芳井町教育委員会発行の「芳井の昔話 第1集・2集」が手に入り ました。そこで、その中の1話を御紹介します。他にも興味深いお話がたくさんあります。 |
あるところに、一人の若い男がおったそうな。 毎日、遊んでばかりおるので、親はとうとう勘当したそうな。 そこで、しかたなく家を出て、先へ先へ行きょうると、子ども がおおぜいよって、一匹のあぶをつかまえて、 「羽を切ってやれ。」 「足をもいでやれ。」 と、さわぎよるそうな。 そこで、 「これこれ、お金をあげるから、そのあぶをわしにくれんかいのう。」 と言うて、あぶをもろうて放してやると、あぶはうれしそうにブーン と飛んでいったそうな。 また先へ行きょうると、また子どもがおおぜいよって、一匹の亀を つかまえて、 「首を引っぱってやれ。」 「しっぽをぬいてやれ。」 と、さわぎよるそうな。 そこで 「これこれ、お金をあげるから、その亀をわしにくれんかいのう。」 と言うて、亀をもろうて川へ放してやると、亀はうれしそうに泳いで いったそうな。 また先へ行きょうると、また子どもがおおぜいよって、一匹のさるを つかまえて、 「毛をむしってやれ。」 「きもを取ってやれ。」 と、さわぎよるそうな。 そこで 「これこれ、お金をあげるから、そのさるわしにくれんかいのう。」 と言うて、さるをもろうて放してやると、さるはうれしそうに林の奥 へ入っていったそうな。 それからまた先に行きょうると、そこにりっぱな分限者の家があって、 その門の前に立て札が立っておるそうな。 なんと書いてあるのかと思うて読んでみると、 「この先に川がある。その川の向こう岸に大きな松の木がある。その 松の木の頂上に鶴が巣をかけておる。その巣の中から鶴の卵を取ってきた 人は、この家の娘の婿にする。」 と、書いてあるそうな。 そこで、先へ行ってみると、なるほど大きな川があるそうな。 ところが、川には舟もなければ橋もないので、思案しておると、一匹の大き な亀が泳いできて、背中をだしてじっと待っておるそうな。 そこで、その背中の上に乗ると、するすると向こう岸へ渡してくれたそうな。 岸へ上がってみると、大きな松の木があって、なるほどその頂上に鶴が巣を かけておるそうな。 そこで、どうやって登ろうかと考えておると、どこやらから一匹のさるが 走ってきて、するするとその松の木に登って鶴の巣から卵を一つ取って、それ をかかえてつるつると降りてきて、その卵を前に置くとどこかへ走って行って しもうたそうな。 そこで、その卵を持って川岸へもどってみると、さっきの亀がじっと待ちょ うるそうな。 そこで、また亀の背中に乗ってもとの岸へ帰って、分限者の家へ行って、 「このとおり鶴の卵を取ってまいりました。」 と言うと、その家の人が驚いて、 「どうぞこちらへお通りください。」 と言うて、立派な座敷へ通したそうな。 しばらくすると、品の良い老人が出てきて、 「私がこの家の主でございます。ただ今ここへ、私の娘を呼び出しますから、 どうぞお酒をめしあがってください。」 と言うた。 なんと同じ年頃の娘が十人、同じように髪を結うて、同じような美しい着物を 着て出てきたそうな。 ところが、どの娘も同じようなので、どの娘と盃をかわそうかと思案してい ると、どこからか一匹のあぶが飛んできて、 「酌にさせ、ブーンブンブン。酌にさせ、ブーンブンブン。」 となきながら、お酒のお酌をする娘の頭にとまったり、銚子の先にとまったり するそうな。 そこで、そのお酌の娘に向かって、 「あなたに酌をしましょう。」 と言うて、酒をくみかわした。 「いかにも、それが私の娘でございます」 主はあわててそう言うた。 そこで、とうとうその分限者のお婿さまになったそうな。 それも ひと昔
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