田螺(タニシ)のむこ入り

 動物のところへ人間の娘がお嫁に行くパターンのお話です。お嫁に行く娘は たいてい、三人姉妹の三番目のようです。何故でしようか。
 このお話は三人姉妹ではなく、金持ちの娘といった設定です。タニシが、馬に 乗って「ほいザッザ・・・・」と声をかけるのが、耳で聞くお話のおもしろ いところでしょう。

 んと昔あるそうな
ある所へおじいさんとおばあさんとおったそうな。
おじいさんは毎日毎日、まご(馬子)へ行くそうな。
そして、おばあさんは毎日毎日、暑いのに田の草を取りに 行くそうな。
ある日、おばあさんが、田の草を取りょったらな、田の真ん中に 大きな大きなタニシがおったそうな。
せえから、おばあさんは、あんまり大きなタニシで珍しいから、拾うて もどって、たらいへ放しとったそうな。

 うしたところが、あくる朝なあ、
「おじいさん、おじいさん」
ゆうて、タニシが叫ぶそうな。
せえから、おばあさんが、
「おじいさん、おじいさん、タニシが叫びょうるで。」
ゆうて言うそうな。
せえたところが、おじいさんが、
「そげえな馬鹿なことがあるもんか。」
言うそうな。
「いや馬鹿なことじゃねえ。叫びょうる。」
せえから、おじいさん、出て見たところが、
「おじいさん、おじいさん 今日はわしが馬子へ行くけえ。」
ゆうて言うそうな。そえから、
「おめえ、なにゅう馬鹿たれを言うだぁ。なんでお前がよう馬子へ行こうにぃ」
ゆうて言うたそうな。

 うしたら、タニシが言うことに、
「いんや、わしが行くけえ、馬の中にすごうして乗しとくれえ」
言うそうな。せえから、おじいさんさんは言うても聞かしてもきかんから、しかた がないから、馬の中にすごうして乗してやったそうな。
せえたところが、
 「ほいザッザッ、ほいザッザッ」
言うて、馬の尻ゅう追うて行くそうな。
そえから、問屋のかげへ行って、
「荷を降ろえてつかぁせえ。荷を降ろえてつかぁせえ。」
言うそうな。

えから、問屋の手代が出て、
「ありゃあ、荷を降ろえてくれぇ言うのに誰もおりゃあせんわぁ。 でも、降ろさにゃあいけんから降ろそうかな」
言うて、荷を降れえてみたところが、大きな大きなわらすごがあるそうな。
せえから、
「珍しい。まあ大きなタニシだ。こりゃあ珍しいタニシだ。」
いうて、その問屋の奥さんも旦那さんのお嬢さんもみんな出て見ゅうた そうな。
そうしたところが、お嬢さんの着物のすそへ、タニシが、がぼっと食いついて 離さんそうな。なんぼ言うても離さんそうな。そのお嬢さんはシックシック 泣いてたそうな。
そうしたところが、問屋の旦那さんが内緒に言うことにゃ
「嬢や嬢や、もうお前は、仕方がねえ。タニシの嫁になって行けえ」
言うそうな。
「お前には好きなものを、なんなとやるけえ行けえ」
言うそうな。
それから、お嬢さんが言われることにゃあ、
「それじゃあ、お父さん。打ち出の小槌をくれえ。」
言うそうな。
「おお、おお、仕方がねえ、宝物じゃああるけえどなあ やるけえ、ついてけえ。」
ゆうて言うそうな。
それから、またタニシゅう馬のすごにして、馬の中へ入れて、そしてそのお嬢さんは打ち出の小槌ゅう もろうて、馬の後ろについて行かさるげな。
へえしたところが、タニシがまた、
 「ほいザッザッ、ほいザッザッ」
いうて、我が家へ帰ったそうな。

 「じいさん、じいさん今帰った」
ゆうて言うそうな。それからおじいさんもおばあさんも、
「おお、おお、えらかった(疲れた)ろうなあ。」
言うて飛んで出たそうな。
へえたところが、馬の後ろへお嬢さんがついとってじゃそうな。
「まあ、こりゃあ、問屋のお嬢さん、どうしたことですけえな。」
言うて、おじいさんが聞くそうな。そうしたところが、そのお嬢さんが 言われることに、
「わたくしゃあ、タニシさんのお嫁になって来ました。」
ゆうて言うそうな。
そしたところが、おじいさんもおばあさんもびっくりするそうな。

 れから、タニシゅう馬から降れえて、すごから出したところがな。 タニシが言うことに、
「お嬢さん。その打ち出の小槌ゅう持ってなあ、わしゅう石の 上へ乗せてえて、五尺のよ男を叩いてくれえ。」
言うそうな。
そうしたところが、お嬢さんが言われることになあ、
「わしゃあ そういうことは、そうせん。」
言うそうな。
で、タニシがきかんそうな。それから仕方がねえけえ、お嬢さんが石の上へ タニシゅう乗してえてなあ。
「五尺のよ男お」
言うて、その打出の小槌ゅう持って叩えたそうな。
そうしたとことが五尺のいい男ができてなぁ。夫婦になって末長う暮りゃあたと。
昔こっぷり鳶の糞。

語り手:神郷町三室 大川マサヨ
昭和45年の採話緑より