鶴女房
誰でも知っている有名なお話です。
むかし、むかしある所へ、与吉という大変親孝行な働き者のええ青年がおったそうです。 それが、毎日汗水ぅたらいて一所懸命で、おふくろといっしょに仕事をして、野らあ、お母さんといっしょに楽しゅうに帰えりょった わけです。 そして仕事い飽かずい来る日も来る日も、少々降ってもどうでも、山へ行って働いて買えりょうった。村の評判者になって 「あれは孝行与吉だ」いうて人へ言われるようなええ青年だったそうな。 「おおかたあれにゃあええ嫁が来るだろう」いうような村の人の話もあるしして、そういうことにゃぁ別に気にかけずい、与吉ゃあ自分のためへ母のためへ、一所懸命で汗水たらいて、忠実い仕事をしょった。 ところが、ある日のこと、山から帰りょったら、大変きれいなこれまでに見たこともない17、8ぐらいなきれいな娘が、道ばたに 倒れて腹あかかえて、えらい苦しそうにしておったいうて。そえで、その与吉が、はあどういうわけだろうか、この辺で見かけんきれいな 娘だがなあ思うたけえど、男が女のそばへ寄るいうことも、どうもいけんので、 「お婆さん、お婆さん、きれいな娘がえらそうなけえ、ちょっと聞いてみたらええ」 いうて、言うところが、そのお婆さんが、 「うん、そりゃあまあ女にゃあ女づれがええけえ、わしが聞いてみたろう」 そえから、 「これこれ、どこの娘さんかしらんけえどなあ、大変苦しそうなが、どがあなことならえ」 いうて言うたら、 「わしゃあ、さっきからここを通りかけて、腹が痛うて、なんぼうにもこう腹あひきつけて動けん。ちょっとも歩けんようになって、ように 困っとる」 いうて言うた。 「ふんそうか、それならかわいそうに。ここは薬もないけえ、ほんなら良うなるまで、家い泊まらんか。療養したるけえ」 いうて、お婆さんも言うし、そえで歩きかけてもどうも足が立たん。それで仕方がないので、恥ずかしいようでも与吉がそのきれいな娘を負うて、 自分の家へすたすた帰って来て、そえで、お婆さんが毎日看病してやる。与吉は仕事に行くしなあ。 してしよったら、まあ10日ぐらいたったら、その娘が「ちいと気持ちがええ」 いうて言いだいてなあ。そえで十日も経ち二十日も経ちしたら、今度あ、ご飯の火ぐらいは焚くようになってなあ、 そえで、お婆さんが仕事へ行っとっても、与吉が仕事い行っとっても、帰って見りゃあちゃんとご飯を炊き、湯も沸かしして、良え具合にしてあるいうて。
語り手:八束村上在所 美甘寅一
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