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Chapter 3

Introduction to Homeostasis 恒常性への導入

Chapter Concepts この章のコンセプト

3.1 Types of Tissues 組織の型

3.2 Body Cavities and Body Membranes 体腔と体膜

3.3 Organ Systems 器官系

3.4 Skin as an Organ System 器官系のひとつとしての皮膚

3.5 Homeostasis 恒常性


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 これまでに手に触れられて、赤面して、心臓が不意の喜びでバクバクしちゃうようになることを不思議に思ったことはありますか。生化学者は時々ふざけて、あるいは肉体的な発赤が伴っている「愛」は、実際には反応が複雑に絡み合ったものにすぎないと言う。ロマンの無いものの見方ではある。けれども、それは、(自然科学的な)専門的な見地からすれば事実といえる。
 憧れの愛の反応は、肌にかすかな圧力が加わることで始まり、それが受容器(レセプター)によって検知され、脳に急行する。そうすると、今度は連続した信号のつながりが返ってくる。脳の感情を司る中枢は、あらゆる種類の反応をもたらすことができる。心臓の鼓動の早まりや、掌(てのひら)の汗といったものまであらゆる種類の反応を。神経系は内分泌系と連絡している。恋人を見ること、恋人の声、もちろん触れることもがホルモンが体中を駆け巡るきっかけとなるのである。貴方は、愛の波動が身体を襲うのを感じたことがあるだろうか。科学者の中には、ホルモンの一種であるオキシトシンを love hormone (直訳すれば「愛のホルモン」)と呼び、興奮する感覚の原因となっている、と言っている者がいる。脳で起こる愛の感情という刺激に対する反応は、目に見える形の影響ももたらす。筋が収縮し、声が普段と違うようになり、それは理性で普通のようにふるまおうとしても避けることができないのである。性交をはじめるとき、オキシトシンが分泌されて体中を廻り、神経の快楽に対する感受性を上げ、オーガズム(性的絶頂)に達する手助けとなる(訳注: make love は日本語にすると、性交する、セックスする、エッチする)。そういった神経系と内分泌系が織り成す複雑な一連の反応は、我々が示すべきヒトの体内の協調作用の最も良い例えであると言うかもしれない。
 協調作用がどのようにして起こるかを理解するには、身体の組織について先ず学ばなければならない。それぞれの系は多くの臓器を含み、それぞれの臓器は異なった幾つかの型の組織から構成される。この章では、組織の構造と機能について学び、臓器の例としての皮膚でどのように組織が構築されているかを示す。1平方インチの肌には、1,300の受容体があり、脳や脊髄と連絡して、他の刺激よりも恋人との接触に対して敏感な仕組みとなっている。

 (訳注: さすが America の textbook だけあって日本語の教科書よりも性に関する topic に物怖じが感じられない。)

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 神経系と内分泌系が身体の他の部分を協調させているので、この二つの系は恒常性、つまり身体の内部環境全体の機能的な平衡、の維持に関して中枢的な役割を果たしている。身体を構成するあらゆる系、例えば栄養分子を供給する消化器系から、食物を口に運ぶ筋(肉)系までに至るまでの系、が恒常性に対しての貢献をしている。この章では、テキスト全体に出てくる特別な(ユニークな)ページを紹介している。それらのページでは恒常性を維持するために身体のそれぞれの系がどのように協調作用しているか述べている。
(訳注: テキストで出てくる赤いヒトのようなマーク(homeostasis mark?)が暗示)



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3.1 Types of Tissues 組織の型

 組織は機能上の特化が類似していて身体の中で共通した機能を果たす細胞から構成される。ヒトの身体の組織は四つの主要な型のカテゴリーに分類できる。すなわち、体表を被い体腔を区画する上皮組織、身体の各部分を繋いで支持する結合組織、身体の各部を動かす筋組織、刺激を受容して活動電位の形で衝動を身体のある部分から他の部分へと伝導する神経組織である。
 癌は由来する組織形により分類される。カルチノーマ(癌腫)は最も一般的な型で上皮組織由来の癌である。サルコーマ(肉腫)は筋や結合組織(とりわけ骨や軟骨組織)に発生する癌である。白血病(ロイケミア)は血球(血液)の癌である。リンフォーマはリンパ組織の癌である。特定の組織で癌が発生する可能性は、細胞分裂の起こる割合と積極的な関連がある(関連性が強い)。新しい血液細胞は 1秒間に 2,500,000(250万)もの速さで増殖し、上皮細胞もまた速い速度で増殖する。


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Epithelial Tissue 上皮組織
 上皮組織は、epithelium とも呼ばれ、密に配列した細胞から構成され、細胞は連続した層を形成して体表全体と内部組織の多くを被っている。上皮組織は体表に於ては体を傷ついたり乾燥したりあらゆる病原体(ウィルスや細菌)が進入してくることから守っている。内腔臓器の表面では、上皮組織は防御機構に加えて他の特化した機能を持っていることがある。例えば、消化管では上皮組織は粘液を産生し、肺では線毛(単数形: cilium 複数形: cilia)により不純物を排除する。腎臓の尿細管の上皮や、消化管の微小な細胞突起である微絨毛では効率的な分子の吸収を実現している。
 上皮組織には三つの型がある。扁平上皮は扁平な細胞からなり、肺と血管を被っている。立方上皮は立方体状の形をした細胞で腎臓の尿細管に見られる。円柱上皮は似たような直方体もしくは円柱状の形状をしていて、核は通常底の方に存在する。円柱上皮は消化管を被っている。線毛円柱上皮は卵管を被っており、卵管は卵を子宮に運ぶ部分である。
 上皮組織は、単層 simple か重層 stratified の配列をしている。単層は細胞の層が一相であることで、重層は層が次々に積み重なった形態を呈していることである。毛細血管と呼ばれる最も微小な血管の壁は一層の上皮細胞からなる。毛細血管の浸透性は、物質が血管と組織の細胞との間で交換することを可能にしている。鼻腔、口腔、食道、肛門管、腟は重層扁平上皮で覆われている。直に目にすることができるように、皮膚の外層も重層扁平上皮で覆われているが、細胞はさらに支持を強めるタンパクであるケラチンで強化されている。
 多列上皮は一見すると層構造を呈しているように見える。しかし、実際には層は存在しない、それは全ての細胞が基底膜(基底線)に接しているからである。気管(windpipe/ trachea)を被っているのは、多列線毛円柱上皮である。多列線毛円柱上皮から分泌されて表面を被っている粘液は、外部からの粒子を捕捉し、線毛の動作により咽喉まで押し戻す、咽喉は嚥下(えんげ)と同時に喀出を行える部分である。喫煙は粘液分泌に異状をきたし、線毛の動作を抑制する。結果として、気管支炎と呼ばれる慢性の炎症の状態が起こる。
 いわゆる基底膜といわれる構造は、しばしば上皮を深層の結合組織と結び付けている。現在は、基底膜は結合組織より供給される線維により補強された糖蛋白(グリコプロテイン)であることがわかっている。
 上皮は物質を産生することがあり、そういった物質は glandular(腺由来の物質)と呼ばれる。腺は単一の単層上皮であったり、幾つかの細胞から構成されることがある。前者の例として、消化管を被う円柱上皮の中に存在する粘液分泌杯細胞がある。産生物を外部へ通じる管へ分泌する腺は外分泌腺と呼ばれ、血流へ直に分泌する腺は内分泌腺と呼ばれる。膵臓は、消化酵素液(膵液)を膵管を通じて排出する点で外分泌腺的であり、同時に、インスリンを血流に放出する点で内分泌的である。


 上皮組織は細胞の形態によって名付けられる。密に詰められた防御細胞は、一層以上に配列し、内腔を被う細胞は線毛が生えていたり、腺を持っていたりする。


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Figure 3.2 Epithelial Tissue 上皮組織
 三種類の型の上皮組織 --- 形態よりその名がついている扁平上皮、立方上皮、円柱上皮である。記載されている他の機能と同様に共通して防御機能を持っている。

(Left Upper)
Simple squamous epithelium 単層扁平上皮
 扁平な細胞を持つ
 肺の肺胞や毛細血管壁や血管内皮に見られる
 防御、拡散、濾過の機能を持つ

(Right Upper)
Pseudostratified cilliated columnar epithelium 多列線毛円柱上皮
 層構造を呈する
 気道に見られる
 防御、分泌、粘液の排出移動の機能を持つ

(Left Lower)
Cuboidal epithelium 立方上皮
 立方体状の形状の細胞
 腎尿細管の内皮や卵巣の表面に存在
 防御、分泌吸収の機能を持つ

(Right Lower)
Columnar epithelium 円柱上皮
 直方体状の形状の細胞
 腸と子宮の内皮に存在
 防御、分泌、吸収の機能


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Junctions Between Cells 細胞間結合

 組織を構成する細胞は形質膜が密に結合して影響を及ぼしうる際に共同して機能することができる。細胞間に発生する結合は、細胞の機能を組織全体として活動させる手助けとなる。堅い結合(タイト・ジャンクション)は浸透を許さない防壁を形成している、それは形質膜のタンパクが直接接着し、チャックのような機密性を作り出しているからである。腸管では、胃液は体の外(つまり腹腔から見ての外)にあるし、腎臓では尿細管の中に尿がある。これは、上皮細胞がタイト・ジャンクションで結合していからである。
 細隙結合(ギャップ・ジャンクション)は隣接した二つの形質膜のチャネルタンパクが結合している際に発生する。この結合は補強の役目を果たしているが、イオンや糖や小さい分子が二つの細胞の間で交通する事は許している。心筋と平滑筋における細隙結合は同期的な収縮を可能にしている。接着結合(desmosome 接着斑)では、隣接した形質膜は接触していないが、細胞内線維によりしっかりと結合しておりボタンのような厚みのある構造を呈している。ある種の臓器、例えば心臓や胃や膀胱といった細胞が引っ張られる臓器では、接着結合が細胞どうしをつないでいる。


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Connective Tissue 結合組織
 結合組織は臓器どうしをつないでいて、支持や防御の役目を果たし、間隙を埋め、血球産生の場であり、脂肪を蓄えている。原則として、結合組織は基質により大きく隔てられており、細胞内とは異なった材質の個体から液体までの様々な物質から構成されている。基質は三種類の異なった線維から構成される。コラーゲン線維(白色線維 はくしょくせんい)は、柔軟性と強度を生み出すタンパクであるコラーゲンを含んでいる。細網線維は細いコラーゲン線維で、分枝が多くデリケートな支持網を形成している。弾性線維(黄色線維 おうしょくせんい)は、コラーゲンほどは強くないが弾性の強いタンパクであるエラスチンを含んでいる。


Loose Fibrous and Dense Fibrous Tissues 疎性線維組織と緻密繊維組織

 疎性線維組織と緻密繊維組織は線維芽細胞と呼ばれる細胞を持ち、それぞれが離れた位置にあり、白色コラーゲン繊維と黄色エラスチン繊維を含むゼリー状の基質が間を占めている。
 疎性繊維性結合組織は、上皮と内腔臓器を支持している。肺、動脈、膀胱の中に存在することで、臓器が進展することを可能にしている。組成線維性結語組織は、多くの内腔臓器、例えば、筋、血管、神経といったものを閉じ込める防御の被いを形成している。
 緻密繊維性結合組織は、互いに覆い被さっているコラーゲン繊維を多く含んでいる。この型の組織は、疎性繊維性結合組織に比べてより特化した機能を持っている。例えば、緻密線維性結合組織は、筋を骨に結合している腱、関節で骨と骨とを結合している靭体にみらる。

Adipose Tissue and Reticular Connective Tissue 脂肪組織と網状結合組織

 脂肪組織では、線維芽細胞が脂肪の発育と貯蔵を助けている。身体は、この貯蔵された脂肪をエネルギー源や断熱材や臓器の保護に利用している。脂肪組織は、皮下、腎臓の周囲、心臓の表面などに見られる。網状組織は、リンパ組織とも呼ばれ、リンパ節、脾臓、骨髄などに見られる。これらの臓器は免疫系の一部である、というのは、白血球とりわけリンパ球の生成と貯蔵に関与しているからである。赤色骨髄ではあらゆる種類の血球が生成されている。

Cartilage 軟骨(組織)

 軟骨は、lacuna(ラクナ、空隙)と呼ばれる憩室の中に細胞が存在し、個体で柔軟性のある基質の中に存在する。残念なことに、この組織は直接の血流を欠いており、それ故、治癒に時間がかかる。基質の線維の型によって分類される三種類の軟骨の型が存在する。
 硝子軟骨は、最も一般的な型の軟骨で、(基質は)非常に均一なコラーゲン線維のみを含む。基質は、白色で半透明な外観を呈する。硝子軟骨は、鼻、長管骨の端、肋骨などに見られる。肋骨は、環状の構造で気道(というよりは胸腔)を形成している。胎児の骨格もまた、この型の軟骨で構築されている。この軟骨は、発育が進むと骨に置き換えられる。
 弾性軟骨は、硝子軟骨よりも多くの弾性線維を含む。それ故、より柔軟であり、例えば外耳の枠組みの中に見られる。
 線維軟骨は、強靭なコラーゲン線維を基質の中に含んでいる。線維軟骨は、圧力や張力に逆らう構造、例えば、背骨の椎骨の椎間板や膝関節に見られる楔状の骨の中に見られる。


Figure 3.3 Junctions between epithelial cells. 上皮細胞間の結合

 上皮組織はしっかりと接合されている。
a. 堅い結合
b. 細隙接合は、物質が細胞から細胞へと移行するのに役立つ
c. 接着結合は、組織に伸展性を与えている


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Bone 骨(組織)

 骨は最も硬い結合組織である。骨は、非常に硬い基質からなり、基質には無機塩、特にカルシウム塩が存在し、タンパク線維、とりわけコラーゲン線維を取り囲んでいる。無機塩は骨に剛性を与え、タンパク線維は弾性と強度をちょうど鉄筋がコンクリートの中で果たす役割のような感じで与えている。
 緻密骨は、長管骨の軸の役割を担っている。オステオン(骨単位)とよばれる円筒状の構造単位を持つ(Havers 系)。骨単位の中心管は硬い基質の輪に囲まれている。オステオサイト(骨細胞)と呼ばれる骨の細胞は、ラクナと呼ばれる基質の輪の間の空間に存在する。中心管に存在する血管は骨が自身で改築するための栄養を供給している。栄養は全ての細胞に到達することができ、骨細胞の突起を含んだ微小な管腔構造が骨細胞どうしや中心管との間を連絡しているからである。
 長管骨の末端には他の骨組織とは全く異なった構造を持つ海綿骨が含まれる。海綿骨の中には、棒状や板状の骨が存在し、不規則な配列の間隙により隔てられている。緻密骨よりは軽いのだが、海綿骨も強度を保つ構造となっている。鎹(かすがい)が建物の補強する役割を果たしているのと同様に、海綿骨の固体成分は負荷に対する緩衝の役目を果たしている。


 結合組織は、身体の各部を結合支持し、基質の種類や、基質の中の線維の豊かさによって異なっている。


Figure 3.4 Connective tissue examples 結合組織の例

a. 疎性結合組織では、線維芽細胞と呼ばれる細胞がゼリー状の基質の中に存在、基質にはコラーゲンと弾性線維が存在。
b. 脂肪組織は多くの脂肪を含み、一方の隅に押しやられた核をもつ。
c. 硝子軟骨では、柔軟な基質は白色半透明の外観を持つ。
d. 緻密骨では、基質はカルシウム塩を含む。同心円状のラクナの中の骨細胞は引き伸ばされた円柱状のオステオン(骨単位)と呼ばれる構造を持つ(Haversian system ハバース系)。骨単位は血管と神経線維を含む中心管を持つ。

(訳注: 高校生物の資料集にのっている ハバース管 = osteon 骨単位 と考えてよい。)


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Blood 血液

 身体の内部環境は、血液と組織液から構成される。身体のそれぞれの系は血液の組成と化学的性質を正常範囲内に保ち、血液が組織液を産生する。血液は、栄養分と酸素を組織液に輸送し、二酸化炭素とその他の老廃物を組織液から取り除く。血液と組織液の交通は、熱の分配に役立つし、組織液と電解質と pH のバランスに重要な役割を担っている。以下で取り沙汰する種々の血液の構成物は、我々を疾病から護るのに役立つし、血液の凝固能は組織液の消失を防ぐ。
 血液を静脈から試験管に移し、凝固しないようにすると、二つの層に分離する。上の方の液体の成分(上澄み)は、血漿(けっしょう)と呼ばれ、全血の55%の容積を占め、種々の電解質と生体物質が水分に溶解したり懸濁したりしている。下の方の層は赤血球(RBC/ エリスロサイト)、白血球(ロイコサイト)、血小板(トロンボサイト)から成る。下層の構成成分をひっくるめて フォームドエレメント(訳注: 適切な訳語なし、強いて言うなら血球成分が適訳か) 全血の 45%の容積を占める。フォームドエレメントは、頭蓋骨や肋骨、椎骨、長管骨の末端にある赤色骨髄で造られる。
 赤血球は、小型で両凹(りょうおう)の細胞で無核である。赤色色素のヘモグロビンの存在により細胞は赤色であり、さらに血液が赤い原因となっている。ヘモグロビンは四つのユニット(単位)から構成されており、それぞれのユニットがタンパク質であるグロビンと複雑で鉄を内部に含んでいるヘムと呼ばれる構造から成る。鉄は酸素と弱く結合し、赤血球が酸素を運搬する手段となっている。
 白血球は、赤血球と比べて、通常 赤血球より大きいこと、有核であること、染色しない状態で半透明であることにより区別される。白血球の特徴は青みがかっていることであるが、それは染色されるとそうなるからである。感染と闘う白血球は、主に二つの方法で機能する。白血球の中には、貪食性であり感染性の病原体を貪食するものと、抗体を産生するものがある。抗体は、外来の物質(異物)と結合して不活化させる分子である。
 血小板は、完全な細胞ではない。というよりは、血小板は骨髄にのみ存在する巨細胞の断片である。血管が傷害されると、血小板は血管を封印する血栓を形成し、傷害を受けた細胞は他の凝固因子と共動で働く分子を放出する。
 血液は、他の型の結合組織と異なって、基質(つまり、血漿)は細胞で構成されていない。血液を結合組織に分類しない人がいて、替わりに、血液に対して別のカテゴリー vascular tissue (血管組織、脈管組織)を提唱している。

 血液は結合組織で基質は血漿である。


Figure 3.5 Blood, a fluid tissue. 血液、液体の組織

a. 試験管では、血液標本は二つの区分に分離する。血球細胞と血漿である。
b. 血液塗抹標本を検鏡すると、赤血球、白血球、血小板が見える。血小板は細胞(骨髄巨核球)の断片である。赤血球は酸素を輸送し、白血球は感染と闘い、血小板は血液凝固の初期段階に関与している。


Table 3.1 Blood Plasma 血漿
Water 水分(92%)
Solutes 溶質(8%)Inorganic ions 無機イオン(塩類)Na+, Ca++, K+, Mg++, Cl-, HCO3-(炭酸イオン), HPO4++(リン酸イオン), SO4++(硫酸イオン)
Gases ガスO2, CO2
Plasma proteins 血漿タンパクアルブミン、グロブリン、フィブリノーゲン
Organic nutrients 有機栄養成分ブドウ糖、脂質、リン酸、アミノ酸など
Nitrogenous waste products 窒素を含んだ老廃物尿素、アンモニア、尿酸
Regulatory substances 調節物質ホルモン、酵素
(訳注: 表では原著のまま写しましたが、リン酸イオン と 硫酸イオン は 陰イオン ですね。HPO4--, SO4--)


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Muscular Tissue 筋組織

 筋組織(収縮組織)は、筋線維と呼ばれる細胞から構成される。筋線維は、アクチン線維とミオシン線維を含み、アクチンとミオシンの相互作用が運動の原動力となっている。脊椎動物の筋には三つの型がある。骨格筋、平滑筋、心筋である。
 骨格筋は、随意筋とも呼ばれ、腱により骨格を構成する骨に付随している。骨格筋が収縮すると、身体の各部は動く。骨格筋の収縮は随意的な支配であり、他の型の筋よりも素早く収縮する。骨格筋の線維は円柱状で非常に長い。筋線維の長さは、時には筋全体の長さに達する。骨格筋の線維の長さは成長の過程で、幾つかの細胞が融合する際に上昇し、結果として一つの筋線維に一つ以上の核が存在することになる(多核である)。核は細胞の末端で漿膜のすぐ内側の位置に存在する。筋線維は、交互に明るい部分と暗い部分が存在し、縞模様(横紋)が見える。縞模様が見えるのは、アクチン線維とミオシン線維の配列が存在するからである。(訳注: だから横紋筋 striated muscle というわけですね。)
 平滑筋(内臓筋)は、そういう名前なのは、縞模様が無いからである。紡錘型の細胞は層を形成し、その層構造はある細胞の肥厚した中間部分が隣接した細胞の細い端と隣り合っているような構造である。結果として、核の配列は、組織の中で不規則なパターンを呈している。平滑筋は随意なコントロールではなく、それ故不随意筋と呼ばれる。平滑筋は内臓(腸管、胃、その他の内臓)や血管の壁の中に見られ、骨格筋よりはゆっくりと収縮し、その収縮の持続時間は骨格筋より長い。腸管の平滑筋が収縮すると、食物は内腔に沿って動く。血管平滑筋が収縮すると、血圧の上昇する方向に働く。
 心筋は心臓の壁のみに見られる。心筋の収縮は、血液を押し出し、心拍を作り出す。心筋は骨格筋と平滑筋の要素を併せ持つ。心筋には、骨格筋のような縞模様(横紋)があるが、心臓の大部分の収縮は不随意である。心筋細胞は、中心に位置した一つの核を持つ点でも骨格筋細胞と異なっている。心筋細胞は分枝していて、互いに癒合しているように見え、心臓は全てが結合した一塊の筋細胞のようにも見える。実際には心筋細胞はそれぞれが別個のものなのであるが、端と端が介在板(境界板)で結合している。介在板では、二つの細胞の間で折り重なった漿膜にデスモソーム(接着斑)とギャップジャンクション(細隙結合)が見られる。

 全ての筋組織はアクチン線維とミオシン線維を含んでいる。アクチンとミオシンは骨格筋と心筋で縞模様(横紋)を形成し、しかしながら平滑筋では縞模様は見られない。


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Figure 3.6 Muscular tissue. 筋組織

a. 骨格筋は随意支配で、縞模様(横紋)がある
b. 平滑筋は不随意で、縞模様がない
c. 心筋は不随意で、縞模様がある。心筋細胞は分枝していて、介在板で接着している。


Skeletal muscle 骨格筋
 縞模様ある配列の細胞で、多核
 通常、骨格に結合
 随意運動の際に働く

Smooth muscle 平滑筋
 紡錐形の細胞で、単核
 中空の内臓の壁に存在
 体の内腔の物質の移動の際に働く
 交差する縞模様はなく不随意

Cardiac muscle 心筋
 分枝していて縞模様のある細胞で、単核
 心臓の壁に存在
 血液の拍出の際に働く
 不随意



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Nervous Tissue 神経組織

 神経組織はニューロン(神経単位)と呼ばれる神経細胞を含み、脳や脊髄に存在する。ニューロンは特化した細胞で三つの部分を持つ。すなわち、樹状突起、細胞体、軸索である。樹状突起は信号を細胞体に伝導する突起である。細胞体は高濃度の細胞質とニューロンの核を含んでいる。軸索は典型的には活動電位を細胞体から外部に伝導する経路である。軸索は非常に長いものもあり、脳と脊髄の外では結合組織に取り巻かれて神経(nerve)を形成している。
 神経系はちょうど三つの機能を持っている。すなわち、感覚の入力、情報の統合、運動の出力である。神経は感覚受容器から受け取った活動電位を、脊髄と統合機能を司る脳へと伝導する。知覚と呼ばれる現象はともかく脳のみで起こる。神経はまた、神経活動電位を脳や脊髄から筋や腺へと送り出し、それぞれ収縮、分泌させる。この方式で、調和のとれた刺激に対する反応が実現している。
 ニューロン以外に、神経組織には神経膠(こう)細胞(ニューログリア細胞)が存在する。

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Neuroglial Cells 神経膠(こう)細胞

 脳には幾つかの異なった型の神経膠細胞が存在していて、いったい幾つのグリア系の細胞が脳の機能に貢献しているのかを調べるべく、多くの研究が行われている。神経膠細胞はニューロンの9倍の細胞数があり、脳の容積の半分以上を占めている。しかし、最近まで、神経膠細胞はニューロンを支持して栄養を与えているに過ぎないと思われていた。神経膠細胞の三つの型は、オリゴデンドロサイト(希突起膠細胞)、マイクログリア細胞(小神経膠細胞)、アストロサイト(星状神経膠細胞)である。オリゴデンドロサイトはミエリン鞘(しょう)を形成する。マイクログリア細胞は、ニューロンの支持だけでなく、細菌や細胞の老廃物(デブリス)の貪食を行っている。アストロサイトは、ニューロンに栄養を分配し、ホルモンを産生する。アストロサイトが分泌するホルモンは、グリア由来の成長因子と呼ばれ、パーキンソン病やその他のニューロンの変性が原因の疾患の治療にいつの日か使われると考えられる。神経膠細胞は長い突起を持たないが、研究者たちは神経膠細胞どうしや神経膠細胞とニューロンが情報を伝達しているという証拠を集め始めている。

 ニューロンと呼ばれる神経細胞は軸索と樹状突起と呼ばれる線維(突起)を持っている。軸索は神経の中に見られる。神経膠細胞はニューロンを支持し役立っている。


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Figure 3.7 Neuron and neuroglial cells. ニューロンと神経膠細胞

 ニューロンは神経活動電位を伝導する。神経膠細胞はニューロンを支持して役に立っており、様々な機能を持っている。マイクログリア細胞は貪食細胞であり細胞の老廃物を取り除く。アストロサイト(星状神経膠細胞)はニューロンと毛細血管の間に存在し、それ故、血液からニューロンへ入る物質は先ずアストロサイトを通り抜けてくる。オリゴデンドロサイトは、脳と脊髄において、神経線維の周りにミエリン鞘を形成する。




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3.2 Body Cavities and Body Membranes 体腔と体膜

 内臓は境界のはっきりした体腔の中に配置している。ヒトの発生の過程で、セーロム(体腔、胚内体腔)と呼ばれる空間が存在し、セーロムは胸腔と腹腔に分割される。膜により胸腔は、左右の肺を含む胸膜腔と心臓を含む心膜腔に分割される。胸腔は横隔膜と呼ばれる水平方向に走行する筋により腹腔と分割される。胃、肝臓、脾臓、膵臓、胆嚢、小腸と大腸の殆どの部分が腹腔に存在する。腹腔の下部には直腸、膀胱、内性器、大腸の残りの部分が存在する。男性は外部に伸展した腹壁構造を持ち、それは陰嚢と呼ばれ精巣を中に持つ。
 背側の体腔も二つの部分から構成される。頭蓋の中の頭蓋腔(とうがいくう)は脳を中に持つ。椎骨により形成される脊柱管は、脊髄を中に持つ。


Body Membranes 体膜

 ここでは membrane という語を、遊離した結合組織の層の上を被っている上皮細胞で構成される薄い層のことを指すこととする。体膜は、体腔や 臓器の内部の空間 や 外部へ通じる管 を被っている。
 粘膜は消化管、呼吸器、泌尿器、生殖器の各管の内腔を被っている。この膜の上皮には、粘液を分泌する杯細胞が含まれている。粘液は通常、細菌やウィルスの進入から体を護り、それ故、風邪を引いて鼻を通じさせる必要があるときは多くの粘液が産生されて排出される。加えて、粘液は通常、胃や小腸を消化液から守っている。しかし、潰瘍が生じたときはこの防御機構は崩れる。
 漿膜は胸腔と腹腔及びその内部の臓器を被っている。漿膜は水分に富んだ液体を分泌して、膜をなめらかな状態に保っている。漿膜は内蔵を支持し、広い空間である胸腔と腹腔を区分している。このことは、あらゆる感染が別の領域に伝播することを防ぐ役割を果たしている。
 胸膜は漿膜で構成される膜で、胸膜腔と肺を被っている。胸膜炎は胸膜の良く知られた感染症である。腹膜は腹腔と腹腔内臓器を被っている。腹腔内臓器の間には、二層の腹膜からなる腸間膜と呼ばれる構造がある。腹膜炎は、腹膜に起こる生命を脅かす感染症で、虫垂炎を起こした虫垂が外科的に摘出されないまま感染が悪化する際に起こりやすい。
 滑膜は自由に動く関節腔の内腔を被っている。滑膜は滑液を滑膜腔に分泌する。滑液は、骨の末端を滑らかにし、骨端が自由に運動することを可能にしている。慢性関節リウマチでは、滑膜は炎症を起こして肥厚し、可動性が制限される。
 髄膜は背側体腔の内腔に見られる。髄膜は結合組織のみから構成され、脳と脊髄を護る防護膜の役割を果たしている。


Figure 3.8 Mammalian body cavities. 哺乳類の体腔

a. 側面。背中には、頭蓋腔と脊柱管からなる背側体腔が存在。脳は頭蓋腔に脊髄は脊柱管に存在。体の前面には、よく発達した腹側体腔が存在し、横隔膜で胸腔と腹腔に区分される。心臓と肺が胸腔に存在し、その他の内臓の大部分は腹腔に存在する。
b. 胸腔を前から見た図。




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3.3 Organ Systems 器官系

 体はいくつもの系を持ち、それらは互いに働いて恒常性を維持する。次のページはそれぞれの臓器系の末尾で使われることになる要素を紹介している。この章では四角の枠の中に身体の臓器系の一般的な機能の概要を示している。他の章では、同様の枠に特定の臓器系が他の全ての臓器系と相互作用するかを示している。


Maintenance of the Body 身体の維持

 身体の内部環境は、血管内の血液と、細胞を取り巻く組織液からなる。消化器系、心血管系、リンパ系、呼吸器系、泌尿器系の五つの系が物質をやり取りしている。
 消化器系には口、食道、胃、小腸、大腸(結腸)があり、他の関連臓器、つまり歯、舌、唾液腺、肝臓、胆嚢、膵臓を伴っている。消化器系は食物を受け取り、栄養分子に消化して、体の細胞に取り込める形態にする。
 心血管系には心臓と血管があり、血液を体内に運搬している。血液は栄養と酸素を細胞に送り、体から排出されることになる老廃分子を組織から取り除く。血液はリンパ系により産生される細胞も含んでいる。
 リンパ系には、リンパ管、リンパ液、リンパ節、その他のリンパ系の組織がある。リンパ系は体を疾病から守る。リンパ系はリンパ液を浄化し、リンパ球を支持することで疾患から体を守る。リンパ球(訳注:のB細胞)は抗体を産生する白血球である。リンパ管は消化器系から出る脂肪を吸収し、余分な組織液を回収して、血液循環に還元する。
 呼吸器系には、肺と空気を肺に送り込む気管がある。呼吸器系は、酸素を肺に送り、肺から放出された二酸化炭素を受け取る。
 泌尿器系には腎臓と膀胱がある。泌尿器系は体内の窒素を含んだ老廃物を取り除き、血液の容量と化学組成を調節する。

 消化器系、循環器系、リンパ系、呼吸器系、泌尿器系の全ては、それぞれが特異的な処理や輸送機能を行い、身体の正常な状態を保っている。



Integumentary System 外皮系

 皮膚は外皮系と称されることがあり、それは毛髪、爪、汗腺、脂腺といった付属器を持っているからである。皮膚は、外的な支持により皮下の組織を守り、体温を調節し、感覚受容器を持ち、身体の皮膚以外の部分で役立つある種の化学物質(訳注: Vit D)を合成している。


Support and Movement 支持と運動

 骨格系と筋(肉)系は体を支持し、体と体の各部が動く機能に役立っている。
 骨格系は、骨格を形成する骨から成り、体の各部を守っている。例えば、頭蓋骨は脳を防御する甲胄(かっちゅう)の役目を果たしていて、同様に肋骨は心臓と肺を守る檻(おり)の役割を歯対してる。骨格は、体全体から見て、骨格筋が付着する部位を提供している。筋(肉)系の筋の収縮は、体全体と体の各部分の運動を司っている。

 骨格系と筋(肉)系は体を支持し、運動を可能にしている。


Integration and Control of the body 身体の統合と調節

 神経系には、脳、脊髄、その他の関連した神経がある。神経は神経活動電位を受容体から受け取って脳や脊髄に伝導する。神経はも脳や脊髄で発生する神経活動電位を筋や腺に伝導し、外部からと内部からの両方の刺激に対しての反応を実現している。
 内分泌系には、ホルモン分泌腺がある。ホルモン分泌腺は、体の各部分のメッセンジャー(伝達係)として働く化学物質を分泌する。恒常性(ホミオスティシス、ホメオスターシス、ホメオスタシス)は、体内の環境が大きく変化しないことである。神経と内分泌腺は、体の他の系の機能を調節することで恒常性を維持するのに役立っている。内分泌腺は、男性と女性の生殖器の適切な機能の維持にも役立っている。

 神経系と内分泌系は体の他の系の活動を調整している。


Continuance of the Species 種の存続

 生殖器系は、男性と女性では異なった器官からなる。男性の生殖器系には、精巣、他の腺(前立腺など)、精液を陰茎に送ったり陰茎を通じて送り出す種々の管がある。女性の生殖器には、卵巣、卵管、子宮、外性器がある。

 男性と女性の生殖器系は、ヒトに生殖能力を与える機能を司っている。




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Human Systems Work Together ヒトの各系は互いに協力して働く

□Integumentary System 外皮系

 外部からの支持と体の防護


□Skekletal System 骨格系

 内部からの支持と防護、体の運動、血球の保護
(訳注: 原文の protection of blood cells は production of blood cells 骨髄での血球の産生の間違いと思える。∵血球の防護は特徴とはいえない。)


□Muscular System 筋(肉)系

 体の運動、体温の産生


□Nervous System 神経系

 体の活動の調節、学習と記憶


□Endocrine System 内分泌系

 全ての組織を化学的に調節するホルモンの分泌


□Respiratory System 呼吸器系

 外部環境と血液の間のガス交換


□Cardiovascular System 心血管系

 栄養を体細胞へ輸送、老廃物を細胞から除去


□Lymphatic System/ Immunity リンパ系/免疫

 免疫能、脂肪の吸収、組織液の排出


□Digestive System 消化器系

 食物の分解と吸収


□Urinary System 泌尿器系

 血液の量と化学組成の保持


□Reproductive System 生殖器系

 精子と卵の産生、精子を発生の場である女性へ送り込む




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3.4 Skin as an Organ System 器官系としての皮膚

 体の外側を被っているものは皮膚と呼ばれ、臓器系の一つの例として用いることができる。この系は、時に外皮系とも呼ばれるが、それは、爪、毛、腺といった付属器を含んでいるからである。皮膚は身体を被い、下層に横たわる組織を保護し、物理的外傷、病原体の侵入、水分の喪失といったことから守っている。また、次のページに述べているような方法で体温の調節に役立ってもいる。それ故、皮膚は恒常性の維持に関して重要な役割を果たしている。皮膚は、ある種の化学物質、例えば、ビタミンDといった体の他の部分で役立つ物質も産生している。皮膚は感覚受容器を含んでいるので、皮膚は周囲を警戒することや接触により他人とコミュニケーションすることに役立っている。


Regions of the Skin 皮膚の領域

 皮膚には二つの領域がある。表皮と真皮である。皮膚と、より下層の領域、つまり筋や骨といった構造のある領域の間には、皮下組織の層が存在している。
 表皮は、重層扁平上皮からなる。基底細胞から発生する新しい表皮細胞は上層へ移行するにつれ、扁平化し、硬化する。

Figure 3.9 Human skin anatomy.

 皮膚は二つの領域からなる。表皮と真皮である。真皮の下層には、皮下組織層が横たわっている。


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 扁平上皮組織の硬化は、細胞が産生する防水性のタンパクであるケラチンが原因で起こる。フケは細胞の角化が通常の2〜3倍である際に発生する。死んだケラチン細胞の肥厚した層は、らせん状や同心円状の配列をし、指紋や足指紋(訳注: footprint=足跡では scopeが違いすぎるので不適当)を形造る。上皮組織の中で特化した細胞にメラノサイトと呼ばれる細胞があり、肌の色を構成する色素であるメラニンを産生する。
 真皮は、表皮の下にある線維性結合組織の領域である。真皮には、コラーゲンと弾性線維(エラスチン線維)が含まれている。コラーゲン線維は、しなやかな(曲がりやすい)が過度の伸展に対しては強い抵抗を示す線維である。コラーゲン線維は皮膚が引き裂かれるのを防いでいる。弾性線維は、正常な皮膚の張力を保っているだけでなく、張力により皮下の筋や関節の運動を可能にしている。(太陽光に暴露(ばくろ)されると、コラーゲン線維と弾性線維の数が減少し、皮膚は柔軟性を失い、皺ができやすくなる)。真皮は皮膚を栄養する血管も含んでいる。血液が皮膚の血管に流入すると、その人の皮膚は発赤し、血流が最低限になると今度は、その人の皮膚は蒼白になる。
 感覚受容器は機能が特化した皮膚の神経末端で、外部からの刺激に反応する。触覚、圧力、痛覚、温度に対する受容器がある。指紋の部分には最も多く触覚受容器があり、我々に指で微細な仕事をする能力を与えている。
 皮下の領域は真皮の下層に存在し、ゆるい結合組織と脂質を貯蔵する脂肪組織から構成される。脂質は体に蓄えられたエネルギー源である。脂肪組織は体温が外部からの熱の流入や内部からの流出によって変化しないような役割を果たしている。皮下組織層がよく発達すると、体の外観は丸みを帯び、外部からの衝撃に対しての防護パッドの役割を果たす。過度に皮下組織層が発達すると、肥満になる。

 皮膚は二つの領域からなる。表皮と真皮である。真皮の下には皮下組織層がある。


Accessory Structures of the Skin 皮膚に付属する構造(皮膚の付属器)

 爪、毛、腺は表皮由来の構造である。それは、毛や腺の構造の大部分が真皮に存在していてもである。
 爪は、爪の付け根にある爪根(そうこん)にある特別な上皮細胞が成長してできる。爪根の細胞が成長して爪床(そうしょう)を越えて外部に移動すると角化が起こる。爪の目に見える部分を爪体(そうたい)と呼ぶ。クチクラは爪床を隠している皮膚の被いである。白色の半月状の基部は、半月(ルヌーラ)ともいわれ、この領域に細胞が肥厚していることによる構造である。
 毛包は、真皮に起始し、毛軸が皮膚から出る出口である表皮へと続いている。真皮細胞は、毛根を形成し、毛根細胞の分裂により毛が伸びる。細胞は毛根から離れるに従って角化してやがて死亡する。毛包にはそれぞれ一つかそれ以上の脂腺が存在し、皮脂を分泌している。皮脂は脂肪性の物質で毛包内の毛や皮膚自体を潤滑にする。脂腺が詰まると、分泌物が溜まり、白色面皰(はくしょくめんぽう)や黒色面皰(こくしょくめんぽう)が形成される。黒色面皰の色調は、脂質の酸化物が原因である。毛包に付着した立毛筋の収縮は毛を起立させ、鳥肌をきたす原因となる。
 汗腺は、非常に数が多く、皮膚のあらゆる領域に存在する。汗腺は皮膚内のコイル状の管に起始する。汗腺は皮膚表面の開口部に近づくと直線状になる。汗腺の中には毛包内に開口するものもあるが、大部分は皮膚の表面に開口する。にきび(座瘡)は、汗腺の炎症であり、思春期に多く発生しやすい。思春期のホルモン分泌の変化が汗腺の活動をより活発にする。


Regulation of Body Temperature 体温の調節

 体温が上昇すると、血管が拡張し、血液が皮膚の表面に達して汗腺の働きが活発化する。汗は蒸発することで体温を低下させる。体の外の温度が低いと、血管が収縮し、皮膚に運ばれる血液は減少する。体温が通常よりも下がるときはいつも、筋が収縮して体が震えて熱が産生される。


Figure 3.10 Nail. 爪

 爪根(そうこん)で作られた細胞は角化し、爪体(そうたい)を形成する。




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3.5 Homeostasis 恒常性

 恒常性(ホメオスターシス)は、生体の内部環境が外部環境がどうであっても正常範囲内のままであることを意味する。ヒトに於いては、例えば

1. 血液グルコース濃度は、100mg/100ml に保たれている。
2. 血液pHは、常に7.4近辺。
3. 上腕動脈の血圧は、平均して 120/80 mmHg近辺。
4. 体温は、平均して37℃周囲。

 生体の状態が多少変動することから、恒常性はしばしば正常値の動的均衡と称される。内部環境を一定の範囲に維持する生体の能力は、ヒトが様々な異なった地域に生息することを可能にしている。例えば、極地帯や、砂漠や、熱帯である。
 内部環境には組織液があり、身体の全ての細胞が組織液に浸かっている。組織液は、血液から流出した酸素や栄養物質が加わり老廃物が血液に排出されることで一新される。組織液は、血液の組成が一定に保たれている限り、同様に一定の状態を保てる。「環境」という言葉は日常的には身体の外の環境を指すことが多いが、我々の健康福利に究極的に関わっているのは(生体の)内部環境なのであるということを認識することが重要なのである。

 身体の内部環境は細胞が浸かっている組織液である。


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Figure 3.11 Tissue fluid composition. 組織液の組成

 細胞は組織液に取り囲まれている。組織液は頻繁に入れ替わっている。それは、図示したように、酸素と栄養分子が絶えず血流から供給され、老廃物を血流に排出しているからである。
blood flow; 血流
arteriole; 細動脈
capillary; 毛細血管
venule; 細動脈


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 身体の多くの系は、比較的一定の値を保っている内部環境の維持に役立っている。心血管系は、毛細血管に血液を送り出し、毛細血管から出てくる血液を受け取っている。毛細血管は最も小さな構造の血管で、その薄い壁が物質交換を可能にしている。血圧により毛細血管から水分が外に移動し、浸透圧により毛細血管に水分が流入する。血圧は心臓の拍動により作られる。一方で浸透圧は、血漿のタンパク含有量により保持されている。有形成分も恒常性に役立っている。赤血球は酸素を輸送し、二酸化炭素の輸送に関与している。(訳注: 文の後半は、血液の水分自体にも溶けていることも二酸化炭素の重要な輸送機構であることを暗示。)白血球は感染と闘い、血小板は凝固過程に関与している。(訳注: 文の後半は、血小板だけでなく、凝固因子なども血液凝固に関与していることを暗示。)リンパ系は循環系に付随している。毛細リンパ管は過剰な組織液を回収し、リンパ静脈を経由して、循環系の静脈に返す。(訳注: 右リンパ本管→右腕頭静脈 が リンパ→血液 の経路。)
 消化器系は、食物を消化吸収し、栄養分子を血液に供給し、身体の細胞で常に使用されている栄養分を交換している。呼吸器系は、血液に酸素を供給し、血液から酸化炭素を取り除いている。血液成分の主要な調節機構は肝臓と腎臓である。(訳注: 肝腎≒肝心)肝臓と腎臓は血漿の化学組成を監視し、必要に応じて更新している。血液にグルコース(ブドウ糖)が流入するとすぐに、肝臓によってグルコースの幾分らかはグリコーゲンに変えられて貯蔵される。グリコーゲンは後から分解されて体の細胞で使用されたグルコースの穴を埋めるをすることができる。この方法により、血中のブドウ糖濃度は一定に保たれる。ホルモンであるインスリン(インシュリン)は、膵臓から分泌されてグリコーゲンの貯蔵を調節している。肝臓は、血液からアルコールやその他の薬物といった毒性物質を取り除く働きもしている。肝臓はタンパク代謝の窒素含有の最終産物である尿素を産生している。尿素とその他の代謝性老廃分子は、腎臓から(尿となって)排泄される。腎臓での尿の生成は体にとって非常に重要である。それは、体にとって不要な物質を除去するからというだけでなく、尿の排泄は 血液の 量や 塩分バランスや pHの微細な調節の機会を与えているからでもある。

 体の多くの系は恒常性に役立っていて、それはつまり、内部環境の動的平衡を維持しているということである。



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Coordination of Organ Systems 器官系の調整

 神経系と内分泌系は恒常性のコントロールに究極的な(中枢機構として)役割を果たしている。内分泌系は、迅速に反応する系である神経系と比べると反応の遅い系である。
 前に、肝臓はグルコース(ブドウ糖)をグリコーゲンの形で貯蔵することで恒常性に関わっている、と述べた。しかし、実際には内分泌線によって作られる肝臓でのグルコースの貯蔵を調節するホルモンが存在するのである。食事の後、血中のグルコース濃度が上昇すると、膵臓がインスリンを分泌する。インスリンは、肝臓にグルコースをグリコーゲンの形で貯蔵させる働きを持つホルモンである。血中グルコース濃度が低下すると、膵臓はもはやインスリンを分泌しなくなる。この流れはネガティブ・フィードバック(負のフィードバック)と呼ばれる。それは、反応(血中グルコース低下)が、元の刺激(血中グルコース上昇)を打ち消すからである。ある内分泌線があるホルモンの血中濃度に敏感であり、その内分泌線がそのホルモンの濃度をコントロールするような例もある。例えば、下垂体は甲状腺に甲状腺ホルモン(T3 や T4)を分泌させる刺激をするホルモン(甲状腺刺激ホルモン TSH)を分泌する。血中の甲状腺ホルモン濃度があるレベルに上昇すると、下垂体は(TSHを分泌しなくなり)甲状腺を刺激しなくなる。
 ネガティブ・フィードバック系は、ネガティブ・フィードバック系自身を調節することができる。というのは、ネガティブ・フィードバック系は環境の状態を検知する仕組みを持っているからである。例えば、家屋の室温を保持するためのフィードバック機構について考えてみよう。このフィードバック系では、サーモスタットは室温を感知するための装置である。暖房は熱を産生し、室温がある温度に達すると、サーモスタットは暖房を切るための切替え装置に信号を送る。他方で、室温がサーモスタットに設定されている値より低下すると、サーモスタットは暖房を再び作動させる切替え装置に信号を送る。
 Figure 3.12a は、生体内には、検知装置の役割を果たす感覚受容器があることを示している。受容体が刺激を受けると、受容体から効果器を作動させる調節中枢に信号が送られる。効果器は、受容体を刺激することになった元の状態を打ち消す反応を起こす。至適刺激がなければ、受容体は調節中枢に信号を送らない。
 Figure 3.12b は、神経系が絡んだ一つの例である。血圧が上昇すると、受容体は調節中枢に信号を送る。すると、調節中枢は、神経活動電位を動脈壁に送り、動脈壁は弛緩し、今度は血圧が低下するのである。そうすると(血圧が下がると)、感覚受容器はもはや刺激されなくなり、このフィードバック系は停止するのである。ネガティブ・フィードバックによる調節の結果は、平均値の上下を変動するということに注目されたい。このようにして、内部環境の動的平衡は実現しているのである。
 ポジティブ・フィードバック(正のフィードバック)が起こることもある。この場合、ある出来事が特定の反応の活動性を上昇させるのである。例えば、出産の過程が開始すると、一連の出来事(反応)が出産が完了するまで断続的に起こりつづけるように働くのである。

 内部環境の恒常性は、自己調節機構であり、通常その結果は平均値の上下を変動する。

Figure 3.12 Negative feedback control. ネガティブ・フィードバックの調節機構

a. 刺激により受容体は脳の調節中枢に信号を送る。調節中枢は効果器に働くよう信号を送り、効果器が働くと刺激は取り消される。
b. 例えば、血圧が上昇すると、血管壁の特別な感覚受容器が脳の特定の中枢に信号を送る。脳は血管に弛緩するように信号を送り、血圧が低下する。