貝知らず(笑い話)


 かし、八塔寺の人が赤穂まで塩を買いに行くいうて、山を超え、川を超えして行ったん。
むかしは赤穂は塩の産地で有名な所じゃったん。
ようよう塩を買うて、かついでもどりょったら、日が暮れてしもうた。こりゃあ、泊めて もらわにゃあ、どうならんが思うて、片上というところで宿をとったんですん。

 くる朝、ご飯の時に、貝の味噌汁が出された。ところが、八塔寺の人は貝を初めて見た けん、何じゃろうか思うて、宿のおばさんに尋ねたん。
「こりゃあ、何ちゅうもんですりゃあ」
「貝の味噌汁ですが」
「はあ、これが貝ちゅうもんですか。さっそく食べてみゅう」
いうて、おつゆを吸うたらおいしかった。
「片上の方の者は、でえれえ(すごい)ごっつお(ごちそう)を食べるなあ。
汁だけ飲んだんじゃあ笑われる。」
思うて、貝を噛んだら、かとうて(堅くて)いけん。

 「おっ、はらわたがあるぞ。こいつを出さにゃあ、どうならん」
いうて、身を出してしもうて、二つ三つ、ガリガリかじってみたけど、歯がこげそうな気がする。
後は残しといて、ごはんだけ食べて、そうそうに宿を出てしもうた。

 へ帰ってから、村の人に、
「何と、片上の宿で、貝ちゅう物を初めて食べたが、どうも、うめえこたぁねえもんじゃった。
あっちの方の者はよっぽど歯がええとみえる。ああいう堅え物を、いっつも食べるんかしらん」
言うて話したんじゃてえ

語り手:和気郡吉永町都留岐 田中墨江
稲田浩二・稲田和子著 「岡山の笑い話」より