瓜姫(うりひめ)

(ちょっと長いお話なのでプリンタで印字して読むなどお奨めします。)
 岡山県の昔話の中で、伝承が多い順番でいうと、1番が「鼠の浄土」、2番が「取り付 く引っ付く」で、3番目に多いのがこの「瓜姫」です。
 このお話は日本国中で採話されていますが、北海道と沖縄には伝承されていません。
 また、東日本と西日本では伝承の形態が少し変わっています。東日本では、たいてい あまんじゃくは瓜姫を殺し、瓜姫の皮をはいで、それをかぶって瓜姫になりすまします が、西の方では(岡山も)、瓜姫を木にしばり、着物を取って、それを着て瓜姫に変身 し、結末は瓜姫が助けられるというパターンが多いようです。

 んと昔があったそうな。むかしおじいさんととおばあさんと おったそうな。おじいさんは山へ木を切りに、おばあさんは川へ洗濯に行ったそうな。

 ばあさんがバサバサ洗濯しとったら、川の上の方から、大きな 瓜が、ドンブリコンブリ、スッコンゴウ、ドンブリコンブリ、スッコンゴウとおどりながら流れてきたそうな。
これはええ物がきたぞと、こっちへこっちへ来た時に、ちょういとすくうて、持ってもどって戸棚の中へ入れといた。
晩方になると、おじいさんが山からもどってきなさったから、
「じいさん、暑うてえらかっただろう。今日はじいさんのみやげにええ物を拾うてきとるで」
と、おばあさんが瓜をかかえてきて、まな板へのせて包丁をいれようとしたところが、瓜は、ばっと二つに割れて、中から きれいな女の子がひょこんと生まれてきたと。
「ありゃ、こりゃまあ、こがあなええ娘の子ができた」
「家には子どもはおらず、ほんにありがたいことだなあ」
「瓜から生まれた子だけ、瓜姫さんと名をつけよう」

 姫や、瓜姫やいうて、蝶よ花よと大事に育てておった。やがて日が過ぎ月が過ぎて、 瓜姫はええ娘になり、それは上手に機を織るようになった。
 じいさん、さいがない、ばあさん、くだがない、スットントンや
と、歌うて、毎日機を織りょうたそうな。そのうちにお役人さまが、瓜姫のことを聞きつけて、
「じいとばあと、大変なええ娘を持っとるそうなが、その娘を嫁にくれ、そうすりゃあ、お前らは死ぬまで養うちゃる」
と、いってきたそうな。
「そういわれりゃあ、はや、ええ娘になったし、嫁にやろう」
と話が決まって、やがてめでたい婚礼の日がきた。じいさんとばあさんの言うことには、
「瓜姫や、お前は何が好きなら」
「わしは、むかご飯が好きじゃ」
「そんなら、まあ家で機を織りょうれい。そうすりゃあ、わしらがむかごを取ってきて、むかご飯をしてやるから。留守の間に、 あまんじゃくが来てもだれが来ても決して戸を開けるなよう」

 こで、窓も戸もぴったりたてて、おじいさんとおばあさんは山へ行ったそうな。
じいさん、さいがない、ばあさん、くだがない、スットントンや
瓜姫がひとりで歌いながら機織りしょうたら、案のじょう、あまんじゃくがやって来た。可愛いげな作り声をしてこういうそうな。
「瓜姫さん、瓜姫さん、ここをちょびっと開けておくれえな」
「いいや、じいさんやばあさんの留守には開けられん」
「まあ、そねえいわずに、ほんのちょびっと爪がはいるほど開けてくれえ」
あんまりせがむもんだから、瓜姫もええ人間だけえ気の毒なようになって、ほんのちっと、爪が入るほど開けたそうな。すると、
「もうちょっと、指の1本入るほどでええけえ、開けてくれえ」
そこで指が入るほど開けたら、
「もう少し、手が入るだけでええから開けておくれえ」
優しい声して頼むので、ついもう少し、手が入るほど開けたところが、片手をつっこんでガラリと戸を開けて入ってきたそうな。 入ってきた者を見れば、きょうとい顔をしたあまんじゃくだ。それが瓜姫の手にさばりついて、
「瓜姫さん、瓜姫さん。柿がなっとるから柿を取りに行こうや、さあさあ」
とせきたてて、「叱られるけえ、行かん」というものを、むりやりに引張り出して、柿取りに連れ出してしまった。
 あまんじゃくはするするっと柿の木へ上がって、柿のうまそうなのを取っては食い、取っては食いするそうな。瓜姫は下の方から あおのいて見とっても、ひとつもくれりゃあせん。
「わしへもひとつくれえや」
「うん、ええやつがあったらやるわい」
いうて、言うたってちいっともくれん。そのうち木から降りてきたかと思うと、自分の破れた着物を瓜姫に着せ、いやがるものを、 柿の木の高いところにくくりつけ、瓜姫になって家にもどって来た。きたない顔は手ぬぐいをかついでちょいとかくして、 スットントンと機を織りょうた。

 こへおじいさんとおばあさんがもどってきた。
「おう、むかご飯をしたぞ、早よう食べよ。お前もよそへいきゃあ、ようけえ食べられんけえ、たんと食べとけよ」
 あまんじゃくは顔をかくして、むかご飯をがつがつかきこんで食べたそうな。
 それからあまんじゃくをかごへ乗せて、かたいで行きょうたそうな。ところが、柿の木の下を通って行くと、高い所から、
 「瓜姫御寮は木の梢に、ああまんじゃくはかごの中。瓜姫御寮は木の梢に、ああまんじゃくはかごの中」
という声が聞こえるそうな。それから上を見上げれば、破れた破れた着物を着ておるが、大変きれいな娘が柿の木にくくりつけ てある。びっくりしてかごを開けてみたところが、あまんじゃくじゃあないか。
 それから泣きょうる瓜姫を降ろして着物を着替えさせた。あまんじゃくは、「こいつ、にくいやつめが」と引きずり出されて、 引き裂かれてしもうた。方ひらの体は、かやの中へ投げこむし、もう方ひらは、そば畑へ投げ込んだそうな。
 あまんじゃくの血がついて、今でもかやの根もとと、そばの根もとがあんなに赤くなったんだとや。
 昔こっぷりとびのくそ。  

語り手:真庭郡美甘村 河井繁太郎
岡山文庫39 岡山の民話 (岡山民話の会 編) 日本文教出版(株)より