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2020年5月、5年ぶりの新譜『360°』をリリース。
新譜制作秘話や「ソロ・パフォーマンス」、
そして2019年から開始した映像配信について
写真と映像を交えながらインタビュー形式でお送り致します。

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ニューアルバム「360°』の制作について


---「360°」はパタゴニアで作曲したのですね。

パタゴニアは世界で一番大きな平原なので、360度地平線を見渡せるところがたくさんあります。その景色を見ながら作った曲がタイトルにつながりました。CDジャケットに使われているウユニ塩湖も360度見渡せるし、僕がこよなく愛するナミビアのエトーシャ国立公園も360度見渡せる。だから、「360°」です。


---「360度」じゃなくて「スリーシクスティ」なんですね。

そう、どうしようかなって思っていたんだけど「スリーハンドレットシクスティ」って言う人はいないし、「360度」より「スリーシクスティ」のが世界的だし、かっこいいかなって思って(笑)。今までナスカ展とかインカ帝国展、NHKの南極プロジェクトとか、何かの企画をきっかけに僕の音楽を聴くようになってくれたファンの方達が、ある一つのポイントからだけではなく360度の角度から僕の音楽を楽しんでくれるといいなという気持ちも強くありました。あと、個人的な話だけど、2000年にヴィンス・カーターというNBAの選手が「スリーシクスティ」という素晴らしいダンクシュートを披露して、歴代至上最高と言われているこの年のダンクコンテストで優勝したのもこのタイトルになった理由かな。

---どうして今回はパタゴニアを選んだのですか?

野生の勘かな??今まで10回くらい行ってるんだけど、今回は360度景色を見渡せるところに行きたいなって思って、野生の勘がパタゴニアを選びました。


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パタゴニアのペリトモレーノ氷河



---なかなか日本にいると360度見渡せる機会も少ないですが、そういう場所に行くとどう感じますか?

パタゴニアもそうだし、飛鳥Ⅱのクルーズに乗せて頂いた時も船から360度陸地が見えない大海原を見たけど、「人間って無力だな」って思うし、人として初心に返れる気がします。


--- 初心に返って作りたかったのですか?

人間ってどうしても過去の実績とか経験を活かそうとしてしまうけど、今回のアルバムはタイアップも何もなかったし、自分自身が本当に作りたいアルバムにしたかった。これは大きなチャレンジでもあり勝負でもあって、僕は53歳だけど、デビュー前のタイアップもレコード会社もない30年前の23歳の時のようなスタイルで曲を作れるのかなって。デビューして色々キャリアを積むと、段々周りの人たちの意見を聞きながら作品を作るようになっていく。でも、今回は一度そういうものを取り去ってみたかった。


---印象に残る360度の景色を初めて見たのはいつですか?

22歳くらいの時にボリビアからアルゼンチンを旅した時かな。2泊3日、電車とバスで陸路を旅したんですよ。何もかもがすごいなって感動した。日本ではあまり体験できないしね。

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パタゴニア

 


---一番最初にできた曲はどれですか?

タイトルチューンの「360°」です。


---できた時にすでに「360°」というタイトルだったのですか?

ううん。僕が作曲するとき、タイトルは99%後付けです。曲が完成した後に考えてタイトルを付けます。


---一番印象に残っている曲は?

ううーん。レコーディングしていて面白かったのは、1曲目の「Last Journey」かな。これもパタゴニアで作ったんだけど、12/8拍子でやるか、5/4拍子でやるか、ほとんど同じメロディーを2パターン作っていたんですよ。パタゴニアに行ったあとボルネオ諸島に行ってずっとアレンジをしていたんだけど、その時5/4にしようと決めました。あと、「Gravel Road」はパタゴニアで書いた30曲のうちの1曲で、ボツにしたからアレンジもしていなかった。だけど8曲くらいスタジオでレコーディングをしてみて、「何かアップテンポのメジャーな曲が足りないな」と感じたので、朝慌ててアレンジしてそのままレコーデイングしたんです。


---「Gravel Road」は、曲を聴いてパッと瀬木さんの中にある絵が思い浮かぶ一曲ですね。

まだYouTubeなんて物がなかった98年に初めて中央アフリカに行って、ホテルでラジオを聴いていたら、当時日本では馴染みのないようなギターの高い音のアルペジオというか、何とも言えないようなメロディーが聴こえてきたんです。調べてみたらそれはザイール(現在のコンゴ)発祥の「ザイロワ」っていうジャンルの音楽で、すごく面白かったので鮮明に覚えています。今回この「Gravel Road」のアレンジもそれでやってみました。


---「Gravel Road」の最初の部分ですか?

そう。プロデューサー兼ギタリストの石崎光さんにザイロワを聴いてもらったら最初は「こんなのできないよ」って言ってたけど、さすがプロですね。30分後には習得してあのオープニングを弾いてくれた。面白いものができている瞬間だなってワクワクしました。Gravel Roadのドラムは、KORGの808(TR-08)という80年代にできたドラムマシンの音色なんです。通称「ヤオヤ(808)」(笑)。ここ10年のアメリカのヒットチャートの半分くらいの曲がこのヤオヤの音色を使っているんだけど、例えばテイラー・スウィフト、ドレイク、ジェニファー・ロペス、ジェシー・Jなどの数多くのヒット曲に使われていて、今のヒップホップシーンでは欠かせない音色になっている。それと同じものをこの「Gravel Road」や「Nauelhuapi」にも使っています。今までの僕のスタイルにはなかったものだけど、石崎さんと一緒に作り上げた聴きどころの一つだと思います。

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Gravel Road



---プロデューサーの石崎さんは「THE GREAT AMAZON」からのお付き合いですね。

—最初の出会いは10年以上前。坂本サトルさんと共演した時、ギタリストが石崎さんでした。なんだか華のある人だと思って話をさせてもらったら、DTM(コンピューターを使って音楽を制作、編集する事)をやっていると聞いたので、2012年に嵐に提供した「voice」のデモを手伝ってもらった。それからの親しい付き合いなので、仕事もとってもやりやすいです。


---石崎さんは歌もののミュージシャンというイメージですが。

完璧に歌ものの人ですね。でも僕の音楽を気に入ってくれて、レコーディングは毎日楽しかったです。


---瀬木さんのようなインストゥルメンタルだと、仕事の仕方も違うのでは?

今回石崎さんに共同プロデューサーになってもらったんだけど、実は何度か音楽面でのバトルはありました。さっき話題に出たKORGの808もそうだけど、音源の使い方についてお互いに譲れない部分があったり、僕のサンポーニャについて「こうできないか、ああできないか」と数多くの要望を言ってきたりした。例えば「Stillness River」はサンポーニャと石崎さんのギターとのデュオなんだけど、バッキングリフに僕には浮かんでこないようなメロディーを吹いてくれとか、リクエストが沢山ありました。2コーラス目のずっと低音が鳴り響いている部分も石崎さんのアイデアです。今回僕が石崎さんを雇った形になるんだけど、彼は全くイエスマンではなくて、きちんと意見を言ってくれるからこそ良いものができたと思います。


---瀬木さんが石崎さんに譲れなかったパターンもありますか?

うん。僕は「Gravel Road」をヒップホップテイストにしたかった。ザイロワとヒップホップとサンポーニャとケーナの音楽を作るのに、アメリカのヒットチャートの70%くらいで使われているドラムが倍のテンポになっていく「ロールプレイ」という奏法をドラムではなくサンポーニャでやる必要があったから、上手く録って欲しいとリクエストした。これも難しいことなんです。


---「Stillness River」はとても美しい曲ですが、「サファリに行こう」に入っている「AGUA」とテーマは同じなのに全くイメージが違いますね。

「AGUA」はアマゾン川の激しい部分で、「Stillness River」はゆっくりした川かな。「Forest Rain」をリリースした時のアマゾン5,000キロの旅のあと、坂本サトルと一緒に10日間くらいかけてアマゾンを旅しました。これについては今まであまり語ってこなかったんだけど、ボリビアのアマゾン上流の「リオ・ブランコ」という川で見た朝日が忘れられなくて。夜通しカヌーを走らせた明け方、川幅50mくらいのところに朝靄がかかって・・・信じられないほど美しかった。その静寂を曲にしたのが「Stillness River」です。

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空から見たアマゾン川



---「Altitude5,435m」は瀬木さんのソロですが、何種類のサンポーニャを重ねているのですか?

最初のイントロの風の音で4チャンネル、バリトンサンポーニャで2チャンネル、メインのサンポーニャで2チャンネルくらい。多分8チャンネルくらいかな?


---「Altitude5,435m」のような曲は、レコーディングを始める前から全体ができているのですか?それとも演奏しながら作り上げていくのですか?

半分くらい出来ていて、一応楽譜というかスケッチもある。あとはスタジオに入って重ねていく感じ。僕は「密林」みたいな曲にしようと思っていたんだけど、石崎さんから「あの垣根みたいなサンポーニャも入れましょうよ」と言われた。僕はバリトンサンポーニャはマニアックすぎると思っていたけど、石崎さんには新鮮で、きっとこのアルバムを聴いてくれる人にも新鮮になるだろうと思ったので取り入れました。「Altitude5,435m」はボリビアのチャカルタヤという山がテーマです。昔は山頂が氷河に覆われていたのに、地球温暖化で氷河が溶けて、今はただの黒い山。僕みたいな登山初心者でもスニーカーで登れるようになってしまった。昔の山頂の氷河から見た360度の景色を思い出しながら書きました。

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標高5,435m



---「Altitude5,435m」のレコーディングにはどのくらいの時間がかかったのですか?

2時間くらいかな?


---2時間で終わるんですか!?レコーディングには何日かかったのですか?

録りだけなら10日かかっていないと思う。「Altitude5,435m」「Birds Movement」はどちらも僕のソロで、同じ日に収録したし。

---今回のゲスト、榊原大さんとのレコーディングは久しぶりですね。

「マチュピチュの夜明け」以来だね。大ちゃんはここ数年、僕が最も信頼している素晴らしいピアニストで、1曲目の「Last Journey」「360°」には素晴らしいソロが録れて本当に大満足です。基本DTMのレコーディングには生楽器を使わないものなんだけど、そこを僕はあえて生楽器とフュージョンさせたいと思い大ちゃんに依頼して、時には苦戦して何度も撮り直すことはありました。でも結果すごくまとまったサウンドになったし、ソロはとにかく絶品です。僕ら50代の二人が新しいことにチャレンジして、成し遂げたということも嬉しかったな。



---高橋洋子さんが「Nauelhuapi」に参加されていますが、最初から歌って頂く予定だったのですか?

いや、もともと予定していた訳ではなかったんだけど、高橋洋子さんは大事な友人の一人で、一緒にやりたいねって常に話はしていました。高橋さんは「エヴァンゲリオン(残酷な天使のテーゼ)」のイメージが強いけど、もともとスタジオミュージシャンであらゆるボイスを出せるプロフェッショナル。今回ボイスでの参加をお願いしたいと伝えたら、快諾してくれました。

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パタゴニアの美しい湖

 



---高橋さんのボイスが聴こえると、大自然の音楽が急に宇宙くらい壮大になりますね。

そうなんですよ。大ちゃんもそうだけど、優秀なミュージシャンは自分のソロパートになったら凄まじい力を発揮するものなんです。

---高橋さんとのレコーディングはどんな感じでしたか?

主旋律以外に3声のコーラスをつけて頂いて、一人で何人分もの仕事をして頂き感謝しています。

---以前は福岡ユタカさんやペドロ・アスナール、坂本サトルさんなど男性ボーカルが多かったですが、「THE GREAT AMAZON」では遊佐未森さん、今回は高橋さんが参加されています。最近は女性ボーカルのイメージで曲を作るのですか?

実は僕の音楽には女性ボーカルが入るのが難しいんですよ。サンポーニャやケーナのオイシイところの音域が、女性ボーカルのオイシイところの音域にぶつかってしまうから。だから男性ボーカルの場合は僕のメロディーとユニゾンしてもらっても大丈夫なんだけど、女性ボーカルの場合は遊佐さんの時のように主旋律を歌ってもらうか、今回の高橋さんのようにイントロ、間奏、アウトロをお願いして、ユニゾンはしないです。でも今まで全く女性ボーカルがなかった訳ではなくて、「LUNA」に入っている「LITTLE DREAMER」ではEPOさんが歌ってくれています。でもこの時のアレンジは岩代太郎さんだったので、アレンジも自分でして、「こういう風に女性ボーカルに参加してもらえば良いんだ」と自分の中で確立できたのは、前回の遊佐さんの時ですね。


2019年からYouTubeを開始。そのきっかけは?


---YouTubeにアップされているウユニ塩湖で吹いている映像が合成のように綺麗ですが、どのくらい時間をかけて撮影したのですか?

「イルシオン」は早朝の撮影なんだけど、前日からウユニのど真ん中に車を不法駐車して(笑。嘘です)、星空を撮ったりしながらタイミングを狙っていました。氷点下10度くらいだったかな・・・寒かったです。暖房を点けていても凍えるような寒さでした。夜が明ける前に撮影を始めて夜が明けるまで、40分かけて撮影しました。テイク3くらいだったかな。



---その気温であの服装(白いシャツ一枚)ですか。それは凍えますね。

雨季のウユニは以前にもスチール写真で撮影したことはあるんだけど、普通は長靴で行くんだよね。でもそれじゃかっこ悪いから、今回は実はクロックスを履いて撮影しました。足は凍傷寸前。

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ウユニ塩湖


---何月だったのですか?他に観光客がいませんね。

6月ですね。冬の始まりで乾季になる直前の6月はオフシーズンで、雲ひとつないウユニが見られる。空が水面に鏡のように写るウユニの写真は世の中に沢山あるけど、その中でも雲が写っていない絵は結構珍しいんです。でも今回は「360度」だから、雲すらない風景を撮影したくてこの時期を選びました。いや、しかし寒かった。


---この撮影をした時の旅を「2週間に渡り砂漠、アンデス、アマゾンをめぐり、今までにない過酷な旅だった」と語っていましたが、どんな旅だったのですか?

今まで色んな秘境を巡ったけど、今回のコースは桁違いにキツイ。まず標高が高い。一番高いところは標高5,300mで、低くても4,000mくらいのところにずっといたので、映像担当の榎本さんは初日に高山病になって、7時間くらい車の助手席で死人のように倒れていました。その標高に加えて寒いし、そして道が悪い。現地で借りられるトヨタの一番いい車を借りても何度もスタックしました。榎本さんはアウトドアの達人で、パリ・ダカールラリーを目指したくらい運転も上手いと知っているから二人で行ったけど、もし榎本さんじゃなかったら運転手を雇うか、むしろ行かなかったかもしれない。もし誰かに同じコースに連れて行って欲しいと言われたら間違いなく断ります(笑)。

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現地で借りたトヨタの車


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標高4,570m

 


---オフシーズンなら周りに誰もいないですしね。

そう。トラブルがあっても誰も助けてくれない。そういう精神的な面でもすごくハードでしたね。スタックしても自分で対処するしかない。今回は幸いにしてパンクはしなかったけど、エンジンがかからなくなったことはあって、それは榎本さんが何とか直してくれました。今回の作品は、プロデューサーの石崎さん、特別に参加してくれた高橋洋子さん、大事な友人でもある榊原大さん、そして映像を担当してくれた榎本さん、皆さんの力を借りて生まれました。僕一人の力では出来なかったです。


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こういう道が果てしなく続き、身体にこたえる



---ドローンの撮影は初めてですよね。いかがでしたか?

大変ですよ。今回のような標高が高いところでの撮影はまず高山病もあるし、登山もできなくちゃいけない。標高が高い場所では酸素が薄いから、普通のドローンは飛ばないです。高所専用のプロペラに付け替えて、標高5,435mでそのドローンを飛ばして撮影したのが「アンデスの詩」の映像です。榎本さんは国際ドローン協会の理事長だからドローンのプロだし、全部今回の撮影用に設計してくれました。

---初歩的な質問ですが、ドローンは機内持ち込みの手荷物ですか?

そう。預けられないことになっているらしいので、機内持ち込みです。国によっては「ドローンを持ち込む」という許可証が必要になります。

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持ち込み物検査



---風が強いとドローンが飛ばされて戻ってこないこともありましたか?

ありますね。だから、それもよく計算しながら飛ばすんだけど、それでも戻って来なくなって、榎本さんは何度も1,000mの高さの崖から落ちそうになっていた。遠くから見るとコントみたいだったけど・・・本当に命がけです。

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崖っぷちのドローン(コント前)


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榎本さんとドローン



榎本さんとの対談(約27分の映像です)



---YouTubeを始めようと思ったきっかけは?

YouTubeって無料で音楽が聴けちゃうから、CDを売るっていう面から見たらマイナスでしかないと思ってきました。だけど、時代と共に僕の考えも変わってきて、今はもうCDを何枚売るということがミュージシャンのステイタスでは無いと考えるようになったし、僕が見た大自然の景色を音楽と融合させるのも面白いんじゃないかと。それに、今までずっと僕が見た景色を音楽でお客さんに体験してもらえるように努めてきたけど、なかなか的確には伝わらないような気がしていました。例えば、お客さんにウユニ塩湖の話をしても、塩の大地なんてイメージが湧かない場合もある。ナミブ砂漠はどんな砂漠で、砂はどんな色か分からないですよね。それで始めたのが、僕が撮影した写真と共に音楽を聴いてもらうソロパフォーマンスの「秘境の音楽」。それが動画に発展した感じです。



---やってみて新しい発見はありましたか?

楽しい(笑)。撮影している時が一番楽しいです。例えばYouTubeにアップしているゾウとのコラボレーション。まず最初はゾウに近づいて、「僕は敵じゃないよ。危害は加えないよ。」って5分くらい対話をするんです。そして安心感を感じた時に初めてサンポーニャを吹くと、ゾウはいつも通りゆっくりとアカシアの実を食べている。ゾウは人間の何十倍も耳がいいから、僕の演奏を聴きながら自然に過ごしてくれることが嬉しかった。そういう体験ができるということが、とても楽しいです。



野生のゾウに大接近!



---キリンのすぐそばを車で一緒に走るシーンもありますよね。

すごい迫力ですよ。僕は肉食動物でも1、2mの距離まで近付くけど、どんな動物でも信頼関係さえできればこの地球上で共存できるという証明だし、僕はそれをこのYouTubeで皆さんにお見せしたいなと思います。


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キリンにも大接近



---瀬木さんがYouTubeを続けるには海外に行き続けないといけないですね。

海外だけでなく、日本でもいい。「MOON ROAD」を撮った時は伊豆の北川に2回行きました。1回で撮れれば良かったけど、月の様子を見て2回行くことになった。そういう自然との対話も面白いです。上海に行った時は、中国は街中監視カメラの世界でストリートミュージシャンなんていないけど、あの世界一の夜景が見られるところで演奏してみたかった。一応、展望台のところにいる警官に「1分だけ演奏しても良いか」と尋ねて許可を取って演奏したら、やはり監視カメラでチェックされていた(笑)。すぐに警官がやってきて「やっぱりダメ」と言われた時は、上海で逮捕されるかと思いました。そういうハプニングも含めて楽しいし、こうやって映像に残せるのも今の時代だからこそ。僕が音楽を聴くようになった時はLP版が主流で家で静かに聴くものだったけど、今の僕には世界中で演奏できるというフットワークの軽さもあって、せっかくだからそれをYouTubeで発信していこうと思います。



MOON ROAD PV



上海の世界一の夜景をバックに演奏





2018年からスタートした『ソロ・パフォーマンス〜秘境の音楽』


---ソロツアー「秘境の音楽」をやってみようと思ったきっかけはなんですか?

今まで僕の音楽はとにかく生で、時にはマイクすら使わずにリアルな音楽を楽しんで頂くスタイルを作ってきたし、カラオケをバックに演奏したり、いわゆる口パクも以前は120%否定してきたけど、映像と上手くコラボレートするにはどうしたら良いかなって思った結果ですね。あの安室奈美恵さんだって10年くらい前からバンド無しでコンサートをやっていて、それでも歌とダンスでファンは十分に楽しんでくれる。僕は生の伴奏と一緒に演奏しないことに罪悪感すら感じたことすらあったのに、実際にソロでやってみたら、良い演奏をすればお客さんにも喜んでもらえるとようやく分かりました。それに、例えば「INKA」をバンドでやればCDを再現できるけど、ピアノとのデュオだとイメージが違うので違和感が残ってしまう。それならどんな場所でもイメージをそのまま再現できるよう、生の伴奏というこだわりを捨てても良いと思ったんです。


---これでツアーができると確立されるまで、何が大変でしたか?

機材のセッティングですね。スピーカーから大画面テレビ、ケーブル、コンピューター。楽器以外の機材がとにかく多くて、でもそれを基本全部自分で運んでセッテイングしなきゃいけない。機材セッティングで1時間かかったあと、やっとサンポーニャやケーナのセッティングができる。ここに来るまでが一仕事です(笑)。でも、全て自分の機材を使えばいつも同じ音で演奏できるから、その点についてはノーストレスだと発見しました。


---バンドで演奏すると、誰かの素晴らしい即興演奏に周囲が良い影響を受けてコンサートが盛り上がることがありますが、ソロツアーだといつも決まったことをするというストレスはないのですか?

レコーディングの最高峰を追求するつもりで演奏します。レコーディングって、1/100の正確なタイミングがとても大事だし、それがキマった時の快感はありますね。だからお客さんには、バンドの即興でお互いを高め合う面白さとは好対照に、レコーディング・クオリティーの最高峰をライブで楽しめるという聴き応えはあると思います。


---ということは、バンド演奏でなくても、同じソロツアーに何回か足を運んだら、毎回違った音楽が聴ける訳ですね。

メロディーは同じでもアドリブはいつも違うことをするし、例えば1コーラス目と2コーラス目の同じメロディーがあっても、僕は決して同じ吹き方はしない。バンドでもソロでも僕の溢れる歌心に変わりはないので、毎回の違いを感じてもらえると思います。


---ツアーをやってみて、何かトラブルはありましたか?

セッティングが間に合わなかったこと・・・かな。ツアーを始めたばかりの頃はスピーカーから大きな音が出なかったり。あと、車移動していると大画面テレビの置き場所に一番苦労します。急ブレーキをかけると車の中でテレビが倒れちゃうので、すごく丁寧に運転するようになりました(笑)。


---ソロ公演を見たことがない方に、こんなところを見て欲しいというポイントはありますか?

公演中は僕を見ないで、耳で演奏を聴いて目は映像を見てください。僕が今まで皆さんに見て感じて頂きたかった絶景がそこにあります。


ソロ・パフォーマンス(約45分の映像です)

 


---例えば「Tree Rubble」のテーマになっているアマゾンの焼けた熱帯雨林、「Altitude 5,435m」の氷河が溶けた山。環境破壊が進んでとても残念ですが、これからの未来のために私たちができることは何だと思いますか?

環境破壊が最も進んだのはここ30〜40年くらいだと思います。これまでのエゴイスティックな人間の生き方が、地球上のウイルスになり得るということが証明されましたよね。だからといって僕らが原始人のように暮らせる訳ではないし、そう努めたとしてもチャカルタヤの頂上に氷河が戻る訳でもない。自然と共存しながら地球を大事にしながら質素に、謙虚に暮らすべきだと思います。それから、野生動物と人間が暮らす場所のエリア分けですね。例えばクマが街に出没して、射殺する。人間としては「良かった、ホッとした」というのが本音かもしれないけど、そもそも何でクマが街に出て来るかという部分を解決しなきゃいけない。ナミビアは日本の2.5倍くらいの国土で、その中のエトーシャ国立は日本の四国くらいのサイズなんだけど、その四国サイズの場所にきちんと柵が立ててあって、少なくとも大きな守られるべき動物はその柵を越えることはないし、人間もその中を荒らさない。クマがいる山に柵を立てるのはすごく大変なことかもしれないけど、もともとは人間よりもずっと先に動物が暮らしていた場所なのだから、最低限それを守っていかないといけないと思います。


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荒らされた熱帯雨林の木々

 


---音楽活動25周年を記念して、何かやりたいことはありますか?

今回の「360°」が僕にとって、25年という一つの経過点における集大成となりました。25年間ずっと音楽を続けるのは簡単なことではなかったけど、すごく難しいことでもなかったと思います。きっと、これからの5年10年の方がずっと大変かもしれない。でも、今までもそうだったけど、過去は振り返らず、未来ばかりを追うのでもなく、今できることを全力でやるのが25周年のテーマですね。「360°」もそういう気持ちで作りました。実際、映像も命がけで撮影しましたから(笑)。




『360°』MV





















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