このお話は民話の中でもよく広まっている有名な話です。
古代インドの説話にも有り、日本では「今昔物語」などに
も「猿と亀」のお話で載っています。 このお話では、素直
で世間知らずの「くらげ」が主人公です。最近では海のお
そうじやさんなどと言われて地位が高くなったようですが、
海面をふわふわ漂う姿は何か哀愁を感じさせます。
ありゃあなあ。昔むかしその昔に、離れ島があってなあ。
そこに大きな海があってなあ。竜宮城の乙姫さんが病気になられた。そしてまあ、
大勢の家臣を集めてな、病気治さにゃいけんけど、どうしたもんじゃろうかいうて、
まあ海底じゃ、たこがお医者さんなんじゃ。
そいでたこがまあ、鉢巻きして、へいで、聴診器かけてみたりしてなあ。ああ、や
っとわかったと。その乙姫さんの病気がな、地上に住んでおる猿とやらいうもんの
生き肝を飲ましたら治ると、その海底にはそういう物は1つとねえ、ただそれだけ
がきくんじゃとな。 そしたら、それを取ってきて乙姫さんにあげなけりゃ、だんだ
ん乙姫さんは、あの重体におちいっておられるから、みんなあの肝とやらいう物を、
取りぃ行く者を決めてな、取りぃ行かにゃいけんからいうて、まあ集めたわけ。
そしたらみんな、誰が行け、誰が行けいうて、そのうえ、
まあ海底で本を広げて見て、これが猿いうものじゃと、こういうもんが地上におっ
たらな、これを呼んできて、この猿から肝をもろうてせにゃいけん。 その行くのは
誰じゃろうかいうたところが、くらげいうことになって、それでまあ、くらげが一
番に海面に上がって、きょろきょろしてみても、猿が見当たらん、せえからまあ日
が暮れたとな。そいでまあその日は帰るわけなんですが、その明けの日、その明け
の日、そいて3日目になあ、今度まぁようやくその猿がおったと。
「猿さん、猿さん」
「おみゃあ誰なら」
「わしゃあ 海に浮かんで泳ぎょおる(泳いでいる)くらげいうもんじゃ。ああ、
地上はええとこでしょ」
「うーん、地上は何と言っても天国じゃ、こうして僕はひなたぼっこをし
ょうると。」
「何とそりゃまあ、地上ええでしょけども、海底はとてもええんですぞな。」
「そうかな、海底はほんなら、どがあなんですか。」
「昆布や珊瑚の林があって、みんなもう自由自在に飛び回って遊んで、それに、
竜宮いう大きなお屋敷があって、そこで、もう踊りやなんかしてからに、ご馳
走はたくさん乙姫さんがしてくれて、その乙姫さんはとってもきれいな人なん
じゃ。もうそりゃあ、これこそ地上の天国より、海底の方が天国です。」
こう言うて、まあくらげがうめえ事言うてな、
「あんた一つ来てみなせえな」
「そうかな、そがあにええとこなら、いっぺん行ってみゅうか。」
言うてくらげの背なに
「ささ乗りなせえ」
言うてなあ乗せるんじゃが。行く道中もいろんないい話に乗せるわけです。
「ああ、もうやんがて、たどり着こう」
「時に、なかなか遠いんじゃな」
「そりゃあまあ遠いが、やんがて、もうちょっと行ったら、竜宮が見えますけ
えな。何とそれに本当の話はこういうことじゃ。その美しい海底の竜宮の乙姫
さんがな。病気になられた。そうしてらな、猿の生き肝を取って、やりゃええ
いう事なんで、お医者さんの仰せで、それで実はあんたを呼び寄せて来たんじ
ゃ。」
そうしたら、もう大変でしょう。そりゃけどここで、その事を言うて気づかれ
ちゃいけん思うて、猿がなあ、
「ようにしもうた。こりゃあ自分は、今日はあんまり天気がいいからなあ。ち
ょうど松の木に干しといたんじゃとな。肝をだして干しょうる。天気がええけ
え。虫干ししょうる。」
いうて、
「そがんに虫が食う物かな」
いうていうたら、
「ううん、時々ちょろちょろ虫に食われるけんのう、ちょうど今日はええ天気
じゃけん、松の木にかけて虫干ししょうるんじゃ」
言うてな、笑い笑い言うて、その内心はもうカッカしょうるのにな、そのよう
にしもうた思うても、そこまでまあ自分を見破られちゃあいけんから思うて、
それから、
「ほんなら、その肝がなかったらいけん。あんた空ぁさげて行っちゃあいけん
けえ、そんならその肝を取って来てもらわにゃあいけん」
「そりゃそうよ。その肝がなかったら、乙姫さんの病気治りゃあせんのじゃけ
え、そりゃ肝を取り返してもって来にゃ、何にもなるもんか。そりゃあいい。
帰れ帰れ」
「そうじゃそうじゃ、ほんなら退き返さにゃいけん」 言うて、くらげが、その
背に猿を乗せて帰っていくんよ。
せえからまあ、どの木に干してあるんかないうて、あの木じゃゆうてもわから
ん。
「そりゃ海の中のもんが地上のもんのその肝なんかが見えるけえ。見えんのが
普通じゃ。」
いうて言うてな
「まあそんなら早えとこ取ってけえ」
言うてへえから
「ちょっとここでおれえ。長えことかかるけえ」
言うてな、せえからぴょんぴょんぴょんぴょん(木の上へ)行って、(自分の)
小猿にお乳を飲ませるんじゃ。そうしたら(くらげは)待ちくたびれて、
「お猿さんお猿さん、肝をどおしてくれるんか」
言うて、そしたらなそのお猿さんの言うことがええ
「何言うんなら。肝はこの中へあるんじゃ。おめえだまされたんじゃ。」
ゆうて言うたらなあ。くらげはしおげてしもうてなあ。せえで日が暮れて、そ
こへ亀が浮かんで来るんじゃ。
「何ゅうあんたしょうるんなら。猿あ、あけえおるじゃにゃあか。あんたあど
うしてそがん事をしとる。」
「こがあこがあで」(こうこういう訳で)
「大馬鹿たれが。せっかく猿うつかんで来たのにな。どおしてそがんな事をし
たんなら、猿のここん中にあるんです。その肝いうものあ」
せえでなあ
「こんなもう、こん畜生」
言うてなあ。今度海のもんがみんな寄ってたかって、そのくらげをみんなで叩
いたんじゃ。叩いたもんじゃからなあ、そのくらげはへちゃがれて、骨がくだ
けて、
「おめえみてえな者はもう海底の中へ入ってくな。もう上へなってしまえ。」
と、
そがんで、せえでポカーンポカーンと海の上で漂っておるんじゃ。
そえで、くらげの由来は、まあそこにでけてなあ。せえでまあ猿が賢かったわけ。せえで
くらげが、そうゆう風にされたゆうて、まあそこまでの話。
昔ごっぷりどじょうのめくそ
語り手:阿哲郡哲西町八鳥 加藤さつ子
採話録より
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