なんと昔があったそうな。むかしおじいさんととおばあさんと
おったそうな。おじいさんは山へ木を切りに、おばあさんは川へ洗濯に行ったそうな。
おばあさんがバサバサ洗濯しとったら、川の上の方から、大きな
瓜が、ドンブリコンブリ、スッコンゴウ、ドンブリコンブリ、スッコンゴウとおどりながら流れてきたそうな。
これはええ物がきたぞと、こっちへこっちへ来た時に、ちょういとすくうて、持ってもどって戸棚の中へ入れといた。
晩方になると、おじいさんが山からもどってきなさったから、
「じいさん、暑うてえらかっただろう。今日はじいさんのみやげにええ物を拾うてきとるで」
と、おばあさんが瓜をかかえてきて、まな板へのせて包丁をいれようとしたところが、瓜は、ばっと二つに割れて、中から
きれいな女の子がひょこんと生まれてきたと。
「ありゃ、こりゃまあ、こがあなええ娘の子ができた」
「家には子どもはおらず、ほんにありがたいことだなあ」
「瓜から生まれた子だけ、瓜姫さんと名をつけよう」
瓜姫や、瓜姫やいうて、蝶よ花よと大事に育てておった。やがて日が過ぎ月が過ぎて、
瓜姫はええ娘になり、それは上手に機を織るようになった。
じいさん、さいがない、ばあさん、くだがない、スットントンや
と、歌うて、毎日機を織りょうたそうな。そのうちにお役人さまが、瓜姫のことを聞きつけて、
「じいとばあと、大変なええ娘を持っとるそうなが、その娘を嫁にくれ、そうすりゃあ、お前らは死ぬまで養うちゃる」
と、いってきたそうな。
「そういわれりゃあ、はや、ええ娘になったし、嫁にやろう」
と話が決まって、やがてめでたい婚礼の日がきた。じいさんとばあさんの言うことには、
「瓜姫や、お前は何が好きなら」
「わしは、むかご飯が好きじゃ」
「そんなら、まあ家で機を織りょうれい。そうすりゃあ、わしらがむかごを取ってきて、むかご飯をしてやるから。留守の間に、
あまんじゃくが来てもだれが来ても決して戸を開けるなよう」
そこで、窓も戸もぴったりたてて、おじいさんとおばあさんは山へ行ったそうな。
じいさん、さいがない、ばあさん、くだがない、スットントンや
瓜姫がひとりで歌いながら機織りしょうたら、案のじょう、あまんじゃくがやって来た。可愛いげな作り声をしてこういうそうな。
「瓜姫さん、瓜姫さん、ここをちょびっと開けておくれえな」
「いいや、じいさんやばあさんの留守には開けられん」
「まあ、そねえいわずに、ほんのちょびっと爪がはいるほど開けてくれえ」
あんまりせがむもんだから、瓜姫もええ人間だけえ気の毒なようになって、ほんのちっと、爪が入るほど開けたそうな。すると、
「もうちょっと、指の1本入るほどでええけえ、開けてくれえ」
そこで指が入るほど開けたら、
「もう少し、手が入るだけでええから開けておくれえ」
優しい声して頼むので、ついもう少し、手が入るほど開けたところが、片手をつっこんでガラリと戸を開けて入ってきたそうな。
入ってきた者を見れば、きょうとい顔をしたあまんじゃくだ。それが瓜姫の手にさばりついて、
「瓜姫さん、瓜姫さん。柿がなっとるから柿を取りに行こうや、さあさあ」
とせきたてて、「叱られるけえ、行かん」というものを、むりやりに引張り出して、柿取りに連れ出してしまった。
あまんじゃくはするするっと柿の木へ上がって、柿のうまそうなのを取っては食い、取っては食いするそうな。瓜姫は下の方から
あおのいて見とっても、ひとつもくれりゃあせん。
「わしへもひとつくれえや」
「うん、ええやつがあったらやるわい」
いうて、言うたってちいっともくれん。そのうち木から降りてきたかと思うと、自分の破れた着物を瓜姫に着せ、いやがるものを、
柿の木の高いところにくくりつけ、瓜姫になって家にもどって来た。きたない顔は手ぬぐいをかついでちょいとかくして、
スットントンと機を織りょうた。
そこへおじいさんとおばあさんがもどってきた。
「おう、むかご飯をしたぞ、早よう食べよ。お前もよそへいきゃあ、ようけえ食べられんけえ、たんと食べとけよ」
あまんじゃくは顔をかくして、むかご飯をがつがつかきこんで食べたそうな。
それからあまんじゃくをかごへ乗せて、かたいで行きょうたそうな。ところが、柿の木の下を通って行くと、高い所から、
「瓜姫御寮は木の梢に、ああまんじゃくはかごの中。瓜姫御寮は木の梢に、ああまんじゃくはかごの中」
という声が聞こえるそうな。それから上を見上げれば、破れた破れた着物を着ておるが、大変きれいな娘が柿の木にくくりつけ
てある。びっくりしてかごを開けてみたところが、あまんじゃくじゃあないか。
それから泣きょうる瓜姫を降ろして着物を着替えさせた。あまんじゃくは、「こいつ、にくいやつめが」と引きずり出されて、
引き裂かれてしもうた。方ひらの体は、かやの中へ投げこむし、もう方ひらは、そば畑へ投げ込んだそうな。
あまんじゃくの血がついて、今でもかやの根もとと、そばの根もとがあんなに赤くなったんだとや。
昔こっぷりとびのくそ。
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