狐と狸の寄合田

狐と狸はどちらが利口でしょうか?狐の方がずるがしこくて、狸はお人好しのようなイメージがありますね。
しかし、昔から狸の方が狐より一枚うわてなのだそうです。

  あるところになあ、狐と狸が住んどったん。その狐と狸が、ある日寄り合うてなあ、
「なんと、人間というもなあ、こういう野原耕して、そしていろんなものを作っとるが、われわれの手にでもできんこたぁなかろうじゃぁないか」
いうて狐が言い出して、
「ほう、そうじゃのう。そういうこともあるのう。ちいと山ばあ稼えで歩いて食うても、なかなか思うように獲物が取れんようになった。人間ちゅうもなぁ、なかなか 賢いもんじゃけえ、この頃鉄砲こしらえてからに、山いう山ぁ、みんな荒らして、なんか獲物を取って食うけえ、こっちが取って食う獲物やなんかい無うなってしもうたけえ、 そんなら人間がするように、その、野原ぁ起けぇて、耕やして、せえからしょうじゃぁなあか」
いうので、
「つるばしいうものがなけらにゃぁ起こせん」
いうて、
「そんならまあ、人間になあと化けて行って、盗んで来てやるぜえ」
いうて、その狐、狸はよう化けることが上手なから、化けて、そえから行って盗ってきて、二人で耕した。
  え畑が出来て、
「なんと、この畑へ、なんか植えようじゃぁなあか」
いうて、
「そんならまあ、植えて、そえじゃが、できたもんの分けちぅ考えにゃぁいけんが、そんなら、わしが地上から上にできたものを取って、地上から下へできたもの をお前が取れ。せえから播(ま)こうじゃぁなあか」
「ふん、半々にすりゃあ、あの、恨みっこ無えけえのう」
いうんで、今度、人間に化けて、種物屋ぁ行って、その、豆を買うて来た。
せえから、豆を播いたところが、豆が実って、せえで地上から上へなったんじゃけえいうんで、上を狐が取って、下は掘っても掘っても 根ばかりじゃった。
「まあ、まあ、狐さん、わしの食うとかぁひとつも無えが、あんた、ちいたぁ(少しは)その豆をくれんか」
いうて、
「せえじゃけえいうても、約束が約束じゃ。うまぁうまぁ」
いうて、豆をボリンボリン、ボリンボリン食ようる。
「そうか、そんならまた」
  年ぁそういうことで、とうとう狸がようもらわなんだ。そえから、その明けの年にまた、いっしょに 耕やぁて、
「そんなら、今度ぁ、わしが地下のものを取って、お前が地上のものを取りゃぁええじゃぁないか」
いうんで、また種を買うて来た。今度は人参を買うてきた。
そえから、また、人参がええしこう(よい具合に)芽ぶいて、秋になって人参が取れた。そうしたら、
「おう、みてみい青々としたこのものが食われるかもしれんぞ」
いうて食うたところが、食えりゃせん、うまあこたあない。ところが、下にやぁ真っ赤な、ええ、本当においしそうな もんができとる。
「わぁ、こりゃうまぁなあ」
いうて、また狐はよろこんで食ようる。バリバリ食う。

  りゃぁ、狐にばっかりだまさりょうる。なんとかして、この仇(かたき)を 取っちゃらにゃいけん思うて考えたところが、長あい、黒えようなものを持って来て、
「なんと、わしゃぁうまあものを見つけて、持って戻って食ようるそ」
いうて言うて、ボリボリ、ボリボリ食ようる。こうやって食ようる。
「何ぅ食ようるんなら」
いうて、その狐は、じい坊(食いしん坊)じゃからのぞくんじゃな。せえから今度、
「何ぅ食ようるん」
「うにゃぁ見せられん、うにゃぁ見せられん、うにゃぁ見せられん。」
いうて、こうやって食べてしまうん。もごもご、もごもご食べてしもうた。
「何ぅ食びょうるん」
「馬のしっぽを食びょうるねえ。馬のしっぽいうもなぁうまあぞ」
いうて、もごもごもごもご、まあ食べとるんじゃ。そうしたら、
「ふん、そんなら、そがあなもなぁ、どこへあるんなら」
いうて、
「そりゃぁ、馬が持っとるねえ。馬のしっぽじゃけえ」
「そがあうまあかやあ」
「馬の天ぷらぁうまあぞ、馬のしっぽの天ぷらぁ」
いうて、まあ食びょうる。そえから、
「そんなら、どがあして、お前取ったんなら。狸さんは」
いうて、
「そりゃぁ、ええ取るこつがあるのよ」
いうて言うた。
「そのこつぅ教えてくれんか」
いうて、
「取る方法を」
「そりゃぁなあ、馬のしっぽはなあ、ばらばらっと、しっぽが1本1本毛があるけえ、その毛の1本ほどを、 後ろの方へ行って、ぴっと抜くんじゃ。そうすりゃぁ、大けな馬のしっぽがどさりっと落ちてくるけえ。 そりょう油で揚げて食うてみい、うまいぞ。よだれが出るほどのおいしさじゃ」
いうて言うたら、
「ふーん、そなあにうまあもんなら、わしもひとつ取って食べにゃぁいけん」
  はそう言うて、里へ出て、その馬がおったもんじゃから、ええあんばい馬が、その、日なたにつながれて、桜の木ぃつながれて、 日なたぼっこをしょうたから、せえから後ろから行って、1本ほどぴっと抜いたらその馬が、馬の後ろの足がヒヒヒン いうてからに後ろへすだったん(後ずさりした)。これじゃあまあいけんけん。もう一遍やっちゃろう思うて、 2本ほど、両手でちゃっとしたら、今度ぁ、両足で蹴られて、ひどいことになってしもうた。
ほしたら、向こうの狸が、
「やいやい、お前みとような欲ばりが、あんまり欲ばりすぎるからに、畑へものを植えても、わしにくれなんだろうがな。 とうとう、わしのわなに掛かってしもうたわい。ええ気味じゃ」
いうて。
昔こっぷりどじょうの目くそ
 

語り手:阿哲郡哲西町八鳥 加藤さつ子(奥備中の昔話)
岡山むかし話101選<上>(立石憲利 編著)山陽新聞社より