全国に広く伝わっている話です
主人公は「こすい」(けちんぼう)・欲深い男の人とか、貧しい桶や籠作り職人・行商人などもあります。
食わず女房にはこのお話のような「クモ」の他に「蛇」「山姥」などがあり、中四国九州地方では「クモ
女房型」が多く分布しているようです。
クモ型の場合は「夜ぐもは親に似ても殺せ」という諺の由来になったり、蛇型の場合は、五月の節句に菖蒲やよもぎを
魔除けに使うとか、九州地方では、「ゆずり葉」をお正月に飾るなどの由来話になっています。
むむかしむかし、あるところに、よう働く男の人がおったんじゃ。
近所の人が、その男の人に、
「およめさんをもらええ。」
いうても
「およめさんをもろうたら、およめさんがまま(ご飯)食べるけえ、おえん(いけない)。」
いうて、どうしても、およめさんをもらわずに、ひとりだけでおったんじゃ。
あるとき、ひとりのきれえな女の人が、男のところへ来て、
「あたしゃあ、ままは食べんけん、せえで、しっかり働くけん、お嫁にしておくれえ。」
いうたんじゃてえ。その男は、
「まま食べんのなら、ほんなら、お嫁にしてやろう。」
いうて、きれえな女の人をお嫁さんにしたんじゃ。
それから、何日たっても、お嫁さんは、働くばあ(ばかり)して、ままを食べんのじゃてえ。
五日たっても、十日たっても、ままを食べんので、どんなにしょんじゃろうかと思うてな、男の人は、仕事に行くような顔をして家を出て、それから、そおっと家に入ってきて、屋根うらにかくれ、じいっとようすを見ようたんじゃ。
およめさんは、男の人が仕事に行ったと思うて、大きな八升なべにいっぱいままをたいてな、はだぬぎになって、なべに手を入れ、おむすびをぐっとにぎっちゃあ、ぷいと背中へ投げ、背中でぱくっと食べるんじゃてえ。
にぎっちゃあ、ぷい、ぱくっ。にぎっちゃあ、ぷい、ぱくっ。
とうとう、八升なべにあったままを食べてしもうたんじゃ。
それを、屋根うらで見ようた男の人は、
「きょうとや、きょうとや」
いうて、そうっとそこを出て、田んぼに行ったんじゃ。
その晩、男の人は知らん顔して、
「やれ、もどったぞよう。」
いうて、家に入ってきて、およめさんに、
「今まで長いこと、ようしてくれたけど、もうおまえさんとわかれるけん、帰っておくれ。」
いうたんじゃ。
「無理にわたしのほうからおよめさんにしてもろうたんじゃけえ、帰ります。そんなら、ひとつ桶(おけ)をこしらえてつかあせえ。」
「ふんふんそりゃあ、桶(おけ)ぐらいは、したげるぞ。」
男の人は、桶(おけ)をこしらえたんじゃ。
「はあ、こりゃあ、ええ大きな桶(おけ)ができた。ちょっと、はいってみてつかあさらんか。」
「よしよし。そりゃあはいってみてやるでな。」
男の人がおけにはいったら、およめさんは上からがっと手でふたをして、ふわっとかつぎあげて肩にのせ、とっとこ、とっとこ、山の中へかけってはいるんじゃ。
「おれえて(おろして)おくれ。おれえておくれ。」
男の人が大きな声で言うても、およめさんは知らん顔して、山道をどんどん、どんどん、かけって行くんじゃ。
男の人がどうにかして逃げにゃあおえんがと思ようたら、山道に木の枝がのぜえて(出て)いた。男の人は、その枝に桶のすきまからひょっと飛びついて逃げたんじゃ。
およめさんはそれを知らずに、とっとこ、とっとこ行くから、何をするんじゃろうかと思うて、男の人は、後からかくれて、ついて行ったらな、およめさんは、山の奥のほうへ行って、
「やれもどったぞよ。ごちそうを取ってきてやったから、みんな出ておいで。」
いうたら、ぎょうさんのクモが出てきたそうな。クモが、桶のへりにやって来て、
「こりゃあ、何もありゃあせんが」
いうたら、およめさんが、
「そねんことがあるもんか。ごちそうがあろうがな。・・・・ありゃ、ほんとうじゃあ。どこで逃げたんじゃろう。よしよし、ほんなら、今晩行って、自在かぎ(天井からつるして、いろりになべをかけるかぎ)からつとうて(つたわって)おりて、取って来てやるけえ。」
いうたんじゃ。
木のかげでそれを聞いていた男の人は、きょうてえ(おそろしい)から、とっとこ、とっとこ、もどって来て、近所の人に、
「クモの化けもんが、今晩、わしの家の自在かぎをつとうておりてきて、わしを取るいようるけん(言ってるので)、みんな助けてつかあせえ。」
いうたから、近所の若い衆が、みんな男の人の家に来て、いろりに大きななべをかけ、それに湯をわかして待ちょうたんじゃ。
そうしたら、自在かぎを、ちゅるちゅる、ちゅるちゅる、ちいせえクモがぎょうさんおりて来だした。
「それ、来た。」
若い衆は、次から次へとおりて来たクモを、煮え湯の中へつっこんだんじゃ。
いちばん後ろから、大きなクモが、自在かぎを、ぎしぎしつとうて降りてきた。若い衆は、いっせいに、
「それ、来たぞ。やっ!」
いうて、みんなで大きなクモをおさえつけて、煮え湯のわいとるなべの中につっこんでしもうた。それで、男の人は助かったんじゃそうな。
せえじゃから、夜のクモは、「外道(げどう)もの」いうて、むかしから殺せいうんじゃてえ。