むかでとなめくじの伊勢(いせ)参(まい)り

通観549「なめくじとむかでの旅」
「兎と亀」のような動物競争の話です。昔は「一生に一度は伊勢参りはするもの」と いわれていました。むかでとなめくじがそれをするおもしろさに加えてむかでの足が 多いことにおかしさがありますね。想像をするとむかでのひょうひょうとした風貌や なめくじの人(?)の良さなどが見えて人間社会にもあるかな?と思われます。

 かし、あるときに、むかでがぐにょりぐにょりして、とてもたいくつ なので、伊勢(いせ)まいりをしようとおもいついたけど、いっしょにいくともだちがないとさみしいので、
「よし、なめくじをさそっていこう。」とおもって、なめくじのところへいって、
「おい、なめくじくん、伊勢まいりをせんか?」
と言(い)ったら、
「うん、そりゃあしてもええよ」
言うて
「そりゃしてもええよっといわんで、ちゃんと決(き)めえや」
言うたら、
「ふん、そりゃあ決(き)めよう。わしもまいる。」
言うて
「いつまいる?」
言うたら、
「まあ、はやいほうがええから、あしたでもまいろうや」
いうて、
「うん、まいろう。それなら、あそこの道(みち)の分(わ)かれたところで、さきに 来(き)たほうが、待(ま)つことにしよう。」
いうて
「うん、それならそうしよう。」

 れから朝(あさ)になって、なめくじが弁当(べんとう)を作ったりして、分(わ)かれ道のところへ 来て待(ま)っても待ってもむかでが来(こ)んのじゃそうな。
まあ、むかでは足(あし)が百本(ひゃっぽん)もあって速(はや)いから 待(ま)ちくたびれて、先(さき)に行(い)ったんだろうと思(おも)って、なめくじは(足がのろいので)一生懸命(いっしょうけんめい)あとを追(お)って行った。

 勢までいったら追(お)いつくだろうと思って伊勢に着(つ)いてまわりをいろいろさがしてもむかでは どこにもおらん。
こりゃあ困(こま)ったことだ。しかしむかでは足(あし)がはやいからもう帰(かえ)ったかもしれん と思ってまた一生懸命(いっしょうけんめい)もどって、それからむかでの家(いえ)へ行ってみた。

「おい、むかでくん、どうしょうるん?」
いうたら、
「わしは、わらじを作りょうるよ。おまえは?」
「わしは、あんたが足が速いけえ、もう伊勢にまいったんじゃろう思うて、
行ってみたら、伊勢にもおらんし、またもどる道にもおらんから来(き)てみたんじゃ。」
言うたら、
「ふーん、早(はよ)う行って来たなあ。わしはまだわらじを作りょうる。百(ひゃく)も作らんと いけんけえ、まだ三足(さんぞく)ほどつくらんとたらんのよ。」
いうたら、
「そんなことかよう、わしはまいってもどったけえ、二度(にど)とまいらんぞよう。」
いうて、なめくじは帰っていったそうな。

語り手:阿哲郡哲西町川南 賀島飛左
岡山むかし話101選<上>(立石憲利 編著)山陽新聞社より