山んばばあと馬子どん


  山んばばあがでてくるお話の中では、とても有名なお話です。
  子供のころ、このお話を聞いて、「かちかち鳥」や「ぼーぼー鳥」がなきだした。
 というところをなぜだか よく覚えています。
  昔話では、お話の最後に悪いことをした者が、良い主人公に殺されるというお話
 が多いですが、現代では、悪い人も改心して、許されるという筋書きの方が受け入
 れられるのではないでしょうか。昔はかなりシビアだったのですね?

 むかし むかし、あるところに 馬子が おったそうな。
「正月まえに なったけえ 町へ出て ぶりゅう こうてこうか。」
ぶりを こうて 山ん中を もどって おったら、
「おうい 馬子どん 馬子どん まってごっされえ」
よぶこえが したそうな。
だれかと おもうたら、山んばばあじゃった。
「なんでまてるもんか」

 子は、いそいで にげておったが、とうとう おいつかれてしもうた。
「そのぶりゅう ごっさるか、馬あ ごっさるか。」
「馬あ とられちゃあ どうにもならんけえ ぶりゅうやるわ。」
馬子は、ぶりをなげといて 大急ぎで にげたそうな。
 山んばばあは ぶりを わしわし 食べてしもうて すぐ また おいかけてきた。
「おうい 馬子どん 馬子どん まってごっされえ」
「馬あ ごっさるか、お前を とって食おうか。」
「食われちゃあ かなわん。」
馬子は 馬をおいて また どんどん にげておったら、1けんのあきやが あったそうな。
「やれやれ、ここで かくれとろう。」

 子が、2階へ 上がって かくれとったら、そこへ、山んばばあが もどって きたんじゃと。
「やれやれ、こんやは ぶりは食うし、馬あ 食うし はらあ ええが もう 1つ もちでも 食おうか。」
いうて もちを やきだしたそうな。
もちが やけたので、
「しょうゆう とって きて つけて 食おう。」
しょうゆを とりに いった るすに、 馬子は 竹のさおで、もちをグシャッと つきさして 食べてしもうたそうな。
「あれ、もちがない。うちの ねずみは 手に あわんやつじゃ。 きょうは もう ねるだ ねるだ。はあて どこで ねようか。 おくの まは ほこりくさいし、戸だなの中は戸だなくさいし。」
「かまん中、かまん中。」
馬子が いうて やると、
「いっそのこと かまん 中で ねると しよう。」
山んばばあは、かまの 中に はいって、ねてしもうたそうな。

 んばばあが、かまの 中で ねいった ころ、馬子は 大きな 石を かまの ふたの上に おいて 火うち石を コーッチコチ うったそうな。
「へえ、コチコチ鳥がなきだいた。もう 夜が あけるわい。」
山んばばあは、かまの 中で いうたそうな。
そのうち、火が バンバン 燃えだした。
「ふうん、バンバン鳥が、ほえだいた。もうおきにゃあ いけまいか。」
いうとる うちに、だんだん あつうなって きたんじゃ。
「ああ 重とうて ふたが とれん。あちい あちい、死ぬるがの。」
「あちいはずじゃ。わしのぶりと、馬をみな食うた ばちじゃ。」
「おおい 馬子どん こらえてごっされえ、馬も もどすし、ぶりももどすけえ。 かなわんがのう あつうて。」
「くうた ものを もどすこたあ できん。きょうは どうしても おまえを ゆるさん。」
 馬子は、どんどん、どんどん 火を たいて、とうとう、山んばばあをやきころして しもうたそうな。
むかし こっぷり とびの くそ

   

話者:川上村鍛冶屋 立田富の助