おさん狐

 岡山県吉備郡真備町の池田敏朗さんの【高梁川流域ものがたり】 を リンクさせていただいた時に、「おさんギツネ」の話になって、総社市神在地区 に伝わる「おさん狐」の物語についての資料や詩のページ をわざわざ作ってくださいました。(ご訪問ください)
 それをきっかけにして、阿哲郡哲西町で採話された「おさん狐」のお話を載せてみました。
 通観番号556「化けくらべ」のお話で、キツネ同志ではなく、キツネとタヌキの場合もあり、キツネは「おさん狐」、タヌキは「芝右衛門狸」 などの名前で呼ばれることが多いそうです。


 かしむかし あるところに おさんギツネという、 手におえんキツネがおったそうな。

 あるとき、となりのキツネが、
「どっちが どれだけ うまいこと 化けるか、化かしっこ(化けくらべ)をしようじゃあ ないか。」
といってきたそうな。

 ところが、おさんギツネは 手におえんやつじゃけえ、
「おまえ 先い やってみい。」
いうて、相手の方を 先いやらせることに したんじゃと。

 くる日、となりのキツネが、キツネの嫁入りゅう 見せ ちゃるというんで、見に行ったそうな。すると、まあ、嫁入り道中の りっぱな行列がやって くるんじゃそうな。本物とまちがえるほどじゃそうな。

 さんギツネは、
「あの化けようにゃあ、とうてい、わしは かなわんわい。どうしちゃろうかしらん。」
と、いろいろ考えたそうな。
そこで、
「まあ わしのほうは、すぐ続けてする いうわけにも いかんけえ、また、ええ時をみて おまえさんのとこへ 知らせるけえのう。」
いうて、その場はすませたんじゃそうな。
 

 えから、ちいとばあ日がたってから、おとのさんの行列が、お国入りをするということが おさんギツネの耳にはいったんじゃと。
「ひとつ こりょう つこうちゃろう。(利用しよう)」
思うて、すぐに となりのキツネに、
「なんと わしが とのさんの行列をしてみせるけえ、来てみい。せえでのう、わしの 行列が、ええ具合にできとったら、おまえが かごのところまで来て 『おい、よう化けた のう。』 いうて ほめてくれえ。わしが とのさんになって かごに乗っとるけえのう。」
というたそうな。

 よいよ、おとのさんのお国入りの日になったんじゃと。 となりのキツネが 来てみたら、街道を、
「下におれえ、下におれえ。」
いうて、たくさんの やっこが、金紋先箱をかついで、のりこんできたんじゃそうな。

「おう こりゃあ、うめえこと化けとる。本物とちっとも違やあせんように化けとるがな。 ひとつ、おさんのところへ行ってほめちゃろう。」

 う思うて、となりのキツネは、ほんとうの おとのさんとも 知らんから、キツネの姿の ままで かごの前に ひょいと飛び出して、
「おさん よう化けたのう。」
言うたところが、行列の お付きの家来が、
「やれくそ、キツネめじゃ。」
と、刀でぶち切ってしもうたそうな。

むかしこっぷり どじょうの目


阿哲郡哲西町で聞いたお話:話者 藤井定久