たたかん太鼓の鳴る太鼓

 「笑い話」&「知恵の有る話」です。

 かし、あるところに店屋があって、こぞうさんを一人置いとられた。それが、こざかしいこぞうで、何を いいつけてもちゃんとやってのける。旦那さんはどうも面白くないから、いっぺんあいつをぎゃふんといわせてみたい。あれが「参った」いうたら、 さぞ気持ちがよかろう、と考えているうちに難しい買い物を思いついた。
「なんと、こぞうや、今日は町へ行って、「たたかん太鼓の鳴る太鼓、ヒューヒューどんの袖振り舞」ちゅう物を買って来い」
「へい」
いうて引き下がったものの、こぞうさんはそんなものが、とてもじゃないあるはずがないがと困ってしまって思案しとった。ともかく、いいつけですけえ 町へ行きょうたそうですわ。道々、考え考え歩いとったら、大きなハチの巣がさがっとって、たくさんのハチがブンブカ、出たり入ったりしょうるのがみつかった。
「おお、ほんに、こいつをやっつけてやれえ。これなら、よう鳴るかもしれん」
と思うて、ハチの巣をそっと取ってかん袋に入れ、袋の口をにぎりしめてもどって来た。旦那さんは、あいつが今度こそ弱りはてて、帰ってくるに違いない。それとも買うてくるとしたら何を買うじゃろうか。こりゃ楽しみじゃわい。と思って待っとった。
「旦那さん、叩かん太鼓の鳴る太鼓、ヒューヒューどんの袖振り舞いを買うて来ましたで」
「早う、見してくれんせえ」
見るとただのかん袋じゃが。
「お前、これは鳴らんがな」
「いいや、火のそばでも持っていきゃあ、よう鳴りますで」
「ほう、そうか、そうか」
旦那さんがかん袋を火鉢の炭の上であぶると、ハチが熱いもんだけんあばれだした。ポンポンと音がしだした。
「ほうれ、見なせえ。これが叩かん太鼓の鳴る太鼓でござんす」
「よしよし、わかった。なるほどお前がいうとおり、叩かん太鼓の鳴る太鼓じゃが、もう一つ頼んだはずじゃ。ヒューヒューどんの袖振り舞いも出せ」
「へえ、すぐ出しますけえ、戸をよう閉めてつかあさい」
それから、ふすまを閉めさせて、小僧さんは、
「旦那さん、ちょっと袋の中を見て見なさりゃあ、わかりますけんなあ」
言うといて、自分は出てしまった。旦那さんは、袋の仕掛けも見たかったし、口を開けてみたらハチは、出とうて出とうてかなわんところでしょうが、ウォーンととび出して来たんで、旦那はびっくりして、一生懸命に口笛を吹いた。
「ヒューヒュー」
 からこの辺の者は、ハチが来ると、どういうわけか口笛を吹きますが、旦那さんはハチが逃げるかと思って、ヒューヒュー口笛を吹き吹き、着物の袖を振り廻してハチをはらった。そうしょうると、小僧さんがちょっこり顔を出して、
「旦那さん、それがヒューヒューどんの袖振り舞いですがな」
いうたから、
「いや、参った、参った。お前にはかなわん」
旦那さんの方が降参したそうですらあ。  

語り手:津山市国分寺 松永博愛
日本文教出版株式会社「岡山の笑い話」より