昔あるところに、じいさまとばあさまがおったそうな。
ある暑い夏の日のことじゃ。
じいさまは、一人で山へしばかりに出かけた。
昼近くまで、せっせせっせとしばかりをしていたじいさまじゃったが、あまり暑いので、のどがかわいて、
のどがかわいて、のどまめがひっつきそうじゃった。
どうにもがまんができんようになったじいさまは、どこかに水はないものかと、あたりをきょろきょろしておった。
すると、向こうのほうに、一本の桃の木があって、桃の実がようけえなっておるのが見えたそうな。
その実は、ほどよううれて、うまそうな汁がポテリポテリとたれておった。
じいさまは、たまらんようになって、桃の木にかけよると、その汁を吸うたんじゃと。
すると不思議なことがあるもんじゃ。体中に力がみなぎり、体が軽うなったように感じる。
しばかりの仕事も、いつになくはかどって、喜んで家へ帰ったそうな。
「ばあさま、ばあさま、今帰った。」
「はあ、どこのどなたさまですかいの。」
「何を言うておる。わしじゃ、わしじゃ、じいさまじゃ。」
びっくりぎょうてんしたばあさまが、
「じいさま、どこでそなあ若うなってもどらしゃった。」
と聞くので、こんどはじいさまが驚いて、かめの水に自分の姿を写してみた。
すると、まあほんに驚いたことに、そこには、二十歳(はたち)ばかりの若者がおるではないか。
「ははあ、これはたまげた。あの桃の実の汁は、若返りの汁じゃったか。」
その話を聞いたばあさまは、
「そんなら、わしも、これから行って、その汁を吸うてこう。」
言うて、急いで出て行ったそうな。
ばあさまが、じいさまから聞いた桃の木の下へ行ってみると、なるほど、うまそうな汁が、ポテリポテリと
たれておる。
ばあさまはさっそくその汁を吸うてみた。すると、ほんに、体中に力がわいて
くるような気がした。
うれしゅうなったばあさまは、もう少し、もう少しと汁を吸い続けておったそうな。
さて、家でばあさまの帰りを待っていたじいさまは、いつまでたってもばあさまが
もどらんので、心配になって山へ行ってみた。
どこをさがしてもばあさまはおらず、かわりに、桃の木の下で、かわいい赤ん坊が、
「オウァ、オウァ。」
と泣いておった。
すべてをさとったじいさまは、
「やれ、かわいそうに。ばあさまは、こんな姿になってしもうて。」
と言うて、だいて家にもどったそうな。