大根はいいものだ(笑い話)


 る話好きのお爺さんがおって、非常にきれいな娘さんを持っとった。ところが、
 「おれが話が好きだから、『話が得心した、もういい』というほど話を聞かせてくれたら、娘をやろう」
と、こう言ようたんだそうです。ところが、ある青年がそこへやって来て、
 「お爺さん、今日は話をしに来たんじゃ。お爺さんがもういいと言うほど、話をしょうと思うんじゃ」
いうたと。お爺さんはそこで飯を食べょうたら、
 「お爺さん何ぅ食べょうるんですか。」
 「大根おろしを食ようるとこじゃ。大根がようできたから、こいつぅ刻んで飯へ入れて炊いたら非常においしんができた。 こりょう今食べょうるとこじゃ」
 「ああ、そうか。お爺さん、大根いうなぁええもんじゃなあ。こりゃあ、なんとお爺さん、いいもんじゃなあ。大根というなぁ 根も葉も食える。こねえいいもなぁないよ。お爺さん」
 「うん、そうじゃ。まったくそうじゃ」
 「けども、お爺さん、大根というなぁええもんじゃなあ。根も葉も食えるから」
 「うんそうじゃ。お前、今いうたじゃあないか」
 「今いうたけど、考えてみると、やっぱり大根というなぁええもんじゃなあ。根も葉も食えるから」
 のことばっかり、しつこうに、もうなんべんもなんべんも言うたちゅうんです。
ところが、お爺さんが、
 「もうええよ、その話ぁ、わしゃあ足ったから(満足した)、大根いうもなぁええもんじゃ、根も葉も食えるいうこたぁ、 今から何十ぺん聞いたじゃねえか。もうええからこらえてくれえ」
いうて、そのお爺さんがいうたと。
 「せえじゃったら、お爺さん、娘をもろうて去ぬるよ。お爺さん、もうええというほど話を聞かしたら娘をくれるいう約束 だろう。もう文句いうこたぁないだろう」
いうて、娘を連れて去んでしもうたと。こういう話もあったですな。
 

語り手:久米郡柵原町久木 角南精三
日本の民話9山陽 (稲田和子 立石憲利 編) (株)ぎょうせい より