猿地蔵(さるじぞう)

 昔むかし、ある山にらんぼうな猿が住んでおったそうな。
 田や畑をあらしまわっては、村の人たちを困らせておったそうな。

 畑をあらされたおじいさんとおばあさんは
 「猿たちのわるさをやめさせる方法はないものか」
 と頭をなやませておったそうな。

 ある日、おばあさんが、
 「おじいさんが地蔵さんに化けて、畑に立っておられたらどうじゃろう。  猿たちもお地蔵さんの前ではおとなしゅうなるかもしれん。」
 「それはいい考えじゃ。さっそくやってみよう。」


 白い米の粉を体じゅうにまぶして、おじいさんは畑の真ん中にたっておった。
 そこへ、猿たちがやってきて、
 「こりゃありっぱなお地蔵さんじゃ。こんな所じゃあもったいない。 山の上におうつししよう。」

 おじいさんは、それを聞いてびっくりしましたが、じっとだまって がまんしとったそうな。
 猿たちはお地蔵さんをかついで、どんどん山の方へ運んで行きょう たら、川にさしかかったそうな。
  猿たちは声をそろえて、
 「さるのおしりをぬらすとも、
  地蔵のおしりをぬらすなよ。」

 とうたいながら、わたったそうな。
 おじいさんは、その歌がおかしかったので、ふきだしそうになった のを、じっとがまんしておったそうな。


 そうするうちに、山のてっぺんまでくると、猿たちは、どこからか、 お供えをいっぱい持ってきて、お地蔵さんの前に積み上げて、 むにゃむにゃ拝んでどっかへ行ってしもうた。

 おじいさんは、そのお供えものをいっぱい両手にかかえて、うちに 帰っておばあさんにわけを話したと。

 さて、それを聞いていたとなりのおじいさんとおはあさんも、さっそく まねをして、おじいさんに白い米の粉をまぶして、畑の真ん中にたって おったそうな。

 すると、また猿がやってきて、
 「あれえ。お地蔵さん。どこへ行ったんじゃろうと 思ようったら、こんなとこへ立っておる。早く山の 上へお移ししよう。」
 といって、またおじいぞうさんをかついで山へ向かったそうな。


 やがて、川へさしかかったら、また猿たちは、
 「さるのおしりをぬらすとも、
  地蔵のおしりをぬらすなよ。」
 と歌いながら、川の中へ入っていったそうな。
 となりのおじいさんは、その歌があんまりおかしかったので、 つい「ぷっ」とふきだしてしもうた。

 「ありゃ。こりゃあ、お地蔵さんじゃあねえ、お地蔵さんが 笑うはずがねえ。」
 猿たちはおこって、おじいさんのお地蔵さんを川へざぶーんとほうり  出してどこかへ行ってしもうた。

 となりのおじいさんは、お供えものはもらえず、体中きずだらけに なって、やっとの思いでうちに帰ったんじゃてえ。