剤を間違った目的で使用する)
食べてますね〜。下剤も用意してるんですかね〜。


Figure 4.20 Recognizing anorexia nervosa. 拒食症の認識
拒食症の患者は、
・体重増加に対する病的な恐怖; 85%以下の症例で正常
・たとえ痩せ衰えていても太っていると感じる歪んだ身体に対してのイメージ
・女性では、月経が少なくとも3ヶ月の間無くなる
体重はとても低い状態に保たれ、その原因は、
・少ない食事で、しばしば過度に運動する
・バカ食いして排泄(狂ったようにむさぼり食い、そして自分で嘔吐を誘発したり下剤を間違った目的で使用する)
キレーなおねーさんですね〜。でも自分では太っていると思い込んでるんでしょうね〜。