その時お爺さんとお婆さんがおりました。お爺さんが山へ木こりに行きました。お婆さんが後から 弁当を持っていくのに、高い山の上へ上っていきょったら、あんまり山が高いので、まあここらでち ょっと休んだらえかろうなあ思うて、休みょったら、 「引っ付こうか取り付こうか、引っ付こうか取り付こうか」 いうて、こっちの山の高い木から鳥が鳴くもんですから、せえで、 「こりゃあ引っ付こうか取り付こうか言うが、どう言うたらええじゃろうか。まあこりゃあ、怖い鳥 じゃなあ。早うお爺さんの所へ行かにゃあいけまい。」 へえから、お爺さんのところへ急いで行って、 「やれやれ、お爺さん、まあ早う来う思うたが、あんまりえれえけえ休みょったら、こっちの山の高 い木から、「引っ付こうか取り付こうか、引っ付こうか取り付こうか」いうて鳥がぎょうさん鳴くけ え、きょうとうなったけえ、まあ早う走って来たんじゃが、腹が減ったろうなあ。」 言うて、 「いや、別に腹も減らんけえどもが、「引っ付こうか取り付こうか」いうて、ほんなら、何が言うたん」言う。 「いや、鳥が言うたんじゃ。今度去ぬる道もやっぱり言うじゃろうが、困ったもんじゃ。どうしちゃりゃあええじゃろうか」 「そりゃあまあ、「引っ付きゃあ引っ付け、取り付きゃあ取り付け」言うてみちゃるねえ」 「そんならそれじゃ」 いうて、それからお爺さん弁当食べたけえ、へえから弁当の空あ持って帰りょうたら、ちょうど休んだところの辺で、 「引っ付こうか取り付こうか、引っ付こうか取り付こうか」いう。まあ、お爺さんの言うたように言うちゃれえ思うて、それから、 「引っ付きゃあ引っ付け、取り付きゃあ取り付け」いうて言うたら、さあ、ぎょうさんまあ金や小判や、もうたくさん体に引っ付いて、まあ、よう動かん程引っ付いてきたそうなや。「こりゃあ儲けた。 まあ、こういうええことがあったもんじゃなあ。こねえに、なんじゃぁ、小判がぎょうさん引っ付くゆうこたぁないけぇ、早う去んでこりゃぁまあ、もいで取っとかにゃあいけまい。」 へえから、小口からからだの小判を取って、箪笥い入れておったらお爺さんが、 「ああ、やれやれもどったぞよう。 ゆうて晩に戻ってきた。「まあ、お爺さん、今日はお爺さんとこへ行って言うたとおりに、帰りがけに 「引っ付こうか取り付こうか」言うけえ、「引っ付きゃぁ引っ付けえ、取り付きゃぁ取り付けえ」 いうて言うたら、小判がぎょうさん引っ付いて、体いっぱあ引っ付いた。」言う。 「ふん、そりゃあどうしたか。」 「そりゃあもう、小口からむしって、今箪笥い入れとる。」 「ほりゃあ、ええことしたなあ。」そうしたらその話を聞いて隣のお爺さんが来て、 「まあ、ここには小判がえっと、小判がお婆さんの体に引っ付いたんじゃそうなが、どうようにしたら、引っ付いたか。」 「いや他じゃあねえが、お爺さんが山へ弁当持たんこうに行っとるんで。後から弁当を持っていったら、あんまり山八合目どころで、 えらあもんじゃけぇ、休みょうったら、「引っ付こうか取り付こうか」言うんで、どうもどう言うてええかわからんして、お爺さんの所へ行って言うたら、お爺さんが 「引っ付きゃあ引っ付け、取り付きゃあ取り付けいうて言うちゃれえ。」て言うもんじゃけえ、そうしょうたら、からだいっぺえ、へえで引っ付いた。」 「そりゃあまあ、ええこと聞かしてくれた。ほんなら家にもしょう。」へえから、 「まあなんでも、わしが山へ行くけえ、婆さん後から弁当持って来いよう。」いうて、お爺さんが山い行くし、後からお婆さんが行ったら、全くまた同じように、 「引っ付こうか取り付こうか」いうたいう。お爺さんとこ行って言うたら、 「そりゃあ隣のお爺さんが言うたように「引っ付きゃあ引っ付け」言うたらええがな。」ほんなら去にがけに言うちゃろう思うて、へえからまた隣のお婆さんが 「引っ付こうか取り付こうか」いうて言うけえ、「引っ付きゃあ引っ付け、取り付きゃあ取り付け」 いうて言うたら、今度はもう、蛇やら、もう、なめくじやら、もう蛙やら、あらゆるむかでや引っ付いて、ほいでお婆さんは帰るまでにゃあもう生きもんに、 よう食い殺されて途中で往生して死んでしもうたいう。 へえで、人真似ゃあするもんでねえいうことじゃ。 昔こっぷりどじょうの目 (語り手:神郷町門前 三室いわの) 注:えれえけえ(しんどいから)、きょうとう(怖く・恐ろしく)、小口から(端から)、持たんこうに(持たないままで) |