桃太郎

 岡山県には「横着者--寝太郎型」と「鬼退治型」の桃太郎があります。備中地方には 吉備団子を半分しか分けてやらない桃太郎の話もあります。(これは食料を共有し、同志 として戦うという意味がある?) 前回紹介した「桃の子太郎」は「横着者--寝太郎型」で、 この桃太郎は「鬼退治型」です。  ただ、お供が「猿・キジ・犬」ではなく 「臼・牛糞・蜂・カニ・鉄砲玉」です。これは全国に わたって採集例があり、「猿かに合戦」によく似ています。互いに影響しあって流布され たものでしょう。 江戸時代の「赤本」で現在の桃太郎が普及しすぎたため、本来の桃太 郎の姿が見えにくくなってきていると言えましょう。
 倉敷市の秋岡 栄さんが97歳の時に、このお話を語ってく ださっていますが、これは4・5歳の時80歳の祖母から聞かされたそうです。
 採話された稲田和子先生からテープをお借りして文字に起こしました。

 昔、お爺さんとお婆さんとおったそうな。おじいさんはやめえ(山へ)
芝刈りに行きます。おばあさんは川へ洗濯に行きましたら、おばあさんが、
大きい桃が流れてきて、ドンブリドンブリと流れて、
「まあ、これは珍しい桃じゃなあ。こりゃあ、拾うていんで帰ろう。おじ
いさんと2人で、食べよう。」
言うて。おじいさんが帰ったら
「おじいさん、まあこの桃を見てつかあせえ。こおいう桃が川上からなが
れてきた。」
「はあこりゃあ珍しい、大けな桃じゃなあ。そんなら切ろう。」
言うて。こう切りかけたら「痛てえ」言う。また今度、まわして切りかけ
たら、「痛てえ」言うて、そん中から小せえ子供が出てきて、へえでおじ
いさんが、
「これは桃ん中からできたけん、桃太郎いう名をつけよう。」

へえからまあ、おじいさんとおばあさんと大きゅうしよりました。そうし
たところが、おばあさんが昔のきびだんごいうて、とうきびの長えのへ、
皮を着たんが取れよって、へえからきびだんごです。それを挽いて、そし
て(団子をして)、
「おばあさん、こりゃおいしいなあ」
言うて、桃太郎さんが言うて。そしたら「おいしい」って。
「おばあさん、これをお餅に作っておくれえ。鬼ヶ島へかたき討ちに行っ
て、お土産のお弁当にしますけえ」
言うたら、
「ふん、そうか。ほんならしてあげる」
言うて。

せえからおばあさんがこういう湯単(風呂敷)へ包んで、腰へゆわえつけて
「ほんなら持ってお行きい」
言うて、行きよりましたら、そけへ、牛ぐそが出てきまして
「桃太郎さん、どちれへお越しでござんすりゃあ」
「鬼ヶ島へ鬼退治に行きようる」
「そうですか。そのお腰の物は何でござんすりゃあ」
言うたら、
「こりゃあ、日本一のきびだんご」
「そうですか。それを一つ下されえ、お供をいたしまする」
言うて、
「そりゃあほんなら上げよう」
言うて。そがんしょうたら、また今度はひき臼が出てきまし
てから、
「桃太郎さん、どちらへお越しでござんすりゃあ」
「鬼ヶ島へ鬼退治に行きょうる」
「あっ、そうですか。そのお腰の物は何でござんすりゃあ」
「日本一のきびだんごじゃ」
「一つ下されえ、お供をいたします」
せえから、あげて、そねんしょったら今度は鉄砲玉が出てきて、
「桃太郎さん、どちらへお越しでござんすりゃあ」
「鬼ヶ島へ鬼退治に行きょうる」
「はあ、そうですか、そりゃあ、お腰の物は何でござんすりゃあ」
「日本一のきびだんごでござんす」
「一つ下されえ、お供をしよう」
と。

せえから今度はまたカニが出てきまして、カニもまたそうよう
に言うて、
「桃太郎さん、どちらへお越しでござんすりゃあ」
「鬼ヶ島へ鬼退治に行く」
「はあ、そうですか。そのお腰の物は何でござんすりゃあ」
「日本一のきびだんごじゃ。」
「はあ一つ下されえ。お供をいたします。」
そねんしょっうりましたら、今度はが出てきて、またそうよ
うに尋ねまして、
「桃太郎さん、どちらへお越しでござんすりゃあ」
「鬼ヶ島へ鬼退治に行きます。」
言うて
「そうですか。そのお腰の物は何でござんすりゃあ」
「日本一のきびだんごです。」
「ああそうですか。」
「ああ、そうですか」

へえでまあ、ひき臼と牛ぐそと、へえから蜂にカニに鉄砲玉とこう5人
出てきて、へえでまあそのお弁当をみんなおいしいおいしい言うて食べ
て、せえから、寒い折でござんしてから、
「鬼ヶ島はどこならな」
言うて行きよって、
「鬼ヶ島はここです。」言うて、
へえから行ったところが、おばあさんがそこにおって、
「おばあさん、鬼はどけえ行っとりますりゃあ」
言うと、
「鬼は寒いからな、山ぁしに行っとる。」
「はあ、そうかな。ほんならみんな隠れとろう。」
言うて、牛ぐそは敷居の陰へ隠れ、ひき臼は敷居の上の2階へ隠れとれ、
カニはぬかみそん中へはいっとれぇ。蜂は水がめへ入っとる。鉄砲玉は
くどの中へ入っとる。

それから、
「ああ寒い寒い」言うて(鬼が)帰ってきて、みんな隠れてしもうたら
帰ってきて、
「寒いからお茶でもたいて飲もうか。」言うて、
水がめのふたをとったら、蜂が出てブンブン目の方を刺した。
「こりゃあもう何事じゃろうか。こねえなもんが来てから。」
言うて、くどの中へ、まあひとくべお茶ぁ炊いて飲んで寝よう。」
言うたら、ほたら、鉄砲玉が出て、ドオーンと出て、はしれて、ほたら
目をくじとる。
へえから、また今度、
「こりゃぁ何事なら、隣のおばあさん、早う来ておくれえ」
言うて、
「まあ、ぬかみそをねぶろう」
言うてぬかみその中へ手を突っ込んだら、ちゃっきりとカニが手を切っ
て、そうしたところ
が、
「まあ、こりゃおれりゃあせん」言うて、出かけたら、ぞろっと、敷居
の陰から牛ぐそが出てすべって、へえから、その上へまた今度はひき臼
がドサンと落ちてきて、そしたら鬼がええげに死にましたそうな。
せえから、
「こりゃあ、ええげに死んでしもうた。まあほんなら、蔵ぁ開けてやろ
う。蔵ぁ開けてみよう。何か宝もんがあろうかもしれん。」
言うて、蔵あけたら、宝もんがたくさんいっぺえ入っとった。せえから、
それを5人してそれを車へ積んで荷物をして、せえから帰りょうる。
せえで何じゃあ、みんなお供をしたもんが、
「桃太郎さんのお手柄者、桃太郎さんのお手柄者」
言うて、何じゃあ持ってもどりょうる。ほたら、おじいさんやおばあさ
んが出てみて、迎えに出た。
「あーあ、桃太郎が帰ったかなあ」
言うて
「おばあさんこれをお見んせえ。見てつかあせえ。宝物がこうように蔵
へ入れとりました。」
言うて。
せえでまあ一昔で。


語り手:倉敷市大島 秋岡 栄
採話:山陽学園短期大学教授 稲田和子先生
参考文献:山陽学園短期大学紀要 第28巻「江戸時代末期の桃太郎話」