昔、 むかし、ある山寺に、一人の和尚さんと二人の小僧さんがおったそうじゃ。
小僧さんは、二人ともたいへんなはたらき者で、せっせせっせと、そうじや使い
走りをしたそうな。
ところが、和尚さんは何もせんで、ごろごろしておった。
朝夕のおつとめも、ねころがったまま足で木魚をポクポクたたき、あくびをしな
がらお経を読んでいたそうじゃ。
その上、まだ七夕の頃だというのに、
「あーあ、正月がはよう来んかのう。もちが食いたいのう。」
と、つぶやいていたそうな。
さて、いよいよ大晦日の日。この山寺でも、おもちをつくことになった。
小僧さんたちは、朝早うから起きて、もちつきの準備におおわらわ。
ところが、和尚さんは、もちを食う夢を見ながら、よだれをたらして、寝ておっ
た。
「ペッタン、ペッタン。」
「ペッタン、ペッタン。」
小僧さんたちは、一生懸命にもちをついた。ところが、和尚さんだけは、
「ンゴゴゴ、ゴー。ンゴゴゴ、ゴー。」
あいかわらずの、大いびきじゃった。
「ペッタン、ペッタン。」
「ンゴゴゴ、ゴー。ンゴゴゴ、ゴー。」
「ペッタン、ペッタン。」
「ンゴゴゴ、ゴー。ンゴゴゴ、ゴー。」
小僧さんたちは汗だくで、やっと百八個のもちをつきあげた。
「やれやれ、できた、できた。」
小僧さんが、ほっと一息ついたとき、今まで寝ていた和尚さんが、ひょっこり起き
てきた。
そして、もろぶたに入れていた、つきたてのおもちをむしゃむしゃと食べだした
んじゃ。
「お、和尚さま、そのおもちは、お正月に仏様や神様にお供えするおもちでござ
います。先にめしあがっては、ばちがあたります。」
と、小僧さんがあわてて止めたんじゃが、和尚さんは、いっこうにかまわず。
「むしゃ、むしゃ、むしゃ。」
とうとう最後のもちまで、ひとつ残らず食べてしもうたんじゃ。
その時、えらいことが起こった。みるみる間に、和尚さんの口がねじくれてしもうたんじゃ。 和尚さんは、
「しもうた!」と、思ったが、もうおそかった。
それ以来、和尚さんのねじれた口は、死ぬまでなおらんかったということじゃ。