たのきゅう

 役者(やくしゃ)の たのきゅうは,おかあさんが びょうきだと 聞いて,いそいで家へ 帰ります。
 山にさしかかると,ひがとっぷりとくれて,ひとりのおじいさんが あらわれました。
 そのおじいさんは,じつは,だいじゃ(大蛇)が化けていたのでした・・・・・・。
  
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 かしむかし,あるところに,たのきゅうという やくしゃが おったそうな。
ある日,たのきゅうが,しばいを していると,つかいの人が来て,
 「おかあさんが びょうきなので,早くかえってあげてください。」
ということじゃった。

 たのきゅうは,すぐかえらねば とおもって にもつをまとめて かえろうとしたら,みんなが,
 「今から,かえったら 夜になると 大蛇(だいじゃ)が 出るという とうげを こさにゃあいけん。」
 「やめたほうがええ,あしたの朝 しゅっぱつしたらええが。」
とみんなが くちぐちに いうのを たのきゅうは,
 「かかさんの びょうきが しんぱいでいけん。すぐ しゅっぱつします。」
といって,とびだしたそうな。 

 どんどん どんどん はしって とうげにさしかかると,日がとっぷりとくれてしもうたんじゃ。

 つぜん,ざわざわっという音がして,一人のおじいさんが 出てきて,
 「わしは,このとうげに すんでおる 大蛇(だいじゃ) じゃ。夜 ここを とおるもんは わしの ごちそうになるんじゃ かくごせえ。」
 「わたしは たのきゅうと いうものです。みのがしてください。」
 「なに,たぬき。うまく人間にばけたのう。さすがたぬきじゃ。」
だいじゃは としをとって耳が 聞こえにくくなっていたので,「たのきゅう」を「たぬき」と聞きちがえたらしい。

 「わしも ばけることが できるが,じいさまにしか ばけられん。なにか ばけてみせてくれんか。うまくばけたら いのちはたすけてやろう。」
 たのきゅうは ほっとして
 「それじゃあ ばけてみせますけえ ちょっとのま 目をつむっていて ください。」
というと,もっていた にもつの中から おひめさまの いしょうを とりだして,さっときがえると だいじゃの前にすすみでた。たのきゅうは やくしゃじゃから いつも しばいの いしょうは もっとったんじゃと。

 「おう うまいこと ばけたのう。」
と だいじゃのじいさまは たいそう かんしんして おおよろこびじゃった。
 「ほかのものにも ばけてみい。」
というので また たのきゅうは とのさまの かつらをかぶって かたなをさして りっぱなとのさまにへんしんすると,だいじゃのじいさまは,
 「おう,これもうまいことばけたのお。ほかにもやってみい。」
と,なんかいもねだってはおおよろこびをしたんじゃと。

 そうしているうちに,すっかりうちとけてきて,
 「たぬき,おまえはこのよでなにがいちばんおそろしいんじゃな?」
ときいた。
 「わたしが いちばん おそろしいのは お金です。なかでも こばんというお金が 一番おそろしい。あれをみたら しんでしまう。じいさまはなにがいちばんおそろしいんじゃ?」
ときいたら,
 「わしは,たばこのやにじゃ。あれが からだにくっついたら,そこから くさっていって,しんでしまうからなあ。」
 ほかにも いろいろはなしをして,ふたりは わかれて,だいじゃのじいさまは やまへかえり,たのきゅうは いそいで わがやへかえった。

 えってみると,おかあさんは すっかりよくなっていたので,たのきゅうは村の人たちに
 「とうげにすんでいるだいじゃは,たばこのやにが いちばんにがてなので,みんなであつめて だいじゃをこらしめてやろう。」
といって,みんなでたばこのやにをあつめて だいじゃのすむ あなの入り口に ぬりたくって かえってきたそうな。

 のつぎの日,ドスンドスンという音がして,それはそれは おおきなへびが たのきゅうの家の前までくると,
 「たぬき,たぬきよ。おまえのおかげで わしのからだが くさってきた。もうじき わしはしんでしまうが,おまえも いっしょじゃ。」
といって,こばんをいっぱいなげつけて,よたよたとにげていったそうな。

 かげで たのきゅうは おおがねもちになり,おかあさんといっしょに しあわせに くらしましたとさ。


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