鬼面仮

 まあ大変貧乏な家がありましてな、そして、なんか、都会の方に、女中にやられたんだそうです。そして大変厳しい家でなあ、辛いことが度々あって、それでその、町い(町に)使いに出てみたら、お母さんによう似た面が売ってあってなあ、そえでお母さんによう似とるわいと思うてなあ、そえでまあいくらかでそれを買い求めて、そして自分の入れ物の中へ入れといたんです。そしたら、なんか悲しいことがあったらすぐに行ってその面を見て、自分の悲しいことを話して、泣いたり、またうれしいことがあってもそこへ行って泣いたりするんです。

 そすと、そこの奥さんがあんまりええ人でなかったらしい。用事言うて、ちっと叱ったら、すぐあっこへ行ってなんだか覗いて見る。なんぞごとありゃあ、すぐ、あの箱へ行って覗く。いっぺん見てやらにゃどもならん、なにゅう入れてあって、あっこへ行って覗くのかしらん、と思うて、そして行ってみなさったら、可愛らしい中年の女の面が入っとって、まあこんな物を見に来てあんな様あしょうる。こりゃあまあなんぞと替えといてやろう。と思うて、そして面を売る所へ出て、見るところが、大きなえらい顔をした鬼面仮があって、そいでそれを買ってきて、その中年の可愛らしい女の顔の面を取り上げて、そしてその鬼面仮を入れといただそうな。

 そうしたところが、その子がなんか叱られて悲しいことがあって、行って見ようと思うて剥ぐってみたら、今まで可愛らしいお母さんによう似とった面の顔が、えらい鬼面仮になっとった。あ、びっくりして、こりゃあ家に何事か有るに違いないと思うて、そしてその面を持ったまま、風呂敷に包んで、「奥さんえらいすみませんけど、1日2日、お暇をください。」「忙しいのにそんなこたあできん。」言うて、「いや、それでも、私はどうしても家い(家に)去んでこにゃあならんことがでけた。」ほいで、奥さんの気持にゃあ、あれが変わっとったからそえでだなあと思うても、自分のしたことですけえ言えんのです。「ほんなら、まあ去んで、家に何事もなかったらすぐ来てくれえよ。」

 まあ、2,3日去ぬるい(帰るのに)かかる。そえから来りゃあ2,3日もかかる所だそうな。昔ゃあ歩かにゃならんけ。そえで、近道ゅうせにゃあ、早う去なにゃならんと思うて、えらい険しい山あ、上がりかけただそうな。日暮れに。ほいでもうずっぷり暮れてしもうて、暗い道のよけえわからんような所をあがりょうったら、向こうの方に火が見える。

 あれへ、あんな所に火が見える。あそこまで行ってまあ夜の明けるまで待たしてもろうて、そして朝帰ろう。と思うて行ってみたら、博打打ちが人へみられん所の山のなる(平らなところ)に大きな火を焚いといて、その明かりで博打をうちょうる。そえから、そこへ行って、「すまんけどここへ、朝まで置いてつかあさい。」とその子が言うたいうて。

 「おお、ちょうどええ具合だ。火焚きが居らいで困っとるけえ、ここへえっと(たくさん)集めてあるこれを、どんどん、どんどんくべて、この博打場が明るいようになあ。火ゅう、よう焚いてくれえ。」いうて、言うたいうて。

そいかあ、その子あ(その子は)一生懸命で真面目な子ですけえ、暗うしちゃあならんけえと思うて一生懸命で木ゅう折って、焚きょうると、熱いでしょうがない。もう、こんな熱い、汗がたらたら流れて、顔もなんや、ぴりぴりしだいて、かなわん思うてどうしょうかしらん思うて、おおええこと考えた、あの昼の面を被ったろう、そうすりゃあ、熱うない思うて、そのえらい面を被って、枝木を折ったですけえ、髪ゃあ(髪は)ばらけてくるし、そして焼(く)びょうったんですって。

 そしたら、博打うちゃあ一生懸命で、「買った、負けた」で博打ゅう打ちょった。ひょっと見たら、まあその女の子でと思ようったのが、えらい顔へなっとっただそうな。びっくりして、「おい、お前ら、えらいもんが出て来たがな」「何が」「ありゃあありゃあ、ま、こりゃえらいこった。」つい、そこの、お金も何もほったらかいといて、皆山あつい、どっちへ逃げたか分からんように逃げてしまいました。

 その女の子あまあ、どんなことだろうか、思うてなあ、そえからまあその火ゅう焚いて夜の明けるまで待ってみりゃあ、まあ、いっぱいお金が置いたなりに逃げてある。まあこりゃあ、ほんとに、まあ天の助けか、家が貧乏なので、こやしてわしゃ外へやられとんのになあ、こんなお金を山へほっといてもなあ。まあ勿体無いことだ。わしいこりゃ神様が授けておくれただ思うて、そいでそのお金をみなさらえまわいてなあ(すっかり集めて)、家へ持って帰った。

 そうしたら、まあ貧乏な家ですけえなあ。それを持って帰ったいうところで、まあ家もようなっただそうなし、そいで部落で一番きたない家であったそうなけど、家もきれいにするししてなあ、まあ大変その後、結構に暮らしたそうです。それでまあ親孝行いうことはなあ、神さんのお助けのあるものだということを聞きました。
 昔こっぽり。

語り手:八束村岡中曽 小谷やえの
蒜山盆地の昔話 (稲田浩二 福田 晃 編) (株)三弥井書店  より