ねずみの浄土
「猫さえござらにゃ、鼠の世の中」
鼠が、金の臼に、金の杵で餅をついていました。
昔、あるところに、貧乏なじいさんとばあさんとおったそうな。
ある日、じいさんは山へ柴刈りに、ばあさんは、後から弁当に団子をこしらえて持っていった。
そうしたところが、途中でけつまずいて、風呂敷から団子が、ころころころころと転んでいった。
ばあさんが
「どこまでころびゃあ、こらだんご、どこまでころびゃあ、こらだんご」
と追いかけていくと、団子はねずみの穴の中にころころころーんところげこんだ。
ばあさんは、こりゃあ、じいさんに持っていこうようないようになったと思うて、
「だんご、だんご、待て待て。わしもついていくぞや。だんご、だんご、待て
待て。わしもついていくぞや。」
と、奥へどんどん追いかけていくと、向こうの方にあかりが見えてきて、なにか
声が聞こえてきた。
ばあさん、そろり、そろり近づいてみたら、何百畳もあるよ
うな大広間があって、ねずみが大勢、金の臼に、金の杵で餅をついていた。
「ああ、エットンバッポン、エットンバッポン猫さえござらにゃ、ねずみの世
の中、エットンバッポン、エットンバッポン」
と、にぎやかなことだ。
ばあさんは、しばらくぽかんとして見ていたが、ここら
でちょっくら猫のまねをして、おそろかいてやろうと思うて、
「ニャーオ」
というた。ねずみたちは、
「そりゃあ、猫がきた!」
というて、杵や臼を投げて、逃げてしまった。
「こりゃあ、もったいない。餅をさろうて去のう。」
ばあさんは、餅を包んで、金の臼や杵をみんなもらってもどった。
家には、じいさんが腹をすかせて先に戻っていた。
「じいさん、じいさん。今日はこねえこねえなことがあって、よけい餅やら金
の臼や杵を持って戻った。」
「そんなら、餅をひとつ食うて、その臼や杵やら見せてもらおうわい。」
と、喜んどった。今度、その金の臼を、金の杵でコンとやりゃあ、黄金がチャラ
ンと出、コンとやりゃあチャランと出て、もう銭に不自由いうものは、ちっとも
なくなって、大分限者になった。じいさんとばあさんは、豆腐やこう買って、ご
ちそうして近所の人をよんであげた。
そうしたら、隣のばあさんとじいさんが、
「そんならわしらも」
と、じいさんは山へ、ばあさんはあとから弁当に団子をつくって持っていった。
ばあさんは、目をぎょろぎょろさせて、ねずみの穴を捜し出し、団子を無理矢理
穴に押し込んで、すぐ、
「だんご、だんご、まてまて、わしもついていくぞや。」
と、奥へ入っていった。話に聞いたように何百畳もあるような大広間があって、
ねずみが、
「ああ、エットンバッポン、エットンバッポン猫さえござらにゃ、ねずみの世
の中、エットンバッポン、エットンバッポン」
と、にぎやかにもちをついていた。ばあさんはちとごっついこえをだしちゃり
ませい、はよ逃げるかと思うて、いがりごえで、
「ニャオン」
というた。ねずみたちは、
「ありゃあ、こないだの盗人ばばあが来た!」
と、なにが今度は杵をかたいで、あっというまに、ばあさんを追っかけてきて
頭をこっつんこっつんついた。ばあさんは、死にはしなかったが、ほうほうの
ていであがってきて、やっとうちへもどれたと。
昔こっぷり、どじょうの目。
原話:真庭郡八束村 加藤延一郎
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