亀の天のぼり

このお話は「亀が鶴の抜けずの羽をくわえて空を飛ぶお話」と同種です。落ちたときに甲羅にひびが入った という動物由来話としても各地で語り継がれています。どこか「イソップ物語」に似ていますね。

 

 むかしのそのむかし、芳井のあるところの池に、たくさんの 亀が住んでおったそうな。
 る日のことじゃ。その中の長(おさ)の亀が、
「竜というものは、海に千年、川に千年住むと天にのぼるそうな。わしは、この池に、二千年も三千年も住んでおるから、 もうそろそろ天にのぼってもよかろう。」
と言うて、天にのぼろうとしたそうな。
 れを見ていた息子の亀が、
「わたしもいっしょに連れていってくださりませ。」
と言うたので、その嫁の亀も、
「あなたが天にのぼりなさるなら、わたしも連れていってつかあさりませ。」
と頼んだそうな。
 うして、次から次へ、まご亀、ひまごの亀がみな、
「連れて行ってくださりませ。」
と言うて頼んだんじゃと。
 こで、長(おさ)の亀は思案のすえ、
「そんなら、みな連れて行ってやろう。順番に前のもののしっぽをくわえて、ついて来るとええ。」
と言うて天にのぼり始めたそうな。
 そして、その後に、何千匹、何万匹の亀が、順番に前の亀のしっぽをくわえて、だんだんと天にのぼって行ったんじゃ。
 ころが、間もなく天に着くというところで、長の亀が、後ろを振り向いて、
「みんな、無事について来おるかのう。」
と言った。  それを聞いたみなの亀が、
「はい。」
と返事をしたので、しっぽがはなれて、ずるずるすとんで、あっという間に、みんな、もとの池の中に落ちてしもうたそうな。

岡山県後月郡芳井町 芳井町教育委員会 発行 「芳井の昔話 第一集」より